【いじめ】ネギま!【問題】

このエントリーをはてなブックマークに追加
836マロン名無しさん
ウチは、夜が好き。
青と黒の混じった静寂な闇に包まれて、誰も彼もが眠りにつく中…ウチは一人夜道を歩く。
月に照らされたいつもの道は、まるで普段とは違う異世界にウチを誘っているかのようで…。
このまま誰もおらん世界に行けたらええのになぁ、なんてとりとめもない思いに身をはせた。



「またかわい子ぶっちゃってさぁ、あんたムカツクんだよっ!」
ドカッ!
「うぎっ…」

昼休み、いつもの先輩達に体育館裏へ呼び出されたウチは、これまたいつも通りのいじめを受けていた。
きっかけは、先輩達のあこがれだった男子の先輩にウチが告白した事。
結局ウチは振られたけれど、先輩達にとって告白の成否はどうでも良かったらしい。
ただ…あこがれの先輩に色目を使った女だからいじめる。
この行為にそれ以上の理由なんてなかった。

先輩の一人が放った蹴りはウチの鳩尾を捉え、ウチは呼吸もままならずその場に崩れ落ちた。
「サッカー部関係者の割には蹴りへの反応鈍いんじゃない?w」
むちゃくちゃな事を言う。
「仮にもサッカー部のマネージャーなんだから、もっとボールの気持ちを理解しなくっちゃ!」
これもまたむちゃくちゃ。
きっと、切っ掛けなんてどうでも良かったのだ。
理由なんて幾らでもこじつけられる。
ただ、自らの嗜虐心を満たせるような相手さえいれば…彼女達にとって、
ウチは全自動のサンドバック以外の何物でもないのだ。
「ぼ〜るはともだちっ、と!」
ドゴッ!!
「うげぇっ…!」
「アハハハハハ、それ古すぎ〜」
ゲラゲラ笑いながら次々ウチを蹴り続ける先輩達の声を遠くに聞きながら、いつしかウチは気を失っていた。
837マロン名無しさん:2005/05/10(火) 23:45:34 ID:???

………。
「んっ…」
気がつけば、ウチは一人体育館裏の地面に横たわっていた。
先輩達の姿はどこにもない…今日の所は満足して引き上げていったのだろう。
よろける体で、蹴られたお腹を確認する。
「あはっ…また、傷が増えてしもた…。」
へその辺りを中心に痣や傷が幾重にも重なり、脇腹の古傷はもはやそれらの中に埋もれてしまっていた。
先輩達は、普段は服で隠れて目立たないお腹の辺りに狙いをつけて蹴りつける。
――いい?この事誰かに喋ろうもんなら、アンタただじゃおかないから――
脅迫まがいの言葉がウチの脳裏に浮かび上がった。
「こんなの、言えるわけ…あれへんやん…。」
そう、言えない。
言えるわけない。
そんなウチだからこそ、彼女達に目を付けられてしまったのだろう。
「もうすぐ昼休みが終わる…早く教室へ戻らな…。」
そして、またいつものように"元気な亜子"を演じるのだ。
まき絵は気づかない。
昼休みウチがどんな目にあっているのかを。
裕奈は気づかない。
ウチの傷が日毎に増えていく事に。
アキラは気づかない。
ウチが体育の授業を見学するようになった本当の理由を。
誰もウチの事なんて分かってくれない。
そう…思っていた。



