1 :
マロン名無しさん:
2じゃコラァー!!!!
地震!
慌てて飛び起きた不破雷蔵は、部屋のほうぼうに体をぶつけ、いくつもの家具を壊してしまった。震度1なのに被害はマグニチュード7並。
東京の地震が悪いのか、慣れない俺が悪いのか。…否! 不破は叫ぶ。
「部屋が悪いんだ!! 狭いんだ、いやだーっ!」
ということで、新居を探すことにした。
見つけた物件は、中央線沿線で9万円の2DK。風呂も綺麗でトイレも別。それに、だいいち広い!
「そうしますと、敷2.5礼2.5。手数料、前家賃とで、」
……63万。予想外の現実の厳しさに、こりゃ借金だな、と不破は呟くのだった。
不破の会社・ナミフクDMサービスは、これまた狭いビルの一室にある。
物件見回りで遅刻した不破に、口々に浴びせられる社員の言葉。
「一番近くに住んでてよくも毎日」「いっそのこと会社に寝泊まりすれば?」
入社して二年も経つのに新人いびりかと愚痴ると、「新人らしく出社を重ねてから言いなさい」とすかさずツッコミが入る。
仕事中も不破はいいかげんさを遺憾なく発揮。散らかりっぱなしの机、伝票の数字は0をそろえない。
それでまた他の社員に文句を言われ、心の狭い会社だと不破は肩をすくめる。
そんな時、歌いながら出勤してきたのは、ゴキゲンな中年女性。ナミフクDMサービスの社長である。
上機嫌の理由は、かねてから地上げのため立ち退き要請を受けていたナミフクの移転先が決定したから。
敷地面積も2倍なので、余裕のある在庫管理で経営の上向きも見込める。
社長の告知のハイテンションに乗じて、不破は賛辞を述べる。「せっかく広くなるんだから新入社員を入れよう」と社長も提案。
声高らかに二人は歌う。会社も広く! 住まいも広く! 心も広く!
息ぴったりの社長だが、さらに調子に乗って不破がボーナス前借りを頼んだところ、うまくかわされてしまった。
さすが社長、サイフのヒモは固い。
4 :
荒木様 ◆ebvkidYJm6 :2005/08/25(木) 00:00:58 ID:fTPwqAq4
3じゃコラー
仕方がない。
「別れた女のところに借金に来るなんて」
雷ちゃんらしいけどー、と頬杖をつくのは、今は亭主持ちの元彼女・兼森時子。
必ず返すから、と不破が借用書を書こうとすると、要らないと時子は言う。
「雷ちゃんが返すっていったら返すもん。雷ちゃんいいかげんだけど、ウソだけはつかなかったもんね」
金の目処がつき、ついに入居。敷地の広さに感動している不破を、またも地震が襲う。これはでかい。
こんな地震地帯のくせに、どーして住むには高いんだ。ぼやいて窓の外を見ると、何かおかしい。
向かいのビルと、前景の窓枠が直角でない。……今ので窓、傾いたかな?
まあいいか、広いんだから。とにかく今は、この広さへの感動に浸っておこう。
感動的なのは、その敷地の広さだけではない。偶然にも、不破の新居の向かいのビルこそが、ナミフクの移転先なのだ。
古巣を取り壊し荷物を移転先に運ぶ車中で「これで遅刻しないで済む」「いやどうせまたやる」と不破を囃し立てる社員たち。
拗ねる不破に、社長は「小さい小さい、不破ちゃん、広いんだからいーじゃない」と笑った。
そうこうしてるうちに、車はビル前に到着。
ここですよ俺んちは、と新居を指さす不破だが、しかし社員たちは、明後日の方向を向いている。
その視線の先には……
警察に閉鎖された、我らが新天地。
最近の群発地震と業者の手抜き工事のせいでナミフクの新ビルは、ピサの斜塔のごとく傾いてしまったのだ。
閉鎖となれば、とにかく一時、荷物を置かないといけない。どこか適当なスペースは――。
「本当に! 本当にしばらく置くだけですよ、社長!」
釘を刺したところでどうしようもなく、大量の機材一式が不破の新居に押し込まれていく。
不破は、それをただ茫然と眺めていることしかできなかった。
なんかよくわからんが需要はあるのか?
雷蔵はなんかさえない主人公だなw 東京って家賃高いなw
サンデー卒業してスピリッツを初めて買ってみた。
ちょうどよく新連載があったので読んでみたけど、少年漫画とはやっぱ違うな。
絵が淡白だな
こんなにビルが傾く状態ってありえるのか?あれだけ傾くと倒れそうなんだが。
それからあのグラサン女はグラサンをはずすと実は美人で、しかも主人公に気があると予想。
ヒロインはグラサンの社員?
ツンデレ系みたいだけどいまいち好きになれないな……
ヒロインにしては扱い軽すぎるよな。モブキャラその1って感じ。
社長のほうがよっぽど大ゴマで登場してる。
まさか熟女ヒロイン?
社長はさすがに結婚してる歳だろうし…不倫展開か?
お、新連載か。
この作者、昔、キャプテンで「危険がウォーキング」とか描いてた人だよね。
猫が寝込んだアナコンダ。
ヒロインは時子さんだろ?
しかし、普通別れた女に金借りるか?
これで、金返さなかったら最悪の主人公だな・・・。
花見沢Q太郎っていうのが、
りびんぐゲーム
と
気になるヨメさん
を
足した
「●REC」
というマンガを連載してるぞ。
見比べると面白いくらいにソックリだ。
同じ不倫展開なら時子の方がいいだろうけど、どっちにしろ泥沼で後味悪い。
そんな漫画になるとは思えん。
そもそも恋愛ものじゃないんだろ、きっと。
>>14 だよな。
作風が違いすぎてびっくりした。
スラップスティックな少年漫画を描く人だと思ってたのに…
神坂公平はまた出てくんのかな。ざまーみろのビーナス。
>>10 次回、アパートが倒壊したビルの下敷きになって、
さらなる不幸生活が始まります
20 :
1/2:2005/08/26(金) 00:00:49 ID:???
ROOM2 アパートの部屋 貸します
朝っぱらから、呼び鈴の音。
起きあがった不破は、物干し竿に頭をぶつけ、段ボール箱に足を滑らせて倒れる。
部屋中コケて回れただけ前の部屋の方が広かった、と不破は痛感する。
なおも鳴る呼び鈴にドアを開けると、大きなサングラスを身につけた女性。社員のひとり、難波だ。
自宅と会社が合体するなんてと溜息を漏らし、時計を見る。なんと、まだ8時前。定時まで1時間もある。
難波に文句をつけるが、難波は「あたしは毎朝早めに来て掃除してるの」と飄々。
逆に下着姿の不破の服装を注意され、自分ちでどんなカッコウしようと勝手だと怒る不破。
細かくて不破くんらしくもないと言われ、こんな狭くちゃセコくもなるわいと返す。
……社長が新しい場所を見つけるまでの辛抱だ。ネクタイを締めていたその時、掛かってきた電話に難波が出た。
「雷ちゃん? 失礼ですがどなた様で」 家の電話だ! あわてて受話器を奪い取る。
電話の主は、時子だった。今晩引っ越し祝いに来るという。
さて、定時。他の社員・一石と千里もやってきた。
何事もなかったように通常通り労働を始める彼らに文句もあるが、多勢に無勢。コピー機を動かそうとする不破。
……と、唐突にブレーカーが落ちた。
「プログラム消えちゃったじゃないのよ!」怒る難波だが、ただのアパートに会社1個分の電気容量があるわけもない。
口論している難波と不破を尻目に、一石は電話で納品の発注をかけていた。しかもグロスで。
「どこに在庫のスペースが残ってんだよ」と険しい目つきで突っかかる不破に「風呂場」と答える一石。
それをきっかけに不破・難波・一石入り交じって口論が始まり、収拾がつかなくなる。
さらに、そこに出社してきた社長も気分は最悪。当然だ、新しいビルなど一日で見つかるわけがない。
おまけに不動産屋とビルのオーナーと建設省入り乱れて責任転嫁のしあいで、保証金800万もいつ戻ってくるか分からないのだという。
……場を取り巻く、重い沈黙。
「いやだ」
ぽつりと不破が呟き、そして、キレた。
「なんで自分ちが会社なの?? なんで前より狭い思いせにゃならんのよ。
いやだいやだ。俺のプライベートはどこ行っちゃうの! みんな出てってくれ!
こ こ は 俺 の 部 屋 だ ―― っ !」
21 :
2/2:2005/08/26(金) 00:01:50 ID:???
夜。
やって来た時子に事情を話す。
社長は本当に困ってるし、本気でみんなを追い出すわけにはいかない。会社が機能しないと給料も貰えないし、そしたら時子に借金も返せなくなる。
引っ越しなんかするんじゃなかったと泣き言を言う不破に時子は、ここがなかったらそれこそ路頭に迷ってた、そうならなかっただけましじゃん、と微笑む。
「……て、いつもの雷ちゃんなら、そう考えたよ」
雷ちゃんまでカリカリしてちゃみんな辛くなる。ここ一番、雷ちゃんのアバウトさが救いだと思う。そう時子は慰めた。
さて、時刻はそろそろ11時。銭湯も閉まってしまうし、話は一旦お開きだ。
こんな時間まで家は大丈夫なのかと問う不破に、時子は亭主は出張で電話一本もかかってきやしないと、こともなげに言う。
そして立ち上がり、一瞬の間の後。
「いっそのこと、うちに来ない? お風呂入りにさ」
きょとんとする不破。
その肩を叩き「じょーだんよじょーだん、マジな顔しちゃってえ」
破顔一笑、時子は帰っていった。
タクシーを見送り、不破は夜の闇の中、すべての根源であるビルをそっと見上げた。
翌朝、難波からの電話に起こされる。
時計の針は7時半、早すぎる時刻だ。用件はといえば、ゴミ出しの要請。
「頼んだわよ」と一方的に電話を切られ、「やっぱりガマンできーん!」と癇癪を起こす。
とはいえ大量のゴミは誰かがなんとかしないといけない。諦めてゴミ袋を外まで運ぶが、見れば丁度収集車が行ってしまうところ。
ゴミ袋の山にどっと倒れ込み、いつまでもつかなあ、と呟く不破だった。
うーんやっぱり不倫展開になるのかなぁ?
まだ作品のコンセプトが読めないな。
自宅に会社が入ってくるなんて大変だなw
オレなら絶対にイヤだw
毎日朝に難波タンが掃除しに来てくれるんですよ。
夢の生活じゃん。
でも、なんかいいな時子さん。
人妻って重たい感じもしないし。
軽い感じの不倫話でもいいかな。
なかなかいい関係なのになんでこの二人は別れたんだろうな?
なんか深い事情がある……ようにも見えないけどなあ
作劇上、何かあるんだろうけど、想像つかない。
不能とか?
他人事じゃねえ……。
俺、以前、仲間たちと会社を興して(正確には、仲間の1人の親がもってた
会社の、一事業部という形にさせてもらって)、その仲間たちとでかい家
借りて、そこを会社兼住居にしてたことがあるんだ。
結局、その事業部は立ち行かなくて解散したんだけどな。
ちょっと面白くなってきたジャマイカ
うーん、俺はまだ様子見だなぁ
もうちょっと、こう、なんかインパクトあるといいんだけど
しかし災難続きだな不破君は
なんかいい目を見れればいいのにな
事務職なのに1日でゴミ溜まりすぎ
いい意味でのいい加減さが不破の強みだってことがわかったけど、
そのいい加減さで会社を建て直していく話になるのかな?
>>25 同意
時子さん妙にいいよな
こういう言い方は世の主婦に非常に失礼だが
人妻にありがちな「ケガレ」が殆ど感じられない
ただ彼女を見てると内臓に危機を感じるのはなぜだろう
怒らせたり下手に扱うと腹かっさばかれそうな悪寒がするというか・・・
なんか上手い表現できないんだが・・・
34 :
1/3:2005/08/27(土) 00:09:57 ID:???
ROOM3 机一つ分の幸せ
起き抜けの不破は、社長の言葉が信じられなかった。新人が来る、だって?
確かに前に話はしていた。けれど今の不破宅兼ナミフクには、もはや机一個分の余裕もない。
断ってくれと社長に頼むが、以前から面倒を頼まれている親友の子供だし、それにもう新幹線に乗っちゃったし……と手を合わせられる。
と、そのとき電話の音が。件の新入社員だ。上野駅にいるとのこと。
続けて掛かってきた電話に追われる社長にメモをもらい、不破が迎えにいくことに。
上野ジャイアントパンダ前
氷 山 一 角
「ヒヤマイッカク」……実直そうな名前だな、と車中で呟く。
まあいい、とにかくイビリ倒して追い出してやろう、広い住まいと広い心を取り戻すためにっ。ふっふっふっ。
上野駅にある、ジャイアントパンダ。その前に、大きな鞄を手に持ったおさげ髪の少女が立っていた。
そこに声を掛けるのは、堅物そうな背広のおっさん。補導員歴30年の彼は、少女が家出してきたのだと睨んだのだ。
逃げようとする少女の襟を掴み名前を問いただすおっさんに、ヒヤマイズミ、漢字では氷山の一角だ、と少女は述べた。
ふざけるなと怒るおっさんの背後から、
「ヒヤマ……さん? 新入社員の?」不破先輩、登場。
35 :
2/3:2005/08/27(土) 00:10:30 ID:???
助手席に座る一角(いずみ)。想像以上に小さい体躯だ。
「おれ、不破。よろしくな」「氷山です。あ、どっちもハ行ですね」
ほのぼのとした発想に、つい笑ってしまう。しかしすぐ我に返り、イビるなら最初が肝心、イナカ者だとバカにしてやろうと、故郷を訊ねる。
「はい、島根です」 ……島根って、なに県? 「島根県」
情報がなさすぎて、イビるにイビれない。けれどひとつ思い当たる。何で西の方から来て、東京駅でなく上野駅?
どうやら八重洲口が分からず駅の構内で迷い、山手線が本当に緑色なのか見にいったらホームで人混みに押され電車に乗ってしまい、
やっと下りた上野駅でも迷い、これは下手に動かない方がいいなと思って電話した、のだそうだ。
思わず苦笑してから、すっかりいずみのペースだと気づく。
いずみがそのとき、窓の外に興味を示した。高速道路の向こうにそびえる2対のビル。新宿の新都庁である。
しきりに感心するいずみに、ちょっと近くで見てく? と提案する。いずみは喜んで、それからしみじみと呟く。
「良かった、やさしい先輩で……」
じーん。響きは嬉しいが、しかしー……にやけながらも複雑な心境の不破だった。
都庁前広場。東京のシンボル、そびえ立つコンクリートジャングルを見て、「よーし、がんばるぞ!」と意気を新たにするいずみ。
不破はふと、思い出す。
新入社員としてナミフクに迎えられた日のこと。
狭いオフィスでも、仕事するのに広さは関係ないと社長に笑いかけた日のこと。
書類を前に、よーしがんばるぞと気合いを入れた日のこと。
すれちまってたんだな、俺……。若い気持ちを取り戻し、一本煙草を吸う。
しかし次の瞬間には「本で読みました。知事フロアは一千坪もあるって」といずみに聞かされ、思わず叫ぶのだった。東京都のバカヤロー!
36 :
3/3:2005/08/27(土) 00:11:03 ID:???
勿論ナミフクは、一千坪なんて夢のまた夢。
東京はどこも狭いって聞いてましたけど……と驚くいずみだが、一般的な住宅事情に当てはめられても困る。
新人見習として挨拶するいずみに、社長は社員たちを紹介する。
穏やかなメガネの中年男性は、「経理担当の千里さん」
いつもサングラスの謎めく女性は、「コンピュータとデザインを担当の難波さん」
髪を後ろに束ねた遊び人風の、「一石くん、営業その他」
「そして家主の遅刻ちゃん」オチに使用しないよーに、と不破は苦笑。
なお新人見習なのは、いずみは中学卒業したばかりだし、いきなり本採用というわけにはいかないから……と、そんななにげない社長の言葉に驚く面々。
中卒って……いくつ? 「15ですけど」 昭和よんじゅう…… 「生まれですか、昭和50年です」
大ショック。俺より10年も若い。そんな奴が社会に出てくるようになったのか!
しかし、36年生まれの一石、24年生まれの千里、生年不詳の難波にとっては、さらにショックなようだった。
不破は思う。たった15歳の子が、この大都会で働くのか……こりゃあ、追い出すわけにもいかないかあ――。
社長、いずみに仕事机を見せる。よくスペースがありましたねと言ってから、不破は気づく。ここにあったコピー機は? はっとして、ベッドを見る。
かつて不破の安眠の砦だった場所には、コピー機が鎮座していた。ベッドはその上の空間、二段ベッドの上段として移動させられていた。
俺はアメリカ海兵隊の訓練生か……やっぱり追い出そうかという思いが、不破の心をかすめていったのだった。
メインヒロイン登場なのかッ?! かわいいじゃねえか!
でも中卒って… 頭悪いのかなぁ。
社長→熟女
時子→不倫
いずみ→ロリコン
難波→影薄い
結局女日照りじゃねえか。
氷山一角ってなんちゅう名前だ、女の子によくこんな名前付けたな。親の顔が見てみたい。
あと顔がアップになるとアライグマっぽい。
新都庁、今年3月にできたばっかだもんな。
あの都庁、変形ロボットみたいじゃね? 一度行ってみたい。
ヒロイン?
年が・・・いくつはなれてんだよ?!
まさか、色恋沙汰になったりしないよな?
犯罪だぞ・・・。
まさかロリ方面に行くとは・・・こういう展開は全く予想してなかった
おそるべし!
何も知らなさそうなかっぺ娘・・いろんなことを教えたい(;´Д`)ハァハァ
地方在住なんだが、山手線って本当に緑なの?
ついでに、本当に車体が丸い形してんの?
第1話からこう引っ張ってくるとは予想外だった
新入社員といったら確かに若いんだろうが、ちょっと若すぎだろ!
15歳って……
>>37 中卒>その辺はずいぶん先に事情とか出てきますよ〜
>>39 こんな名前についてもずいぶん先に事情が・・・
事情が出てくる前に打ち切りになったりして…
このスロースターターっぷりから見ると、それもありうるな……
49 :
1/2:2005/08/28(日) 00:01:17 ID:???
ROOM4 西日のあたる部屋
やあ、ラッキーだなあ。不破は上機嫌だった。
今朝、あんな空中で寝られるかと抗議の意志をあらわにする不破に、社長はうな重を御馳走してくれた上に優しく笑い、今日は出社しなくてもいいわよと言ったのだ。
寝床と引き替えとはいえ、思わぬ休日ができた。そうだダイハード2を見にいこうとはしゃぐ不破の後ろには、ちょこんと立つ少女の姿。
……いずみである。
「不破先輩が部屋探しに付き合ってくれるって、おばさんからお金預かってきました」
だまされた。
不動産屋の窓に並ぶ張り紙で、物件を探すさなか、いずみがひとつ、質問。
「どうして会社に寝泊まりしてるんですか?」
壮大にずっこけてから、不破は事情を説明する。居候してるのは会社のほうなんだ。はっとして、それであんなに怒ってたんですか……と俯くいずみ。
苦言をぶつけたいのは山々だ。けれど不破はそれを飲み込み、彼女の頭に手を置いて、「悩むんなら部屋探しで悩みな」にっこりと笑った。
15歳? ひとりで住む? 未成年はちょっと。一応大家さんに了解とってみますが。
業者の目は冷たく、何件回っても物件は見つからない。
こーいうのを差別と偏見て言うんでしょうか。呟きながら、いずみは並み居る物件の但し書きを読む。
事務所使用不可、子供不可、ペット不可、水商売自由業の方不可、外国人の方不可、独身者不可。
「そうすると、独身者で子供がいて外国人で水商売の人はどこに住めばいいんでしょうね」
そんな奴はいねえって……と言いかけて、不破は思い直す。いや、ゴマンといるはずだ。どこかには住んでるんだろうけど、考えたことなかったな。
なんだか腹が立ってきた。不動産屋の回転看板を蹴り、くるくる回す不破。
……どきどき、「たーっ。」いずみも真似をするが、看板に足を巻き込まれて怪我をしてしまった。
50 :
2/2:2005/08/28(日) 00:02:08 ID:???
いずみの足の痛みがおさまるまで待つがてら、社長に中間報告。
社長は困り声で、さっきいずみの荷物が届いた、このままだと不破ちゃんが寝るところもなくなるから今日中に部屋を見つけてほしいと言う。
社長のところに住まわせればいいのにと返すが、社長宅には男の子が二人もいるから無理だそうだ。
もうすぐ日が暮れる。荷物が届いてると聞き「ごめんなさい」と俯くいずみには答えず、不破は「行こか」と促す。
実は、今の家を探してもらった不動産屋には、まだ顔を出していないのだ。ここんとこのゴタゴタでいきづらかったけど、そこならきっと部屋も見つかるだろう。
果たして、部屋はみつかった。
きれいな夕日の見える素敵な四畳半である。しかも寛大な大家さんなのでうるさくない。
……つまりは、西日のあたる立地で、大家もほったらかしにするボロ家だということだが。今どき玄関もトイレも共同で、しかもゴキブリも這い回っている。
やっぱりやめようと言う不破だが、いずみは笑って言った。
「決めました、ここにします」
いずみにアパートの掃除を任せ、荷物を運ぶために、社長の待機している自宅に戻る不破。
真剣な顔で、いずみのことを思う。
「俺があの子ぐらいの時は高校生でただのバカでした。あの子が働いて一人で暮らすのかと思うと、なんだか健気で痛々しくて……」
せいぜい面倒見てやってよ、不破先輩! 社長に励まされ、わかってますよと返した。
アパートに車を横付け、荷物を運び込むために階段を上る。その時、
「こらあ! でてこんかあい!! 期限はとおに過ぎとるぞー!!!」
ものすごい大音声が鳴り響いた。そっと不破が様子を覗き見ると、眉なしパンチパーマに黒服の男と、額に傷のある金髪の男が廊下に立っている。
しどろもどろで怯える不破は、202号の奴見かけたらここに知らせてんか、とパンチパーマに名刺を渡された。その所属には、●之組、と書いてある。
ぎょっとする不破。やっぱ、やばいんじゃないのかな、このアパート……。
>彼女の頭に手を置いて、「悩むんなら部屋探しで悩みな」にっこりと笑った。
おいおい、なんか不破らしくない先輩っぷりじゃないか?
俺も、こういうことできる後輩が欲しい・・・。
>……どきどき、「たーっ。」いずみも真似をするが、看板に足を巻き込まれて怪我をしてしまった。
個人的に今週のベストショット
なんてこった……
住宅難苦労漫画だったはずが、いつの間にかロリ萌え漫画になってる……
もちろん大歓迎だ。
たくましいな。オレならこんなにゴキがいるとこ無理だ。。。
>>52 いや、ロリマンガでもあるが同時に、かなり強烈な社会派マンガでもあるぞ。
「独身者で子供がいて外国人で水商売の人はどこに住めばいいんでしょうね」
とか、鋭い社会風刺だ。
りびんぐゲーム + 気になるヨメさん = 花見沢Q太郎「●REC」
氷山一角にそっくりの姿のお嬢さんが・・・
部屋見つからなかったら、不破と同居することになってたのか?
元カノの人妻から借金して、部屋借りて、その部屋で未成年の女の子と同居。
・・・これだけ聞くと最悪の男だな。
可愛い16歳と同居、しかも通勤距離ゼロ
これなら最悪とののしられてもかまうものか
15歳って言ってなかったっけ?
のぞきとかされ放題なんだろうか(;´Д`)ハァハァ
ROOM5 不破くんの不安
ヤクザな2人組を見送り、いずみの部屋・208に入る。と、そこには見知らぬ男が雑巾片手に座っていた。
「わたくし202号の堀井と申します」
作ったような笑顔に貧相な格好、やけに低姿勢な物腰。何してるのかと尋問する不破。
悪い奴に追われて困ってたら、いずみがかくまってくれた。せめてものお礼に、いずみがタワシを買い出しに行っている間、掃除をしてやっているとのこと。
「やさしい子ですなあ」と堀井。不破は堀井の胸ぐらを掴み、やさしい子だと思うなら巻き込むな、と部屋から追い出す。
帰ってきたいずみを、知らない人を部屋に入れちゃダメだよと諭した。
「とても困ってたし、悪い人には見えなかったので」
見かけで判断しない! というか見るからに怪しかっただろうに……15歳じゃ分からないもんだろうか。
荷物運びがてら、借金の取り立てにも涼しい顔だ、よっぽどいいかげんな人生を送ってるんだろうと説明するが、まだいずみはハテナ顔。
「どこいらへんでそれがわかるんですか?」「自分によく似た人間はよくわかる。昔っからよくいうでしょ」
と、悪びれもせず会話に割り込んだのは、当の堀井。飄々と身の上を話す。
落ち出すと早かった、住宅ローンに焦るあまり株に手を出し、おきまりの転落コース。
俺があんたみたいに落ちるってのか、二度と来るなと堀井を追い返す不破。
どこがあの男と同じなんだ、借金してろくなとこ住んでなくて……と特徴を列挙しているうちに、何も言えなくなった。
手伝いに来た社長とともに、なんとか内装を整える。
多少は部屋らしくなったけど、環境に問題がと眉をひそめる不破に社長は、
自分が東京で住んだ部屋は三畳間で、周りは革命に身を投じたインテリ、国籍不明の夜のお姉ちゃん、そしてアル中の大家だった、
問題は住んでる自分なのだ、と演説する。
それでも不破は、いずみが心配だ。風呂がないのでふたりで銭湯に出かけても、不安は増すばかり。
ぼうっとして、男湯の入り口まで入ってきそうになるいずみに心配。
男湯では、さっきのヤクザ者二人を見かけ、背中一面に広がる入れ墨を見て心配。
さらには、番台に「あんたの連れ、のぼせちゃって倒れてるよ」と声を掛けられ、心配。
いずみを背におぶせながら、家路につく。なんでのぼせたのと訊ねる。
人は見かけじゃわからないという不破の言葉を胸に留めて、お風呂屋を行き交う人々の顔を見ていたからだという。バカなのかリコウなのか。
それにしても、上京一日目はとんだ日になっちゃったね、と言うと、いずみは不破のシャツをきゅっと掴み、「そんなこと……ないです……」
そのとき不破は気づく。首筋にかかる吐息。背中に感じるやらわかさ。抱える太ももの量感。
体は、大人だった。精神と肉体のバランスが取れてないってことだ。肉体だけ大人で……ますます、心配だ。
その夜、不破は夢を見る。
堀井の友達やろ、じょうちゃん代わりに払ってんか、体で。ヤクザにおさげを掴まれ、ぐるぐる回されて放り投げられるいずみ。
アメリカのファミリーアニメみたいな滑稽な夢だが、笑い事じゃない。飛び起きて(天井に顔をぶつけて)社長に電話をかけ、休みを取ろうとする。
どの道いずみの買い物とか頼もうと思ってたとこだから、と許可を貰い、早速アパートへと飛んでいった。
廊下にはあの2人組は来ていない。少し安心して、208号室のドアを叩く。ドアを少し開くと男の背中が見えた。
堀井かと思い、「あんた、またっ……」と飛び入ると。
「兄ちゃん、どこぞで会ーたけ?」
いずみと座って、うさぎのマグカップで茶を飲んでいるのは、あの2人組だった。
いづみちゃんは天然なのか…? それとも世間知らずなだけなのかな?
いいなぁ・・・おんぶしてぇなぁ・・・。
結局、この漫画のアウトラインとしては、いずみの成長に振り回されるダメ男の喜劇って感じで固まった感があるな。
第何話あたりでセクースに至るか予想しようぜ
セックルは10話くらいと予想してみるテスト。
あんまり体が大人って感じには見えないんだけどな……
幼い顔立ちと性格のせいだな。
頭はいいみたいだな。人生経験は浅いけど、本や新聞をちゃんと読んでるタイプと見た。
そうすると何で高校行かずに就職したのか謎だけど。貧乏だったのか?
くあっっ!続きが気になる!!
つか25と15でセックルって犯罪ジャネーノ。
ポストに突き刺さるとこアメリカのアニメっぽくていいな
ああ……
ますます進む萌え漫画化……
大歓迎だよ、俺は。
73 :
1/2:2005/08/30(火) 00:02:42 ID:???
ROOM6 渡る世間にスキマ風
さわやかな朝。アパートの一室でほのぼのと茶をすする、少女と青年と、取り立て屋2人組。あああ、ほのぼのとしてるんじゃない。
さて、と立ち上がるパンチパーマにびびる不破。パンチはにっこり笑い、「じょうちゃんごちそうになったな。おかげで体があったまった」
まだ寒いからもう少しいたらと勧めるいずみだが、2人はやんわりと断り、東京は金がかかるさかい、がんばってえやと仕事に戻る。
紳士的にパンチがドアを閉め、そして次の瞬間、向こうで聞こえる「あほんだら出てこんかい」の大音響。
あれほど知らない人を入れるなと、と説教する不破。
いずみは説明する。朝ご飯の買い出しに行こうとしたところ202前にいた彼らに良い店を教えてもらったので、お礼にお茶でもと招き入れたのだ。
「一応今回は人柄にも接して判断したんですけど……」
間違ってはいないけど。苦笑しながら、不破は買い物にいこうといずみを誘う。
廊下でパンチにまた穴場の金物屋を教えてもらい、いい人ですよねといずみは力説。
でも仕事がと肩をすくめると、取り立て屋も立派な職業、社会構造的矛盾はない、と論理的に反論された。本当にバランスが取れてない。
「俺が心配してるのは、いずみちゃんの……」と言いかけたところでいずみに遮られる。もう10時を過ぎてる、会社に行かなくていいんですか!
許可貰ってあるからと言いかけて、不破は気づく。部屋の鍵閉めて来ちゃった。いずみを置いてあわてて戻ると、立ち往生していた社長に激怒された。
「いずみのことはてきとーにほっときなさいよ。いろんな体験して一人前になっていくんだから」
でも心配で、胃に穴が空いちまいますよと返すと、総ツッコミ。「穴あける神経があるなら寒空に待たされた他の社員も心配しろ!」
74 :
2/3:2005/08/30(火) 00:03:18 ID:???
一方、ぱんぱんに膨らんだ袋を両手に、買い物を続けるいずみ。
踏切が鳴り、急いで横断しようとするが、バーに頭をぶつけ倒れ、金物を地面にばらまいてしまう。
それを拾ってくれたのは、あのパンチ。「ムリな横断はあきまへんで」
買い物の続きにつきおうたると言うパンチに「いい人ですね」「あほぬかせ」
アパートでいずみを呼ぶ不破だが、まだ戻っていない。かわりにトイレから堀井の声。「申し訳ございませんが、紙が切れておりまして」
不破は、つんけんと嫌味をいいながらも、202の流しの下からトイレットペーパーを出してやる。そのとき初めて見た、202の内装。
床にはカーペット、本棚には本がいくつも並び、大型テレビにビデオまで。冷蔵庫も完備し、ラジカセすら整っている。借金してる割には、物持ちだ。
「なあに、住むところさえ贅沢しなきゃこれくらいは出来ますよ。何しろ住居費が一番食いますからな、東京は」
ぬけぬけと言う堀井の顔色が、次の瞬間、変わった。いずみのコタツを担いだパンチが帰ってきたのだ。
二人の行動は早かった。逃げる堀井、捕まえるパンチ。
「堀井さん、期限過ぎてますよ、200万」「残念ですが、ないものは払えません」
大型トラックが、アパート脇に留まっている。202号室には大勢のヤクザ者たちが立ち入り、床下から天井裏までくまなく物色。そして、最後には服まではぎ取る。
あまりの情け容赦のなさに、いずみは堪えきれず口を出す。だが返ってきたのは、冷たい裏の世界の表情。
あたしにはあんな親切だったのに。狼狽するいずみに「じょーちゃんかて取り立てるときは同じ目にあうで。世の中そういうもんや」
そう言って、取り立て屋たちは去っていった。
75 :
3/3:2005/08/30(火) 00:04:35 ID:???
何も残っていない部屋、パンツ一丁で膝をつく堀井。
自分のコタツを貸してあげようとするいずみに、しかし堀井は「甘い甘い」と言い、廊下へと出て行く。
向かう先はいずみの部屋、その流しの裏。
「あいつらも甘いですけどね」と不敵に笑い、取り出したのは封筒に入った万札の束だった。
不破は仰天して、俺やっぱりあんたと同じにはなんない、と言う。
「そんなに逆境に強かないもん」「でしょうかね、私は根っからのグータラ人間のようだから」
また実家に転がり込みますか、と去っていく堀井を見送り、いずみは肩を落とす。
不破先輩のいったとおり、あたし間違ってたんでしょうか。
そんないずみに不破は、俺はただいずみちゃんが傷つきゃしないか心配だったんだと笑いかける。
もう少し、ここでがんばってみよう。気を取り直す二人……だが、そんなとき、ドーンと大きな音が響いた。
何事だ。外を見ると、壁に突き刺さっているのは――ショベルカーのショベル。
「なんね、まだ人がおったと? あぶなかよ。このアパート取り壊すとばい」
えーーーー!?
取立て屋さん容赦ねぇぇ! 借金は怖いね…
うわーこういう展開か
せっかく住むとこ見つかったのに大変だなー
まだ住んでるのに取り壊しって、ムチャクチャや。
いきなり取り壊しは無理なくないか?
今までリアル路線だったのが、ちょっと崩れたか?
堀井ツヨス
見切った! いずみちゃんは不幸属性キャラだ。
高校にいけず、就職先の会社は傾く、挙句に住まいが取り壊される…
これからはどんな不幸が起こるのか。
>>79 リアルというのとも微妙に違うような……
コメディ的なリアルさというか……
83 :
1/2:2005/08/31(水) 00:01:43 ID:???
ROOM7 扉を開けて
そもそも、不動産屋の手違いだったのだ。
アパートは地上げされていた。一応堀井が住んでいたけれど、家賃不払いのため、住人がいないと見なされ、取り壊しが決まっていた。
事情を不動産屋に確認し、社長に報告する不破。ひどい話ね、とにかくいずみを連れて戻ってきなさいと社長。
しかし当のいずみは――籠城していた。
208号室。
「おいさん困るとよ」「あたしだって困るんです」扉を挟んで、工事屋といずみの口論が続く。
「法的には借家人の方が強いんです、大家さんと話し合います」と一点張りで立てこもるいずみの気持ちも、社長や不破にはよくわかる。
せっかく頑張ろうと思っていたところで、いきなり出て行けで納得できる話ではない。
けれど、と社長は説明する。大家は現在海外にいて連絡が取れなかった。まだ契約はできておらず、いずみは法律上、借家人にはなっていないのだ。
しかしいずみは意地を張って出てこない。扉を壊そうとする工事屋をなだめ、社長はさらに粘る。
一時休戦。不破と作戦会議を開く社長。
いずみが心配?と問われ、そりゃあ、と正直に答える不破。すると社長は、なら籠城と不破くんの心配を一気に解決する提案があると言う。
「一緒に住むのよ、いずみと! 不破ちゃんのあの部屋で」
呆れる不破。スペースもないし、だいいち女の子だ。何か間違いでも起きたら――と抗議する。
しかし社長は、東京都には青少年保護条例があって、18歳未満と性行為に及んだらいんこうとやらで罰せられるから大丈夫、などと適当に強弁。
もちろん不破は納得するはずもなく、「とにかく住めませんよ、いずみちゃんとなんか」ときっぱり。
といっても、一番丸く収まるのはこの方法だ。夜。不破は208の扉の前に立ち、いずみに話し掛けた。
「……もし、いやだったらいいんだけど……あの部屋で、俺と一緒に……すっ、住みませんか?」
実はいずみ、さっきのやりとりを聞いていた。住めませんよ、いずみちゃんとなんか。不破の言葉が胸に刺さり、いずみは拒絶する。
先輩に迷惑はかけられない。ムリですよ。……田舎には帰りたくない。いろいろあった田舎には、帰りたくない。
「居場所が、ここしかないんです」
84 :
2/2:2005/08/31(水) 00:02:59 ID:???
思い出す、あの日のこと。
「ここはあたしの居場所じゃないような気がする」
二人で住んだ部屋。流れる日常の中、ぽろりとこぼれた本音。
「捜すの、雷ちゃんとは違う、あたしの場所……」「場所って?」「仕事かもしれない、結婚かもしれない……」
「俺――時子となら結婚してもいいぜ」
いいかげんな言葉だった。
「ごめんな、」「あやまんないでよ。――雷ちゃんが、あやまんないでよ」
時子の涙を見た、あの日。本当はもうやりなおせないと悟っていた、あの日のこと。
「……いずみちゃん」不破は言葉を紡ぐ。
「一緒に住もうよ。いいかげんで言ってるんじゃないぜ……
このまま田舎に返すわけにはいかないよ、楽しいことなにもなかったまんま……」
バチッ。
電気が消えた。工事屋が主電源を切ったのだ。アパートが闇に包まれる。
いずみは、ゆっくりと立ち上がり、窓際から扉へと歩いていく。
「でも先輩、迷惑じゃ……」「迷惑なんかじゃないよ、いずみちゃんが嫌がるかなって」「そんなことないです」
「だったらさ……けっこう楽しいと思うぜ。とりあえずってことでさ、どうだろ?」
しばらくして、天の岩戸が開いた。いずみは顔を真っ赤にして、頭を下げた。「よろしくお願いします!」
電気が灯り、工事屋と交渉していた社長が来た。取り壊しは明日にしてもらったという。
一段落ということで銭湯へ行き、湯上がり。
濡れた黒髪に、不破は認識する。かわいいなあ、この子……それに体は大人だ。一緒に住むとなると、変に意識してしまう。
不破のアパートまでたどり着くと、玄関前に一人の女性が。
「時子!?」
こんな時間に不良主婦が、と怒る不破に、時子はにっこり、
「あ、ご心配なく、家出してきましたから」
こう来たか!
雷蔵が時子さんといずみちゃんの間で揺れ動くラブコメで決定だなw
時子さんとの別れもちゃんと意味があった深いものだったんだな。
それでも今現在、いい関係なのは二人が大人だからか、いい加減だからなのか。
>>59元カノの人妻から借金して、部屋借りて、その部屋で未成年の女の子と同居。
に加えてさらに、その人妻も同居。会社も「同居」。
とりあえず、不破の人生、俺より楽しそうだ・・・。
ちょっと待て、時子破局なのか!? 旦那はまったく出てきてないし。
このまま離婚して、いずみと張り合うようになったりするのか……?
作者、ギャルゲー化を狙ってる?
初期の色気のなさからは想像もつかない展開になってきたな
田舎で何があったってんだ?
ただ高校に行けずに出てきたってだけじゃないよな。
いじめにあってたとか?
実は前科者だったりして。
時子ころしてえ・・('A`)
93 :
1/2:2005/09/01(木) 00:25:50 ID:???
ROOM8 一夜の想い出
「亭主? あーんな奴リコンよリコン。とにかくしばらくやっかいになるよ、雷ちゃん!」
時子はどうやら酒を飲んでいるようだ。ふらふらなので、不破に抱えられて部屋に上がり込んでいく。そして、いずみに注目。
「この子なに?」「肌のツヤいいわねえ」「えっ、一緒に住むの?」
酔っているせいか、時子の話はあちこちに飛んでいる。ツッコミを続ける不破との掛け合いは、まるで夫婦漫才だ。
いきなり現れたこの女に、いずみはむかむかが止まらない。
「心配無用よ、単なるお友達」と時子は言い、不破も「ただの酔っぱらいだから、明日になれば帰るよ」といずみをなだめる。
しかし時子は、「帰んないわよ」と言い放ち、愚痴を叫ぶ。
亭主ったら、忙しいのは初めのうちだと言いながら、結婚して半年経っても、週の半分は仕事で家にも帰らない。
ひとしきり愚痴り終えると、今度は「寝る」と服を脱ぎ出した。どこで寝ればいいと言われ、不破は自分のベッドを提供した。
自分はそのへんに寝る。いずみは時子と一緒にベッドで寝る。そういうわけで、俺出てるから着替えてよ、と不破はベランダに退いた。
考えてみりゃ、人妻に未成年……俺が大人にならなきゃな、と誓う。
女性陣の着替えが終わった。さりげなくいずみのパジャマの柄を褒めるのは大人の余裕。時子の過激な下着姿を軽く流すのも、大人の余裕。
押入から寝袋を引きずり出す。そしてしまっていたクッションを、いずみの枕に。
「雷ちゃんは昔バイク少年だったのよ」「わあ懐かしい、あたしが縫ったのよ、これ」
いずみにとってはいちいち、昔の女のコメントが癪に障る。
皆が寝静まった後、時子お手製のクッションをふすふすと踏んでみたり、密かにストレス発散するいずみであった。
94 :
2/2:2005/09/01(木) 00:26:34 ID:???
翌朝、慌てて家を飛び出す不破といずみ。
時子の抱きつき癖のせいでいずみが変な声を出し、不破もそのせいで寝付けないまま朝方まで過ごしていたので、寝坊。
しかも今日は日曜日。誰かが出社してくるのを当てにしてしまったのも間違いだった。
遅刻だ! アパートの取り壊しが始まっちまう!
ようやくアパートにたどり着いた時には、もう取り壊しはかなり進んでいた。
部屋の荷物は勝手に庭の隅に運ばれていたが、遅刻したんじゃ文句も言えない。
ショベルカーは、梁を、壁を、柱を、容赦なく壊していく。ベキベキ、メリメリと音が響く。
親切なヤクザと話した廊下も、堀井の部屋も、立てこもった自室も、すべてが木とコンクリートと鉄の塊に変わっていく。
いずみは思わず、走り出した。粉塵にむせながらも瓦礫の山を見回し、そしてあるものを見つける。
208号、と書かれた薄い木のプレート。いずみがここで過ごした2日間の想い出が、このプレートに詰まっている。
いずみはそれを拾い、大事に抱え込んだ。
「いろいろあったもんな」
いつの間にか後ろにいた不破が、声を掛ける。
「きっとこれからもいろいろだよ。がんばろう――俺んちでさ」
はい……と答える。
アパートの取り壊しは、なおも続く。二人はいつまでも、それを見守っていた。
なんか本格的にラブコメになってきななぁ。
ヤキモチやくいずみちゃん萌え〜
雷蔵と時子はかなり深い関係だったみたいだね。
それだけに、どういう経緯で別れたのか気になる。
案外つまらないことで別れた予感。
俺は時子さん派です。・・・少数派か?
まじでカワイイなぁいずみちゃん・・・
嫉妬でやきいも握りつぶすいずみちゃんに萌え。
「先輩とはいったいどどど、どういうごかか」って噛みまくるいずみちゃんに萌え。
時子に脱がされてブラチラのいずみちゃんに萌え。
だぼだぼパジャマのいずみちゃんに萌え。
クッションをふすふす踏むいずみちゃんに萌え。
そのクッションを我に返って直すいずみちゃんに萌え。
時子に抱きつかれて困惑してるいずみちゃんに萌え。
壊されるアパートに泣きそうになるいずみちゃんに萌え。
最後にもう一丁、いずみちゃんに萌え。
リコンの時子 vs ロリコンのいずみ
>>100 韻をふむためであることはわかるが、
「ロリコンのいずみ」だと、いずみ自身が
ロリコンみたいじゃないか。
難波さんが好きなオレはさらに少数派の予感。
最初は一番立場的にヒロインらしかったのに、もはや姿も出てこなくなったな……難波
なんか、第一部完!みたいな終わり方だね。プロローグが終わったって感じか。
来週からは新展開かな?
105 :
1/2:2005/09/02(金) 00:59:22 ID:???
ROOM9 他人の関係
不破のアパートに戻ってきた二人。壊されたアパートは想い出として、ここからが二人での本当のスタートだ。
時子はどうせ今頃は気が晴れて亭主のために晩御飯の仕度でもしてるよ、と言いながら不破がドアを開けると、なんと晩御飯の仕度中の時子が。
「本当に居座る気か!? お前を世話するスペースなんてねえぞ」怒鳴る不破だが、時子は楽しそうに笑う。
よく見れば、部屋がやたらと片付いている。出入り口の上の空間の無駄をベッドのために使うなど、時子の卓越した収納術のおかげである。
しかし不破にとって、感心するより先に気に掛かるのは、レースのカーテン、チェックのテーブルクロスやひよこデザインのドアノブカバー、
さらには、かわいいものづくしで彩られたトイレ。いずみにはちょっと好評のようだが……こんな極端な少女趣味、時子にあったか?
そう訊ねる不破に、時子は冷たい目で答えた。
「毎日毎日亭主の帰りだけを待ってて、日々のストレスがつのればこれくらいには歪むわよ」
一気に落ち込みモードに入る時子だが、すぐに気を取り直して晩御飯の仕度に戻る。
あの切り替えの早さは変わんねえな、と安心する不破だった。
一方いずみは、お世話になるんだからと料理を手伝おうとする。実はいずみ、料理初体験。じゃがいもの皮むきをすれば指から血を流し、フライパンを使えば炎上させる。
とはいえ飲み込みは早いので、すぐうまくなる。
時子は「やればできるのに、よっぽど大事に育てられてたのね、ご両親に」といずみを評価した。
106 :
2/2:2005/09/02(金) 00:59:56 ID:???
そこに電話がかかってきた。デパートから、奥様ご注文のウォッシュレットの在庫があったので取りに来てくれという用件である。
誰が奥様だ、おおげさな買い物しやがって、本当に居着く気だなと不破。お金は時子負担だから、まあいいのだが。
料理で手の放せない時子の代わりに、不破がウォッシュレットを取りに行くことにした。
「あなたー、早く帰ってきてねー」
そんな冗談を言いながら車を見送る時子。彼女が振り返ると、いずみが真剣な面持ちで立っていた。
いずみはどもりながらも訊ねる。先輩とはどんな関係なのか。過去を含めて、知りたい。
時子は窓の外に目をやり、ゆっくりと語りはじめた。
昔、ちょっと深い仲だった。でも二人ともガキで、いいかげんでこらえ性なくて、なんとなく付き合って別れて。
でも時子の結婚を機に、また会ってお互いの相手のことを相談するようになった。
「くされ縁てやつかな? ――満足した?」
いずみは、じっと時子を見据え、それから口を開いた。「今でも……不破先輩のこと、好きなんですか」
二人の間に、沈黙が流れた。
時子が何かを言いかけたそのとき、電話が鳴り出した。どうしようと思いながらも、時子は受話器を取る。電話の主は、大家だった。
「うわさは本当だったみたいだねえ」と何かを納得し、家主がすぐ戻るならこれからそちらに伺うと言って電話を切る大家。
部屋がこんなだってこと、大家には言ってないんでしょ? やばいよー。時子がうろたえていると、早速ドアのチャイムが鳴った。大家か、それとも不破か。
雷ちゃんだったらすぐ入ってくるわよ、出てよ、といずみを玄関に押しやる時子。
来訪者は、大家でも不破でもなかった。
「こちら、不破雷蔵さんのお宅?」「先輩ならでかけてていませんよ」「そうですか」
出かけているなら中で待たせてもらってもいいかと訊く訪問者の声に、時子は聞き覚えがあった。台所に隠れる時子。
玄関ではその訪問者――風格のあるスーツに身を包んだ、長身の中年男性が、いずみに自己紹介をしていた。
「兼森と申します。時子の夫の……」
時子の夫キター!
修羅場クルー!!
とりあえず、うろたえている時子さん萌え。
・・・ってゆーか旦那いくつだ?!
40はいってるよなぁ・・・。
年の差、10くらい?
>「毎日毎日亭主の帰りだけを待ってて、日々のストレスがつのればこれくらいには歪むわよ」
なんか、背筋がぞっとしたよ。
旦那、一筋縄じゃいかない男っぽいな……
時子と別れた顛末は、もしかしてこれで終了か!?
マジで何もなかったのか・・・
時子と旦那のなれそめが気になる。お見合いか?
時子が不破と同い年くらいだとしたら25あたり。
旦那が40と見積もっても、15歳差……
読めた。この二人の復縁で、歳の差は問題ないってことで不破といずみが結ばれると。
この作者って高橋留美子先生のお弟子さんですか?
旦那は良くある堅物系の予感・・・
でもギャグマンガだからなあ。シリアスな展開より留美子的な展開がいいなあ
114 :
1/2:2005/09/03(土) 01:46:01 ID:???
ROOM10 旦那様はお忙し
えー!? お父さんの間違いじゃと思うほどのおじさんだけど、こういうのをナイスミドルっていうんだわ。
予想もしない時子の旦那のルックスに、いずみはどきどきだ。
「時子はこちらにお邪魔してますか?」「えーと……」ドアをふさぐように立ち、いずみはしばし思案する。
旦那を中に通せば、彼は時子を連れていってくれる。これで先輩と二人っきりっ。
「時子いますでしょ、中で待たせていただいてもよろしいかな」
お願いというには強い口調で、旦那はもう一度、いずみにそう言った。
いずみは逡巡してから、答えた。「知らない人を部屋に入れちゃいけないって言われてるんです。先輩が帰るまでは中には入れません」
「じゃあ時子に会わせ……」「いません! いません! いません!! ここにはいないんです!」
きっ、と旦那を見るいずみ。根負けしたのか、旦那は言った。「ではここで待たせていただきます」
ドアを閉めると、時子がいずみにすがりついて、ひたすら感謝してきた。
外で待ってるけどどうするのかと言ういずみに、時子は返した。「忙しいから、すぐ仕事が入って帰っちゃうわよ」
115 :
2/2:2005/09/03(土) 01:47:06 ID:???
旦那は、駐車場で待機していた秘書の駒田に、予定変更を伝える。用地の視察を夜にずらし、そこに入っていた定例夕食会はキャンセル。
しかし駒田に「視察は陽が落ちてからでは暗くてできなくなりますよ」と指摘され、とたんに情けなくうろたえた。
時子曰く、見かけだけの所詮三枚目。それが兼森という男なのだ。
……悠長に時間を潰してはいられない。旦那は再度「いるんだろ? 話し合おうじゃないか」とドアを叩くが、時子は答えない。
旦那は仕方なく、駒田に命じる。夜間照明車のレンタル業者を調べてくれ、照明車があれば用地視察ができる。
それを聞いて、時子は呆れかえった。物があればなんでも解決すると思ってる。
さらにヘリコプターまで呼ぼうとする旦那に、時子の我慢の尾が切れる!
玄関から飛び出した時子は、矢継ぎ早に叫んだ。
「いいかげんにしてよ! なんでもかんでも人任せ金任せ物任せ! あなたといると自分の居場所がわかんなくなるのよ!
住むとこと食い物だけあげとけば満足するとでも思ってるの!? あたしは飼い猫じゃないんですからね。
あたしが欲しいのは時間や場所じゃないの! わかんないわけないでしょ、その歳で! なんとか言いなさいよ!」
時子の猛攻に、旦那はおろおろして何も言えない。とにかく帰らないと突っぱねる時子に、必死で愛を訴え、説得を試みようとする――が。
その時、段ボール箱をかかえて階段を上ってくる男がいた。不破である。
「雷ちゃん!」「先輩!」 ……ん? と不破が思った瞬間、
「おまえが、おまえが不破雷蔵かーーっ! 時子を返せっ!」
ものすごい形相で、旦那が不破の胸ぐらを掴んだ。
雷ちゃんは関係ないでしょ! 慌てて制止する時子。しかし旦那は「本当に、関係ないのか?」
目を見開く時子に、旦那は言った。
「答えなさい、時子! 今でもこの男が好きなのか!」
長い沈黙が、あった。
そして時子は、きっぱりと答えた。「好きよ」――旦那をきつと見据えながら。
「今でも、雷ちゃんのことが好き!」
こっから修羅場展開か?
時子のだんなも極端な人だなw
秘書みたいな人も苦労してそうだ。
ありがちといえばありがちだが、好きな展開だな。
旦那、ただの頑固者じゃなくて、ちょっとズレた面があるのがかわいい。
ヘリコプターを呼ぶと、ものすごく高くつくぞ。
121 :
1/2:2005/09/04(日) 00:27:41 ID:???
ROOM11 別れても好きな人
やはり……不破雷蔵のことが好きだったのか。
「ほんとうに、ほんとうにそうなのか? 時子!」
悄然と詰問する旦那に対し、時子は腕を腰にやり、胸を張って答えた。
「 う そ 。」
ずっこける旦那と、開き直る時子。
「なによ、そんなにあたしが信用できなかったわけ?」「家出しておいてその言いぐさは、な、なんだ」「元の原因は万夫さんにあるでしょ!」
痴話げんかを始める。犬も食わないタチの喧嘩である。
不破はといえば、伊達に年月を重ねてはいない。「最初からそうだろうとは思ったよ」さすが、と時子も笑う。
そんなツーカーの二人を見て、納得できないのは旦那といずみ。
旦那は、過去のことに拘るほど心が狭くはない。だが、見た感じ君らは――「すっごく仲良しって感じがします」いずみの言葉に頷く旦那。
色々あって別れた男女が、どうして空気のように仲良くしていられるのか。
「なに、こいつはすねてるだけだから、早く連れ帰ってくれ」と笑う不破に、「おまえに言われたくないわ、不破雷蔵!」旦那は激怒である。
そこでいずみが、提案。「いっそのこと、決闘でもやってみてはどうでしょうか」
渡り鳥シリーズじゃないんだしと不破と時子には苦笑されるが、「よろしい、受けて立とう!」旦那は、大まじめに乗り気だった。
122 :
2/2:2005/09/04(日) 00:28:25 ID:???
駒田に命じて、土俵を作らせる。「私が勝ったら時子を返してもらう!」
あれで本当に会社の社長なのかと呆れるいずみ。どうして時子があの旦那と結婚したのかわかったと言う不破。
そう――要は、お似合いなのだ。この幸せもん。
時子は、旦那にふと、素朴な疑問をぶつける。「もし雷ちゃんが勝ったらどうするの?」
……考えてなかった。
気が済むまでここで暮らすわよ、いいの? と時子にいじめられ、旦那は滝のように汗を流しながら「よし、約束しよう」と墓穴を掘る。
まあとりあえず俺が負ければ丸く収まる、と考えていた不破は、時子に「八百長なんかしたら一生居ついてやるわよ」と脅され、ぎくり。
こうして、くだらない三番勝負が始まった。
しかしわざわざ相撲で勝負しようというくらいだ――このおっさん、かなり自信ありと見る不破。
両者はにらみ合い、そして一番目開始! 組み合った。白熱する勝負! 一瞬後には旦那の体が宙に舞う!!
……旦那は、やたら弱かった。
二番目。このままでは不破が勝ってしまう。頑張ってもらわないと困る。
不破は一計を案じた。耳元でささやく。「大きな口たたいた割にはたいしたことねえな、おっさん!」
想像以上にやすやすと挑発に乗る旦那に、不破は会社の将来を心配してしまうが、これで気合は入った。少し粘ってから、わざと自分から倒れる。
八百長だが、どうやら誰にもばれていないようだ。引き続き「年寄りの冷や水」と挑発を続け、三番目に備える。
が、そこに待ったがかかった。「今の取り組み、無効だよ、無効!」
唐突に現れたのは、額にほくろのあるおばさん。「あたしゃ大家の石橋だよ」
そして不破の名前を確認し、納得したように睨み付けた。
「やっぱりあんたかい。うわさは本当だったみたいだねえ」
駒田さん万能すぎw 何気に大家さん出現はヤバクないかな?
会社が引っ越してるなんて知らないだろうし…
大家キター!
話がさらにややこしいことになるー!!
さぁ盛り上がって参りましたwww
> 「 う そ 。」
前回あの引きでひっぱっときながら、そりゃねえよ時子さん!
なんだかんだ言って、時子と旦那はいい夫婦みたいだな。
大家さんが家の大家に似てる・・・orz
うわさって何だ?
事務所やってるってこと?
129 :
1/2:2005/09/05(月) 00:06:53 ID:???
ROOM12 疑惑の住人
大家・石橋が来たのは、妙な噂が立っているので部屋を調べてくれと他の住人から連絡があったからだという。
妙な噂とは――いろんな人間が出入りしていて気味悪い、その上毎晩女をとっかえひっかえ、風紀的によろしくない、というのだ。
確かに、社長、難波、時子にいずみ……とっかえひっかえに見えなくもない。
ただの噂ですよと不破は笑い飛ばすが、石橋は「どうだかね、なにしろ八百長するような男だから」と取り合わず、部屋に入り込む。
部屋の中には、住居とはとても思えない設備類。さらに隣は、さきほどの時子の模様替えのせいで、まるで女の子の部屋。
すべてを見て、石橋の審判が下る。
「問答無用、これで決まったね。あんたみたいな分別のない女ったらしの八百長男は、即刻出てっとくれ!」
抗議する不破を、八百長男に貸す耳は持っちゃいないよと一蹴する石橋。時子といずみは不満の声を上げた。
「あんたら不破さんの女かい?」
石橋に睨まれ、時子は自分はこの人の妻だと旦那にひっついた。だがいずみは答えに詰まり、不破と一緒に住んでいることを見破られた。
手詰まりかと思ったが、そこに不動産業の社長・プロとして旦那が口を挟む。
契約書(秘書の駒田に家捜しさせた。行司から物色まで、優秀な秘書である)を見たが、事務所使用不可とは記載されていない。従って勧告は無効だ。
なら事務所については善処しようと譲歩する石橋。だが結婚もしてない男女が一緒に住むなんて不埒な真似はさせられないよ、と依然強硬。
兼森はそれならばと不破たちに向き直り、「そういうわけだから、君たち結婚しなさい」
ずっこける不破といずみ。時子は「いずみちゃんは15歳だから法的に結婚はムリなのよ」……そういう問題じゃない。
石橋ももちろん納得しない。不破は25歳、10も離れてたら、結婚なんてとんでもない。あたしの亭主は2つ違い、それくらいがちょうどいい。
そう言う石橋を、何故かじっと見つめる旦那。
「とにかく! 考えを改めるか、即刻出て行くか! わかったね、不破さん!」
そう引導を渡し、石橋はドアを荒っぽく閉め去っていった。
130 :
2/2:2005/09/05(月) 00:07:49 ID:???
