ネギま 刹那uzeeeeeeeeeeeeeeee

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44マロン名無しさん
最近、こんな夢を見る。
僕がまだもっと小さかった頃…アーニャと初めてケンカした日の事、お姉ちゃんの誕生日パーティーの思い出、
罠にかかっていたカモ君を助けた時の事、様々な思い出と共に僕も成長していって…。
そして、夢の最後はいつも同じ。
魔法学校卒業式の日の夜、僕が家に戻るといつもは出迎えてくれるお姉ちゃんの姿がどこにも見あたらない。
「お姉ちゃん、どこにいっちゃったの?」
お姉ちゃんを探して家中を歩き回り…やがて地下室に降りた僕は、そこでついにお姉ちゃんを見つけた。
ルビーの装飾を施された短剣に胸を突かれ、既に絶命しているその姿を。
「………あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」
何も考えられなかった。
頭の中は真っ白で、ぐわんぐわんに世界が歪み…と同時に、強烈な光が僕の脳裏を焼き尽くし…。

「ぅわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「きゃぁっ!…び、びっくりした〜、どうしたのよネギ!?」
「あ…あれ…アスナさん?」
目の前には僕をのぞき込む彼女の顔、ちょうど僕を起こそうとしてくれていたようだ。
どうやら…またいつもの夢を見ていたらしい。
気がつけばパジャマはびっしょり汗だくで、喉がカラカラに乾いている。
「あれ、じゃないわよ!本当にもう…驚かさないでよね。何か怖い夢でも見たの?」
…夢。そう、夢だ。
ここ数日毎晩見ている、ウェールズ時代の夢。
いつもならば、あの夜家中を歩き回っている所で夢から覚めていたのだが…今日の夢、
その続きに当たる内容はとんでもないものだった。
「ホームシック…なのかなぁ」
だから、不安がその形を変えて…こんな悪夢を見たのだろうか。
しかし、よりにもよってお姉ちゃんが胸を刺されて死んでいるだなんて。
「…ま、なんだかんだ言って、あんたもまだ10歳の子供だもんね…。
ホラ、ちょーど今朝はお姉ちゃんからの手紙が届いてたわよ!これでも読んで元気出しなさいっ。」
そう言って明日菜さんは水の入ったコップと一緒に一通の手紙を僕に手渡してくれた。
45マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:12:49 ID:???
当然、僕のお姉ちゃんは死んでなどいない。
今も時折こうして僕に手紙を送り続けてくれている。
手紙を開くとそこにお姉ちゃんの姿が浮かび、最近身の回りで起こったというちょっとした出来事や
僕への心配、励ましなどを魔法のホログラム像を通して伝えてくれる。
…うん、ありがとう、お姉ちゃん。
手紙を読み終えた僕はそれをいつもの場所…僕の机の一番上の引き出しにしまい込み、鍵をかけた。
「あー、あんたって本当に大切なものはいつもそこにしまうのよね〜。」
と明日菜さん。
そう。僕にはウェールズ時代から、とても大切なものは自分の机の一番上の引き出しにしまうという習慣があった。
そこにしまっておくと何となく安心できるのだ。

飲み終えたコップを台所に片づけに行くと、ベッドの方では丁度木乃香さんが目を覚ましたようだった。
「ふぁ〜…やっぱり日曜はのんびり起きられてええなぁ〜。」
「木乃香ぁ、のんびりするのは良いんだけど、今日の朝食の当番あんたでしょ?
もうあたしお腹ペコペコで…。」
「ありゃりゃ、そやった!スマンスマン、今すぐ作りよるから堪忍な〜。」
そう言って木乃香さんは台所に近づき、そして僕に気がつくと…ニコッと笑顔を浮かべて、僕へとすり寄ってきた。
………マズイ。
この場所は明日菜さんの位置からは死角になっている。
慌てて台所を出ようとする僕に、木乃香さんは「おはよ、ネギ君」と声をかけながら…
その手を僕の股間へと滑らせてきた。
「ひゃうっ!」
「…ネギ、どうかしたの?」
明日菜さんがいぶかしげな声で話かけてくる。
「あ、いえ、何でもないですっ。」
そんなやりとりをしている間にも、木乃香さんの手は怪しい動きで僕のあそこをさすり続ける。
(ちょ、ちょっと止めてください、木乃香さんっ!)
僕がその手を払いのけると、(んふふふ〜)と彼女は笑い…ふいに、僕の唇に軽く口を重ねてきた。
「!!!」
それも一瞬の事で、後は何事もなかったかのように僕をすりぬけ、彼女はそのまま台所で朝食の準備に取りかかってしまう。
(ハァ、参ったな…)
心の中でため息をつきながら僕はリビングへと戻った。
46マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:14:28 ID:???
…何がきっかけかは分からないが、最近の木乃香さんは妙に積極的というか、
明日菜さんの見ていない所で僕にああいった態度を取ってくる事が度々あった。
僕としては明日菜さんにいつ知られてしまうか気が気ではないのだが、木乃香さんからは
どうもそれを楽しんでいるような節すら感じられる。
今はまだいいが、いつその行為がエスカレートしないとも限らない。
僕自身、木乃香さんの事はもちろん嫌いではないのだが、男女のそれとしての感覚とはちょっと違う気がしている。
(やっぱり、誰かに相談した方がいいのかな…)
日曜の朝だというのに、僕の気分はどことなく沈んだままだった。



夜中の三時、丑三つ時。
ゴーン、ゴーンという時計の音と共に、少女はパチリと目を覚ました。
「…おしっこ、したくなっちゃったかも…」
布団をはい出て、廊下に出る。
トイレは廊下の角を曲がったすぐそこだ。
「…?」
トイレの中から気配がする。
先客だろうか?
ちょっと恥ずかしいな、などと思いつつそのまま足を踏み入れた。

…!???

