ひととーり咲が愚痴を並び立てた所で、部室のドアがガチャリと開いた。
「ハローハローご主人様〜、私アナタのガッツさ〜ん♪」
「あっ、コーサカぁっ▽(←ハートマークの代用。)」
トンデモない替え歌と共に登場したのは、咲の彼氏である高坂だった。
もっとも高坂にしてみれば、咲は『三次元の彼女』であって、咲にとってはナチュラル
ボーンエネミーである二次元の恋敵が多数存在するというのは、本編を読んでいる人なら
ご存じの通り。エロゲ好きがこうじてエロゲーメーカーのプシュケに就職が内定した高坂
は、まだ在学中であるにも関わらず、プログラマーとしてこの2週間駆り出されていた。
ところでプシュケの元ネタって『lain』ですよね?(SS内で訊くんじゃない)
「咲ちゃん久しぶりー▽(←ハートマークの代用。) 元気してた?」
「んー元気元気。今さっき元気になった!」
「良かったね(高坂スマイル)。……あれ、斑目先輩、その人は?」
「実はかくかくしかじか」
「へー。『かくかくしかじか』な事情なんですね。よくわかりました(高坂スマ(略))」
「……コーサカ、おまいは本当に意味わかってんのか?」
わかっていよーといまいと話は進む。それが2ちゃんねるSSスレクオリティ。
(どーすんだよ、自称キューピッド。コーサカ来ちまったら春日部さんの眼中に俺なんか
見えなくなっちまうぞ。つか、俺らが席外した途端にガチにパツイチおっ始めると見た!)
(エエ。そのヨォね。しかしながら、私の灰色ラヴ脳細胞は一波乱起きると予測してるワ)
(一波乱って何だよ?)
(アレよ)
そう言って彼女が指さした先には、見慣れないニット帽を被った高坂のドタマがあった。
「あ、初対面の人がいるのに帽子被ったままじゃ失礼ですね。はじめまして、有限会社
プシュケ開発部の高坂真琴と言います。これ名刺です。まだできたてなんですけど」
名刺を取り出しながら帽子を取った高坂の姿に、咲が凍り付く。
そこにあるのは、数週間前までイケメンスタイルであった綺麗な金髪に代わって、坊主
ヘアに鞍替えした高坂の姿ッ! 英語で書くとすれば、それはそれは見事なBOUZU!
「人間、スタジオに缶詰で十日ぐらいお風呂入らないと、知らず知らずのうちに頭かき
むしって血だらけになっちゃうんだね(筆者の実体験による)。キーボード叩いてるだけ
でフケがパラパラ落ちて気持ち悪いから、咲ちゃんが教えてくれた美容院でバッサリ
切ってもらっちゃった。どうかな、似合う?(高坂スマイル)」
「いやお前、普通美容院で坊主頼んだら止められるだろう!」斑目がツッコむ。
「えー、でもスッキリしていいですよー? ……あれ? 咲ちゃんどーしたの?」
「ボーズ……あたしのコーサカが丸坊主……若さ故のあやまち……坊主だからさ……」
そこには、エクトプラズムを吐き出しながら椅子の上で脱力に脱力しまくる咲の姿。
嗚呼、運命なんてしらない。
「咲ちゃん咲ちゃん? 大丈夫だよ。今度の休みで演劇用のカツラ買うから、付き合って」
「お前はサミュエル・L・ジャクソンかーっ!」
斑目のツッコミが虚しく響く部室。残るは怪しく目を輝かせる自称キューピッドと、
あまりのショックで臨死体験真っ最中の咲。
(マダやん、マダやん)斑目の耳元でこっそりと自称キューピッドは呟いた。
(誰がマダやんか)
(余りのショックで春日部さんはグロッキー状態よ、畳みかけるなら今!)
(畳みかけるって、どーやってだよ?)
