『酒。それは世知辛い世の中を渡り歩く為の必需品である―――』
―――と、柿崎の中の人も言ったとか言わないとか。
裕奈「―――お代官様。例の物、しかとお持ちしました」
美砂「おお明石殿、大儀であった。こちらの備えも万全じゃて」
女子寮のとある一室。そこには厳重でもなんでもない警戒網を潜り抜けてきた二人が顔を合わせていた。
裕奈「では、今宵決行という運びで……」
美砂「ふふ、そちも悪よのう……!」
チューハイにビール、さらには日本酒にワイン、その他もろもろの酒を前に、裕奈と美砂はこみ上げる笑いを
押さえ切れずにいた―――
美砂「―――全員揃ったようね。では……」
美砂の合図で部屋の明かりが灯る。皆、グラスを片手に準備万端であった。
美砂「今宵、貴方とランデブー! 愛と涙の鍋パーティーを始めますっ!!」
『カンパーイ!!』
カチン、とグラスを重ね、酒宴の幕は切って落とされた。
裕奈「くう〜っ! 部活の後のこの一杯がたまらないよね〜♪」
亜子「おっさんや……、おっさんがおる……」
桜子「このワイン美味し〜♪」
円「ああもう、桜子ペース早すぎだって!そんなんじゃすぐ潰れちゃうよ」
桜子「んにゃんにゃ、今日こそはアキラちゃんに勝つ!」
アキラ「いや、私はマイペースで飲むから……」
まき絵「アキラはザルだもんね〜」
裕奈「まき絵は弱すぎだけどね〜」
まき絵「うるさいよ、そこ!」
美砂「けど、この宴会にまき絵は欠かせないよっ! ん〜、この鱈美味しい〜」
亜子「料理やったら、この面子やとまき絵が一番やもんなあ〜」
まき絵「いや〜、くぎみーの食べっぷりは作りがいがあるからね〜」
円「ふぎにーふーなっ(訳:くぎみーゆーなっ)!」
こうして和やかな雰囲気で時間は過ぎていった―――
脅威的なペースで酒と食料が消費されていく。しかし、まだ潰れる者はいなかった。
それは忘れもしない、修学旅行での屈辱。この宴会に参加している面子の大半が、あの滝の水に酔い潰れて
しまった事実。その汚名を返上する為に、彼女達は訓練と称して定期的に宴会を行っていたのだ。
まあ、今となってはただ騒ぐだけの場になっているのだが。
桜子「ゆーなゆーな、こんなの用意したんだけど」
裕奈「お? お? 王様ゲーム?」
桜子の用意したクジに裕奈は乗り気である。そして、この人も……。
美砂「はい注目ー。これから皆さんに王様ゲームをしてもらいます!」
有無を言わさぬバトロワ口調で宣言した。
まき絵「いえ〜!」
早速、まき絵も食いつく。そして、本来なら止めるべき面々も……。
亜子「うわ〜、なんや面白そーやな〜」
円「ふっふっふ、今日こそは桜子に罰を与えてみせる!」
……ほろ酔い気分の二人にブレーキは効かなかった。6対1。この段階でアキラは観念して参加を決めた。
そして、王様ゲームは始まった―――
美砂「はい王様げっと〜♪ では……」
最初は美砂が王様を引き当てた。いきなり危険人物の登場に、緊張が走る。
美砂「3番が6番にワインを口移し!」
円「げっ、私がするの?」
まき絵「いやあああ〜っっ!!」
円とまき絵の悲鳴が上がる。
裕奈「おおっ、しょっぱなから意外な組み合わせだっ!」
桜子「パルがいたら大喜びしそ〜だね〜♪」
亜子「まき絵にワインはキツイんとちゃう?」
ギャラリーの注目を浴びて、円はまき絵の頬に手を掛けた。その目は完全に据わっている。
まき絵「く、くぎみー、少なめでお願い……」
円「ふふふ……、こんな時にくぎみー呼ばわりするなんて、いけない子猫ちゃんね……!」
ホスト顔負けの流し目で円はたっぷりとワインを口に含み、一気にまき絵の唇を奪った。
一同『おお〜っ、いったあ〜っ!!』
長い長い口付け。ゆっくりと熱いワインがまき絵の口内に広がり、喉を滑り落ちていく。しかし、円の恐ろしさは
ここからだった。
まき絵「むぐっ!?」