恐れていたことが……。膝をつく不破に、旦那が「諦めてはいけない! 話せばわかってくれるさ」と励ましの言葉をかけた。
突然の態度急変に戸惑いをあらわにする時子。どうしたのと旦那に尋ねる。
旦那は「彼も病んだ東京の土地行政の犠牲者かと思うと、哀れでね」と釈明するが、どうも何か隠している気配だ。
一方いずみは、石橋を追いかけ、「待ってください」と声を掛けた。
「もしも……もしあたしが部屋を出て行ったら、不破先輩のこと許してくれますか?」
それでいいのかと問われ、感情をこらえて小さく頷く。
だがすぐに、「よせ、いずみちゃん!」駆けつけた不破がいずみを引き寄せ、その体を守るように抱きしめた。
そして、不破は石橋に切々と訴えた。この子は働くために上京してきた。なのに会社は行き場がなく、いずみちゃんが住める部屋も見つからない。
「居場所がないんです。ここしか行くところがないんです」
石橋の心が、動かされた。
「会社のことは目をつぶろう。その子の部屋はあたしがなんとかしてあげる。それでどうだい」
いずみは、不破の顔を覗き見た。
自分を守ってくれる、力強い先輩。腕を掴んで離すまいとしてくれる、大きな手。
――嫌です!
自分の胸に広がる気持ちの正体をまだ理解しないまま、いずみは叫んでいた。
「嫌です、あたし出ていきたくありません! ここにいたいです!」
「――先輩と、ここにいたいです!」
なんだ、この盛り上がり方は。
ひょっとして、最終回近い?
あんなカワイイ子に頼りにされる不破が裏山鹿〜
大家さん案外いい人でよかった…
駒田さんの超人化が止まらない……
いいキャラしてるな、ホント。
意外とふたりのかんけいはあついんじゃないの?
ただ「ここにいたい」じゃなくて、
「先輩とここにいたい」なんだよな。
こりゃフラグ立ってるな。
>>131 同居始めてからの方が話が転がっていきそう。
まだ土台固めの段階じゃないか?
少なくともクライマックスでは、いずみちゃんの田舎の話は出てくるだろうし。
いつの間にこんな関係になったんだ? 雷蔵にマジ惚れっぽいが。
139 :
1/2:2005/09/06(火) 00:00:52 ID:???
ROOM13 年上のひと
どこにも行きたくない。不破先輩とここにいたい。いずみの言葉を聞き、石橋は訊ねる。その八百長男が好きなのかい?
そんな……会って何日も経ってないのに。戸惑ういずみに、石橋の言葉が響く。好きになるのに月日は関係ない。
だけどね、と石橋は続けた。八百長男が好きになるとは限らない、10歳年上っていうのはそういうこと。本気で好きになんか……
「はたしてそうかな」石橋の言葉を遮ったのは、旦那。
これ以上事態をややこしくしないでと頼む時子に「だまれ」と叫ぶ。一同は旦那の真意が掴めずきょとんとしているが、旦那は構わず語り始めた。
かつて貧乏学生と年上のOLが恋に落ちた。歳はちょうど10違い。様々な圧力に屈して結局別れてしまったが、二人は本当に好きあっていた。
「石橋さん、……いや、幸子さん。お忘れか? 下宿でいつも腹をすかせていた学生を……」
――僕が早く立派になって、幸子さんをお嫁さんにするからね。
――ばかをお言い、万夫くんが立派になる頃、あたしはおばあちゃんになってるよ。
「ほら、やっぱり、」石橋の目から、涙があふれる。「おばあちゃんじゃないか……」
気がつかなかったのも無理はない、二人とももう若くない。旦那だって、駒田に新姓を調べさせるまで自信が持てなかったのだ。
「どうですか」と旦那は言う。「好きあうのに歳の差は関係ない。あなたが一番ご存じのはずだ。今度は僕らが若い二人を見守る番ではないでしょうか?」
時子も石橋に頼み込む。「雷ちゃんいいかげんだけど、言ったことやったことには責任とる人です。わかってあげてください」
そして彼女は、いずみの肩を掴んで問う。「雷ちゃんと、ここにいたいよね!」
いずみの答えに迷いはない。「はい!」
最後に不破も、自分の気持ちを石橋に訴えた。
中学を出たばかりで一人で東京に出てきて、俺を頼りにしているんだと思う。
「この子を、このムチャクチャな東京に、ほうり出すわけにはいかないんです!」
140 :
2/2:2005/09/06(火) 00:01:36 ID:???
石橋が、ついに折れた。
二人のことは許そう、会社のことも大目に見よう。
「ただし!」と石橋は付け加えた。
「心配してんなら、一生面倒みな! 16歳になったら、ちゃんと嫁にもらうんだ。そうでなきゃ納得しないよ」
唖然とする不破、赤面するいずみ。何も言えないうちに、石橋は「しっかりやんなさい」と去ってしまった。
そして兼森夫妻は、どうしていいかわからない二人を囲み、おめでとう、祝杯だ、と無邪気に騒ぐのであった。
「プレゼント置いてきた」
言い残し、時子は旦那のジャガーへと乗り込んだ。「ケッコン式にはよんでよねー」と手を振って、去っていく。
真に受けるなよ、と不破は呆れ顔。嫁にもらえなんてムリなこと言って、期限区切られたんだよ。
部屋に戻って見ると、風呂場の荷物が片付けてある。プレゼントってこのことかと感動し、さっそく湯を張ってみる。
振り返ると、いずみが立ったまま固まっている。どうしたの、とその向こうを覗き込むと、そこには布団が敷いてあった。……枕ふたつを並べて。
あのバカ。枕を蹴飛ばすと、その下にあった大量の何かが飛び散った。コンドームだ。
それを荒々しくゴミ箱に放り込み、息を荒げる不破。
駒田の運転する車内、一人で笑う時子。どうしたと旦那に問われ、
「ちょっといたずらしてきちゃった。だってあの二人、並ぶとおさまりよくってさ、きっとうまくいくよ」
ちょっと妬けるかな……。そんな呟きを聞き、今度は負けるかとばかり旦那も逆襲。
「ふん、おまえと不破雷蔵だっておさまりよかったぞ」「あら、万夫さんと大家さんだって」
「いえいえ、社長と奥様もなかなか」「万夫さんと駒田さん」「おいおい」
東京の夜を流れる光の洪水。雨降って地固まった夫婦は、家路をたどる。
不破は思い直す。
こんなことでうろたえていてはいかん。これからは毎日一緒に寝泊まりするんだ、俺が大人にならなければ。
水音が聞こえる。壁越しのすぐ向こうで、いずみがシャワーを浴びている。
どっかと床に座り、不破は頭の中で繰り返した。
大人になんなきゃ……大人に――
若い頃の大家さん萌え〜
しかもいい人じゃないか・・・泣けるぜ
しかし結局最後は浪花節かよ
嫌いじゃないからいいけどさw
それは良かったとしてこれからどうなるんだ・・・!
まさか・・・早速やっちまうのか!!
ピチピチの15歳とっ・・・!!!
大家が許してもこの俺が許さんぞ不破雷蔵!!!!
いやいやいやいやいや、
妻の元彼のアパートの管理人が実は昔の元彼女でしたーって、
どんな偶然だよ!
ごまかされないぞ、オイ。
冷静になって考えると、すごい年代の違う恋愛模様だw
幸子 ←10歳→ 万夫 ←10歳→ 雷蔵・時子 ←10歳→ いずみ
└──────────30歳─────────┘
待て、いずみちゃんは15歳だろ。
じゃあ大家さんはまだ50にも達してないってことか?
えー!?
>>142 ドラマとか見てみろ、それぐらいの「都合のよすぎ!」な
脚本は掃いてすてるほどある。
>>141 周りが大歓迎ムードってことは、
逆に展開としては「耐えて勝利」ってことだろうな。
やっちゃうのは最終回近くまでおあずけと見た。
あんなにかわいくてしかもカラダは大人で
自分の事が好きってわかってる女の子と一緒に住んで
我慢しろという方が不健康過ぎる
148 :
1/2:2005/09/07(水) 00:19:50 ID:???
ROOM14 いつも心に防波堤
今、俺の部屋で15歳の少女がシャワーを浴びている。3日前に出会ったばかりの女の子だ。
――そんな子住もうだなんて、やっぱりどこか変じゃねえか?「いやいや、そんなことはない。だいいち女となら前にも暮らしたことがある」
――こんな狭い部屋でわざわざ。「部屋が狭いのは俺のせいじゃない」
――あの子のことが好きなのか?「好きとか嫌いとかじゃない。心配なんだ、いいだろ」
―― 肉 体 が 目当てなんだろ。「ばばば、ばか言うな」
自問自答しながら、煙草を無意識にせわしく取り出そうとする。だが、もう煙草は切れていた。買いに行かなきゃ。
外に出て自販機に向かう道すがらも、自分に言い聞かせる。
田舎から出たてで中卒の女の子を手ごめにするわけねえだろ。別に俺あ女に不自由してるわけじゃ――
――そう言や……「ながいこと、してないなぁ……」
脳裏に妄想が浮かぶ。意外と大きな胸。なめらかな体のライン。
――ほら見ろ。「ぐおー! ちがう!!」
煙草自販機前で一人で発狂してる不破の脇を、制服に身を包んだ2人組の少女が談笑しながら歩いていった。
……そうだった。あの子は15歳じゃないか。青少年保護条例がある。条例によって保護されているんだ。
俄然、元気を取り戻す。実際自信がなかったものなあ。俺だって犯罪者になってまで女の子襲う気はない。これで歯止めがきく、助かった。
ざぶーん。嵐の直前に防波堤ができたっていう心境だな。我ながらうまいこと言う。
不破宅。シャワーを終え、いずみはバスタオルを体に巻く。オフィスの方で、変な電子音が鳴っている。不破を呼ぶが返事がない。出かけているのか。
バスタオル一枚のまま電子音の元を確認しに行く。
それはFAXだった。初めて見るハイテク機器。自動的に紙が出てくるのが面白い。なんて書いてあるんだろう?
紙の出る向きはあちら側。読み取りはミリ単位。ああ、じれったい。いずみは机によじ登った。するとバスタオルがはだけてしまう。とほほ。
149 :
2/2:2005/09/07(水) 00:20:51 ID:???
ドアを開いた。
その瞬間目に飛び込んできたのは、はだけたバスタオルで辛うじて隠れているいずみの裸体。
白い肌。無防備な脇。胸のふくらみ。かあっと赤く染まる顔。
「は。ひゃ。」「へ。」
両者、まともな言葉が出てこない。慌てていずみは風呂場へと走り、ドアを閉めた。
「注意が足んなかったです! 気をつけます! 以後気をつけます!」「いいんだって。……あ、いや。気をつけてね」
驚いた。大人な体をしていた――が、大丈夫。俺たちは青少年保護条例によって守られているんだ! 防波堤に守られ、ガッツポーズを取る不破。
いずみに言われ、FAXが来ていたことを知る。見てみると――
雷ちゃんへ。
例の条例は東京都にはないんだってさっ!(駒田さんが調べました)
やりたくなったらやっちゃいな。いけいけゴー 時子v
ピシ。防波堤にヒビが入る!
……いかん。俺は大人なんだ。条例がなくたって歯止めはかけられる。
いずみが風呂場から出てきた。パジャマ姿で、ぴょこんと土下座して謝ってくる。
それでも「俺の方こそけっこうなもん見していただいて」なんて冗談かませる俺。いいぞ、大人の会話だ。はははは。
と言った矢先に、「あれじゃあ襲われても文句言えませんよね」と返され、詰まる。きまずい沈黙。
とりあえず「俺、風呂入るよ」と逃げた。脱衣所で服を脱いで、パンツ一丁になった……その時。
おもむろに、部屋が揺れはじめた。地震だ。けっこう大きいが、もう慣れっこだ。
と、ドア越しにいずみの声が聞こえた。
「うああ。ふう。ひゃ、せせせ、せんぱい、はや、ゆれゆれゆれゆれ」
ものすごい動揺っぷり。そういや島根あたりじゃ地震なんかほとんどないもんな。
ふみ、へれ、ああう、ふみ、ふむ。いずみの変な悲鳴を何ともなしに聞いていると、突然、引き戸ががらりと開いた。
不破が状況を認識するより早く、いずみはせっぱ詰まった涙目で不破に抱きついた!
ひしっ。裸の上半身にいずみのパジャマの感触。
脳内の防波堤のヒビが急速に広がっていき。
――ついに、決壊した!
>>あれじゃあ襲われても文句言えませんよね
そのとーり。
いいなぁ、こんな生活・・・。
無防備すぎるだろ、いずみちゃん……
教科書にないッ!みたいな展開だな
今までの展開から予想すると、必ず邪魔が入るはずだ。
時子はもう帰ったし……部屋の床が抜けるとか。
そしてまた、新居を探して放浪?
床が抜けるのはともかく、何かしら家が壊れる展開はありそうだな。
このままヤッちゃう展開を誰も予想してないのにワラタ
俺がその場にいたら見てるだけで逝きそうだw
157 :
1/2:2005/09/08(木) 00:31:57 ID:???
ROOM15 揺れる二人
ゆれ、ゆれ、こわこわ、ほわあっ、ふあ、へっ、へわ。ゆれてる。
「そっ、そりゃあ……地震だか……ら」冷静に答えようとするが、うまく頭が働かない。
さっき見たいずみの裸体。いやらしい妄想が頭の中をかけめぐる。強く自分に抱きつく少女を見て……不破の目が、座った。
いずみを抱きかかえ、脱衣所を飛び出す。敷いてある掛け布団を蹴りのけ、いずみを布団に横たえる。
もう、どうでもいいや!!
まだ続く地震に体をこわばらせているいずみに覆い被さり、目も唇も強く閉じた彼女の顔に、自分の顔を近づける。いざ! と思った、瞬間。
脳天に激痛! ビデオテープが地震で棚から落ち、角で直撃したのだ。
続いてばさばさ落ちてくる本やビデオ。不破はのたうち回った。
やがて、地震は収まった。
おそるおそる顔を上げ、息をつくいずみ。不破が自分に何をしようとしたかは、まったく気づいていないようだ。
こんな揺れしょっちゅうだと不破に言われ、東京で暮らすのって本当に大変ですねと顔を曇らせる。
と、ここでようやく、不破が裸だと気づいたようだ。真っ赤になってどもるいずみに「抱きついといて今頃」と苦笑しながら、不破は風呂に入っていった。
冷水シャワーで頭を冷やす。
今のはあぶなかった。一回切れちゃったもの。俺の理性の防波堤がこうももろいとは……
いや、水位がギリギリなんだ。あの子も不用意だし、大人な体だし……
ううう……自分が信用できーん。
わめいたので、喉が渇いた。冷蔵庫を開けようとして、いずみは気づいた。さっき、地震が起こるときにひとつつまんでいたコンドームを、ずっと握りしめていた。
思わず投げ捨てて、それから不破の入っている風呂場の方を見る。
やっぱり、気をつけなきゃいけないよねえ。一応男と女だし、タオル一枚で歩き回ったり抱きついたりで……
タオル一枚で、先輩に抱きつく自分。脳裏に浮かんだそんなイメージに、顔を赤くした。
ううん、そんなことない、といずみは自分の考えを否定する。先輩はずっと大人だし、だいいちあたしのことなんかなんとも……
ふと去来する、もやもやとした感情。あたしのことなんか……なんとも……。
158 :
2/2:2005/09/08(木) 00:32:52 ID:???
風呂上がりの不破、冷蔵庫を開けてドリンクを手に取った。……こんなの買ったっけ? 見慣れないパッケージをよく見ると、「まむし」と書いてある。
嫌な予感がして、冷蔵庫を全開にすると、ぎっちりと並んだまむしドリンク。他の飲み物はなくなっている。時子の奴ー!
はっとして、いずみに確認する。冷蔵庫開けた? あれ飲んだの?
いずみは首を振り、「時子さんですよね。わかります、あのドリンク剤の意味を考えれば……」
なんか買ってくるよ、と外に出る。自販機まで歩きながら、考える。
小学生じゃないから、あの子はいろんなことをよくわかってるんだ。わかってて俺んちに来た。
あの子――俺のこと誘ってるんじゃないかな……
そんなよこしまな思いが頭をかすめるが、次の瞬間思い直す。意味を考えればわかります――いずみの言葉と、そのときの困惑の表情。俺は何てことを。
「本当は何を考えてるんだろにゃあ、いずみちゃんは……」
呟いてから、自分の言葉にはっとする。何を考えてるかって? そうだ。
あの子を心配して始めたことなのに、いつの間にか自分のことだけを考えていた。
いずみちゃんだってばかじゃない。男と住むんだ、平気なわけはない。けど俺と住む方を選んだ。田舎に帰るよりはマシだとも言った。何故だ?
体育座りで、テレビの映画を見るいずみ。スプラッタなホラームービーだ。
不破が帰ってきて、いずみにはちみつレモンを手渡した。
「こーいうのは平気なんだ?」地震はあんなに怖がったのに。
いずみは笑って答える。「ホラー映画は島根県でもありますから」
じゃあさ、と不破は訊ねた。
「男は?」
いずみちゃんの過去話くるのか? 田舎で何があったのか気になりすぎる。
家族から虐待か何か受けてたのか?
うーん一転してシリアスな展開に・・・
飽きさせないなぁやるなぁ星里
邪魔が入るのは王道として、
こういう展開になるとは意外だったなあ。
最後の質問の意図がよく分かんないんだけど、
「男は怖くないのか、それとも男が怖いのに田舎よりはマシだから住むことにしたのか?」
ってこと?
>>161 俺は前者と解釈した。
「地震は怖いけどホラー映画は怖くない。
じゃあ男(ふいに狼化するかもしれないっつー意味で)は?」みたいな。
次でいきなりエティーしちゃうのか?
しちゃうんじゃね?
やべー15歳っしょ・・?(;´Д`)ハァハァ
ロリに目覚めそうな俺ガイルOTL
166 :
1/2:2005/09/10(土) 00:08:57 ID:???
ROOM16 15歳の決意
男は怖くないの? そう訊ねる不破に、いずみは答えた。
「怖いのは……あたしのこといらないって言ってる人です」
俺はいずみちゃんのこといらないなんて……慌ててフォローを入れるが、そういう意味ではないらしい。何のことかといえば、
「父です」
どういうこと? 田舎に帰りたくないって言ったの、そのことなの?
いずみはテレビのボリュームを下げ、語り始めた。
父は田舎で病院をやっている。跡取りが欲しかった父は、長女として生まれたいずみを医者にしようとしていた。
厳しい父だったが、学校や塾でいい成績を取ったときは褒めてくれた。勉強が嫌いではなかったし、なにより父に褒めてもらいたくて一生懸命だった。
けれど、弟が生まれた。
父が跡取りに欲しかったのは男の子。だからいずみのときも男の子だと決めていて、「一角」なんてへんな字をつけられたのだ。
いずみの本当の母は、いずみが4つの時に死んだ。だから父はいずみを跡取りに考えていた。
でも父は再婚し、弟が生まれた。父は変わった。弟に、男の子にかかりきりになった。
父は、いずみを責めもしなければ叱りもしなくなった。
いずみが一番の成績をとっても、もう無理に勉強することはないんだと言うだけになった。無理になんかじゃないのに。
――いずみは勝手に育つ。今の私には勇太が大切だ。いいんだ、いずみのことなんかは――
167 :
2/2:2005/09/10(土) 00:09:44 ID:???
「それから勉強しなくなって、ちょっと荒れてた時期とかあって、ますます相手にされなくなって……あたしの居場所がなくなって……」
うずくまり、顔を伏せ言葉を紡ぐいずみ。
話の途中何度かフォローを入れようとした不破も、もうかける言葉を見つけられない。
「あたし、なんにもできないけど、先輩のためになんにもできないけど、先輩とここにいたいです。でないと――」
顔を上げるいずみ。涙で、赤く腫れていた。「消えちゃいそうで……」
たった15歳で。
俺なんか25年生きてきて何もない。この子はたった15歳で、社会に出てきて、東京に出てきて、たった一人で……
自然と、手が伸びた。かけられる言葉はないけれど。そっといずみの頭をなで、肩を抱く。
「せんぱい……」
8時20分の目覚まし時計が鳴る。ボタンを押して二度寝に入るのは、もはや条件反射だ。
ベッドの梯子がきしむ音がする。薄目を開けて、そちらを見た。
「せ・ん・ぱ・い。起きてください、出勤時間ですよ」
優しく笑う、同居人の女の子。不破が起きたのを確認すると、ぱたぱたと去っていく。
――悪くないね。
手を出さなくてよかったと、しみじみ思う不破であった。
いずみちゃんかわいそう…
でも荒れてたって…チェーンでも振り回してたのかw
ヨーヨーかもしれん
うう…泣ける話じゃないか
何故にあんなカワイイ子があんな不幸を背負わねばならんのだ
あんまりだぞ親父!!
父親勝手杉
荒れてるいずみちゃんが想像できない……
長い丈のスカートとか穿いたりしてたのか?
>>165 体は大人だぞ。
エティーなしだったが、それで素直によかったと思わされる締めだったな。
これからも支えになってやってください。>不破
>「せんぱい……」
>「せ・ん・ぱ・い」
ひらがなで呼ばれると萌え度が5割増になる法則。
175 :
1/2:2005/09/11(日) 00:01:19 ID:???
ROOM17 ユメとチボー
11月。秋の長雨は今朝も続いていた。
――今日も無理かな、洗濯は。いずみは窓の外を眺めて独りごちた。
ナミフクでの仕事と不破との暮らしがスタートして、しばらくが経った。朝は、なかなか目を覚まさない不破に苦労する。仕事も毎日ごちゃごちゃあって大変だ。
けれどまあ、それでいいのかもしれない。
出勤時間。
パジャマ姿で歯を磨きながらオフィスに足を踏み入れる不破を、難波が叱る。あんたんちはここまで、こっちは会社! 公私混同はなし!
「大目に見ろよ」「隣あってるからこそケジメが必要でしょ」そんな口喧嘩も、もはや毎朝の風景だ。
とはいえそれも仕方ない、ストレスの原因は多いのだ。続く長雨、そして、狭くなる一方の部屋。
昼休みの食事は、不破の部屋で食べる。ド混同、と目をつり上げる不破だが、オフィスは納品のカタログに占拠されているので仕方ない。
そう。今のナミフクには、荷物の置き場もないのだ。床が抜けるのが早いか、寝床がなくなるのが早いか。
「もっと広いとこに引っ越しませんか、不破さん」「今度は一軒家とかいいよな」そんな話題を繰り広げるのは、千里と一石。
不破が欲しいのは家じゃなくて六畳一間の幸せだし、そもそも会社が引っ越せばいい話。話題が本末転倒なのは置いといて――
今の東京では、家を買うなんておとぎ話だ。
「マイホーム」なんて言葉は死語に近い。貧乏人がどんなに頑張ったって、家が建つほど儲かりはしないのだ。ユメもチボーもない。
そのとき、雨が止んだ。チャンスだ! 慌ただしく不破といずみは洗濯を始める。洗濯機に服を放り込む二人。
その背後に、社員たちが無言で立つ。
「公私混同なのはわかってるよ! でも長雨が」
抗弁する不破に社員たちは、「いやその」と自分たちの洗濯物を差し出した。あの難波すらも。
公私混同を責めてるわけではない。家が狭いのは、いずこも同じ。
176 :
2/2:2005/09/11(日) 00:02:23 ID:???
なんとか、全員の洗濯物を干せた。
「こうなると、広い物干し場が欲しくなるよねえ」
そんな難波の発言を発端に、社員たちのユメは広がっていく。天井まで総ガラス張り。晴れた日はそこで昼寝して、夜は星見酒。
自分はまだ若い。いずれ自分でそんな家を建てられるかもしれない。不破はふと、そんな可能性を夢見た。
広ければ広いだけ心にもゆとりが出てくるだろう。新しい都知事がなんとかしてくれるかもしれない。あははは。
青空に、皆の笑い声が広がっていった。
暗く立ちこめる雲の下、激しく雨が降っていた。昼とはうって変わった、そんな午後。
社長が外から戻ってくると、部屋には所狭しと洗濯物が吊り下げられていた。これが東京の土地行政の末路だ。
社長はいいよな、持ち家があるもんな。そうぼやく不破に、社長は言う。「あれ借家だよ」息子二人を養うだけで、精一杯なのだ。
会社の長ですらこれだ。俺たちの将来も見えてるよな――家を建てる希望は、無惨にも打ち砕かれてしまった。
真実を知り肩を落とす不破たちに、しかし社長は反論する。
その気になれば東京でも家は建つ。土地がないから無理? ないわけじゃないでしょ。誰かが持ってるのよ。
そして息を呑む社員達に、社長は意味深に問いかけた。
「手に入れる方法だってあるわよ。……知りたい!?」
手にいれる方法って… 宝くじって落ちはないだろうなw
話を仕切り直して新章突入って感じだな。
今回は不破の成り上がり編?
下着とかも一緒に洗ってるのかな?
いずみたそはそれも許してしまうのか(;´Д`)ハァハァ
社長が何か企んでいる・・・
つーか、この社長もいつまで社員の個人宅に会社を間借り
させとく気だ? いくらなんでも、不動産屋の数件も回り、
ぜいたくさえ言わなければ、個人宅よりはマシな事務所の
物件の1つや2つあるだろ。
人が良いなぁ不破君は
>>179 「いいよ、もういっしょにいれちゃおう」って言ってるな。
つーか、いっしょに洗うか洗わないかは不破が決めてるのか。
いずみちゃんには羞恥プレイだな。
12ページでは堂々といずみちゃんのパンツやブラが干されてるし。
これ、一石や千里の目にも触れてると思うと……
なんか今回、漫画を読んでる気がしなかった。
新書とかでありそうな「マンガ東京土地事情」って感じだ。
新しい都知事って誰だ? 鈴木俊一なら、1979年からずっと都知事続けてるよな・・・
っていうか、今って1990年の11月だったよな?
186 :
1/2:2005/09/12(月) 00:00:30 ID:???
ROOM18 若さゆえ
その気になれば東京でも土地が手に入る。そんな方法が本当にあるのだろうか!?
「あるわよ。少なくとも……不破ちゃんと一石くんの二人には」
果たして。その方法とは――逆玉の輿、だった。
なにかと思えば。あきれ果てる不破と一石だが、社長は不敵に笑った。何の前提もなくこんなハナシをすると思って?
そして取り出したのは、一式のファイル。知り合いの娘に見合いの話があるのだという。
どう? と一石に振る社長だが、一石は見合いは主義に反すると言って仕事に戻ってしまった。
残る不破に、社長は「良かったわ」と笑いかける。その娘も不破のことを話したら乗り気なのだそうだ。
「彼女は親から相続した持ち家とマンション2つ、そしてもちろん土地も持ってるわ。しかも世田谷よ」
思わず息を呑む不破に、社長は「美人よぉ」と見合い写真を押しつけた。
「なに言ってるんですか。誰が家や土地が欲しいなんて言いました? ましてやそのために結婚など、ほほほ」
平静を装って仕事に戻る不破だが、内心、この見合い相手が気になって仕方ない。仕事をさりげなく抜けだし、こっそりと写真を見る。
ゆるくウェーブした髪とつぶらな瞳の、育ちのよさそうな女性。社長の言うとおり、美人だ。
と、その時背後に視線を感じる不破。なんと社員が総出で不破を取り囲んでいた!
「けっこう気に入ってるようじゃなかったぁ」と社長にもからかわれる。
「なんでこんな美人で金持ちが、いきなり俺のこと気に入るわけですか? なんか変だな」
苦し紛れにそう攻めると、社長が一瞬の間の後、目を逸らした。
187 :
2/2:2005/09/12(月) 00:01:59 ID:???
詰問され、どうせ後でわかることだからと白状する社長。
「実はその娘……同級生なの」
……見合い写真は、10年前のもの。不破を気に入ったのは、歳が若かったから。
憤然と帰ろうとする不破を、条件が良すぎて行きそびれるってあるじゃない、と引き留める。とにかく一度会ってみるだけでも……ねっ。
仕事場に戻っても「不破ちゃんには少々姉さんの方が合ってるってば」と不破を説得する社長。
だが、たっぷり一回り以上。姉さんすぎる! 同じ離れてるならいずみちゃんにするよ、という言葉を聞いて、いずみは真っ赤。
社長は一変して、ケダモノ!と不破を追い回した。
――と、その時、ピンポーン。玄関のベルが鳴った。
まさかこの人呼んだんじゃ?
疑う不破だったが、社長もそんな話までは聞いていない。けれど、すぐにでも会いたがっていたからなあ……
「欠勤です、カゼで欠勤!」慌てて自室へと逃げていく不破と、悶着する社長。
ピンポピンポピポポピポピポピンポーン。激しく鳴り続けるチャイムには、いずみが応対することにした。
ドアを開けるいずみ。そこに立つ人物を見て、いずみは目を見開いた。
ドアの外にいたのはいずみちゃんの親父だな。
不破はいずみちゃんか見合い相手かの選択を迫られ、
いずみちゃんは不破か親父さんかの選択を迫られ、
最終的には不破・いずみのカップル成立。
クライマックスも近いな。
何その打ち切り展開。
社員や仕事風景が出てきた意味ないじゃん。
時子の旦那登場のパターンに似てるよな。前振りから考えて、きっと来たのは社長の旦那だ。
ナミフク家の財政状況が悪すぎることを伝えに来たに違いない。
ナミフク倒産→不破が逆玉で財産を取るかいずみで愛を取るかの二択を迫られる。
当たったら干してあるいずみちゃんの下着くれ。
ていうかさ、前回語り忘れてたけど、社員たちの登場ひさしぶりだよな。
社長ってそういうことを前提にいずみを置いてたんじゃないのか・・・
てか俺も絶対いずみたそがいいよ(;´Д`)ハァハァ
この展開なら見合い相手の兄とか親族かもしれん。
たまたまいずみと知り合いで、またややこしいことに。
またケンカして離婚してきた時子に一票。
慰謝料に家くらいぶんどってきそうだ。
不破の気持ち、いずみちゃん一本じゃないんだな。
まあ当然だけど、なんか意外だった。
それこそ見合いなんて主義じゃなさそうなのに。
そりゃ莫大な相続遺産に美人と聞かされりゃ
心揺らぐのが男のサガってもんでしょーよ
あー、だからサブタイトルが「若さゆえ」なのか。
どういう意味か今週ずっと理解できなかったけど、なんか納得。
196 :
1/2:2005/09/13(火) 00:01:12 ID:???
ROOM19 幸せノ歩き方
カチコチに固まる不破の肩を、リラックスリラックス、と社長は揉んだ。
玄関から駆け戻ってくるいずみに、社員たちは押し寄せて「どうだった、不破くんのユメとチボーは」と盛り上がる。
不破は、ドアノブに手をかけてから、いずみに訊ねた。いくつに見えた?
いずみは、困惑しながら答えた。「な、70歳くらいかな……」
いーー!?
玄関から入ってきたのは、ステッキを持った偏屈そうな老人だった。
「田之倉の、じいさん」……なあんだ、とがっくりする社員たち。
じいさんは、10年来の付き合いのある宛名書き仲介人である。
ナミフクではたくさんの人にDMの宛名書き内職を頼むので、地区によってはそういった仲介人がいる。
それにしても、よくここが。それにどうしてわざわざ会社まで。社長が尋ねると、
すぱーん! じいさんはステッキを靴箱に叩きつけて叫んだ。
「どーもこーもあるかい! 封筒の納品はどうしたんでい! 発注日から2日も経っとるぞ!」
封筒の印刷が遅れてて今日の夕方にならないと届かないんですよ。担当の不破は説明するが、じいさんは「嘘をつけい!」とステッキを振り回す。
不破はその杖先を掴み取ると、鋭い目つきに変わって啖呵を切った。
「どこでも人手が足らないんだよ! 規模の大小にかかわらず、印刷の業界はどこでもね! わかったかじじい!」
ケンカできるのも、不破の特権なのだ。
遅れるなら一言あってもいいだろうと言うじいさんに、負けじと不破も切り返す。あんたんところに電話がないからいけないんだ!
「てやんでい、電話なぞ!」「公衆電話があるだろ!」口論はどんどん激しくなっていく。
その喧嘩を止めたのは、玄関のチャイムだった。
社員たちは口々に言う。来た! 今度こそ! あたしたちのユメとチボーが!
それどころじゃない不破とじいさんを押しのけて、玄関前に集う一同。いずみがドアを開けると……
そこに立っていたのは、タクシーの運転手だった。「じいさんに料金はここで払ってもらえるって聞いたんですがー」
197 :
2/2:2005/09/13(火) 00:02:06 ID:???
明日の午前中には必ず発注します。そう言ってとりあえずじいさんを送り返す。
「もうあのじいさんとはゴメンだ」
そう申し出る不破を社長は、顔は広いし仕事も早いんだからとなだめる。それに、じいさんと互角に相手できるのは不破だけなのだ。
不破は仏頂面で呟く。「んったく、電話くらいついてなくてどうすんのさ」
そんな不破に、社長は教える。昔は、じいさんの家にも電話がついていたのだ。
けど不破の入社のちょっと前頃、先程のようにタクシーで乗り付けてきて、電話は外したと報告してきたのだという。
それじゃ困ると理由を聞いても、あのとおり頑固だから押し切られてしまい、今に至る。
今まではじいさんもこっちも期日きっちりに仕事を回せたので、電話がないことで不便はなかったのだが……
それはともかく、不破の見合いの相手は、来るのか来ないのか。
……冷静に考えれば、いきなりここに来るわけはない。がっかりした? と聞く社長に、不破は演説する。
「だいたい、他人を当てにして幸福を得ようだなんて間違ってる! 他人の土地で家を建てようなんて間違ってる!
自分の力で勝ち得てこそ価値が生まれるんじゃないか! 僕が望んでいるのはそういう幸せだ! 小さくても働いて手に入れた、そういう幸せだ!」
そうですよね!と拳を握るいずみ。社長はようやく、断ったげる、と折れた。
――その時、みたびチャイムの音。揃って出迎えた面々は、
「ハナヨリ印刷です。注文の封筒、2万枚お届けに上がりましたぁ」
かくしてみたび、目を点にすることになった。二度あることは三度ある。
結局、働くしかない。貧乏人は麦を食え。ナミフクの社員たちは、ユメもチボーもない結論に達したのであった。
田之倉と聞くと、暴れん坊将軍のじいを思い浮かべるなぁ。
やっぱそこからのネーミングかな?
今まで、キャラクターの名前は、ことわざから来てるみたいなんだよな。
不破雷蔵 ← 付和雷同
氷山一角 ← 氷山の一角
兼森時子 ← 時は金なり
一石 ← 一石二鳥?
千里 ← 千里の道も一歩から?
石橋 ← 石橋を叩いて渡る?
ハナヨリ印刷 ← 花より団子
難波と社長(ナミフク?)と駒田さんはわかんないけど。
田之倉もなんか、ことわざから来てるんじゃない?
何だよ! ジジイやおっさんなんて出でくんなよ!
美女登場を本気で期待したじゃないか…
まあ三度目の正直なんて言葉もあるし次回に期待する。
新キャラがじいさんじゃ萎えるな。
そんなに好感の持てるキャラでもないし……
でもいずれ美女は出てくるだろ
ここまで盛り上げといて顔も見せないってことはありえない
にしても、お見合いといちゃもんじじいと、接点がまったく見えない・・・
悪い意味で方向性が見えてこない漫画だ
203 :
1/2:2005/09/14(水) 00:00:23 ID:???
ROOM20 ダブル・ブッキング
各地区の宛名書き・仲介人に、DMの封筒を配って回る。
あらかた手配は済み、あとは田之倉のじいさんのところへ届けて終わりだ。
「だけど大丈夫なんですか? 昨日ずいぶん怒ってたし」
心配するいずみだが、不破は余裕の表情。あのじいさんが怒ってるのは、いつものこと。
――というわけで、到着。
いずみは驚いた。じいさんの家は、想像を絶するボロ屋だったのだ。
屋根の瓦は所々はがれ、壁にも煉瓦にもヒビ。風呂場の煙突は取れかけ、庭は草ぼうぼう。
「ここ人住めるんですか?」……不破曰く、じいさん一人で居座り続けて50年とか60年とか。
封筒の詰まった段ボール箱をかかえて、門をくぐる。
不破は玄関を無視して庭へと入っていった。実は、玄関は傾いで開かないのだ。
「戸締まりの手間がはぶけらあなんて、じいさん負け惜しみ言ってたっけ」
そう語りながら、どんどん庭を進んでいく不破。
けれどいずみは、長雨ですっかりぬかるんだ庭を歩くのにはさすがに抵抗があった。
一度、普通に玄関を開けてみようと試みる。だが、いくら力を入れても、戸はびくともしない。
意地になって、全体重をかけて横に戸を引くと――ばき! 木枠が折れた。
庭から縁側に回って家に入り、不破はじいさんを呼ぶ。返事はない、留守なのだろうか。
その時、縁側から呼び声。
見ると、左半身泥まみれのいずみがいた。玄関でぬかるみの中に倒れ込んでしまったのだ。
不破はいずみを裏の水道に向かわせ、家の中にタオルがないか探した。
タオルはなかったが、その代わり電話を発見。ダイヤル式の黒電話である。
回線は通じてないようだ。見ると、電話から伸びているコードが途中で切断されている。
どういうことだ? コードをつまんだ瞬間、気配を感じた。
さっと避ける。今まで座っていた場所に、勢いよくステッキが振り下ろされていた。
「仕事遅らせた上にコソ泥か? チョーシこいてっと許さんぞ、小僧」
204 :
2/2:2005/09/14(水) 00:01:18 ID:???
所変わって、ナミフク。
じいさんの人脈は会社の財産だ。不破がうまくやっているか心配する社員たち。
あいつもよくやるなあ、と人ごとのように呟く一石に向かって、千里と難波は口々に言う。
「入社したての不破さんに担当押しつけたの、一石さんでしたなあ」
「不破くん、責任感は強いのよね。引き受けた以上は途中で投げたりしないもの」
んじゃ俺は責任感のない押しつけ男だっていうの? 一石が角を立てたとき、玄関でベルが鳴った。
一石がドアを開ける。そこには、品の良さそうな美人の女性が立っていた。
「突然連絡もせず伺いまして……近くまで来たものですから、不破雷蔵さんがいらっしゃるかと思いまして」
思い当たった。見合いの相手だ! とても社長と同じ歳とは思えない。
一石は廊下に出て、メガネを外してポーズを取り、美男子モードになり高らかに宣言した。
「私が不破雷蔵です」
「まあ」ぽっと、女性の頬が染まった。
「勝手に上がり込んどいて……警察呼ぶか?」
不破とじいさんの口論は、おさまるどころかエスカレートしていった。
コードの切れた電話を差し出して「呼びたきゃ呼べよ、じじい! ほーれ、110番すれば?」
不破が挑発すると、じいさんはステッキで不破の手をはたいた。
「てめーみてえなコソ泥野郎のいる会社とは金輪際仕事しねえ!」「こっちからお断りだ、じじい!」
そんな言い合いが家の外まで響くなか、いずみはというと――
走って泥に足を取られて、全身泥まみれになっていた。
おお 確かに美人だ!
とても社長とタメとは思えんな・・・
こうなるとなんで独りだったのかが気になる。
しかし一石ってこういうキャラだったのかw
いずみちゃんカワイイなw
美人キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
って、不破とは絡まないのか・・・意外な展開だな
左半身泥まみれで「だあー」って言ってるいずみちゃんが萌える。
誰も触れてないけど、今週号はりびんぐが2色もらってるんだよな。
めぞん一刻の正統後継者みたいな感じになってきたし、人気あるみたいだな。
古い家にずっと住んでる老人って都会にもたまにいるけど、
ここまでボロい家って今時あるのか?
不破の話が本当だとすると、戦前の家だもんなあ。
よく知らんけど、このあたりの家って大空襲で焼けちゃったりしなかったのかな。
あの美女が社長と同級生… 30歳後半くらいか?
一回り以上ってことは、最低でも25+12で37歳。
たっぷりって言ってるから、それプラス4,5歳くらいは上と見ていいだろう。
つまり、41か42あたり。
40過ぎての出産って危険なんじゃないっけ?
今パトレイバー描いてるゆうきまさみが、昔読みきりでそんなこと書いてた。
じいさんのコネが切れて立ち行かなくなりそうになった会社を
一石と美女が救う…って展開か?
先が嫁ん
ほのぼの いずみちゃんが中に入って、和解じゃない?
216 :
1/2:2005/09/15(木) 00:01:33 ID:???
ROOM21 閉ざされた扉
口汚くお互いをののしり合う不破とじいさん。もはや絶縁も時間の問題だ。
と、そこに勝手口の扉から泥人形が現れた! いずみである。
彼女は全身泥だらけの姿で、先輩は悪くない、自分が悪いんだと仲裁を始めた。
じいさんは、自分の玄関のせいでいずみが泥だらけになったと理解する。
そしてじいさんは――済まなさそうな顔になった。
それだけでなく、箪笥からタオルを出し「今風呂入れるからよう」と意外な親切さを見せる。
さらには、いずみが遠慮すると、じいさんはすぱーんとステッキで地面を打ち、
「四の五の言わずに入ーりやがれ! うちで風邪なんざひかれた日にゃ、縁起悪くてしゃあねえやな」
きょとんとしていた不破といずみの顔に、やがて微笑が浮かんだ。
ナミフク前の廊下。
きりりとした表情で自分を不破雷蔵だとうそぶく一石に、女性は仁藤萌子と名乗った。
「すいません、お仕事中に。私、あの……どうしても一度……お会いしたくて」
口の前に手をやり、うつむき気味に頬を赤らめる萌子。
かわいい。清楚で可憐で、瞳は少女のようで……この女性と、もっと話をしたい。
そのへんでお茶でも、と一石は萌子を喫茶店にやり、自分も仕事を抜け出すために、一芝居打つことにする。
玄関先でホウキを地面に叩きつけ、「や、やめてください田之倉さん、不破くんならさっきそちらに」と自作自演。
こうして一石はまんまと社員たちを騙して抜けだし、萌子の待つ喫茶店へと向かった。
店はやたらと混んでいた。萌子は誘うように言った。
「場所、変えませんか? どこか……静かなところへ……」
217 :
2/2:2005/09/15(木) 00:02:25 ID:???
ボロ屋に、トンカチの音が響く。
いずみが風呂に入っている間、壊れた木枠を不破が直しているのだ。
出入りなんかしないくせに。ほら、ここんとこの傾いたの直せば玄関開くのに。
不破は色々言うが、つべこべ言わずただクギを打てと指示するじいさん。
しっかし、ボロな家だ。いくらすんの? 「15万だ」
じいさんの言葉に仰天する不破。そりゃあ一応都内だし、一応一軒家だけど……
しかし「相場だよ」とじいさんはむっすり顔。
もっと安いアパートにすればという不破に、長年住み慣れた家だ、いまさらよそへ移れるけい、と吐き捨てる。
浮いたお金で電話がひけるじゃねえかという不破の提案にも、ケチって切ったんじゃないと取り合わない。
その発言に、不破は引っかかった。――切った?
そのとき、じいさんが言った。「隠れるんでい!」誰かが来たのだという。
なんで誰か来て隠れるのという不破には答えず、ふたりで植え込みの裏に姿を隠す。
来訪者は、くたびれたコートの中年男だった。
扉を叩いても反応がなく、開けようとしても開かないので、留守だと思って男は去っていった。
男の姿が消えたのを確認して、やれやれとじいさんは表に出る。
何考えてるんだと言う不破に、「知り合いなら庭の方回るさ」とこともなげなじいさん。
だから玄関直しゃあ……と言いかけて、不破は気づいた。
じいさんは、玄関をわざと直さない。
わざと誰も来れないようにしている。だから電話も自分で切ったのだ。
「なぜだ、じいさん!?」
じいさんの後ろ姿に、不破は問いかけた。
借金取りから隠れてるんだな、爺さんは。
じいさん、いい奴じゃん
一石ヒドッ
「不真面目」で出てきた不破が訳分からん苦労を
背負い込んでいるのに、ひどい先輩だ
「くたびれたコートの男」は誰だろ。家賃15万払っている
のだから、金に困っているわけではない・・・
ひょっとして家賃督促の大家さんか?
仁藤萌子か。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」から来てるんだろうな。
名前からも一石が手ひどく振られるオチが透けて見えてるが、だからこそ安心できるな。
あーでも、一石は「一石二鳥」だろうから……どうなるんだ?
不破だって「付和雷同」とは真逆の性格だし、名前は関係ないだろ
223 :
2/2:2005/09/16(金) 00:03:19 ID:???
ROOM22 初めての亀裂
玄関もふさいで電話も切って、一体なに考えてる?
しつこく問う不破に「余計なお世話だ、しつこいっ!」とじいさんはステッキを振る。
ステッキは狙いが外れ、玄関の戸にぶつかる。ガラスが割れ、派手な音を立てた。
すると音を聞きつけ、さっきの男が戻ってきた。「おじいさん、いらしたんですか!」
「話だけでも」と懇願する男だが、じいさんはステッキを振り回し「帰ーれ」と引きこもってしまう。
しょぼと肩を落とす男に、不破が声を掛けた。
居間のちゃぶ台に、他人を拒絶するように座り込むじいさん。
男――亀岡開発の地上げ屋に話を聞き、事情を把握した不破が、その後ろ姿に話し掛ける。
「ここ、マンションを建てる計画があるそうじゃねーか」
するとじいさんは、眼光鋭く叫んだ。
「建つもんけい! わしがここをどかなきゃ、建たねーんだよーっ!!」
玄関や電話を働かなくしたのは、そのためだったのだ。
けれど、そんなことをしても地上げ屋は諦めないだろう。
じいさんの住むところも面倒見るって言ってたし、せっかくだからそうさせてもらえばいいのに、と不破。
地上げ屋に金でももらったか?と取り合わないじいさんに、不破はむっとくる。
「心配して言ってんだ。家賃15万で電話もなくて、年寄りがたった一人でどーすんのさ。
それに、家主も困ってんじゃないのか? いつまでも居座るから」
そう説得する不破に、じいさんは食ってかかった。
「居住権主張すりゃ迷惑か!? 家主のこと知りもしねえでえらそうにほざくんじゃねえ!」
萌子に誘われるまま、タクシーに乗り込む一石。
どこまで行くのかとおずおず尋ねる一石に、萌子は頬を赤らめ、
「もちろん、二人っきりで静かにお話できるとこですわ」
一石は思う。さすが熟女は大胆だ。ふだんは少女のようだが、いざとなると乱れるタイプと見た。
正直、めちゃめちゃタイプである。
それにしても、美人で家つきでお金つきで、どうして今まで一人なんだろう?
224 :
2/2:2005/09/16(金) 00:04:48 ID:???
「意地になってんじゃねえよ! じいさんがこのボロ家出てきゃまるくおさまるじゃねえか!」
「てやんでい! 自分ちにいて何が悪い! 出て行くのはてめーの方だ!」
やめてください! 口論する二人の間に、じいさんの運動着を身につけたいずみが割って入った。
「どうしてそんなひどいこと言うんですか、先輩」
別に俺は……と言いかける不破を遮り、いずみは訴える。
「おじさんにはここしかないんです! 居場所がここしかないんです」
不破は、そうは思わない。むしろ、じいさんはここを出るべきだとさえ思う。
ここを壊すことでビルやマンションが建つ。住宅難で困っている人が少しでも減る。
だけどじいさん一人のために、それができないでいる。
「家族がいるんならともかく、じいさん一人じゃないか。
家も古いし家賃も高いし、住むとこ保証してくれるって言うんならいいじゃないか」
じいさんは無言で、背中を丸めている。
「先輩の言ってること、わかんない!」いずみも引かない。
「どんなに古くたって高くたって一人でいたって、誰が何て言ったって、
その人がいいと思えば、そこが居場所なんじゃないんですか!
どんなにたくさん人が住めるようになったって、
おじさんの居場所がなくなっちゃったら、なんにもならないんじゃないですか!」
二人に背を向けたじいさんの顔は、苦悶に歪んでいた。絞り出すように、叫んだ。
「帰ーれ……帰ーれってーのがわかんねえのか!」
ちゃぶ台に叩きつけたステッキが折れ、破片が障子に突き刺さった。
車の中でも、不破といずみの亀裂は直らない。お互い一歩も譲らない。
「家主や業者が困ってるのがわかんないのか!」「法律的には借家人の方が強いんです」
かっとなって前方をおろそかにしてしまった不破は、曲がり角で危うくタクシーにぶつかりそうになる。
車を降り運転手に頭を下げる。次いで、乗客に謝ろうと後部座席の窓に近づいた。
……あれ。見知った顔だ。いっせき――
名前を口にしようとする不破を、一石は慌てて、大声で制した。
15万の家賃でボロ屋に住むよりは、立ち退いた方が得だと思うんだけど、
50年も住んで思い出の染み付いてる家を離れるのって、やっぱ嫌なもんなのかね。
難しいテーマになってきたな……
で、一石たちの立ち位置が相変わらず不明なわけだが。
たぶん、じいさんのトコの土地建物を萌子さんが所有しているんだろう。
一石が不破につくか、いずみちゃんにつくかで展開が決まる。
法律的には借家人の方が強いって、いずみちゃんよく知ってるな。
15歳なのに。
立てこもりの時にも「借家人の方が強い」の一点張りだったから、
逆にそれだけしか借家法の知識がないようにも見える。
たぶん、東京に出てくるときに社長に言われたんじゃない?
しかし、いずみちゃん は頭いいんだろ。
弟が生まれるまでは一番取っていたんだから。
中学で借家法なんて習わんだろう
>>226 ソレダ!
実際、萌子さんはそれくらいしか絡みようがないよな。
ところでいずみちゃん、じいさんのこと「おじさん」って呼んでるんだな。
おじさんって年齢でもないだろうに……
232 :
1/2:2005/09/17(土) 00:00:54 ID:???
ROOM23 不破くんの不実!?
こんなとこで何してんですか、いっ「ちにち一歩、三日で三歩!」
何わけのわかんないことを、いっ「しそうでんの奥義、あたたたたたた、おゎったあ!」
名前を偽っていることを気づかせまいとする一石の奇行に、そんなことは知らない不破は困惑。
と、タクシー座席の奥に美人を発見。それが見合いの相手だとは思いもよらない不破。
「誰ですかあ? 仕事さぼって、まずいなあ。どーりで見合いもきっぱり断るわけだあ」
「ハハハ……会社のみんなには内緒だよ、頼む」
つじつま合わせといて、と一石は不破の懐にステーキハウスの割引券をねじこんだ。
車に戻り、いずみに苦笑しながら話し掛ける。割引券とはセコいなあ。
けれどいずみは、むすっとそっぽを向いている。あ……そ。喧嘩してるんだったね、俺たち。
オフィスに戻った。
仕事の首尾を聞かれ「あんな身勝手なじじいのとこには二度と行きたくないね」と答えると、
いずみは立ち上がり、「自分の家住みたいって行ってるのが、どうして身勝手なんですか!」
茫然とする社員たちを尻目に、また口論が再燃。
自分にも似た経験があるから、じいさんの気持ちがわかるのだといずみは言う。
「先輩も借家人なら味方になってあげてもいいでしょ!」
一方、不破はじいさんの家の持ち主に同情する。余計なものにいつまでも居座られる身を心配してしまう。
その言葉を聞き、いずみは眉を険しくする。「じゃあ、あたしのことも余計なんですね」
誰もそんなこと言ってない、ムチャクチャな解釈で人を責めるんじゃない!
声を荒げる不破を、千里がとりなした。ここは大人が折れてあげなきゃ。
職場はもう、険悪なムード。
不破は「郵便局に行ってきます」と出て行った。
233 :
2/2:2005/09/17(土) 00:01:52 ID:???
不破が出かけてからしばらくして、社長が出社してきた。
「不破ちゃんたらその気のないようなこと言ってて、しっかり萌子に会ってたのよー」
さっき社長の家に、本人から電話で報告があった。そうゴキゲンに説明する社長。
「そりゃあまた……」「そんなそぶり、みじんも見せないで」「照れてるのよ、きっと」
盛り上がる社員たちと裏腹に、いずみの表情は険しくなる一方。
「この際だからみんなでとぼけましょうよ。不破ちゃんのおとぼけぶりが見ものよ」
そんな社長の提案に、難波と千里も大賛成。
「いずみもいいわね、あたしたちが気づいてることは内緒よ」
嬉しそうに言う社長に、いずみは眉根を寄せた無表情でたった一言、「はい」
不破は頭を冷やしていた。
ちょっと言いすぎた。考えてみれば、いずみちゃんは何も悪くない。悪いのはあのじじいだ。
――社の財産どころか、疫病神かもしれん。
郵便局で用事を済ませ、帰路についていると、前方にタクシーが停まった。
出てきたのは――一石。
だが様子がおかしい。心がどこか行ってしまっているようだ。
「一石さん、一石さん」
何度か呼びかけると、ようやく「そうだ、俺は一石だ、一石次男……」と自分を取り戻す。
こわばった動作で、一石は不破に振り向いた。
そして、何か恐ろしいものを見たような、半ば常軌を逸した表情で、彼は呟いたのだった。
「君の判断は間違ってなかったよ、不破雷蔵くん。……へへへ」
北斗の拳って……
いくら同じ一橋グループっていっても、出版社が違うのに、いいのか?
一石さん・・・名前、次男かよ・・・。
長男とかいう名前の兄がいたりするのかな
何があったのか非常に気になる… まさか…化粧が落ちたところをもくげk(ry
次男なのにイチローって名前の人もどこかにいるらしいからな。
萌子の見合い話と、じいさんの土地の話と、
さらに不破といずみのケンカまで入ってきて、
この先どうなるかさっぱり読めなくなってきた。
つーか……収拾つくのか? 作者ちゃんと考えて描いてるのか?
実はあんな可愛い顔して三本目の足があったとか・・・(ガクブル
>>238 あー、ブルーウェーブの新人選手だろ?
ずいぶんマニアックだな。
社長と萌子は同級生って言っていたから、一応、
知合いだよな・・・社長はどうなるか知っていたのかな。
ばちが当たったんだ、人の名前をかたったりするから。
そう呟いて、一石は不破を自分のおごりで焼肉屋へと連れて行った。
不破にはどんどん肉を勧めるが、一石自身は一切れも食べようとしない。食欲がないのだという。
「ここまでしなくても社長に言ったりしませんよ、さぼってあいびきしてたなんて」
そう苦笑する不破に、一石は持ち歩いていた例のお見合い写真を渡した。不破はすぐ、本当の事情を察した。
人の見合いの相手と、人の名前をかたって会うなんて。目を険しくする不破。
「あれは見合いじゃないよ……出会いだったんだ」……嘘で塗り固めたね。
ずっと不破雷蔵でいる気ですか、いずれわかることでしょうと問うと、一石は暗い表情で、
「そのことなら心配しなくていいよ。もう……会わないから」
顛末。
萌子のマンションは外観も美しく、エントランスはカメラによる認証セキュリティ付き。
警備員までいる、最新式の豪華なものだった。
エレベーターで、萌子の部屋へ。広々として眺めも良い、6LDKのすばらしい部屋だ。
「雷蔵さん」と誘われ、さては寝室かと期待を膨らませる一石。
だが、案内されたのは、広いスペースいっぱいに水槽が並べられた部屋だった。
その水槽には――蛇、トカゲ、ヤモリ、イグアナ、他、ありとあらゆる爬虫類が、ぎっしり。
そして、彼らに囲まれ嬉しそうに笑う萌子の体にも。
3メートルはあろうかという 大蛇 が巻き付いていた……!!
