だいらんど連載中

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313マロン名無しさん
夜 公園

 ブランコにバイク用のヘルメットが置いてある。
 ブランコの囲いには中高生とおぼしき少年が腰を下ろしている。
 髪を染めている。服装は革のジャケットにジーンズ。
 少年、オイルライターで煙草に火をつける。一息。
少年「ふ──っ ……」少年、げほげほと激しい勢いで咳き込む。「あ〜うめえ!」
 少年、気付く。目の前にトレンチコートを羽織った妙齢の女性が立っている。
 蛍光灯に照らされている。髪を下ろした女性、にこっと笑う。女性、コートを開く。
女性「見てぇ〜!!」女性、全裸。
314マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:12:11 ID:HarAXDRN


      Look at ME!!

315マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:12:57 ID:???
 少年、呆然とする。煙草の煙が揺れる。
少年(……出た!! 痴女だ!! 冗談の中だけの存在かと思ってたけど まさかほんとにいるなんて)
 痴女、鼻歌交じりに踊り始める。コートをゆっくりと下ろす。痴女、少年に流し目。
少年(け けっこうかわいいじゃね〜か!! けど…… やっぱ不気味だぜ!! 無視しよう)
 少年、立ち上がってその場を去る。痴女、手を振る。「See you!!」
316マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:13:26 ID:???
朝 校舎

 キンコーンキンコーンと始業の鐘が鳴り響く。
 少年、制服を着崩した姿で登校する。少年、廊下を歩く。教室からざわざわと噂話が聞こえてくる。
 「おい! いよいよ次だぞ 例の新任の女教師の授業!」
 「やたっ 始業式で見ておれ 一発でファンになっちまったぜ」
 「確か……」
 少年、教室後ろ扉を開く。噂話がぴたりと止まる。「……」「……」少年の靴音がかつかつと響く。
 少年、窓際の席にどさっと腰を下ろす。周囲の噂話が再開する。
 「……確か大学出たてって言ってたから…22才くらいか?」
 「いいよな〜 ピチピチして!」
 「ファンクラブ作っちまおうか?」少年、あごに手を当てて窓の外を眺める。
 少年の前に座っている少女、振り返り少年に声をかける。

少女「今学期が始まってからもう三回目の遅刻です どういうつもりですか? 池田君」
池田「清水にゃ関係ねえだろ? ほっとけよ」
清水「ほっとけません学級委員長ですから それと……」清水、体の向きを前に戻す。
清水「その不良言葉… 板についていませんね もう少し練習しては?」
池田、目を点にして立ち上がる。
池田「るせ〜な! 大体おまえは」
 がらっと大きな音を立てて教室の扉が開く。ヒューッ、ピーピーと歓声や口笛が響く。
317マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:13:49 ID:???
 髪をまとめ、眼鏡をかけ、スーツを着用した女教師が黒板の前に立ち、自己紹介をする。
女教師「えーとえーと みなさん…… どうぞお静かに……」池田、きょとんとする。
女教師「えー… このたび一年間皆さんの英語Uを担当することになりました桜井和代です!」
 拍手が響く。口笛も再開され、よっいいぞっ!!と合いの手が入る。
桜井「よろしくお願いします!」桜井、口笛が響くなか笑顔で自己紹介を続ける。
桜井「えと 私まだ教師になりたてでとってもドキドキしてるんです!」
池田(…こいつ昨夜の…)
桜井「しかも最初に配属されたのがこんなに有名な進学校… ちょっとビビッちゃってます!」
池田(痴女!?)
清水「池田君は始業式を欠席しましたから知らないでしょうけど… 新任の先生です」
池田「あ ああ…」
清水「…何か?」
池田「いや…」池田、着席。

桜井「でもこうしてあこがれの教壇に立てたんです! がんばりますのでどうぞよろしく!」
池田(……まさかな… まさかあんな変質者が… 教師になれるはずなんか…)
桜井「じゃあまず出席をとりますので… 皆さんの顔を名前を覚えさせて下さいね?」は〜い。
桜井「秋山君!」「はい!」
桜井「安部君!」「はい」
桜井「飯島君!」「はいっ!」
桜井「池田君!」「はいっ!!」池田、目を吊り上げながら大声で。