ワインに続いて、円の舌が侵入する。そして、思う存分にまき絵の口内を陵辱したのだ。その間、円の手はまき絵の
髪を優しく愛撫している。互いの唾液が混ざり合い、ぴちゃぴちゃと卑猥な音が響く。
裕奈「うわ、すげー……」
アキラ「釘宮さん、上手……」
美砂「なかなかやるわね、円の奴……」
やがて円が顔を引くと、まき絵は糸が切れたかのように崩れ落ちた。
円「ちょーっとサービスし過ぎたかな?」
今頃になって円が照れくさそうにすると、一斉に歓声と拍手が沸き上がった。
亜子「あ……、まき絵……、死んどる……」
心配そうに亜子が犠牲者に駆け寄ると、まき絵は恍惚の表情でぴくぴくと痙攣していた。
まき絵「えへへ……、円おねーさま……」
どうやらアッチの世界に旅立たれた様子である。合掌。
【出席番号16番 佐々木まき絵死亡 残り6名】(ヲイ)
桜子「まきちゃんがリタイアしちゃったから6番を抜いて……。ほにゃらば次いってみよ〜っ!」
脱落者が出ても王様ゲームは続く。それが酒席の掟である。そして、次の王様は……、
裕奈「やった、あたしの番だねっ!」
当たりクジを高々と掲げ、裕奈は一同を見渡す。
裕奈「さーて、どんな命令にしよっかにゃ〜?」
と、そこで一人の標的が目に入った。彼女にはいつも被害に遭っている。反撃するにはここしかない。
問題は標的が何番を引いたか、である。
意を決し、裕奈は勝負に出た。
裕奈「4番が1番にたゆんたゆん!!」
沈黙が流れる。誰もが亜子狙いなのは分かっていた。そして、亜子は自分の番号を告げた。
亜子「残念でした。ウチは2番や」
裕奈「あっちゃー、やっちまったよ……」
亜子「あーあ、4番引きたかったな〜。で、結局誰なん?」
アキラ「私が4番……」
美砂「―――で、私が1番。もう、ゆーなの誤爆が私に回ってくるなんて……」
桜子「あはは。アキラちゃん頑張れ〜♪」
亜子「アキラ、なんならウチが手ほどきしよっか?」
裕奈・美砂「いや、それシャレになんないから」
アキラ「じゃあ柿崎……」
やや緊張した面持ちでアキラは美砂の前に立ち、おそるおそる胸に触った。
アキラ(えっと、普段亜子がしてるような感じで……)
たゆんたゆんたゆんたゆん……
美砂「んっ……、やばっ、アキラって意外と……、あんっ!」
円「おおっ、美砂の口から熱い吐息が! どうですか、解説の和泉さん?」
亜子「ええ手付きしてますよー。アキラは何事にも一生懸命やから……。けど、折角なんやからもーちょい
堪能して欲しいんやけどな〜」
そして、裕奈はある事に気付き、こっそりと小声で桜子に告げた。
裕奈「やば、あたし時間決めてなかった……」
桜子「どんまいどんまい。そのうちどっちかがギブアップするって!」
しかし、桜子の見通しは甘かった。経験豊富な美砂は完全にアキラのたゆんたゆんを楽しんでおり、アキラは
持ち前の持久力とアスリート魂を発揮して、一心不乱に美砂の胸をたゆり続けていた。
円「―――あのさ、コレって美砂がイクまで続けるの?」
裕奈「胸だけで? そりゃちょっと厳しいんじゃ……」
二人の会話に、一人のたゆリストが立ち上がった。気のせいか、亜子の体から不気味なオーラが放たれている。
亜子「ふふふ……。ゲームの進行の為に、ウチが助太刀したる!」
言うや否や、亜子は素早くアキラと交代し、凄まじい早弾き、いや早たゆを奏でた。
たゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆたゆ……
美砂「ちょっ亜子、そんな、あぁんっ! は…激し過ぎ……、あっあっ、はああああっっ!!」
―――あまりに見事な秒殺劇であった。
亜子「あはは。目の前でおあずけ食うてたもんやから、つい本気出してもーた」
世界の頂点に君臨するトップたゆリストの技術を前に、ギャラリーは絶句する。……ただ一人を除いて。