一瞬、そこに鏡があるのかと思った。
だがおかしい、このトイレの鏡は入り口をちょっと横に入った所に備わっているはずだ…
それに、鏡にしては枠がない。
そこでようやく気がついた、自分と全く同じ顔・姿をした人間が目の前に立っているのだと。
「………ひっ………」
あまりの驚きに声すら出ない。
正に鏡写しのその相手は、無表情にこちらを見やり…そして、
まるでマジック・ショーのように一瞬にしてかき消えてしまった。
…少女はへたりとその場に座り込む。
47マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:15:25 ID:???
寝ぼけていたのだろうか?いや、それにしてはあまりにもリアルすぎた。
何が何だか分からない…。
次々と沸き上がってくる恐怖心に突き動かされ、彼女は慌てて自分の部屋へと舞い戻る。
布団を深く被り、とにかく早く夜が明けるのを待つばかりだった。



刹那は思う。
最近のお嬢様のネギ先生に向けての行動は、何処かおかしい。
幸いにも鈍い同級生達は気づいていないようだが、人目を盗んではネギ先生にややゆきすぎたスキンシップを迫っている。
だがこうも思う、その原因は私にこそあるのでは…と。
昔みたいに呼んで欲しいという彼女の願い、それを最近の刹那は少しずつ受け入れるようになっていた。
だがある日、木乃香に寮の裏の林の奥に呼び出された刹那は、そこで彼女に肉体的な関係を迫られる。
それは、刹那にはあまりにも刺激的な誘惑で…しかしそればかりは、最後の一線ばかりは越えられぬと彼女の誘いを断った。
こうも言った、私はこのちゃんには健全な女性としての幸せを掴んで欲しいのだ、と。
返事はこうだ。
「せっちゃんが望むなら…ウチ、そうする」
一切の迷いが感じられない澄んだ瞳で、そう言われた。
それこそが、今の歪な彼女を作り上げてしまった原因だったのではないか…?
あの時もし彼女を受け入れていたら…いや、あるいは従者としての立ち位置を譲らず、
あくまで彼女のお付きの者として振る舞い続けてさえいれば…。
…分からない。何が正しかったのか、あるいは間違いであったのか…。

木乃香を思うあまりの自責の念は、今日も刹那の心に重くのしかかっていた。



「ドッペルゲンガー?」
「うん、そんな感じだった…」
「ドッペルゲンガー…ドイツに伝わる有名なお話ですね。
自分と全く同じ姿をしたそれを見た者は、近い内に死に至るという…。」
「ひぃっ…」
48マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:16:28 ID:???
ガタタッ!
思わず椅子を引きずりながら後ずさるのどかに、しかし夕映はこう続ける。
「大丈夫ですよ、のどか。所詮は迷信です。
実際には幻覚の一種だろうと考えられているです、要は脳が見せる幻にすぎないのですよ。」
それでもまだ怯えの色を浮かべているのどかの背中をさすって落ち着かせながら、ハルナが口を開いた。
「夕映のいう通り!それに、のどかったらその時寝起きだったんでしょ?
ただ単に寝ぼけて幻覚を見ちゃったっていう、それだけの事じゃない!」
「そうかな…そう、だよね…?」
ようやく落ち着いてきたのどかが、自分に言い聞かせるように呟いた。

あの後、朝を迎えてようやく起き始めたルームメイト達に自分が見たものを話すべきかどうか、
彼女は迷っていた。
朝の光を浴びていると、まるで昨夜の事はやはり寝ぼけた末の白日夢だったのではないか?と思えてきて…
しかし、夢にしては"昨夜の彼女"のディティールはあまりにも鮮明すぎた。
悩んだあげくに彼女はその日の昼休み、気の置けぬ仲間達に昨夜の事を打ち明けたのだ。
「そうそう!怖い夢を見たようなもんよ、すぐに忘れるって!」
ハルナの明るい笑顔を見ていると胸の中に溜まっていたもやもやが薄れていくのを感じる。
(やっぱり相談して良かった…)
彼女は心の底から友人達に感謝した。

キーンコーンカーンコーン…

昼休みの終わりを告げる鐘の音が響く。
「おっと、次の時間は移動教室だったっけ。早めに支度しないとね〜。」
そう言いながら机に向かうハルナを見て自分も準備に取りかかろうとしたのどかに、
夕映が耳元で囁いた。
「のどか…もし良かったら、放課後二人で図書館島に行きませんか?」
「え?」
「先ほども話した、ドッペルゲンガーは脳が見せる幻覚だ…という件について、
科学的な裏付けに基づいた説明がなされている本があったはずです。
それを読めば、のどかの不安も幾分安らぐのではないですか?」
夕映なりにのどかを元気づけようとしてくれているのだろう、ここは好意に甘えるのも悪くない。
49マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:19:27 ID:???
「…うん、そうだね、そうしようかな。あ、ところでハルナは一緒に行かないの?」
彼女達の誰かが図書館島に用がある時は、都合の許す限り三人一緒に連れ立って行くのが常であった。
「ああ…パルはここ数日はこっちの用があるそうですから。」
そう言いながら、夕映はペンで原稿に描き入れる時のような手振りをのどかにして見せる。
「ああ…なるほどね。ふふっ」
二人で顔を見合わせ、笑い合った。
「…?何二人して笑ってるの?」
丁度二人を迎えに来ていたハルナが、不思議そうな顔を浮かべている。
「クスッ…いいえ、何でもないですよ…ねぇのどか?」
「うん、気にしないでねハルナ…うふふっ」
「…?変な二人…」
しきりに首をかしげるハルナであった。



「…その本、かなり深い所にあるんだね。」
もうどれだけの間夕映の後を追いながら歩き続けていただろうか。
図書館探検部の活動で慣れているとは言え、流石に若干の疲れを感じ始めたのどかが
確認するかのように漏らした。
「ええ、でもそろそろ着く頃です。」

…放課後、彼女達は例の本の在処へと向かうべく図書館島の中を二人きりで歩いていた。
「えぇと、確かここの石を動かして…。」
ふいに立ち止まった夕映が足下の何気ない石を横に動かすと、
振動と共に側の壁の一部が徐々にせり出し、その裏に新たな通路がぽっかりと姿を現した。
「!!!夕映っ、これって探検部の地図にも載っていない隠し通路なんじゃ…」
「ええ、その通りです。以前に偶然発見したものなのですが、
この先には貴重な心理学関係の書物が蔵書されていたのです。例の本もこの中ですよ。」
「ふぇ〜…」
「さ、行きましょう。」

…のどかは気づくべきだったのだ。
50マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:20:12 ID:???
いくら貴重であったとしても、ただの脳科学的な解説書を置くためだけにわざわざ"この図書館島"に
隠し通路を作る必要性が果たしてあるのだろうか?と。
だが、信頼しきっている友人が自分のために時間を割いて本を探しに来てくれているのだという事実が、
お人好しな彼女の判断を鈍らせていた。