「――そのあとは、よく覚えていない。気がついたらタクシーに乗っていた」
ナミフクでは社員たちが、帰りの遅い不破について噂していた。
不破は郵便局に行ったと本人は言っていたけれど、それにしては遅すぎる。
またどこかで萌子と会っているのだろうと、社員は皆、邪推。
困ったわねと言いながらも、社長の顔はニヤケっぱなしだ。
対して――いずみは、鬼のような形相だった。
一方その頃、そんなオフィスのやりとりなどつゆ知らず、不破と一石は焼肉屋で飲んだくれていた。
「この住宅難に、6LDKがヘビの住まいだと〜〜」
「土地なんかどうでも良かったんだ、一目惚れだったのに、爬虫類だけは……」
そして萌子も、そんな焼き肉屋でのやりとりなど知らず、大蛇を抱きしめながら「雷蔵」を想うのだった。
いくら美人でお金持ちでもこれは引いちゃうな… 独身なのも無理はない…
え、俺全く大丈夫なんだけど・・・
いずみちゃんが怖い……
爬虫類のせいで独身だったとしても、
その事実に萌子さんはまったく気づいてないっぽいな。
警備員の顔がひきつってるのも気づかないし、
懲りもせず男を招き入れるって……
よほどの天然とみえる。
こ…こういうことだったのか…。
確かにこれは引くよな、
爬虫類の趣味を受け入れられる人はそうそういないだろうから
今まで相手がいなかったのも頷けるがそれにしても…。
美人で超のつく金持ちなのに勿体無過ぎる…。
は虫類は、犬と違ってうるさく鳴かないし、散歩してやる
必要もない。屋内で飼っても毛をまき散らさない。
その辺が、ペットとしての利点だな。
爬虫類好きだからってあれほどの美人、ほっとく手はあるまい。
にしても、大家のときの話からして、不破・いずみ は婚約状態
にあるんじゃないのか?
いいじゃん、爬虫類。
ちょっと前にもウーパールーパーやエリマキトカゲがブームになったことだし。
>>250 結婚したら一緒に暮らすんだぞ、あの爬虫類たちと。
一匹や二匹なら慣れるだろうけど、あの数はさすがに…
>>250 不破にとっては方便だろうけど、いずみちゃんは半分本気なのかもな。
「他の女と……」みたいな感情も、いずみちゃんの怒りを押し上げてるように思える。
は虫類、特にヘビを嫌う人が嫌うのは、理屈じゃないんだ。
うちの母もそうで、テレビにヘビが映るだけでチャンネル替えるほど
のヘビ嫌いだよ。テレビからヘビが出るわけがないことは理屈として
は理解していたって、耐えられないものは耐えられないんだよ。
なんとなく、めぞんの九条と三鷹を思いだした
いずみちゃんが16になったときがどうなるか。
結婚するか、追い出されるか。
やっぱ16の誕生日が最終回になるのかな
っていうか、誕生日いつだ?
もう年の暮れなのにまだ16にならないってことは、早生まれなんだろうな。
で、この先エピソード詰め込むとすると……3月の終わりで、30日とか31日とか?
>>255 まぁ、耐えられない人も多いだろうけど、耐えれる人も
少なくはないだろう。不破なら、結構いけそうなんじゃ?
蛇がどうこうより、6LDKが蛇の住まいってのに反応して
いる。しかし、一石は無理っぽいなぁ。
話を聞いたときに、ひきつった顔にウロコが出てたから
不破もあんまり耐えられるタチじゃないんだろう
なんにせよ、萌子がいずみの恋敵みたいな立ち位置に
なることはないだろうな
261 :
1/2:2005/09/19(月) 00:00:57 ID:???
ROOM25 出ていきます
朝、いずみはどすどすと家を駆け回っていた。
借りていた運動着を返すため、おじいさんの家に行く準備をしていたのだ。
日曜の朝っぱらから騒がしいいずみに、起きてきた不破は不機嫌顔。
今度行くついででいいじゃないと言う不破に「今日返したいんです!」と声を荒げた。
俺は行かないからね、と二度寝に入る不破。
「わかってますよ。 い ろ い ろ と 忙しいでしょうから、先輩はッ!」
言い捨てて、家を飛び出した。
――その気のないようなこと言ってて、しっかり萌子に会ってたのよ。
――余計な物にいつまでも居座られてる方の身を心配しちまうよ。
ぎゅっと目をつぶり、回想を振り切らんとばかり、走り出す。
なんだかこの頃、いずみちゃんは妙に不機嫌だ。
歯を磨き顔を洗いながら、不破は思い返す。いろいろと忙しい? なんのこっちゃ。
と、ふと気づく。千歳烏山のじいさんの家、電車乗り継いで行けるのかな、いずみちゃん。
そう思ったとき、ドアが開いた。「あの、おじさん家までの道順教えてください」
……一体、どこまで行って戻ってきたのやら。
不破ちゃん家の電話番号? と社長は車内電話に聞き返した。萌子は電話の向こうで言う。
「うっかりして雷蔵さんの連絡先聞きそびれてしまって。ふふ、日曜だから部屋に招待しようかと……」
もうヘビ尽くしのマンションに連れて行ったと聞き、社長は驚く。
ともかく萌子は、雷蔵さんがよっぽどお気に入りのようだ。電話番号を教え、一言添えた。
「家に掛けると女の子が出るかもしれないけど、妹みたいなものだから誤解のないように」
262 :
2/2:2005/09/19(月) 00:01:52 ID:???
図を書いてもらい、道順を覚える。
しっかり暗記したが、不破はそれでもいずみが複雑な乗り換えを一人でできるか心配そうだ。
やっぱり一緒に……と言いかける不破を、いずみは「いいですってば一人で!」と突っぱねた。
「わかった、ちょっと待ってて」
不破はコンビニへと出かけていった。せめてもと地図を買ってこようとしているようだ。
ひとりになってから、いずみは、やっぱり一緒にと言えばよかったかと後悔。
と、その時電話が鳴った。その相手は、仁藤萌子。
不破がいないと知り、電話があったことだけ……と切る間際、萌子は、はたと気づいて言う。
「あなた妹さんね!? あたくし雷蔵さんの友人で萌子っていうのよ、仲良くしましょうね」
――妹。
受話器を置いたいずみは、心穏やかではない。
心を決め、押し入れをかき回し、上京したときに使ったバッグに物を詰めていく。
そこに不破が帰ってきた。
「これ持ってって」
ミニマップをいずみに差し出しすのには答えず、いずみは、仁藤という人から電話があったと伝える。
不破は思い返す。一石からの頼み――仁藤萌子って人から電話があっても無視してくれ。
いずみは思い返す。社長の呑気な発言――不破ちゃんのおとぼけが見ものよ。
結果。
「誰だろ、知らないなあ」と不破がとぼけ、そしていずみの堪忍袋の緒が、切れた。
「先輩、短い間でしたがお世話になりました」
は? 事情を把握できない不破に、いずみは手荷物を持ってすっくと立ち、言い放った。
「あたし、今日からおじさんの家に住むことにします!」
萌子さん、マンションに連れてって大丈夫だったのかって聞かれて
「うちの子たちもすごく雷蔵さんのこと気に入ったみたいで……」って、
ホントにヘビ好きが好かれないってことわかってないんだな。
すごい天然だ。
いずみちゃんツンデレ化か?
いずみちゃんはどこに出ていく気なんだろう
あ、じいさんちに転がりこむのか?
ようやく、じいさんの話と見合いの話が繋がった。
この展開、最初から計算してたとしたら作者は神。
誰も悪意ある嘘はついてないのに、どんどん誤解が広がっていく様は圧巻だな。
妹って言われてムッとくるとこって、
なんか逆に妹っぽいよな。
268 :
1/2:2005/09/20(火) 00:00:37 ID:???
ROOM26 キャベツ畑でつかまえて
じじいと一緒に住む!?
いずみの発言に、不破は大反対。
この前の「自分が余計だ」ってのをまだ気にしてるのかと訊ねるが、
いずみは「言いたくありません」としか言わなかった。
不破にはいずみが何を考えてるのか、わけがわからない。
けれどいずみは、わけがわかんないのは先輩の方です、と視線を逸らす。
「その方が先輩にとってもいいでしょうから」
……どういうこと?「言いたく、ありません」
何も説明しないまま、お世話になりましたと靴を履くいずみに、不破も愛想が尽きた。
「あっ、そっ。好きにすれば」「……さよなら」
こうして、いずみは家を出ていった。
わけがわからない。10も年下の女の子だから、やっぱムリがあったのかなあ……。
気づくと、パーカーのポケットにミニマップが入ったままだった。
またいずみは大事な物を忘れていって……。
あーもう、しょーがねえよなあ! こっちが大人になんなきゃあ!!
苛立ちを抑えて、不破は車を全速力で飛ばした。
千歳烏山駅。いずみが改札を出ると、不破がワゴンに寄りかかって立っていた。
「帰ろうよ、いずみちゃん」
不破の姿に、一瞬顔がほころぶが、すぐに顔をしかめ直す。あたしだって意地があります。
「わかったよ、じゃあじいさんの家まで送るから」
にこにこ顔を崩さない不破に、強引に車に乗せられてしまう。
車内で、不破は言う。「行ったって、じいさんが住まわせてくれるとは限らないよ」
そんなことない。おじさん、ほんとはいい人なんだから。
そんな会話をしているうちに、車が停車した。けれど、まだじいさんの家ではない。
269 :
2/2:2005/09/20(火) 00:02:58 ID:???
「降りて」不破に言われるままに歩く。そこは、一面のキャベツ畑だった。
だが、キャベツの葉は何故か潰れ、土にまみれている。
北風が、吹いた。
「東京にもこんな畑があるんだなあ。……なんて思ってるでしょ?」
畑の脇には「この土地は農地です。この土地からみなさんに新鮮な野菜を供給しています」と書いてある。
……違うんですか?
不破の答えは、意外なものだった。
「このキャベツはどこにも供給されないよ。ここで腐ってくだけだよ」
地主は土地の値上がりを待っている。だがそれでは格好がつかないので、とりあえず畑にしている。
それに畑だと税金が安く済む。だから、利用されてない無駄な土地が東京にはたくさんある。
「自分のことだけ考えて、土地がムダになっていくんだ。
じいさんのしてることも、同じだと思う」
強く吹く風を縫って、不破の言葉はいずみに響く。
いずみはそれでも、じいさんを否定したくはない。だって、おじさんは土地が値上がるのを待ってるわけじゃない。
あそこを借りて住んでるだけだ。それも、ずっと前から。
「それともおじさんはキャベツだっていうんですか。腐って……」
言葉にうまくできない。
「……借りて、住んでるだけなんです……」
風がふたりの間を吹き抜けていく。
沈黙の末、不破は言った。「送ってくよ」
いずみは、今度は素直に頷いた。
のそのそと進む車内に、会話はない。じいさんの家の前に車を停め、門をくぐる。すると、
「 出 て け ―― ! !」
大声が響いた。どうも縁側の方で、じいさんと誰か2人組が悶着を起こしているようだ。
「田之倉さん、よくお考えください」と言っているのはあの地上げ屋だ。
「そうですよ、お父さん」もう一人の中年女性は、じいさんの家族だろうか。
「この土地を売れば巨額な……」言いかける地上げ屋を「帰ーれ!」とはねつけ、
「わしの土地だ! 誰にも売らん!」
意外な宣言に、不破は驚いた。……じじいの土地!?
じいさん嘘ついてたのか…
不破すげー、大人だなあ。
俺は2005年に不破と同じ25歳になるんだが、
その頃の俺は、こんな男になれているだろうか……
優しいんだな、いずみちゃんは。
それにしてもあれ爺さんの土地だったのか。
ちょっとこれは目が離せない展開になってきた。
萌子の方はどーなったんかな。
土地事情、普通に勉強になった。
うちの近くにも、何作ってるかは忘れたけど畑があって、
農家っぽい人住んでないのになーと思ってたら、
そうか、土地の値上がりを待ってたのか。バブルすげえもんな。
あれ? あのボロ家で家賃15万とか言ってなかったっけ?
土地がじいさんのモノで家が他人のモノ… は考えにくいから
家賃は適当に言ったんだろうな。
ヒント:貨幣価値
ローン・・・ってボロ屋だわな。
土地の固定資産税、15万/年・・・とかって
そりゃいくらなんでも高すぎか。
5、60年前っていうと、昭和10年代か……
その頃って、貨幣価値どのくらいだったの?
余裕で補助通貨があった頃だしな
ちょっとググってみるわ
281 :
1/2:2005/09/21(水) 00:01:58 ID:???
ROOM27 遺産過多の人々
「わしの土地だ! わしの家だ! 売らんといったら 売 ら ん !」
声を荒げ、ステッキを投げるじいさん。
地上げ屋と中年女性がひるんでいるうちに、じいさんは家の中へと戻っていった。
やれやれ、聞く耳を持ってない。ぶつぶつと愚痴りながら地上げ屋は去っていった。
残った女性に誰かと訊ねられ、不破は仕事で世話になってる者ですと名乗る。
女性は「あんまりお父さんに仕事世話しないでください」と居丈高に言った。
へんに生活できちゃうものだからいうこと聞いてくれない。
まるで働くのが悪いことみたいに。去っていく女性を睨み、いずみも怒り心頭だった。
じいさんと、話す。
「持ち家ならそう言えよな。俺らてっきり借家だとばかり」
そもそもそう勘違いした原因である「家が15万」という発言は、買ったときの値段だったらしい。
きったね、と言う不破にじいさんは怒鳴る。
「勝手に勘違いしたんだろが。わしん家が借家だろうが持ち家だろうが、てめーにゃ関係ねーだろ」
だが、それが不破といずみには関係おおありだ。なにしろ二人は、じいさんについて
「借家を出て行かないひとりもののガンコじじい」という設定で言い合いしてたのだから。
いずみちゃんはじいさんのために一緒に住むとまで言ったんだ。
その不破の言葉を聞き、じいさんは口をへの字に曲げる。ケッ、悪ふざけが過ぎるぜ……
「帰ーれ」後ろを向いて、座り込む。
「仕事期日までに頼むぜ」と、運動着の入った紙袋を置いて帰っていく不破といずみ。
その姿が見えなくなったのを確認すると、じいさんは運動着の紙袋を探る。
中には、ラッピングされた小包があった。それを開けると、バブが出てきた。
同封されていた、いずみの手紙。
――運動着ありがとうございました。入浴剤は薬用ですから、体に良いと思います@
眉を寄せて、口はへの字にぎゅっと締めて。
じいさんの顔は、まるで今にも泣きそうな子供の表情のようだった。
282 :
2/2:2005/09/21(水) 00:03:25 ID:???
よかったの? と訊ねる不破。いずみは、はあ、と気のない返事。
よく考えたらおじさんの迷惑だし、それに……
「じじいの持ち家だって知ったら、考えがわからなくなった?」
ピタリと、心の内を当てられてしまう。でも、それだけじゃない――
「おじさんのこと心配してただけじゃ、ないんです。先輩の家を出ようと思ったのは……」
え? と不破が聞き返そうとしたそのとき、じいさんが追いかけてきた。
「おい。お茶でも飲んでけ」
お茶を湯飲みに注ぎ、3人ですする。誰も何も言わない。
「なんかしゃべれ、小僧。お茶ごちそうしてやってんだ」
「さそったのはじいさんだ、なんかしゃべれ!」
いつもギャーギャーうるさいくせに、じいさんこそ、と互いをまた罵りあう。
てめーがうるさい、じいさんがうるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい。
「 う る さ ー い ! 」
叫んだのは、いずみ。「二人ともうるさい! ……です」
しん、とする。
じいさんは、訥々と語り出した。
「この家も昔は人がいっぱいいて、うるさかったもんだ」
ばあさんがいて、息子がいて娘がいて、そりゃあにぎやかだった……
今はもうただ広いだけで寂しいこのボロ家に、じいさんの声は染み渡っていく。
「なあ、教えてくれ」張り裂けそうな表情で、じいさんは心の内を告白した。
「わしはここが好きなんだ。ここにいたいんだ。そんなに悪いことなのか?
――なあ?」
じいさんかわいそう… 昔の思い出が詰まった家を守ってたのか。
一気にじいさん擁護派になってしまった。
15万は買ったときの値段だったのか……
で、今のお金に直すといくらなんだ?
ヘビとか軽い話の後で、また重いテーマになってきたな。
これでもじいさんが出て行くのに賛成なのか、不破は?
じいさんほんとはいい人なんだな。
江戸ッ子だねぇ
自分の土地、自分の家に住むのは当然の権利。
当然の権利を行使してるだけなのに、迷惑がられてしまうという
状況の方が異常なわけで。
まあ、都会ってのは異常なところなんですな。
「二人ともうるさい! ……です」のいずみちゃんもかわいいが、
今回の話で一番かわいいのは、「茶」じゃなくて「お茶」って言うじいさんだと思った。
>>280によると、昭和10年代の米価が丁度15円程度か。
それが今だと・・・よくわかんないけど、20000円くらいでいいのか?
つまり15万円は2億円相当。
・・・え、マジ?
いずみちゃん、マジでいい子だな……
ちょっとくらい萌子に嫉妬したって許す。
不破もいい奴だよな……
いずみちゃんにあんな態度とられても、こんな好意的解釈できるなんて。
なんかもう、この漫画のキャラ、みんな大好きだ。
292 :
1/2:2005/09/22(木) 00:02:37 ID:???
ROOM28 じいさんが正しい
おめえらが生まれるずうっと昔から、わしはここに住んどる。
それを売れだの、どけだの、金が手に入るだの……。
わしがこの家を買った頃は、このあたりはぜんぶ畑だった。
電気なんかまだ通ってなくてな、晩飯なんかは外で食ったもんだ。家の中より明るいからだ。
楽しかったさ。電気や水道がなくたって家族がすごせる家だったからな。
ところが急に人が増えてきた。電気やガスが入るかわりに畑が減っていった。
勝手に税金も高くなった。そこへ、ここのところの地価高騰だ。
友達はみんな地上げにあい引っ越しちまった。
それなんかまだいい方で、死んじまった奴の家族なんか、相続税払うために泣く泣く土地や畑を処分した。
そいつらがなにをした? ただ住んでただけだ……。
せめて死ぬまでくらいはここに住みたい。なにもかもしみついたこの家に住みたい。
それがそんなに悪いことなのだろうか。
沈黙のあと、不破はじいさんの問いに答えた。
「そりゃあ…… じ い さ ん が 正 し い 。」
華麗なる前言撤回に、いずみも唖然。
ここいらの畑はみんなうそで、土地の値上げを待ってるって言ってたのに。
だが不破は、すべてがそうとは言ってない。
「土地がない、住むとこが狭い、家賃が高い。でもそれは地方出身者の考えだった。
じいさんは悪くないよ。きっと悪いのは、東京をこんなにしちまった誰かだ」
でもな、と不破は続ける。こんなところに一人でいるのはやっぱり良くない。何かあったときが心配だ。
今の東京や今のこの町は、じいさんを助けてはくれない。
「だからいずみちゃんは、じいさんと住もうと考えたんだ。
俺にはわかるよ、俺がいずみちゃんと住もうと思ったことと、同じ理由だから」
心配した上でのこと……そう聞かされて、じいさんは茶を一口すすり、初めて素直に言った。
「……ありがとよ」
だが、そう心配するねい。わしは頑丈だ、殺されたって死にゃあしねえ。
いつものしぶとい顔に戻り、じいさんは笑って二人を送り返した。
293 :
2/2:2005/09/22(木) 00:04:06 ID:???
おじさんはきっと先輩が好きなんだ。毎月先輩と喧嘩するのが楽しみだったんだ。
帰りの車内で、いずみはそう思った。
けど……。いずみは、俯いた。どうしたのと問われ、おずおずと答える。
おじさんのことを心配しただけじゃないんです。出て行こうと思ったのは……
「言いたくないです……かな?」
意地は、もう張れない。正直に不破に告白する。
その気がないって言いながら先輩は土地つきの美人と付き合ってるのをとぼけてるみたいで、
相手も先輩を気に入ってて、そんなときにあたしみたいなヨソ者はジャマ者っていうか、
それに先輩もやっぱり家や土地が欲しかったのかなってカッとなって、それで……
脱力する不破。根も葉もないわけじゃないからなあ……。
刑の執行を待っているようないずみの表情に、不破も本当のことを言う。
「誓って言うけど、俺はつきあってないよ。厳密には他の誰かがつきあってたんだ、誰だかは言えないけど」
信じたいような信じられないような表情のいずみに、さらに言う。
いずみちゃんにつらい思いをさせたくなくて一緒に住もうと思った。それが先輩としてやるべきこと。
「だから、いずみちゃんがつらいと思うようなことを俺はしないよ」
すべてを打ち明けてから、もう一度訊ねる。どうする、俺ん家に戻っていいの?
照れ笑いしながら、いずみは答えた。「よ、よろよろよろしくお願いします」
ごたごたは解決。これで仲直りだ。
せっかくの日曜だから、どっか行こうか。二人を乗せた車は、よみうりランドへと舵を取る。
それから日は流れ、1990年ももうほとんど終わり。
師走とはよく言ったものだ、ナミフクはますます忙しい。
一石は、そんな忙しい時期なのに、一週間の休暇中らしい。困ったものだ。
今日はじいさんの仕事の期日だ。午後には不破はじいさんの家に行かないと――
……と思っていたところに、宅配便が届いた。
大きな段ボール箱3つ。田之倉康伸……じいさんからだ。
中身はあがった宛名書きである。おかしいな、なんでわざわざ宅配便で?
中を探っていると、宛名書きではない何かを見つけた。古い書類の綴り込みだ。
表紙には大きく、墨字でこう書かれていた。
土 地 権 利 証 書
じいさん・・・死んだのか?
いずみちゃんかわいすぎるうううううううううううう
じいさんの昔話やべえ!
超リアリティある!
ホント泣けてくるよ、これは。
楽しく一緒に過ごした娘が、
今じゃ「余計なことしないでって言ってるんです」かよ……
金は人を変えるからな。額も半端じゃないだろうし。
あーん!じい様が死んだ!
じいさまよいしょ本&じいさまF.Cつくろー!って思ってたのに…
くすん…老人薄命だ…
・゚・(ノД`)・゚・うっうっう…ひどいよお…ふえーん!!
この間「今、時代はじいさんだ!」の葉書きを出してまだ2週間じゃないですか!
どーして、どーして!?あれで終わり!?嘘でしょ!?
信じられないよおっあんな入浴剤ごときに殺られるなんてっ!!
堀井と差がありすぎるわっ!!生き還りますよね?ね?ね?
……泣いてやるぅ・゚・(ノД`)・゚・
私はあのおそろしく偏屈な彼が(たとえステッキオタでもさ!ヘン!)大好きだったんですよっ!!
じいさまあっ!死んじゃ嫌だああああああっ!!
先生のカバッ!!え〜ん・゚・(ノД`)・゚・
>でもそれは地方出身者の考えだった。
>じいさんは悪くないよ。きっと悪いのは、東京をこんなにしちまった誰かだ
その誰かってのは、東京に集まってきてその人口密度を高くした
地方出身者たち自身だ。不破もいずみもその一部だよ。
>>299 江戸の昔から東京は地方出身者が集まってできた街だからなぁ。
じゃあ悪いのは徳川家康ってことで。
家康を批判するとは不破も大きく出たな
それにしても、さりげなく休暇を取ってる一石はどうした?
傷心旅行かな?
303 :
1/2:2005/09/23(金) 00:00:37 ID:???
ROOM29 危険な誘惑
間違いなくこれは、じいさん家の土地権利書だ。どうしてこんなものが……。
そこでいずみが気づいた。宅配便の住所が病院になっている。仙川救急病院……何かあったんだ。
社長と不破といずみ、3人で病院へと車を飛ばした。
じいさんは胃潰瘍で2日前に担ぎ込まれ、手術をしたらしい。
見舞いのため病室のドアを開けると、「けーれーっ!」いつも通りの大声。
だが、次いで飛んできたステッキは、へろへろと力がなかった。
追い返されたのは、以前じいさんの家で会った女性――じいさんの娘。
病気になれば少しはおとなしくするかと思ったのにと言いながら、じいさんの娘は帰っていった。
「3人雁首そろえて見舞いたあ、よっぽどヒマな会社らしいな」
ベッドに臥せって、じいさんは不破たちを迎えた。減らず口をたたけるのを見ると、まだ元気そうだ。
物騒なもん送りつけてくるからと言う不破に、家に置いといたんじゃますます物騒なんでなとじいさんは返す。
じいさんは言った。「権利書は返さなくていい。小僧、おめえにやる」
人間欲が絡むと情ってもんがおかしくなる。あんなもんねえ方がいいんだ……
そう、寂しそうに呟くじいさん。
ベッドの脇にはリンゴが置いてあった。じいさんの娘の見舞い品だ。
入院3日目でようやく現れたと思ったら、胃を悪くしてるのに食べ物の見舞い。
あげくが挨拶のあと出た言葉が、「お父さん権利書どこ?」ときた。
情けねえ、とじいさんは顔をしかめた。
ずっとあそこに住むと言って頑張ってきていたが、金に目のくらんだ家族の姿は見てられない。
自分もこのとおり老いぼれだ。おまえらがもらってくれるとな、うれしいんだが……
そう微笑むじいさんの表情は、本当に心からのもので。
「とにかく預かっておくわよ、話は退院してから、ねっ」と言う社長。
「あたしになにかできることがあったら……」と申し出るいずみ。
けれどじいさんは、身の回りのことならあいつがやってくれるから、とドアの方を指さした。
そこに来ていたのは、あの地上げ屋。
皮肉なことに、家で倒れていたところを助けてくれたのは彼だったのだそうだ。
結局は、地上げ屋もお人好しだったのだろう。
304 :
2/2:2005/09/23(金) 00:01:33 ID:???
帰りの車の中。
「あんな物騒なもん、退院したら返しますよ」
きっぱり言う不破だが、社長はすごい剣幕で主張する。
この東京で土地が持てる、あの狭っ苦しい部屋からおさらばできる。
こんなチャンスは本当にもうこれっきりよ!
「ほら!」と社長は外を指さす。前方に住宅展示場があった。「見るだけ、タダなんだから」
ということで、寄っていくことにした。
展示場には、けっこう人が来ていた。
来客用のサブキッチン。広い応接間にはあこがれの43インチテレビ。
次々紹介される住宅設備に、社長ははしゃぎっぱなし。
建てるのにはいくらくらいかかるのかと尋ねてみると、なんと5千5百万もするらしい。
「ばからしい、土地だけあったって金がなきゃしようがないでしょ」
だが、帰ろうとする不破の声を聞きつけて現れたのは、販売部部長。
慣れた手腕とニコニコ顔で、不破たちを席につかせ、メロンを差し出しセールスを始める。
金がなくても、土地を担保にすれば銀行がいくらでも貸してくれる。
私どもがお売りするのは家だけではありません。私どもがお売りするのは――
「ズバリ、夢です」
夢……。呟く不破の声色が変わった。いずみは不審に思い、不破を見る。
表情をゆるませ、何か遠くの方を見つめるような顔つきで、不破は呟いていた。
「夢か……」
不破・・・やる気か・・・。
土地ってほいほいもらえるものなの?
こういうの詳しくないから何ともいえないんだけど
土地含めて8000万くらいの家だとして、土地分引いたらいくらくらいになるの?
ごめ、、5千5百万ね・・・
相続税はかかるよな。いくらだかは知らん。
土地自体は、やるって言われたらタダでももらえるんじゃない?
また土地の事でいずみちゃんと喧嘩にならなければいいけどな・・・
この場合、法律上はどうなんだろ。
不破はあくまで「あずかる」という立場だし。
じいさんが回復しても、亡くなっても、権利書めぐって
親族や地上げ屋も含めて、もめそうな気がするな。
地上げ屋としちゃあ、遺言もなしで死なれると面倒そうな家族の下に相続されるだろうから、それ嫌ったんじゃまいか、
と夢も希望もないことを言ってみる。その上で親身になって世話すれば・・・
家族は土地、売りたがってるんじゃないの?
結託してじいさんを説得してたみたいだし。
ROOM30 夢の前日
夢を見ていた。近い未来、いずみと暮らす広々とした家の夢。
ベッドを降り、机の中を大事そうに確認し、安堵。
そんな不破の手には、あの土地権利書があった。
「やっぱりトイレは1階と2階両方欲しいわよね」「個人の書斎ですよ、書斎」
「眺めのいい所での食事はおいしいわよ。そうだ、いっしょのこと3階建てにしない?」
仕事中、どんな家を建てるかで盛り上がる社員たち。
何度も言いますが、家なんて建てませんよ、今回の土地のことは単なる棚からぼたもちだ。
不破がそうはねつけると、「やっぱりもらう気になってるんだ」と指摘される。
と、そのときチャイムが鳴った。やってきたのは、三ツ星銀行野中支店の支店長……
支 店 長 !?
どうやら融資の相談にやってきたらしい。
「お家をお建てになると伺ったのですが」という支店長に、不破はきょとん。
家なんて建てませんと言うと「わかりました、いずれまた改めまして」と帰っていった。
ご挨拶のしるしにと置いていったのは、なんと高価な洋酒。
無駄な時間を過ごしちまったと言いながらも、不破の顔はにやけている。
するとまた、チャイムが鳴り来訪者。今度は日輪銀行の支店長。
少し話をしてから、不破は申し訳ないのですがと仕事に戻る。
だが間髪入れずにまたチャイム。
次々と、銀行のお偉いさんがやって来ては挨拶をしていく。
バウムクーヘン、石鹸、来訪者のたびに高級品が増えていき、ゆるんでいく不破の表情。
そしてついには。
「ですから、土地があるといってもぉ、法律的にまだいろいろありますしい」
ははは、まいったなあー。仕事そっちのけで不破は、お偉いさんたちの応対をしていた。
314 :
2/2:2005/09/24(土) 00:03:43 ID:???
もう5時半なのに、仕事がほとんどさばけていない。
こりゃ残業だと焦る不破を尻目に、社員たちは帰っていく。
手伝ってくれないのかと言うと「自業自得でしょ」と返された。
ショックを受けていると、社長が言った。「いずみも帰るわよ」
本日カタログの山が届いて寝る場所がないので、いずみは社長の家に一晩泊まることにしたのだ。
いずみに声を掛けると、いずみはこわばった笑顔で、
「今の先輩、見てたくないです」
そう言って、去っていった。
夜も更け、一心に仕事を片付けている不破。
そりゃまあ仕事に支障きたしちゃシャレにもなんないだろうけど……
土地があるってだけでペコペコするんだものなあ、こんな若僧に……。
「じいさんが言ってた情をなくすって、こういうことだったのかなあ。ねえ、いずみちゃん」
いつものように話を振り、それから気づく。いずみは今夜、ここにはいない。
権利書を机から取り出し、それを見つめながら煙草を一服。
「きっと夢だね、これは……」
所狭しと段ボールの積まれた部屋に、不破の呟きは吸い込まれていった。
別に怒られることしたわけじゃないのにかわいそうだ
銀行の人たちは権利書のことどっから聞いてきたんだ?
爺さんとこに行ってた不動産屋か
住宅展示場の連中ジャマイカ?
不動産屋は自分のところに売らせてマンション建てたいんだから、
家を建てられたら困る。わざわざ銀行に教えるのは、住宅展示場の
方だろう。
でも、いったいいくつの銀行に教えたんだ。すごく節操がないぞ。
それがバブルってやつだよ・・・
これだけ持ち上げられれば、不破でなくとも調子に乗るよな
むしろ無責任にあおってる社員たちのほうがヒドス
住宅展示場の販売部部長、すごい食いつき方だったもんな。
りびんぐはコメディタッチだけど、実際土地持ちのところに融資の相談しにくる銀行って、こんな態度なの?
いくら土地の値段は今うなぎのぼりで、投資すればするだけ返ってくるっつってもさ。
322 :
1/2:2005/09/25(日) 00:02:12 ID:???
ROOM31 ことの顛末
夢を見ていた。家賃30万で4畳半でも超ラッキーな、うさぎ小屋暮らしの東京の夢。
呼び声に目を覚ますと、いずみが隣にいた。仕事を片付けた後、机で眠ってしまったようだ。
一人だと寂しかったよと笑う不破に、「またムッとなってごめんなさい」といずみ。
仕方ない。確かに昨日の俺は、やっぱどうかしてたから。
「土地は返すよ。それが当たり前だったのに……自分の場所は自分で見つけなきゃ、ね」
正気に戻った不破に、いずみは笑顔を贈った。
社長に、権利書の処遇について伝える。
あたしたちのユメとチボーが……とショックを受ける社員たち。
一生ここで暮らすことになるわよ、萌子とうまくいってれば。
そう社長が愚痴をこぼしたその時、チャイムが鳴った。
玄関に立っていたのは――1週間の休暇を済ませ、真っ黒に日焼けした一石だった。
派手なジャンパーを着た彼にまとわりついているのは……ヘビだ! ドン引きする一同。
すると一石の後ろからは女性が現れた。萌子だ。
「僕たち、ケッコンします」
何も聞いていなかった社長はびっくり。何がなんだかと呟くと、一石は萌子の肩を抱いて、
「大切なものを手に入れるために努力しただけです。そして最後に……愛は勝つんです!」
唖然とする社員たちの中、ひとり不破は同意する。
僕は欲に目がくらんで、ラクしたいがために大切ななにかを失うところでした。
あなたは自分の力で幸せを手に入れた、立派ですよ。
一石は、君の分まで幸せになるよと笑った。
323 :
2/2:2005/09/25(日) 00:03:23 ID:???
「そうか、いらねえかい」
かわいそうだからな、じいさんのボロ屋を取っちまっちゃ。
そう言う不破に「けっ」と返す時も、ベッドに臥せったじいさんは、言葉とは裏腹に穏やかな顔だ。
じいさんは、あの地上げ屋に土地を売ることに決めた。建ったマンションの一室をもらうのだという。
「あんなでも情がうつっちまう。世話になってるしな。
それに病気すると、このあとの自分のことが気になっちまう」
また茶を飲みにこい! そう言うじいさんと、別れる。
病院の帰りの道すがら、不破はいずみと語った。
「本当はどこにあるんだろうね、自分たちだけの場所って……」
後日談。
「そんなっ、売ってくれるって言ったじゃないですか!」
「売らんと言ったら売らん! 帰ーれ!」
威勢のいい言葉とともに、ステッキが舞う。
負けないぞーと退散していく地上げ屋を、封筒を届けにきた不破たちは目撃した。
じいさんに声を掛けると、
「あー、茶でも飲んでけ、 宿 無 し 。 」
退院して、ますます元気。選択を誤ったかな、と苦笑する不破であった。
何やってるのかと思えば、一石さん……
は虫類嫌い、克服したんだ。予想外。
じいさん、仮にも命の恩人に……一度は約束しておきながら
前言を翻し、あげくにステッキ投げつけヒドス
それがじいさんの愛情表現なんだろ。
つまりはツンデレなんだ。
結局、萌子さんは不破とまったく絡まずに終わったな。
こういう展開になるとは思わんかった。
絡ませるつもりが失敗したのかなーと思ったけど、
「見合いにしろ権利書にしろ、降って湧いてきた幸運を努力なしに掴むべきじゃない」
ってテーマとしては共通してるんだよな。
意外と深い話だった。
爬虫類嫌いを克服したのって、一石には実は相当な努力だったんだろうけど、
ほとんど描写がないから、うまく逆玉に成功した無責任男って感じになっちゃってるような……
あんまりいい印象じゃないなあ
一石と萌子はもっと引っ張れば、社員たちの勘違いが続いて
まだまだドタバタできたのに。ここでバレちゃうのはちょっと
惜しいな。ハ虫類克服のために頑張る一石とか、なぜかそれに
協力させられる不破とかも見たかった。
とりあえず、当初の目的である「逆玉で土地ゲット」は成功したわけだ。
これでナミフクも不破の家に居座り続ける必要はなくなるな。
よかったよかった。
そういや土地ゲットしたんだな。マンションとかも持ってるし。
これで会社も安泰かな。
確か、会社はあの辺の地域でないと機能しないんで
なかったっけ?一石が土地・マンションゲットしても、
何も変わらないのでは。
あーそうか……
せめて萌子の力添えで不破が引っ越せればと思ったけど、それも無理だよな。
何も変わらずウサギ小屋暮らしか、可哀想に……
けど、もう落ちるとこまで落ちてるから、あとは上がるだけだよな?
まさか今回の冒頭の夢みたいなことにはなるわけないし。
いや、わからんよ
たとえばさらに居候が増えるとか・・・
337 :
1/2:2005/09/26(月) 00:02:50 ID:???
ROOM32 別荘暮らし……
――明日は、3月30日……。何の日だか、知ってる?
喫茶店で、不破は深々と頭を下げた。
「えーどうも、長い間ありがとうございました」
時子に借りていた50万も、ついに返済である。
まあしかし……借金までして引っ越したのに、一体誰の部屋なんだか。
時子は笑って、
「いいじゃない、あんなかわいい女の子と住めるんだから」
まあ……ね、と気のない返事をする不破に、笑顔で時子は尋ねる。
「もうしたの?」
何を言い出すんだと怒る不破。あの子は15歳なの、15歳!
時子には、そんな不破の鉄の防波堤がお気に召さないらしい。
「いずみちゃん、雷ちゃんのこと好きだよ、きっと」
不破にはそう言われても、いまいち信じられない。つれなく時子に返す。
「俺に頼ってるだけだよ、あんまり愛情に恵まれてなかったみたいだから。
そのうち好きな男でもできるよ。それでいいじゃん」
「ふみゅうー、つまんない」……暇潰すなら別のことで潰せ、専業主婦。
町を歩くいずみ。
曲がり角にさしかかると、不破と時子が立ち話をしているのが見えた。
反射的に建物の影に隠れた。
どうやら、停めてあった車がレッカー移動されているようだ。
不破は時子に撤去料数万円の借金を頼み、「いいかげんな奴」と苦笑されている。
二人が去るのを見届けてから、いずみはショーウインドウに写る自分に尋ねた。
――どうして隠れたの?
338 :
2/2:2005/09/26(月) 00:03:59 ID:???
会社で不破は、社長に泣きつかれた。
社長の家の近くの月極駐車場が地上げにあって、車を停めるところがないので、
しばらく会社の車をどけて、自分の車を会社の駐車場に停めさせてくれというのだ。
「レッカー移動されちまいますよ、青空駐車は罪が重いんですよ」
呆れる不破に、社長は打開案を出す。
会社の車は不破が仕事場として使い、ミニパトの取り締まりが来たらすぐに逃げる。
夜の取り締まりに関しては、車で寝ることで対処。
ちょっとした別荘気分でしょ、と笑う社長。「夜勤手当出すわよ、1600円」
レッカー代の借金のことを考えると、提案を飲むしかない不破だった。
車の数が増える一方、都内の駐車場不足は慢性化。そんな駐車場事情の東京じゃ、これもやむなし。
……理解はできるが、こんなとこで仕事するなんて。ふてくされていると、
「つきあいます」
仕事道具を持って、いずみが車にやってきた。
無言で仕事をする後部座席のいずみを覗き見る度に、時子の言葉がリフレインする。
――いずみちゃん、雷ちゃんのこと好きだよ……きっと。
夜。
いずみは一人で天井を見上げる。孤独だ。姿見に映る自分に、何かを問う。
車の中、寝袋で夜の冷え込みに凍える不破。脳裏に繰り返し、時子の言葉が響く。
ふと気づくと、布団を抱えてやってくる少女の姿が見えた。
「あの……おつきあいします」
「いずみちゃん……」
新展開か・・・
あからさまにラブコメしてるなー
( ゚∀゚)o彡゚ カーセックル!カーセックル!
>「ふみゅうー」
萌えた。
今度は駐車場問題か。
住宅や土地をテーマによくいろいろネタを思いつくな。
いつもだけど、社長の不破に対する態度は、人間扱いじゃないな・・・
わがまま言い放題、こきつかい放題。
自分の家の問題持ち込むなら、せめて不破の言い値にしてやるとかできないかね・・・
不破もおとなしく使われてる場合じゃないよ。
今回不破が口にくわえてるの、禁煙パイポだよな。
なんかの伏線か?
路上駐停車って、場所にも拠るだろうけど、
即は取り締まられないよな。何時間毎に
移動させていれば、一応OKだったような。
346 :
1/2:2005/09/27(火) 00:01:24 ID:???
ROOM33 密室へようこそ。
運転席で寝袋に包まれる不破。後部座席で布団にくるまるいずみ。
「先輩……」と、いずみが話しかけてきた。「どうして時子さんと会うんですか?」
別れちゃった男女が仲良く会ってるなんて。
不破にはピンと来ない。お茶飲んだりするくらいで、怪しい関係じゃ……。
それでもヘンなんです!と顔を真っ赤にするいずみに、逆に尋ねる。
「どうしていずみちゃんがそんなこと気にするわけ?」
答えに詰まるいずみの顔を、見てしまう。うるんだ瞳、上気した頬。
――いずみちゃん、雷ちゃんのこと好きなのよ。好きなのよ。好きなのよ。
「先輩……」小さく開いた唇から、こぼれる言葉。「あたし……」
鎮火を終えた消防車が通ってゆく。
カンカンとサイレンが鳴り、その光が二人を照らし出す。
消防車は彼方に消えた。――我に返った。
「な、なんか飲み物買ってくる」
あわてて車から降り、走り出す。
まずい。確かに俺の防波堤は鉄でできてるけど、水位がギリギリなんだ。
何か風波が立てばあふれちまう。もしどちらかが好きなんてことになったら――
……お互いが好きなんてことになったら――
頭じゅうに広がるいずみの裸の想像を、不破は止めることができなかった。
347 :
2/2:2005/09/27(火) 00:01:55 ID:???
ところかわって、兼森家の寝室。
「時子、」と旦那が問う。「まだあの男と会ってるそうだな」
また駒田さんに調べさせたの? あいも変わらず家に寄りつきもしないで亭主ヅラして。
つれない時子に、ただわたしは不埒……いや不自然だと言ってるんだ、と旦那。
時子が不破を雷ちゃんと呼ぶのも、昔っからだというのも気にくわない。
夫婦の不理解、ここに極まれり。
最後には手を出す旦那に「家出してやる!」と時子は叫んだ。
旦那がうろたえたそのとき、電話のベルが鳴った。――不破だ。
不破は相談する。いずみちゃんが時子と会うと怒るんだ。
時子はわざと旦那に聞こえるように、
「だって雷ちゃんのこと愛してるんだものお」
主語を勘違いした旦那は、電話線を引きちぎってしまった。
いきなり切れた電話に、途方に暮れる不破。
雷ちゃんのこと愛してる――
時子の言葉を思い返すと、どうしても不破の頭の中にはえっちな想像が巻き起こってしまう。
不破は決意する。ここは切り抜けなきゃ……大人の知恵で!
車内で不破の帰りを待ついずみ。
先輩……私のことどう思ってるのかな……。
きっとなんとも思ってないよね。子供だもん、あたしなんか、先輩から見れば。
バックミラーに映る自分に、話し掛ける。
――あたし? あたしはね、先輩のこと……。
「そこでなにしてる!」
カッ、とライトが照らされた。
思考を中断され、ぎょっとしていずみは窓の外を見る。そこには、おまわりさんが立っていた。
「子供じゃないか。……ちょっとそこまで来てもらおうか」
時子久々だな。
旦那とうまくやってるみたいでよかった。
家出ってのはマジじゃないよな。
たぶん、時子が家出。
当然不破の部屋へ・・・。
そこで、今度はいずみちゃんが本気の修羅場を演出。
こんな流れと見た。
そんな二番煎じな展開はないだろ
このまま不破といずみはヤッちゃうと見た。
で、家出した時子は、煽った手前不破の家に居座ることもできず、
居場所をなくしてどーのこーのとか。
とりあえず、不破は交番に連行されて事情聴取か。
未成年の女の子との同棲(?)って、なんか法に触れるの?
派出所にて、補導を受けるいずみ。
本当のことを言っても信じてもらえない。家出少女だと決めつけられてしまう。
「まあいい。ヒヤマイズミ……くん。歳は?」
問われて、いずみは時計を見た。11時46分。「15歳です」
そこに、不破の車がやって来た。
「ジュース買いに行ってる間に、駐車違反の札をつけられちゃって」
免許証の提示を求められ、不破は免許を取り出す……が、なんと期限が切れていた。
昭和66年の誕生日まで有効。不破の誕生日は2月22日。気の毒だが、不携帯扱い。
きっぷを切られ解放される二人。免許がないので車は派出所に横付けだ。
帰り道、しみじみと呟く。
「そうだよなあ、誕生日だったな、過ぎちまったけど」
「どうして教えてくれなかったんですか」
26にもなって誕生日なんてどうってことない。もうおじさんの域だね、いずみちゃんから見れば。
「おじさんだなんて言ってません!」
歳は関係ないと言ういずみだが、それでも歳はとりたかねーな、と不破はジュースを一口飲んだ。
「あたしは、」といずみは縁石に飛び乗る。「早く大人になりたいです」
みんなに早く、一人前だって認めてもらいたい。そしたら……
くるりと振り返る。縁石のぶん背の差がなくなり、不破の顔が同じ高さにある。先輩の目を、見つめる。
「そ、そんなに、急いで大人になることないよ」
それに、まだまだ15歳じゃないか。にっこり平静な笑顔を作って、不破は道を先に進んでいく。
その後ろ姿に、いずみは呼びかけた。せ、ん、ぱ、いっ。
「あたし、16歳になったんですよ」
日は変わって、今は3月30日。あたしだって、歳を取るんですよ。
「そ、そりゃあそうだね」
当たり前のことに、不破は驚かされる。
いずみちゃんだって歳は取る。16になって、17になって、18、19……
成長していく彼女の姿を想像すると、防波堤が崩れそうだ。必死に一人で耐える不破。
そんな不破の傍ら、いずみは街角のガラスに映る自分の姿を見つめる。
先輩。先輩はあたしのこと……と言いかけた言葉は、
「なにしてるのっ」
不意に大声で遮られた。目を移すと、そこにはタクシーで駆けつけ肩を怒らせた社長がいた。
免許の期限切れ→不破の誕生日→いずみの誕生日
って話が自然に繋がっていくのには感動すら覚えた。
萌子に関する誤解の話もそうだったけど、
この作者、こういう細かい話の繋げ方、めちゃくちゃうまいよな。
16歳か… 法的には結婚できるようになったんだな。
厳密に法解釈すると、法律上16歳の娘と結婚はできるけど、その
16歳の嫁さんとセックスしたら夫は青少年保護条例違反になると
いうバカバカしいことになるらしい。
まあ、実際には警察もそこまで厳密に取り締まるヤボはしないけど。
にしても、縁石に乗っかって「大人になりたいです」のシーン、いいシーンだな。
桜が舞ってるのが、雰囲気出てる。
つーか青少年保護条例って、東京にはないんだろ?
社長死んでくれないかな
360 :
1/2:2005/09/29(木) 00:08:59 ID:???
ROOM35 それでいいのか?
言いなさい、二人で何をしてたのか!「な、なにもしてません、してませんて」
動揺する二人だが――社長が言いたかったのは、警察からの電話の件だった。
駐車違反は見逃してもらったけど不携帯で、車は派出所に預けてある、と不破は事情を説明した。
すると、社長はにんまり顔で「せっかくだからしばらく預けておきましょう」……たぬきである。
16歳のプレゼントだと図書券をいずみに渡して、社長は去っていった。
いずみは、意を決した。16歳になったら先輩に言おうと、ずっと決めていた。
「先輩は、私のこと好きっ……嫌いですか?」
不破は笑顔を作って、答える。
「一緒に住んでるじゃないか。好きじゃなきゃできないよ」
部屋に帰ろう、と肩に置かれた手。その存在感に、いずみは嬉しさを感じる。
アパートの玄関で手は離れ、不破は先に階段を上っていく。いずみは、その背中に、言った。
「あたし、先輩が好きです! 先輩よりずっと……」
俺いいかげんな奴だから、と言う不破。
そんなことはいい。あたしのこと好きだって言ってくれた。なんだかちょっと、すっとした。
「俺、本当にいいかげんだから……」と、不破は繰り返す。不安顔のいずみは、続く言葉に安心する。
「だから真剣に考えなきゃね。いずみちゃんにいいかげんはできないから」
自分を大切にしてくれる憧れの先輩に、いずみは満面の笑顔を返した。
361 :
2/2:2005/09/29(木) 00:10:48 ID:???
部屋で布団にくるまって眠るいずみの寝顔は、やすらかだ。
一方不破はというと――ぎらぎらしていた。
かっこいいこと言っちゃったけど、これはやばいっ!
いずみちゃんは俺のこと好きで、16歳で―― え っ ち な 体 をしている。
ちらといずみの寝姿を見る。いずみが寝返りをうち、その脇腹がパジャマの隙間から覗く。
その白さはまるで、まばゆい光のようで――
トイレを流して出てきて、不破は自分に呆れた。思春期の中学生じゃあるまいし。
だがそのとき、ある思いつきが鎌首をもたげた。
ここで手を出したとしても、そんなにおおごとだろうか。いざとなったら、責任取ればいい。
しかし、それでいいのか。いずみちゃんにとって、それでいいのか。
自問しながらも布団ににじり寄る。
いずみの顔に、唇を近づける――が、いずみの発した寝言に動揺し、壁まで転がった。
また布団に近づき、手を伸ばす。
欲望と理性とがせめぎ合い、臨界に達しそうになった、その時――チャイムの音。
「遅くにごめん! しばらく泊めてね」
時子がまた、家出してきたのだ。
「来ちゃおジャマだったかしら?」
だが不破にとっては、これは助かったかも。大歓迎で時子を迎える。
「いいともいいとも、まったくしようがない旦那だよなー」
『もう何日でも泊まってってよ』
むむむ、勝手なこと言いおって。険しい顔なのは――旦那であった。
彼の車の中。彼は時子の鞄に盗聴器をしかけて、様子を探っていたのだ。
同乗している駒田は、旦那に難色を示す。
兼森開発は今、一大プロジェクトを抱えている。時子さまにかまけている場合じゃない。
こんな犯罪まがいのことをせずに、さっさと連れ戻せばいい。
そう言う駒田に旦那は、無理矢理連れ戻しても同じ事だと反論。
「仕事と同じだ。相手を知り、いかに戦略を練るかだ」
家出させない戦略を練ればいいのに。「なんか言ったか、駒田」いえ、なんにも。
と、そこに来たのは巡回中のおまわりさん。
「そこで何してる! ちょっときてもらおうか」
この流れるような怒涛の展開w
うまいなーこの人。飽きさせない。
_| ̄|○ノシ_★ ここぞって時に邪魔ばっかり
お約束だな
しかし、もう告白するとはおもわなんだ
連載の最終章にならないとしないと思ったのに
まあ、不破が答えを先送りにしてるから話は続けられるけど
この家、お巡りさんにも目をつけられてる?
盗聴器はやばいだろw 駒田さんの言うことちゃんと聞いて戦略練り直せよw
駒田さんキター!!
この人大好きだ。
368 :
1/2:2005/09/30(金) 00:03:30 ID:???
ROOM36 バースデーは突然に
派出所にて旦那が事情聴取を受けている頃――
不破宅では、時子の寝場所について困っていた。いずみが寝たふりをして、布団を空けないのだ。
不破は内心、いずみに謝る。
時子が来てあまりいい気はしないかもしれないけど、これがお互いのためなんだ。
二人っきりだと俺……自信ないから。
時子はいずみを起こすことに成功するが、いずみは「一人で寝たいんです、どうしても」と意地を張る。
仕方がないので不破に寝袋を貸してもらおうとする時子だが、あいにく寝袋は派出所の車の中。
そこで時子、思いついた。
『おー! あたしと雷ちゃんが一緒に寝ればいいんだあ』
盗聴器に飛び込む、妻の衝撃発言。
旦那は我を忘れて「ゆるさんぞ不破雷蔵ーっ!!」と叫び、派出所を飛び出す。警官も飛び出す!
「許さん、許さんぞーっ!」「待たんと許さんぞ! タイホするー!」
不破もいずみも大反対。それならと時子は代案。
「いずみちゃんと雷ちゃんが一緒に寝ればいいんじゃない、ねえ」
いずみは頬を染めて、一瞬にやけ顔になる。が、不破は「もっとだめーっ!!」と猛反対。
その反応が、いずみには悔しい。
いずみは、すたすたと布団にもぐり、もうひとり分のスペースを空けた。
「えっ、いずみちゃん……俺そんな、こっ、困るよ」
「時子さんです」
かくして。
100メートルも走らないうちに旦那はスタミナ切れで警官に捕まり、
時子の抱きつき癖に悩まされるいずみの声に不破は眠れない夜を過ごすのだった。
――でも、いいんだ、これで。
369 :
2/2:2005/09/30(金) 00:04:33 ID:???
駒田は困っていた。
旦那は、夜が明けても時子にかまけっきり。靴磨きに変装して、不破宅の近くで盗聴を続けている。
11時からの商談は、社運を賭けた大切な商談。わかってるんでしょうねと念を押す。
旦那は「会話が聞き取れんではないか」と駒田を黙らせた。商談にはちゃんと出席すると言うが……
『ごにょごにょ』と時子の声が盗聴器に入る。
社員たちと初めて顔を合わせた時子が、彼らと共に何かを企んでいるようだ。
いずみは飛び起きた。時刻は8時55分。いけない、寝坊しちゃった!
慌てて着替えて、オフィスに入ると――
パーン、パンパンパン!
クラッカーが弾け、ケーキが出てきた。サプライズで、皆誕生日を祝ってくれたのだ。
「バースデーか! これだっ!!」
9時を過ぎた、商談に行かないとと急かす駒田を尻目に、旦那が閃いたのは時子奪回案。
駒田にアイデアを伝え、準備に向かわせた。
去り際まで駒田は、「11時ですよ!」と心配していた。
けれど上機嫌で駒田を送り出す旦那の頭には、時子のことしか残っていないようだ――
「見てろよ、不破雷蔵!」
旦那・・・会社大丈夫か・・・?
大の字で寝てるいずみちゃんが・・・いい・・・。
今時、住宅街で靴磨きに変装って……
よけいに怪しい。怪しすぎですぜ、旦那。
派出所に車を置いてきたから、
寝袋や枕について問題が起こるって……
よくそこに思い当たる、作者すげえな。
計算して描いてるのかなあ?
373 :
1/2:2005/10/01(土) 00:12:46 ID:???
ROOM37 なに考えてんだ?
うたた寝をしていた旦那は、携帯電話の着信で起こされた。
「なにしてるんですか! 社長!!」
そう慌てるな、狼狽した顔では商談もうまくいかない、と時計を見る旦那だが――時刻は、11時21分。
「急いでください! 先方はすでにお待ちです」
旦那は、狼狽した顔で会社へと駆けていった。
もうすぐ5時になる。仕事も一段落だ。
そのとき、チャイムが鳴った。現れたのはタキシードの男性。
「お迎えに上がりました。氷山一角様、ナミフクDMご一行様」
あるお方から依頼を受けた足長おじさんだ、と言って、男性は一同をハイヤーへと案内する。
いずみの誕生日のため、食事の席を用意しているのだという。
訝しがる一同だが、時子はこの仕掛け主に思い当たる。
皆を送り、自分は「あとで行きます」と公衆電話へ。
だが、応対した駒田の話を聞くうちに、顔が曇っていった。
「わかりました。あたしも社のほうへ行きます」
受話器を置いた時子の表情は、深刻なものに変わっていた。
駆けつけた時子が見たのは、電気の消えたオフィスでひとり俯く旦那。
駒田も時子も、言葉をかけようとすると拒絶される。
社長は、夜の東京を見るともなく見ながら、言葉を噛みしめた。
「私のミスだ。責任のすべては私にある」
ナミフクの面々が通されたのは、ししおどしの鳴る立派な料亭だった。
皆気になるのは、その庭の広さ。池だけで難波の家くらいある。
置かれた岩は、43インチテレビにも匹敵する。車もいっぱい駐車できそうだ。
不破は思わず泣けてくる。
料理が並び、酒が入ってくると、そんな不満も愚痴になって漏れ出てくる。
「どーしてこう家賃が高いのかしら」「駐車場はないし」「税金が高くて」「あー狭い狭い」
「あたし、16歳になったんですよー」
374 :
2/2:2005/10/01(土) 00:13:46 ID:???
……おちょこを手にしている、いずみ。
慌てて取り上げると「早く大人になりたいです!」
まだ16歳でしょと諭すと、返ってきた返事は「おじさんだなんて言ってません!」
当惑する不破に、いずみはさらに言う。「どうして時子さんと会うんですか」
……聞き覚えのある台詞たち。どうやら、過去にさかのぼっているようだ。催眠術みたいだ。
べろべろに酔っぱらって、足もおぼつかない。
トイレに行くといういずみに、不破は同伴することにした。
トイレを済ませ、壁にもたれてフラフラのいずみ。
口にする台詞も「氷山一角です。今日から先輩と……」だいぶ昔になった。
そこに、通りがかった女将さんが提案してきた。
「よろしければ はなれでお休みになっては」
そんな迷惑はと遠慮する不破だが、女将さんは構わない。
「社長さんからすっかり頼まれてるんですから」
うちの社長が……? 驚きつつも、いずみは女将さんに任せて、部屋に戻る。
しかし皆の姿がない。もうハイヤーで帰ったというのだ。
それもうちの社長が手配したのだろうか……。
釈然としないまま、まだ来ない時子のことも案じていると、女将さんが来て、言った。
「はなれのご用意ができました。ささ、こちらへ」
どうぞごゆっくり。そう言い残して、女将さんは去っていった。
何のことかと思いながら、はなれの襖から中を覗き見る不破。
どう考えても一人用にしては大きすぎる布団の中で、いずみが眠っている。
何のつもりだろう。
「タクシー呼んでもらうから帰ろうよ」といずみに声を掛け、布団をめくる。
――その下で、いずみは一糸まとわぬ全裸だった。
ばっと布団をかぶせる不破。よく見ると、傍らにはいずみの服が畳まれている。
「な、なに考えてんだ、社長」
汗をだらだらかきながらも、不破はいずみが気になって仕方ない。
おそるおそる、もう一度布団をめくる。
いずみの裸身を前に、不破はごくっと息を飲んだ。
据え膳かよw 俺と代わってくれ雷蔵!
