古畑「え〜、世の中の生き物には、大体にして天敵と言うものが存在します。
例えばー、んー鼠にとっての猫。油虫にとっての天道虫。カエルにとっての蛇。
それにー、えー……殺人犯にとっての、私ぃ……んっふっふっふ……」
『盗みの予告は殺しの香り』
(前略)
古畑「んー、それで西園寺くん、事件の概要は?」
西園寺「はい。まず被害者ですが……(被害者名・事件内容は筆者の容量不足にて省略)。
それで、容疑者なのですが……」
古畑「もう容疑者解ってるのぉ? 随分と早いねぇ……」
西園寺「いえ、それが……その、自首なされたんです、その方が」
古畑「自首ぅ? じゃあとりあえず、その人の名前は?」
西園寺「銭形警部です」
古畑「銭形……あの銭形警部かい?! 嘘じゃなくて?」
西園寺「はい、事実です。残念ですが……今朝方、銭形警部自ら署の方に訪れて、自首なされました」
古畑「そうかぁ……いやぁ驚いたぁ……それにしても、なんでまた殺害しちゃったんだい?」
西園寺「それが、なんでも……(略)……といった理由で、捜査中の不手際が原因らしいです」
古畑「いやいやいやぁ……あの、あの銭形警部がそんなミスを……ただ、それなら殺人罪ではなく……」
西園寺「ええ、ですがその証言が事実なのか確認しなくてはなりません。
万が一銭形警部が殺意を持って殺害していた場合には……」
古畑「え〜と、殺したのは銭形警部で間違いないのかい?
なんか既に確定しちゃってるみたいだけどぉ……?」
西園寺「ええ、被害者の体内からは銭形警部が用いていたと思われる銃弾が摘出されましたので。
銭形警部の拳銃が盗まれた、という報告もありませんし、ほぼ間違いないでしょう」
古畑「なるほどなるほどぉ……いやぁ、本当に愕きだねえ……
……とりあえず、現場見せて貰えるかい?」
西園寺「はい、こちらです」
(捜査シーン中略)
古畑「いやぁ……それにしてもぉ……どうにも不可解な点が多すぎるねぇ」
西園寺「何がですか、古畑さん?」
古畑「現場周辺のことだよ、西園寺くん。……妙に不自然に残りすぎなんだよぉ。
銭形警部以外の人物が事件を行いました、っていう証拠がぁ。
謎の銃痕、謎の足跡、そして謎の指紋……
あまりにもわざとらしすぎるんだよぉ、これらの証拠が、全てぇ」
西園寺「確かにそうですね……
もしかすると、銭形警部が残した犯人をでっちあげる証拠、とは考えられないでしょうか?」
古畑「それはないねぇ。もしそうなら、自首なんてしてきませぇん」
西園寺「それもそうですね……」
古畑「例えばぁ。そう、例えば……誰かが、この事件の犯人は自分だ、と名乗っているとか……」
西園寺「ですが古畑さん、もしそうだとするならば、一体誰が?」
古畑「それも解らないんだよねえ……とりあえず、現場に残っていたガムらしきものの鑑定待ちだねぇ。
何か解るかもしれないよぉ?」
(中略)
今泉「ふ、古畑さん、か、鑑識から連絡が来ましたっ!」
古畑「ああ、でなんだってぇ?」
今泉「そ、それが……あ、あのガム、る、ルパンが使ってるものらしいんですよ!」
古畑「るぱぁん? ……あの、ルパン三世かい?」
今泉「そ、そうですよっ! な、なら、きっとこの事件、ルパンの仕業ですよルパンのっ!」
古畑「付近にルパンの残した証拠があったからって、この事件そのものがルパンの仕業にはならないねぇ」
今泉「だ、だって銭形警部がや、やるはずがないですよ、こ、こんなのっ!
あ、あの銭形警部ですよ? そんな、注意してないとか、あるはずがないじゃないですかっ。
ぜ、絶対ルパンですっ! る、ルパンの仕業です、絶対っ!」
古畑「それでもだねぇ、ルパンがやったと、百歩どころか万歩譲ったとして……動機とかが見えてこないと……」
今泉「そ、そんなの関係ないですよっ、ぜ、絶対ルパンですっ!