通路の奥にあった部屋は中央にテーブルと一組の椅子、そしてそれを囲むように幾つかの本棚が置かれていて、
そこにはどこかもの悲しい空気が漂っていた。
「…何だか、寂しい感じのする部屋…」
そう呟くのどかを脇に夕映はテーブルの上に備え付けられたろうそくに火を灯し、
まずは椅子に腰掛けるようのどかに勧めた。
「長々と歩かせてしまって済みませんです。」
「あ、ううん、そんな事ないよ!ところで…」
「ああ、例の本ですね。これから持ってきますのでちょっと待ってくださいです。…その前に。」
夕映はおもむろに席を立つと、とある本棚の中から一冊の本を持ち出してきた。
「面白い本がありましてね。せっかくここに来たついでですから、是非のどかにも読んでみて貰いたいのですが。」
「へぇ〜、どんな本かな?ええと…"秘められし魔術儀式とその技法"?
…え、これって…」
「そう、"魔法"に関係する書物です。」
「えっ???」
突然の事に頭が追いつかなかった。
脳科学の本を探し求めてやってきたはずが、目の前にあるのは魔術に関して記された書物。
ネギ先生の一件で魔法の存在そのものは知っていたし、基礎的な魔法の練習をした事もあった。
自分自身、図書館島で魔術の基礎について記された書物がないかどうか調べた事もあったのだが、
少なくとも探検部が把握している範囲では実際の魔術に関して記載されているものは一冊もなかったはずだ。
それが今、ここにこうして置かれている。
「この本は一般的でない魔術体系について記されているようなのですが、中でも興味深いのがここ…」
そう言って夕映がめくったページの見出しには、こう書かれていた。
「禁呪…?」
51マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:21:51 ID:???
「そう、禁呪についての解説です。
この本に書いてあった事なのですが、魔術の中には魔法協会によって禁忌とされた術がいくつかあって、
それらに手を出した者は協会によってその身を追われる事となるのだそうです。
ネクロマンシー(死霊生成の術)、リーンカーネイション(転生の術)、ブレインウォッシュ(洗脳の術)等々…」
何かに取り憑かれたかのように熱っぽく語り出す夕映の姿に、
のどかは次第に不気味なものを感じ始めていた。
「あ、あの、夕…」
「のどか、この一節を声に出して読んでみてくれませんか?」
突然話を振られ、のどかは戸惑いつつも夕映に示された一節を読み上げた。
「え、えーと…"我はここに契約の完了を宣言する"?…えっ!?」
途端、のどかと夕映が座っていた椅子の真下が光り、部屋の中を青白く照らし始める。
「きゃっ!な、なに…」
ここに至ってようやく事態の異常さを認識したのどかが慌てて席を立とうとするが、
まるで尻が椅子にくっついてしまったかのように離れてくれない。
それどころか、気がつけば身動きすらままならなくなっている。
「!なんでっ!?どうなってるの!??」
混乱に陥った彼女に夕映が話しかけてくる。
「そして、マジックドレイン(魔力吸収の術)…対象者の生命力を魔力に変え、
一時的に自分のものとする魔術です。」
「夕映っ、一体どういう事なの!?夕映っ!」
いかにお人好しな彼女でも、ここまでくればさすがに夕映の仕業であると気づく。
「前もって準備は済ませてありました。
対象者の宣言をもって、この魔術儀式は完成を迎えたのです。」
一片の表情も変えず、夕映は淡々とそう語った。
「か、完成って…」
「人間の生命力とは莫大なエネルギーの固まりです。
ましてや一人の人間の生命力を全て魔力に変換し、吸収する事ができたとしたら…
未熟な魔法使いでも相当な力を手に入れる事ができる訳です。
 所詮は借り受けたものですから、その分を使い切ってしまえば元に戻ってしまいますけれど。」
「生命力を…全て…?
じゃあ、生命力を奪われた方の人間は…」
おそるおそるのどかは訪ねる。
52マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:23:00 ID:???
「当然、死ぬですね。それが禁呪たる所以です。」
何の感情も込められていない声で、夕映はそう答えた。
「い、いやあぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!」
更なるパニックへと陥ったのどかに、夕映が口を再び開く。
「そうそう、こんな話があるです。これもその本に記されていた事なのですが…
この術は発動から数日かけて対象者の生命力を魔力変換可能な不安定な状態へと変化させ、
最後に対象者の儀式の場での宣言を以て実際の魔力変換を開始するのですが…。
生命力が不安定な状態にある際、時折その一部が対象者の体から一時的に離脱する事があるのだそうです。
なんでもその時、その離脱した力は対象者と全く同じ姿・形をとるのだとか…」
のどかにはその話を聞いて思い当たるフシがあった。
「!じゃぁ、あのドッペルゲンガーって…」
「そういう事です。その現象が起きたという事は、つまりは魔力変換への準備が出来たという事。
準備にかかる日数には個人差があるそうですから、本当はもっと確実なだけの時間が経過してから
儀式を完成させるつもりでしたが…おかげでいい目安になりましたです。」
なんという事だろうか。
真面目に相談に乗ってくれたばかりか、自分を安心させようと図書館島探索にまで付き合ってくれた。
そう思っていた彼女がその実、事の原因であったとは…彼女に感謝しきりであった自分はまるで道化ではないか。
「ぅ…ぁぁ………」
夕映、どうして…?
そう問いかけようと開いた口からは弱々しいうめき声しか漏れてこない。
体に全く力が入らない…どうやら、生命力の変換とやらが大分進んできたようだ。
「ふふ…感じるです、魔力が流れ込んでくるのを。」
正反対に、夕映の表情と口調には精気がみなぎっていた。
「のどか、不思議そうな顔をしているですね。こう思っているのでしょう?
"何で、どうしてこんな事するの"って。」
夕映の台詞に、のどかは力なく頷く。
「…力が要るです。あの女から、ネギ先生をお守りするだけの力が…」
のどかは知らない事だが、夕映には占術において天性とも言える才能があった。
独学で学んだものとはとても思えない程に正確な占いの結果の数々…。
53マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:24:10 ID:???
まだ未熟ゆえに占いの対象を自分でコントロールする事は出来なかったが、
そんな彼女の予知の中には一つ、恐ろしい結果が含まれていた。
"ある女によって自分の知るネギ先生が失われる"…しかも、その女はあろう事か彼の教え子であった。
まだまだ魔法使いとしては未熟以前である自分がこんな事を言ったところで、到底信じて貰えるとは思えない。
そう悩んでいた時、彼女にとって救いの手となりうる占いの結果がでた。
"図書館島の隠し部屋に行けば、力を手に入れるための方法を知る事ができる"
占い通りに隠し部屋を見つけた彼女は、そこでこの本と出会う事になる。
「のどか、これは喜ばしい事なのです。あなたはその命をもってしてネギ先生を守る事ができるのですよ。それに…」
そう呟きながら夕映はのどかに近づき、すっかり冷たくなったその頬をなでる。
もはや彼女の命が尽きるのは時間の問題だろう。
「私、前からずぅっと邪魔だなって思っていたです…のどかの事。」
吐き捨てるように言い切った。
びくんっとのどかの体が震え、その目が悲しげに歪む。
「ネギ先生は多分、あなたの事を憎からず思っているです。
それにあなただって気づいていたんでしょう!?私の気持ち…。
それなのにあなたときたら、目の前でネギ先生といちゃいちゃ見せつけてくれちゃって…!!!」
そう。のどかは知っていたのだ…夕映の気持ちを。
だが夕映は自分を影ながら応援してくれているようだったし、ネギ先生と仲良くなる事でその気持ちに
答えているつもりだったのだ。
しかし、おそらく彼女は…友情とネギ先生へと惹かれていく気持ちとの狭間で押しつぶされてしまったのだろう。
それが彼女をこんなにも歪めてしまったのだ…そう思うと、やりきれない悲しさが襲ってくる。
夕映―そう声に出そうとしても、もううめき声すら出てこない。
「何ですか、その目は…私を責めているですか!?
…まぁ、いいです。どうせもう死んでしまうんですから。」
そう、こんな女の事なんてどうでもいい。
私はネギ先生をこの先待ちかまえる数々の困難から、そしてあの女から守らなければならないのだから。
それと同時に、当然他の雌犬どもの手からもネギ先生をお守りしなくては。
「…」
悲しそうな顔に涙を浮かばせ、口をかすかに動かし…そして、のどかは事絶えた。
54マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:25:54 ID:???
それと同時に夕映に流れ込んできていた魔力が安定する。
儀式の完了であった。
「これで雌犬がまずは一匹、片づいたです…。」
夕映の顔にはただただ、冷たい笑みだけが浮かんでいた。