ぶっちゃけ最初から素っ裸になられてもな・・・
いややっぱり羨ましすぎる状況だ!
時子の旦那、やっぱり商談ダメだったのか
まさか本当に会社が傾くとは……
ちょっとシャレにならない事態じゃないか?
旦那の執着がギャグっぽく描写されてたから、このシリアスさには違和感を感じる。
女将さんの言ってる社長ってのは、旦那のことだよな
いずみちゃんと不破を強制セクースさせて、
時子の居場所をなくして戻ってこさせようとしたんだろうか
ナミフクの社長のほうは、いずみを置いておとなしく帰ったのか?
とりあえず全部みたいな(;´Д`)ハァハァ
381 :
1/2:2005/10/02(日) 00:03:50 ID:???
ROOM38 君の名は……誰だ!?
目の前で、裸で眠る少女。不破はいっぱいいっぱいだ。
い……いいよな。社長の許可も出てることだし。「どっちもハ行ですね」と過去にさかのぼりつづけるいずみの横に、添い寝してみる。
すると、いずみが不破に、ぎゅうと抱きついた。
ぱーん。防波堤が崩れ、いずみを組み伏せて雄叫びをあげる不破――
だがそのとき、いずみの口から、うわごとが漏れた。
「ごめんね。……勇太、ごめんね……」
それは、不破との出会いより前の出来事。島根で過去に発した言葉。閉じた瞳から、涙の粒がこぼれた。
誰だ、勇太って。不破は正気にもどり、布団から出て畳に寝転がった。
外がにわかに騒がしくなった。だしぬけに障子が開かれ、女将さんが乗り込んできた。
「悪いんですけどねえ、出て行っていただけますか、一秒でも早く」
一方的に、そう宣告される。突然どういうわけかと不破が尋ねると、お客様はお金を払えないようですからと女将さん。
お金なら社長が払うはずじゃ……と思ったが、その社長さんが払えなくなる、と女将さんは言う。
「なんでも大きなお仕事に失敗なさって、倒産するらしいですよ、兼森開発は」
382 :
2/2:2005/10/02(日) 00:05:19 ID:???
この時間ではタクシーも捕まらない。最終バスも行ってしまったので、バス停のベンチにへたり込み、思案。
しかし旦那の仕業だったとは、何を考えてたのだろうか。
会社が倒産とはただごとじゃないが、時子が今日来なかったのもそのせいなのか。
気に掛かることは多いけれど、一番気になるのは、このことだ――勇太って誰だ。
どうでもいいことだが、気になる。矛盾してるのは自覚してる。
「ボ、ボク勇太だよ」
いずみに耳打ちし、過去の記憶を引き出してみた。
うわごとがいずみの口から漏れ出る。
「勇太、ごめんね。勇太のこと……嫌いなわけじゃないのよ。
だけどあたし、家にいられないの。お父さんとはもういられないの。
あたし、東京へ行くのよ。ごめんね勇太、許してね。
――おねえちゃんを許してね」
そうか、と不破はほっとする。
付き合っていた男じゃあない。腹違いの弟がいたんだったな。
いずみは涙を流しながら、ごめんね、ごめんね、と繰り返す。
不破はそんないずみに、言った。「心配しないで、おねえちゃん」
いずみの涙が止み、安らかな寝息を立て始める。
不破はもたれかかるいずみに肩を貸し、目を閉じた。
俺――嫉妬しちまったのかな、ははは。
朝になって、目を覚ましたいずみ。
朝の冷え込みは、それほど辛くなかった。それは、いつの間にか羽織らされていた背広のおかげだ。
ふっと笑みが浮かぶ。
隣で寝ていたYシャツ姿の先輩も、やがて目を覚ました。
おはよう、と言ってから不破は、いずみに笑いかけた。
「16歳の誕生日おめでとう、いずみちゃん」
過ぎちゃったけれどね、と謝る不破だが、その言葉だけでとても嬉しい。
お祝いにケーキを食べに行こうと言われ、喜びかけて――胃から何か逆流してくる感覚に悩まされる。
教訓。お酒は20歳になってから。
不破、大人げないなー
何気に旦那の会社がヤバイw 駒田さんが失業しちゃうよ…
女将さん、ちょっと薄情すぎないか!?
いくら金の切れ目が縁の切れ目っていっても……
勇太ってのは彼氏ではないと思っていたけど
やっぱりちょっとドキドキしたな
青年誌でも、未成年の飲酒はやっぱ否定的に描かないとまずいのか。
まあ、少年誌なら未成年飲酒描写自体がアウトだろうけど。
388 :
1/2:2005/10/03(月) 00:03:48 ID:???
ROOM39 変わったな
いずみの誕生日と、そして兼森開発の倒産の報から――1週間が過ぎた。
ぱったり連絡を絶っていた旦那の消息の報は、思わぬ形で舞い込んだ。
「雷ちゃん、しばらくごやっかいになります」「よろしく」
時子の計らいで、旦那が不破宅に移住してきたのだ!
旦那は倒産後、債務者として自分の土地や財産を一切合切処分した。
一文無しで家も差し押さえられたのだという。
「しばらくだぞ時子」と溜息をつく不破に、時子は明るく笑うのだった。
「大丈夫、そのうち万夫さんが嫌気さすと思うから」
「私はもう社長ではない。君のことは亀丘さんにお願いしておいたから」
旦那が別れの言葉を告げると、駒田も礼をして去っていった。
落ち込む旦那に時子は、そう捨てたもんでもないわよと声を掛けた。
「このさい新婚気分を楽しみましょうよ、いつも家にいてくれる万夫さんなんて初めてじゃない」
時子……言っとくけど、俺ん家だよ。
ぼけっとテレビを観る旦那。
覇気がなく、たるみきったフヌケ顔。こうしているとただのおじさんだ。
時子はそんな旦那を、優しく包み込む。
一緒に風呂に入ったり、膝枕して白髪いじりをして遊んだり、
そしてある時は、不破といずみが出かけている間に、二人で情事に及んだり。
そんなシーンを目撃して、不破たちは「ごゆっくり」と部屋から逃げ出すのだった。
河原で物思いにふける不破。いずみに問われ、胸の内を語る。
時子は、結婚してもずーーっと変わんない奴だと思ってた。だけど変わっちまった。
昔のあいつなら、旦那の尻けとばしてでも元気づけただろうに。
「そうか、あいつは一人の女になったんだなあって。誰か一人を愛してる、一人の女に……」
いずみは、不破に言う。
時子さんは時子さんの、旦那さんは旦那さんの、居場所を見つけたんですよ。きっと今が一番幸せなんです。
「居場所か……」
春の空に、不破の呟きは消えていった。
389 :
2/2:2005/10/03(月) 00:07:08 ID:???
ナミフクオフィスの隣で、兼森夫妻がのんびりと過ごす。
そんな生活が、いつまでも続くように思えた――が。
「 飽 き た 。 」
時子の、突然の一言。
きょとんとする旦那。不破といずみも、目が点だ。……飽きたって?
「もう十分ゴロゴロしたでしょう、いいかげんに仕事始めたらいかがですか」
だってまだ一週間だし、と動揺する旦那に、時子は「飽きたの!」の一点張り。
もう少しのんびりしていたいと旦那が首を横に振ると、時子は宣言した。
「そうですか、じゃああたし家出します」
旦那の髪の毛が、はらはらと散る。「そんな……こんなわたしを見捨てるのか?」
「だったらこんなわたしでなくなればいいじゃないのよ、ええっ!?」
がらりと態度を急変させ旦那をいじめ始めた時子を見て、不破はニヤケが止まらない。
あいつぜんぜん変わってねえ。不破も加勢し、旦那を見下ろす。
「仕事しない男がこんなに惨めで哀れで情けなくてフヌケなものだとはね。
なー時子、こんな奴とはさっさと縁きっちまって俺とよりを戻そうぜ」
「き さ ま に 言 わ れ と う は な い わ 、 不 破 雷 蔵 ―― っ !! 」
仕事なぞいつでも、もともとなにもないところから始めたのだ! 高笑いする旦那。兼森万夫 復活ッッ!
「その言葉を待っておりました、社長!」
どこから現れたのか、駒田も駆けつけた。時子も、今度は手伝うと笑顔。
不破もまた、別の理由で喜んでいた。――しめしめ、これで部屋が広くなる。
かくして、旦那の復活戦が始まった。一から新しく会社を立ち上げるのだ。
机と電話一本あれば仕事はどこでも始められる。
きたなくて狭っ苦しくてみすぼらしい部屋こそ、今の旦那にはふさわしい。
……というわけで、旦那が拠点として選んだのは――不破の部屋。
旦那の会社の分、ますます狭い。
思わずはらりと涙。不破にとっては、とんだやぶへびの一幕であった。
駒田さんにワロタw どこに隠れてたんだよw 本当にいいキャラだ。
>だったらこんなわたしでなくなればいいじゃないのよ、ええっ!?
すげー! 時子すげー。最強の妻だな。
結婚前と変わったところがあるとすれば、アメとムチを覚えたってことなのかな。
亀丘開発って、じいさんの土地を地上げしようとしてたとこだよな、確か。
ここでまた名前を見ることになるとは思わなかった。
時子はまだしも、旦那はよく不破の家に転がりこんだもんだ。
かつてあれほど嫉妬した相手だというのに。
もともと平穏でなかった日々が、さらに騒がしくなった。
朝の食卓にも兼森夫妻と駒田が加わり、床も新聞や業務資料でぎっしり。
仕事の時間も騒がしい。旦那は居住スペースに陣取って、会社の地盤固め直しに必死だ。
社長は旦那を見て、嬉しそうに腕を組む。仕事に燃える男はカッコいいねえ。
「不破ちゃんもやるときゃやらなきゃねえ」こんなちっぽけな部屋で満足してる。
それなら旦那も同じだ、しかも間借り。口をへの字に曲げる不破に社長は、
「あら、あの男はこんなところすぐ出てくわよ、その気ならね」
そこに旦那が話し掛けてくる。駐車場が見つかったので案内しますよとのこと。
あたしがさんざん捜してもダメだったのにと感動する社長に、「腐ってもプロですから」
不破の胸に、何かがよぎった。
夜。アメリカ横断ウルトラクイズの早当てで、夕張メロンの配当を決めた。
最下位の不破は、メロンの配当は1/10。
「いずみちゃん、食べていいよ」と喫茶店へ一服しにいく。
――俺って、闘争心ないからなあ。
ふと気づくと、前方の席に駒田の姿があった。
近くに引っ越して、さばききれなかった仕事をしているらしい。
「なにしろ社員は私一人ですから」
そこまでやるかと溜息をつく不破に、誇らしげに駒田は語った。
「まあ見ててください、その気になれば社長はすぐに出て行きますから」
不破はぼやく。俺も今の環境から抜け出すためにずいぶん必死だったけど、結果はごらんの通りさ。
「結果?」不破に、駒田は厳しい口調で言う。今の状態は最終的な結果なのか。
「あなたは、その気になってないんじゃないですか?」
かっちりと線を引くのが苦手だから、半端で曖昧な状態の方がいい。
だから時子とも結婚せず、別れてもずるずると会い続けてる。
――違いますか。そう辛辣に分析する駒田に、不破はへらっと笑って言った。
「そんなに並べ立てなくてもわかってますよ、一言で俺は、いーかげんな奴だから」
玄関前では、いずみが不破を待っていた。手には、自分のぶんと半分にしたメロン。
階段に並んで座り、メロンを食べる。
楽しいですよね、にぎやかで。そう笑いかけるいずみの顔は見ず、独り言のように不破は言った。
「じゃあ、一人くらい減っても、寂しくない……よね」
まさか… 家出するのか雷蔵!
社長も駒田も、不破の自宅を仕事場にしているくせに、「やるときゃやら
なきゃねえ」だの「その気になってないんじゃないですか」だの、よく
偉そうに言えたもんだ。
バリバリ仕事してる旦那見て何か決意したってことは……もしや起業するんじゃない?
社長はホントむかつくな。
「じゃあ社長も出てってくださいよ」って不破に言われたら「あたし女だもーん」って……
>>397 まぁまぁ。
タヌキだけど意外といいとこあるじゃないかあの社長。
5時になると早々に、不破は会社を飛び出す。
会社が出て行かないんじゃ、俺が出て行くしかない。そう決意し、喫茶店でバイトを始めたのだ。
なお契約は、出て行ってしまったマスターの奥さんが戻ってくるまでだ。
その喫茶店に、客が来た。
だぼだぼのYシャツにスラックス、顔はサンバイザーと大きなメガネで伺いにくいが――バレバレである。いずみだ。
これでも変装は上達したのだ。最初に来た頃は、髪型を変えてマスクをしただけの「怪しいいずみちゃん」だった。
「あんなカワイイ子が家で待ってるのに、バイトしてお金貯めてまで出て行こうだなんて……」
マスターはそう言うが、今回のことはいずみとは無関係だ。
「そのうち兼森夫妻のほうが出てくわよ、そうすればもとのとおりじゃないの」
そう難色を示す社長には、出資は頼めない。だが不破は本気なのだ。
――先に出て行くのは、俺のほうだ。
ある雨の日曜日、ハンチングハットと化粧で変装したいずみが喫茶店にまたやって来た。
毎日よくやるなと思い、思わず吹き出しそうになる不破だが……ふと気づく。
最初はおっかなびっくり俺の動向を探りに来たんだろうけど、それなら一回来れば済むことだ。
なのにあれから毎日来ている。コーヒー代も馬鹿にならないだろうに……何故だ。
いずみと背中合わせになるように席に座る。そして世間話のように、語った。
俺、いいかげんで中途半端な奴なんです。
会社だか家だかわかんないとこ住んでるし、自分家だか他人の家だかもわかんないし、
人の奥さんといっしょに住んでるし、それから――
「こんな俺のこと好きだっていってくれる女の子がいて、けど……その子の子持ちにまだ答えてあげられないんだ」
だから、こうなんかビシッと線を引きたい。曖昧じゃない線を。
不破の告白に、いずみは無言で何かを思った。
と、そこにまた、来客があった。駒田だ。日曜まで仕事ですか?
駒田は「不破さんこそそのカッコ……本気になったんですね」と微笑した。
テーブルに書類を広げる駒田の顔色は、悪い。ちょっと寝不足なだけです、と濃いコーヒーを求める。
不破がカウンターに向かおうとしたとき、駒田が力なくテーブルに突っ伏した。意識がない!
「駒田さん……駒田さん!」
駒田、やっぱ過労か?
あの社長の下で、心労もそうとうあったろうしな。
心労はないだろ、仕事が楽しくて仕方ないって感じだったから。
でも実質的に忙しすぎたんだろうな……
事務手続はほぼすべて駒田さんを通してるんだろうし。
死亡展開はありえないよな? 大丈夫だよな?
さすがに死亡は唐突すぎる… せめて入院くらいですんで欲しい…
田之倉のじいさんだって死ななかったんだ、さすがに死亡はないと思うが。
駒田さんが入院して動けなくなった旦那をサポートする中で、不破が才能を開花させてく展開かな。
不動産事業編。住宅事情を、買う側じゃなく売る側から見るんだ。
胃潰瘍ですか
406 :
1/2:2005/10/06(木) 00:03:09 ID:???
ROOM42 わたしを新居に連れてって
病室に、駒田の身を案じて旦那と時子が駆けつけた。駒田は、点滴を受けたので今日中に帰れるらしい。
無理をさせてしまったようだな、と謝る旦那に駒田は、
「しかし我が社にとって一番大切なとき……少々の無理は」
けれど、大切なときだからこそ、もしものことがあったら困る。そう駒田をしかりつける時子。
しかし実際問題困った。物理的に仕事は増えてる。しかしジレンマがある。
「人を雇おうにもこれ以上ナミフクさんに窮屈な思いはさせられない」……俺ん家、俺ん家。
事務経験があるサポーターを、夜だけでも……
誰かいないだろうかと悩む一同に、いずみが名乗り出た。
そんなやりとりを見ながら、不破も思う。俺もがんばらないと……。
引っ越し先も見つけておかないとな。
探していると、今の部屋と同じ条件の物件を見つけた。というか――向かいの部屋だ!
大家に頼み込む。54万のお金は近日中に必ず揃えるから、部屋を空けておいてもらえませんか!
そりゃまあ他人てわけでもないし、と大家。けど、
「16歳になったらいずみちゃんを嫁にするって約束があったよねえ、そのための新居と考えていいんだね」
てっきり期限を区切るための方便かと思っていたが、大家は本気だったらしい。
不破は、正直に心の内を伝える。
今すぐ嫁にすることはできない。これでもいずみちゃんのことを真剣に考えているから。
けど今のままじゃ半端すぎて、自分のことだって考えられない。
「だからあの部屋が、必要なんです」
期限は今月いっぱいとはいえ大家にも部屋を空けておいてもらうことができた。
不破は張り切って、バイトに精を出す。
いずみも頑張っている。エネルギッシュな兼森開発の仕事は大変だ。無心にワープロを打つ。
不破は毎晩、空いている隣の部屋を階下から眺めてほくそ笑む。
いずみは、窓からそんな不破を見下ろす。
忙しい毎日は、飛ぶように過ぎていった。
407 :
2/2:2005/10/06(木) 00:03:40 ID:???
6月末。
兼森開発に吉報が届いた。二駅先に20坪の事務所をおさえたというのだ。
先を越されたようね、と社長。しかし不破は不敵に笑い、5時にはバイトへと飛んでいく。
不破の机から、紙切れが舞い落ちた。拾い上げて見た。
54万まで、不足分はあと99000円。あと少し! という力強いメモ書きに、何かを思ういずみ。
「あ、あのこれ今日までの分、イロもつけといたから、ごめんね」
喫茶店に入るやいなや、マスターは不破に慌ただしく言い、封筒を押しつけた。
奥さんが帰ってきたのだ。つまり、不破はもうお払い箱。
うなだれながら元来た道を戻っていると、途中でいずみに会った。
「あれ、今お店に行こうと思って」
いずみに事情を話す。そういう雇用の契約だったから仕方ないけど……気が抜けちゃったなあ。
「先輩、よかったら……」
いずみは、ポケットから何かを差し出した。――通帳だ。
「兼森さんの所でバイトしてためたお金です。引っ越し代の足しに」
そんなお金使えないと断る不破だが、いずみは言った。そのほうがあたし、いいんです。
仕事を手伝えば、兼森さんが早く部屋を出てってくれるかと思った。
そしたら先輩が引っ越すの諦めてくれると思った。
でも間違いだった。昼夜仕事してみてわかった。先輩は大変なことをしている。
大変でもやらなければいけないことがあるのだ。
「あたし、それをじゃましようとしてたなんて……
だから使ってほしいんです。先輩の、新しい出発のために」
でも、条件が! と赤面して言ういずみ。その条件とは――
「あたしも、連れてってください!」
7月1日。隣の部屋に晴れて、新しい入居者が入ることになった。
それは……兼森夫妻だった。
二駅先に部屋を借りたとはいえ、それは事務所。
自宅は自宅、いつまでも職住合体などばかげている。
隣の部屋で時子が「広いわあ」と喜んでいる声を聞きながら、不破は思いもしなかった結末に涙を流した。
たった一日遅れたくらいで、大家さんもケチだなあ。
え……ちょっと待て、なんでいずみちゃんの金も合わせて足りなかったんだ?
期限には間に合ったんじゃないの?
まあ、不破はそういう巡り合わせのキャラだから。
不和といずみたんは一応恋人関係でいいのかな…
不破がいずみちゃんの好意を知りつつキープしてる状態。
412 :
1/2:2005/10/07(金) 00:02:05 ID:???
ROOM43 二人の夏休み
夏なんか嫌いだ。
お盆の連休に入ったが、不破はクーラーの効いた室内で野球中継を見ながらうたた寝をするばかりの毎日。
「どこか行かないんですか? 海とか山とかプールとか。夏ですよー!」
否。夏だからこそ、どこへも行かないのだ。
暑い中外へ出るなんて嫌だから、ライターのガスだって切れたまま。
プールに行きたいといずみは言うが、不破は渋る。
――夏だよいずみちゃん。
外に出れば性犯罪を助長させるような布っきれの少ない薄着であふれかえってて、
あげくのはて、いずみちゃんの健康的でそれでいてえっちな身体が……
夏なんか嫌いだ。
見るだけなら。いずみの水着姿の誘惑には勝てず、プールに行くことを承諾してしまった不破。
こんなんでいずみちゃんのこと、真剣に考えてるなんていえるんだろうか。
しかしいずみは、道すがら、転んで膝をすりむいてしまう。
プールにはバイキンがいっぱいだ。このケガじゃムリだね。
不破がそう言うと、いずみは泣きそうな顔をしてうなだれる。
なにもプールに行けないからって……子供だなあと思う不破だが、
「だって……先輩といっしょにプール、行きたかった」
そんなことを言われたら、不破もほだされてしまう。
プールの代わりに、原宿に行くことにした。
413 :
2/2:2005/10/07(金) 00:03:07 ID:???
原宿にバイキンはいないけど……人はいる!
人の海でごった返す竹下通りで、いずみは買い物にウキウキだ。
といっても、予算の限度をしっかり考えてるあたり、意外と冷静。
あちこち回って、いい店を見つけたらしい。
一つだけ売れ残っていたライターを手に取ろうとするいずみだが、横から手が伸びてきた。
見ると、派手なボディコンファッションの少女がいずみを睨んでいた。
それでもライターを手放さないいずみ。やがて少女は根負けして、ぷいと去っていく。勝利!
喫茶店に入り、いずみは買ったものを早速袋から出している。
帰ってから開ければ? と提言するが、今見たいのだそうだ。
……疲れた。若い子の体力にはかなわない。
不破はいつものように煙草をくわえるが、火をつけるライターがない。ガスが切れているのだ。
と、いずみの手が伸び、さっきのライターで火をつけてくれた。
そう、これは不破のために買ったものだ。
不破の顔に笑みが広がる。上機嫌で久々の煙草を吸う。
と、そこに……向こうの席から、つかつかと近づいてきた人物がいた。
さっきライターを取り合った、あの少女だ。
少女はいずみの目の前に立ち、無言でいずみを見下ろした。
新キャラキター
しかもツンデレ風!!
これからしばらく住宅問題からはなれてラブコメ展開になるのかな?
いや、都心部の人口密度の問題かも……と思ったけど、
前の話も、駐車場問題かと思いきやあらぬ方向に行ってたからなあ
新キャラはレギュラーになるのか?
ボディコンがケバいけど、ひんぬーが萌えなので、ガンガン出番あってほしい
いずみちゃんと同年代っぽいキャラは初登場じゃないか?
友達になったりしないかな… いずみちゃん東京には友達いないみたいだし。
とりあえず寄ってきていきなりビンタと予想
先に駆けて行ったイズミちゃんが なんで後から来るんだ?
・・・行きなれていたはずだろうに、迷っていたんか?
不破の足が速かったんだろうな。
第6話 ふりだしにもどる
大人の国の果てまで来ました。国境は、また直角の崖になっています。
「次の国はね、『子供の国』っていうんだよ!」
見ると、前と同じように、立て札にジャックがいつの間にかたたずんでいます。
「たまには童心にかえって遊んでみるのも……」とジャックが言い終わるより早く――
正はジャックに襲いかかります! 悲鳴を上げるジャックの額に銃を突きつけ、
「弾は最後の一発だ! てめぇの御主人様にくれてやる!」
そしてきびすを返し、国境へと歩を進めます。
パスポートは……と案じるメリーアンに、いらねえそんなもん、と言いながら正は飛び降りました。
「な? 問題ねぇじゃねぇか」
「パスポートはポケットの中だよ……」
地面からちょっとだけ顔を出すジャックの言葉どおり、背広のポケットにはクマのぬいぐるみ。
楽しんでいってね! と逃げ帰るジャックに、正はぬいぐるみを投げつけました。
レンガの道の先には、柵で囲まれた建物が見えます。
この建物は――学校?
学校の門を開けようとする正ですが、鍵が掛かっているようです。
うらぁ、と怒声を発して門を蹴る正の頭に、こん、とどんぐりが飛んできました。
「今日は大雪のため休校だよ!」
どんぐりを飛ばしたのは、パチンコを持った男の子と仲間たち。皆、例外なく子供の格好です。
雪なんて一体どこに。
正が男の子たちの方に歩いていると、ずぼっ! 突然足下が崩れました。
「ようこそ新入り! ボクたちはトカゲのシッポ団だ!!」
リーダーらしきパチンコの子は、落とし穴に嵌った正に、生意気な口調で言いました。
ボクたちに一人前と認められたら仲間に入れてやってもいい。
それまでおまえたち二人はみそっかす2号と3号だ。
けれど正は、そう言う男の子たちを無視して、先に進むことにしました。
ムキになって追いかけっこを始めれば、そのうち仲間と認められ、パスポートが手に入るのだろう。
だがその頃にはもう先に進むことなんか忘れてるって寸法だ!
422 :
1/2:2005/10/08(土) 00:06:48 ID:???
ROOM44 その先は言わないで
「ちょっとあんた?」といずみに顔を近づける少女。
しかしすぐ、その顔はほころんで……「氷山、一角さんでしょ?」
クラスで一緒だった春日井羽子、と彼女は名乗った。名乗られて、ようやく気づいた。
「氷山さんも東京に転校してきたの?」
問われ、いずみは顔を曇らせながら「働いてるの」と答えた。
「学校行ってないの!? やめたの? どうして!?」
問いつめる羽子だが、いずみは答えず話を強引に逸らす。
「羽子」
さっきまで羽子の座っていた席で、髭と帽子が目立つ細身の男が立ち上がって、もう出ることを促す。
羽子はいずみに「住所教えて、手紙書くから」と名刺をもらい、去っていった。
電車の中で、羽子について訊く不破。しぶしぶといった様子で、いずみは語る。
同じクラスだったのはほんのひと月くらいで、すぐ転校していった。
両親が離婚し、父親についていくことにしたと聞いたそうだ。
……だが、それ以上のことは話さず、いずみは浮かない顔で俯いている。
やっぱり……学校のことは、話したがらないなあ。
夜、不破がシャワーを浴びている間に、チャイムが鳴った。
いずみがドアを開けると、そこに立っていたのは羽子。
「今晩泊めてねー」
いずみが何か言う前に、ずかずかと上がり込んでしまう。
困るいずみだが、「先輩の前で学校の話しようかなー」と脅され、仕方なしに泊めることにした。
423 :
2/2:2005/10/08(土) 00:07:15 ID:???
羽子がおみやげに買ってきたビール(不良だ)を囲み、三人で話す。
羽子は依然、いずみが何で東京に来たのかを問いつめたいようだ。
いずみは強硬、笑いをこわばらせてはぐらかす。
そのうち缶もだいぶ空いてきて、酔いが回ったのか、羽子は自分の身の上話を始めた。
父親は金にもならない考古学で全国飛び回り、家族は迷惑して一家離散。
東京の大学に呼ばれるくらい権威ある父親だけど、家族が貧乏じゃなーんもならん!
「お父さんにとってみりゃ何物にもかえがたい財産なんだよ、学問てやつが」
そう不破が言うと、羽子は「夢だのロマンだのって言っちゃって」と不破を子供扱い。
そして、定期入れに入れた彼氏の写真を見せびらかす。
「将来は地方公務員になるのが夢なんだってー。区役所の職員よ、転勤もないし恩給も出るし」
ガキのくせに地味な選択だ、と不破。子供! ガキ! と二人は喧嘩を始める。
そんな二人を尻目に、いずみは羽子の定期入れを漁って、もう一枚、写真を見つける。
見たことのある髭と帽子――羽子の父だ。慌てて写真を奪う羽子。
「いいじゃない自分の親なんだからーっ!」羽子は動揺しながら憎まれ口をたたく。
「きょ、今日だってケンカして出てきたんだから」
お父さんはここにいるとは知らないはず。すぐ電話しろと言う不破だが、羽子は華麗にスルー。
そのかわり羽子は、いずみに頼みごとを持ち出した。「父を説得してほしいの」
親元を離れているいずみに、一人でも大丈夫なんだと説明してほしいという。
というのも、今度の転勤はロンドンの大学。彼とは別れたくない。父親について行くわけにはいかない。
「いずみちゃんならわかるでしょ? 親なんか居なくなったって へ ー ー ー き だってこと」
その言葉を聞いた瞬間、いずみの胸に、黒い感情がわき出した。
よせよという不破の言葉も聞かず、羽子は続けた。
「友達を助けると思って。入学のとき先生も言ってたじゃない。
高校の友人は生涯の友人になる って」
――高校!?
クラスクラスって、高校のクラスのことか? いずみちゃんが高校行ってたなんて聞いてなかった。
驚く不破の横で、いずみは無言で立ち上がり、外へと駆けだした。
バタン! ドアが乱暴に閉まった。
確かに学者とか大学教授って、世間のイメージほど金にならんのよね。
いずみちゃん高校に行ってたのか…
でも何で隠してたんだろう? いじめにあってたとかかな?
先輩の前で〜なので、恋人の話しかな。
でも社会人不破がショックを受けることを考えれば、
普通に男ではなく、女・・・百合だったり
あれ・・・?終了・・・?
いずみは高校を辞めて東京に来たってことだよなぁ。
2〜3ヶ月しか通わなかったってことか。
回想編で制服姿を見てみたいものだ。
429 :
1/2:2005/10/10(月) 23:56:48 ID:???
ROOM45 過去は過去のままで
口喧嘩しながらも、夜の町を走っていずみを探し回る不破と羽子。
不破は思い出す。以前、いずみが話してくれた家の話。
女の子を望まなかった父に冷たくされ、居場所がなくなっていったという話。
しかし、父親に冷たくされたからって、それが都会に一人で働きに出る理由にはならない。
なにかあったんだ。
いずみが入社したのは11月。それまでは学校に行ってたってことか?
――いずみちゃん!
不破たちがようやく発見したいずみは、自販機の前で何缶もビールを空けていた。
記憶がさかのぼる、例の妙な酒癖も発現している。
「早いとこ止めないと」
駆け寄ろうとする不破だったが羽子に止められる。いずみちゃんの過去を知るチャンスじゃない。
だが不破は言う。いずみちゃんの過去は、いずみちゃんが触れたがらない限り、触れてはいけないんだ。
羽子は問う。自分の惚れた女の過去くらい背負えなくて男といえるの? ……意味わかって言ってんのか。
そんなとき、いずみの前に酔っぱらいのおっさんがやってきて、絡んでいく。
不破は飛び出したいが、羽子に制止される。今出てったら、また逃げちゃうかもしんないよ!
ようやく酔っぱらいが去る。いずみももう泥酔状態だ。
シャッターにもたれかかり、呟いている。
「お父さん、あたし……東京へ……」
その閉じた目には、涙が光っていた。
430 :
2/2:2005/10/10(月) 23:57:54 ID:???
酔いつぶれたいずみを背負って、家に戻った。
見ると、電話の留守録のランプが点灯している。再生してみると、それは羽子の父だった。
「うちの羽子がお伺いしてると思うのですが……また連絡します」
電話しろと言う不破と、平気よと言う羽子。言い合いをしていると、
「して……してよ。電話してよ」
夢うつつで、うわごとのようにいずみが呟いていた。
「心配してるんだもん……して……くれてるんだもん……」
なによ、自分だけ悩んでるような顔して……と言う羽子の表情は、言葉ほど硬くはなかった。
――一角、愛媛にある高校に転入手続きをとっておいた。おまえも今の学校ではつらいだろうから。
行きなさい、とだけ言う父に、いずみの声は届かず――
夢にうなされて目を覚ます。すると上から声が聞こえた。「大丈夫?」
ベッドには不破のかわりに羽子がいた。不破は台所で寝ているのだ。
「ごめんね」という羽子に、頷く。いずみは、あの頃のことを、訥々と語り始めた。
2学期から、学校には行ってなかった。
家からも父からもいらないと言われ、学校からもいらないと言われたら、あそこに自分の場所はないと思った。
いずみには、羽子が羨ましかった。ケンカしたり怒ったり心配したり……。
けれど。
「好きな人がいっぱいいるから、心配してくれる人がいっぱいいるから、だから悩んでんじゃないか」
そう言って、羽子は壁の方に寝返りを打った。
「だって、全員は選べないんだ……」
それきり、羽子はもう、何も言わなくなった。
いずみは天井を見上げる。その夜は、なかなか寝付けなかった。
羽子、ノリで生きてる感じがするが、憎めないな。
ちょっと意外だった。単なるアーパー娘じゃなかったんだな。
なんか、シリアスな展開になってきた。
本格的にいずみの過去がテーマになりそうだね。
羽子、贅沢だぞ。
いずみちゃんに愛することのできる家族がいたらどんなにいいことか……
435 :
1/2:2005/10/12(水) 00:00:48 ID:???
ROOM46 家なき子
お父さん、あたし――東京へ行きます。自分で考えて決めたことなの。
そう主張すると、父は諦めて、行きなさいと言ってくれた。けれど父は、続けて言った。
――だが、二度とこの家に帰ってくることは許さんぞ。
目を覚ます。
羽子が、ベッドから降りて身支度をしていた。「じゃあね、行くね」
帰るの? と聞くと、晴れやかな笑顔が返ってくる。その時、鳴るインターホン。羽子の父親だ。
なにも迎えに来ることないでしょと口をとがらせる羽子に、父親は、
「しかし9月にはロンドンだからな、羽子の準備もいろいろあるぞ」
結局ロンドンに行くんだ。不破といずみはニヤニヤ顔。
羽子は焦って弁解する。いずみに説教されたからじゃない、自分で決めたんだから。
「それについてってやんなきゃかわいそーでさ、このオヤジ」
「ふーんだ、だーれもつーいて来てくれなんて頼んだ覚えはないもんねー」
お互い、憎まれ口を叩いている。愉快な親子だ。
いずみには、それがとても羨ましかった。
タクシーで去っていく羽子。
あっという間にいなくなってしまった。羽子とはよくつけたもんだ。
「はねこーっ」
向こうから全力疾走してタクシーを追いかけるのは、写真の彼氏だ。
そんな彼らを見送って、いずみと不破は語り合う。
「羽子の選んだ道は、きっと正しいよね」
「そりゃわかんないんじゃない?」
誰でも、正しいのや間違ったのや、いろんな選択を繰り返すんだ。
いずれ羽子も彼氏より父親を選んだことを後悔するかもしれない。
「でもそれでいいんだと思うよ。どーせ先のことはわかんないんだから」
いずみは言う。あたしは東京に来てよかったと思ってます。先輩に会えたから……。
「田舎であったことは、いつか話します」
そう言ういずみに不破は笑いかけ、モーニングを食べに行こうと言った。
436 :
2/2:2005/10/12(水) 00:01:23 ID:???
プルルルルッ、プルルルルッ。
誰も居ない不破宅で、電話が鳴っていた。
プルルルルッ、プルルルルッ――
お盆だから、どこの店も帰省して休業中。
みんな田舎があるんだなあ、と呟いてから、タブーだなと反省する不破。
いずみが尋ねる。「先輩は田舎へは帰らないんですか? 正月も帰ってないし」
静岡は目と鼻の先だし別に……俺がいるとジャマ? と訊くと、いずみはすまなさそうな顔で、
「ただ先輩、もしかして、あたしに気を遣って帰んないんじゃないかと思って」
そりゃま、なくもない。正直に答えると、いずみは強く言う。
「あたしに合わせると、一生帰れませんよ」
二度と、一生帰らないつもりで出てきたから。
そう決意めいた口調で述べてから、……いずみは笑顔をムリヤリ作って、付け加えた。
「そうね、たまには一人でいるのもいいかなーなんて」
二人の間に沈黙が流れる。
町は静かだ。お盆なので町には誰も居ないのだ。ただ遠くで、電車のレール音が聞こえる。
不破は、やがて言った。
「そうだな……一緒に帰ろうか」
静岡の県民性は、お客さんがなによりごちそうなんだ。
不破がそう笑うと、いずみの顔がぱあっと明るくなった。
善は急げ、仕度してすぐ出発だ!「はいっ!」
「みんなびっくりするかな、雷蔵が嫁さんつれて帰って来た、なんてね」
軽口を叩くと、いずみは「ええ?」と真っ赤になる。
そんな楽しいパッキングをしていると、電話が鳴った。
「どこ行ってたの! いずみに代わって!」
電話の主は、急いた口調の社長だった。今そっちに向かってるからすぐ仕度なさい。
状況が掴めないいずみに、社長は言った。
「お父さんが倒れられたそうよ!」
>「そうね、たまには一人でいるのもいいかなーなんて」
いずみちゃんが、微妙に敬語じゃなくなってる
この流れで「いずみちゃん帰省」→「お父さんとの対決」って感じなんだろうけど・・・
不破も付いてくのかなぁ?
「確執のあるお父さん」「血のつながらないお母さん」「後とり候補で寵愛されてる腹違いの弟」の家族。
・・・いずみちゃんにとって精神的には完璧なアウェイだけど・・・。
ベタベタだが、おそらく弟は生意気なひねくれた感じのガキと予想する。
ついに親父登場かな。
このまま放置ってわけにもいかないだろうし。
不破と自分の娘が同棲してるってこと
おそらく知らないだろうから
不破vs親父で一悶着ありそう。
寝言から察するに、いずみは腹違いの弟にだいぶ目を掛けてるみたいだけど……
この姉弟の関係がわかんないな。普通に仲良かったりするのか?
じつは弟といけない関係に…
442 :
1/2:2005/10/13(木) 00:01:45 ID:???
ROOM47 帰省事実
社長の車が、不破宅に到着した。
乗ってと急かす社長を、いずみは拒んだ。あたし行きません。先輩の田舎へ帰るんです。
「だってあたしには関係ないもの!」
叫ぶいずみの頬に、社長の平手が飛ぶ。関係なくはないでしょう!
不破も社長に同意する。きっとすぐ戻ってこれる。
車を送り出した。階段を上り、部屋に戻った。
テレビではいつものように野球中継をやっている。それを見ていても、一向に気分は乗らない。
本音が漏れる。
なにもこんなときに、病気になんなくてもな――。
島根県。
東京都は対照的に、高いビルなどひとつもない、山と森の広がる田舎。
氷山医院――タクシーから降りたいずみは、一年ぶりの実家を見上げた。
「おねえちゃん……」見ると、そこには聡明な顔つきの少年。腹違いの弟、勇太だ。
その姿を見て、いずみの胸に何かがこみ上げてくる。大きくなったね、勇太。
「お帰りなさい、いずみ」
父の再婚相手――いずみの継母も、出迎えてくれた。優しい笑顔をたたえた女性である。
「お母さん……」
父の部屋に、足を踏み入れる。暗い部屋の中で父は布団に臥せっていた。
「一角か……まったく医者の不養生とはよくいったもんだ」
いずみは、無言のまま、父の側に座していた。
443 :
2/2:2005/10/13(木) 00:02:23 ID:???
不破がうたたねから目を覚ますと、辺りはもう暗くなっていた。
ヒマだなあ……。
誰かを誘って飲みに行こうと思って電話を手に取ったが、やっぱりそんな気分でもない。
いずみの存在の大きさを改めて知る不破であった。
コンビニで弁当を選ぶ。すぐそこの通路で、女児が走って転んで大泣きしていた。
これまでのいずみの微笑ましい失敗の姿を、そこにだぶらせて見てしまう。
……退屈のない日々だったなあ。
帰宅し、時子の家で一緒に食べるのもいいかもと思って隣の部屋を見上げるが、留守のようだ。
一人で黙々と弁当を口に運んでいると、いずみの言葉が思い出される。
――楽しいですよね。がやがや食事したり、いっしょにテレビを見たり。
風呂に入っても、ビールを飲んでも、布団に入っても、いずみとの想い出ばかり頭に浮かんでは消える。
――よかった、やさしい先輩で。――先輩とここにいたいです!
――先輩、あたし16歳になったんですよ。――先輩が好きです!
――先輩。先輩。先輩――。
ベランダで煙草を一服すると、部屋の中で電話が鳴っていた。
「先輩、ですか」
いずみだ。不破の顔に笑みが浮かぶ。
お父さんは?と訊くと、わりと元気みたいで、と返ってきた。
――が、それっきり続く、沈黙。
「いずみちゃん?」
訝しんで問うと、いずみは、絞り出すように言った。
「先輩……
あたし、そっちに帰れないかもしれない」
事情があるとはいえ実の親の一大事を見て
心が揺らいでしまったか・・・
どうなるんだこれから
弟も継母も、意外といい人そうだ
父親と確執があるだけで、何もかも失っていたわけじゃないのかな?
なんか、学校辞めてまで、家を出て遠く離れた東京に来るほどのつらい環境とも思えないんだが・・・。
他にもなにかあるんじゃないのかな?
「荒れてた時期」があったらしいので、それがらみで。
確か、この継母が社長と友達なんだっけ。
なおのこと、家庭に問題があるとは思えないな。
やっぱ問題はこの親父っぽい。
荒れてた時期か……
・いじめ(主犯格)
・その他暴力行為
・薬
・売春
・暴走族(レディース)
・暴走族の彼女
……一番最後のが、唯一あり得る感じだけど。
医者である父親の名が傷つく! とか言って地元を追い出されたとか。
・売春
↑これが一番ありそうだ・・・
打ちひしがれてゆきずりの男と一夜を過ごしたのがきっかけで
ずるずると
かっ・・・身体は大人だった・・・
セオリー的にありえないけどなw
15歳ですでに男に体を許してるとか、
この性格で、ヒロインで、まず考えられない。
451 :
1/2:2005/10/14(金) 00:01:29 ID:???
ROOM48 16歳の可能性
新幹線の中は、お盆ラッシュで満員だった。
この国はどこもかしこも狭い。そして、島根は遠い。
不破は、昨晩の会話を思い返していた。帰れない――そういずみは言った。
家族が離してくれない。けど、本当はあたしが離れたくないのかも。
電話を終えるとき、いずみは呟いた。「先輩、逢いたい……」
不破は信じない。いずみちゃんが帰らないなんて……。
会いに行こう、いずみちゃんに。
食卓に並ぶ、いずみの料理。東京にいる間に上達した腕の見せ所だ。
勇太はにっこり笑って言う。「おいしいよ、おねえちゃん」
継母は涙をにじませる。「またこうやって、みんなで食事ができるなんてねえ」
幸せな、食卓だった。
父に雑炊を運ぶ。
食事を持ってきたの、とだけ言って去ろうとするいずみの背中に、父が声を掛けた。
「決心は、ついたか……」
家に戻って来いと、父はいずみに命じていたのだ。
仕事は辞めればいい。それよりもちゃんと学校へ行きなさい。今しかできない勉強があるだろう。
「あのときはあたしのこと追い出そうとしたくせに、今は家に残れって言うんですか」
他人行儀な口調で問ういずみに、父は答えた。
その方が最良だと判断したからだ。今は今で、あのときはあのときでだ。
「おまえは頭のいい子だ、しっかりしてちゃんとした子だ。今でもそう思ってる」
しっかりしてるってなに? ちゃんとしてるってなに!? 声を荒げるいずみに、父は言った。
「おまえがその気なら、考えてやってもいい。福永くんとの将来のこと……」
いずみの心に、苦い記憶が蘇る。お盆を持つ手がこわばった。
「なに……言ってんのよ、今頃…… 今頃っ――!」
そのまま、いずみは家の外へと飛び出した。
452 :
2/2:2005/10/14(金) 00:02:09 ID:???
島根にたどり着いた不破は、はたと大きな問題にぶちあたっていた。
いずみちゃんの家の住所を、知らなかった。社長に電話しようにも、外では番号もわからない。
困りながら街をうろついていると、不動産屋が目に付いた。
風呂付きアパートが2万。3DKのマンションが45000円。地方の物件の良さに衝撃を受けていると、
「ああこれですね。いいですよー、ご案内しますよ」
不動産屋が現れ、強引に不破を引っ張っていった。
いずみは、河原に座りこんでいた。そこに駆けつけてきたのは、勇太。
「おねえちゃん、なにかあるといつもここに来てたから」
勇太はいずみの隣に座り、尋ねた。おねえちゃんは、家とかこの町とか、嫌いなのですか?
「町やあたし以外のみんなが、あたしのこと嫌いなの」
勇太にはよく理解できない。勇太は姉が好きだから。
いずみは勇太に笑いかけた。勇太のこと好きだよ。
お母さんのことも、それから、たぶん、お父さんのことも……。
「好きな人がいっぱいいると、たいへんよね」
いずみは戸惑っていたのだ。自分にまだ選択の余地が残っていたなんて。
この町に住んで、今の家にみんなと住んで、勉強して進学して。
そんなことができるなんて、思ってもみなかった。
「時間がたつと、いやなことが薄まっちゃうのかな……」
それでもいずみは思い返す。東京に残してきた、もうひとりの好きな人。先輩……。
不破が案内されたアパートは、河原のすぐそばにある。
ベランダからの眺めを確かめる不破は、そこに見慣れた後ろ姿を発見した。
「いず……」叫びかけたとき、自転車が倒れる音がした。
見ると、髪を無造作に伸ばした10代半ばくらいの少年が、自転車もそのまま、土手を駆け上がっている。
少年はいずみのところに駆け寄る。
「捜した。いずみ。帰ってきてるって聞いて、絶対ここだって。――会いたかった」
少年は、いずみを抱きしめた。いずみは彼に抵抗もしない。抱かれるまま、ぼろぼろと涙をこぼした。
「どうして、どうして今頃出てくるのよ……
あたしがいてほしいと思ったとき、いてくれなかったじゃない。
……今頃……」
なんだこいつはぁーーー!!!
許さん!許さんぞ!!!!
さあ、ドロドロしてまいりました。
おまえなんかに!おまえなんかに福永ーーーーっ!
っていうか、この少年が福永でいいのか?
まぁ、間違いないよな?
昔の男か! 昔の男なのか!!!
初登場でいきなり全男性読者を敵に回す福永恐るべし
弟めちゃくちゃいい子じゃん。
継母もすごいいい人だ……
で、いずみちゃん、お父さんのことも好きなんだな。
家族だもんなあ。
不破がまるでストーカーのようだ……
この元彼氏が全ての原因か… ものすごい不良だったとかかな。
>>460 「逢いたい」言われて行ったんだからそりゃねーだろー
福永氏ね
あれ?原因って親父が弟が生まれたから、いずみイラネ。
でなかったのか?少年がなんの関係あるんやら。
まぁこれから明らかになるでしょ。
どう考えても絡んできそうな登場の仕方だし。
要らなくなったからって追い出されていいもんじゃないだろ。
冷たくされて荒れて、その時期に福永とやらと何かがあったんだろ。
……でも故郷を追い出されるほどの何かって、何だ?
ところで、
>好きな人がいっぱいいると、たいへんよね」
羽子の話がここで響いてくるとは思わなかった。
やっぱこの作者、伏線うまいよ。
>>冷たくされて荒れて、その時期に福永とやらと何かがあったんだろ。
単純に考えて、妊娠とかか・・・。
いずみちゃんには似つかわしくない過去だが、他に考えうる出来事なんてないぞ・・・。
468 :
1/2:2005/10/15(土) 00:01:33 ID:???
ROOM49 凍ってた過去
いずみを抱きしめる少年。不破は驚きを隠せない。誰だ、あの男は……。
いずみは少年を突き飛ばした。なんだ? 何を話してる?
あっちへ行ってよ、顔も見たくないんだから! そういずみは少年に訴えていた。
少年は弁解する。しかたなかったんだ、あの時は。
「外に出たら、俺、殺されてたかもしれない」
聞きたくないといずみは耳をふさぐ。少年はいずみの腕を掴んだ――
が、そこに勇太の体当たりが炸裂。少年は土手を転げ落ちていった。
その後を追ういずみ。土手の下で大の字に倒れている少年に、「大丈夫? 福永くん」
すると少年――福永は起きあがり、いずみの上にのしかかった。
「やめろよ。そんな他人行儀な呼び方」
いずみは福永から逃れると、顔も見たくないのと言い残して、走り去った。
福永は「くっそおー!」と叫びながら川に飛び込み、浅瀬でバチャバチャと暴れた。
「熱い奴だなあ」
アパートから出て、不破は福永の様子を土手越しに眺めていた。
もしかしてあいつはいずみちゃんの……。
考えていると、隣にいつの間にか、勇太が来ていた。
「おじさん、誰ですか?」
おじさん……ショックを受ける不破だが、勇太は6歳。おじさんでいいや。
「よくもやってくれたな、勇太」
声がした。見ると、すぐ側に福永が立ちはだかっていた。
ねえちゃん連れてこい、と勇太につかみかかる福永を、不破が制する。
「なんだよ、関係あんのかよ。誰だおまえ」「関係なくもないんでね。離せよ、その手」
そこに、不動産屋が追ってきた。福永は舌打ちをして去っていく。
「あの子は福永さんとこの末っ子の。おや、勇太くん、お父さんどう?」
どうやら、この辺りは皆顔見知りらしい。そして地域での氷山家の信用は、とても高いようだ。
「助けていただいてありがとうございます」
勇太は、深々と不破にお辞儀をした。
469 :
2/2:2005/10/15(土) 00:02:16 ID:???
何度掛けても、不破宅の電話は繋がらない。
先輩、寝てるのかな……
いずみは電話ボックスから出た。島根の広い空を仰ぎながら、思う。
福永くんとのことは、もうあたしの中で消え去ったことだと思ったのに……。
記憶は薄まらない。あたしの中で凍ってただけ。やっぱり、帰ってきてはいけなかったんだ。
勇太に、福永とは誰なのかと尋ねると。
「いじめっこです」おねえちゃん、あいつのこと嫌いだって言ってましたから。
不破は考える。いずみちゃんにただつきまとってるだけなのかな。まだ子供だよな。そう、高校生くらい……
高校!?
思い当たった。あの男は、いずみちゃんの触れたくない過去なんだ。
あの二人を会わせてはいけない、と確信する不破。
――つれて帰らなきゃ! いずみちゃんを!
ヒモで吊り下げて、窓から荷物をおろす。自分も窓から木をつたって降りる。
ごめんなさい、勇太、お母さん……お父さん。あたし東京へ帰ります。先輩のいるところへ……。
路地を通り抜けようとすると、そこにはゆらりと立つ人影があった。
「いずみ……」
福永だ。
いずみの腕を捕らえる福永。いずみは抵抗するが、男の力にはかなわない。
「逃げるのかよ、俺からも、この町からも」
何言ってるのよ、今頃……手をなんとか振り払って、いずみは叫ぶ。
「忘れて! あたしもあなたのこと忘れる」
「忘れる!? そんなことできないよ。できるわけないだろ。だって――」
不破は勇太の先導で、道なき道を進んだ。
垣根の下や、狭い塀と塀の間。勇太といずみしか知らない近道だ。
やがて道が開け、広い路地に出る。その瞬間、不破は――聞いてしまった。
「――だって俺たちは、あの夜……」
いずみは、はっとして近道を見た。勇太と――そして……先輩……!
これは… セックルなのか…orz
いや、いずみちゃんに限ってそんなことは無いと信じたい。
もう一回いってやる。
おまえなんかに!おまえなんかに福永ーーーーっ!
あー、妊娠か…。
自分ち医者だから手術とかは自分ちでできるんだろうけど… 辛いな
なんか、今までの都会住宅事情ネタをからめたほのぼのラブコメ路線が
ウソのようなドロドロ展開に……
「リビングゲーム」に戻れるのだろうか?
475 :
1/2:2005/10/16(日) 00:00:49 ID:???
ROOM50 告白
先輩に、今の……聞かれた!? 腕を掴もうとする福永に抵抗して、叫ぶ。
「あたし帰るの! 東京へ帰るんだってばあ」
勇太が全身を使って、福永を姉から引き離す。
福永は勇太を放り投げ、いずみにしつこく掴みかかる。いずみ、もう一度、ハナシを――
だがその口は、そこで塞がれた。不破の手によって。
「嫌がってんのがわかんないの」
なんだよあんた、と再度問う福永。
東京でいっしょに暮らしてると答えられ、信じられず問いただしたいずみも、本当だと言う。
くっそおお!! 絶叫しながら福永は走り去った。熱い熱い。
「帰ろう、東京へ……」
いずみが微笑み、地面に投げ出された荷物を拾おうとするが――一瞬早く、勇太がそれを奪った。
「返したらおねえちゃんは、東京へ帰っちゃいます!」
逃げていく勇太を見失った。ここは竹林だ。
あの夜、いずみちゃんとあん男の間で、一体何が……。
いずみと目が合う。が、いずみは不破を正視できず、すぐ目を逸らした。
「先輩、荷物は諦めます」「わかった」
目を合わせないまま、二人は広い路地に出た。すると、また立ちふさがる人物がいた。
「一角、勝手は許さんぞ」
いずみの父だ。彼は不破を見て、目を見開く。
「一角、まさか、おまえ、東京でも……」
いずみの父の息が荒れる。顔に脂汗がにじみはじめる。
「失礼ですが、一角とはどういう……」「やめて! 先輩は関係ないの」
いずみが叫んだとき、いずみの父はふらっと地面にうずくまった。
いずみは駆け寄り、父を介抱する。
「さっきの竹林の所で待っててください。必ず、行きますから」
許さんぞ、許さんぞと繰り返す父に肩を貸し、いずみは実家へと帰っていった。
476 :
2/2:2005/10/16(日) 00:01:52 ID:???
風の音が竹林に響き渡る。不破は広場のテーブルで、いずみをひたすら待ち続けていた。
――俺が想像してるようなことが、いずみちゃんにあったっていうのか。あのいずみちゃんに……。
不破の脳裏に浮かぶのは、初めて会った日の、あの無防備にほのぼのと笑ういずみの姿。
――だったらどうだっていうんだ。人のことは言えないじゃないか。
そう自分に言い聞かせるが、やっぱりショックは大きい。
日が傾いて、竹の影が伸びていく。不破は、聞き覚えのある声を聞いた。
「いいかげんに離せよ」「やだ! カバン返してください」「しつこい」
福永が、家までカバンを届けてやる、と勇太からカバンを奪い、いずみの家に向かっているようだ。
「しつこいのはおめーだ。いいかげんにしたら?」
不破は、二人の前に立って腕を組んだ。
「いずみは渡さない、俺の女だ」と主張する福永に、不破は言う。
少なくともおまえはもう、いずみちゃんの中で過去の存在だ。
「違う! いずみは俺のもんだ。忘れないし、離れない!」
それはおまえ一人で決めることじゃないという不破に、それでも福永は叫ぶ。
「忘れるもんか、話すもんか。俺といずみは、」
「 や め て ! 」
夕日を浴びて、坂の上。
いずみが立っていた。やめて、やめてと福永に懇願する。
だが福永は、言葉を止めようとしない。「俺と、いずみは、」
先輩! 先輩! いずみは福永の言葉を遮って、坂を転がり下りた。尻餅をつく。
不破と福永が見守る中――彼女は泣きそうな顔で、それでも自分の口から、言葉を紡いだ。
「あたし、一度だけ、福永くんと……」
声に詰まる。
ぎゅっと目をつぶり、不破から目を逸らし……小さく、小さく背中を丸めて。
懺悔するように、絞り出すように、いずみは、あの夜のことを告白した。
「寝たんです……」
うおおおおおおおおおおお
聞こえん!何も聞こえん!!
__ __ __ __ __ __ __
∠__∠__∠__∠_.∠_../ | __∠__∠__∠l__
∠__∠__∠__∠__∠__/| | ∠__∠__∠__∠__/.|_
. ∠__∠__∠__∠_.∠_./| |/| ∠__∠__∠__/ /| |/|
. / / ./ / / /! |/| | | / / /| ̄ ̄| |/| |
| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| |/ |/| |_| ̄ ̄| ̄ ̄| |__|/| |/|
__ _| |__|__|__|__|/| ̄ ̄| | ∠__|__|__l/ /| |/| |
. / / | ̄ ̄| |_|/| | | |__|/| | | | | ̄ ̄| |/| |/
| ̄ ̄| ̄ .| |/| | | |__|/| | | |__|__|__|__|/| |/|
. ___|__|__.| ̄ ̄| |_|/ | | |__|/ | | | | | |/| |
. / / / | |/|. |__|/| .|__|__|__|__|/| |/
| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| ̄ ̄| |. | | | .|_| | | |__|/
|__|__|__|__|/ |__|/ |__|__|/
恐れていた事態が… ほのぼの漫画がこんなに泥沼になるなんて…
あーあーあー
聞こえない聞こえない何も聞こえない
||
Λ||Λ
( / ⌒ヽ
| | |
∪ 亅|
| | |
∪∪
:
:
いずみの言うところの「寝た」というのは
単に一緒に睡眠をとったという意味だよ。
間違いない!
