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――他人行儀なこと言うなよ、仲良く同じ高校通うんだぜ。
そう言って、よく自分を呼び捨てていた福永。でも進路指導のとき、そうではないことがわかった。
受験したのは下畑高校だけだったのに、父が学校に来て、勝手に黄華高校に推薦入学の手続をしていたのだ。
父の決定はいつも絶対で、反抗するなんて考えつきもしない頃だったから、そのまま黄華に進学した。
でもその頃から、何のために厳しい高校で勉強するのかわからなくなっていった。
勉強も規則も厳しい高校で、半端しているとすぐ目をつけられた。
そんな身勝手に振り回される苦しみを共有できるのが、福永という相手だった。
福永も、出来のいい兄や姉と比べられて、親に不当に扱われる境遇だったから。
――あーあ。それでもいずみと同じ学校だったら少しは楽しかったのになあ。
福永の言葉で、いずみは決意する。どんどん成績を悪くすれば、黄華学院にいられなくなり、同じ高校に行ける。
今思えば子供じみた手だが、自分の居場所をみつけたくて小さな反乱を繰り返したのだ……父に対して。
――期末テスト、白紙で提出したそうだな。おまえ、私を困らせるために生きてるのか。
――お父さんが、あたしの話聞いてくれないから――
バン。父の拳がいずみの顔に当たった。
――せめて、邪魔にならないように、じっとしていなさい。
大雨の中、失意のいずみは彷徨った。
それを探しに来てくれたのは、福永だけだった。橋の下で、身も心も凍える二人。
――風邪ひくね、ここだと。
――二人でどこかへ行こう。終業式の日にあの河原で待ち合わせて。
――福永くん……
――よせよな、そんな他人行儀な呼び方。だって俺たち……
ホテルのベッドの中で、福永は笑ったのだった。
だが、ホテルから出たときに……彼らは、補導員に見つかってしまった。
そして終業式の日。いくら待てども福永は現れず、ついに日が落ちた。やがて父が来て、言った。
――彼は来ないよ。
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3/3:2005/10/17(月) 00:54:53 ID:???
「ほんとうに、どうしてあんなことしたんだろうと思うんです。どうしてあんなこと」
告白をするうちに、いずみの瞳からぼろぼろと涙がこぼれていく。
先輩はなんと言うだろうか。後悔で胸が押しつぶされる。
夕日が山際に沈んでいく。
「そりゃあやっぱり……」と、不破はやがて、言った。
「好きだったからじゃないの?」
……そのときの、不破の笑顔が、眩しくて。
いずみは溜め込んでいた思いを、ぶちまけた。
「あたし本当は、言いたくて……言いたくて言いたくて、言いたくて……」
いいよいいよ、ちょっと妬けるけどね。
あの日いずみが町を出る約束をした河原。茜色に染まる空の下。
不破はいずみを抱き寄せた。
「東京に帰ろう。いずみちゃん……」