―かわいそうな、夕映―

のどかの最後の呟きが夕映に届く事はなかった…。



仕事を終えて寮の自室に戻ってきた僕は、コタツ台の上に書き置きが残されているのを見つけた。
明日菜さんは部活動でまだ帰ってきておらず、いつもは先に帰ってきているはずの木乃香さんの姿も見あたらない。
「?…なんだろう。」
書き置きにはこう記されていた。
"ネギ君、今日はおり入って話しがあるんよ。寮の裏の林の奥に夜8時に来てくれへん?待っとるえ。 木乃香"
…来るべき時がきたと、そう思った。
ここ最近の木乃香さんの様子を思えば、用というのはやはり告白とかそういった類のものだろう。
僕ぐらいの年の男の子にとっては告白なんてのは一大イベント、いやがおうにも緊張してくる。
それに…僕は木乃香さんの告白を断るつもりでいる。
申し訳ないが、やはり恋愛の対象として彼女を見る事は出来ないというのが本音だ。
一体なんと言って断れば良いのか、泣かれてしまったらどうしようか…そんな考えが頭の中を埋め尽くしてパンク寸前になる。
こんな時、僕はいつもウェールズから届いたお姉ちゃんの手紙を読み直す事にしている。
不思議と気持ちが落ち着くからだ。
「…うん、もう大丈夫。」
読み返した手紙をいつもの引き出しにしまい…と、さっきの書き置きの事を思い出した。
「念のため、明日菜さんに見られない内に捨てておこう。」
木乃香さんの事だ、きっと「この事アスナには黙っといてな?」なんて言うだろうから。
書き置きはクチャクチャに丸めてゴミ箱の中へ。
これで大丈夫、後は明日菜さんが帰ってくる前に部屋を出ておこう…
用が済んだ後は仕事で遅くなったとでも言い訳すれば良いだろう。
時刻は夕方6時半、待ち合わせにはまだ早い。
55マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:27:04 ID:???
お気に入りのカフェでなるべく当たり障りの無い断り方を考えながら、残りの時間を潰すとしよう。
こうして僕は手短に準備を済ませ、部屋を後にした。



薄暗い闇の中、木乃香は林の奥の広場に一人立っていた。
ネギ君との待ち合わせ時間までまだ大分あるが、今の内からここに立って心を落ち着けておきたかった。
この場所を選んだのには理由がある…そう、せっちゃんとの"約束"の場、そこだからだ。
(せっちゃん、待ってて…ウチ、幸せになるから。)
そう、彼女が言ったから。
私は"健全な女性としての幸せ"を掴んでみせるのだ。
そうすればせっちゃんはもっともっと私を好きになってくれるハズ…。
でも、もしも。
ネギ君が私の告白を受け入れてくれなかったら…どうしよう、どうしてくれよう?
その時は、きっと…。
「うふふっ」
木乃香の顔に妖しい笑みが浮かび上がる。
と、
パキッ
誰かが小枝を踏む音が辺りに響き渡った。
「…誰?」
ネギ君だろうか?
まだ時間には早いが、私と同じように早めに待ち合わせ場所に向かおうとしてくれたのかも知れない。
「…お嬢様」
その声の主は…
「せっちゃん!?」
そう、彼女であった。
「お嬢様が林の中に入って行くのを見かけまして、心配で追って参りました。
申し訳ございません、後を付けるような真似をしてしまいました…
ですが、こんな時間にこんな場所で、一体いかがなされたのですか?」
元々木乃香の身を守るのは自身の役目、ましてや最近の木乃香はネギ先生への態度をみても分かるように何処かおかしいのだ、
それがこんな人気の無い林の中へ一人入って行ったとなれば、心配で後を付けてくるのも無理のない話だ。
56マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:28:00 ID:???
「そ、そうなんや…えーっと」
さて弱った、これからネギ君へ告白するのだと正直に話す訳にもいかない。
俯いてどう言い訳するべきか考えようとしたその瞬間、
ブァンッ!
という破裂音とともに、俯いたままの自分の視界に何かが転がり落ちてきた。
「…?」
初め、潰れた巨大なトマトかと思った。
だが良く見るとそれが人間の頭部に極めて近い形をしている事に気づく。
それに、ピューッピューッという、この何かが吹き出るかのような音は…。
俯いていた顔を上げる。
すると先ほどまで刹那が立っていた場所には首の無い人間の胴体があり、
それが首元の辺りから盛大な血しぶきを上げていた。
何で、こんな所にこんなものがあるんだろう?
一瞬そう考える。
それに、せっちゃんは何処へ行ってしまったのだろう?
そこまで考えて…ようやく、脳が現実を受け入れた。
この首の無い胴体は…そして、足下に転がった潰れた何かは…。
「せ、せっちゃ、ん…?」
まるでその声に答えるかのように直立したままの刹那の胴体が揺らぎ…そして、
地面に突っ伏すように倒れた。
気がつけば自分の体は彼女の首から吹き出た血で真っ赤に染まっている。
「あ、あ…………………………………………………………っっっ!!!!!!!!」
声にならない絶叫が広場に響き渡る。
と同時に、
「…見つけたです。」
もう一つ、別の誰かの声が響いた。
こちらに向かって歩み出てきたその声の主は、意外な人物であった。
「夕…映?」
「こんばんはです、このかさん。こんな所で何をしているのかは知りませんが…。」
場違いな挨拶と共にこちらを見据えた夕映には、明らかに普段とは違う―何か、圧倒的な圧力感があった。
57マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:28:46 ID:???
「ビックリしたです、話には聞いていましたがとんでもない魔力量ですね。
儀式のおかげで基礎魔力が向上して魔力感知がかなりの範囲でできるようになったですが、
初めこの魔力の固まりと存在感は何事かと思いましたです。
で、来てみたらあなたがいた訳です。」
儀式?魔力感知?
何の事かは分からないが、存在感云々で言うならば今目の前に立っている夕映こそが、
よほど尋常でないものを放っているように思える。
「ついでに刹那さんがおられましたので、これは丁度良いと思いまして。
彼女、ネギ先生のパートナーの座を狙う浅ましい雌犬どもの内の一匹ですから。
こうして始末させて頂きましたです。」
?彼女は一体何を言っているのだろうか?
…いや、今彼女は最後に聞き捨てならない事を言った。
「じゃ、じゃぁこれは…せっちゃんを、殺したのは…」
「だからさっきから言っているではないですか。私が始末したのだと。」
夕映は平然とそう言ってのけた。
「あ…あんたが…せっちゃんを…!?」
「あぁ、そう言えばあなたも契約カード持ちの雌犬の一匹でしたか。
まぁ、そんなの関係無しに仕留めるつもりでしたが。
最近のあなたの行動は目にあまるです、物陰でこそこそネギ先生に淫らな行為をせまって…
気づかれていないとでも思っていましたか?」
「ゆ、許さん…」
「ネギ先生はこれから私と共に数々の困難を乗り越えていかなければならないのです。
ネギ先生に害をなすあなたのような存在は、私が始末します。」
ドンッ!
という音と共に、夕映が禍々しいまでの魔力を解き放つ。
「絶対に許さんえーーーっ!!!!!!!!」
ゴゥンッ!
同時に、木乃香も激しい怒りにまかせてその強大な魔力を解放した。



