ネギま 刹那uzeeeeeeeeeeeeeeee

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27マロン名無しさん
目覚めは最悪、どぶ川の底を流されながら時折水面に顔を出し必死に息継ぎをしているようなもので、
相も変わらず気の休まる時間は私には訪れないらしい。
一向に鳴り止まない耳鳴りに最早諦め顔で、味など満足に感じられやしないモーニングティーを口に運ぶ。
決して紅茶の味がわからない訳ではないし、寝起きだからといって舌がぼけている訳でもない。
要は精神的なものなのだろう…と、昨日の朝も思った事をまた反芻する。
変わらない毎日の繰り返し、クラスメイト達は今日もにこやかな顔で幸せな学園生活を送っている。
変わらない毎日の繰り返し、私は得体の知れない憂鬱に身をやつしながらこの繰り返しに終わりが訪れるのをただ待ち続けている。
一つ、ゲームをしよう。
この無限に巡る廻廊を打ち砕くための切っ掛けとなるもの、永遠の終わりとなる起点。
…早い話、大層な大義名分をうち立てさえできれば何でも良かったのだ。
手元には冷たく光る短剣。
近衛家に代々伝わる短刀で、今では私のお守りとしてこの学園寮一室のインテリアよろしく部屋の隅に飾られていた。
元は魔を討つために鍛えられたものだという話だが、それならば私を捉えて放さないこの悪夢を打ち破るために一役かって貰うとしよう。
28マロン名無しさん:2005/04/12(火) 08:41:40 ID:???
短剣を懐にしまい込み、ルームメイトの二人を起こしにかかる。
ネギ君もアスナも今朝は早起きする用事はないらしく、ギリギリ学園に間に合う時間で起こしてくれと頼まれていた。



平和な学園風景、皆の談笑が教室中に溢れている。
その無邪気な笑い声がどうにも私をあざけ笑っているような気がして、私とこの世界との断絶を改めて感じ取った。
世界への嫌悪感が増すと共に、私の剥き身の感覚はますます鋭敏なものへとその姿を変えていく。
「お嬢様、本日はどうも顔色が優れないご様子ですが大丈夫なのでしょうか…?」
私を気遣いつつも、彼女は相変わらず余所余所しい話し方で接してくる。
…我慢ならなかった。
私が「また昔みたいに呼んでな?」と彼女にそう言ったのは、物を知らぬ少女としての無遠慮さからでは決してない。
立場の違いなど本当にどうでも良かったのだ。
幼い頃の彼女との繋がり…二人の間に壁などなかったあの頃の距離感こそが、私にとっては何よりも大切な物だったのだ。
だというのに、彼女のこの態度…これは最早私への裏切りと呼んで相違無いのではないか。
第一、私の顔色が優れないのは今日に始まった事ではない。
もとはと言えば、いくら求めども決して私との距離を縮めようとはしない彼女のその姿勢こそが私を悩ませ、
重い心労の種となり、ひいてはこの"世界との剥離"の切っ掛けを私にもたらしたのだ。
………ゲームの役者は決まった。
後は彼女がどう演じるか、だ。
「…せっちゃん、今日は折り入って話があるんや…昼休みに屋上で待っとるえ。」
「!――分かりました。」
一体何の用かと訪ねもせずに、やや緊張した面持ちで答えるその姿は、
常に私の"従者"として振る舞い続ける彼女らしいと言えば彼女らしかった。