桜子「亜子ちゃんスゴーイ!!」
桜子だけは太平楽に、いつもの笑顔で拍手していた。
アキラ「さ、さあ続けようか」
この空気を打破すべく、アキラは再開を促した。……これ以上の続行は不安であったが。
美砂「ハァハァ……、今度は亜子にお返ししなきゃ……、たっぷりと、ね」
そしてゲームは続行される。次の王様は円が引き当てた。
円「この辺で軽いのを入れないとキツいよね。じゃあ……」
円「5番が3番をくすぐり倒す!」
美砂「オッケー! くすぐり役もーらい!! さあ、生け贄は誰?」
亜子「あ、あはは……、ちょいピンチやな……」
亜子は冷や汗を流しながら3番のクジを見せる。
美砂「イエス! イエスイエス、イエース! でかした円! ……さあ覚悟はいいかな、亜・子・ちゃん」
亜子「や、優しくしてな……?」
円「一分間耐えれば亜子の勝ちね。負けた方は罰としてこのブランデーを飲み干す、ってコトで」
円はグラスになみなみとブランデーを注ぐ。さすがに中学生にブランデーは厳しいところである。
裕奈「なんか結果は見えてるよーな……」
アキラ「う、うん……」
桜子「ほにゃらば、くすぐり開始!」
そして……、(大人の事情で描写出来ません。申し訳ありませんが音声のみでお楽しみ下さい)
亜子「きゃはははっ! か、柿崎やめっ、あはははははっ! アカンて…はひっ!? いやっ、あははははっ!
も、もうカンベンして……、あはははっ! はあ…はあ……、えっ、ちょ、ちょい待ち、そこは…はうっ!?
んっ、くっ、はうっ! く、くすぐりちゃうやん…ひぃん! ウ、ウチもう…あっ、やぁん、やめ……、
あっ、ああっ、ふあっ、あああっ! やあっ、み、みんな見とるのに、も、もうイk(ry」
…………。
裕奈「鬼だ……、鬼がいる……」
一分間の報復タイムが終わり、こうして亜子の罰ゲームが確定した。
目の前でぐったりと倒れ込んだ亜子に、ようやくまき絵は正気に戻った。
まき絵「―――はれ? 私寝ちゃってた? ……って亜子どーしたの?」
亜子「ううっ、ウチはもうおヨメにいかれへん……」
まき絵「え、えっと、何があったの?」
裕奈「まき絵……。世の中には知らなくていい事もあるんだよ……」
円「うん……。そっとしといてあげな……」
しかし、美砂は無慈悲にも亜子にブランデーを差し出す。
美砂「はい。コレ飲んでぱあ〜っと忘れちゃいな」
亜子「ううっ……、アンタは鬼や……」
一同の注目を浴びつつ、亜子はくいっ、と一気飲みした。そして、
亜子「う…ん……。アカン、カラダが火照ってもーて……。ちょい休憩や〜。まき絵、あとは任せたで〜」
亜子はとろんとした目付きで上着を脱ぎ、そのまま横になってしまった。
【まき絵戦線復帰 出席番号5番 和泉亜子リタイア 残り6名】
美砂「さ〜続けるよ〜♪」
リベンジに成功した美砂は嬉々とした表情で再開を促す。そして、桜子が王様を引き当てた。
桜子「うーん、今回はまだまだ元気な人が多いよね〜。じゃあシンプルに……」
そんな事を呟きながら、桜子はジョッキに赤ワインとビールを1:1の割合でカクテルする。
桜子「2番の人はコレを全部飲んでね〜♪」
裕奈「うあ……、マズそう……」
美砂「それに悪酔いしそうね……。で、2番は誰?」
円「はーい、私……。こいつはまた……、スゴいキック力がありそーな……」
2番のクジを見せた円は、心底嫌そうな表情でジョッキと対峙する。
まき絵「大丈夫! この程度なら円おねーさまは負けないよっ!」
ややためらいを禁じえない様子の円に、まき絵は笑顔でエールを送った。
アキラ「まき絵……、コッチの世界に目覚めちゃったんだね……」
ただ一人、冷静なアキラはまき絵の異変を見逃さなかった。
ぐびぐびぐび……。
覚悟を決めた円は一気にジョッキを呷った。ワインの酸味とビールの苦味がマッチして、ケタ違いに不味い。