明日菜が部活を終えて寮に戻った時、寮入り口の時計の針は既に夜7時30分を回っていた。
58マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:29:32 ID:???
「あーあ、部活長引いちゃったな〜…ネギ、木乃香、いないのー?」
…返事がない。
パチンと部屋の電気をつける。
ジジッ…
独特の音と共に数度の点滅を繰り返した後、蛍光灯の光が無人の部屋を照らし出した。
「ネギはまだ仕事かぁ…にしても、木乃香までいないってのは珍しいわね。何処か寄り道してるのかしら?」
などと呟きながら部屋を見回していると、とあるものに目がいった。
ネギの机の一番上の引き出しが…空いている?
「珍しいわね、あいつがあそこを開けっ放しにするだなんて…。」
いつもは念入りに鍵までかけているというのに。
…ふと、好奇心が沸き起こった。
いけない事だと知りつつも引き出しの中を覗き、今朝ウェールズから届いたばかりの手紙を手に取る。
「あのホログラム、一体どうなってるのか興味深いのよね…触ろうとしたらスルッてすり抜けちゃうのかしら?」
物珍しいものを見るとすぐに触りたがるのは子供の頃からの癖だ。
私もネギの変な習慣の事言えないな、と苦笑しながら手紙を開く…と、そこに例の魔法のホログラム像が浮かび上がった。
「どれどれ…」
明日菜がホログラム像に手を触れた途端…バチンッという音共にホログラムがかき消え、
そこには新たに無機質な数字の並びが姿を現していた。
「!…え、ど、どうしちゃたの!?ひょっとして壊しちゃった???」
実際には手紙に施されていた立体像生成の魔術――魔法使い同士が手紙でやりとりする場合の標準的なスタイルだ――が
明日菜の魔法無効化能力によって解呪されただけなのだが、明日菜にはそれを知る由もない。
「?この数字、どんどん減っていってる…。」
よくよく見るとその数字の並びはどうやら時間を表しているようで、
一番右の数字が一秒毎に減っている事から考えると、どうもこれは残りの秒数をカウントしているものらしい。
その数字の並びから離れた左上の隅にも「2」という数字が書かれている。
「…」
これ以上いじるのは止めた方がいいと頭の中で警鐘が鳴っている…が、
この残り時間を表しているらしい数字が一体なんであるのか気になるというのも事実だ。
おそるおそる数字に触れてみる…と再びバチンッという音と共に、
今度は数字の並びが全桁「0」を示してそのまま静止してしまった。
左上の数字だけは「2」のままだ。
59マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:31:37 ID:???
…?
「な、なんだったのかしら…。」
ガタンッ
「ひっ!」
突然の物音に思わず飛び上がった。
「何、なんなの…!?」
音は、どうも玄関の方から聞こえてきたようだ。
「…ポスト?」
どうやらポストの中に何かが入っているらしい。
だがおかしい、配達人らしき気配は一切感じられなかったのだが…。
不気味なものを感じながらも、ポストの中のものを取り出した。
すると…。
「な、なによ…一体どうなってるのよ!?
何でもうネギのお姉さんからの新しい手紙が来てるのよっ!!!」
そこに入っていたのは"一ヶ月後"の消印が押された、ネカネ・スプリングフィールドからのウェールズよりの手紙であった。
ここに来て明日菜の感じていた不気味さは、得体の知れない恐怖へとその姿を変える。
たまたま一日違いで手紙が二通送られていただけならば、消印が一ヶ月先になっているなどという事は起こり得ない。
そう、これは紛れもなく"一ヶ月後"にここに届くはずだった手紙なのだ。
薄暗い玄関から居間へと戻り、震える手で新たに届いた手紙の封を破る。
正体が分からぬからこそ殊更に恐ろしい。
ならば知らずに恐れ続けるよりも、それがいったい何であるのかを最後まで確かめた方がまだいいのではないか…。
そんな心理が働いたのか、恐怖を感じながらも明日菜は手紙の確認を止めようとはしなかった。
しかして開かれた手紙に浮かび上がったホログラム像に手を触れると、
バチンッ
やはりそこにあった立体像はかき消え、先ほどと同じく数字の並びが姿を現した。
だが、今度は左上隅の数字が「1」に減っている点が先程とは異なっている。
これが意味するものは一体…?
60マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:32:19 ID:???
もう止めた方がいい、今ならまだ引き返せる…そんな心の声も今の明日菜を止めるには至らず、
彼女はその手を再び数字の上に重ねる。