この引きで、一緒に寝ただけなんてオチはさすがに無いよな・・・
欝だ俺も吊ってくる。
今日から時子派に・・・。
>>484 ここだけの話だけど、時子は、すでにあの旦那と寝たよ。
セックスレスかもよ?
旦那とはセックスレスでも不破と寝てるだろ!
もう俺には難波タンしか、難波タンしか……
>>486 つ
>>388 >そしてある時は、不破といずみが出かけている間に、二人で情事に及んだり。
そうだった…
うわぁぁぁあああああぁあああぁあああああああ!!!
>>3-5 お、新連載か。
この作者、昔、キャプテンで「危険がウォーキング」とか描いてた人だよね。
猫が寝込んだアナコンダ。
空気嫁。
現実から逃げるな!
もうあの頃のいずみちゃんは帰ってこないんだ……!
いすみちゃんが中古だったなんて…
福永は次回、爆死。
↓
いずみちゃんの過去は無かったことに。
↓
いずみちゃんの処女は守られる。
みんな羽子に鞍替えすればいいんだよ
大人禁止!!
ぬがー!!
シクシクシクシク
498 :
1/2:2005/10/17(月) 00:38:04 ID:???
ROOM51 それがどうした
福永が、へ、へへへ……と笑いだす。
「まいったかよ。お、俺といずみは、初めて結ばれたんだ。
忘れられるわけないだろ。ないじゃないか……いずみもそれを認めた」
いずみは、受刑前の囚人のようにうなだれている。だが……
「だからなんなの」
不破は、いずみを抱き起こして、静かに言った。
「どうしていずみちゃんがおまえとのこと告白したんだと思う!?」
なんで知られたくなかったのか、それをどうして自分の口から言わなきゃいけなかったのか……
「俺のことが好きだからだよ」
そう断言する不破の表情には、曇りがない。
帰ろうといずみに言う。不破を見つめるいずみは、ただ安堵の表情だ。
「もう俺のことは、なんとも思ってないのかよ。忘れちまったっていうのかよ」
この町のことも忘れて、また東京へ逃げるのか? そう問う福永に、いずみは言った。
「今頃なに言うのよ。あの時きてくれなかったじゃない。あの時逃げたのは福永くんのほうじゃない」
福永が握りしめたカバンを、不破が掴む。だが福永はカバンを離さない。
「渡さない。いずみは渡さない。あんたみたいなオッサンに渡せるか」
どーせいずみの身体が……言いかけて、その瞬間、不破の目の迫力に気圧されて言葉を飲み込む不破。
「これ以上いずみちゃんを悲しませるなよ。自分だっていやだろ」
立ちすくむ福永を残して、不破たちはその場を立ち去った。
竹藪に、雄叫びと、竹を殴る音と頭をぶつける音が響く。不破たちは、振り向かずに歩く。
いずみは勇太に「家に戻ってて」とカバンを預けた。黙って帰ったりはしない。お父さんと話あるから。
勇太は安心したように「はい」と言い、家へと帰っていった。
いずみたちは、あの河原に足を向けた。夕日が沈んでいく。
「ハ行だ」
不破が言った。
「福永、氷山、不破」
気づかなかった。あの人、いつも私のこと呼び捨てにしてたから。
「中学の時の同級生なんです」
499 :
2/3:2005/10/17(月) 00:54:16 ID:???
――他人行儀なこと言うなよ、仲良く同じ高校通うんだぜ。
そう言って、よく自分を呼び捨てていた福永。でも進路指導のとき、そうではないことがわかった。
受験したのは下畑高校だけだったのに、父が学校に来て、勝手に黄華高校に推薦入学の手続をしていたのだ。
父の決定はいつも絶対で、反抗するなんて考えつきもしない頃だったから、そのまま黄華に進学した。
でもその頃から、何のために厳しい高校で勉強するのかわからなくなっていった。
勉強も規則も厳しい高校で、半端しているとすぐ目をつけられた。
そんな身勝手に振り回される苦しみを共有できるのが、福永という相手だった。
福永も、出来のいい兄や姉と比べられて、親に不当に扱われる境遇だったから。
――あーあ。それでもいずみと同じ学校だったら少しは楽しかったのになあ。
福永の言葉で、いずみは決意する。どんどん成績を悪くすれば、黄華学院にいられなくなり、同じ高校に行ける。
今思えば子供じみた手だが、自分の居場所をみつけたくて小さな反乱を繰り返したのだ……父に対して。
――期末テスト、白紙で提出したそうだな。おまえ、私を困らせるために生きてるのか。
――お父さんが、あたしの話聞いてくれないから――
バン。父の拳がいずみの顔に当たった。
――せめて、邪魔にならないように、じっとしていなさい。
大雨の中、失意のいずみは彷徨った。
それを探しに来てくれたのは、福永だけだった。橋の下で、身も心も凍える二人。
――風邪ひくね、ここだと。
――二人でどこかへ行こう。終業式の日にあの河原で待ち合わせて。
――福永くん……
――よせよな、そんな他人行儀な呼び方。だって俺たち……
ホテルのベッドの中で、福永は笑ったのだった。
だが、ホテルから出たときに……彼らは、補導員に見つかってしまった。
そして終業式の日。いくら待てども福永は現れず、ついに日が落ちた。やがて父が来て、言った。
――彼は来ないよ。
500 :
3/3:2005/10/17(月) 00:54:53 ID:???
「ほんとうに、どうしてあんなことしたんだろうと思うんです。どうしてあんなこと」
告白をするうちに、いずみの瞳からぼろぼろと涙がこぼれていく。
先輩はなんと言うだろうか。後悔で胸が押しつぶされる。
夕日が山際に沈んでいく。
「そりゃあやっぱり……」と、不破はやがて、言った。
「好きだったからじゃないの?」
……そのときの、不破の笑顔が、眩しくて。
いずみは溜め込んでいた思いを、ぶちまけた。
「あたし本当は、言いたくて……言いたくて言いたくて、言いたくて……」
いいよいいよ、ちょっと妬けるけどね。
あの日いずみが町を出る約束をした河原。茜色に染まる空の下。
不破はいずみを抱き寄せた。
「東京に帰ろう。いずみちゃん……」
不破って大人だよなぁほんとに…年齢詐称してんじゃないのかw
前回の福永ショックからみなさま落ち着かれたようで・・・。
落ち着いたというか抜け殻n(ry
今回は今回で不破ショックと言うか・・・。
大人の包容力をいかんなく見せ付けられたいずみちゃんはもう間違いなく不破のもの・・・。
福永……1回寝ただけで「まいったかよ」だの「どーせいずみの身体が」だの……
身体が目当てなのはおまい自身だろ。
大人な不破に比べてガキすぎる……って16歳か。
もっとも、前回このスレで大騒ぎした連中(漏れ含む)は福永と同レベルのガキだが。
福永は福永で、終業式に行けなかったのはなんか事情がありそうだが……
いずみの気持ちを考えてないヤツなのでまったく感情移入できんな。
雷造も時子といろいろあったんだろうな…
そうじゃないとあの言葉は出てこなかった気がする。
俺が父親だったら間違いなく殺りますよ
>福永は福永で、終業式に行けなかったのはなんか事情がありそうだが……
>福永「外に出たら、俺、殺されてたかもしれない」
>俺が父親だったら間違いなく殺りますよ
まさか・・・。そういうことなのか?
なんか数年後、そういう映画とかできそうだな。
娘を暴行された父親が、暴行相手に戦いを挑む・・・。
510 :
1/2:2005/10/18(火) 00:04:53 ID:???
ROOM52 娘とその父
氷山医院。その入口に、不破といずみは立っている。
父はあたし一人で……と言ういずみだが、不破は言う。
「そうはいかない、俺は正々堂々いずみちゃんを連れて帰りたいんだ」
居住棟の玄関に回ると、
「いずみがいつもお世話になっております」
いずみの継母が三つ指をついて出迎えてくれた。しかも、ごはんまで御馳走してくれる。
楽しい食卓で、継母も勇太も不破も、そしていずみも、笑顔だ。
けれど。
あの夜、電話口で「俺、外出ると殺されるんだ」とだけ言って、いずみの支えになってくれなかった福永のこと。
不純異性交遊のあげく、ホテルで補導されたとなっては、もはやかばいきれないと宣告した、町の役員のこと。
ふさぎ込んで籠もった部屋に、いずみが拒絶するのも構わずごはんを持ってきてくれた勇太のこと。
愛媛にある高校に転入の手続をして、「行きなさい」と命令した父のこと。
笑顔で食卓を囲んでいても、どうしても、あの触れたくない過去が呼び戻される。
すべては、父との確執。それを今日、精算できるのだろうか。
511 :
2/2:2005/10/18(火) 00:05:36 ID:???
リビングルームで、いずみの父といずみと不破が向き合う。勇太もまた座っていた。
向こうへ行ってなさいという父にも負けず、おねえちゃんの話だからと動こうとしない。
諦めて父は話し始める。あの時家にいろと言わなかったのは、一角の将来を思ってのことだ。
だが本人の意志を無視して将来も何もない。少なくとも傷は癒えてない。しばらく好きにさせては。
そう意見する不破に父は反論する。今しかできないことがある。東京でそれができるか。働いててそれができるか。
今の仕事だって大事? だが大人になればいやでも働くんだ。わからんのか。
「わかんない」いずみは表情を硬くする。
「不破くん、君の大人としての意見を聞こう。君にならわかるはずだ」
不破は考えた末、答えた。
「そういう大人側の押しつけが、いずみちゃんを傷つけてしまったんじゃないですか」
連れて帰る。今はそれが一番だ。それでいいじゃないですか。
いずみの父は言葉を見つけられず、黙り込んだ。
ふと横を見ると、勇太が寝入っていた。先程から、ずっと眠たそうにしていたのだが……
もう寝なさいと言うと、勇太は「やです」とソファにしがみつき、目に涙を溜めた。
「また黙って……おねえちゃん出てっちゃうから」
ごめんね、黙って行ったりしないから。
いずみが勇太を抱きしめるのを見て、いずみの父は席を立った。
もう夜が遅く、列車もない。泊めてもらった布団の中、不破は思う。
想像していたよりずっとまともな家だ。
いずみが一方的にいじけてたとは思わないが、どこかでずれちまってるんだ。
しかし、不純異性交遊くらいでいずみを町から追い出す理由になるだろうか。
妊娠したとかいうんならともかく――
……。それなら納得がいく。だが、確かめようがない。
ふと気づく。窓の外、いずみの父が花壇に座って煙草を吸っていた。外に出て、煙草を一本もらう。
「どこに行ったって男はいっぱい住んどる。だが父親はたった一人だ。不公平とは思わんかね」
答えず、不破は紫煙を見つめる。
煙草を口にくわえて気を紛らわそうとして――その手を止め、尋ねた。
「お聞かせ願いませんか。
いずみちゃんをこの町から遠ざけなきゃならなかった、本当の理由を」
なんだこのシリアスな展開わ・・・
ついてくのに精一杯だぞオイ
序盤のまったり加減が嘘のようだ
なんてことだ……
ギャグがほとんどない……
ヘビ事件が遠い昔のようだな
茶化しようがないから、カキコミしにくい……
そろそろ最終回なのかな。。
いずみちゃんは東京に戻れるのだろうか。
517 :
1/2:2005/10/19(水) 00:02:26 ID:???
ROOM53 自分で決めます
福永とのことは両成敗。いずみだけ町から遠ざけなきゃならなかった別の理由があったんじゃないですか。
君に話す理由はないと言ういずみの父。そこに、いずみ本人がやってきた。
「お父さんはただあたしがジャマだっただけ」そう突っぱねる娘に、父は言う。
「おまえにはわからんのか!? 父さんがあの時どんな思いだったか」
本当にホテルに泊まっただけなのかと尋ねても、返ってきたのは沈黙だけ。
娘がホテルで、どこの馬の骨とも知らぬ男と寝たことなど、信じられなかった。
妻から、聞き出した真実を告げられる。その瞬間の胸のざわつきは、誰にもわかるまい。
スーツを取り出し、外へ出る。先方にも会わねばなるまい。そして、道で少年とすれ違った。
――キミ、福永くんだね。
呼びかけてからどうしたかったのかは、自分でもわからなかった。
無言のまま立っていると、彼はぷいと顔を背けて、
――おっさん、ぼーっとしてんじゃねえよ、医者に診てもらえば?
激情に駆られ、身体が動いた。本当にぼーっとしてたのかもしれない。
彼は額を5針縫う大ケガだった。
先方の両親は立腹し、告訴も辞さないと言った。だが裁判で事件が表に出たら、傷つくのは一角だ。
しかし先方にも地元でのメンツがあった。条件をのめば告訴は取り下げると言ってきた。
「それが……一角をこの町、いや福永くんから遠ざけるというものだった」
「どうして、どうしていつも勝手にお父さんで決めちゃうのよ!」
あたしのこと思ってかもしれないけど、あたしの気持ちはちっとも考えてくれてないじゃない。
いつもあたしがどんな思いでいたか……涙をこらえて、いずみは宣言した。
「あたし東京へ行きます。考えて自分で、決めたことだから……」
不破には、両方の言い分がわかってしまう。
518 :
2/2:2005/10/19(水) 00:03:09 ID:???
次の朝早く、いずみたちは東京へと発つことにした。もう話しても無駄だと、いずみが悟ったからだ。
父は送りに来ていない。勇太と継母に別れを告げ、バスに乗った。
行く先に、福永が立っているのが見えた。いずみはバスを止めてもらい、一旦下車する。
行くな……と呟く福永の言葉には、もはや力はなかった。
「殴られたんだって? 知らなかった」
本当に殺されるかと思った。福永が以前にも繰り返した言葉が、ようやくいずみにも伝わった。
いずみは福永の長く伸びた前髪をかきあげる。生え際には、大きな傷痕が残っていた。
「どうして殴り返してやらなかったのよ……なにもかもはねのけて、会いに……」
「だってお前のオヤジ……」福永は、額に触れるいずみの手をそっと除けて、目を伏せた。
「泣きながら殴るんだもん」
いずみは決心する。
もう一度、家に戻ろう。せめてお父さんがよくなるまで。きっとまだ話さなきゃいけないことがあるような気がする。
不破は微笑して、いずみを送り出す。――そうするといいよ。
いずみは不破に一旦の別れを告げて、駆けていった。
「でも、きっと帰ります、東京へ。先輩のとこに……」
そろそろ最終回って感じだな・・・
いずみちゃんが帰ってきて終了かな。
そのまま殺せばよ(ry
いずみちゃん戻ってくるのかなぁ
なんかの漫画家の昔の作品だったが、別れてそのままくっつかなかった作品があったなあ…その雰囲気と似てない事もない。
殺されると思ったってのと、泣きながら殴ったってのがどうも
うまく結びつかなくて、その時のオヤジの顔が想像できない。
俺の想像力が貧困なのか……
いい親父じゃねぇか・・・グスッ
加減をしらない子供みたいな感じだったんじゃないだろうか。
もう必死でいっぱいいっぱいでたまらなかった、みたいな。
いずみが遠くへ行ってしまう夢から、不破は目覚めた。ここは東京、不破の部屋。
台所から音がする。不破は嬉しくなり、駆けていく。
「いずみちゃん?」
あ、先輩、おはようございます――「て、あたしが言うのか?」
台所にいたのは、難波だった。
ちゃんと帰るって約束した。そう信じる不破だが、社員たちは彼を甘いと断ずる。
10代のうちの決心なんてアテにならない。今頃はすっかり里心がついちゃってるわよ。
時子も隣の部屋から飛んで出てきて、不破に掴みかかった。
「どーして首に縄くくってでも連れて……ばかーっ、雷ちゃん!!」
気づくと一石と難波がいずみの机を外に運び出そうとしていた。
不破は机にしがみついて叫んだ。帰ってくるんだってばーっ! ……かなり心配してるね。
電話が鳴るたび、インターホンが鳴るたび、不破は犬のように飛び上がっては落ち込む。
部屋に来た社長は、不破に問いかける。
「あなた、いずみの面倒一生見られるの? あるいはいずみが一人で巣立つ時、笑って送ってあげられる?」
真剣な顔で、不破は考え込む。そんな不破を社長は一転、明るく笑い飛ばした。
先のこと考えて悩んでる不破ちゃんなんて似合わない!
だが不破は、笑うことなどできなかった。
待ち続け待ち続け、夏も終わる頃、ついにいずみから電話があった。
今は東京駅! 父も回復し、話もわかってもらえたらしい。
だがサイフを忘れて、ここまで乗ってこれないという。
不破は言った。迎えに行くと。手持ちのお金は190円。それなら、待ち合わせ場所は――
「ジャイアントパンダの前!」
行ってきます! と満面の笑顔で出かける不破。
玄関前で郵便屋と鉢合わせ、速達を受け取った。手紙の主は――いずみの父だった。
“一角は甘えてるだけなのです。私は一角のわがままを許しません。”
それでも、到着したジャイアントパンダ……二人のはじまりの場所に、いずみはいる。
――お疲れさま、いずみちゃん。
まだ続くのか?最終回みたいだったがw
これで終わらない理由がわからんな・・・まだ続くのか?
多分不破は氷山医院を継ぐために医者になる勉強開始と予想w
人気が出たため編集が以下略か?
いずみちゃん戻ってきてくれたか。・゚・(ノД`)・゚・。
この後はどうなるんだ、また変な誤解とかでグダグダにならんことを祈る
次回、きれいにまとめて最終回か、もしそうでなければ
何事もなかったかのようにまた以前のギャグ路線に戻るか、
のどっちかだろうな。
>「あなた、いずみの面倒一生見られるの? あるいはいずみが一人で巣立つ時、笑って送ってあげられる?」
ここらへんが、次のシリーズへの布石かな?
近代における家族・住居形態の変化とかの問題を交えて。
1991年の師走。ナミフクDMサービスは、ぬいぐるみに溢れかえっていた。
取引業者がUFOキャッチャーの人気に目をつけ大量生産したはいいものの倒産し、
ナミフクが引き取る羽目になってしまったのだ。
一部を預かってくれた隣の部屋の兼森夫妻は愚痴をこぼす。こんな部屋でどうやって愛を語ればよいのだ。
もちろん愛を語れない状況は、不破たちの部屋も同じだ。
ビール(いずみもこの頃クセになってきた)を飲みながらいい雰囲気になっても、
さっぱり捌けないぬいぐるみの山に邪魔され、ムードがぶちこわしになる。
不破は思う。別にいずみちゃんをすぐどうこうしようなんて思わないけど(ちょっと思うけど)、
ここじゃ進展しないよな――あーあ。
そんなある日、ハナヨリ印刷がツテを使って、ぬいぐるみの引き取り手を探してくれた。
交換条件としてハナヨリ印刷が求めたのは、バイトの人員調達。印刷会社も師走は忙しいのだ。
その話を持ちかけられ、不破は眉を寄せる。俺とは関係ないでしょ。
そこで社長は不破に耳打ちする。時給1050円。だが不破は表情を崩さない。
「社長の取り分は? 本当は1100円でナシついてんでしょ、やいっ」
「知らない知らない」
どたどたと追いかけっこしていると、突然音が響いた。マワワーモモモーミミーワモー。
チェロの音だ。一階の人が、ここのところ時々演奏しているのだ。
文句を言いに飛び出そうとする不破を、社長が押さえる。
「うるさいのはお互い様じゃない。トラブルは困るのよ」
でもどたどたは俺のせいじゃない。不破は限度を越えてるのだ。社長を振り切って、階下へ。
呼び鈴を鳴らすと、出てきたのは20代の女性。彼女は笑顔ですいませんと謝る。
「近くのスタジオがカラオケBOXに変わっちゃって、オーディションも近いもんですからつい……」
感じの良い美人だったので、不破もそう強くは文句を言えない。
しかし、彼女の肩越しから、チェロを構えた神経質そうなメガネの男が言葉を発する。
「あやまることなんかない、陶子。うるさいのはお互い様でしょうから。お二階さん」
不破は、その言い方に、むっとした。
最終回じゃなかった!やっぱり予想外の人気で引き伸ばしなのかな。
今後は新キャラとの絡み→いずみちゃん嫉妬のループになる予感…
>マワワーモモモーミミーワモー
チェロの音をこんな風に表現した漫画を、俺は他に知らない。
今度はご近所の騒音トラブルネタか。
手をかえ品をかえて、都会の住宅事情をえぐるな。
なんだかんだで、
以前のりびんぐゲームに戻ったね。
しかし、意外にまともそうな新キャラだなぁ。。
この漫画にしてはめずらしい
スタジオがカラオケボックスになったなら、そこで練習すればいいんじゃね?
防音は完璧だし、飲み物かなにか注文さえすれば、中で楽器の練習したって
店も文句は言わないでしょ。むしろ、カラオケやらない分、通信費がかから
なくて、店にとってはおいしい客だぜ。スタジオ借りるのにいくらかかるのか
知らないけど、そんなに安いもんでもないだろうから、それ考えれば悪くは
ないと思うんだが。
うちの近所にもへたくそなピアノひいてるやついるけど
上でドタバタされるほうがたまったもんじゃないな・・・
しかも団地よりアパートのほうがこういうのって響くでしょ?
カラオケボックスの防音なんて、あってないようなもんだ。
まあ、こっちが音出しても迷惑がられはしないだろうけど、
少なくとも練習に集中できる環境でもないだろうな。
騒音問題か… 田舎のオレにはあんまり分かんないな。
542 :
1/2:2005/10/23(日) 00:04:35 ID:???
ROOM56 階下の敵
日中のチェロの練習くらい、大人数のバカ騒ぎよりは常識的。
そう大上段に構える男――倉本と、不破は言い争いを始める。
慌てて「お兄ちゃん」ととりなす陶子。兄を部屋の中に押し込んで、廊下に出た。
「もう朝から音が来ないっていらついてんです。ほんとにもう、芸術家って人種は……」
でも今度のオーディションに生活がかかってるんです、こらえてください。
手を合わせて部屋に戻る陶子を見送る不破は、鼻の下を伸ばしていた。
「弾いてるヤツがやなヤローでさ、兄と妹じゃ大違い」
仕事に戻り、生演奏について不破がくさしていると、いずみが怪訝な顔をした。
兄とは何度か挨拶したことがあるが、どっちかというと温和でニコニコした印象だったという。
そんなことより、と社長が持ち出したのはハナヨリのバイトの件。すげなく断ると、
「いいもんね、それなら封筒2万枚納品してもらっちゃうもんね」
鬼社長は、風呂に封筒を納品。不破といずみは久々に銭湯へと向かうことに。
と、道すがら陶子に出会った。世間話で鼻の下を伸ばす不破を、いずみは睨み付けていた。
さて、1年ぶりの岩の湯だが……マンション建設のため取りつぶされていた。
ちょっと恥ずかしいが、電車で他の銭湯へ。
車内でいずみは言った。あたし、ハナヨリ印刷のバイトに行こうかと思うんです。
ほっとけと不破は言うが、嫌なのだ――部屋がごちゃごちゃして、先輩がいらいらすることが。
「それだったら、お金ためて思いきって、よそに部屋を借りた方がいいかなって」
不破は、初めて自分のいらつきを自覚する。でも、いずみだってけっこう……。
「「どうしてイライラして……」」
声が被り、それから二人は顔を赤くして、うつむいた。
543 :
2/2:2005/10/23(日) 00:05:27 ID:???
帰り道、コンビニでシャンプーを補充するいずみに、話しかけてくる男がいた。倉本だ。
「風呂の帰りかい? この近くなんだね、いいね、会社に近いのって」
不破と住んでることを知らないのだ。でも、やっぱり感じのいい人だと思う。
いずみは、小さい頃にチェロをやっていたことがあった。それで、倉本の弾く曲には覚えがあった。
「ずっとボッケリーニのチェロ協奏曲ですね」「君、詳しいんだ」
倉本は、これから仕事でクラブで演奏するんだと言って、去っていった。
爽やかな笑顔が、印象的な男だった。
日曜の朝、7時。不破といずみは、騒がしいコダーイのチェロソナタに叩き起こされた。
うるさーい! と叫んで飛び出そうとする不破の頭に、ふと邪念がよぎる。
「どーして着替えてんですか?」「いや、ちょっと」
寝間着を着替えてから、階下のチャイムを激しく鳴らす。
すると出てきたのは陶子――だが、表情がおかしい。ひどく険しい顔なのだ。
変わりようにたじたじの不破、お兄さんに……と苦情の言づてを頼むが、
「あたし、弾いてたの」
陶子の持つチェロに、ぎょっとする。
「ちょっとつきあって」「は?」
陶子に引っ張られて、不破はどこかへ連れてかれていく。
一方いずみは、その姿を窓の下に発見し、首を捻った。
なんか痛々しいよ、兄妹の存在自体が……
こんなフラグ立てられても負け戦決定じゃん。
この兄妹かませ犬の香りがプンプンするぜw
案外、実の兄妹じゃなかったりしてな。
不破といずみみたいにわけありで、同居するために
兄妹を装ってるとか。
なんかたいした相手じゃなさそうだけど
ひょんな誤解からグダグダな展開になるのは簡便だな
陶子が不破を引っ張っていった先は、ゴルフの練習場。
「ベー・トー・ベン!」
そんなリズム取りとともに何度打っても、フックしてしまう。力みすぎなのだ。
その理由は、チェロの調子が悪いから。音が来ないのだという。……兄貴と一緒だ。
帰っちまおうかと一瞬思ったが、今とは全然違う第一印象の笑顔を思い出し、引きとどまる。
ちなみに陶子が不破を連れてきた理由は、腰に手を添えようとしてくる教え魔を退けるためらしい。
今のあの顔なら誰かいなくても逃げ出すと思う不破だったが……思うだけにしといた。
だいぶ球筋が良くなってきた。陶子は不破にもスイングを勧めた。
「リズム感無いなあ。体で打つのよ。なんでもいいのよ、身近なものとか」
言われて、不破はクラブを構えた。
「2・D・K!」
80ヤードを飛ばし、喜ぶ不破のかたわらで、陶子は爆笑。ひとしきり笑い終えたとき、
「来た」……弾けるような気がしてきた。そう言って、風のように去っていく。
去り際の微笑みに、不破は振り回されながらもつい、顔をほころばせてしまうのだった。
ほんとに芸術家って人種は……。2・D・K!
調子に乗って100球も打っちまった。
窓から漏れるチェロの音ももう気にならない。だって、この街には様々な音が、切れ間無く響いている。
出す方も出される方も大変だけど、東京だからなあ……。
上機嫌で帰宅すると、いずみがギッと不破を睨み付けた。
炊飯器には不破の分のごはんはない。「だって、作んなかったんですから」
その時チャイムの音。タイミング良く陶子がチャーハンを差し入れてくれた。
笑顔でチャーハンを受け取る不破の脇を、いずみがすり抜けて外へ出ようとする。
「出かけるの?」と問う不破に不機嫌な顔を返し、「日曜ですから」
荒々しくドアが閉められ、しばらく考えてから、不破は真っ青になった。
日曜日……二人で部屋捜しに出る約束してたんだ。まずいなあ。
肩を怒らせて歩くいずみは、不動産屋の回転式看板を見つけた。昔のことを思い出し、その場を離れる。
と、前方に、橋の下を眺める倉本を発見する。彼はチェロを担ぎ上げ、よろけた。
川に落ちそうになるチェロを慌てて押さえ、いずみは倉本に言った。落っことしたらどうすんです!
だが倉本は答えた。「いいさ、捨てる気だったんだ」
ゴルフの場面ではどこのマンガでもネコも杓子も、3音節の言葉で
タイミングをとるのが当たり前になってるな。それだけ、
「チャー・シュー・メン!」が偉大なのか。
ああ、あまりなってほしくない展開に・・・
これで兄貴といずみちゃんが仲良くなって
変な嫉妬と誤解でグダグダにならなきゃいいけど・・・
倉本は絶望していた。今日のMMKフィルハーモニー交響楽団のオーディションは、散々だった。
いつもいざって時にうまく弾けない。何度やっても無駄。だから、音楽を、チェロをやめるんだ。
いずみの抱えるチェロを「返して」と悶着しているうちに、チェロを川に落としてしまう。
舟に乗り、下流に運ばれていくチェロ。慌てて追う二人。
走りながら、いずみは言った。好きならやめちゃだめですよ。
自分もバイオリンを習ってたことがある。でも母親の死や色々あってできなくなって。
「弾くことが楽しくなり始めた頃だったから……」
倉本は、いずみの言葉に、はっとした。
下流でチェロを取り戻した倉本は「もう捨てたりしない」と誓い、いずみを喫茶店に誘った。
M響に落ちたことを慰めるいずみに、倉本は語った。
音が来ないときには、ただただ音楽と向かい合う。つきつめていけば、そのうち気が晴れる……こともある。
それを聞き、いずみは熱っぽく倉本を褒めた。
「とことん自分をつきつめて一喜一憂して自身を高めていくなんて、
そんな生活や生き方、何人の人間ができるとおもいますか? 立派だしうらやましいと思います」
倉本はくすっと笑った。不思議な子だな、君は。子供みたいで大人みたいで。
なによりの励ましをしてくれたいずみを、倉本はいきつけの店での夕御飯に誘った。
一日中いずみを探し回った不破。夜になっても帰ってこないいずみを心配している。
ま、子供じゃないんだし。そう自分を納得させたとき、陶子が来て不破を夕食に招いた。
兄が急に外で食べると言うので、せっかくの残念会の用意が無駄になりそうだったのだ。
部屋を見回して驚いている不破に、陶子はどうしたのと尋ねた。
「いや、ここ広いなって思って……ううう」「おんなじでしょ?」
「音楽ってーのはさ、もっとそのなんていうか」「そーだ! 『音楽はもっとそのなんていうか』だーっ!」
ビールを飲み、すっかり出来上がってるいずみと倉本。
倉本は店の常連からバイオリンを借り、いずみに弾かせてみる。
ヘタな演奏だが、それに合わせて弾くと、倉本のチェロの音が良くなった。
演奏を終え、従業員や常連の拍手に包まれる二人。
倉本は、言った。
「君、部屋捜してるっていったよね。僕といっしょに住まないか?」
倉本、同居人の妹に無断で勝手なこと言ってるな。
これで兄貴といずみちゃんが一緒に帰ってきて
妹と雷蔵にバッタリあって 何でこんなところにー!?ってケンカが始まるのかOTL
チェロのように木でできてる楽器って、水に濡れたりしけっただけでも
音が違ってしまうもんじゃないのか? 川に捨てたのを回収しても
乾燥するまで当分の間、「音が来ない」と思うんだが。
舟に乗ってたから濡れてないんじゃない?
それにケース入りだったし。
556 :
マロン名無しさん:2005/10/25(火) 13:26:40 ID:9+cR7+pA
あげ
ageなくても書き込みがあれば落ちないよ。
マジレスはここまでにして…
いずみちゃんの過去話は結構出たけど雷蔵の過去が謎だな。
引き伸ばすなら雷蔵の過去編にうまくつなげて欲しい…
どーしてあたしと住もうなんて。問ういずみに倉本は説明する。理屈じゃないんだ。
「さっき君と二重奏していて思った。ああこれだと。長い間捜し求めていたのは君だったんだって!」
言うこと聞いちゃ駄目! 倉本さんは音大時代デュエットマンつって有名だったんだ。
そう止める店の人たちの言葉を聞いてか聞かずか、いずみはふらふら席を立った。
「あたし帰んないと。お風呂屋さんが閉まっちゃうんです」
そこで倉本は、酔って危ない、うちの風呂があると言っていずみを自分の家のへ連れて行った。
……卑怯だって自覚はないようだ。
倉本宅で、陶子は愚痴る。貸スタジオ潰してまでカラオケにしなくてもいいじゃない。
大学や学生は集中してるくせに、肝心要の練習場は不足してる。
結局居場所に一番金かかんだ。そう言って不破はコタツから出た。銭湯が閉まってしまう。
そこで陶子は提案した。よかったらうちで入ってきませんか? 風呂。
「そりゃ助かる」と不破は言葉に甘えた。
湯船に浸かっていると、外から聞こえてくる陶子の笑い声が止まない。
「だって、少しは遠慮するかと思ったら」
おおらかっていうか、こだわってないっていうか。……陶子は、呟いた。
「そういう人がそばでいてくれると楽かもね。生活がギスギスしなくて……」
倉本に連れられていずみが家に入ると、風呂上がりの不破と鉢合わせになった。
混乱し、それぞれお互いに「一体ここで何を」と詰問する4人。
倉本兄妹は、言い争いがチェロの話にずれていく。
「生活のすべてが音楽なんだ」「いつか切れるわよ、はりつめた弦みたいに」
陶子はチェロを薄っぺらだとなじられ、実際に弾いてみる……が。
ぬギギ、ギー。不味い音しか出てこない。そこで倉本が手本を見せようとすると、
ナギー。やっぱり音がおかしい。
二人で、調子を取り戻そうとチェロを弾く。鬼気迫る様子に、不破といずみは思わず退散した。
こそこそ出て行く二人を、あわてて倉本兄妹が追い……目撃、同じ部屋に帰っていく二人の姿。
「あ、あたしたち……」「いっしょに住んでるから」
ショックを受け、部屋に戻っていく倉本兄妹。
苦笑しながらいずみの顔を見る不破だったが……いずみも、ぷいと顔を背けて部屋へ。
不破は、微妙な笑いを浮かべたまま、ただ立ちつくした。
コメディーとしてきれいに落ちているのに、その割に
なんかイマイチに感じるのはなぜだろう?
とりあえずいずみちゃんは兄貴に惹かれることはなさそう、、かな?
だけどやっぱりこの展開になったか。・゚・(ノД`)・゚・。
この兄妹、あと2〜3話で退場しそうだw
次回くらいにふられフラグがたつんじゃないか?
この兄妹を踏み台にしてさらに二人の仲が深まればいいもんだが
なんか、ドラゴンボールで喩えるなら、
ピッコロ大魔王を倒した後に宇宙から降ってきた船に乗ってたのが
ピラフだったような気分だ。
年初め大温泉旅行。それは、去年ゴタゴタして行けなかった恒例行事。
5人しかいないのにチラシをこしらえるくらい、社長は張り切っているようだ。
だが、千里と一石はそれぞれ事情で行けない。とはいえ、宿はもう取ってしまっている……。
お金はいいからぜひ。そう旅行に誘われた倉本兄妹。
倉本は乗り気ではない。だが陶子に「あの子も行くわよ」と言われ、ちょっと動揺。
あの二人は結婚とか同棲とか恋人同士ってわけじゃない。どの程度か確かめるのよ。
そう焚きつけられるが、年明けにオーディションがあると言って倉本は動かなかった。
旅行当日の朝、メンバーが揃った。社長、難波、いずみ、不破、陶子、そして、時子。
陶子は、不破と仲の良い時子が気になって仕方ない。なんなのこのなれなれしい女はっ!?
宿についた。
女性陣は露天風呂を満喫していた。肌の若さやボディラインの話で盛り上がる。
んまあ、と距離を置いて見ている陶子に、泣きぼくろの女性が話しかけてきた。……サングラスを外した難波だ。
陶子は難波に、時子について尋ね、昔つきあってたことまで突き止めた。
けれど、ここでいずみちゃんのことを聞くのはバレバレだろう。……諦めた。
一方不破は、広い男部屋を独り占めで転げ回って幸せをかみしめるのも束の間、
男風呂で一抹の寂しさを味わっていた。
宿の前で、チェロを抱えてうろうろしている男がいた。倉本だ。
いまさらどんな顔して混ぜてもらうんだ。しかし帰ったらもっと落ち込む。
フロントまで来たところで、仲居さんに声を掛けられた。
「ああっ、ちょっとちょっと、待ってたのよ。早く早く」
わけがわからないまま連れてこられた先は、宴会場。
「出張流しの方が来ました」「んー?」
チェロをギターと間違えられたらしい。帰ろうとするが、せっつく声が突き刺さる。
「青い山脈頼むでー」「あほぬかせ、SAY YESじゃ」「フランシーヌじゃい」「早くやれー!」
食事の席で、いずみと不破は離れて座っている。なんともないのか何なのか。
確かめたいが、切り出し方がわからず陶子は気を揉む。と、そこに誰かの一声!
「ねえ、雷ちゃんといずみちゃん、進展してるの?」
ここで時子が出てきたか! 意外な展開だ。
けど、なんか主人公が不破から陶子に移ってるぞ。
不破といずみちゃんのカップルが完成されちゃったから、
今度は視点を変えていこうってつもりなのか。
なんで社長が倉本兄妹を知ってるんだ?
>>566 ん?会社の階下の住人だからじゃないのか?
迷惑かけているし・・・何度か見たことあるんじゃない。
陶子が一番知りたかった問いを発したのは時子だった。この人好きっ。
「早いとこ結婚しちゃいなさいよ。気が気じゃないんだってば」大嫌い!
難波にも詰め寄られ、不破といずみはは答えた。
「あの部屋と、うちの会社があるかぎり、あそこじゃなんも起こりゃしません!!」
だから出ようと思ったけど、色々あって、めんどくさくなっちゃって。
そこで二人は決めた。2月の引っ越しシーズンを待って、捜そうと。
陶子はがじがじ箸を噛みながら思う。ばかばかばか!
…ううん、ものは考えよう。引っ越すまではフリーと同んなじってことよね。
あたしってば前向き!
席を離れてトイレへと向かういずみは、宴会場から流れるチェロの音色を聴いた。
ハイドンのチェロ協奏曲第2番ニ長調。だが、それはやがて止む。
様子を見にいってみると、宴会場から暗い表情で出てくる倉本の姿があった。
庭の石に座り、倉本はいずみに語る。僕は僕の誇りをかけてハイドンを弾いたんだ。
……客のしらけきった顔が見えて、怖くて逃げ出した。わかってる。人間には美意識の違いがある。
本当にいい音楽は、どんな人間にでも感動を与えられるって思ってた時期があった。でも違うんだ。
いいんだ。僕は、奥の中で満足できる音楽を捜し求めて生きようと思ってる。
だから、自分と同じ美意識の人と、日々の生活を送りたいと思ってる。
……倉本には、今、はっきりとわかったのだ。
「僕が必要としていたのはきみなんだ。いっしょに帰ろう、いずみちゃん」
酔ってるわけではない。本気だったのだが――そこで判明する、驚愕の事実。終電がない。
女部屋は、5人には狭すぎた。2人くらい不破の部屋で寝ようということに。
一人目は時子が手を挙げる。陶子は驚く。ついでに平然としているいずみにも驚く。
あと一人。自分が名乗り出るなんて、へんかな。悩んでいると、社長がティッシュでくじを作った。
息を呑んでいると、ひょいひょい取られていくくじ。いずみは当たり、難波は外れ。残りは二者択一。
息を呑み、陶子はくじを引く。――当たりだ!!
社員たちはハテナを浮かべながら、拍手を送った。
けど。どーしてこんなとこまで来て、お兄ちゃんと布団ならべなきゃならないのよ。
ぐちぐちと口喧嘩する兄妹に不破は叫んだのだった。うるさい、寝ろ!
つくづく邪魔いずみちゃんと雷蔵は邪魔されるんだな・・・
邪魔いずみちゃんとは何事ぞ!
宴会の席でハイドンはねーよな。倉本空気嫁
完全に陶子視点の漫画になってるな。
けど、勝ち目のない戦いをする陶子が哀れでならない。
雷蔵といずみちゃん早くセックルしないかな。
「あの部屋と、うちの会社があるかぎり、あそこじゃなんも起こりゃしません!!」
ってことは、2月になってあの部屋を出ることになれば、セックルもやぶさかではない
ってことだよな。
不破といずみは、眠れなかった。芸術家兄妹は眠ってまでも歯ぎしりと呻き声で悩みやがる。
目が覚めてしまったが、バーもパーラーもやってない時間。
……閃いた。露天風呂!
湯に浸かりお酒を飲みながら、夜空を満喫する。ぷはー、東京じゃできないよねー!
いずみは不破に話す。倉本に、いっしょに住もうって言われた。
いずみちゃん、まさか……と呟く不破に、いずみは訴える。先輩こそ。あ、あの妹さんと。
不破は、きっぱりと答えた。なんにもないよ。
「俺が好きなのは、いずみちゃんだから……」
「あ、あたしだって、いっしょに住みたいって思うのは、先輩、先輩だけですから!」
……そう考えたのは、倉本にアプローチを受けてからだけれども。
不破は言う。あの二人は二人で、自分の居場所を捜し続けてたのかもしれない。苦労が多そうな二人だから。
もしかしたら、みんなそうやって居場所を捜し求めてるのかもしれない。
「あたしは、先輩の場所についていきます。だってそこが、あたしの場所だから……」
空から、雪が降ってきた。雪見酒をしながら、不破は漏らす。
「引っ越したら俺……いずみちゃんを抱くかもしれない」
慌てて笑ってごまかす不破に、いずみは呟いた。あたし……そっちに行こうかな。
繋がっている敷居の端から、男湯へ足を踏み入れようとした時――
「あれ、人がいるよお」「ああ、こっちもだよ、こんな時間に」
入ってきた親父は、旅先での5年ぶりの夜の生活を、不破に赤裸々に語る。
そそくさと上がる不破に、親父は「兄ちゃんもこれから一発かい?」 ……転げ落ちた。
やれやれ。苦笑しながら宿舎へと戻る不破。
女湯から出てきたいずみと並び、無言で歩く。やがて、二人は視線を交わらせ、手を繋ぎ――
雪の降る庭園で、静かにキスをした。
朝、うなされていた陶子は、倉本に蹴られて目を覚ました。
相変わらずの寝相の悪さ。なんとかしてよと怒鳴ると、倉本も怒る。おまえこそ、布団2枚かけて。
……あれ、誰んだろ。すっと視線を移し……兄妹は、顔を引きつらせる。
「ま、まさかこの二人、毎日こうやって寝てんじゃ」「た、ただ寝てるだけよ、寝てるだけ……」
動揺する二人をよそに、同じ布団で顔を寄せ合って安らかに眠る、不破といずみだった。
ああ・・・これはもう秒読みだな
最低でも一緒に布団に入るときまさぐり合ってるだろ
おフェラくらいまではいってるかもしれん・・・
進展キタ━━(゚∀゚)━━!!
これをまっていたぞおおおおおおおおお
か、かませにすらならなかった……
倉本兄妹……あんたらって一体。
キスしたうえ一緒に寝るなんて… 時子の家出の時はダメだったのに…
衝撃の島根編が終わって進展したなぁ。
自宅にて、倉本がハイドンのメヌエットを弾いていると、陶子が慌ててそれを止めた。
「弾くんならもっとガチャガチャした曲にして! ムードをわざとぶちこわすような曲!」
倉本は曲で気持ちをアピールしていたらしいが、逆効果になりそうなことは避けるべき。
この間の旅行で二人になにかあったと思う。しかもあたしたちが刺激してたかもしれない。
「あの二人が引っ越し考えてる2月か3月だか、それまでがあたしたちの勝負なんだから!」
二階。いずみと不破は、ふと、いい雰囲気になる。唇を近づけたその時――
ジャガジャガジャガジャガ。
「弾いて弾いて! もっと強く! 激しく! 叩きつけるように!」
最後までいってようとどうでもいい、思いは変わらないと倉本は言うが、
最後までいっちゃったら不破さん以外眼中になくなると陶子は断言する。
とはいえ、毎日一晩中葬送行進曲を弾くわけにはいかない。
なにか、ムードぶちこわしでそれでいて道徳を問われない騒音みたいなものはないだろうか。
郵便局に出かける不破に、陶子はアピールすることにした。
子供にチェロを教える団地まで、車に乗せてもらうのだ。
「でも生活全部を音楽にしたくはないっていうか……だから音楽とは無縁の人のほうが、好き」
夜、いずみの目に洗剤の泡が入った。タオルで拭く不破の顔がおもむろに近づいたその時――
あぎゃあぎゃあぎゃあ。
赤ん坊は泣くのが仕事。
音大の時の友達から赤ん坊を預かって、2,3日は妙な気分にならないようにしたのだ。
……と、廊下で兼森夫妻に出会った。どーしてあんたが。
さらに不破たちも出てきて、ひとしきり赤ん坊を愛でる。やがて時子は旦那に耳打ちする。
「つくろう。……あのね、今日あたり排卵日」
そしてその横では、赤ん坊を抱えたいずみと、見つめ合ってる不破!
赤ん坊は逆効果だった。倉本は、姑息な手を使うからだ、と取り合わない。
でも陶子は負けない。まだまだ手はあるんだから。とりあえず弾いて弾いて、たたきつけるように!
必死で演奏する兄妹の階上では……二人はヘッドホンを着けて映画鑑賞中でしたとさ。
進展すると思ったらまだ邪魔が続くのね・・・
もうすぐにでも消えていいよこの兄妹('A`)
この兄妹さすがにウザくなってきたな。
そろそろこの作者もネタ切れかな?
ネタに困った時のこの兄妹って気がする。
素直に告白した方が早いんじゃないか?
今って恋人同士ってことでいいのかな?
同居してるしセックル宣言もしてるわけだしなぁ
ROOM64 サウンド・オブ・イシヤキイモ
夜、不破といずみは、住宅情報誌で物件を探していた。
やっぱり2部屋ないと困るかなー。その……いろいろと。……目が合う。唇を潤し近づいたその時――
いーしやあきいもー。おいもっ。
……夜の空を駆け抜けてくおイモの美味しそうな匂い。9時半だぞ。いいのかなー。
けど、あのイモ屋は変なのだ。
昨日いずみが帰りに見かけ、呼び止めようと思ったら、すんごいスピードで走っていってしまった。
変な話だと思って、不破も確かめてみる。確かにイモ屋は呼び止めると逃げていった。
イモ屋の正体は、もちろん倉本兄妹である。
売り上げを確保しつつも、30分おきに不破宅の前を回る。
夜はそんな作戦をしつつ、昼は今日も不破に団地に送ってもらう陶子。
……実は今日は教室の日ではないのだが、アピールのためだ。あたしってば健気。
しかし、そうこうしているうちに、2月になってしまった。
二人の進展はないけど、兄妹にも進展はない。次の作戦はバレンタインだ、と陶子は息巻く。
不破といずみは不動産屋の前でウインドウ広告を眺めていた。
いい物件を見つけたそのとき、石焼イモの匂いが漂ってきた。
食べようと近づくと、目の前の客で売り切れになってしまう。不動産屋に戻ると、物件もなくなっていた。
たった数分の間に……イモ運も部屋運もない。むかむかむかむか。
怒りはつのり、夜、謎のイモ屋に不破といずみは接触を試みた。
全速力で逃げるイモ屋を、トランシーバーを使った包囲網で挟み撃ち。
倉本兄妹は、おいも放送のテープを止めて位置を隠そうとするが、あえなく捕捉されてしまった。
車を捨てて逃げようとする倉本。だが対照的に、陶子は目が据わっている。
陶子はマイクを掴み、車の外へと宣言した。あたしは逃げも隠れもしないっ!!
「あたしは不破さんが好きっ! 毎日毎日好きになる!
答えて不破さん! あたしのこと好き? 嫌い?」
言葉を失っている不破。沈黙が流れる中、テープが巻き戻り、一言、大音量。
おいもっ!
ウィンドウ広告の物件がホントに目の前で売り切れるとは。
マンガの不動産屋は、「ああ、それは10分ほど前に売れてしまいまして」とか
ごまかすのが定番なのに。
(まあ、そういうごまかしをしない、まっとうな不動産屋ってことだけど)
やっと告ったか。退場間近だな。
トランシーバーなんてどこで手に入れたんだ。
包囲網がなんか本格的でワラタ
ここまで結果の見えてる告白シーンって初めて見た。
明日焼きいも買ってくるわ
不破は、陶子に答えた。俺はいずみちゃんとの、これからの生活を大切に考えてる。
いずみちゃんが安心できる居場所を作ってあげることが、俺のやるべきことだと思うんだ。
「5千円」
陶子は目を伏せ、ありったけの焼き芋を不破に押しつけて去っていった。
――このところの騒ぎは、もしかしてわざとだったのか。
部屋に戻った不破がそう思い至ったとき、一階からチェロのメロディが流れ始めた。
陶子は、いい音のチェロを弾きながらも涙をこぼしていた。
「いろいろ情けなくって。あの娘がそばにいることなんて百も承知だったのに……」
倉本は、陶子にワインを差し出した。振られたのは僕だって同じだから。
酒が入ると、愚痴が出てくる。あの子なんてただ不破さんのそばにいるだけじゃない。
天井一枚の差は理不尽だ。隣の人が理想の人でも気づけない東京が情けない。
倉本も言う。いずみちゃんこそ僕が長年捜し求めていた人だ。
「いずみちゃんは僕に可能性を与えてくれる。いや、あの子の可能性そのものが僕の美意識を刺激するんだ」
そのまま、倉本は外に出て、2階に叫ぶ。「お二階さん!! 出てこーい!」
明日にしろという不破を無視して、問う。
「きみは本当にいずみちゃんを幸せにできるのか!」
不破は答えた。いずみちゃんは居場所を欲しがってる。安心できる居場所があることが幸せなんだ。
だが倉本はそれを、温室で可能性を閉じこめることだと批判した。
「彼女の世間をこの東京の住宅のように狭くして、それがしてあげるべきことだっていうのかい!?」
やるべきことは他にいっぱいあるはずだと主張する倉本。
当のいずみは、父に同じようなことを言われたことを思い出していた。
でも、今しかやれないこととか可能性とか、ぼんやりしていてよくわからない。
倉本は、心の中で呟いた。僕ならキミの可能性をわからせてあげられるのに。
後日、不破は倉本兄妹が段ボール箱をまとめているのを発見した。
近くに防音室のあるマンションが見つかったので、引っ越すのだという。
……ただし、倉本兄だけが。え? と驚く2人に、倉本は言った。
「賭をしないか、お二人さん。勝ったほうが好きな相手と住めるってのはどうかな?」
おおお 勝負に出たな倉本兄!
つっても条件が一方的すぎるがw
住宅の狭さと可能性の話を繋げるのはうまいと思った。
ようやく「りびんぐゲーム」に戻ってきた感じだ。
倉本が考えてるのは、いずみを音楽の世界に連れていきたいってことか?
つーかこの勝負、不破にとってはまったく意味のない勝負だな。断られて終わりだと思うんだが。
つーかいったい何で勝負する気なんだ?
音楽勝負なら倉本に有利だし、いずみに決めさせるなら不破を
選ぶにきまってるし。
振られてイモをおしつける陶子の気持ちがよくわからん。
なんなんだ?
>>595 「私を振るんだからせめておイモ買って売り上げに貢献してよ!」
ってな感じでは
事情があってしばらくこれなかったのだが・・・。
難波さんの素顔と、時子さんの「つくろう」発言に反応するひとはいなかったんだな・・・。
難波さんはともかくとして
時子はなぁ・・・普通に言いそうだしな・・・。
賭だなんて冗談かと思ってたら、ある日突然、バーに呼び出された。
ようやく姿を現した倉本は、キリキリした表情だ。
賭なんかする気はない、つい来ちまったが、と帰ろうとする不破に、倉本は言った。
「つい来たんなら、気にはしてるんだろ。いずみちゃんの将来のことだもんな」
倉本はチェロを構えた。以前、チェロがいずみとのデュエットで調子を取り戻したことを再現するのだ。
そうすれば、不破がいずみのことをわかってないことを知らしめることができる。
それが、「可能性の実験」なのだ。
いずみの弾く、バイオリン。
その演奏は下手だけれど、以前と同じように倉本のチェロを蘇らせた。
不破は、驚いていることを指摘され「バイオリン弾くなんて知らなかっただけ」と強がる。
つまりいずみの可能性に気づいてなかったのさ、と倉本は言う。
「悩まなくてすむ居場所を作ると言った、けど守るだけじゃね……
彼女の魂を豊かにする可能性が、きみにはあるのかなあ? 僕にはある。僕なら彼女の……」
言葉は、陶子に遮られた。
「お兄ちゃんのチェロはギスギスしてて人間味がないわ」
実験に異議を唱え、滅びの言葉を言い放ってから、陶子は店を一旦出て行った。
イライラした倉本が最悪のコンディションに落ち込んだ頃、陶子が戻ってきた。
引き連れてきたのは、チェロ教室の生徒、小学生のちづるちゃん。
ちづるちゃんのチェロを耳にした倉本は、はっとする。自分の音が蘇っている。
「あの子と同じなの、ちづるちゃんは。習い始めて一年。弾くのが一番楽しい時期なのよ」
だから、行き詰まってた倉本が、楽しく弾いてた頃を思い出せた。
倉本は怒鳴る。どーしてお前がこんなこと。黙ってりゃすむ、おまえだってあいつのこと好きなんだろ!
けど陶子は涙を浮かべて訴えたのだった。
「あたしだって芸術家のはしくれなんだから! ごまかしの音は弾いてほしくないんだもん」
「少しでもこたえたら、考えてくれよ、いずみちゃんのこと……」
別れ際の、そんな倉本の言葉を気にしているのかと問ういずみ。
そうでもないけど、不破はいずみのバイオリンなんて見たことなかったから驚かされた。
音楽のことはわからないけど、いずみは楽しそうだった。
不破は東京の空を見上げて、心の中で呟いた。――可能性か……。
言ってることは倉本のほうに分があるような・・・。
自分の居場所とか可能性を限定して生きていくなんて17の女の子には難しいし、もったいない。
たしかに雷蔵と暮らしてたら細々とやっていくしかないしね
ちづるちゃん萌え。
この作者の幼女ってしばらく見てなかったからな……
昔はもっとコロコロした絵ばっか描いてたのに。
これからいずみちゃんは音楽をまた始めることになるのか?
音楽の才能は、あんまりないだろう。
ちづるちゃんクラスでないかい?
学問の方じゃないかな。元々出来る方だから。
・・・不破の給料じゃ、学校に行かせられないな・・・。
サ店のバイトで貯めた金って結局何に使ったんだっけ
まだ引っ越しの資金として貯めてるんじゃない?
次の物件は相当いいとこにできそうだな。
ついに見つけた、いい物件。東京を一望できて10万円! 新築にしては安すぎるけど……
いずみは気に入った。そう言うなら、と不破は手付金を払った。
けど社長は許してくれるだろうか。なにしろ一応、同棲するわけだからな――。
2人の新出発のためにがんばんなきゃ。決意も新たに、不破は会社に戻った。
けれど、難波が唯一打ち込みの内職をしている以外、社員は暇を持てあましている。
このところ、仕事が少ない。荷物もないから部屋も広いし……バブルがはじけた影響だろうか。
夜、社長に引っ越しのことを話す。
社長は長く考え込んで、先に延ばせないかと言った。
反対はしないけど……と言いかけ、また何かを考え込んでから、やっぱりダメ、と意見を翻す。
そこに電話が入った。社長は、「とにかくだめよっ」と言い残して、外へ出かけていく。
……なんだか、聞く耳を持ってないだけでなく、様子がおかしかった。
「おかしいなんてもんじゃないわよ」
突然現れたのは、時子。涙をこぼし、不破に泣きついた。
「亭主ったら浮気してるのよーっ」
このところ、駒田にも内緒で、女からの電話に応じてちょくちょく出かけてるらしい。
またやっかいになるわよ、という時子に不破は、長くは無理だと事情を話す。
時子は顔を明るくしてぶしつけに、「もうしたのー?」
2人の態度から、キスはしたのだと推理して、したんだ、したんだとはしゃぐ。
そして次の瞬間には「……したんだわー、浮気ー!」と泣き崩れた。
その時、駒田から連絡が入った。例の女性と、今しがた出かけたという。
時子たちは不破の駆る車で、夜の街へと飛び出した。
旦那の入っていったという喫茶店は、暗い裏路地にあった。
しかも態度の悪い店員と、暴利な価格設定。客もいないわけだ。
旦那の様子を監視していると、旦那は店員の態度に立腹しながらも、殴らずこらえていた。
おかしい、怪しい。
そういえばうちの社長も怪しいおかしいだ、と駒田に報告する不破。
浮気の相手がうちの社長だったりして、と笑えない仮説を立ててみた、その時――
サングラスの女性が来店してきた。
目を丸くする一同。その髪型と風貌は、どう見ても……。
ちょwww社長なにやってんのwww浮気ヤバスwww
どう見ても熟女浮気です。
本当にありがとうございました。
この展開は・・・
ナミフクの社長相手にするんなら
不破んとこの大家も相手してやらんかいw
マジで浮気・・ってことはないよなぁw
さすがに浮気の線はなさそうだな。
なんか2人して企んでるんだろう。新会社立ち上げとか。
先の展開がよめた! 探してもらってた新社屋が見つかったんだ。
けどお金が足りなくて値引き交渉・借金のお願いをしてるんだよ!
これなら雷造といずみが引っ越すのを引き止めるのも、こそこそ密会するのも説明できる。
……と思わせておいて、実は裏の裏をかいてホントに浮気
旦那と社長との密会。本当に、浮気なのか……!?