徐々に意識が白くなっていく。しかし、ここで休んでは再度トライする気力は無い。円は懸命に堪えた。
ゴールが遠い。視界が歪み出す。みんなの歓声も円には届かない。それでも、円は飲み続けた。そして……
まき絵「やったあっ! 円おねーさま素敵っ!!」
ごとっ、と空になったジョッキを置く円に、まき絵はきらきらと目を輝かせながら飛び付いた。
裕奈「くぎみー、おっとこまえ〜っ!」
桜子「さっすが円!」
美砂「やるわね……」
次々と祝福の声が上がる中、円はゆっくりと宣言した。完全に据わった目で。
円「まっず〜いっ! もう一杯!!」
…………。
それは、失われし前世紀の伝説。今となっては遠い記憶となった大技。決して言ってはいけない禁句であった。
桜子「ぅ分かったあっ! 円の遺志、私は絶対に忘れないよっ!」
裕奈「うんうん……。くぎみーがそこまでカラダ張ってくれるなんて……」
桜子と裕奈は感涙に咽びながらジョッキにワインとビール、そしてジンを注いだ。
そして、全てが終わった瞬間、偉大な戦士はゆらりと崩れ落ちる。
彼女が最後に言い残した言葉は、
円「くぎみーゆーな、つーの……」
で、あった。
まき絵「円おねーさまあああっっっ!!」
こうして、亜子の隣には土気色の顔をした円が並べられた―――
【出席番号11番 釘宮円自爆 残り5名】
裕奈「さあ、脱落者が続出! いよいよ被弾率が高くなってきましたっ!」
美砂「桜子とゆーなはまだ一回も食らってないよね?」
まき絵「よーし、絶対に仕留めてやるっ!」
桜子「いいよいいよ〜、みんなテンション上がってきたね〜♪」
アキラ(に、逃げたい……)
しかしゲームはアキラの意志に関係無く進行していく。そして、
アキラ「わ、私が王様?」
何の因果か、アキラは王様を引き当ててしまったのだ。
アキラ(困ったな……。この状況じゃ白けるようなのは避けたい……)
アキラが思案していると、撃沈している亜子がむにゃむにゃと呟いた。
亜子「アキラ〜、ここは鬼にならなアカンで〜……」
自業自得とはいえ、亜子は既にこのゲームの魔物に飲み込まれている。そんな彼女の遺志に、アキラの中で
ようやくふんぎりがついた。
アキラ「3番が4番を口説き落とす、でいいかな?」
裕奈「えっと、罰ゲーム付きだよね?」
裕奈の問いに、アキラはこくりと頷き、グラスにスコッチを注いだ。銘柄はロング・ロー。真名がよく
愛飲している代物で、自分も何度か飲ませてもらった覚えがある。これが今回のペナルティであった。
アキラ(この程度なら大丈夫かな? 真名もよく飲んでたし……)
……アキラの感覚はズレていた。一撃必殺の罰ゲームに、まき絵と桜子は冷や汗を流している。
桜子「え、えっと私が口説き役で……」
まき絵「また私が標的なの〜っ!?」
あまりに珍妙な組み合わせに、美砂と裕奈はぽかーんとしてしまう。
裕奈「あ、ありえねー……」
美砂「こりゃ時間制限が必要ね……」
アキラ「じゃあ5分で」
桜子「ええ〜っ!? 厳しすぎるよ〜、まきちゃん円にメロメロだったし……」
まき絵「―――そう、だね。私には円おねーさまがついてるもん! 絶対に勝ってみせるから!」
その当人はふらふらと立ち上がり、トイレに向かった。何しに行ったかは、あえて言うまい……。
円がスッキリして戻って来ると、既に戦いの幕は上がっていた。
円「うあ…………」
桜子の仕掛けた攻撃は、はっきり言って反則であった。これはもう、口説きというより拷問である。
桜子「うふふ……、そろそろ観念しちゃいなよ、まきちゃん」
まき絵「ら、らめ……、私は……」
桜子「そんなコト言っても、こっちのお口は正直だよ?」
まき絵「はぅん! やあっ……、そ、そんなコト……」
桜子「にゅふふ、テクニックなら円に負けないよ〜♪」
まき絵「ひぃんっ! や、やめて……、そんな…ああん!」
円「言ってくれるわねえ……、桜子の奴……」