それ以外ありえないですよ、銭形さんなはず……」
古畑「……しつこいんだよこのデコっ……とと」
今泉「あ、危ないじゃないですかぁ、古畑さぁん。と、とにかく、ルパンの仕業ですよ、これはっ」
古畑「…………んー…………いやぁ、そうかもしれないねえ、今泉君。
その可能性も捨てきれなくなってきたねぇ」
今泉「そ、そうでしょう?」
古畑「……と、ちょっと待ってて貰える?」
今泉「は、はいっ」
古畑「え〜、一件単純に見えたこの事件……本当はかなりややこしい事件でしたぁ。
ただ、犯人は銭形警部では無く……今泉君の言うとおり、ルパン三世でしょう。
ですがぁ……えー、あの今泉君、恐らく本物ではないでしょう。
恐らく……そう、恐らくは真犯人であるルパン三世のはずです。
ですので今回は、えー、何故私が今泉君が偽物だと見破ったのか。
そして、何故ルパン三世は自分が犯人だと主張するような真似をしているのか……
ヒントは、『友人』。……あえてそう言っておきましょう。
古畑任三郎でした」
古畑「いやあ、それでだね今泉君、私もルパンが怪しいんじゃないかと思い始めて来たんだよ」
今泉「そ、そうですか?」
古畑「そうそう。私が思うに、現場付近にあったあからさまな証拠……
あれは、ルパン三世が事件後にわざわざ用意しにきたものなんだよ、恐らくは!」
今泉「え、えぇぇ? そ、そんなことする必要あるんですか?」
古畑「ええ、あるんだよぉ。え〜、これはさっき西園寺君から教えて貰った話なんだけど……
被害者の方、どうやら裏社会……所謂ギャング、っていう連中と関係があったようなんだよぉ。
しかも、そういう連中とつるんで色んな……まあ、宝、というようなものを集めていたらしいんだぁ?」
今泉「は、はぁ……」
古畑「で、非公式ながら……ルパン三世から、宝目当ての予告も来てたらしいんだよ。
ただぁ、あちらさん、ルパンを生け捕りか、自分たちで始末するか、そうしようとしてたらしいんだぁ」
今泉「…………」
古畑「それでぇ。それを聞いてようやく謎が解けたんだよぉ。
恐らく事件の顛末はこう! 被害者の男性とルパン三世が対峙していて……(以下略)
……といった具合で、銭形警部の弾丸が当たったのは、既に被害者の方が亡くなった後だったんです」
今泉「す、すごいですね古畑さん、そ、そんなこと解っちゃうなんて……」
古畑「で、更に続きがあって……その事件の後、ルパンはアジトかどこかに帰って驚いた!
何せ自分が殺した相手を銭形警部が殺したことになっているんだもの、驚くよねえ?
……それで、彼は焦って証拠を現場に置きにきた!
わざわざ、警察が居るかもしれないその場所に! キケンを犯してまで!
それはなぜか、そう、彼は銭形警部のことを天敵であると同時に、好敵手であると認めているからです。
自分のせいで銭形警部が冤罪を被るのは、ルパンにとっては親友を傷つくのとなんら代わりのないことなんです。
ですから、ルパンはキケンを犯してまで証拠を残しに来たんです。……違いますかぁ?」
今泉「え、ぇ?」
古畑「しらばっくれなくても結構です。貴方が今泉では無いことは、もう解っていますので。
……もう一度聞きましょう、違いますかぁ、ルパン三世さん?」
今泉「……その通りだよ、古畑さんよぉ」
びり、と覆面を剥がし、素顔を晒すルパン。
ルパン「事件の粗筋、そして俺がここに戻ってきた理由……ぜぇんぶ当たってやんの。
本当おみそれするぜ、古畑さんよう」
古畑「ん〜ふふふ……この仕事、長いですから」
ルパン「それを言ったら、俺だって長年他人に化ける真似をやってるが……
……なぁ、なんでばれたんだ?」
古畑「え〜……実に単純なことです。
貴方さっき……私がおでこを叩こうとしたら、およけになられたぁ。
……あの男、何があっても、私がデコを叩こうとしたら、避けたりはしないんですよぉ」
ルパン「……はぁ……さすがに、そればっかりは真似できねぇなぁ……
何せ、叩かれたらばれちまうかもしれねえんだかな、変装がよぉ」
古畑「ん〜ふふ……それで、え〜……ルパン三世さん、逮捕されてくださいますか?」
ルパン「ここまで完膚無きまでに推理されて、見破られたんじゃ、逮捕されてやるか……
と言いたい所だがよ、悪いがアンタに捕まるわけにゃいかねえんだよ、古畑さん」
古畑「と、仰いますと?」
ルパン「さっき、アンタが言ったとおり、俺は銭形のとっつぁんを親友……
それも、何十年来の親友だと思ってる。だから、俺が捕まるなら、とっつぁん以外にゃありえないんだよ。
まあ、それも何年先の話になるか解らないけどよ」
古畑「ん〜……なるほどぉ……素晴らしい友情です」
ルパン「だから、まあここは失礼させて貰うぜ、古畑さんよぉ。
……あばよ、古畑のとっつぁ〜ん」
ぼむ、と煙玉を使い、逃走するルパン。
煙が晴れた部屋には、咳き込む古畑が一人。
古畑「こほ、こほっ……ん〜ふふ……とっつぁん……ん〜ふふっふっふ……」
古畑、床に落ちている今泉のマスクを拾う。
そして、思い出したかのように本物の今泉を捜しに部屋の外へ。
♪ジャッジャン ジャジャン ジャッジャジャン