「とにかく時子様、お気を静めて」
駒田が声を掛けようとしたときには、もう時子は、旦那と社長の席の脇に立ちはだかっていた。
リコンよと叫ぶ時子、それを回収する不破たち、そして怒鳴る旦那。
「駒田っ! なんのマネだ! 説明してもらおう」「説明して欲しいのはこっちのほうよ!」
駒田さんにも内緒でなにしてたの? 2人でなにしてたの? そう時子は問いつめる。
しかし、返ってきたのは……ただ、沈黙。
時子は店を飛び出した。送っていけと命令する旦那。駒田は、店を去る間際に旦那に諫言した。
「なにかやる時は、時子様の気持ちもちゃんとフォローしてあげてください」
わかってると呟いて、それから旦那は社長も送り出した。
社長は去り際に、不破に言い残した。「ごめんね、不破ちゃん」
そして旦那は、残された不破たちに言った。
「探偵まがいのことするヒマがあったら、他に心配することがあるんじゃないのかね、不破雷蔵」
家に帰ると、時子がうずくまっていた。どうしても帰りたくないそうだ。
浮気なんかしてないよと説得するが、時子は信じず、シャワーを浴びに行く。
見送って不破はいずみに言った。大丈夫、すぐに帰ることになるよ。
いずみは不破と駒田に問う。なにか気づいてるんじゃないですか?
だが2人とも、ただ口をつぐむだけだった。
やがて、チャイムが鳴り、現れたのは……社長。
「ちゃんと話しておかなくちゃ、ねっ」と社長は元気なく笑った。
そして、告白する。
「あと一度不渡りを出したら、ナミフクDMサービスは倒産しちゃうの」
なんとなく気づいていた。いや、もっと早く気づくべきだったのだろう。
社長は、淡々と現状を説明する。
最悪の事態を避けるために社長に相談に乗ってもらっていたこと。そして――
人員を削減したいということ。
眼鏡の奥の表情は見えない。社長は、ゆっくりと姪に顔を向けた。
「いずみ……」
なんだか重い空気になってきたな… 変な兄妹と騒いでたのがウソみたいだ…
いや、マジ予期せぬ未来だよ……orz
浮気のほうがまだよかった。
ここからどうやって浮上するんだろう?
いずみ、プー太郎化か?
これはもうだめかもわからんね
ははぁ。次はいずみの職探しで、例によって
都会の住みにくさに話をもってくわけだな。
まさかこのまま倒産ってことはないだろ。
不破の機転で不渡りをなんとか出さずに済んで、
旦那も不破を認めるって展開に決まってる。
……だよな?
なあ、現実はバブル崩壊で大変だが、
漫画の中でくらい夢見させてくれよ……な?
ちょっとまて、この前、温泉いっていなかったか?
田舎に帰らないでくれよいずみちゃん。・゚・(ノД`)・゚・。
温泉旅行に行く余裕があったのに… 大きな取引先が急に倒産したのかな。
前にもお金がもらえずにぬいぐるみもらってたし… 負の連鎖は恐いね。
温泉旅行から2ヶ月以上経ってるしな。
何が起こるかわからんのがこの平成の世だな・・・
626 :
1/2:2005/11/06(日) 00:01:24 ID:???
ROOM69 しっかりしなくちゃ
できればこんなことしたくないけど、会社が助かる方法は、今これしかないの。
一同がショックを受ける中、不破が宣言した。
「俺が辞めますよ。いずみちゃんの代わりに」
別の仕事は、俺はなんとかなるけど、未成年のいずみはそうはいかない。
けれど社長は言う。酷だけど、いずみでは不破ちゃんの代わりにならない。
いろいろ考えた上でのことなのだ。
社長が謝ると、いずみはすっくと立ち上がった。そして、笑った。
「マヨネーズが切れてたなって思って」
買い物買い物、といずみは外に出ていった。
家に戻った時子は、旦那に怒りをあらわにする。
旦那が黙っていたのは、仕事のことで、しかも他人の会社の事情だったから。
仕事は仕事、その他はその他。時子は、旦那のそういうところが嫌いなのだ。
不破は一人、今後のことを考えていた。
なにが新出発だ、こんなことでつまづくなんて。
だが、弱気にはなれない。大変なのはいずみちゃんのほう。
だめだだめだ、しっかりしないと!
そこに、買い物袋をぶらさげたいずみが帰ってきた。明るい態度に、不破は反応に困る。
いずみは、買い物袋を逆さにして、中身を出した。
そこには……何冊ものバイト情報誌。
「こーいうことは早いほうがいいんです。なにしろプー太郎なんですから」
ちょうど就職シーズンだし、やっぱり引っ越したいし。フリーターってのも悪くない。
そう笑ういずみに、不破も勇気づけられた。腕をまくる。
「よーし、バイト捜しならまかせとけ! 学生の頃さんざんやったんだ」「はいっ!」
627 :
2/2:2005/11/06(日) 00:02:12 ID:???
……けれど、世間は甘くない。中学卒の採用は、なかなか見つからない。
溜息をつき、お風呂を入れにいくいずみ。
不破はタバコに手を伸ばそうとして……思い直し、タバコの箱をくずかごに捨てた。
そして、風呂場のいずみに声を掛ける。
いずみは、浴槽に湯を入れながら、静かに泣いていた。
「どうしよう……あたしの場所がなくなっちゃう。なくなっちゃう……」
どうしようと何度も呟くいずみに、不破は言う。居場所は俺が作るよ。
「心配しなくていいんだ。場所はあるよ、ちゃんとあるよ。2人で見つけたあの部屋さ」
いずみの涙がひく。不破は、なんとかなるよと繰り返して、いずみを抱きしめた。
幾日かが経った。
荷物を車で新居へと運ぶ毎日だ。けれど、押し入れの荷物はちっとも減らない。
今日はあと一往復だけ。いずみは、押し入れから段ボールを一箱取り出した。
「あれ。なんだろ、この箱」
古く汚れた箱。やけに厳重に、ガムテープと紐で覆われている。
中を開けて見ようとすると、不破に大声で怒られた。この箱はだめなの!
これは何なのかと尋ねても、なんでもないとはぐらかされる。
そこにやってきた社員たち。不破がトラック代を倹約していることを聞き、変われば変わるもんだと驚く。
「茶化してるヒマがあったら手伝ってくれませんかねー」と不破が嫌味を言うと、
社員たちは笑って、入居日にはスケジュールを空けてあると言った。
だからこのさい中身を、と箱の周りで騒ぐ一同――
だが、そんな楽しい雰囲気は、社長の帰社で一変することになる。
社長は、陰鬱な表情で、残酷な現実を告げた。
「だめだったわ。倒産よ。ナミフクDMサービスは」
島根編以上の鬱展開じゃねえか……これ。
あれは過去の話だけど、今は未来がお先真っ暗だよ……?
うわわ、イズミ解雇だけかと思ってたら、ナミフク自体が倒産かよ。
イズミだけでなく、全員ヤバイ。
余裕なのは、は虫類女とくっついたヤツぐらいか?
ナミフクに仕事もらってた田之倉のじいさんも大丈夫か?
年金があるかもしれないけど。
ユメもチボーも無いな… 現実は非情だ…
ところで、箱の中身は、やっぱエロ本、エロビデオのたぐいか?
>>630 大丈夫、じいさんには土地の権利書が……
……ダメだな。
土地、価値落ちちゃったもんなあ。どうすんだろ。
じいさんが土地を買った時はめちゃくちゃ安かったんだから損はしてないじゃん
土地を売って大金を得る事は出来なくなったけど元々売る気が無かったし問題無し
636 :
1/2:2005/11/07(月) 00:02:56 ID:???
ROOM70 長いお別れ
喫茶店で、ナミフク社員たちは社長を待っていた。
もう笑うしかない。倒産てのも考えなくもなかったけど、けっこう急だった。
一石は頭を抱える。
ヒモじゃあるまいし、またバブルが弾けて萌子の土地の価値もなくなり、今後の処遇は考えないといけない。
でも一石はまだましだ。不破といずみは2人して失業。行政のばかっ。
ただひとり、難波は平気顔。プログラムの内職で顔をつないであるから、腕二本で食える。
不破にずるいと言われるが「あんたの無策が悪いんでしょ、その日その日をだらだらと生きて」と逆に説教。
社長はまだ来ない。皆が訝しがり始めた頃、姿を現したのは、旦那だった。
旦那は単刀直入に、社員たちに言った。
業務拡張のため、人員増強は急務。千里さん、難波さん、一石さん、それから不破くん。
「以上4名を兼森開発の社員として迎えたい」
意外な朗報に、喜ぶより先に一同がきょとんとする中、不破が言った。
「ちょっと待った。4名って……いずみちゃんは?」
旦那は淡々と言う。採用規定は18歳以上、高卒程度の学歴。ビジネスの話に無駄な私情は挟みたくない。
「い ず み ち ゃ ん を ム ダ だ と 言 っ た な !」
不 破 雷 蔵 !! 激昂する不破を旦那は一喝した。もう少し大人かと思ったがな。
自由意志、その気がおありなら指定日にオフィスまで。そう言って、旦那は去っていった。
637 :
2/2:2005/11/07(月) 00:03:37 ID:???
カラオケで酒をあおり、不破は旦那への反発をあらわにする。
あいつの部下になんて誰がなるかってんだい。
だが、そこに旦那が彩度現れた。
「我が社へ来い、不破雷蔵」
私が欲しいのは人格じゃない、人材だ。旦那は不破の手腕を評価して、高給と住宅手当をちらつかせる。
「それだけ出す金があるんなら、いずみちゃんも雇えよ」
しつこく言う不破に、旦那は怒鳴る。きさまの人生はなんなのだ!
不破は啖呵を切った。
いずみちゃんは疎外されるのが一番傷つく。必要ない人間だという思いを味わわせたくない。
「小さくたってこの娘が安らげる場所で幸せに暮らすんだ! そんな人生だ! 悪いか!」
口論する2人に、いずみは微笑んで言った。
あたしはいいんです。先輩のそばにいられるんなら。だから先輩、兼森さんの会社へ行ってください。
不破は表情を険しくし、いずみの手を掴んでカラオケを飛び出した。
「今日からあの新しい部屋で暮らすんだ!」
家に戻ると、社長がひとり、会社の後処理をしていた。
もうちょっと早くわかってればムダな引っ越ししなくて済んだのに、と謝る社長。
社長はこれから、自宅で一からDM屋を出直すことにしたらしい。
つまり……この部屋には、誰もいなくなってしまう。
いずみは不破に訴えた。先輩、いましょうよ。ここで寝ましょうよ。
「だって……次からは、知らない誰かが住むんですよ」
一年半の思い出を噛みしめて。
社長や、他の社員たち、それにまた家出してきた時子も一緒に、皆で布団にくるまった。
社長は部屋を見回し、電気を消した。
「みんな……お疲れさま……」
なんか複雑な気分。もうこの部屋を見ることは無いんだな…
色々なことがあった部屋だけになんかさみしい。最終回みたいだよ。
うーむ あっけないもんだな・・・。
不破は旦那に文句を言える立場じゃねーよな。
この不況の中、雇用してくれるというだけでも感謝すべきだぞ。
そんなに簡単にいずみを雇えと人に要求するなら、自分で
会社を作って自分でいずみを雇え。
不破、倉本が指摘してた「可能性を閉じこめる」生き方にどんどん向かってるな。
ここまで悲惨なことが起きてる現状だと、守りに入っちゃうのも仕方ないけど……
旦那の会社の給料ってどのくらいなんだろう
いずみちゃんがバイトとかするんだったら
たくさん金もらっていずみちゃんを自由にさせてあげればいいのに・・・
そんなにはもらえないかね?
まあ、なんだかんだで旦那の会社に行くんだろうな。
金が必要→仕事探し→失敗の連続→貴方を社長と呼ばせて下さい
って感じで。先の展開が読めるぜw
いや、むしろ、兼森の旦那への反発から一念発起した不破が
自分で新しい会社を立ち上げるって展開の方が面白い。
銀行に融資を断られたり、事務所探しで苦労して例によって
都会の土地事情の話にしたり、とか苦労しながら、会社を
だんだん軌道に乗せていくんだ。もちろん、いずみと2人で。
>>644 すげーいいな、その展開。
最終章は旦那と不破の事業対決とか。
でかさを求める旦那と、小さくても幸せな家を求める不破で、
再登場した田之倉のじいさんの家をめぐって戦う、みたいな。
だが、件のいずみの才能を考えれば、旦那の会社に行って、
いずみを学校に行かせるんじゃないかな。いずみもバイト
せざる負えないだろうけど、扶養家族手当があるから、可能と
思うけど。
ついに引っ越し当日だ。
時子が引っ越し祝いを渡す。本当は明日いずみの誕生日だし、いろいろやりたいんだけど、やめておく。
だって……「今晩するんでしょ?」不破たちは呆れた。引越祝いも、コンドームだった。
車を出発させると、旦那が現れた。「どうして指定日に我が社へ来なかった!」
旦那は、無理矢理に不破の車を牽引して、とあるビルへと向かった。
広いビルだ。ここが兼森建設のオフィスとなる。再建してから1年で……と不破は驚く。
「けど俺には関係ない世界だよ。俺が自分で望んでる幸せじゃないからさ」
広いとかデカいとかじゃなくて、六畳一間でもいい、いずみちゃんに気持ちの安らぎを与えたい。
旦那は「くだらん」と吐き捨てる。
精神的に物質的に、両方満たされてこそ真に幸せと言えるんじゃないかね。
いずみちゃんは六畳一間でいいだろう。だが、
「きみはどうなのだ。それで満足かね。きみのしたいことはなんだ、不破雷蔵」
そこで、旦那の携帯電話に着信が入った。駒田と共にマンションに到着したいずみからだ。
「その……入ってないんです、たたみが」
入居日に畳がない。湧き出た問題に不破は頭を抱え、不動産屋へと向かうことにした。
「話はまたあとだな」「ありませんよ、話なんか」
不動産屋は、へらへら笑いながら、畳は昨日入れたはずだという。
業者への連絡もおろそか、なんとかしようともせず言い訳ばかりの態度にイライラ。
降り出した大雨の中、マンションへ。畳がなくて、なにが六畳一間の幸せなんだ。
「おかえりなさい、先輩」
はたきを持って出迎えてくれたいずみの言葉に、ちょっとじーんと来た。
タオルを渡されるたび、風呂を勧められるたび、幸せを噛みしめる。畳くらいなんだという気分になってくる。
風呂に浸かってニヤケながら、不破は思った。
夜がくる――。どうしよう――、するのか!?
コンクリートの上だが、なんとか布団を敷けた。並んで寝るのは旅行以来だ。
ぎこちない会話をしながら、電気を消して、横になる。
ちらっといずみの方を見ると、目が合った。2人はゆっくり起きあがり――
その時、首筋に何かが当たった。
……見ると、ありとあらゆる天井のブロックの隙間から、雨が漏っていた。
初日からこのトラブルとは… 先が思いやられるなw
そのうち、ナミフクが入る予定だったビルみたいに傾くんじゃないかw
欠陥住宅かぁ・・とことんついてないな
しかし不和がやりたいことってなにかあるのかね
意地?かなんかしらんが、今のままじゃいずみちゃんもダメになっちゃう
この不動産屋、プロ失格だなー。
でもこれで売り上げ落ちないんだろうか?
旦那の言うことはもっともだよな。
精神的に満たされるためになにかをしたいとしても
まずは仕事(安定した収入源)を確保しないことには、
ご飯も食えないし部屋代だって払えやしない。
結局、新居になってもセックルはおあずけか…
冗談だろ? 新築の鉄筋が雨漏りだあ?
台所もトイレも風呂も、天井から雨がしたたっている。
不破は慌てて押し入れを確認した。隠してあったあの段ボール箱は濡れていないようだ。
安堵する不破をジト目で見るいずみ。よっぽど大切で、見られたくないものなんですね。
上を見にいく2人だが、屋上への入口は立ち入り禁止の柵で封鎖されていた。
仕方がないので、窓側からよじ登る。いずみの身軽さは、ダイハードばりだ。
不破もなんとか登りきり、屋上を見渡した。
意外に狭い。敷地を4世帯で割ると、自分たちの分は……敷き詰めたシート3枚分。
うさぎ小屋の意味が、今初めてわかった。
それにしても、防水シートはなんかでこぼこしてるし、水はけも悪そうだ。
とはいえ下手にいじらない方がいい。文句は明日にして、今晩は寝ることに。
だが、雨漏りがはげしくて、寝る場所もない。当然、愛も語らえない。
得体の知れない何かが、なにもするなって邪魔してるのではという考えすら頭をよぎる。
雨を受ける容器を見守るのも、徹夜作業になるだろう。
まあ、明日仕事行くわけじゃなし、ははは。あははは……。溜息ひとつ。
徹夜のヒマを潰すためにテレビをつけようと思ったが、砂嵐。
屋上を見ると、なんとまだアンテナが立っていない。仕方ないのでラジオをつけると、
「――0時です」
日が変わってしまった。いずみの誕生日は、最悪の幕開けだ。
ヤケ飲みをしているうちに、いずみは言った。去年の誕生日のこと覚えてますか?
「好きって言ったんですよ。今でも、変わりません。16歳の時よりもずっと、ずっと……」
2人は自然に、唇を重ね――
「ふふふ……ふふふふ……」
ふと聞こえた笑い声。ラジオではない。でも、隣の部屋にはまだ入居者はいない。
下の階かと思って、階段を下りて廊下を見るが、明かりのついた部屋はひとつもない。
2人は息を呑んで、自分たちの部屋へと戻った。
すると、やはり聞こえる笑い声。ふふふふふ……。2人はひしと抱き合って怯えた。
な、な、なんだあ、このマンションはよ……。
うーむ、とことん邪魔されるのはどこでも一緒なのね・・・
しかしとんでもないマンションだな。・゚・(ノД`)・゚・。
畳は無いわ雨漏りするわ幽霊?が出るわ…
どう見ても欠陥住宅です。ありがとうございました。
でも幽霊なんてどうして出てくるんだ?
確かに家賃は安いけど、新築だから、人が死んだ部屋なんてこともないだろうし。
元々問題のある土地だったとしたら、家賃を安くおさえてまでマンション建てること自体が不自然。
工事関係者が自殺したとか…
今は亡きいずみの本当の母親である説。
さすがにないか……りびんぐじゃファンタジーすぎるもんな。
作者の、昔のキャプテン時代ならあってもおかしくないけど。
灯りがついてないのに声がするってことは、
電気代未納で電気止められてる住人がいるとみた。
いや、新築だぞ。
不法占拠者がいるんだよ! バレたらやばいから電気つけてないんだ!
ってもしそうだったら音立てたりしないよな…
662 :
1/2:2005/11/10(木) 00:01:41 ID:???
ROOM73 マンションが泣いている…
いつの間にか眠ってしまった。呼び鈴で目を覚ました。
訪問者は畳屋さん。内装が遅れたとかで納期を一週間延ばされ、今日にしてくれという約束だったらしい。
あんの、不動産屋ーっ!! 何もかも不備のまんまじゃねえか。
NTTも来ない、エレベーターも動かない、それにあの夜中に聞こえた笑い声……
ふと気づくと、背後でマスクとゴーグルで顔を覆った男が呟いていた。
「このマンションは泣いている……」
僕には聞こえてるんだよ、建物の声が。そう言い残して、男は去っていってしまった。
不破は気を取り直して不動産屋に向かい、事情を説明した。
「わかりました、今週中に調べるよう手配します」「 今 す ぐ や れ 。」
目を覚ましたいずみは、一人の寂しさを紛らわせて屋上に登った。
空が広い! そうか、山がないからか。
日光浴していると、そばにいつの間にかマスクとゴーグルの男が立っていた。
「気の毒に……この建物は泣いている。苦しい、苦しい〜〜〜ってね」
男の言葉に恐れおののくいずみ。あなたはいったい……。
工務店と大家を連れて、マンションへ。大家はまるで初めてここに来たような様子だ。
工務店は、天井の被害のひどさを確認し、屋上を見ることにした。
「ひとつ確認しておきますが、防水シートを足で踏んづけたりしなかったでしょうねえ」
「登ってませんよー、だいたい鍵がかかってるじゃないですか」
汗をかきながら言う不破だが……
屋上に立ついずみの姿に、不破は盛大にずっこけた。
「ええっと、あの人が屋上見せてくれっていうから」
そういずみが指さしたのは、屋上の隅で何やらカリカリと作業をしているマスク男。
「どーも。この防水シートはひどいんじゃないか!?」「杉田さん」
男の正体は、マンションの設計士だった。
663 :
2/2:2005/11/10(木) 00:02:37 ID:???
不破は杉田が設計士だと知ると、どういう作りなんだと詰め寄った。
だが、杉田は言った。
「たしかに設計したのはこの僕だ。しかしだな、設計したとおりの建物が立つとは限らんのだ」
その理由は、後ろで口論する連中を見ていれば一目瞭然。
安く建つ安く建つと煽って大家に金を出させた工務店。
建ちさえすればいいから設計なんて無視しろと工事費をケチった大家。
そんな責任のなすりつけあいを見ても傍観を決め込む不動産屋。
ようするにコミュニケーションがうまくいっとらんのだな、と杉田は涙を流した。
「それでマンション泣いてると……でもなにもあなたが泣くことは」「花粉症でね」
だから、マスクとゴーグルだった、と。
声の聞こえるという部屋の壁を、杉田に見せた。
耳を押し当てると、確かに今も声が。
だが……よく聞くとそれは、恋人たちのピロートークのようだ。
杉田はすぐに、真実を言い当てる。
集合住宅での防音の法規制は上下にはないため、コンセントの奥は空洞になっている。
だから、3階に住んでいる新婚さんの声が素通りになり、ここ6階まで届くのだ。
「工費をケチると、修理にお金がかかるのになあ」「くうーっ、家賃も安いわけだ」
直すとこは直してもらったほうがいい、と言い残して杉田は去っていった。
……その後、廊下の手すりをどこからともなく出した道具で直す杉田の姿があったことは、不破たちは知らない。
一段落して、荷物の整理を始める不破といずみ。
俺ってよっぽど住宅に恵まれてないのかなー。溜息をつき謝る不破に、いずみは激しく首を横に振る。
「先輩、あたしは、そんなことぜんっぜん気にしてませんから」
あたしはここが好きです。だって先輩と……
そう訴えるいずみと不破の唇が近づいた、その時……
「ああーーっ、あっあっ、はあっ、あああっ」
壁から響く3階の新婚さんの声!
よその声が聞こえるってことは、こっちの越えも聞こえるってことで、つまり、つまり……。
ラジカセを大音量で流し、荷物整理に戻る不破たち。壁からは、なおも嬌声が響いていた……。
なんとまぁ・・・
なんかもう見てられない惨状だなぁ。
不破にもうちょっと住宅を見る目があれば、ババ引かなかったのに。
この不動産屋と大家を見てると前の部屋の大家さんが神に見えてくるなw
まあ、普通そんなとこまでわかんないよな。
それより今週は普通にミスリードされて驚いた。
なるほど、こういうトリックか。面白いな。
ラジカセ流す不破たちも近所迷惑だろ。
朝がやってきた。
不破は失業保険をもらいに、職安に行かなきゃいけない。
NTTは明日来る。電話ないのって不安だなあ。
……と、その時突然の地震が2人を襲った!
ぐわう、ぐわうと抱きつくいずみは、パジャマ脱ぎたてのパンツ姿だった。
けれど冷静に毛布をかぶせる不破。大人になったもんだ、としみじみ。
ラジオによると、地震は震度5。マンションが傾かないだけたいしたもんだ。
さて、地震は収まったが、ガスが止まっていた。
コンビニで朝ゴハンにしよう。外に出ようとするが、ドアが開かない。
地震のせいで、ドアが傾いだらしい。壁にもくっきり、ヒビが入っていた。
台所の窓は狭すぎて、いずみにも出られない。ドライバーで窓のつっかいを取ろうとする。
が、外にドライバーを落としてしまった。拾おうにも手では届かず、掃除機で吸い上げる作戦も失敗。
「そうだ! 屋上へは出られるんだから……」
いずみは階段を伝って下へ行こうとするが、階段が鉄柵で封鎖されているから、これも無理。
さて、どうしたもんか……。電話もだめだし、他の部屋は無人だし。おなかすいたなー。
コンセントごしに3階の新婚さんに呼びかけても、幽霊扱いされて終わりだった。
ベランダから下に呼びかけるが、どんなに大声を出しても、喧噪で届かない。
ラッシュ時に地震で電車止まってるもんだから、車が多すぎるのだ。
いずみは意を決した。ベランダの柵を乗り越える。
「よせって、ばか! 無茶だよ!」
「へーきですよ! ベランダ伝いに降りてけば。他に方法がないじゃないですか」
だからって危ない。そのうち誰かが訪ねてくる、最悪でもNTTが来るし!
止める不破だが、育ち盛りのいずみのおなかは明日までは待てないのだ。
気が逸ったいずみは足を踏み外し、落ちそうになる。言わんこっちゃ!
しかし災い転じて福となる。いずみを飛び降り自殺と勘違いした通行人が、こちらに気づいてくれたのだ。
「死ぬなんておやめなさい! 来年があるわよ、学生さん!」
思いっきり勘違いしてっけど、これで助けを呼べるや……。
ドアが開かないって… ホントは傾いてるんじゃないか?
しかしコレが新築とは…
なんかここんとこ、短編みたいな構成で毎回キレがあるな。
1話完結の今回も楽しめた。息抜きっぽい話だな。
不破たちにとっては、シャレにならん状況なんだろうけど……
そのうち倒壊するんじゃないか?
ここまでひどい欠陥住宅なら、テレビとかのマスコミに訴えれば
取り上げてくれるかもしれんな。
673 :
1/2:2005/11/12(土) 01:34:10 ID:???
ROOM75 こだわってるか!?
翌朝、2人はバリバリという音に叩き起こされた。NTTではなさそうだ。
寝室から出ると、リビングの天井が取り除かれていた。張り換えるのだ。
これじゃあ生活できないと文句を言う不破に、
「今、上のほうでも防水工事をやり直してる。今日やらないでいつやるというのだ」
そう答えて脚立の上で作業していたのは、あの設計士(正式には「建築家」)の杉田。
しかし現れた現場監督に怒られて、杉田は「建築家なんて非力なもんさ」としぶしぶ外へ出ていく。
メンテは建築家の仕事ではないが、勝手に現場で気に入らないところを直してるのだそうだ。
監督は呟いた。
「気持ちはわからんでもないが、こっちは金も人も時間もないところでせいいっぱいやってる」
屋上に行くと、まだ杉田はいた。
ヒマなわけはない、しかし気になるものは気になるのだ。
杉田は不破に同情する。越してきてろくに眠った日などないだろう。
「だがきみにも責任はある。このマンションを選んだきみにも責任はある」
不破がこのマンションを選んだのは、場所や広さ、家賃、見晴らしなどが決め手だった。
だが、どれもこれも設計とはなんの関係もない。
「住むところの価値がそんなことで決まるのか。
よい材料やきれいな仕上げとか使いよい間取りとか、そういうことじゃないのか」
わかんねえもん、シロートなんだから。不破がそう言うと、杉田は叫ぶ。勉強すればいいんだ!
「高い金払って住む家じゃないか! 自分が毎日暮らすとこじゃないか! 住む家だって人生の一部だと思え!」
こっちはプロだから、建てることにはこだわる。きみたちは住むことにこだわらなくてはいけない。そう彼は言った。
674 :
2/2:2005/11/12(土) 01:34:55 ID:???
夜、不破はいずみとテレビを見ながら、昼間のことを考えていた。
いずみは、引っ越してからここであったいろんなことを気にしないと言った。
「先輩といることが大事なんです」
居場所があればどこでもいいと言ういずみだが、不破はちょっと、違うような気がした。
……と、その時、上から音がした。誰かいる!
夜の闇の中。
懐中電灯の明かりだけを頼りに、もう雨漏りがないよう仕上げを直しているのは、杉田だ。
彼は言う。夜なのはわかってる。僕の管轄じゃないこともわかってる。
だけど少しくらい自分の仕事を越えたっていいはずだ。
人が住んで喜ばれる家を建てたいと思った。だからこの仕事を選んだ。大学で建築を学んだ。
「しかしだ、この建物は……泣いている」
現実は甘くはない、と呟いて作業を続ける杉田。いずみは、懐中電灯を持ってあげた。
「きっとなにも考えなきゃ、楽に生きられるんですよ、杉田さん……」
不破に、杉田は答える。そんなことはわかってる、しかしそれでは生きてる意味はない。
幸せだが豊かとはいえない。少なくとも僕はそうだと言い切れる。
ただ目を細め、黙って前を見る不破に、杉田は問うた。
「きみはそうは思わないのか……?」
変人かと思ったが、何て熱い男だ……
うーむ・・・この杉田という男もしや凄い大物なのでは・・・
杉田さんに惚れた。
かっこいいよなあ。こういうキャラ、りびんぐじゃ初めてじゃない?
まあ、かっこいいけど、ある意味不器用な生き方だよな。
奥さんとかいたら、こういう生き方は嫌がられているだろうな。
「あなた、また休日返上してマンションの修理なんかしてたの?!
そんなヒマがあるなら少しは家族サービスしてよ」とか。
どうでもいいけど工事の人はどこから進入したんだ?
ていうか断りもなしに入って工事しちゃっていいもんなのかね
杉田さんかっこいいっす
毎日住まいに暮らすから勉強しろ、ってのもちょっと無茶だけどな。
毎日食べるから食べ物の添加物について勉強しろとか、
毎日かかわるんだから六法全書を首っ引きで覚えろとか、
そういう理屈になっちまう。
確かにある程度の知識は必要だがなあ。
「きっとなにも考えなきゃ、楽に生きられるんですよ、杉田さん……」
この言葉が気になるな。
何か不破にも、杉田さんのようにこだわるものがあったんじゃないかな。
ううむ、熱さはわかるがなんか違う気がする>杉田
そういや不破の過去ってほとんど出てきてないよな。
ナミフクの新人時代の描写数コマの他には、時子と別れたってことくらいしかわかんない。
いずみ以上の壮絶な過去を持ってたりして?
>>678 奥さんも仕事馬鹿なら問題ない。
建築士って事務所とかに所属してるんだよな、たぶん。
その事務所の仲間と職場恋愛結婚とか。
生きるってことはとりあえず辛い。ましてや豊かに生きようと思えばますます辛い。
不破は、何も考えていないんだなと杉田に言われ、「性分なんだ」と肩をすくめた。
足早に部屋に戻ろうとする不破の背中を、杉田の言葉が追いかける。
「きみはなぜ考えることをやめてしまったのだ」
生まれつきいいかげんなんじゃない。きみが言ったんだ、“考えなければ”楽に生きられるんだと。
「きみにもあったんだろう、かつてこだわってたなにかが!?」
看破され、不破は頭をかいた。かなわないなあ。
部屋に杉田を招き、不破はあの段ボール箱を持ち出してきた。
開けるんですかと嬉しそうないずみ。僕にはわかるぞと箱に耳をつける杉田。
何重にも封印された、かつての青春の切なくすっぱい希望や挫折が、ついに開かれた。
中には、一枚の皿。焼き物だ。
若気のいたりだと不破は言う。あっという間に挫折し、まともなのは残ったそいつだけ。
杉田は丹念に皿を見つめ、ムダなことはない、こいつには魂がこもってる、と言った。
――それだけに、挫折はいっそう辛かった。ムダ足だと気づけた意義はあったけれど。
杉田は、不破の肩に手を置いた。
「また出てくるさ、きみを熱くさせるなにかが、また」
いずみは、また不破に焼き物をやってほしい。
もしもあたしのこと気にしてやらないんだったら……と不破を気遣ういずみ。
やっぱり残しといちゃいけない、と不破は笑い、焼き物をゴミとして捨てようとする。
「先輩やめて! 先輩の魂を捨てるんですか!?」「そんなおおげさじゃないんだって」
コンビニの袋に放り込むのをやめさせようとするいずみは、勢い余って、袋を壁に叩きつけてしまった。
粉々になった皿を見て、いずみはぼろぼろと涙をこぼした。ごめんなさい、ごめんなさい。
不破はいずみの肩を抱いて言う。生きるってことはたくさん選択するってこと。
選択が間違いだって気づいた時は辛かったけど、気づいただけでも意味はあった。
だから本当に、こんなことなんでもないんだ。
朝、目覚めた不破は、隣にいずみがいないことに気づく。
寝室を出ると、そこには机に伏して眠るいずみと――接着剤で直された焼き物。
真剣に生きるいずみをいつか熱くさせるなにかに、不破は思いを馳せた。
俺には……まだそれがあるだろうか……。
箱の中身は絶対エロ本かエロビデオだと思ったのに。
陶芸家目指してたのか。
そういうのは趣味でやるなら楽しいだろうけど、それで食っていこうと
思ったら、ものすごく大変な道って印象があるよな。よく知らんけど。
うーん 深い・・・
なんか今回は考えさせられる話だった・・・
やせ我慢とかじゃなく、本当になんでもないって顔なのがすごいな。
でも、もしかしたら心の奥では引きずってたのかも。じゃなきゃとっておこうとは思わないだろうし。
不破は挫折したときに色々考えて、ずっと辛くて、
それよりはいいと思って、結局何も考えない、いい加減な生き方を選んだんだろう。
んで今回、箱を開けたときに、長い年月を経るうちに本当になんでもなくなってたってことに気づいたんじゃないだろうか。
不破って確か26歳だよね。
陶芸家を目指す訳ではないのだろうけど、
陶芸にまつわる何かを始めるのだろうか。
もしかして、古美術の鑑定士とかか?
この漫画って、なんでもかんでも住居問題に絡めてるから、不破の目指すものも住居関連になると思う。
あえてここで陶芸を持ってきた意味はよくわかんないけど……
陶芸と住居を結びつけるもの……んー、なんだろ。インテリア関係?
いずみはハンバーガー店のバイトに、初日から遅刻してしまった。
遅刻を謝ると、先輩バイトの七瀬が目をつり上げていずみを突っぱねた。
「時間守れよな」
時刻は7時半。一人朝食を食べる不破の元に来客――時子だ。
「した?」「してねえよ」2週間の洪水や飢餓のせいである。
時子は、窓際に不破の焼き物を見つけ、ぎょっとする。
持ってたことにも驚くけど、捨てようとしたことにも驚く。大変だったのも昔の話だ。
用は何だと問うと時子は言った。
「着替えて。車が迎えに来るの」
慣れない接客に失敗してしまういずみだが、飲み込みは早い。
七瀬は、ソフトクリームをうまく作ったいずみを見て、ばかじゃないみたいだ、と笑顔を見せた。
不破を迎えに来たのは、旦那。車で伊豆のリゾートマンション開発地域まで連れて行く。
「我が社へ来い! 不破雷蔵!」
スケールの大きな仕事の現場を見せて、不破を引き入れようとする旦那。
だが不破にとっては尺度が違う。退散しようとして――
そこに、見覚えのある男を発見した。杉田だ。
ここは所属する高橋設計事務所が設計したマンションなのだそうだ。
きみからも事業の素晴しさを説明してやってくれと頼む旦那に、杉田は逆に「素晴しさとは?」と問う。
130世帯の入居。素晴しい景色。都心に近く自然が豊富。
売る側にしてみれば素晴しかろうが、住み易さとは関係ない。
「しょせんあなた方はここで暮らす人間のことなど考えていないのではないですか」
僕が見たいのは建物や景色ではなく、そこに住んでる一人一人の顔だ。全体ばかり気にしては幸せは見えない。
そう誇らしげに語る杉田を見て、不破はなんだか嬉しくなった。
控え室で、いずみと七瀬は一緒に食事を取っていた。
このバイトを選んだ理由を問うと、七瀬はさばさばと答えた。「昼メシが出る」
他にやることがあるんだ。お金がかかる、時間もいる。生活もしなくちゃなんない。
当然のように、誰にでもやりたいことはあるだろうと言う七瀬に、いずみは言葉を返せなかった。
七瀬は、いずみに尋ねた。「あんたにはないの?」
想像するに、二人には指針と言うか、目標と言うか、それになりうる人物っていなかったような気がする。
不破に杉田。
いずみちゃんに七瀬。
それぞれ、いい影響を与えてくれそうな出会いだな。
旦那、そこまで不破が欲しいのか。
一人の社員が欲しいためにここまでやるって……相当不破が優秀なのかなあ。
うーん、旦那の言ってる事も杉田の言ってる事も間違ってないと思う俺は優柔不断なのか、考えがないのか。
>>694 欲しいというより、現在の不破の状況を黙って見てられないって
感じじゃないかな。
不破がしっかりしてないといずみの人生までだめになるわけだし。
大変なことに気付いた!
実は旦那はツンデレだったんだよ!
口をつぐみ、やりたいことについて考えるいずみ。七瀬は諦めたように言った。
「悪かった。やりたいことなんてないよな」
目的があって生きてる奴なんていない。どいつもこいつも、お金使うためにバイトしてる。
失望して席を立ち、仕事に戻ろうとする七瀬の背に、いずみは発作的に、叫んだ。
「あたし、陶芸家になりたいんです!!」
振り返り、七瀬は感心したように「へー変わってるね。そういうの好き」と笑った。
い……いいかげんなことを言ってしまった。胸がずきっと痛んだ。
東京までの電車に、杉田に付き合って乗ってみた。話を聞くためだ。
杉田は言う。兼森開発の仕事は、再建前よりは減ってはいるが、それなりにコンスタントに受けている。
悪い会社ではないが、不動産屋とはやはりウマが合わないらしい。
「自分で設計を選んでしまったのだから、しかたないといえばしかたがない」
やれやれと腕を組む杉田に、楽しいことはないんですか? と尋ねる不破。
杉田は口の端を上げた。
「見に行くかい」
3時になるとダッシュで帰る七瀬。忙しい人だ。
去り際の「今度、陶芸の話聞かせてよ」という言葉が重荷だ。悩むいずみは、街角にポスターを発見した。
“ 掘 り 出 し 焼 き 物 陶 芸 市 ”
早速行ってみると、陶芸市にはけっこう人がいる。
かわいい湯飲み。味わい深い茶碗。値段は想像以上に高いが、奥の深い世界だ。
自分で焼いたら楽しいかも、と呟いていると、売り子が陶芸教室を紹介してくれた。
杉田の設計した家を見せてもらった。12坪に一家5人が暮らしている。
1階は玄関、風呂、トイレとスペースを食う。寝室と納戸を1階に配置し、一番いる場所であるLDKは2階を広く使う。
明るい台所、大きな窓。子供部屋はロフトで……
家族の皆も、住み易さを第一に考えた設計に大満足しているようだ。
「本当は狭くても広くてもあまり関係はない。問題は、いかに快適に暮らすか、暮らしてもらうかだ」
僕は実に幸せな仕事を選んだと思っている。そう杉田は語った。
その頃いずみは家で、陶芸教室の参加費3万円に逡巡していた。ちょっと、うっ……でも、行きたい。
最初は口からでまかせだった陶芸家が、本当に目標になってくってわけか。
まさしく嘘から出た真
でも、本当に好きだった不破でも、限界にぶちあたって挫折するような厳しい道なんだろ?
ノリで目指そうとしても、すぐ折れちゃうんじゃないのか?
陶芸はじめるのは唐突すぎるだろ。すぐに挫折するなこれは。
杉田さんの設計、いいな。うちもこんなんだったらなあ。
ていうか、こういう描写ができる作者がすごいと思った。
真剣に志してた不破が壁にぶつかって挫折。
対してのりではじめた、いずみちゃんが才能を認められて評価される。
不破はいずみに対して初めて嫉妬を抱く。
増長するいずみは不破をかるんじて見るようになる。
そして二人は別離・・・。
ってな展開はないかな?
そんなラブコメヒロイン嫌だ……orz
大切なへそくり3万円。不破にはバイトの先輩と原宿に行くのだと偽って、陶芸教室へ。
いずみは、どーしても行かねばならないのだ。
今度の火曜日、七瀬と食事をする。そのとき陶芸の話をする約束をしてしまった。
でも、キッカケはなんでもいい。ちょっと陶芸に興味が湧いちゃったのだから。
意気揚々と出かけるいずみを見送る不破の目に、工事中のビルが見えた。
あの夜、杉田に話したことを思い出す。
――いいかげんな考え方で言うんじゃないんです。実は俺……。
と、回想はチャイムで中断された。訪問者は、久しぶりのナミフク社長と難波。
引越祝いにお酒を貰い、世間話をする。
年寄りばかりの陶芸教室。開催を待っていると、にこやかなスーツの男が現れた。
男は、教室の生徒が焼いたという壺で、参加費を回収していく。
いずみは壺に一万円札を入れようとしたが、落としてしまった。拾いざま、壺の裏に小さなラベルを見つける。
男はお金を回収し終えると、先生は10分後に来ると言って去っていった。
「けっこういけるわね」「回転寿司にしてはねえ」
「でも」「せめて月一回くらい寿司をたらふく食べられる生活したいわねー」
社長たちは、遠回しに不破に兼森開発への入社を勧める。
甲斐性を持ってもらわないと、いずみの将来が不安だからだ。
けれど不破だって、将来はちゃんと考えてある。
「俺、設計の仕事につこうかと思うんです」
社長たちは言葉を失う。勉強して資格とってそれから……何年かかるのよ!
でも、不破は杉田にマジに感化された。大変なのはわかっているが、あの時杉田は言ったのだ。
「大変だが、不可能なことではない」
社長はそれでも、いずみのことを一番に考えなさいと不破を説得し続けた。
もう1時間も待っている。遅すぎる。
考えて考えて、いずみは思い当たった。壺の裏のラベル。あれ……値札だ!
その時ドアが開く。入ってきたのは先生ではなく――掃除夫。
「陶芸教室? そりゃおかしいな。ここは月曜から金曜までで、日曜日にやっとるわけなかんべよ」
いずみと年寄りたちは、目が点になった。
やっぱり東京は恐ろしいところだ… こんなオチになるとはw
意外と夢のために恋人と別れる話になったりしてな、すれ違いから別離で…
二兎を追うものは一途も得ずという言葉があるのに夢も恋人も毎回得られても困るし。
こんな形で夢破れるとはな……
確かに予想外。
いずみちゃんカワイソス・・・
計画的な詐欺だな……
この詐欺師を捕まえる話になるのかな。
犯人は両手両足切断、両目失明させてから10年位は生き地獄を味あわせて死刑だな
不和って設計のことに関して何か知識あるのかな?
勉強しなおしっていうのはつらいよなぁ
警察に駆け込んだけど、こういう詐欺ではお金は戻ってこないと思ったほうがいいらしい。
やっぱり動機が不純だったからバチがあたったのかな。
本当に陶芸をやる気だったのか、わからなくなってきた。
とにかく生活を切りつめなきゃ! 歩いて帰ることにした。
考え直せと説得する社長。けれど不破は、真剣な顔つきで言う。
「社長には悪いけど、あのままナミフクにいたら、一生なにも考えない人生だったかもしれない」
似合ってない。目先の生活を考えなさい、と社長は反対するが、難波は不破を応援。
「あのいいかげんな不破くんが本気になってるんですよ。あのいいかげんな!」
……リフレインするんだったら「真剣な顔」ってほうにしてくれないかな。
飢えて帰り、社長たちの寿司に飛びつくいずみに、不破は建築家の夢を話した。
「自分や人々が暮らす場所についてもっともっと考えようと思ったんだ」
色々な一連の出来事がなければ考えなかったことかもしれないけど。
いや、いずみちゃんがいたり、時子がいたり、兼森さんがいたり、みんながいたから考えたのかもしれない。
勉強もやり直さなきゃなんないし、仕事も覚えなきゃなんない。生活を考えると大変だけど、
「俺……みんなの居場所を作ろうと思うんだ。賛成してくれるかな」
もちろんいずみは賛成だ。生活なんかヘーキです、先輩のために働きます!
でも不破は厳しい顔で言った。よく聞いて、俺は俺のために選択したんだ。
「いずみちゃんはいずみちゃんのために働くんだ、自分のために」
そのうち自分のやりたいことが出てくる。そう言われ、いずみは考えた。
あたしの――やりたいこと……。
火曜日、バイトに向かういずみは憂鬱だった。
正直にウソだって言おうか。怒るだろうなー、あの人……。
その七瀬とカウンターで鉢合わせ。慌てるいずみに七瀬は言った。
お別れを言いに来た。オーディションに受かり、急だけどバイトをやめる。
「ごめんな、いっしょにゴハン行けなくなった。今日から猛稽古さ」
あっという間にいなくなっちゃって……。みんなすごいな、どんどん動いてて……
店から一歩踏み出す。東京の雑踏には、それぞれの道を歩く通行人。
眩しい朝日に手をかざし、いずみは思った。あたしは今――どこにいるんだろう――
なんかさ・・・色々考えさせられる漫画だねこれ。
いずみちゃんがんばれ!
きっと七瀬も、プロデューサーに体を求められて、挫折する。
七瀬は女優とか志望だったのかな。
あのちゃきちゃきしたノリは、演劇系によくいそうな感じだと思った。
いずみちゃんに働かせちゃダメなんじゃないのか・・?
周りが新しい目標をみつけるなか、一人ういてるいずみちゃん。
なんかかわいそうだな。はやく目標をみつけてほしい。
>>718 いずみちゃんを最初のアパートにいた堀井(懐かしいな)みたいにさせる気か。
夢につながる仕事を見つけるのが一番ってことじゃない?
遊んでばかりいると、大人は不安になっちまうんだよ。
不破は、夜間の土木工事のバイトを始めた。
朝になると、不破は杉田と同じ電車に乗る。
きみの面倒まで見ると言った覚えはない、と杉田は不承不承だが、不破は構わず建築士のテキストから質問。
ちゃんと理解しているわけではないが、教科書だけでわかるんなら学校はいらない。
とりあえずツボをつくような質問をして、聞き心地のいい杉田の説明で暗示をかけてもらうのだ。
「でないとくじけそうで……」「いいかげんな奴だなー」「知らなかったんですか?」
家に帰ると、いずみはもうバイトに出かけている。帰りは7時だそうだ、またすれ違うな。
不破は布団に倒れ込むと、泥のように眠った。
七瀬の言った通りだ。目的があってバイトしてる人なんて一人もいない。
バーガーショップに新しく入った鈴木も、バイトを選んだ理由はないそうだ。
いずみは彼女のとろーんとした仕事っぷりにいらいらする。
長年バーガー屋やってる店長のヨミだと、もって一週間。雇う前にヨんでほしいものだ。
そして家に帰ると、不破はもう出かけて居ない。思わず、溜息が漏れた。
杉田は夕方の電車でも、不破に質問を受けていた。本当にわかっとるのか、杉田は疑問に思う。
吉祥寺は杉田の駅だが、まだ降りない。高尾に自分が設計し建設中のマンションがあるのだ。
「見に行くかい」と不破を誘うと、用事があるから、と行ってしまった。へんなヤツ。
いずみは、一人の食事の寂しさを痛感する。電話が掛かってきたと思っても、間違い電話だ。
そういえばあたし――東京に友達がいないんだ。
杉田は旦那に、施工の文句をつけた。壁が外側に膨らんでる。
業者になんて説明すればと旦那は困るが、妥協しないのは、プロなら当然だ。
ところで、と杉田は旦那に、不破の素性について尋ねた。
親しいわけではない、妻の 元 男だ、と説明する旦那。
「あの男がちょいと妻のまわりを、……つきまとってるだけだ」
杉田は呟いた。そりゃ、尋常じゃないな。
夜、工事現場で精を出す不破。先輩を想って一人で眠るいずみ。今夜もふたりはすれ違っていく――。
そして、もうひとつのすれ違い。朝の電車の中で、杉田が不破を突き放した。
「すまない。今後、つきまとわないでもらえないだろうか」
スレ違いか… このまま破局なんてないよな?
いずみちゃんカワイソス
なんだなんだ どーしたんだ一体
まあ、社長の認識としてはそうだし、事の起こりを考えるとそんなに間違ってもないよな。
どっちかっつーと、時子の方が不破につきまとってるよーな……
726 :
1/2:2005/11/19(土) 00:00:20 ID:???
ROOM82 かまってください
恋愛は個人の自由だ。しかし、きみは今、そんなことにうつつを抜かしてる場合ではないだろう。
杉田には、不破は毎日自分につきまとうヒマ人としか映らない。説教をしていると――電車が、急停止した。
朝のバーガーショップは大忙しだ。新入りの鈴木はシフトに来ない。
中央線で事故があったらしいが、あの子はバスのはず。
一人でレジをさばくいずみの顔に、疲労の色が浮かぶ。それに、先輩とも会ってないし――。
踏切事故で、もう30分以上も車内に閉じこめられている。
皆、我慢の限界。杉田も施主との打ち合わせがあるので困っている。
見ると、携帯電話で外と連絡を取っているサラリーマンがいた。杉田は彼に電話を借りて所長に連絡を取った。
途端に始まる、携帯電話争奪戦。がんばれ、ビジネスマン。
なんとか施主との打ち合わせには間に合った。なぜか不破もついてきてしまっているが。
図面を見ながら、施主夫妻と打ち合わせ。
しかし、施主の妻が、とんでもないことを言い出した。クローゼットを納戸にしたいというのだ。
しかし納戸にすればスペースがかさみ、前の要求だったドレッサーが置けなくなる。
「ですから先生、クローゼットじゃ入らないんですの」
入らない? 眉をひそめる杉田に、施主妻は嬉しそうに、環状のハンガーラックを見せる。
一生住む家を、テレビで衝動買いした物で台無しにする気か。説得を試みるが、
お金を出すのは私どもですよ、と主張する奥さんには理屈が通じない。
「だったら、自分でやったらどうだ!」「私らが住む家だ! 私らの好きにして悪いのか!」
施主ともケンカを始めそうになった、その時――不破が、間に入った。
奥さんの気持ちわかります、と服を褒め、機嫌を直してから、
「一例にずらーっと並べたら壮観だろうなー」
そう不破が言うと、施主妻はあっさりとクローゼットに宗旨替えした。
見事、一件落着。
727 :
2/2:2005/11/19(土) 00:01:27 ID:???
施主とトラブルはよくあること。不破には助かった。
「きみは設計より営業に向いてるな、兼森開発も悪くないと思うが」
この仕事はやっかいだ。人の家だから他人事というわけにもいかない。
きっときみに向いた仕事が他にも……と言いかけると、不破がそれを遮った。
「いつか俺を熱くさせるなにかが出てくると、言ったじゃないですか。
そのなにかが、建築設計だと信じてるんです」
つきまとうのは、杉田が好きだから。つきまとってりゃ今日みたいな面白いことにあうし。
不破の真剣さを感じ取り、杉田はその考えと行動に対する理念を問うと、不破はすらすらと答えた。
「まず金を貯めます。大学に行かなきゃならない。そのためにバイトしてます。
夜間の工事です。そのほうが早く、たくさん貯められますから。だから今、夜勤明けです。
本当は昼間ビル建設とかの現場のほうがよかったんだけど、若いからって夜に回されちゃって。
それだったら、日中は杉田さんを捕まえられるなって」
不破は、女にかまけてなどいなかった。
いつかきっと、不破の夢は現実になるだろう、と杉田は思った。肩に手を置き、ふっと笑う。
「その日が来たら住まいと仕事について共に語り合おう。
来たるべき日を一日でも早めるためなら、喜んで力になるよ」
杉田はこうして、帰りの道すがら、不破の質問に答えていった。
夕方、いずみはへとへとだった。結局鈴木は来なかった。
こうやって日々に追われるだけの人生なのかと考えると、気が滅入ってくる。
溜息をつき玄関を開けると――そこには先輩の靴!
満面の笑顔で寝室へ飛んでゆく。今日休みなんですか?
しかし、目覚めた不破は時計を見て、寝過ごした! と叫び、ごはんも食べずに出かけていった。
閉まる扉を見て、いずみはがくーとうなだれ、バッグを蹴り飛ばした。
なによなによ、せんぱいのばかっ! ふーんだ!
工事現場で、ただひたすら仕事に専心する不破。
しかしその頃いずみは、今夜もひとり、涙で枕を濡らすのだった――。
>>725 そう分かっていながら、口に出して認めたくないんだよ。
そういう男だ、旦那は。
不破、なんて見事な手腕なんだ。
じいさんのときあんだけ喧嘩っ早かったのは何だったんだ?
何かを目指す男が、とりあえず当座の収入を得るためのバイトが
ドカチンってのはなんか昔のイメージだな。
どっちかっつーと、俺のイメージでは、そういう仕事は引っ越し業者
とかの荷物運びだけど。
不破といずみの距離がどんどん離れてくね
誰かのために家を作りたいって夢のために
自分の家のことが疎かになるってのは
なんか皮肉だ。
いずみちゃんにもそのこと話してあげればいいのに
何の説明もなしにほっとくからいけないんだよなぁ
それは再三説明してるんじゃないの?
今のいずみちゃんは、理屈じゃなくて感情として辛いって状況だろうさ。
レジをしていると、客にお茶に誘われた。メガネの純朴そうな青年。
一瞬どきっとしたが、終わったら家に帰るから、と断った。……家に帰っても、誰もいないけど。
夜の寂しさを埋める映画も、レンタル店にあるものはあらかた観終わってしまった。
一人で飲むビールもうまくない。浴槽に湯を張りながら、いずみはうずくまった。
先輩、あたしどうすればいいんですか。毎日、この先どうすればいいんですか……。
そんなことを考えていたら、浴槽で寝入って、鼻風邪をひいてしまった。
体を壊しても、鈴木がまともにシフトに来ないので、いずみがやるしかない。
今日も、椎名はやって来た。バイトが終わった後の予定を尋ねられ、いずみは一瞬考えて、
「やることがいっぱい」 ……やることなんてない。
新作コーナーに、気になる映画を見つけた。テルマ&ルイーズ。手を伸ばすと、同時に伸びた誰かの手。
それは、椎名だった。「こんばんは」と挨拶を交わす。が、その隙にビデオは通りすがりの子供に取られてしまった。
次の日、椎名はテルマ&ルイーズのLDを持って店に来た。
「僕んちへおいでよ。大丈夫だよ、家族もいるしさあ、映画だけなら2時間くらいだし」
瞼の裏に浮かぶのは、自分のマンションの部屋。――けど、その部屋には、今誰もいない。
「家、近いんですか?」「近いよ! すぐそこ!」
なら映画だけ。そう言うと、椎名は飛び上がって喜んだ。
椎名の家には、プロジェクターがあった。スクリーンは100インチ。映し出されるパノラマは映画館みたいだ。
椎名と並んで座って映画に集中していると――椎名が、いやらしい目つきで顔を寄せてきた。
抵抗すると、椎名はいずみの体に手を触れて言った。どーでもいいんだろ、映画なんて。
「淋しいんだろ。男が欲しいって電波が出てたぜ、体から」
執拗に手を伸ばしてくる椎名をビデオケースで殴り、逃げ出す。
あたし……なにやってんだろ……
家に戻ると、悪寒を感じた。気持ち悪い。風邪ひどくなったかな。
布団にくるまって、孤独に苦しむ。これじゃあ一人で住んでるのと同じだよお。
目を覚ますと、額に濡れタオル。そして、側には――バイトが早く終わったという、不破。
いずみは、涙をこぼして不破に抱きついた。
いずみも無防備すぎではあったが……
それでも椎名は許せん!
こんなビビったのは福永以来だ
未遂でよかった
椎名め・・・夜道のひとり歩きに気をつけろよ・・・
ここまで邪悪な登場人物って出てこなかったよな。
最初純朴そうに見えてこれってのが許せん。
だが、いずみちゃんもちょっと無防備すぎやしないか?
生娘でもないのに。
不破はバイト変えた方がいいと思うぞ。
昼間の仕事なんていくらでもあるだろうに。
「熱は? ……まだ少しあるね。とりあえず栄養つけなくちゃ」「はい」
甲斐甲斐しく、先輩が世話をしてくれる。おでこにかざされる手が心地よい。
作ってくれた雑炊は美味しかった。料理やってた頃もあるのだという。
先輩が料理してるとこなんて、見たことない。驚くいずみに不破は言った。
「なにも……やる気が起こらなかったんだな。そういう時期が長かった」
だけどこの頃は気持ちが充実して、いろんなことやらずにいられない自分が面白い。
いずみは実感する。先輩はどんどん動いてるんだ。でもあたしは……
「一人でなにをしたらいいのか、あたし……わかんない……」
不破は一瞬、こわばった顔つきになり――また、優しい言葉でいずみの心を暖めて。
「あ……うつるかな…… ……ん。」
――二人は、口づけをした。
先輩、あたし先輩が好き……好きなんだ。
ずっとずっと、先輩と一緒に暮らしたい……。
電車にて不破は、2,3日来れないと杉田に伝えた。
「子供じゃないだろ、風邪くらいで一人でいられないのか」
そばにいてやることがその子の孤独を救うとは思えんとそっけなく杉田は言い、電車を降りていく。
今回のさぼりのペナルティーは大きい。ま……しよーがねえか。
いずみちゃんの居場所を作ってあげるはずだったのに、一人にしちまった。
部屋だけあればいいわけじゃないことはわかってたはずなのに……。
もっとしっかり抱きとめてあげようと決意し、薬局へ。
風邪薬を買いに来たのだが、どうも……陳列されたコンドームが、気になって仕方なかった。
いずみは、洗面器に張ったお湯で体を拭いていた。
お湯が冷めてきたので、洗面器を持って洗面所へ行こうとするが、その時出し抜けにドアが開いた。
不破が帰宅してきたのだ。ドアにぶつかって、お湯がフローリングに飛び散った。
床を拭くいずみは、不破に指摘されて、自分がパンツだけの裸だと気づく。
慌てて立ち上がると、水に足を滑らせる。倒れ込んだ先は――不破の胸。
「先輩……」
見つめ合う。いずみを抱きしめる不破――その時ひとつ、くしゃみ。
鼻水が不破のシャツについてしまった。どたばたと洗面所に駆け込むいずみに、不破が声をかける。
――いずみちゃん、早く元気になってね。
なんと微笑ましい
ここまで心から応援できるカップルは
漫画の中といえどそうそうないぞ・・・
普通にキスできるようになったのね、この二人。
前はそのたびに邪魔入ってたもんだけど。
それぞれ処女と童貞でない割には進展してないけどな。
見えないとこでヤリまくってんだよ!!