円が呟くと、まき絵はようやくその存在に気付いた。そして、みるみる顔を青くする。
まき絵「いやっ……、お、お願い、見ないでえ……!」
その様子を見ていたギャラリーはひそひそ話をしている。
裕奈「うあ、まき絵の奴、本気でくぎみーに惚れちゃってない?」
アキラ「いや、酔ってるだけだから、明日には忘れてると思う……」
美砂「けど、キス一発でオトすなんて、やるわね円」
亜子「くぎみんはカッコええからな〜」
いつの間にか亜子も話に加わっていた。未だに酔っている様子ではあったが。
アキラ「あと一分だよ」
円「アキラが王様なの? これは意外だね……」
どうやら円は命令の内容を勘違いしている。まあ、この戦いを見れば誰でも誤解するだろうが。
桜子「ここらでオチちゃいなよ。お酒も飲めて気持ちいーよ」
まき絵「やだっ! 私、私…ああっ! ……円おねーさまじゃなきゃ……、はうっ!」
桜子の責めが激しさを増す。だが、まき絵は懸命に堪えてた。
裕奈「ううっ、なんか泣けるな〜」
美砂「ホント、けなげだよね〜」
円「まき絵……」
円はぐっと堪えていた。本当はすぐにでも止めてやりたい。けれど、動けなかったのだ。それは、自分の中で
一つの感情が芽生えていたから。円はひたむきなまき絵の姿にすっかり心を奪われていた。
そして、まき絵は見事に耐え切ってみせたのだった。
桜子「うぃ〜、やっぱりスコッチはきょーれつだよ〜」
さすがに桜子といえどもこの罰ゲームは効いたようである。真っ赤になってくらくらしていた。
まき絵「えへへ……。円おねーさま……、私……、頑張ったよ……」
まき絵はぼろぼろになりながらもにっこりと笑った。その小さな身体を、円は優しく抱き止めた。
円「まき絵……。よく頑張ったね……」
目に涙を溜めながら、円はまき絵の頭を優しく撫でる。そして、ご褒美のキスをした。
まき絵「円おねーたま……」
円「まき絵……。カワイイ子……」
アキラ「やっぱり、釘宮さんも酔ってる……」
ただ一人、アキラは冷静な分析をしているが、他のみんなは感動の結末に涙していた。そして、この人も……、
ハルナ「うんうん、ここに新たなカップルが爆誕ねっ!」
いつの間にか、早乙女ハルナが紛れ込んでいたのだ。
美砂「どっから湧いてきたのよ、あんた……」
ハルナ「いや〜、この部屋からほんのりラブ臭がしたから……」
裕奈「ふっふっふ……、ならばパルも参戦するとゆーコトで!」
亜子「ウチもそろそろ復帰せな〜。くぎみんはイケる〜?」
円「まき絵があんなに頑張ったからね。私も休んでらんないよ! ……つか、くぎみんゆーな」
アキラ(私はもう帰りたい……)
この時点で桜子、円、まき絵、亜子の四人は完全に酔っ払っていた。裕奈と美砂もほろ酔い気味で、まともなのは
アキラと飛び入り参加のハルナだけである。酒に強いアキラは仕方ないとして、ハルナは確実に狙われていた。
亜子「あ、ウチが王様や〜」
王様を引き当てた亜子はぽけら〜、っとした表情で一同を見渡す。そして、テキトーなノリで命令を下した。
亜子「んと、7番の人は那波さんに電話でおばさん、てゆーてな〜」
ぴしっ。
場の空気が凍り付く。亜子が無邪気に宣言したのは、このゲーム始まって以来の苛酷な命令であった。
亜子「あれっ? みんなどないしたん?」
酔いの回った亜子には、事の重大さが理解出来ていなかった―――
TSUMARAN
裕奈「亜子……。それはちょっと……」
美砂「う、うん……。いくらなんでも命懸けなのは……」
アキラ「(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル」
理性を保っている面子は完全に怯えている。だが7番を引き当てた哀れな子羊は、果敢にもやる気充分であった。
ハルナ「ここで逃げたらパル様の名がすたる、ってもんよ!」