2コマ分、時間が止まる。

桜井「えええ江崎君!」「はい」
桜井「奥山君!」「は〜い」桜井、声が震えている。それを見て池田、あっと立ち上がる。
池田(何だ何だよ今の反応は!?)
桜井「加藤君!」「はいっ」
池田(幽霊見たみてえな驚き方じゃねーか!!)
桜井「金田君!」「はい」
318マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:14:59 ID:???
桜井「…という風にここは…」キンコーンと終業の鐘が鳴る。「あら?」
桜井「え〜と では次回から教科書に入りますので… 予習をして来て下さいね?」
 桜井、ノートをそろえる。大声で「先生、質問!!」と声がかかる。
池田「『私は昨夜全裸で踊る変態女を見ました』って…どう訳すんですかっ!?」

 ざわっ・・・・

桜井「えええーと いい一部分からない単語がありますので」
桜井、顔を赤くしながら笑顔で答える。
桜井「次回までの先生の宿題にさせて下さいね!?」
 教室を出る桜井、大勢の生徒たちがついていく。ざわざわざわ。
 「先生あいつは相手にしない方がいいですよ!? ひねくれちゃってるから!」
 「最近成績が落ち込んでてあせってるんだよな!」
池田、机に手をついて立ち上がった姿勢のまま桜井を見る。
池田(──間違いない!! 昨夜のあの露出狂女だ!!)
 清水が池田をいぶかしげに見つめる。
池田(何が教育者だ!! 変態のくせしやがって!!)
319マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:15:28 ID:???
下校時間 校庭

池田(けっ! これだから教師なんて信用できね〜ぜ!!)
池田(次に会ったら絶対バケの皮をはがして…)
 右手から小さな声で「池田君 池田君」と呼ぶ声がする。池田、右を見る。
 校舎の隅、植え込みの木に隠れて桜井和代がしゃがみ込んでいる。眼鏡はつけていない。
桜井「お話があるんだけど…… ちょっといいかな?」人差し指を唇にあてている。
池田「……」

放課後 喫茶店前

桜井「え〜と 喫茶店って入っていいんだっけ?」桜井、生徒手帳を開く。
池田「校則で禁じられてるに決まってんだろ」
桜井「そっか! じ じゃあどこか二人きりになれるとこ…」
池田「そこの公園なら誰もいないぜ」親指で方向を示す。「たまに痴女が出るけどよ」
320マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:16:18 ID:???
放課後 公園

桜井、恥ずかしそうに周囲を見渡す。
池田、ベンチに座っている。桜井、その前に立っている。
池田「で……何だい話ってのはさ!」
池田、左を向く。立て看板。【ちかんに注意!!】
池田「そういや昨夜ここで痴女に出会っちまってよ… びっくりしたぜ!!」
 桜井、うつむく。
池田「上も下もスッポンポンだもんな! しっかり目に焼きついてるぜ!!」
 桜井、キッと前を見る。
桜井「わ…私だって池田君がタバコ吸ってるとこ見ちゃったんだからね」
 桜井、震えながら。
桜井「学校に報告したらどうなるかしら」
 池田、立ち上がる。
池田「おもしれえ! チクってみろよ!!」
桜井「本当に言っちゃうわよ!?」
池田「生徒の喫煙と教師の裸踊りと…どっちがダメージでかいか…」
 手を広げ同じ姿勢で対峙する二人。
池田「試してみようじゃね〜かっ!!!」
 睨みあう二人。やがて桜井の視線が降りる。「……」
桜井「はぁ〜〜〜っ」へなへなと地面に膝をつく。
池田「なっ なんだよ」
桜井「やっぱり… だめだったか… いつかはバレるんじゃないかと思ってたけど……」
 桜井、顔色が悪くなる。
桜井「まさかこんなに早くバレちゃうなんて…」
 桜井、ゆらっと立ち上がる。
桜井「やっぱり…私が教師を目指したこと自体間違ってたのかしら…」
 桜井、ぶつぶつとつぶやきながら、ふらーっと歩き始める。
池田「おいっ 大丈夫かよ」
 桜井、答えず公園を出る。
池田「…… なんなんだよ?」
321マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:17:06 ID:???
夜 池田宅

