第二百十六幕 「黒い装束の二人(前編)」
『屍人形』を何処に隠したかと問う外印。機巧師としての機能美の結晶・夷腕坊に対して、
あれは人形師としての造形美の結晶にして、かの人斬り抜刀斎の目をも欺いた最高傑作。
このまま腐らすにはあまりに惜しい、外法の歴史に残す価値がある。
そんな事はどうでもいいと言い捨て、蒼紫は薫の居場所を問う。
外印は蒼紫を俗人と断じ、斬鋼線で攻撃を仕掛ける。流水の動きで外印の攻撃を避ける蒼紫。
だが外印は鋼線で墓石を括り、蒼紫に叩きつける。外法の人形使いをナメ過ぎたと勝ち誇る外印。
そもそも夷腕坊は常人が操ろうとしてもとても叶わぬ代物。指一本につき二百キロを支えつつ、
十分の一ミリ単位での微妙な操作を施せて初めて動かす事が可能。
砂煙が晴れると、そこには二刀小太刀で墓石を斬り刻み、無傷で立つ蒼紫の姿があった。
蒼紫の腕前に感心し、その力量を惜しむ外印。それだけの力が有りながら、
この先表の世界で生きるならば、凡百の小料亭の主に収まるしか道は無い。
手を組もうと持ちかける外印。しかし蒼紫は、凡百の小料亭の主も悪くないと答える。
だがそれも暫く先の話。外法の技術はもはや滅ぶべき物、それを私欲のためだけに用い、
挙げ句人の世に災いを起こす悪党が少なからず存在している。
「ならば外法の悪党は外法の力を以て更なる闇へと葬り去る
それが隠密御庭番衆の 最後を締め括る御頭としての務めだ」
蒼紫が自分と全く別の闇の者だと理解し、襲いかかる外印。
蒼紫は小太刀の鞘を外印に蹴り飛ばして怯ませ、呉鉤十字を繰り出す。
鋼線を頭上の木に巻き付け、樹上に逃れる外印。
蒼紫の攻撃が掠った覆面の下から、年老いた素顔が露わになる。