ハルナは不敵な笑みを浮かべつつ、携帯を取り出す。
亜子「あはは。やっぱパルはチャレンジャーやな〜」
まき絵「骨は拾ってあげよーね、円おねーたま♪」
円「パル……。忘れないよ、アンタの生き様は」
桜子「それ〜いっちゃえ〜!」
酔っ払い軍団の声援を受け、ハルナは電話を繋いだ。そして、
ハルナ「あ、もしもしおばさん?」
さらりと禁句を口走ったのだ。
千鶴「…………あらあら」
その一言だけで、電話は切れた。もう、手遅れである。
桜子「さっすがパル! 私達に出来ない事を平然とやってのける! そこにシビれる、あこがれるゥ!!」
まき絵「パル〜、こっち向いて〜」
勇者の姿を記念に収めようと、まき絵はデジカメを構えた。
ハルナ「いえ〜い!」
笑顔満面のハルナの姿が映る。文字通り、これが彼女の遺影となった。
千鶴「あらあら。綺麗に映ってるわね」
まき絵のデジカメを千鶴はにこやかに確認する。
アキラ「な、那波さん!? いつの間に……」
千鶴「うふふ。ちょっとこの子をお借りしますね」
がしっ、と千鶴はハルナの首根っこを掴み、ずりずりと引きずっていく。片手にネギを携えたままで。そして、
ざくっ。ごりっ。めきめきめき……、ばきゃっ。ぐちゃっ。
尻にネギを突っ込んでいるとはとても思えない音が、廊下から響いていた―――
その後、ハルナの姿を見た者はいない……。
【出席番号14番 早乙女ハルナ死亡】(えっと、何回目?)
ハルナという犠牲者を出した後も、ゲームは執行されていった。
彼女達の宴はまだまだ続く。
まき絵「6番と3番で野球拳!」
裕奈「1番と5番で恥ずかしい秘密を暴露対決!」
亜子「2番と4番であっち向いてたゆん勝負や!」
(説明:あっち向いてホイで勝った方が相手にたゆんたゆん。3回たゆれば勝ち)
美砂「3番が2番の性感帯を見つける!」
桜子「もういっそ1番と6番が飲み比べ!」
新田「4番と5番は私にご奉仕!」
一同「消えろ変態教師!!」
どごっ! ばきぃ! げしげしげしっ!!
新田「7人掛かりで袋叩き……。これはなかなか……」
アキラ「新田先生……。飲酒は不問なんだ……」
午前2時。ようやく悪魔の王様ゲームは終わった。ここで現状を確認してみよう。
佐々木まき絵 午後11時24分リタイア。衣服ゼロ。たゆられた回数0回。昇天した回数4回。
釘宮円 午前0時5分リタイア。下着のみ。たゆられた回数5回。昇天した回数2回。
椎名桜子 午前1時58分リタイア。衣服は無事。たゆられた回数0回。昇天した回数0回。
柿崎美砂 現在酩酊状態。上半身裸。たゆられた回数6回。昇天した回数1回。
和泉亜子 現在ご機嫌ちゃん。ブラウス一枚で後は下着のみ。たゆられた回数0回。昇天した回数6回。
たゆんたゆんした回数34回。(一日の通算たゆん記録更新中)
明石裕奈 現在もほろ酔い。Tシャツとショートパンツ姿。たゆられた回数8回。昇天した回数0回。
大河内アキラ しらふのまま。衣服も無事。たゆられた回数20回。昇天した回数20回。(全てたゆんでKO)
早乙女ハルナ 蘇生完了。現在自室で円×まき絵の同人を執筆中。(二日後に完成→死亡予定)
鬼の生活指導 簀巻きにされ、現在図書館島の周辺を漂っていると思われる。
補足:たゆんたゆんは1プレイで1回、とカウントしています。
収拾がつかなくなった状況で、裕奈はぽつりと呟いた。
裕奈「ヤバい……。完全に取り残された……」
まき絵・円・桜子の三人は完全に酔い潰れており。美砂は先程から潰れている桜子に説教している。そして亜子は、
亜子「あははっ! たゆんたゆんや〜♪」
アキラ「も、もう許してっ! そ、そんなに激しく、いやっ、ああっ!」
ゲームに関係無くアキラにたゆんたゆんし続けていた。お陰でアキラは心も身体もすっかり蕩けている。
裕奈「今から酔っても遅いしねえ……」
どうしたものか、と思案していると、不意に呼び鈴が鳴った。