 スピーカーが大音量でギャンギャンジャカジャカと鳴り響く。
 池田、嫌そうな顔でコンパクトディスクのジャケットを手にとる。
池田「……うるせえ曲!」
 電話が鳴る。池田、リモコンを操作、音量を下げて電話をとる。
池田「もしもし?」
桜井「もしもし? 池田君? 桜井だけど……」
 池田、リモコンを操作、音量を元に戻す。
池田「何の用だよ?」ジャカジャカ
桜井「あのさ あたしまた切れちゃいそうなのよ!」ジャカジャカ
桜井「それでさこれ以上バレないように池田君に見張り役お願いしたいんだけど…」ジャカジャカ
池田「切れるって何が?」ジャカジャカ。池田。指で開いた方の耳を塞ぐ。
桜井「ごめんね こんなこと頼める立場じゃないんだけど あの公園にいると思うから…」ギャーン
桜井「あ もうもたないみたい… あ…切れる…」ジャカジャカ。声がしない。池田、受話器を見る。
池田「おいっ!? どうしたんだよ!? おいっ!? 返事しろよ!?」
 電話から謎の声が聞こえる。「………うふ」「うふ うふ」「うふふふ」
 「うふふ ふふふ ふふふ ふふふ」「うふふふふ」「ふ…」ぶつん。
 つーつーつー ギャーン ジャカジャカ
池田「知るかよ!!」ジャカジャカ
池田「……」ジャカジャカ


夜 清水宅

 ドッドッドッドッ。外から二輪車のピストン音が聞こえてくる。清水、勉強の手が止まる。
 ブオン ブオン。排気音が近づいてくる。清水、窓を向く。外を見下ろす。
 フォォォン。二輪車が清水家の前を通る。清水、それを見る。
 フォォォォォ・・・ 排気音は遠ざかっていく。
322マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:18:15 ID:???
夜 公園 満開の桜吹雪

桜井「私はセーラームーン!!」
 桜井は仁王立ちとなって宣言する。肩には小さなマント。足にはハイヒール。そして全裸。
 池田、何とも言えない表情。
池田「なんか… 昨夜と人格違ってね〜か?」
セーラームーン「うん!」自信満々の顔。
 池田を指差す。
セーラームーン「覚悟なさい ショッカーの怪人!!」
 池田、はあ?
池田「ショッカーは仮面ライダーの……」
セーラームーン「問答無用!!」
 桜井、池田に飛び掛る。視線の先に丁度桜井の腰あたりが入る。
池田「わ」
 桜井、池田を地面に押し倒し、しがみつく。
セーラームーン「昼間私をいじめたお返しよ!!」はははははっ、と笑う。
池田「はっ 放せ!!」「放せっ!!」
 桜井、池田の首筋にがぶりと噛み付く。
池田(何だよ何だよこの女は 何考えてんだか全然わかんね〜ぞ?)
 池田、立ち上がる。
池田(とりあえず逃げる!!)
 池田、走り出す。
セーラームーン「あっ またっ!!」
323マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:19:01 ID:???
夜 商店街 人通りにぎやか

 池田、息を切らして足をとめる。
池田(商店街まで逃げて来れば…)
 池田、振り向く。
桜井「まて〜〜っ!!」
 桜井、両手を翼のように広げ、マントをはためかせ、池田を追う。老若男女の通行人たち呆然。
池田「わ〜〜っ!!」
 池田、泣きそうな顔で叫び出し、桜井の口を塞ぎ、腰を抱えて、その場から走り去る。