食欲が戻ってきた。冷蔵庫の前のいずみに不破がやってきて、「熱は?」
おでこに手をあててもらいたくて、上向きになって目を閉じて、「どうぞ」と言う――
次の瞬間、唇の感触! 顔を真っ赤にして、いずみは逃げた。あー、驚いた。いきなりだから……。
感触を反芻していると、電話が鳴った。
「いずみちゃんお願いします」「あの、あたしですけど」「え!? 本人なの!?」
なんだかってとこに来い、という電話。心当たりはない。間違い電話か……?
夜になった。先輩はいるし、ゴハンはおいしいし。幸せだナー。
「主夫になろうかな」と笑う不破に、そしたらあたしうんと働いて……と返す。
不破はまた怒ったが、ちょっと言ってみたかっただけなのだ。だってあたし……
「先輩とずっと暮らしたいなって、思ってるんです」
俺もそうしたい。だけどどうせなら、幸せに暮らしたい。そう言う不破と、体を重ねる。
――が、そこに電話のベル。
「あ、あの……いずみちゃんをお願いしたいんですけど」
「おたく、どちら?」
「あ、僕ですが、ホテル・ロイヤルグランド・阿佐ヶ谷829号室です。待ってます」
それだけ言うと、電話は切れてしまった。
心当たりを再度尋ねられ、いずみは思い出した。お店でしつこく誘い、変なことをしてきた、あの男!
不破は、文句を言いに行くと立ち上がった。いずみも一緒に行きたいが、熱が心配だ。
不破が「どれ」と顔を覗き込むので、また期待して目を閉じる――
その口に、体温計が差し込まれた。
ホテルの部屋から出てきたのは、バスローブの中年男だった。
なんのマネだ、と男をしかりつける不破に、男は辺りを見回しながら言った。
「それが商売でしょ、それよりいずみちゃんはどこなの?」
目の前にいるいずみをスルーする男。
種明かし。実は不破宅の電話番号が、デートスポットのものと一番違い。
ここのところやたら多かった間違い電話は、デート嬢いずみちゃんを呼び出すものだったのだ。
呆れて帰ろうとする二人は、廊下で何組もの熱愛カップルとすれ違う。
エレベーターで下りる中で、不破はいずみの手を握って、言った。
「泊まってこうか……」
コレは… ついにセックルか!?
さすがにこの状況でジャマは入らないだろうし…
そういうオチか。
最初の電話の時、福永かと思ったよ。
いずみちゃんがシャワー浴びてるときに
不和がバイトの疲れがーとかいって寝ちゃったりして
この中年親父が「僕ですが」とか言ってたのか?
なんか似合わないと思った。どうでもいいけど。
にしてもデート嬢いずみちゃん、萌えねえなー。
ついに、ホテルに泊まるのか。
それともまた邪魔が入るのか。
いずみちゃんの反応が楽しみだ。
エレベーターが下りていく時間が、長く感じられる。やがて、いずみは口を開いた。
「うん」
不破たちは大股でフロントへと向かう。部屋を取るのにも緊張する。
ふと、辺りを見回した。開放的で、圧迫感のないロビー。
オーナーと親しい建築家に、狭いスペースでも広く感じるよう設計してもらったのだそうだ。
ああ、そうだ。杉田さんの設計もこんな感じだよなあ。
「無論だ」
いつの間にか、当の杉田が後ろに立っていた。このホテルは、杉田の事務所の先輩がデザインしたのだという。
杉田の眼光に気圧されて、不破は、泊まるつもりでしたと白状する。
「個人の勝手だが、それが、今、どうしてもやらなくてはいけないことなのかな」
厳しい言葉をぶつけられ、たじたじの不破といずみ。そこに助け船が出た。杉田と同じ事務所の女性、渡辺。
会話する杉田と渡辺の間には、どこか、友人以上の親しさが感じられた。
その時従業員が、部屋の用意ができたと申し出た。
確かに悪くないホテルだ。泊まりたいって思ったのはここの作りのせいのような気もする。
そう言うと、杉田と渡辺は嬉々として設計談義を始めてしまった。建築ばか……。
結局、泊まらないことにした。
何も僕らに遠慮することはないという杉田に、ついでだったから、と返すと、
「仕事や勉強さぼっておいて、ついでなのか、今日のことも」
物事を見極める力を持っているのに、情けない体たらくだと不破をなじる杉田。
「きみが言った その子の孤独を支えるというのは、今、セックスすることなのか!」
渡辺も言う。セックスは問題を解決しない、ともすると二人の甘えになって逃げ道になる。
「とにかくだ、毎度毎度こんなことを繰り返していてはだめだ」
その言葉を、不破は遮る。僕たちまだ一度も、関係してないんです。
すると――「君ら、ばか!」
声を揃えて呆れる杉田と渡辺。一度もしてないんじゃ僕らの議論もただの茶番だ。
この件に関して手を引く、と去っていく彼らの背中に不破は、
「いずみちゃんは俺にとって特別なんです。俺、間違ってるとは思わない」
杉田は微笑した。早く戻ってこいよ。朝、きみに会わないと一日が始まらんのだ。
帰り道、手を繋ぐ不破といずみ。
いずみは不破を見上げ頬を染め、
「どうして……あたしになんにもしなかったんですか?」
杉田さん空気嫁よ…
渡辺さん、美人だと思ったのに、
建築談義をしてるときの顔と口調……杉田さんそっくりじゃん。
何この二人、兄妹とか?
なんか最後のいずみちゃんの顔がちょいと怖いな
そうか?
なんか笑顔の中に何かありそうな顔が・・・
俺だけか
別に理由なんてない、といずみから目を逸らす不破。だがいずみは食い下がる。
あたしは先輩と一緒なだけでうれしくって、けど先輩は男だし大人だし……本当は心が苦しくて。
不破はなおも、いずみを見ずに言った。
いずみちゃんの幸せを一番に考えてる。むらっとしたとして、それがいずみちゃんを悲しませちゃ意味ないんだ。
帰ろう、と歩き出す不破の腕に、いずみは自分の腕を絡ませ、寄り添った。
帰りに寄ったコンビニでも、不破はうわの空だ。
――杉田さんと一緒にいたあの人、恋人同士のような雰囲気だった。いずみは羨ましかった。二人とも大人って感じで。
「俺たちだって十分大人さ」
「ウソ……ですよね」
先輩はウソついてる。先輩があたしになんにもしなかったのは、もっと他に理由があるんだ。
他に理由なんてないと言いながらもこちらを見ない不破に、堪えきれず言う。
「だってあたし……前に一度、あの……経験あるはら」
頬をつねられた。言葉を続けようとすると、両頬を強く引っ張られる。
「俺がそんなこと気にするような小っさい人間だと思ってたの?」
言わないかもう言わないか、と力を込める不破は――
やがて、いずみの頬から手を離し、ぽつりと言った。
「ごめん。俺、ウソ……ついてた」
いずみちゃんのことを思ってなんにもしなかったなんてウソ。本当は、ずっと……
「ずっと し た い と思ってたんだ! 年中 む ら む ら してた!」
本当は我慢してたし、何度か襲ったこともある。未遂に終わったけど。
ぶっちゃけた不破に、目が点になる。今日までなんにも起こんなかったのは、奇跡だったのだ。
「だけど……いずみちゃんを大事に思ってた。本当のことだよ」
その言葉は、ウソじゃない。変なことを言ってしまったことを、いずみは謝った。
痛かった? と頬をさする不破。そのまま、頬に口づけ。
いずみは不破の背中に手を回した。電話が鳴ったが、構うものか。コードを引き抜く。
「布団…… 敷く……」「うん」
布団の中で裸の自分を抱きしめている、先輩の寝姿は安らかだ。
甘い昨晩の回想に浸っていると、不破が目を覚まし、脇腹を指でなぞる。
あたし――ずっといていいですよね、先輩のそば……あたしの居場所に。
けど、居場所は他にもあると思う。――たくさん見つけなきゃ。
あーとうとう……
ああ・・・ついにヤっちまったのか・・・
やっときたかーラストが近いか?
頬つままれてるときの「ほろほろは ひひはん ふるひくへ」って、何て言ってるんだ?
なんだか感慨深いなぁ。
このカップルだと、特に文句のつけようがないな
今回はエロいことにはエロいが
なんというか、瑞々しいエロさだ。
やっとセックルか! ここまで来るのに時間がかかったなぁw
時子が知ったら喜びそうだw
いよいよ夏休みの季節。暑く太陽が照りつける。
杉田の所属する高橋設計事務所は問題に悩まされていた。
壊れたクーラーと、そして所長の厳しさに耐えきれず辞めてしまった事務員の代理。
――だが杉田は、事務員なら最適な男を知っている。
夜勤のまんまのほうがよかったという弱音も思わず出てしまう、昼の工事現場。
揺らめく陽炎の向こうからやってくる男の姿を、不破は見た。
「少し時間もらえるか?」
現場監督にも息が掛かってるから、就労中の不破を借りても問題ない。そう、旦那である。
「今朝、あれ とやらかしてね。またキミんとこに行くと思うがよろしくたのむよ」
いつものことなのに、旦那は迎えに来る気はないらしい。
「今回ばかりは、私のほうから折れるわけにはいかんのだ。たとえその結果……」
言葉の先はつぐみ、旦那は不破に一通の封筒を手渡した。
「渡しといてくれ。あれにしては無計画に家出したみたいなんでな」
湧き出る不破の疑問には答えず旦那は去っていく。そして、入れ違いに現れる杉田。
「ちょいとキミに話があってな。心配はいらない。誰にとってもいい話だ」
バーガーショップで交わされる女子高生たちの会話が、羨ましい。
あたしはやりたいこともわかんないし、学校にも行ってないし。このままでいーのかなあ。
けれど、落ち込んでもいいことない。それに先輩と毎日楽しくて。それがなにより。
帰宅した不破に、ビールを飲もうとせがむ。
「毎日だな、太るよ。ま、いいか。いいことあったし」
服を預けてシャワーに入りながら、不破は設計事務所に呼ばれたことを報告。
よかった。先輩の夢が叶うんですね。でも……あたしだけ、まだふらふらしてる。
弱気になる心は、しかし不破に励まされる。
「何があったって、俺が支えてあげるんだ。だって俺たち、一緒に住んでるんだ」
それにもう、ただ住んでるだけじゃない――二人は、体を重ねた。
夜中、寝る前にじゃれつく二人の元に、ドーンと大きな音が響いた。ドアを誰かが叩いている。
それは、酔っぱらった時子だった。時子は涙をこぼして不破に抱きつく。
「ふえーん。雷ちゃん、あたしを養ってよ――っ」
んで次からいつものパターンですかい。・゚・(ノД`)・゚・。
時子も進歩のねー女だな
>>764 だが旦那が追っかけてこないと断言しているからな、俺この感じのが好きだよ。軽くて。
どう見ても3Pです。ありがとうございました。
な展開になったら神なんだがねw
>>767 軽く作れるなら神、浮気問題絡めて重くするならマジ勘弁w
泣いて抱きつき続ける時子を、「離……れな……さいっ!」いずみは強引に引き離した。
離婚だと涙をにじませる時子。いつものことだと不破は疑るが――
確かに、時子は、着替えも持っていない。旦那もそういえば「あれにしては無計画に」とか言っていた。
そう、今度こそ本気なのだ!
全然信用してくれなかった不破に腹を立て、時子は裸で寝ると言い放って寝室へ。
その背中に、不破は説得を試みた。
「考え直せ! 現に今日だってだんなの奴、心配して俺んとこ会いにきた」
言いながら、あの封筒を手渡す。きっと手紙かなんかだ。もしかしたらラブレターかもな。
しかし、その中身は――アメックスのゴールドカードだった。
「手切れ金代わりってことでしょ」
あの人も本気だからあんなひどいこと言えたんだわ、もうおしまいなの、と時子は泣き崩れる。
仕方がないので、「明日だんなに話つけてやるから」と不破は今日だけは時子を泊めようとする。
しかし、時子はそれを断った。時子らしくもない行動の理由は――
「あんたたち、し た で し ょ 」
寝室の様子や二人の雰囲気で、時子は察していたのだ。またひとつ、自分の場所がなくなっちゃった、ということに。
「さよなら」
時子は外へと駆け出していった。追いかけようとする不破。
だが、そのときいずみが不破を引き留めた。
「どうして、いつもいつもいつもいつも時子さんのこと気にするんですか?」
こんな時じゃなきゃ言えないから、といずみは本心をぶっちゃける。
「時子さんがいつも先輩のまわりにいるのが、いやだった」
別れた人なのにいつも近くにいて、取られるんじゃないかという気持ちが大きくなる。
先輩の気持ちがなん分の一かでもあの人のところに行っちゃわないかって……。
けれど不破は、いずみだけを愛していると伝えながらも、時子を捜しに出かけていった。
閉まるドアを見つめながら、いずみは呟いた。
先輩、あたし……嫉妬してるんです……。
こんな夜中に女の子が一人、行くあてもないかもしれないのに……
不破は走り回り、近場のスナックを1軒1軒訪ねる。
しかし、掴まるのは「いい男、飲んでって」としがみつく女ばかり。
不破は宛もなく走る。
――くっそー。どこに……どこに行ったんだ……。
旦那もカード渡したり、今度こそ破局だな。
しかしまた話が重くなってきたなぁ。明るい話に早く戻って欲しいぞw
>「あんたたち、し た で し ょ 」
女ってこういうことには鋭いよな。
時子は泊まるところがないんだから、捜すなら、スナックとかよりも
ホテルじゃないか?
いずみちゃん、なんか増長しはじめた?
ここで引き留めるのはどうかと思うぞ。
>>773 間違ってて後々後悔すると思ってても引き止めちゃうモンだよ、女の子は。
やむなき事情で設計事務所の面接に来られない。そう聞くと、杉田は女絡みだと見抜いた。
いずみとは別の女の問題だと知り、諫言を始める杉田。
「僕がとやかく言う問題ではない。し か し だ」「わかりました! 事情を全部話すから聞いてください」
と、その時――ちょうど着いた高円寺のホームに、時子の姿が!
慌てて降りて追いかける不破を見ながら、杉田は思った。あいつ、女難の相でもあるのかもな。
「7回目」
無邪気にいずみの溜息を数えていた鈴木も、それが恋愛に関する悩みだとは鋭く見抜いた。
驚いたことに、鈴木には恋人がいるようだ。
彼女は、急に乙女の顔になって語る。「この頃うまくいってないんです」
予備校で知り合った彼氏・つとむくん。中学の時つきあっていた人とこの頃会ってるらしい。
思いの外、自分に重なる状況に、いずみも共感してしまう。二人で、8回目の溜息。
――まいったなあー。気にしなければいいのかな……。
「雷ちゃんの足につかまるとは思わなかった」
肉体労働で鍛えた足で、不破は時子の手を捕らえた。
時子は言う。昨日はそのへんのホテルに泊まった。帰るのはいや。
だからといって、不破の家もいや。今までのようにいかないと分かるから、けじめをつけなきゃ。
「おまえが結婚した時、けじめはついてるだろ。だから気楽につきあえたんだ」
「あたし、あの人と別れるのよ。なら、雷ちゃんのそばにはいられないじゃない」
アメックスカードちょうだいと言う時子。不破は「家に置いてある」と嘘をつく。
が、時子は不破がポケットに持ち歩いていたカードを奪い取る。いいかげんだけど責任感の強い性格を見抜いていたのだ。
「あの人が言ったひどいこと、あたしは一生許せないの。だから帰らない!」
そう言って、時子は消えた。
新宿にある兼森建設のオフィスに、不破は殴り込んだ。
時子が行方不明になるほどの事を……何を言ったのかを、問いただすためだ。
旦那はようやく現れると、駒田にスケジュールを問うた。
「時間が切迫してはおります……が、10分程でしたら調節してみますが」
それを聞いて旦那は、不破を見据え宣言した。
「聞いてのとおりだ、不破雷蔵。――話を聞こう。10分だ!」
絶対に許せない一言、で別れるケースなんてものもあるけど、それを許すのもまた形だと俺は思うんで、元鞘になってほしいなあ
不破は女難の相というよりも、女難にかぎらず、ついてない
ことばかりだよな。
家は会社にのっとられるわ、その会社は潰れるわ。
これは姓名判断で名前の字画が悪いとか、そういうもんじゃ
なかろうか。
女房が行方不明になっても、家庭は家庭、仕事は仕事。
そのスタンスに異を唱える不破と無駄話をしている時間はない。10分だ。
時子を行方不明にさせた一言というのは、推進している会社の計画に関係していた。
東京と違い開発の余地がある房総に本社を移し、巨大ニュータウンを開発する。
時子は東京を離れたくないと言った。そこで旦那は、一人で房総に行くと言ったのだ。
「ジャマをするなら、別居だ」
地域の開発には、その土地を熟知しなければならない。仕事こそ私のすべてなのだから――。
重要なトップシークレットであるプロジェクトを不破に教えたのは、プロジェクトに参加してほしいから。
今、もっとも欲しているのは人材なのだ。
「時子はどーすんだよ! あんたに一番必要なのは、あいつじゃないのか」
だが旦那は「それとこれとは別だ」と取り合わず去っていった。
旧ナミフク社員たちと、久々に話す。みんな生き生きと仕事しているようだ。
開発地域の住民のアンケートをとったり、統計をとったり。ナミフク社長は、長年のデータと込みで社員たちを引き渡したのだ。
「ナミフクでは味わえなかった緊張感だな」「不破くんも一緒にやり甲斐見つけようよ」
しかし、不破だってやり甲斐のある仕事を見つけてある。
語る不破のかっこよさを、社員たちも「社長がほしがる理由もよくわかりますな」とほめる。
「でも本当にそれだけかしら?」「なにしろ不破くんいいかげんだから」「他に裏があるんじゃ……」
――1分ともたんのか! 俺のことをほめるのは!
バイトは終わったが、先輩は時子を捜し回ってるだろう。
あたしがこれからなにをやって、先輩とどう暮らしていくのか考えなきゃいけないのに……
なんか時子さんて……ジャマだよなあ――。
その時鈴木が現れて、つとむくんに会ってくれといずみに頼みこんだ。
「氷山さん大人だから、きっと落ち着いてなにかいい方法を思いつくんじゃないかと思うんです」
大人だと評価され、まんざらでもない。いずみは、その頼みを引き受けた。
予備校への道中、鈴木は語った。
今の高校はどこも腐っとると言う父親が、高校へ行かせなかった。
「あたしが通ってるのは予備校だけです。知らないんですか? 大検予備校ですよ」
思い出した。大検て――大学入学資格検定――。
おお!ついにいずみちゃんにも指針が?!
そーいやこのコまだ17なんだよなぁ・・・
大検目指しても、また陶芸の時みたいに、
いきなり挫折するんじゃないの?
学歴がないと選択肢も限られてしまうって現実を体験済だからな。
とりあえず大検ってのは正解だと思う。
バイパススクール・イソカワゼミナール。
「高校に行かなくても、大学に行ける学校です」「その説明って誤解を招くよ」
だけど――あたしだって大学へ進める。可能性があるってことだ。
高鳴る胸をおさえて中へ入ろうとしたその時、少女を連れた少年が出てきた。つとむくんと、問題の元彼女だ。
場所をわきまえずに口論を始める鈴木たち。
いずみは脱力しながら、彼らを「どっかよそへ」と促した。
近所の公園。
元彼女と会うことを「こいつがちょっと相談に乗ってくれって言うから」と弁解するつとむくん。
「だって――規則規則って。試験だってあるし……つとむくんの行ってる予備校にあたしも行く」とは元彼女の弁。
そんな彼らに不破や昔の自分を重ね合わせ、やれやれと思いながら二言三言質問、真相を見抜く。
「期末試験になるとゆううつになって、それでつい昔の彼にグチりに来るだけなんじゃない?」
三人は感服して、いずみに頭を下げた。
「モモコの先輩って大人だなあ」「でしょ」「え? そうかな。はははは」
高校行けてるうちは行ったほうがいいよ、と言い残し、いずみはその場を後にした。
また落ち込みながら帰宅すると、不破も帰っていた。時子の件は一時保留らしい。
冷や麦を食べながら、不破は、設計事務所の所長がしばらく出張なので面接できないと話した。
いずみも不破も、タイミング悪い。
その時来客――鈴木だ。スクールのパンフレットを持ってきてくれた。
「あたし明日からしばらく休みますから。試験だから、大検の」
生き生きとした仕草で去っていく鈴木に、いずみは頑張ってねと声を掛けた。
「先輩、あたし、やりたいことができました!」
本当のやりたいことは、そのあとかもしれないけど。きっと可能性は今より広がるんじゃないかって。
もらったパンフレットを手に輝くいずみに、不破も賛成だ。
しかし、パンフを受け取り眺めていた不破は、密かに顔を曇らせた。その時また鳴るインターホン。
いずみが応対している間に、一枚抜き取った紙を手に、不破は頭を抱えた。
「学費50万……かあ」
さて。来客はというと、旦那であった。
再三「あんたの会社には行きませんて」という不破だが、どうやら話は仕事のことではないらしい。
「時子のことだ。実は昼間の話、あれは全部……ウソでね」
学費50万か、現実は、特に金に関しては甘くないな。
いずみちゃんのために不和が夢をあきらめるのかなぁ・・・
鈴木やつとむくんを見てると、すごくガキっぽいな。
とてもいずみちゃんと1歳違いとは思えない。まるで小学生だ。
普通の16歳って、あんなもんか……?
それより旦那が
787 :
786:2005/11/29(火) 09:28:32 ID:???
書き込み押してしまった
それより旦那が気になる。これは泥試合か?
冷や麦を勝手に食べながら、ワンマン旦那は事情を話した。
「あの話、一部削除してあるのだ」
少しは仕事減らしてよ、東京でどこが悪いのよという時子に、あの時旦那は言った。
なぜ、そう東京にこだわるのだ。まさか、不破雷蔵と離れるのがいやなのじゃないか。
「私と結婚したのも、不破雷蔵のそばにいられるからじゃないのか」
激怒した時子は旦那に平手をかまし、泣きながら家を出て行った。
呆れ果てる不破にも旦那は、今回ばかりは「きさまに言われとうないわ不破雷蔵」とは言えない。
反省している。時子が怒るのももっともだ。
今回のケンカの原因が不破なら、不破を遠ざけた方が良いとも考えた。だが、それではだめだ。
時子を愛すればこそ、年甲斐もなく不破雷蔵に嫉妬してきた。だが時子はそれが気に入らないらしい。
「ならば……不破雷蔵、きみに嫉妬しなければいい」
しかもできるだけ自分の側に置き、自分の意志の強さと人間的度量の広さを時子に示すのだ!
「あんたらしい無茶苦茶な発想だな。つまり時子に戻ってほしいがために、俺を社員にしようってのか?」
だが旦那は、見くびるな、経営者として会社の利害を無視しているわけではない、と主張する。
「俺の利害はどうしてくれる! あんたの会社に行ったら『害』だらけになっちまう」
すると旦那は利益を指摘した。昔の仲間、やり甲斐、安い土地、そして給料。
「どーしてもだめか。時子がこのままいなくなってもいいのか」
一瞬沈黙する不破にかわって、いずみが「帰って、ください」と言った。
旦那が帰った後、心配するいずみに不破は笑いかけた。なにが利益だ、給料がいいだって?
兼森開発に行ったって……時子が戻ってきて、いずみちゃんが予備校に通えるようになって、
めでたし、めでたし――っ。お い っ !
「あたしのこと好きですか?」
見つめるいずみを、不破は抱きしめた。好きだよ。ずっと一緒だ。
翌日、電車の中で相談すると、杉田も言う。
たしかにうちの事務所は女の子一人学校に通わす給料を払えない。しかしだ、
「長い目で考えろ。彼女が一人前になって、そのあときみにはなにが残る?」
少なくとも、今しかやれないことが失われる――。
そしてその頃、学校説明会会場でいずみも授業料のことを知り、ぎょっとしていた。ご、50万!?
むしゃくしゃして言った。
今では反省している。
今回の喧嘩はどう考えても旦那が悪いだろ。
それにしても50万か… 今の二人には厳しいな。
旦那、相変わらず無茶苦茶だな。
つーか以前に妻にかまけてたせいで会社を倒産させたことを忘れたのか。
仕事がすべてだって言いながら、それってみんな、時子へのいびつな愛情表現なんだろうな。
50万が頭の中ぐるぐるしちゃって、あとの説明もろくに聞いてなかった。
絶望していたいずみに、講師が声を掛ける。
「305教室。個人面談だよ。聞くのはタダ。そのための説明会なんだから、来なさい」
50万のこと気づいただろうな、と不破は工事現場で独りごちた。
自分の将来といずみちゃんの将来を天秤にかけるはめになるとは、よもや思わなかった。
50万かあ――時子にはもう頼めないしなあ……50万、50万。
講師は、いずみの起伏に富んだ人生について、笑顔で受け止めてくれた。
ここは特別起伏に富んだ連中が多い。誰でも、大切な人生を生きている。大事にしてやらにゃあならん。
そう考えているからこそ、他人にモノを教えられるのだ。
50万は出せないといういずみだが、それは自分のために必要なお金だ。
意地を張るのをやめて両親に頼んででも、出してもらうべきお金だ。
会社がつぶれたのも、いろんな人や出来事や偶然に出会ったのも、人生だ。そしてこの学校とめぐり会った。
「一生懸命生きたんだ。過去は振り返っちゃいけない。ここは、未来と出会う学校(ところ)だからね」
そのフレーズに、いずみは心が動かされる。
でも、いずみは今のところ、先のことをあんまり考えていない。そう告白すると、
「そう焦んなさんな。目標がほしいってんなら、まず大検合格だ。自分のために勉強続けるんだ。楽しいよ」
励まされ、いずみは笑顔を見せて面談教室を後にした。
自分のために――新しい未来に出会うために――。
その時、鈴木が声を掛けてきた。友達と一緒に、いずみを囲んでひとしきり騒ぐ。
昔に比べて年をとったいずみには、少しついていけないノリだけど――楽しそうな学校だ。
いずみは、思う。
あたしの選択はまた間違ってるかもしれないけど、もしかしたら居場所がひとつ増えるんじゃないだろうか……。
なんか長いトンネルを抜けたような気がする。あたしってば詩人。
明るい気分で街を歩いていると――街角の掲示板に、陶芸教室のチラシを見つけた。
苦い思い出だが、これは本物のようだ。
あたし陶芸なんかにキョーミないもん、と思いながらも、つい見学に来てしまった。
陶芸教室のドアをおそるおそる開け見学を申し出ると、先生が笑顔で応対する。
――その先生の顔を、いずみはよく知っていた。
時子。
うはーこりゃまたとんでもないとこで・・・
でもいずみちゃんなんとか先が見えてきて良かったな
問題がお金のことだけなら頑張ればなんとかなりそうじゃん
独りで生きてるわけじゃないし。
陶芸はもう懲りたんだとばかり思ってた。
まだ未練あったんだな。
時子と不破はもしかして、陶芸仲間として出会ったのかな。
50万は時子がもってくれることになるんだろうか。
おそらくは親じゃないか?
そういや親と和解してたな。貧乏なわけじゃないから、勉強再開すると言えば出してくれそうだが…
やっぱ言いだしにくいのかな…
勉強するんなら戻って来いって言われるのが嫌とか
もともと東京に飛び出したのって、
ちゃんと学校に通わせたりってのを強制する父親を嫌がってのことだったよな。
もし勉強を再開することになると、
父親の「今しかできないことがあるだろう」って押しつけが正しかったって認めることになるよな。
いずみちゃんはそれでいいのかな……
驚いた。どーして時子さんがここで働いているのか……問うてから、気づいた。
先輩と住んでた頃、二人で陶芸やってたんだ。
「うらやましくなんかないよ。雷ちゃんは夢破れたし、あたしは……本気で陶芸やってなかったもん」
今やってるのは、不破がひとつのことに打ち込むかっこよさを見て、なんかやんなきゃと思ったから。
でも、旦那がいるのに、どうして不破を見てなのか。結局時子も不破も互いのこと気にして、いずみは気が気じゃない。
「先輩のこと、もしかして、今でも好きなんじゃないですか?」
時子は、質問には答えなかった。円谷プロに怒られそうな怪獣や時子の裸を作ったりする生徒を叱りつけるのに忙しいからだ。
そうこうしているうちに、時子はトイレに駆け込み、次には青い顔色で出てきた。
「へーきへーき、食あたりかな。えーと、雷ちゃんのことだったわね」
けれど、いずみは嫉妬ばかりする子供みたいな自分が嫌になり、答えを待たず席を立った。
時子はいずみの肩を抱いて励ます。大丈夫、雷ちゃんの気持ちは全部いずみちゃんのもの。
「だって、今の雷ちゃんがカッコいいのはなぜだと思う? いずみちゃんがいるからじゃない!」
時子さん大人だな、と思った。うらやましがるいずみに、時子は笑った。
「いいかげんなだけ」
そして時子は、生徒の指導に戻る。子供たちを見守る表情は、生き生きしていた。
あ、社長。どーも不破です。話があるんです。ちょっと時間もらえませんか? ええ。
いずみちゃんのことです……。
時子は、いずみを夕飯に誘ってくれた。その住み家として、今は――同棲しているらしい。
動揺するいずみの前で、同棲相手の部屋のドアを開ける時子。
出てきたのは、「あら、いずみちゃん」――難波だった。そういうことね。
3人で食卓を囲み、いずみは近況を話した。
旦那の計画を聞き、時子は「ぜんっぜんわかってないなあ」と呆れる。
雷ちゃんが千葉へ行くメリットがない。給料なんてばかばかしい――と言いかけ、
気づいた。授業料、50万。
「……雷ちゃん、千葉へ行くかもしれない。
いずみちゃんのために、千葉へ行くかもしれない!」
その頃、喫茶店にて不破はナミフク社長に、報告していた。
「俺、千葉へ行こうと思うんです。兼森開発の社員として」
時子、無理してるのかな。
駒田さんみたいな、過労→倒れて旦那が駆けつける展開の再来?
トイレに駆け込んだのは、妊娠による吐き気のせいじゃない?
でも生徒に「つわり?」ってからかわれてるし。
お約束として、つわりだって指摘されたら「つわりじゃない」って意味だろう。
やっぱり旦那の会社へ行くのか…
まあこの状況ではプライドより金を選ぶのも仕方ないか。
迷ったけれど、いずみちゃんの将来を一番に考えた。
不破が社長に報告している頃、時子も確信していた。雷ちゃんぜったいそうするわ。
難波やいずみは、いずみの将来は本人の問題だと思うのだが、
でも不破は、いいかげんだけどどういうわけだか……
「責任感が強い」「でしょ」
人の気持ちをすぐ背負い込む。自分が不真面目な分、真面目に生きてる人に弱い。
「もうちょっとちゃんとほめてください。先輩……すっごくやさしいんです」
だけど、自分のために夢を捨てるなんて。
「とにかく雷ちゃんに確かめなきゃ」
家へ行こうと立ち上がる時子は、飲みすぎたせいか、突然吐き気に襲われた。
気を取り直して出発した車内。
田舎から仕送りしてもらうわけにいかないのかと問う時子に、いずみは沈黙を返すだけだった。
社長は、これから不破は大変なのだから、と伝票を持ち、支払いにいった。
いずみの女子大生姿を思い描く帰路、駅には自分を待つ杉田の姿があった。
杉田は、不破の決意が揺らがないことを知り、その背中に手を当てて飲みに誘った。
――そうとも。当然の選択さ、いずみちゃんのためなのだから。
いくら待っても、不破は帰ってこない。怒ってヤケ食いし、また吐く時子。
「顔色が悪い。明日また来ようよ」と難波になだめられ、去っていく。
一人になり、いずみは何本もビールを開ける。
その時、不破の帰宅。駆けつけて問いつめた。
「先輩、千葉へ行くんだ! あたしのために建築(ユメ)捨てるんだ」
いずみちゃんの夢のほうが大事、と不破は言う。でもあたしに夢なんかない。やりたいことがない!
いずみの目から涙がぼろぼろこぼれる。
どうしてひと言も言ってくれなかったんですか? 50万円のこと知ってたくせに。あたしの問題なんですよ。
「あたしが子供だから? あたしは先輩のなんなの? 子供なの? 恋人なの?」
不破はいずみを抱きしめる。俺はいずみちゃんを守ってあげたい……それだけだ。
「居場所をあげたいだけだ。いずみちゃんを幸せにすることは、俺にとってはすごく意味のあることなんだ」
でも、いずみは「あたし学校へなんか行かない!」と叫ぶ。
気がついていないんですか? バイパススクールは東京にあるんですよ。千葉にはないんですよ。
「あたしに先輩と、離れて暮らせって言うんですか?」
千葉から東京なら、通えなくはないぞ。
それぐらいの通勤・通学してる人はいくらでもいる。
千葉の予備校に通えばいいんじゃね?
不破が東京から千葉に通勤するって手もある。
809 :
1/2:2005/12/04(日) 00:00:53 ID:???
ROOM97 会社へ行こう
結局、ケンカしたまま不破は寝てしまい、いずみは飲み続けた。
目を覚ました瞬間、強烈な二日酔いがいずみを襲った。
そして不破の姿はない。スーツもなくなっている。兼森開発に行ったんだ!
ぐわらぐわらと激しい頭痛をおさえながら、いずみは時子に電話を掛けた。
「社長をお願いします」「決心なさったんですね。歓迎します」
オフィスで、駒田と握手を交わす。そんな不破に、元ナミフクメンバーが掴みかかった。
はやまっちゃいけない! 夢はどうするの? 自分を捨てるなんて間違ってるわ!
それでもこれは、悩んだ末の結論なのだ。不破は考えを変えようとはしない。
そこに、旦那が現れた。
「おはよう……ございます」「不破雷蔵、待っていたぞ」
出会い頭に火花を散らす二人がうまくいくとは、一同にはとても思えない。
「兼森さん……いや、社長、お世話に……」「その先を言っちゃだめ! 滅びの言葉よ」
なんとか止めようとするナミフクメンバーを、旦那は一喝した。
「不破くんは、新しい道に足を踏み入れようとしてるのだ。それを止める権利は誰にもない!」
不破 くん ……その呼び方に一同は驚く。そして、旦那と不破は握手を――
「 ち ょ っ と 待 っ た あ ! ! 」
エレベーターから叫んだのは、いずみを連れた時子!
駆け寄る旦那を片手で突き飛ばし、不破を説得する。何が一番大事なのか考え直してよ!
でも、何も考え直すことはない。百万回自問自答した。選択は二つだけ。
「俺といずみちゃんのどちらかが、好きなことをやれるか、だろう?」
そんな不破にいずみは叫ぶ。
先輩言ったじゃないですか。自分のやりたいことのために自分で働くんだって。あたしだって同じです。
それに先輩と別々に暮らすなんて、そんな選択あたし、いやです。
他に方法がないと言う不破だが――いずみの気持ちを考えてない。それじゃあ、
「あたしの父がやったことと、同じじゃないですか?」
810 :
2/2:2005/12/04(日) 00:01:49 ID:???
――不破は沈黙する。
いずみちゃんの居場所を作ってあげたい。なのに俺にはなんの力もない。自分がふがいない。
うなだれる不破に、時子が言った。
「雷ちゃん。いずみちゃんと関わってきたのは、雷ちゃんだけじゃないのよ」
差し出される、一通の封筒。
「なんとかなるだけのお金は入ってるわ。昨日相談して、みんなで集めたの」
「人生の先輩からのプレゼントですから」――千里も、
「もちろん、いずみちゃんがかわいくて、いい子だからだけどね」――一石も、
「みんないずみちゃんが好きなのよ」――難波も、
いずみと関わってきたみんななら、誰でもこうする。
駒田も、そして兼森開発の他の社員たちまでも……皆、お金を出してくれた。
もう迷うことない。これで不破と一緒に暮らせるのだから。
「みなさん……ありがとうございます」
ぴょこんと深く頭を下げるいずみを、皆は笑顔で囲んだ。
問題はすべてクリア。今日は気持ちのいい一日になりそうだ。
「何が気持ちいいだ!」
そこに一声。腕組みをし、厳しい顔で不破を睨む旦那だ。
「不破雷蔵! きさまはどうする気だ! 金さえ集まりゃ兼森開発は用なしか!」
ほいほいと高橋設計へ行くのか、といいかげんな姿勢を糾弾。
そんなカタイこと言わなくてもとなだめる時子に、次に旦那は問う。
「おまえはどうするんだ! 千葉へ行くのか? 私と別れて東京で暮らすか!」
時子が答えに窮したその時――彼女は、口を押さえてその場にうずくまった。
駆け寄る一同。場はにわかに緊迫感を帯びた。
「きゅっ……救急車っ!!」
おお浪花節だ! 泣けるぜ……!
と思ったら、急展開だな。
駒田さんと同じパターンだけど、今回はもっと重大なことになったり……しないよな!?
まぁ妥当に妊娠だと思うんだけどね・・・
いずみは相変わらず未成年のくせにガンガン飲んでるな。
二日酔いの表現が面白かった。
頭の中で銅鑼が鳴らされてるみたいな感じ、
確かにそういう感じかも。
一般的にはそうなんだな。
よく聞くけど、俺の場合、二日酔いで頭痛にはならない。
むしろ胃が気持ち悪くなる。まあ、人それぞれの体質なんだろうけど。
816 :
1/2:2005/12/05(月) 02:48:33 ID:???
ROOM98 出発のとき
救急病院にて、思わぬ診断。3ヶ月です、母子ともに健康!
病室には寄らずに会社への連絡に向かう旦那の顔は、平静を装いながらも笑みを隠しきれていなかった。
病室に見舞ったいずみと不破に、千葉へ行くと時子は言う。
いずみには、陶芸教室が居場所だと思っていたから残念だけれど――
「生まれてくる、子供の居場所つくってあげなきゃ」
その時、旦那が病室に入ってきた。気を利かせて、不破たちは外へ出た。
素直になれない旦那と、時子は会話が続かない。ぷいと背を向けて、
「あたしのこと愛してる?」
「お……おまえが倒れた時、どんなに心配した……」「愛してる? って聞いたの」
おまえこそと逆に問われて、時子は旦那を睨んだ。愛してる! きまってるじゃない!
旦那は、拗ねた少年のような顔つきになって、頬をかくと一言呟いた。
「幸せになろうな」
時子は、ぷっと吹き出した。プロポーズみたい……。
病院からの帰り道、不破は落ち込んでいた。
人を幸せにすることって難しい。誰のための幸せなのか、自分のための幸せなのか。
いずみちゃんのためにしたことも、誰のためにもならなかった。
いずみは不破の前に回り込み、その肩に手を置き、激励の言葉をかけた。
あたしも先輩も一生懸命だったじゃないですか! そういうことがきっといい結果を生むんです。
過去は振り返っちゃいけない。あたしのためを思うんだったら、設計やってください。
でももう兼森開発に行くって言っちまった。そう躊躇する不破に、いずみは叫んだ。
「先輩が幸せじゃなきゃ、あたしだって幸せじゃないっ!」
つい、通行人が振り返るような大声を出してしまった。言われた不破も、人に言われると恥ずかしいと思った。赤面。
不破はそれに元気づけられ、勝手なのはわかってるけど、と杉田に電話することを決意した。
「だめだったらなぐさめてくれよな、いずみちゃん」「先輩、ファイトッ!」
電話ボックスに入る不破を、いずみは固唾を呑んで見守る。
やがて――不破は、にっこり笑って親指を立てた。
817 :
2/2:2005/12/05(月) 02:49:31 ID:???
「へー、たまたま初潮三の出張が半日のびちゃって、不破くんセーフだったってわけ?」
ワインを開ける社長に、不破は顛末を報告した。前日の打ち上げで二日酔いだったらしい。
――まるで、昨日のいずみみたいだ。
強運だけがあんたの味方、と一石もからかい半分に祝福した。
なんにしてもよかった。それに、みんなにこんな団結力があったなんて。
離れ離れになってしまうなんて残念、と社長は涙をにじませながら、バッグから通帳を取り出した。
「今日ここに来た用事をすませなくちゃね」
いずみ名義のその通帳には、すごい金額が振り込まれていた。
社長は言う。いずみが上京する時、いずみの母(つまり社長の親友)に頼まれた。
たいがいのことではほっといてほしい、だけどいずみがまた勉強したいと思ったら、そのお金を渡してね、と。
通帳を抱きしめて、いずみはあとで実家に電話することにした。
「乾杯しましょう。時子さんのおめでたと、いずみちゃんの進学と、不破くんの就職と」
みんなも、社長も――かんぱーい!
兼森夫妻の、千葉への引っ越しの日。不破は「もう家出するなよ」と見送った。
去りゆくトラックを見つめるいずみは、知らぬ間に涙をこぼしていた。
さみしくなる。居場所って、何度も変わるんだ。生きてる間に何度も選択して……
そのたびに、どこかで人と人が出会ったり別れたりするのだ。
トラックが彼方へと消え、帰路で二人は噂しあった。
――時子さん子供つれて家出してきたりして。
――おれは生まれる前のおナカでくると見た。
なっとくなっとく。
ま、千葉 − 東京ぐらいなら近所だしな。
館山 − 八王子だと無理だが。
一石さん、不破に強運があるんだったら誰でも強運だよ……
つーか一番の強運は一石だ。
ありゃ、時子ホントに妊娠だったのか。
みんな(他のキャラも読者も)に妊娠と思わせておいて
やっぱりただの体調不良のパターンかと思ったんだが。
まさに裏の裏だな
それにしても旦那、ツンデレだなー。
正直萌えた。
7時半にベルが鳴る。ふたり同時に、目覚まし時計に手が伸びる。
12月、裸で寝るにはつらい季節になった。けれど一緒の布団なら、あたたかいしやわらかい。
電車は今日も混んでいるが、いずみは平気だ。だって不破と公然とくっついてられるもん。
設計事務所のある中野まで、ふた駅だけの情事――なんてね。
密着しながら不破は言う。正月、俺の田舎へ行くっていうのはどうだろ?
いずみちゃんならスペシャルゲスト、VIP待遇だよ。
「はいっ」「んじゃきまり」
抱き合うふたりは、他の乗客の白い目には気づかない。
中野で不破を見送り、そのまま代々木のイソカワバイパススクールへ。
級友が、敬語で話しかけてきた。やめてよと苦笑すると、
「だってさ――氷山先輩、どこか大人びてると思ったら、男と同棲してるんだって?」
鈴木モモコに聞いたらしい。言わないでって言ったのに、その噂はもうクラスじゅうに広がっていたようだ。
当のモモコは休みだった。……けど、クラスは賑やかで楽しい。
噂を聞きつけて、話しかけてくる人もいる。「実はあたしも同棲してるんだ。お仲間だね」
「へえ」――先輩、毎日が出会いです!
今日も、施主と杉田の打ち合わせに、不破も同席していた。
思いつきで毎日違ったことを言ってくる施主の奥さん。そこで不破の出番。
奥さんの意見をうまく組みつつ方向を修正し、なんとか納得してもらう。
押し一本の杉田では、とっくにケンカになってるとこだ。
いよっ、名コンビ――ともてはやされても、これでは苦情係なので不破は喜べないのだが。
そんなとき、ついに図面の清書を任された。しかもビル。嬉々としてドラフターの前に座る不破。
「ビルはビルだが、中の……トイレだ。不満でも?」やります、やります。
不破といずみは、帰りに偶然一緒の電車に乗り合わせた。買い物に行き、それからマンションへ。
そこで部屋の前に、ひとりの呑気そうな男が座っているのを発見した。
「久しぶりだな、不破」「友井!? 友井か?」
高校の時の友達。不破がいるかと思って、電話もなしに来たらしい。相変わらず行動が早い。
東京に来た理由はというと――
「おまえに頼もうと思って。今度、家建てるんだ。設計を頼みたい」「は?」
よく知らないんだが、建築士って資格いらないの?
不破に設計任せていいの?
バックに杉田さんがいるから平気とか?
名義借しじゃね?
無理だろう。不破も唖然としてるし。
そこを何とかとしつこく言われて断りきれず、
設計やってみたら問題発生、って流れだと予想。
それより不破といずみちゃんの熱愛ぶりが、ちょっと度を過ぎてきたのが気になる。
俺の予想では、友井のためを思って極力安い設計をしたところ、基準に満たない建物ができてしまう。
そして、このことが社会的問題に発展。
さまざまな国家機関から聴聞会の出席が要請されるが、
その聴聞会に参加することができないほど、不破は精神と体を病んでしまう。
そして芋づる式に兼森開発まで追求が及ぶ。
・・・と言う展開を、予想する。
んなアホな。そりゃ、違法設計はよくないが、たかだか一建築士の
設計が国家機関までかかわるほどの事件になるわけねぇだろ。
せいぜい三面記事になって終わりだよ。
>>824 杉田さんが設計して鉛筆書きしたのを清書しただけだから大丈夫じゃね?
間違えて線引かない限りは…
来年結婚することになって、祝いに父が家を建てることを決めたのだという友井。
頼みを断ると友井は肩を落とした。昔から、断られるほうになんて想像めぐらせない性格なのだ。
とんぼ返りしようとする友井を引きとめて、不破は酒を勧めた。
グラス片手に友井は言う。
父さんが変な建築家連れてきた。えばってるので気に入らない。
名前は――「矢吹 豪」
不破はビールを吹き出した。何冊も写真集出してる、超売れっ子の新鋭建築家じゃねえか!
友人のほうがいいと友井は言うが、不破には技術も資格もない。
資格を取るには何年かかかる。……意外なこと言ってもいないのに、友井と、そしていずみまでうなだれた。
友井は溜息をつくと、朝、仕事早いからとタクシーで帰っていった。富士市までは4,5万。これだから金持ちは。
友井は最後に言い残していった。
「富士のほうには帰らないのか。遊びにこいよ。妹が喜ぶ」
呆れて家に戻る不破のコートに抱きつき、いずみも言う。
「どうしてもだめ? つくって、つくってよー」――カレーライスつくるわけじゃないんだから。
杉田は言う。矢吹豪と君とでは、比べてもしかたない。
売れっ子とトイレの清書、という意味ではない。仕事の意味が違うのだ。
彼の設計は芸術的な意味が重要とされている。僕らには、住む人にとっての意味が重要。
個人的には、杉田は矢吹豪は好きではないらしい。不破も事務所の面々も、それには同意だ。
夜、家で不破はいずみの報告を受けた。
バイト中、通りの向こうで、うかない顔をした友井を見かけたらしい。
でも友井の会社は地元だ。似た人だったのかなあといずみが悩んでいると、電話が鳴った。
不破が出ると、それは友井の妹・日出子。要件はというと、兄が帰ってきてないのだという。
話し中に呼び鈴が鳴る。いずみが応対して、言った。
「先輩、友井さん」
「えっ? 今の女の人の声、誰ですか?」と慌てる日出子はとりあえず置いといて、不破は玄関に向かった。
どうしたんだと問うと、友井は土下座をして不破に頼んだ。
「不破、この通りだ! 俺と一緒に来てくれっ。矢吹豪に会ってくれっ!」
友井の悲痛な顔を、不破はぎょっと見下ろすだけだった。
そして電話口では日出子が必死に「もしもし?」と繰り返していた――。
矢吹豪って、なんかバトル系のマンガのキャラみたいな名前だな。
杉田はなんか因縁があるんだろか?
大学の建築学部時代の同級生でライバルだったとか。
矢吹豪vs不破雷蔵
名前だけ見ると、まるでどっかの少年漫画だな。
めっちゃくちゃ熱血してそうだ。
芸術性の高い居住空間なんぞ3年住んだらおかしくなりそうだ。
でも、そういった所でないと我慢出来ない人も確実にいるだろうなあ、人それぞれ。
部屋を飾りたがる人、シンプルにまとめたい人の差と似たようなモンだろ、費用のかかる度合いと簡単に変更が効かないぐらいで。
今シリーズのかませ犬は、友井の妹になるのかな。
倉本兄妹のときを思い出させるな。
それにしてもモモコ、辞めてなかったのか。
店長、読みが外れたな。
837 :
1/2:2005/12/08(木) 00:01:09 ID:???
ROOM101 情念の報酬
事情を話す友井。
矢吹豪は、何しろ名士である父が連れてきた建築家だ。
設計が気に入らないと訴えると、父は言った。代わりの建築家をおまえが連れてこい。
それで、つい不破のことを言ってしまった。――昔っからすぐ人をあてにして。ぜんっぜん変わってねえ。
いずみも不破を頼るが、不破は「こっちだって困ってる」とそっけない。
不満顔のいずみに、不破は、仏頂面で続けた。
「よーするに矢吹豪の設計がいやなんだろ。そう本人に直接言え。一緒に行ってやるよ」
友井といずみは、飛び上がって喜んだ。
ついてくことになった、と杉田に報告する不破は、嬉しそうだ。
こっちはぺーぺー、どーせかないっこないから気楽だ。それよりはどんな奴なのか楽しみ。
物おじしないアバウトな不破を褒め、杉田も柔らかい表情だ。
「大丈夫だ、君の魂と情念をありったけ矢吹豪にぶつけてくればいい」
魂か……。
日曜になり、到着。
けれど、どーしていずみちゃんがいるのかなあ……。
嬉しそうないずみに、矢吹豪の代わりに設計するわけじゃないと念を押す不破。
さて、ふたりは矢吹豪建築事務所に辿り着いた。機械的な曲線と斜線で構成された建物だ。
うちの事務所がノーマルなのか、こっちが異常なのか……。
中に入ると、フロアのど真ん中で床から4階建ての天井までを貫く巨大な柱にぶつかった。
横にした円柱形の受付でアポイントを取り、台形を組み合わせたベンチで待っていた友井とその父に合流。
円弧を基調としたエレベーターで、上へ向かう。
貫禄があり穏やかな物腰の父を見て、いずみは、思ってたほどわからず屋じゃないという印象を受けた。
838 :
2/2:2005/12/08(木) 00:02:15 ID:???
応接室に、矢吹豪が現れた。
テーブルの中央に天井から吊り下がっている柱のせいで、なかなか話しづらい。
矢吹豪は、友井の名前を間違えても、毎日いろんな人に会うものですから、と悪びれない。
図面を確認する不破は、玄関ホールに謎の壁が設計されているのを発見する。
「ほう、建築家。ならおわかりでしょう。これは石板です。もっとも調和のとれた黄金分割による……」
機能をはたすだけが建築ではない。時間と空間との融合という象徴的意味のほうが強い、らしい。
住む人間にとって意味があるのかと不破に問われ、矢吹豪は気分を害す。建築を始めて3ヶ月の男にこのボクが……。
しかし友井も言う。僕が望んでいる家はこういう家じゃない。もっと温かくて家族や友達が遊べる家にしたい。
何度もそう言った。けど聞いてくれなかった。富士市へ一度も足を運んでくださらなかった。
「あんたの設計なんか、 く そ っ く ら え だ!」
不愉快だ! 私に対する、いや建築に対する冒涜だ! 激昂する矢吹豪に、友井の父もガンを飛ばした。
「有名だからってことで頼んだ私が愚かでした。てめーなんか、くそっらえだ!」
事務所から退出して、友井の父は不破に頭を下げた。これも息子がかわいいゆえ。
これからシンガポールへ行かねばなりませんと言い、忙しい友井の父は不破の肩を叩いた。
「責任、とってくださいね、不破さん」
あなたしかいない! あなたの情念と魂に私はうたれたんです。
そう言い残し、成田空港へとタクシーで去っていく友井の父を、不破は当惑しながら見送るしかなかった。
そして後には、ニコニコ顔の友井といずみだけが残されたのだった。
あらあら・・・でもこれで良かったのか?な?
矢吹豪オフィス、すごいな。
現代美術だ……
いくら芸術的でも、その建築物の本来の機能性を損なったのでは
本末転倒もはなはだしいな。
>>841 ただ世の中にゃそういう家に住みたがる人も多いんだよ。すぐ飽きて出て行くけど。
その後改心して普通の家に住むかと思ったらまた奇天烈な方向に走る、繰り返し。
貧乏な夢追い人ばっかり彼氏にしつづける女みたいなもんか。
友井父、いいキャラだな。
名士のくせに、なんか庶民っぽい所もあって。
また話に出てくるのかな。
矢吹のデザインは、実際にその家に住むわけじゃない評論家とか
文化人気取りの人たちに評判いいんだろうな。そんな気がする。
なんかそろそろまとめに掛かってる気がしてきた。
家が建ったら終了かな?
友井といずみは終始にこにこ顔で言う。
「自分が建てられたら楽しいなーって、なんかそういうイメージがあったら聞かせてくれよ」
「先輩、いろいろデザインのスケッチもってるじゃないですか」
不破は気乗りしない。俺が考えてんのは、友井んとこみたいに土地の広い田舎には合わねえよ。
友井は、そんなことないと立ち上がる。小さい頃から夢だったんだ、2階建ての家に住むのって!
急に押しが強くなった友井に負け、不破は自分のイメージを聞かせた。
吹き抜けのリビングはもちろん、風呂にもトイレにも台所にも光が入る家。
3階のデッキでは天窓から星が見られる。もちろん生活のしやすさを念頭において――
「いい! いいですよ、先輩!」「まさに理想的だ!」
友井は絶賛して、日曜に家に来てくれと強引に決めて去っていった。
いずみは、こうなる予感がしてたらしい。だからついてきたのね……。
目を輝かせていずみは言う。将来先輩のつくった家に住めたらいい。
無理なのはわかってるけど、夢として想像して楽しむだけでもいい。それにはリアリティーがなくっちゃ。
「まあ、そーやって夢見てるどこかの誰かのために、俺は仕事してるわけなんだけどもな」
そんなことを言い合いながら歩いていると、住宅展示場が見えた。
「見るだけならタダ、寄ってきましょうよ」と誘ういずみに、既視感。
そう、田之倉のじいさんの時。なつかしい、あの頃は地価高騰のピークだった。
なんか会いたくなったので、行ってみることにした。
せめてマンションになってるかって思ってたけど、駐車場とは。
ユメもチボーもない。俺がもっと早く一人前になってたら、じいさんの土地、なんとかしてやれたろうか。
ついでに見てみた、いずみの初めて住んだアパートも、ジャングルになっていた。なんのための取り壊しだったのだろう。
なお電話してみたところ、じいさんはアパート借りて、一人で住んでるらしい。
「今じゃなきゃ、できないことってあるよな」と、不破は呟いた。
とりあえず、友井ん家の土地を見てくることにした。やれる自信は、全然ないけど……。
新富士駅。
急用で迎えに来られない友井の代わりに、妹・日出子が来た。
「お久しぶりです……不破先輩!」
――久々に出会った日出子は、しとやかな美女に成長していた。
とりあえず、田之倉のじいさん死んでなくてよかった。
じいさん丸くなったな
いや出てきてない出てきてない
それより日出子……当て馬っぽさがぷんぷん漂ってる。
いずみちゃんとの仲は不動だろうし、
ここでこういうキャラ出すことにどういう意味があるんだ?
田之倉のじいさんはなんだかんだ言って、病気の時に
助けてくれた不動産屋に土地を売ったのかな?
ナミフクが潰れて収入も減ったろうしなぁ。
田之倉のじいさんはツンデレ
日出子の運転で、友井の土地を見せてもらいに行く。
「きれいになったねえ、日出子ちゃん」
何気なく言うと、日出子のドライビングが乱れた。感情がすぐハンドルに伝わるのだという。
危うく壁に擦りかけるが、日出子は「え? この車高いんですか?」と気にも留めない。これだから金持ちって奴は。
運転替わろうかと提言すると、ちょっとどきどきしただけだと日出子は言う。
「だって……憧れの人とドライブなんですから。あたし不破先輩のことずっと好きだったんですよ」
当時、不破だけが、兄が家に連れてくる友達だった。
あまり男性と話したことなかった自分はろくに話もできなかったが、遊びに来る度に3回はケーキとお茶を出した。
不破は、それを全部食べてくれて、嬉しかった。不破は高3、日出子は高1の頃だ。
「高1か……初めて会った頃のいずみちゃんと同じ年だな」
いずみの存在を知った途端、日出子のNSXの高価なアルミボディーが路肩の溝に突っ込む!