裕奈「げっ……! た、龍宮さん!?」
真名「失礼する。気のせいか、さっきからアキラのかわいい声が……、な、何だこの楽園はっ!?」
やってきたのは真名であった。部屋に上がるなり、真名はその状況に絶句する。
真名「こ、これで刹那がいれば完璧……、いや、それは贅沢というものだな」
ぎらり、と妖しく目を輝かせながら真名は亜子の肩に手を置いた。
真名「和泉、ここから先は任せろ!」
亜子「あ〜龍宮さんや〜♪ たゆんたゆんたゆんたゆん……」
挨拶代わりに亜子はすかさず真名の胸をたゆんたゆんする。ようやく解放されたアキラはぐったりと横たわった。
裕奈「あ、亜子やめなって! 早く逃げるよっ!」
裕奈は亜子の手を取り、一目散に戦場から撤退した。真名は二人を一瞥したものの、無理に引き止めはしなかった。
亜子「あーん、ウチのたゆんたゆんが〜」
裕奈「ああもう! あとであたしにやればいいから!」
未練がましい事を呟く亜子を必死でなだめつつ、裕奈は心の中で詫びた。
裕奈(まき絵、アキラ、桜子、柿崎、くぎみー……、みんなごめん!!)
真名「ふふ、さすがは和泉だな……。いい仕事をする」
極上のエサを前に、真名は生唾を飲みながら服を脱いだ。アキラは虚ろな目で真名を見つめている。
真名「心配するなアキラ。たっぷりと可愛がってやる」
そして、新たな宴が始まる。その様子を美砂は羨ましげに見つめていた。
美砂「ねえ……、次は私に……」
真名「いいだろう。なんなら6Pでも私は構わんぞ……!」
それは迂闊な発言であった。緊迫した状況だったとはいえ、あの時の自分を恨めしく思っていた。
亜子「たゆんたゆんたゆんたゆん……」
裕奈「お、お願い……、ちょっと休ませて……、はあっ…はあっ…はうっ! んっ、くっ、ひぃん!」
亜子「えへへ。ゆーなはかわええな〜♪ もっともっとしたるからな〜♪」
たゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆん……
未だに酔っ払っている亜子のたゆんたゆんに加減はなかった。自分の部屋に逃げ返った直後、裕奈は亜子に
押し倒されたのだ。そして、瞬く間に衣服をひん剥かれ、生乳をたゆられ続けていたのである。その快感は
先程までアキラが受けていたものとは比べ物にならなかった。亜子は無意識にトップたゆリストとしての粋を
結集させていたのだ。酒の力というのはかくも恐ろしいものなのか。
裕奈「ふぁっ! だ、ためぇ…んんっ! もうあたし……、あっあっ、あああっ!!」
ここで裕奈の意識は途切れてしまった。最後に残った記憶。それは小悪魔の笑みであった。
亜子「ゆーな……。夜はまだまだ終わらへんで……!」
たゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆんたゆん……
真名「―――朝、か」
小鳥の囀りが微かに聞こえる。清々しい朝であった。
真名はグラスにブランデーを注ぎ、ゆっくりと喉に滑らせた。そして、至福の表情を浮かべる。
真名「話には聞いていたが、なかなかの技量だったな……」
ちらり、と真名は傍らに横たわる美砂を一瞥する。そして、ゆっくりと周囲を見渡した。
ベッドにはまき絵と円が仲良く寄り添ったまま眠っている。美砂と桜子は互いの身体を絡ませた状態で気を失って
しまったようだ。そして、アキラは真名の膝の上で寝息を立てていた。全員、裸であった。
真名「さすがの私もハードな夜だった……」
真名は感慨深く記憶を辿る。この狩猟者はきっちりと全員を味見していた。その上でアキラと何度も何度も
愛を交わしたのである。心地良い疲労感が真名の全身を包んでいた。
真名「次は刹那も交えて飲もう。この場合は近衛と宮崎も呼んだ方が楽しそうだな」
そう、宴は人数が多ければ多いほどいい―――
(おしまい)