夜 再び公園

 池田、息を切らせて地面にしゃがみ込む。桜井、池田の前で腰に両手を当てて立つ。
桜井「まいったか!」桜が舞う。
池田「……」やつれた表情。「まいった……」
 桜井、ニコリと笑う。
324マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:19:25 ID:???
 桜井、鼻歌を奏でながら踊る。マントは外している。
池田「……それ…病気なんか?」
桜井「うん!」
 桜井、笑顔で答える。
桜井「あたしね いやなことがいっぱいあると がまんできなくなっちゃうの!」
 桜井、踊り続ける。
桜井「でね 気が付くと裸で外で踊ってるのよ」手を揺らせる。「こうやって!」
 池田の前で桜井の胸が揺れる。
桜井「自分でもどうしようもないの! でもこれが気持ちいいんだ〜!」
 池田、赤面する。桜井、池田に近づく。池田、後に下がる。
桜井「だってね 裸になるとどんなことだって出来ちゃうのよ私!」
 桜井、子供の様な顔で。
桜井「ナイショだよ? これ!」
 桜井、両手を上げてポーズをとる。
桜井「それでね こうやって踊ってると……」
 桜の花が桜井を覆う。
桜井「だんだん気分がよくなってきて… だんだん心が落ちついてきて… 気がつくと……」
 桜井、くしゅん、とくしゃみをする。
桜井「……」
 桜井、胸を手で覆う。こそこそと木の陰に隠れる。
池田「?」
325マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:19:58 ID:???
 木の陰から桜井が顔を出す。ワンピースを着ている。
桜井「こうやって正気に戻ってるわけなのよ〜!!」
池田「……」
桜井「それで正気に戻るともう恥ずかしくって情けなくって」
 桜井、カゼはひいてるし、と小声で。
桜井「だから なるべくストレスためないようにしてるんだけど…」
 桜井の目尻から涙がこぼれる。
桜井「昨夜は始めての授業が不安で不安で…切れちゃって
   今夜は池田君に見られたことで落ち込んじゃって…」くしゅん。
 池田、無言。
桜井「ごめんね〜 池田君〜〜」
 桜井、手で涙を拭く。
桜井「でもね これにもいいとこはあるのよ! ストレスがふっとんじゃってふん切りがつくの」
 桜井、笑顔で続ける。
桜井「もう教師になる夢はあきらめた! はじめから私には無理だったのよね!」
池田「え?」
桜井「早いうちにバレてよかったのよ うん!」
 桜井の目から再び涙がこぼれる。
桜井「私なんてストリッパーあたりがお似合いなんだわ!」
池田「おい何もそこまで…」
桜井「でも問題もあるのよ! ストリップ自体は魅力的なんだけど…」
 桜井、悩む表情。
桜井「切れた時にしか踊れないんじゃ仕事にならないわよね…」
 桜井、あこがれの舞台…と小声でつぶやく。池田、コケる。
326マロン名無しさん:2005/11/16(水) 21:20:39 ID:???
池田「……言わね〜よ!」
桜井「はい?」
池田「病気なんだろ? だったらしょ〜うがねぇじゃね〜か!」
 桜井、両手を合わせる。
池田「黙っててやるよ! あんた一人を追い出したところで…」
 桜井、両目に涙を溢れさせる。
池田「かわりにまた別のくだらねえ教師が送られて来るだけだしな!」
 桜井、ぐしゅっと鼻を鳴らす。
桜井「ありがとう池田君!! 先生うれしいわ!!」
 桜井の感謝は続く。
桜井「はじめはとっても怖い子だと思ってたけど… 本当はやさしいのね!!」
池田(ちっ 甘いぜ俺も! 思わず情けをかけちまった! 教師なんかに!)
 桜井、目をうるうるとさせて喜んでいる。
池田(……よし!)

池田「ただし!! 条件がある!!」
 池田、ばん!と桜井を木に押し付ける。手は桜井の肩には当てず囲む形をとる。
池田「交換条件だ!!」
 桜井、ほへ? と。
池田「…一発やらせろ!!」
桜井「……はい?」


          一話 おわり