バチンッ

ガタンッ

やはり数字が「0」になった後に、一瞬の間をおいて玄関のポストから物音がした。
確認するまでもない、またネカネからの新しい手紙が入っているのだろう。
「うぅ…」
ポストに目線を向けながらも思わず後ずさった彼女は、足をゴミ箱にぶつけて倒してしまった。
ガシャッという音とともに中のゴミ屑が床一面に散らばる。
「あぁ、もう…」
混乱した頭で散らかったゴミ屑を前に目線を泳がせていると、その中の一つに目が止まった。
「乃香…木乃香?」
くしゃくしゃに丸められた紙に書かれた文字が気になり、拾い上げて元通りに伸ばして読んでみる。
「木乃香がネギを呼び出してたんだ…だから二人ともいなかったのね。」
わざわざ裏の林の奥にまで呼び出すとは一体何の用なのだろうか…ふと気にはなったが、
今はそれどころではなかった。
相変わらず混乱した頭のままゴミ屑を全て拾って丁寧にゴミ箱に戻し――あるいは一種の現実逃避
だったのかも知れないが――そして、ポストの中の手紙をおそるおそる取り出す。
頭の片隅に左上隅の数字の事が引っかかっていた。
残りの秒数を表していた数字と同じように、あれも何らかの残りを示しているのだとしたら?
手紙を開く事で1減ったのだと考えると、手紙の残り枚数の事を指し示しているのではないだろうか?
だとすれば、この手紙が最後の手紙だという事になる。
この手紙を開いた事で一体何が起こるのか…頭の中の警鐘はますます激しく鳴り響き、
震えは手ばかりか体全体にまで及んでいた。
背中は嫌な汗でべっとりだ。
だがここまで来たのだ…最後まで確認しなくては気が済まない、
それにいざ蓋を開けてみればその中身はどうって事ないのかも知れない…そう、そうに決まってる。
汗ばんだ手で手紙の封を破く。
61マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:38:06 ID:???
そしてネギに手紙を覗いた事を謝って…それでお終い、そのはずだ。

―その程度で済みそうな事であるのならば、何故これ程までに強い恐怖感を覚えなければならないのか。
明日菜はその事について深く考えるのを止めて、思い切って手紙を開いた。

グォァァァァァァッ!!!!!
明日菜が最後の手紙を開くと同時にそこから強烈な白い光が溢れ出し、明日菜の全身を包み込む。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!」
自分の口から漏れ出る絶叫を聞いたのを最後に、明日菜の意識はぷっつりと途絶えた…。



「夜8時…10分前。よし、時間通り。」
僕は現在時刻を確認すると、寮の裏にある林の入り口に足を踏み入れた。
この林は実際には森と言っても遜色無いほどの規模があり、
通常林の奥と言えば入り口から10分ほど歩いた所に広がっている広場の事を指す。
休日昼間にはたまに森林浴に訪れる人達もいるそうだが、こんな平日の夜中に足を踏み入れる人はまずいないだろう。
カフェで時間を潰している間に考えた断り文句を頭の中で反芻させながら歩いていると、
5分も経たない内に開けた場所に出た。
「あれ、広場までってこんなに近かったっけ…?」
だが良く見れば何かがおかしい。
広場というよりは辺り一面まるで巨大な台風が通った後のようで、所々に折れた木々が転がっている。
その規模からすると、丁度広場のあった辺りを中心に広範囲に渡って荒れ地が広がったかのようだった。
「え…なに、これ…」
あまりの事に呆然としていると、荒れ地の一角に人影が見える事に気がついた。
ここからでは良くは分からないが…木乃香さんだろうか?
この荒れ地がいつできたものか分からない以上、だんだんと彼女の事が心配になってきて…
僕は慌ててその人影へと向かって走り出していた。
「木乃香さーん!大丈夫ですか!?」
向こうも僕に気づいたらしい。
「この広場、一体何があったんで………アレ?」
62マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:39:29 ID:???
近づいてみると、どうやらその人影は木乃香さんとは別人だったようだ。
「…ネギ先生、こんばんはです。」
「ゆ、夕映さん?どうしてここに…!??」
ぞくぅっ!
夕映さんの顔が分かるくらい近づいた途端、強烈な悪寒が僕の背中を走り抜けた。
この禍々しいオーラはいったい…!?
「ああ、もう気づいたですか。
びっくりさせないように抑えてはいたのですが…さすがはネギ先生です。」
夕映さんが嬉しそうな顔で言う。
「夕映さん、これは一体…?」
どういう事なんですか?と続けようとしたその時、夕映さんの足下に誰かが横たわっているのに気づく。
上半身と下半身が綺麗に切断され、眠るかのように目を瞑ってはいるが
既に息絶えているのが明らかな程に青白い顔をしているその人物は…。
「うわぁぁぁっっっ!!!こ、木乃香さんがっ!!?」
死んでる…僕と待ち合わせをしていたはずの彼女が、死んでいるっ!?
突然の事態に思わず腰を抜かしかけた僕に、夕映さんが淡々と語りかけてきた。
「さすが東洋一の魔力量を誇ると言うだけあって、彼女の魔法は極めて強力だったです。
魔法使いとしてはまだまだ未熟な分、ただ単に魔力の固まりをぶつけてくるだけではありましたが、
それはこちらも同じ事ですから…ですが、さすがに禁呪で得られた魔力を上回る程のものではなかったようです。」
なんだ…彼女は一体、なにを言っている…?
「人一人の生命力というものは思ったよりも強大なのですね。
何はともあれ、ネギ先生に害をなさんとする者を始末できたという事は大変にすばらしい事です。」
つまりは彼女が木乃香さんを殺したのだと、そういう事なのだろうか?
そんな馬鹿な!
…だが、彼女の体から溢れ出るこのオーラがそれを証明しているのではないか?
僕は知らず知らずの内に後ずさりをする。
「ネギ先生、共に支え合い、これから先待ち受ける困難を乗り越えていきましょう!
微力ながら私もお手伝いするです…ネギ先生、どこへ行かれるのです?」
「あぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!」
気づけば僕は悲鳴を上げながら荒れ地の入り口へと向かって駆け出していた。
木乃香さんの死体から、夕映さんの放つ禍々しいオーラから、そしてこの悪夢から逃げ出したかったのだ。
63マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:40:34 ID:???
「ネギ先生、どうして逃げるです?
大丈夫ですよ、先生に卑しくまとわりついていたこの雌犬はもう死んでいます、もう安心していいのです。」
そう言いながら、夕映さんは僕の後をゆっくりと追いかけてくる。
何があったのかは分からない。
ただ一つ確かなのは、今の夕映さんはもう僕の知っている夕映さんではないという事だ。
パニックになりながら林の中に駆け込もうとしたその時、林の奥から一つの人影が姿を現した。
「ネギっ!」
「あ、明日菜さん!?」
どうして明日菜さんがここに!?
ごみ箱に捨てた書き置きに気づいてしまったのだろうか?
思わず立ち止まった僕の元に明日菜さんが走り寄ってくる。
その時、彼女の登場に気づいたらしい夕映さんの叫ぶ声が聞こえた。
「…!ネギ先生、その女から離れるです!!!」
マズイ!
理由は分からないが今の彼女は極めて危険だ、明日菜さんに対してだって何をしでかすか分からない。
と同時に禍々しいオーラが僕の後方で一気にふくれあがり、そのまま明日菜さんへと向かって一直線に飛んでいく。
しまった、間に合わない!!!
最悪の事態を想像して思わず目をつぶった僕の耳に、明日菜さんの声が響く。
「きゃっ!…"リフレクション"!!!」
!!???
え、今…!?
慌てて目を開けた僕の前には信じられない光景が広がっていた。
明日菜さんの前に反射障壁が生じて夕映さんの魔法を反射し、それはそのまま夕映さんへと向かって飛んでいく。
明日菜さんが…魔法を使った!?しかも相当に高度なはずの反射魔法を…。
「きゃぁぁぁっっっっ!!!!!」
自らの放った魔力にその身を焼かれ、夕映さんが悶え苦しむ。
魔力を慌てて防御に回しある程度は防いでいたようだが、どのみちあれでは致命傷間違いないだろう。
「あ〜ビックリした。その魔力量…あなた、禁呪を使ったわね?
さすがに無効化仕切れない程の威力だったけれど…でも単純な魔法で助かったわ、
幾ら威力があってもはね返しちゃえばいいんだから。
反射障壁を全然警戒していないあたり、あなた魔法使いとしては下の方ね。」
64マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:41:25 ID:???
まるで別人としか思えない語りぶりの明日菜さんを前に、僕は唖然とするばかりだった。