夜中の一人の散歩道、コースの終わりは決まってプール。
けれど、今日は先客がいた。
プールサイドで一人たたずむ彼女は…。
「…アキラ?」
838マロン名無しさん:2005/05/10(火) 23:46:47 ID:???
ウチの声に一瞬ビクッと身をすくませた彼女は、声の主がウチだと気づきその緊張を緩める。
「…亜子?」
けれど、驚いたのはこっちも同じ。
「こんな時間にこんなところで何しとるん?
 ま、ウチが言えた事やないけど…」
ウチの問いかけにアキラは一瞬口ごもる。
…聞いてはいけない事だったのかも知れない。
けれど、アキラは空を…ちょうど三日月、おぼろげながらも夜の世界を照らし出すその月を見上げながら、
まるで独り言を呟くかのように淡々と語り始めた。
「私は、夜が好き。
 薄い藍色の闇に染まった、私一人きりの…静かな世界。
 闇は辛く苦しい昼の世界を塗り替えて、私を全てが欠けた安らぎの中へと連れ出してくれる。」
「そう、もうあの世界へは戻りたくない…。」
続けたウチの呟きに、アキラは優しく微笑んだ。
「私、ね…イジメられてるんだ。」
「え?」
「いじめ。
 水泳部の中でね。
 きっかけは本当にささいな事だったんだ、私にレギュラーを奪われた子達がよってたかってっていう…
 ハハ、どこにでもあるような話だよね。」
アキラが…いじめられていた?
気づかなかった。
気づいてやれなかった、ウチだっていじめを受けていたというのに…。
「ウチも…」
自分の事だけで精一杯だった。
きっと彼女も周囲の人間にばれないよう必死だったのだろう。
「うん?」
「…ウチも同じや。
 先輩達に呼び出されて、毎日のようにいじめられてっ。」
一瞬の間、そして…
「…そっか。」
とアキラが相づちをうった。
839マロン名無しさん:2005/05/10(火) 23:48:36 ID:???
それは何の感情も込められていないかのようで…けれどもウチらには
世界中の誰よりもお互いを分かり合えたかのような…そんな不思議な確信があった。
ウチらはそれっきり黙ったまま、プールの水に映る三日月をただじっと見つめていた。

…30分も立った頃だろうか。
ふと沈黙を破り、アキラが口を開いた。
「ねぇ、亜子…」
「ん…?」



「何なんだか亜子の奴、あたし達を逆に呼び出すなんて…」
「ねぇねぇ〜、気をつけた方がよくない?
 まさか仲間呼び出して私達フクロにしようと待ちかまえてるなんて事は…」
「あっははは、あいつにそんな度胸ある訳ないじゃん!
 大丈夫、心配いらないって。」
今朝、亜子をいじめていたグループに"昼休みに屋上で待っています"との亜子からの伝言があった。
場所が変われど、やる事にはなんら変わりはない。
今日はどんな事をしてやろうか…グループのリーダーはそんな思いに耽りながら屋上への階段に足を伸ばし…
そして、階段の踊り場に先客がいる事に気がついた。
「…こんにちは。」
どうやら中等部の後輩らしい。
「あなた達も屋上に用事?」
「あっはい、同じ部活にアキラっていう生意気な子がいるんですけど、そいつが昼休みに屋上に来て欲しいって…」
「ふ〜ん…」
どういう事だろうか。
ただの偶然?
いや、この校舎の屋上は昼休みに開放されてはいるものの、滅多に人がいない事で有名だ。
たまたまバッティングするだなんて事が果たしてあり得るのか…
まぁ、いい。行ってみれば分かる。
気弱なあの子の事だ、別にあたし達をどうこうしようという訳でもないだろう…。
そう考え、亜子をいじめていたグループは後輩達の後に続いて屋上への扉をくぐり抜けた。
840マロン名無しさん:2005/05/10(火) 23:50:31 ID:???
!!!
仲間を引き連れ待ち伏せしているなんて事もなく、亜子はただ静かに彼女達を待っていた。
…屋上の柵を越えた向こう側に立ちながら。
そのすぐ隣で立っているもう一人の女子生徒は…先程の後輩達が言っていたアキラである。
不気味な緊張感に、亜子をいじめていたグループもアキラをいじめていたグループも身動きすらとれずにいる。
亜子とアキラは自分達の客人が全員揃った事に満足そうに微笑むと…
なんの前ふりも、ためらいもなく、唐突に後ろへ――柵の向こうの空間へとその身を投げ出した。
「っ―――キャァァァーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!!!!」
誰が上げたかも分からぬ悲鳴が空へこだまし…そして、二つの肉塊が地面で弾ける音がした。



「ねぇ、亜子…」
「ん…?」
「夜って…まるで世界の"死"みたいだなって思わない?」
「せやな…世界が死んで夜が訪れ、朝日と共にまた世界が生まれて…あたかも"死"と"生"を繰り返しているかのようや」
「そう。
 でも…」
「でも…ウチらは"生"に包まれながら苦痛を味わい、"死"が訪れるのを心待ちにしとる」
「けれども、幾ら願おうとも夜は必ず明けてしまう」
「ほな…けして明ける事のない"夜"やったら…ええ」
「そう。
 決して終わる事のない…夜」

私達は、夜が好き。
白と黒の溶け込んだ、不思議と青い空におぼれて…私達は夜道を歩く。
逆さに映ったいつもの風景は、まるで普段とは違う異世界に私達を誘っているかのようで…。
このまま誰もいない世界に行けたらいいのにな、なんてとりとめもない思いに身をはせた。