(むう、カズフサと勝手が違うから困るわね。屁理屈でねじ伏せなさいッ)
「二人で何話してるんですか?」
「幻覚……今のは幻覚よ……」
ニット帽を被り直した高坂の姿を見て、徐々にあっちの世界から帰ってきつつある咲に
向かって、斑目一世一代の大演説が始まった。
「あー、春日部さん? 誠に残念ながら、コーサカが春日部さんに無断で坊主頭になった
のは、悲しいけどコレ現実。問題はさ、四年も付き合ってて髪型の変化ぐらいでショック
受ける春日部さんのほうにあるんじゃないかな? 君らの絆はそんな脆弱だったのか?」
「だってボーズじゃない、ハゲじゃない! 嫌ァァァァッ、私のコーサカがーっ!」
787 :
マダやん(11):2006/01/10(火) 03:26:41 ID:zof0At2L
「甘いッ! 彼氏が仕事に生きようと断腸の思いで(推測)非モテの道に半分踏み込んだのを、
キミは否定するのか? 暖かくネオ・コーサカを受け入れてあげる寛容さなくして、これ
から病めるときも健やかなる時も愛し続ける、その自信無くして何が愛か! 外観と職種の
変化だけで拒絶反応を示すとは言語道断! キミの愛情はそんなにペラいものだったのか?」
「うっ……だけどだけど、何か今まで飲み干したり体内で吸収したコーサカ成分がヤな汗と
共に拒絶反応でダラダラと排出されてゆくのよーッ! とにかくボーズだけは駄目!」
「ムぅ……その『コーサカ成分』とやらが何なのかはツッコまないでおこう。アフタヌーン
愛読者のオタク予備軍……もといお子様チルドレンもこのスレを見てるかもしれんしな」
「どう考えても精子ですね」コーサカが笑顔と共に云う。
「本当にありがとうございました……アンタ相当なワルね」と、自称キューピッド。
「そこ、ガ板でしか通用しないネタを開陳するな! とにかく春日部さんは特訓が必要だな」
「と……特訓?」
「そう。コーサカがどんなキモメンになっても受け入れられる心の準備をすべきだ!」
そして三ヶ月の時が過ぎたッ!
「えっと……ヤンさん、これでいいんですか?」
戸惑いがちの高坂が、自分の姿を見ながら言う。今は専門学校に居る田中のコネクションを
フルに使い、『防衛出動すら予測される最悪の服装』をコーディネートし、更に特殊メイク
まで駆使して今や別人となったコーサカの姿は、弁髪付きのコボちゃんヘアーにニキビブツ
ブツのツラ、スネ毛ボーボー半ズボン七分袖、背負ったリュックにエロゲポスター満艦飾、
ワイルドさを演出するために片手錠足枷首輪付きという、無茶苦茶なキモメンと化していた。
「スパシィヴォ……キモすぎて私ですら吐き気が止まらないわ。そして決めゼリフ、GO!」
「えーと……『オ、オデは中国株に手を出したのが没落の始まりだったんだな』って……?」
一方その頃、北朝鮮と中国の国境では(ぉい)。
「探せ〜っ! 男女二人組のイルボン人だ! 人民の太陽・将軍様の直命である! 死んでも
脱北を許すな! なるたけ殺すなっ! 片方は痩せた眼鏡姿、もう片方は長い金髪だっ!」
ワールドワイドに特訓をプチかました斑目と春日部の二人が、何故か朝鮮人民軍と国境警備隊
に追われていた。お前ら一体何やらかしたんだ?
「……行ったか?」
「OK! 一気に川を渡ってこの国をオサラバするわよ!」
「しかし何だな、俺たちのこの三ヶ月はまるでメタルギ(ピー)ソリッドだったな……」
「蛇があんなに美味しいとは思わなかったわ。ありがとう、斑目。今の私なら、全てを愛せ
そうな気がするの……行きましょう。コーサカが日本で待ってるわ」
「よし、3・2・1の1を言い終わった所で……」
「行きましょう」
「ああ……春日部さん、この三ヶ月、苦しかったけど、楽しかったぜ。ありがとう」
「私もよ」
全く芸風の変わってしまった二人が走り出す。そう、それは自由への疾走。
789 :
マダやん(13):2006/01/10(火) 03:31:14 ID:zof0At2L
「……で?」
「三ヶ月も一緒に過ごせば、フラグの一つぐらいは立つと思ったんだけどね……」
「国連の輸送機ハイジャックして平壌にまで放り込んだアタシの苦労は?」
「全くの無駄だったんじゃないかと……コーサカ恋しさで春日部さん頑張ったみたいだし」
「はぁ……」
「ふゥ……このヘタレ〜ッ! ラブ時空道場直伝ラブ固めッ!」
「あ痛たたたた! 手首の古傷がァ〜っ! タップ、マジでタップ!」
それなりにお似合いのお二人になってしまった自称キューピッドとダメ社会人は、実はまだ
斑目宅で暮らしているのです。
そして一方、椎応大学キャンパスでは。
「コーサカぁ▽(←ハートマークの代用。)」
「咲ちゃ〜ん▽(←ハートマークの代用。)」
全く変わらないバカップルぶりを披露する春日部さんと高坂の姿があったとさ。
どっとはらい。
ンゴゴゴゴゴゴゴゴ……
さらに一方、大阪府平方市、大森カズフサさん(28歳・無職)のお部屋。
「ま、お茶でも」
「……す、すいません」
「で、主人公らしいキャラになりたいと、そォ言う事で?」
「ええ、まぁ……」
完全にこのSSでは無視された主人公・笹原くんがコタツでミカンを食っているのでした。
おちまい。