「そ、その人と結婚するんですか?」「うはははは。ボディーの傷は気にならんのか!」
溝から車を外すのは無理だ。誰か通るのを待ちながら、不破は辺りを見回す。
バブル崩壊でいくつも製紙工場が閉鎖されたりしているらしい。
「そうか……世の中で変わらないものなんてないんだな……」
「ずっと、変わらないことだってありますよ」
潤んだ視線で日出子に見つめられ、不破は気まずく顔を背けた。
その時日出子の知人が通りがかり、車を溝から出すのを手伝ってくれた。
「日出子ちゃん、こちらの方は彼氏? いよいよなんじゃない?」
関係を誤解したまま、彼は去っていく。苦笑する不破は、
「かまいませんよ、先輩となら……」
日出子に微笑まれ、答えずに出発した。
友井の土地は、一等地と言うにはあまりに狭く、へんぴな場所だった。
「お祝いには家だけ。土地くらいは自分でなんとかしなさいって。うちの父、そういう人だから」
なるほど、と合点がいく。あいつの土地か。生かさなきゃ……あいつの居場所を。
中野区坂上町、百寿荘……
田之倉のじいさんの家を、いずみは訪ねた。
扉を開けると、ずるっと倒れ込んできたのは――少年(?)。
続いて、中からじいさんは無事で現れた。じゃあ……あれ? この人、誰?
いずみちゃん… ごめん… ごめんね…
僕は… 僕は…
∧_∧ ┌────────────
◯( ´∀` )◯ < 僕は、友井日出子ちゃん!
\ / └────────────
_/ __ \_
(_/ \_)
lll
高1日出子は確かに萌える
バブル崩壊って深刻なんだな。
紙の消費量なんて日本の経済状況とはあんまり関係なく常に
ありそうなのに、製紙工場も打撃受けてるのか。
友井父の株が上がった
859 :
1/2:2005/12/11(日) 00:00:40 ID:???
ROOM104 再会の瞬間(とき)
少年?は、鼻血で血まみれだった。
心配するねい、いつものことだ、と言うじいさんと協力して、彼を家の中に運び込む。
彼は、隣の103号室の学生。おせっかいで、風邪ひいたじいさんを看病に来て徹夜して、38度を出したらしい。
とにかく非力で、じいさんがここに越してきたときにも、荷物運びを勝手に手伝って勝手に潰れたり……
「何かと年寄り扱いしやがって。あったまにくる奴でい。おかげで毎日退屈しねーよ」
コタツで、じいさんと茶を飲む。日の当たらない部屋だ、といずみは思った。
じいさんは、これまでの顛末を聞かせてくれた。
春にあった大きな地震で、家があちこちイカれた。省庁が立ち退きを勧告してきた。
マンションにするという話は、土地の価値が下がったので流れたそうだ。
「自分の家に自由に住めねえなんて、んったく、なんてえ世の中でい」
そう愚痴るじいさんを見つめるいずみは、切ない表情だ。
話変わって、不破が建築家として勉強してるということを報告。
すると、じいさんは笑い出した。
「なるほど。あいつが建築なんて始めるから、わしん家がつぶれるんでい。あーっははは」「はははははは。」
その時、寝込んでいた学生が目を覚ました。
「今何時ですか!」「ん? 10時すぎでい」
大変だ、と慌てて立ち上がろうとして、目眩に倒れる学生。今日は模試らしい。
今日は寝てないとてめえ死ぬぞ、と心配するじいさんをはねつけて、彼は玄関へ向かう。
「受験生にとっては、イノチに関わります」
「よしたほうがいいですよ。ハナ血、出てますよ」
ティッシュを差し出すいずみの存在に、そこでようやく彼は気づいた。
「おじいさんのお孫さん?」「ばっ、ばか言うねい。……ひい孫だ」
へーっ、と感心しながらティッシュを鼻に詰めていた彼は、やがて、また慌てて模試へと向かった。
「よしねい! その体で!」「いえっ、この休みを取り戻すのにいったい何日……」「ハナ血、出てますよ」
860 :
2/2:2005/12/11(日) 00:01:25 ID:???
ファミレスの窓から見える富士山を、日出子は眺めていた。
「富士山て好きだな。ずっと変わらないから……」
不破は、そんな日出子にノーリアクションで、友井の家の図面を引いている。
日出子は不破から紙を取り上げて、むくれた。
「先輩は目に入らないんですか? おいしいお茶と、目の前の富士と、あたしが……」
ごめん、焦っちゃって、と不破は謝った。
「あいつの結婚式までそんなに時間があるわけじゃないから」
――不破がそう言った瞬間、日出子は目に常軌を逸した表情を湛え、次には涙を溢れさせる。
どうしたのと尋ねる不破に、日出子は涙を流しながら俯き、「ごめんなさい、ごめんなさい」と繰り返した。
NSXは高速で走る! 日出子が笑顔で駆る!
「だっ、大丈夫? 動揺してない?」「あん。大丈夫ですよ。ちょっと昔のこと思い出して」
友井宅に到着。日出子は車庫でバンパーを思いきりぶつけても、日出子はまったく構わない。
相変わらずでかい家だ。玄関をくぐると、どたどたと奥から友井が走ってきた。
「おまえたち、けっ、結婚の約束してるって本当なのか?」
突拍子もない話に、目が点になる。だが、母や近所のおじさんが大騒ぎしていたらしい。
しかも今も、日出子のお婿さん見るってんで、親戚縁者隣組、奥にそろってるのだという。
「とにかく顔出さないと」「おおい」
不破は、友井にずるずると引きずられていった。
こりゃまた強引な展開に…
またしばらくグダグダなのが続くのか('A`)
最後、友井の顔が妙に嬉しそうなのがよく分かんないんだが、どういう描写だ?
玄関先で、持ち物確認。
学生――名取は、熱で浮かされて、受験票を探すのにも手間取っていた。
いずみはなんだかほっとけない。名取の手を掴み、模試会場までついていくことにした。
宴会場は、日出子の親族で賑やかだ。
皆、不破に酒をついで結婚結婚と盛り上がっている。不破がいくら否定しても、話は通じない。
しかも友井は潰れている。酒弱かったからな、どーすんだよ家の打ち合わせとか。
それにしても。不破は宴会の様子に違和感を覚えた。
――なんだかこの人たち、ミョーにわざとらしく盛り上がってるように見えるけど、気のせいかな。
試験が終わったが、名取はすごい熱で、ふらふらだ。世話が焼ける。
――なんだか弟みたい、といずみは思った。
結局帰宅してから寝込んでしまい、いずみはじいさんのかわりに看病することにした。
空いた時間に自宅に電話してみたが、不破は帰っていないようだ。
酔いが回ってきて、いいかげん頭に来た。不破は立ち上がり、取り巻きに演説した。
「日出子ちゃんとケッコンはしません! だいいち俺にはいずみちゃんという――」「一緒に暮らしてる女がいる」
現れたのは、友井の父。助け船だ! 泣きつこうとしたが――彼もまた、言う。
「君はその子とケッコンするのかね?」
即断できない不破。ならば、日出子は昔から君を好いておる。その分、積み重ねが長い。
コップを飲み干し友井の父は、日出子を幸せにしてやってくれ、と不破に頼む込んだ。
おかしい。なんかおかしい。日出子ちゃんはいないし……
一升瓶で手酌しながら、不破は考える。
――ケッコンか……考えたこともないってわけじゃないけど……俺、いずみちゃんとどうしたいんだろ……。
思い立って自宅に電話してみたが、いずみは帰っていないようだ。
そう、その頃いずみは、名取のベッドの脇に伏せ、看病疲れで寝入っていたのだ。
不破は目を覚ました。もう朝だ。まさか寝込んじまうとは。
急げば仕事には間に合う。道を走っていると、NSXが脇に停まった。東京まで送ると言う、日出子だ。
「ちょっと変でしょ、うちの一族」
85キロのスピードで、安全運転。日出子はぽつりと言った。
「あたし、婚約者に逃げられたことあるんです」
この期におよんで、まだこういう展開になるか。
名取・・・いずみちゃんに何かしてくれるなよ
製紙会社の御曹司。父の紹介で付き合うようになった。本当に愛しあっていた。
その人の会社は倒産した。けど好きだったからどうでもよかった。家族も気にせず、式の日取りも決めた。
「けど、逃げたんです、その人。結婚式の当日になって――」
不破は理解した。それで皆、日出子を心配し、茶番でもなんでも結婚させたかったのだ。
だが日出子は言う。人の気持ちは時間がたてば変わる。世の中に変えさせられてしまう。
NSXは加速する。120キロを超えた車を、不破は止めさせた。
日出子はうなだれて、結婚してください、と言った。
「……ずっと変わらない気持ちが一つくらいあっても……いいですよね、先輩」
不破は淋しく笑って、「運転替わるよ」と、静かに、しかし強く言った。
熱が下がり、目を覚ました名取に、弟みたいでほっとけないといずみは言う。――僕、20歳だよ!
その時、隣のじいさんが咳き込む。学校の準備がてら咳止めを取ってくると言い、いずみは去っていった。
名取は壁越しに、やさしいひい孫さんですね、と声を掛けた。
「おじいさん……一緒に暮らせばいいのに」「けっ、ほれやがったな」「ば、ばか言うなよ」
その頃いずみは、不破に咳止め捜しを頼むため、自宅へ電話をかけていた。
電話は、繋がらない。
自宅への電話を終えた不破に、帰ってこなかったんじゃないですか? と日出子は言う。
「黙って外泊したりしないよ。いずみちゃんとはずっと一緒にいるんだ。よくわかってるよ」
日出子は呟いた。ずっと一緒だからって、気持ちはいつか変わる。
話題を変え、自宅での苦労話を始める不破。――それを、日出子はきつく目を瞑り拒んだ。
不破は自宅前で降車し、言い残す。
「人も、世の中も、どんどん変わるよ。そのたびに、何度も選択を迫られるんだ」
はっとした日出子は、ごめんなさい、と不破に抱きついた。
抱きつかれている不破を目撃したいずみが、マンションへと駆け出していった。
追いすがる不破の話は聞きたくない。咳止めだけ手に取り、「急ぐんです」と部屋を出る。
乱暴にドアを閉めた。しばらく廊下を歩く――が、振り返っても、不破は部屋から出てこない。
いずみは顔を歪めて走り去った。
――ドアが壊れて開かなくなったせいで不破が出られないことなど、つゆ知らず。
ドア、直ってなかったのか……
この展開はちょっと無理矢理すぎやしないか!?
誤解とかじゃなくて、真っ正面から問題を扱ってほしい……
ちょっと前までのウザいくらいのラブラブっぷりがウソのようだな
そんな二人がこの程度の誤解でケンカするのもねぇ・・・
先輩。誤解なら……どうして追ってきてくれないんですか?
駅までとぼとぼ歩いていたいずみは、しかし思い直す。
ここで逃げちゃだめだ! あたしの誤解かもしれないし。確かめなきゃ!
いずみも説得できず仕事にも行けず、部屋に閉じ込められていた不破の元に、来客。
日出子だ。開けるのに協力してもらう。日出子がノブを引っ張り、不破がドアに体当たり。
なんとかドアは開いたが、日出子はドアに額をぶつけてしまった。
「あいたた」「大丈夫? 見せて」
マンションの前には、あの女の人の車があった。不安に駆られながらエレベーターを降りると――
顔を寄せあっている、不破と日出子。まるで……いずみからは、キスしているように見える。
とにかく中へ、と部屋に入っていく二人を見ながら、いずみは茫然と立ちつくした。
日出子は、玄関先で立ち止まった。
二人で生活してるところなんて見たくない。ここはあたしの場所じゃない。
「世の中も人もどんどん変わってって、受け入れなくちゃいけない時があるのってわかるけど、
だけどあたしには重荷なの。過去のことや今のことや、家族とかみんなの心配も」
不破がその訴えには答えず、薬箱を捜しに奥に向かい、そして振り返る――
だがそこにはもう、日出子の姿はなかった。
――仕事行くか……。
百寿荘には救急車が来ていた。じいさんの様子が変なのだ。いずみと名取は病院へと付き添った。
医者の診断によると、軽い肺炎だそうだ。病室で、名取はいずみに怒鳴った。
「どうしてこんなじいさんほっとくんだ! 家族だろ! 一緒に住んであげないのか?」
家で反対してるのか? という名取に、家族とは離れて暮らしてる、と答える。
「一人で……住んでるの?」
いずみは答えに詰まり――やがて、答えた。「うん」
すると名取は、顔を明るくして言った。一緒に住んでやれ。アパートに来ればいい。
友井の家に関して、4時間も同じところで悩んでいる不破と杉田。あちらが立てばこちらが立たず。
本人の意見を聞こう、と電話を掛けると――電話の向こうで、友井から報告。
「なに? 日出子ちゃんが帰ってこない?」
どうせいずれ誤解はとけるんだろってのはみえみえだな……。
このマンガ、長く続きすぎてダレてきたかも。
>>871 お前、ラブ米の醍醐味がわかってないねー。
最後には、上手くいくだろう、なんて、最初からわかってるだろ。
どうやって、そこまで持っていくかが、楽しいんじゃないか。
>>872 それを「巧く行かないかもしれない」と言うものが混ざってこそ楽しいんじゃないか。
今は単にいったりきたりしてるだけで、最終的には落ち着くところ落ち着きそうなのが見え見えだ、
かませヒロインが入れ替わり立ち代り来てるだけで、結局物語を進ませる餌にしかなってねえ。
二人が成長したかと思えば(恋愛面で)同じコトを繰り返す、それが恋愛だと言われればそれまでだが・・・
と熱くなってしまったスマヌ。
君のまわりはその手の話ばかり。呆れながらも、杉田は所長の車を(無許可で)不破に貸してくれた。
心当たりはとりあえずないが――NSXならそう何台も走ってないだろう。
車を駆りながら不破は、いずみにひとこと言っとかないと、と思い立った。
しかし電話は留守録。日出子のことを言うとまた誤解されるかな、と思った。
メッセージを吹き込み、夜通し不破は街を走り回った。
名取と交替で病室でじいさんの様子を見ているうちに、夜が明ける。
じいさんに言われ、いずみは着替えを取りに帰ることにした。
去り際、じいさんの頼み事。「毎朝家にお客さんが来るんだ。エサをやってくれ」
そして名取はじいさんに報告した。ひい孫さんが一緒に住んでくれるってさ。
この大都会じゃ車一台見つからない。弱る不破の耳に、タクシーの運ちゃん同士の会話が入ってきた。
「おめーさんも見たか?」「一晩で伝説みたいになっちまったな」「傷だらけのNSX」
なんでも、首都高速環状線を一晩中ぐるぐる走っていたらしい!
自宅に着いたいずみは、不破の留守録を聞く。
「今日は帰れないかもしれません。仕事が終わんなくてさ、帰ったら話しよう」
いずみは力を込めてバッグに着替えをありったけ押し込む。仕事だなんて、ウソばっかり。
荷物を持つといずみは、振り返ることなく――マンションを、後にした。
傷ついたNSXの脇で佇む日出子を、不破はついに見つけた。
日出子は言った。あたし……どこかへ行ってしまいたかった。
でもあたしには、そのどこかさえどこにもない。一晩走ってわかったのはそれだけ。けど思った。
「あたしの場所が見つからないのは、ずっと同じ環境にいたからなんだわ」――この首都高の環状線のように。
あたし外に出てみる! と語る日出子の表情は明るい。
「居場所を探すなら、まず……道を見つけなきゃ」
不破はほっとした。自分で立ち直れた日出子は、昔とは違う。大人になった。
「人はやっぱり変わるんだ。いいことでもあるんだ」
お客さんとは、猫のことだった。エサを一心に食う猫に、いずみは言う。
「あたしもこれからやっかいになるんだ。よろしくね、先輩」
猫を抱いて、いずみは涙をにじませた。
もー!なんでそーなるのよ!!
あのガンコなじいさんがネコに餌やってるとこ想像すると
なんかほほえましいな。
NSXって1000万くらいの車だったよな?!
貧乏人とはスケールがちがうな。
ひい孫さんが住んでくれるのに嬉しくないんですかと問う名取に、
「けっ、喜んでるのはてめえじゃねえか」
名取は、動揺して病室から出て行った。後に残ったじいさんは、物憂い顔だ。
病院に戻ったいずみに、流れる鼻血にも構わず名取が訴えた。
「おじいさん、いなくなっちゃったんだ!」
病院にも、百寿荘にも。探し回るうちにいずみは、ふと思い当たった。
今や駐車場になっている土地。マントをたなびかせ、じいさんは立っていた。
駆けつけたいずみたちにじいさんは言う。わしは自分の土地で死にたいと思ってる。
ひい孫さんが一緒に暮らそうって時に縁起でもない、と息を切らせる名取にじいさんは、
「年を取るってのはそういうこった。それに、その娘はひい孫なんかじゃねえ」
心配なのに他人もへったくれもないよな、と名取に同意を求められたとき、いずみは涙を流し始めた。
あたし、またおじいさんにウソついた。帰る場所がなくなっちゃったんです。それで……。
優しく受け止めるじいさんに、訴える。――もう終わりなんです、あたしたち。
同棲中の彼氏のことを初めて知り、名取はひたすら動揺。だが気を取り直し、
「だからなんなの。三人で暮らそうよ。三人で!」
骨のある奴だ。じいさんは土地に向かってステッキを水平に構え、言った。おめーらが本気なら――
「わしの家を建てろ! わしのこの土地に。何年かかってもいい。わしが、死ぬ前にな」
名取は強い意志を瞳に宿らせて宣言した。できるよ。ボク大学でそういう勉強をする。
「どうして大学行くのか今までわかんなかったけど、ボクはこのために、浪人までしたんだ!」
そこまで思いこむことはと戸惑ういずみだが、名取は首を振る。
ボクは今まで本気で生きていなかった。一人前になれるかなれないか、今年が最後のチャンスなんです!
だから――そう、三人で暮らそう。家を建てるのだ。
徹夜で日出子を捜し回ったせいで、眠気に悩まされながら不破は家に戻った。
電話に残っていた留守録で、いずみがじいさんの家に出て行ったことを知る。
……なんだよ、お幸せにって。日出子ちゃんのことを言ってるのか?
じいさんの住所を確認し、不破は家を飛び出した。
――話もろくに聞かないで……そんなわからず屋だったのか? いずみちゃん!
じいさんの言う、家を建てろってのは、設計をしろってことじゃないと
思うんだが……
大学でどんな勉強するつもりなんだ、名取
それにしても、なんでこんなにしおらしいんだ、じいさん……
ずいぶん人が変わったな。
だがステッキ振りかざすのは相変わらずカッコイイ。
りびんぐで一番好きなキャラかもしれない。
もしかして、名取の「だからなんなの」って、
島根編での不破とダブらせる演出なのか……?
>>879 名取が自分自身で家を建てるという意味にとったのだとしても、
それならそれで大学行くより、大工さんを目指した方がいいよね。
いずみは同居の手始めに、乱雑な名取の部屋の掃除を始めた。
年上なのに弟扱いなので名取は不満だ。生足に心を乱され、エロ本を見つけられて動揺し。
「大変よねー、男の子って」――な、なめられてる。
不破が駆けつけた百寿荘。いずみは見知らぬ男の部屋――
変に子供っぽいんで不自然だとは思っていたが、これなら納得がいく。
人の気持ちは本当に変わってしまうんだな、と合点して立ち去ろうとする不破。
「――って。このまま帰るわけにいくか! いずみちゃん!」
呼び止めると、いずみは目を逸らし怒りを顕わにした。もっと大人に? 話なんかないっ!
マンションの外には、強く強く雨が降る。
話し合って、二人の誤解は解けた。けれど、いずみが出ていくのは変わらない。
「じいさんの家をいずみちゃんがかわりに建てるなんて、なんか変だよ、できっこない。子供じみてる」
「大人の意見、ありがとうございます」
何度も言い合いしても、意見が合わないからだ。
いずみは日出子と抱き合う不破を見た時、あたしどこへ行けばよかったんだろうと不安になった。
結局は誤解だったが、もっと他に別の居場所が必要だと思った。そんなとき、じいさんの話があった。
「誰かの居場所を作ってあげられるのって、すごく幸せなことなんじゃないかって思ったんです」
不破はそれでも、賛成はできない。いずみは、どこか空疎な微笑みを浮かべて去っていった。
――なにカッコつけてやがんだ、俺は……。
一人部屋に残され、不破が扉を蹴ると、その衝撃で壁にヒビが入る。塗装がぱらぱら落ちてゆく。
さらに、天井からは雨が漏りはじめた。
「ここももう……だめだな」
というわけで、しばらく杉田の家にやっかいになることにした。バブルのせいだ。
病み上がりなのに、じいさんは無理して銭湯に入った。
湯船じゃなきゃ風呂に入った気がしねえ、と息を切らすじいさんを気遣っていた名取は、湯上がりのいずみを見て鼻血を流す。
「ボク……頑張らなくっちゃ!」――なんのこっちゃ?
設計に専心する不破。バイトで日銭を稼ぐいずみ。受験勉強に励む名取。
刻々と過ぎてゆく日々を、新都庁のビルが静かに見守っていた――。
不破の今のアパート、ホントしゃれにならんな……。
まあこれはマンガだけど、こんな欠陥建築物作るやつがもし現実に
いたら許せんよな。
日本は地震大国だからなあ。もし鉄筋を少なくしたビルがあるとしたらガクブル
ま、大丈夫だろうけど
日本の建築については、しっかり耐震チェックのデータを出さなきゃいけないし、
それの評価格付け審査をしっかり行う機関もあるから、こんな欠陥住宅は現実にはありえない。
まあそこは所詮漫画だよな。
それより、誤解が解けても別居確定とは予想外だった。
つまり時子の陶芸教室みたいなものに惹かれてたのかな、いずみちゃん。
時子が千葉にいくときも、陶芸教室やめちゃうの、いずみちゃんはすごく残念がってたし。
マンションで別れるときのいずみちゃんの笑顔がすごく薄っぺらくて恐かった。
本当に対話不能って感じで。
けど、なんで対話不能になるのかがわかんねえ……
ここんとこの展開、どうも不可解な感じがしてならない。
志望校のひとつの合格発表。
いずみに励まされ気合を入れた名取は、しかし掲示板の前で沈黙した。
友井の7度目の駄目出しが入る。毎度新しい注文をつける友井に、不破は怒鳴った。
おっとりした友井の奥さんは、特に注文はないらしい。それも逆にいらつく。再び怒号。
富士市からの帰りの新幹線で、きみらしくもないと杉田に指摘される。
「結局のところ、いずみちゃんに出ていかれたのが、こたえてるんじゃないのか?」
不破は虚勢を張る。いずみちゃんはそのうち戻ってきます――家を建てることの大変さを思い知って。
「あの子の居場所は、他にないんですから」「見損なったな」
世間の波に半ベソかいて戻ってきたところを許してやろうというのか。まるで親子だ、恋人同士といえるのか。
相手が不破だからこそキツいことを言う杉田。耳が痛い指摘だ。
不破は不動産屋を回ると言って杉田と別れ、ベンチに腰を下ろして煙草を吸った。
――泣きベソかきたいのはこっちだよ、いずみちゃん。
泣きベソをかく子供みたいな名取を慰めながら、いずみは百寿荘へ。玄関を開いた時――
「出てけーーっ!!」
とっさに伏せるいずみ。対応できず飛んできたステッキに当たる名取。その脇を逃げ帰るサラリーマン。
土地にカラオケボックスを建てたいと言ってきたらしい。
更地にしとかないと、あそこに家建てるのは大変だ。賃貸料で食いつなぐための、駐車場の契約は3年。
とすると……名取が大学入ってそのあと就職するまでの間には、家を建てられない。
2,3年分の貯えはできると言うじいさんだが、それでも足して5,6年。現実は厳しい。
落ち込む一同の元に、猫のたらちゃんが現れてゴハンを催促した。
一気に、場が和んだ。
不破が杉田宅に帰ると、そこには大人数の来客。
「雷蔵」「雷蔵、遅かったな」「雷蔵」「お兄ちゃん」
……それは、総出で上京してきた不破一家だった。
いずみはバーガーショップで店長に残業を頼まれ、時給千円を条件に引き受けた。お金いるんですよ!
そこにやって来た客は――名取だった。
何にする? と聞いても、名取は目を伏せて答えない。落ち込んでるのかと思ったそのとき、名取が言った。
「ねえ、もし大学受かってて、それから就職できたら、ボクと結婚してもらえる?」
いきなり時間が飛んだな。
ずっと不破といずみちゃんは会ってないのか。
名取、情けないヤツだな。
ちょっとは骨のあるヤツだと思ったけど、間違いだったみたいだ。
3年したら(あるいは何年かしたら)、今、じいさんの土地の駐車場を
使ってる人はその駐車場使えなくなるかもしれないわけだ。
で、昔のなみふくのようにとても困るわけだ。
そういえば、以前駐車場スペースで困るエピソードもあったなあ。
今の東京に住んでないのでわかんないんだが、
今の東京の駐車場事情ってどうなってるんだろう?
バブル崩壊で土地転がしの畑とかは意味がなくなったわけだし、
以前よりはちったあマシになってるんじゃないの?
じいさんのステッキ懐かしいな
当惑するいずみに名取は、将来一緒に住むんなら結婚したほうがいいと主張した。
結婚という言葉から、裸で抱き合う自分と不破を思い出すいずみ。
「俺、受かるから。大学ぜったい受かるから!」
宣言して立ち去る名取とは裏腹に、いずみは思った。――先輩、どうしてるかな……。
ゆかいな不破さん一家は、適齢期の息子に問う。
「紹介したい人がいるって言ってたのはどうなったんだい?」
今度の日曜、見合いを用意してある。断るならいずみちゃんを連れてきなさい、という不破父。
「その日は仕事が」と不破は逃げようとするが、それが富士での仕事だってことまで一家はお見通し。
待ってるぞと念を押し、一家は帰っていった。
どーするつもりだと杉田も問うた。いずみちゃんのこと考えるには、いい機会だと思うがな。
「時間がたつとますます戻ってこなくなるぞ。ボロボロになってからじゃなお遅い」
考えるったってな……。
不破は夜の東京をさまよい歩いた。目に留まる、パチスロ屋。
18歳未満禁止の張り紙で、気づく。今度の誕生日で、いずみも18になるのか。
初めて会った時は中学生みたいだったけど――。思いを巡らせているうちに、出玉がなくなった。
自分の情けなさに、不破はうずくまって思った。――いずみちゃん……。
夜も更けた百寿荘。
寝ていたじいさんは、隣の布団にくるまって自分に背を向けるいずみを案じた。
「じょうちゃん、泣いているのかい?」「別に……泣いてなんか……」
いずみは枕をきつく抱く。先輩のことを思い出しちゃって。
じいさんは、ガマンするこたねえと言う。
「あいつのところに帰りたければ、いつだって帰ってやりゃいいんだ。じょうちゃんとはそういう約束で暮らし始めたんだから」
するといずみは枕を力を込めて放り投げ、目元を袖でぬぐってじいさんに振り向いた。
泣きはらした顔で、それでも笑顔を作って……
「へーきです、これくらい。だってあたしの毎日はすごく充実してるんですから」
目的があって勉強して、働くのって、なんてステキなんだって、毎日思ってます! 本当です。
あいつが一緒なら、もっと楽しいやな。そう言うじいさんの言葉に、またいずみの涙腺が壊れた。
じいさんは、いずみを優しく抱擁した。
――好きなもんは全部選べねえんだ、世の中って奴は……。
いつのまにやらいずみも18か。
パチンコ、成人映画、普通免許取得解禁オメ。
でも飲酒と喫煙はまだダメ。
じいさん優しいんだな…。ちょっとホロっときちまったよ。
意地張ってないで戻ればいいのになぁ。
戻らないのって、ただの意地なのか?
不破には家と仕事という二つの居場所がある。
いずみは不破に依存しきるしかない。だから、自分の力で、じいさんの家という居場所を作ろうとしてるんだろう。
……つっても、それで不破を手放したら意味ないよなあ。
何考えてんのか本当のところはよくわからんね。
日曜の見合いに行かない決心を固め、不破は2日徹夜して図面を引き、予定を早めて友井宅へ。
図面を見せても、友井はぼーっとしている。手続きの奔走や法律の勉強で疲れているのだ。
……居場所を作るというのは、それだけ大変ということだ。
帰りの新幹線の中、不破はいずみの夢を見て、改めて思う。痛い目に遭う前に連れ戻さないと。
名取は、学校へ出かけるいずみに再び宣言した。必ず受かるから!
そんな名取にじいさんは言う。もし落ちてたらどうする? じょうちゃんを縛り付けちゃあいけねえ。
「そこでだ、今年大学受からなかったら、今までの話はなかったことにしようってわけだ」
しかし名取は、強硬に言った。――三人で仲よく暮らすんだ。受かるよ、ぜったい!
不破が、学校に来た。入口に呼び出され、いずみは野次馬たちを避けて裏に回る。
不破は穏やかな顔で言った。
「俺が悪かった。戻ってきてほしいんだ」
おじいさんの家のこともやるだけやるといい。新しい部屋を探してるんだ、じいさん一緒でも構わない。
笑顔の不破を、いずみは逆に怪しむ。――先輩、あたしが家建てるなんてムリだと思ってるんじゃないですか?
不破はいずみの肩を抱いて誤魔化した。結果が大事じゃない。よく言うだろ、当たって砕けろって。
「砕けるんですか? 大人の意見ありがとうございます」
話し合いは決裂し、いずみは授業を口実に校内へ戻っていった。
「ふられました」「また子供扱いして怒られたんだろ」
相手が子供なら、君のほうが降りてってぶつかるしかない、と杉田。
不破が心配してるのは、建てた家に彼らの居場所があるのかということだろう、と杉田は見抜いていた。
他人と幸せに暮らすことの難しさは、不破の骨身に染みてるから。
「杉田さんの言い方って、絶望するよなー」「すまん」
いずみは学校の先生に、春休み中の新教材作りを頼まれた。
これでお金も入る。勉強も見てもらえる。いずみは承諾し、教材作りに精を出した。
――うまくいく! 絶対うまくいくんだ!
名取もまた、神社で一心に合格祈願をしていた。
そしてその頃不破は、母親からの恨みの電話をもらっていた。「よくも見合いすっぽかしてくれたな」
だから行くなんてひと言も……「二度と帰ってくるな!」
電話は切れ、不破は途方に暮れた。
親も、見合いさせるなら、ちゃんと息子に確認しておけよ。
来いって一方的に言っただけじゃ来るとは限らんだろうに。
見合い相手に対して失礼だぜ。
二者択一って杉田に言われたのに、3つめの選択を選んだんだなあ、不破。
つーか、徹夜してまで日曜に実家寄ることを嫌がらなくてもいいじゃん。
顔出して断るくらいしないと、相手が可哀想じゃないか?
学校にまで来てくれた不破の何が不満なのかわからん
本音で反対しても駄目、妥協してやっても駄目
どうしてほしいんだ? じいさんの家づくりを手伝わなきゃ満足しないのか?
いずみちゃんがDQNに見えてきた…
絶対うまくいくって思いこみたくて視野狭窄になってる感じかな
名取もいずみも、失敗フラグ立ちまくりだよ・・・
電車でうたたねをする度、いずみの家造りが失敗する夢を見る。重症だ。
不破は思う。見守るしかない……せめて、そばにいてやれればなあ。
西荻大学の合格発表。
掲示板前でいずみを呼ぶ声。モモコと彼氏のつとむくんだ。どうやら合格したらしい。
名取はどうだろう――と探すが、姿が見えない。落ちたんだ!
名取を捜しに走る。彼は線路脇のフェンスをよじ登っていた。
「はなしてくれっ」「どーしてそう行動が極端なのよ、やめてってばっ!」
こんな時は、お酒飲むに限る! 居酒屋に名取を連れて行き、ビールを注文。
名取は泣いて凹む。たんか切っといてばかみたいだ。3浪なんてとてもできないし、初めっからムリだった。
ジョッキを煽り、そして名取はすぐに潰れた。(なお残りのビールは、いずみが飲んだ)
百寿荘の玄関前で壁に体を力なく預けている名取に、いずみは言う。
「世の中には27歳になってから建築の勉強はじめた人だっているんですから」
まだまだこれからと励ますと、名取は「不破先輩のことでしょ」と拗ねる。
そんな名取を、いずみは叱りつけた。自分ばっかりが苦労してるみたいに!
「思いどおりにあんらないと怒ったりすねたり、それじゃ子供のやることと同じじゃないですか」
「君はどうなんだい?」
三人で家を建てて暮らそうと思ったのは、先輩とケンカしたからだろうと指摘する名取。
いずみは否定するが、彼女の言葉――「ムチャな計画」――から真意が見透かされる。
「君だってムリだとわかってやってたんだ。どうしてだよ?」
いずみは、答えられない。
名取がいずみをまっすぐに見て言う。
「ボクは、ボクは君が好きだから」
はっとする。いずみも、名取本人さえも。
名取の顔がいずみに近づく。いずみは必死で逃げようとする。
名取はもう引っ込みがつかない。いずみに抱きつき、押し倒す。
だがじきに名取は、固く身を守るいずみから、我に返って離れた。
「ごめん……ボクは、ボクはただ、ボクのこと大人に見てほしかったんだ。いずみちゃんに大人に見てほしかったんだ」
騒ぎを聞きつけたじいさんは、状況を察した。――小僧、なんてことを……。
なんでもない、と呟いて俯くいずみ。沈黙して泣く名取。
じいさんは、ただただ立ちつくして二人を見下ろしていた。
名取、大学行くより工務店にでも就職しろ。
あーあ、やっちゃった・・・
危ない危ない
うわ……最低だな名取。
今までは頼りないしバカだけど根性ある憎めないヤツだと思ってたけど、
今回の件で評価ガタ落ち。
福永のほうがまだ好感持てる。
ここから名取はどうフォローしてくんだろうな。
いずみと顔を合わせるのも辛い毎日になりそうだが。
あ
909 :
1/2:2005/12/23(金) 01:02:58 ID:???
ROOM115 隣の訪問者
不動産屋には、ずいぶんたくさんの物件が並んでいる。引っ越しシーズンだからだろうか。
「それだけとは限らない。最近アパートの供給過多が問題になってるからな」
不破の後ろから、杉田と渡辺ドジ子が現れた。高橋設計事務所を止めて新しく事務所を開くらしい。
事務所からも何人か連れていく、と言う杉田。ドジ子のことだ、と不破はピンと来た。
そのとき、不動産屋からひとりの小柄な青年が出てきた。
――彼が名取だとは、不破は知らない。
さすが元OLだけあって、いずみのデスクワークは鮮やかだ。
けれど……なんだか、怖い。
いずみは自分に言い聞かせていた。ここであたしまでくじけたら駄目だ、と。
負けちゃだめだ、負けちゃだめだ。おじいさんの家建てるんだ!
その一念で自分を支え、学校とバイトを夜までこなす。
帰宅すると――名取の部屋は、無人だった。
かわりに残されていたのは、一枚の書き置き。
田舎へ帰ることにしました。いろいろお世話になりました。
いずみちゃん、あの時は本当にごめんなさい。名取学
根性なし! いずみは書き置きを丸めて投げ捨て、じいさんに笑いかける。
「おじいさん。あたし負けないから! 二人で頑張ればきっと家建つから!」
910 :
2/2:2005/12/23(金) 01:04:13 ID:???
杉田宅で、部屋が見つかった旨を報告する不破。場所は中野だと言うと、ちょうどよかったと返す杉田。
「僕の事務所も中野で見つけたからね」「は?」「君も僕の事務所へ移るんだ」
どうして俺のことをと問う不破に、杉田は笑って言った。
「君が必要だ」
そう言われちゃしょーがない。不破は承諾し、杉田と握手を交わした。そして問う。
「ドジ子さんにも同じこと言ったんですか?」「なんの話だ」
話をずらして、杉田は問うた。君のほうこそ、君にとって必要ないずみちゃんはどうするつもりだ。
すると、不破はにっこり笑った。
「見守るんです、そばにいてね」
夜、いずみは、名取さんを傷つけちゃったのかな、とじいさんに呟いた。
名取が大人に見てもらいたくて主張していた夢は、いずみにとっては子供っぽい夢だった。
「子供みたいな夢だってかなうんだって、そう思いたかった」
それでもまだ諦めたわけじゃないと言ういずみを、じいさんは優しくいなす。
「この年になると、人間どうやって死ぬのかを考えてしまう」
時代は変わり、人も変わる。だからこれからの時代を作る若いもんに死に場所を作ってほしかった。
それが、わしの居場所だ――じいさんは、そう思ったのだ。
だが、もう十分だ。いずみたちよりずっと大人のじいさんだが、いずみたちには何もしてやれない。
今後は、カラオケボックスを建てれば食っていけるだろう。
「あいつのところへ帰ーんな、じょうちゃん」
しかし、それでも帰らないといずみは言った。家のこと諦めたわけじゃないし、とにかく帰らない、と。
じいさんといずみは布団を被って、互いに背を向けた。
「ガンコ者」「おじいさんこそ」
翌朝、騒がしい音が聞こえた。名取の部屋からだ。誰かが引っ越してきたらしい。
イッパツどなっといてやるか、とステッキを構え、じいさんは外を覗く。
すると、そこに立っていたのは――
「隣に越してきた、不破です。よろしく」
不破はおとなだなぁ… 今度こそ仲直りしてほしい。
その手があったか!
けど名取マジで退場かよ……
杉田って、本当にドジ子と付き合ってるのか?
しらばっくれてるって言うより、本当に違うっぽい態度に見えるんだが。
大体杉田が照れ隠しなんてしないだろうし……
じいさんホント丸くなったな……
けどなんか死亡フラグが立ってそうで怖い。
引っ越し作業を終えた。いずみは手伝いには来なかったが、不破は気にしない。
庭に出ると、じいさんが裏路地を眺めていた。たらちゃんがこの頃顔を見せないのだという。
じいさんは言う。じょうちゃんは頑張ってる。だがあの子は、ぼろぼろだ。
名取の部屋が空いたからたまたま来れたのだとはわかっていても、苦言を呈してしまう。
「もちっと早く引っ越してこんか、ばかたれが」
不破は言う。とりあえず、そばで見守っていられればいいんです。
ひどいことやわがままなことをたくさん言ったのに来てくれた。先輩って大人だな。
教材を作りながらそんなことを思ってると、話しかけてくる生徒。色恋沙汰の相談に来たのだ。
「やっぱなんか氷山先輩ってオトナって感じするし」
大人じゃないもん。あたしなんか……。
日が暮れて帰り道、たい焼き屋があった。ふたつ注文しようとして、ふと思い直し、みっつ注文。
袋を抱えて不破の部屋の前。ドアを叩こうとして――やっぱり、やめた。
じいさんには、みっつめはたらちゃんの分だと笑っておいた。そこで知る、たらちゃんの不在。
「きっと本当の自分の居場所に帰ったのさ。じょうちゃんも帰んな、本当の居場所へ。意地張ってねえで、大人になんな」
じいさんの言葉に、思わずいずみは立ち上がって、あたし帰らない! と叫んだ。
その足で銭湯へ。いずみはわかんなくなった。
素直になるのが大人で、意地張るのが子供のやることなのか。
素直なのが子供で、大人だから意地張るってこともある。
鏡を見つめる。――あたしは子供? それとも大人?
コインランドリーで洗濯物を乾かしていると、隣に不破が座った。
心配だと言う不破に、あたしが子供だからかと絡むいずみ。心配だから心配? 理由もなく?
いずみは叫んだ。先輩がなに考えてんだかわかんない。
だって、日出子には優しくして、おじいさんのことは気にもしてなかった。
日出子に優しくしたのは必要なことだったんだと言う不破だが、じゃあおじいさんの家は必要じゃないことなのか。
すると、不破の怒号が飛んだ。
「世の中にはやれることとやれないことがあるんだ! それを判断するのが大人ってもんだ!!」
だったら――といずみは叫んだ。
「なにかを切り捨てるのが大人なら、大人になんかならない!」
じいさん、いいって言ってるのに……
自分の意地で主張してるだけじゃないのか?
いずみちゃんの考えが、ここに来てぜんぜん読めない。
不破のほうは言うとおり、少しもわかりにくくない行動だけど……
_,,,.,、、、、、、...,,_
.,,-‐'^ ̄ .´¨'''¬ー----、、.,_
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オオクワの小説はオンディケンゴル・ゾーナマハ・ソルツ・クェックェッテル・ガンデニオン
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ヽv.,_ .ノ ,,v-| ″ }, ..r> .} .}
¨'''':i(,., ,/ \ _/゙'-、.,__ ,,/ ーーーー┐ .}
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.| ..|^'‐、, | } ヾ⌒ .} .|
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918 :
1/2:2005/12/25(日) 00:00:48 ID:???
ROOM117 ふたりの和解
大人になりたくない――そんな発言に不破は当惑する。いずみは、いつも大人になりたいと言ってたから。
「あたしは、大人じゃない」
乾燥の済んだ洗濯物を持って、説明もせずに外へと飛び出すいずみを不破は追う。
いずみは子供みたいな言い方で不破をはねのける。
日出子さんと抱き合ってるのを見せられて、それで平気でいるのが大人なら、大人になんてならない!
じゃあじいさんの家のことは結局ヤキモチだったのか? と不破に問われ、いずみは黙り込む。
そのとき、いずみは何かを見つけた。――たらちゃんだ。
猫なんかどうでもいいと言う不破を無視し、たらちゃんを追いかけていくいずみ――猫以下だ。
不破がようやく追いつくと、いずみは言う。止めてもきかなくても、それでも止めてほしかった。
矛盾だらけだ。付き合ってられない。不破が背を向けると、いずみが泣き出した。
「泣くなよ! 好きなこと言って好き勝手やって、その上で泣くな!」
叫ぶ不破に、いずみは文句をぶつけた。
「先輩のばか! ばかばかばかばか! いいかげん! 無頓着! 優柔不断!」
「よくもそんなに……わからずや! カンシャク持ち! わがまま! 自分勝手!」
売り言葉に買い言葉。二人は感情のままに叫び合う。不破の暴言はエスカレートし――
「おまえなんかなあ、顔が可愛くて、おっぱいおっきくなきゃ、誰も相手にするもんか!」
「ひどーい! そこまで言う? 本気なの?」
「ああ、本気だよ! 本気で、
――本気で好きだった。会った時から、ずっと」
まっすぐに自分を見る、不破の目。いずみの口から、ようやく素直な気持ちが、漏れた。
「あたしだって先輩と仲良くなれたら、どんなにいいだろうって、思ってた」
919 :
2/2:2005/12/25(日) 00:02:42 ID:???
いずみは、不破に追いつきたかったのだ。
やること見つけて自分の居場所をもっと作り、心と体の場所をふたつとも見つけることで、大人になって。
だけどいずみは、不破のように誰にでも優しくはできない。
なのに大人にされたり子供にされたり、自分がわからなくなった。なら子供のままのほうが自分で納得できた。
「……あたし、もうすぐ18歳だなんて信じられない」
失意のいずみを、不破は抱きしめた。いずみちゃんはいずみちゃんなだけ、と言いながら。……だが、
「またそうやって抱きしめてごまかす」
指摘され――不破は、気づいた。
自分だってカッコつけて大人のつもりで、いずみのことをわかったふりをすることしてただけなんだ、と。
――本当は、たくさん話さなきゃいけなかった。
気取らないでもっとたくさん話そう、戻っておいでよ、と訴える不破。
「君が、必要だ」
そう言ってから、まだカッコつけてる自分に、不破は気づかされる。
不破は、いずみに手をさしのべた。にっこり微笑んで――
「帰ってきてくれよ。いずみちゃんがいないと寂しいよ。
君が帰ってこないなら、こっちから、一生離れないからな」
いずみの瞳から涙が溢れた。
頑なに拒絶していたいずみの手が、ゆっくりと、不破の手を掴んだ。
二人の和解を遠くで、たらちゃんだけが見つめていた。
つまり、大人っぽく体面を繕うのに疲れて、ヤケになってDQNを演じてたってことか?
わかったようなわからんような、なんかすっきりしない感じだが、とりあえず仲直りできてよかった。
よかったよかった、肩肘張ると疲れるもんだし
やっとか…ホント良かった。
今回の件は、素直に気持ちを表さない不和にも問題があったんだよな。
最終的にはただの痴話げんかになっちゃった感じで微妙だ。
問題を有耶無耶にして、雰囲気で解決してる気がして、なんかノれなかった。
じいさんの家のことは結局、意地張ってただけでどうでもよかったのか?
何がきっかけでいずみちゃんが心を開いたのかがよくわからん。なんで?
ヒント:女心と秋の空
>>922 学校に行ったり隣に引っ越してきたり、
不破はじゅうぶん素直だったと思うんだが・・・
二人の和解を、じいさんは我が事のように喜んだ。
とっておきの鬼ごろしで祝杯をあげていると、不破といずみは酔いつぶれて寝てしまった。
暗い部屋の中、じいさんは一人、古ぼけた女性の写真を眺める。
「また……一人になっちまったよ、ばあさん」
その時、外で猫の鳴き声。小走りに外を覗くじいさんだが――それは、たらちゃんではなかった。
寂しげに微笑み、立ちつくすじいさん。
――いずみは、いつからか目を覚まし、じいさんの境遇に思いを馳せていた。
猫を見つけたからってじいさんの寂しさが癒せるわけじゃない。
それはわかってるが、だけどじいさんをしょんぼりさせたまま先輩のとこには帰れない。
夜が明けてすぐ、いずみは行動を開始した。
不破もなんだかんだ言って、手伝ってくれる。二人で、たらちゃんを町中探し回った。
それでも見つからず、肩を落としていくと、目の前にたらちゃんが現れ、逃げていった。
追いかけるいずみ。路地を抜け、塀を跳び越え、ようやく終着点。
たらちゃんの入っていった家の庭を覗き込み――いずみは、目を丸くした。
いずみや不破と合流したじいさんは、その家の庭を見て納得した。――猫屋敷。
足に体をすり寄せるたらちゃんを抱き上げて、言う。
「この場所なら仲間もたくさんいて言うことねえやな。家へ、帰んな」
その時、話しかけてきた、ふくよかで優しそうな女性。
「うちの猫ちゃんがなにか……?」
女性を見た瞬間、じいさんの顔が、火が点ったように赤くなった。
しどろもどろにその場を去ろうとするじいさんだが、たらちゃんが足にしがみついて離れない。
女性は気づいた。しばらくいなくなっていたこの子の面倒を見てくれたのは、じいさんなのだと。
家族はうちのネコ達だけですから、と誘われ、じいさんは女性の家でお茶をごちそうになった。
日が暮れた。不破といずみは先に女性の家から一足先に失礼して、帰り道。
押しつけちゃった感じだが、じいさんはいつになく楽しそうだった。
結局おじいさんになんにもしてやれなかったと落ち込むいずみを、まったくのムダは世の中にそうない、と不破は慰めた。
「居場所を探すのって、本当に難しい」「まぁ、だいたいはね」
寄り添い歩くふたりを、つがいの猫たちが見つめていた。
なんかまとまってるな。これ、最終回?
次号最終回だってさ
じいさん、一目惚れか。
老人の恋ってなんか微笑ましくていいな。
930 :
1/2:2005/12/27(火) 00:00:40 ID:???
ROOM119 ふたりの居場所
桜咲く富士市。友井の家の工事――棟上げがついに始まった。
感慨深い。友井は泣いちゃった。
そこに、親方と大工見習いの青年の会話が聞こえてきた。青年は住み込みだという。
「大学で建築でも勉強しな」「大学だけが人生じゃないですから!」
親方にどやされ鼻血を出しながらも、ここがボクの居場所、と青年は根性を見せていた。
これで高橋設計事務所の仕事は、めでたく終了。
続いての杉田の独立第一番の仕事は、もう決まっている。設計のやり直しだそうだ。
杉田は言う。初めて設計を手がけたビルは、地震ですぐに傾いてしまって、ひと月だって立っていなかった。
現場に到着し、不破は笑った。このビルのことなら、よおーく知っている。
「俺、ここで働くはずだったんだから」
――出会いは、不思議だ。
ビルが傾くことがなかったら、そのあと不破の周りで起こるすべての出来事はひとつも起こらなかった。
杉田との出会いも、いずみとの暮らしも。
すべてバブルのせいだと言えなくもない。バブルも少しはいいことしたわけだ。
帰宅すると、いずみが出迎えてくれた。
じいさんはネコのおばさんと歌舞伎らしい。
「じゃあ、いないんだね」「う、うん」
不破はにやりと笑みを浮かべると、いずみを抱きしめ、キスをしようとする。
次の瞬間、部屋の奥から現れて囃し立てる旧ナミフクメンバー!
不破の独立といずみのバースデーを祝って、皆駆けつけたのだ。
――皆、他に祝うことは?
「あー、今度はパパになります」と一石。
「健康診断で血糖値が下がってました」と千里。
「486が安くなったのよ! これからは486よ、486!」と難波。
社長は――「こうやってみんなでまたお酒飲めて、こんなにめでたいことってある?」
ちょっとしんみりしながら、皆で、かんぱーい!
931 :
2/2:2005/12/27(火) 00:02:08 ID:???
宴もたけなわ。つまみがなくなり、不破が買いに行くことにした。
そこにノックの音。来客は――「リコンしてやるーっ!」妊娠中の時子であった。
買い出しを終え戻ると、旦那、杉田、モエコに不動産屋まで――人口密度が上がっている。
「あたしたちの居場所はないみたい」
苦笑するいずみと、不破は外に出た。
どこもいっぱい。飲み屋も、屋台も。どうやら今日はお祭りらしい。
――なんだか、居場所がなくなっちゃった。
「見つけたとたん、居場所ってどこかへ行っちゃうのかな」「やっぱり、一生探して歩くような気がする」
二人の居場所は、どこにあるんだろうなあ……。
結局、ラブホテルで夜を過ごした。
いずみは頬を染め、呟く。こういうの、居場所っていうのかな。
不破は言う。居場所はどこにだってあるさ。ないなら探せばいい。
大事なのは、心の置き場所なのだ。
「俺の心の置き場所は、いずみちゃんの中にしかないからね。
この先、二人の居場所がどんなに変わったとしても、これだけは変わらない」
朝の光の中、不破といずみは東京の街へと出る。
今の部屋は、やっぱり二人じゃ狭い。それでさ、とりあえず――
「居場所探して、不動産屋回ろうか……」
体を寄せ合い歩く二人の遙か彼方では、都庁のツインタワーが朝日に霞んでいた。
「りびんぐゲーム」
―完―
全員集合で最終回か…
でもまさか最初に傾いたビルが杉田さんの設計だったとは…
やっぱり不破と杉田さんは縁があったのかな。
旦那と駒田さんみたいなナイスコンビになってほしい。
会社が倒産した時も集合したけど、その時と比べてみんな幸せそうでよかった。
いい作品をどうもありがとう。お疲れ様でした。
そういえば、いずみちゃんと会った最初の日にも、都庁を見にいってたんだっけ。
あの頃はまだ「新都庁」って感じだったな。
いつの間にか、東京の景観として馴染んだ都庁は、この漫画の象徴といってもいいのかもしれない。
泣けるなぁ、いやなんかしらんが泣ける
>「486が安くなったのよ! これからは486よ、486!」と難波。
時代を感じる 486DXか難波さんよw
>旦那、杉田、モエコに不動産屋まで
旦那や杉田はともかく、モエコはどうしているんだw
不動産屋に至っては、存在すら忘れてたよ・・・
つーか、他にもあんまり馴染みのないキャラがいるけど、誰だ?
時子は最後までそれかよ
妊娠したんだから、少しはもちつけ
大団円って感じだな。乙!
連載開始から合わせて、これで不破は4回、いずみは5回の転居を経験することになるわけか。
お金いくらあっても足りないよなあ……
ついに完結か〜
なんだかんだで、全員収まるところに収まったね。
まさにハッピーエンド。
もう、楽屋裏ってことでいいかな?
連載当時は、途中で読むのやめちゃったんで、あらすじで
欠陥アパートの関係者が互いに責任押しつけあってケンカする
場面読んで、ホントに驚いた。
時代を先取りしてたんだなぁ。
欠陥マンションはあまりにタイムリーで驚いたw
ところでこのスレの人口は何人くらいなのかな?5人くらい?
まあ、過疎のおかげで一度も荒れずにマターリ楽しめたんだが。
>安く建つ安く建つと煽って大家に金を出させた工務店。
>建ちさえすればいいから設計なんて無視しろと工事費をケチった大家。
>そんな責任のなすりつけあいを見ても傍観を決め込む不動産屋。
姉歯建築の問題も、正にこの構図なんだよな。的を射すぎだ。
いずみちゃんの最初のアパートが壊されるところでは、アスベスト問題について語りたくて仕方なかった。
切り出し方が難しかったから止めたけど。
りびんぐ連載中は、連載当時に戻るって縛りがちょっと悪い方に働いちゃったシリーズだと思った。
>>941 毎話、とはいかないけど頻繁にレスつけてました。
終盤のすれ違いは否定的な意見ばっか書いてしまって申し訳ない。
1000まで行ったら誰か貼ってくれw
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_.|i三l_/|:、\i| |ii|/ |=|."|、|三|=| 居場所探して
|iii|三:l_/|、|三`、 |ii|/ |=|."|、|三|=|
|/|≡|/|、|- 、i| |ii|/ |_-、.|、|三|=| 連載中スレ回ろうか……
|/|≡|/|、|=|iiii| |i_.-三 |=|ii|`i'"|\
|/|≡|/|、|=|iiii|_..||_.-=i|=|ii|、i'"|、|、|
|/|≡|/|_,,.‐'ニiiiii:|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、|
|/|≡|=|-'''"iiiiiiiii|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、| りびんぐゲーム連載中スレ ─完─
|/|≡|=|iiiiiiiiiiiiiiiiii|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、|
|/|≡|=|iiiiiiiiiiiiiiiiii|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、|
|/|≡|=|:-‐ii"iiiiiii|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、|
|/::|` |=|iiiiiiiiiiiiiiiiii|_.-=i|=|ii|、l-'|、|、|
あらすじ書きです。楽屋の裏のチラシの裏。
私がそもそも何でりびんぐのあらすじ書きやろうと思ったかっていうと、
「島根編でみんなしてorzしたい!」という一心からでした。
倉本兄妹の話あたりで我に返って、元々あまり連載中スレとしては向いてない漫画だったかなあと思ったりもしましたが、
無事完走できました。皆、つきあってくれてありがとう。
アスベスト問題や偽装問題などのリアル事件が話題になってたり、
私生活で、父親との不和で上京した家出娘の新居を世話したりとか、
あらすじ書きをやる中で色々シンクロすることが多かったのも、面白い体験でした。
マーフィーの法則とかあるのかなあ、やっぱ。
思わぬ副産物もありました。
ラスト、今までどうしても理解できなかった二人の和解の流れだけど、あらすじ書いてたらなんとなく整理できた気がします。
で、あそこらへんのあらすじは、ねじ曲げてはいないけど、描写の取捨選択にかなり私なりの解釈が入ってると思います。
もしかして他の人は同じように読んでたわけじゃないんだろうか!? とちょっと怖かったりもしてますが、
まあ、そんな感じで。
兎にも角にも。
なんとか無事最終回まで行き着くことができたのは、レスつけてくれた皆のおかげです。
本当、ありがとうございました!
>>943 私も否定的な意見書きまくってました。
やっぱり終盤の展開は色々すっきりしない部分が多いよなあ。
結局、いずみちゃんは何がしたかったんだろう。ヤケになってただけってことなのか……。
福永の時を楽しみにして毎日のぞいてましたw
初カキコ。最初から見てました。あらすじお疲れ様でした。
自分は一角ちゃんと1つ違いで、当時の連載中は彼女の視点で見てました。
今、29になって読み返すと不破ちゃんの視点ですよw
久しぶりに毎日更新が楽しみなスレでした。感謝。
今なら、いずみちゃん30歳・不破40歳か… 時の流れを感じるなぁ。
なんか、楽屋裏になってからレスの速度が上がった気がするなー
時事ネタとかぶりすぎて、今語りたかった漫画だったのかもw
姉歯事件を杉田さんが知ったら怒るだろうな。
年寄りを騙したリフォーム詐欺事件でも怒ってるだろうな
こんだけあると、むしろ絶望して政治家になってそういうことを減らすとか言いそうだなw
杉田はそれでも設計士として草の根から訴えていくタイプだと思う。
ただ、高橋設計事務所はいいところだったけど、直接杉田が現実に晒されたら、耐えられるんだろうか。
りびんぐの続編とか出ないかなー。
時事問題に限らず、不動産の証券化とかの話もありーの、今不動産はホットなテーマだよな。
それで星里漫画になるのかは微妙だが。
どこらへんの話が一番好きだった?
俺はじいさん初登場の話が好き。
土地の魔力が描かれてて、印象的だった。
オレは一石さんが輝きだした所
脇役がちゃんと生きているのが、この人のいい所だと思ったね
16歳の誕生日かな