待つ事数分…ふいに屋上の扉が開き、顔を不安に曇らせた彼女の姿が私の目に映る。
「おじょ…なあぁぁぁっ!!!!!」
まるでこの世のものではない何かを見てしまったかのような叫び声を上げ、彼女は私の元へと一目散に駆け寄ってくる。
29マロン名無しさん:2005/04/12(火) 08:42:47 ID:???
「な、何があったのですかお嬢様!こんな、こんなぁ…っっっ」
しかし無理もない、何故なら私は血の付いた短刀を手に、脇腹から血を流しながらうずくまっていたのだから。
「…っちゃん。」
「はい、何です!?何ですかお嬢様っ!」
「落ち着いてな?誰かを呼んだりはせぇへんよに。」
「し、しかしっ!」
まだ私が治癒魔法を使いこなせないものだと思いこんでいる彼女は、戸惑いと焦りの色を隠す事ができないようだ。
実際には魔法のおかげで痛みは無く血もとうに止まっている、その気になれば傷跡一つ残さず即座に完治させる事すらできる。
私との距離を取り必要以上の接触を断とうとなどするから、そんな事にも気づかないのだ。
「これな、ゲームや。」
「は、…ゲーム?」
訳が分からないといった表情の彼女。
「そ、ゲーム。ルールは簡単………せっちゃんは気づいてはいませんでしたが、
 ウチはとある人のせいで、結果毎日想像を絶する苦しみを味わう事となってしまいました。」
「なっ!誰がそんなっ、いつの間に…お、お嬢様、一体そやつに何をされたというのですか!?」
「…そしてある日、ウチはその人のせいでこ〜んな大怪我を負うハメとなってしまったのです。」
「お嬢様、そやつに脅されているのですね!?そしてこんな妙な問いかけを私にしろと…
 おのれぇっ、何処に隠れている!見ているのだろう、出てこいっ!私が相手をしてやる!!!」
「さて、その人とは、一体誰の事でしょう?………せっちゃん聞いて…今ここで答えて。これがルール、チャンスは一度きりや。」
囁くような私の声に、びくんっと彼女の体が震える。
「この私が気配すら感じとれないとは、余程の手練れか?この、"ゲーム"とやらに付き合うしかないというのか…。」
焦りを通り越して顔面蒼白の彼女は、ゲームのルールなど無視してひとまず私を連れて
この場を離れるべきかどうか、迷っているようにも見える。
「なぁ、せっちゃん…分からへんの?」
「…いえ、少しお待ちくださいお嬢様…ここまで強行な手段をして私達を狙いうる者…、!まさか、天ヶ崎千草っっっお前か!?」
「天ヶ崎千草…それが、せっちゃんの答えなんや?」
私の声に、彼女は私を庇うような姿勢で周囲に警戒を張り巡らせた。
30マロン名無しさん:2005/04/12(火) 08:43:47 ID:???
「お嬢様、ご安心ください。例え今の答えが間違いであろうとも、お嬢様にはもう傷一つ付けさせはしません。
 必ずそやつをこの手で打ち倒してみせます、この私の命に代えても!!!」
「………そか。なら、死んで?」

とす。

私の握りしめた短刀は思ったよりも軽い感触と共に、彼女の心臓の中心へと吸い込まれていった。
「…え?」
ビックリした、というよりは何が何だかわからない…そんな表情を顔に貼り付け、
次の瞬間大量の血を口から吐き出しながら、彼女はその場に崩れ落ちた。
…即死だった。

「ありゃ、流石は近衛家家宝の退魔の短刀やわぁ。ほんまに一突きで夢魔を払ってしもた。」

   クックックックッと、壊れた自動人形のようにリズミカルな響きを口中から漏らしつつ、木乃香は嗤う。

さて、後は死体の処理だが…大した手間ではない。
最近気づいた事ではあるが、治癒魔法とは逆の要領で魔力を作用させれば、
意図的に怪我や病と同じ症状を対象に引き起こす事ができるようなのだ。
祖父が持つ魔法関係の蔵書を調べてみてもそういった前例はなく、あるいはこれは私だけが持つ
天性の才能であるのかも知れないが…ともかく、そういった真似ができるという事実に変わりはない。
彼女の死体の傷を治し――魂までは戻らないが――今度は心臓ショックと同じ症状をその躰に引き起こす…
死の直後であればいくらでも誤魔化しはきく。
私は学園理事長の孫娘、アリバイは学園職員を動かせばいかようともなる。
かくして彼女の死の真相は、暗い闇の底へと葬り去られた。



目覚めは最悪、どぶ川の底を流されながら時折水面に顔を出し必死に息継ぎをしているようなもので、
相も変わらず気の休まる時間は私には訪れないらしい。
一向に鳴り止まない耳鳴りに最早諦め顔で、味など満足に感じられやしないモーニングティーを口に運ぶ。
今朝の紅茶は、味ばかりかとうとうその香りさえも感じとる事ができなかった。