…油断していたです。
何が起こったのかはよく分からないですが、とにかくあの女は私の放った魔法をどうにかしてはね返したようです。
まさかここにあの女がいきなり現れるだなんて…計算違いもいいところです。
あの占いの結果…"ある女によって自分の知るネギ先生が失われる"…ある女―神楽坂明日菜、
私自身の介入を以てしてもこの結果を変える事は出来なかったようです。
先生…ネギ先生…私はなんとしてでも、あの女から先生をお守りしたかった…。

急速に体温が失われていく…ネギを守りきれなかった事を悔やみながら、夕映の意識は永遠の闇の底へと沈んでいった。



「全く何なのかしら…まぁいいわ。久しぶりね、ネギ♥」
「…」
立て続けに起こる異常事態に半ば思考する事を放棄した僕の脳でも、はっきりと感じられる違和感。
それに…今、"久しぶり"と言った?
久しぶりも何も、僕と明日菜さんは今日も部屋や教室で顔を合わせていたばかりではないか。
「ふふっ、やっぱりいきなりじゃ分からないかな…?」
そう言って手を頬に当てる仕草、そして普段は寝る時にしかほどかないはずのストレートなロングヘアは、
僕の脳裏にとある女性を連想させた。
そうだ、この仕草と雰囲気は…まるでネカネお姉ちゃんの生き写しではないか!?
そう思った瞬間、自然と口が動いていた。
「お…姉、ちゃん…?」
「あはっ、当たり!さすが私のネギね!!!」
明日菜さんはそう言って心底嬉しそうな微笑みを浮かべる。
明日菜さんが…ネカネお姉ちゃん?
確かに明日菜さんが何処かお姉ちゃんに似ているな、と漠然と感じた事はあったが…所詮は赤の他人だ。
イコールで結ばれる事などありえない。
未だ事態が飲み込めずにいる僕に、微笑みを浮かべたままの明日菜さんが口を開く。
65マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:42:05 ID:???
「どうせまたすぐに忘れさせちゃうんだけれど…せっかくだから教えてあげるわね。
可愛いネギが困っているんだもの。」
そうしてクスクス笑う彼女の口から語られた話の数々は、とても想像すらできなかったものばかりで…
僕は口を挟む事すらできずに、ただ呆然とそれを聞いていた。
「私ね、どうして姉弟って結婚できないのかな?って、ずっと悩んでいたの。
私達は実の姉弟ではないけれど、たとえ戸籍上の姉弟であっても結婚できないのは同じ事。
私はネギの事をこんなにも愛していて、それはネギだって同じ事のはずなのに…ね、そうよねぇ?ネギ。
…ふふっ、聞くまでもない事だったわね。
そんなある日に、おじいちゃんが日本の友人である近衛近右衛門さんと電話でお話している所を立ち聞きしちゃったのね。
最初は盗み聞きするつもりなんて無かったから、すぐにその場を去ろうとしたのよ。
でも、聞こえてきた会話の内容に釘付けになっちゃって…。
…何だったと思う?
おじいちゃんたらね、近衛さんの所で預かっているアスナとかいう娘をネギの許嫁に考えている、ですって!
おまけにネギの試験会場を近衛さんの運営する学園に指定して、その娘とネギを同室にさせようだなんて言いだしたのよ!
本当、信じられないわっ!!!
このままじゃネギと結婚できないどころか、ネギが何処の誰とも分からない女と結婚させられちゃう…!
あんなに焦ったのは私の人生でも初めての事だったわ。
でね、一晩ずぅっと頭を悩ませて…そして閃いたの。
私がネギの姉である以上結婚できないというのならば、私が私以外の誰かになってしまえばいいんだって。
そしてその誰かがアスナとかいう娘であれば、万事上手くいく…いいえ、むしろおじいちゃん達が後押ししてくれるわ。
…ねぇ、ネギ、"リーンカーネイション"っていう魔術、知ってる?
魔法協会に禁忌とされているこの術はね、執行者の魂を対象者の体に移し変えて事実上の転生を可能としてくれるの。
勿論、対象者の魂は術が完了した時点で消滅してしまいますけれどね。
でもね、この術を使って転生した者は魂と肉体がそれぞれ別物であるという矛盾のせいで、
その魔力が特殊な波動を持つようになってしまうの。
66マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:44:24 ID:???
だから見る人間が見ればすぐに禁呪の使用がバレてしまって、協会にその身を追われる事になってしまうの…普通はね。
でもおじいちゃん達の話では、何でもそのアスナとかいう娘は100年に一度生まれるかどうかの
アンチマジック・チャイルドだって言うじゃない!?
魔法無効化能力というのは外から自身の体に向かってくる魔力だけでなく、中から外に向かう魔力も当然無効化できるのよ。
だからこの体の魂が私と入れ替わっても、魔力自体が体から外へ向かう前に無効化されてしまうから…
禁呪の使用を悟られずに済むの。
魔法を行使する際は無効化を解除する必要性があるから、その時魔法協会に所属する正式な魔法使い達がその場に
いないかどうか気をつける必要はあるのだけれども。
おまけにアスナとやらは自身の能力について全く知らされていないそうだから、
魔法から自身を守ろうと言う明確な意志がない限りは、せいぜい微弱な魔法を無意識の内に無効化するくらい…
転生の術をかける分には問題ないわ。
これはきっと神様の思し召しよ…私がこのアスナとやらの体に転生するべきだと、そう仰っていたんだわ!!!
だから、私は"リーンカーネイション"の儀式を実行したの…あなたが魔法学校を卒業した、その日の夜にね。」
卒業式の日の夜…その言葉に、僕はここ数日見続けていたあの夢の事を思い出した。
「転生の儀式って…じゃぁ、僕が夢の中であの日の夜に見たお姉ちゃんの死体は、まさか…」
それを聞いたお姉ちゃんがビックリするような目で僕を見つめる。
「へぇ、さすがはネギね。もう術が解けかかってるんだ。
…私ね、不安だったの。
ルビーの短剣で自分の胸を刺せば術は発動し、私の魂は手紙の中に封じられてあなたの住む部屋のポストに届き、
最後の一通の開封を以て転生は完了する…手紙は数通に分ける必要があったけれど、
時期を空けて一通ずつ送られるように仕掛ければ変に思われる事もない。
月の魔力が最適なものとなるのはちょうどあの卒業式の日の夜、
その時を逃せば次の周期が巡ってくるまで数年は待たなくてはならないから…
なんとしてでもあの日に術を発動させる必要性があったの。
67マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:46:09 ID:???
でも正義感の強いネギは私が禁呪を使用する事に反対するでしょうし、
それにもし黙って儀式を実行したとしてもネギがウェールズを立つ前に私の遺体を見つけて騒がれてしまったら…
だから、ネギの記憶をちょっといじらせてもらったの。」
ああ、そう言えば…。
お姉ちゃんがゆくゆくは魔法を用いた心理療法師になりたい、と語っていた事を僕は思い出していた。
「もし私の死体を見つけてしまっても、すぐにその事を忘れてしまうように…
そしてネギは私に見送られてウェールズを旅だったのだと、そう思いこむようにね。
魔術が発動すれば時間と共に私の遺体は消滅するから、今頃ウェールズでは私は行方不明扱いになっているはずね。
魔法使いとなるための試験の最中は試験への影響を考慮して、
身内の不幸やトラブルは試験終了まで一切伝えられない事になっているのだけれども。」
僕は本当に知らなかったんだ。
確かに昔からちょっと過保護な所があるかなとは思っていたけれど、
それでもそれは姉としての優しさからくるものなのだと、そう思ってたんだ。
まさか、お姉ちゃんがそんな事を…僕の事を弟以前に一人の男性として捉えていて、本気で結婚をも考えていただなんて。
「そして最後には、この肉体―神楽坂明日菜があなたの姉、ネカネ・スプリングフィールドでもあるのだという事に
何の疑問も抱かないように…あなたの記憶を、そう作り替えてあげる。」
お姉ちゃんも、木乃香さんも、夕映さんも、みんな皆おかしくなってしまった。
そしてその狂気に巻き込まれ…明日菜さんの魂はもう、この世に存在しない。
…お姉ちゃんの手に淡いオレンジの光が灯り、僕の頭へと近づいてくる。
何だかもう、色々おかしな事が立て続けに起こりすぎて疲れてしまった。
それに、胸にぽっかりと大きな穴が空いてしまったかのようなこの感覚…
明日菜さんのあの快活な笑顔がもう二度と見られないのだと思うと悲しくて、
悲しすぎて、もう涙すら出てこない。
「いらないモノは全て忘れて…ゆっくりお休み、ネギ。」
魔力を宿したお姉ちゃんの…かつては明日菜さんのものであった手が、僕の額に触れた。
ああ、そうか…僕はやっぱり、明日菜さんの事を、本当に心の底から………



チュン、チュン、チュン…。
「ネギ…ネギ…」
68マロン名無しさん:2005/04/26(火) 10:46:50 ID:???
窓から射すまばゆい光の中、僕の体を揺さぶりながら呼ぶ声が聞こえる。
「んっ…、ふぁぁ…おはよう…。」
「ふふっ、おはよう…ネギ。」
チュッ
寝起きの挨拶代わりのキスから、そのまま舌を絡めてのディープキスへ。
お姉ちゃんが僕を起こしながらの口づけは、もはや日課となっている。
「ほら、もうそろそろ起きなくちゃいけない時間よ。
ネギ先生は今日は学校で何を教えてくれるのかしら?」
クスクス笑いながら、お姉ちゃんは台所へ向かって朝食の準備を始める。
僕のお姉ちゃん―ネカネ・スプリングフィールドは、僕の教え子・神楽坂明日菜でもある。
当然の事ではあるが、二人きりの時以外はあくまで"神楽坂明日菜さん"として接しなくてはならない。
そう、それが当たり前なのだ。
何はともあれ、まずは着替えを済ませなければ。
洋服ダンスの中からスーツを取り出そうとして…ふと、タンスの隅に
鈴のついたリボンのようなものが転がっているのに気がついた。

お姉ちゃんはいつもストレートのロングヘアで、髪を留めたり縛ったりはしないはずだ。
なんでこんなものがタンスの中にあるのだろう?
捨ててしまおうか、それとも念のためお姉ちゃんに訪ねてみるべきか…不思議に思いながら手に取った瞬間、
甘酸っぱいような、それでいて何処かもの悲しいような感覚に突如襲われた。
…何の見覚えもないもののハズなのに、何故?
やはりお姉ちゃんに聞いてみるべきだろうか、と考えたがどこかそれをためらう気持ちがあって…
気がつけば、僕は鈴付きのリボンを手に自分の机の前に立っていた。
………。
自分でもなんでそんな事をしたのかよく分からない。
僕はそのリボンを机の一番上の空っぽの引き出しの中にしまいこみ、大事に大事に鍵をかけた。

――あー、あんたって本当に大切なものはいつもそこにしまうのよね〜――

どこか遠い記憶の影で、誰かのそんなからかう声が聞こえたような気がした。