『夕凪の街 桜の国』やります。
作者のこうの史代は広島県出身。
自身は被爆者でも被爆2世でもないけれど、
避けて通る事は出来ない問題であるとこの作品を描いた、との事。
初刷 2004年10月20日
双葉社より800円+税で発売中。
大まかなあらすじ
『夕凪の街』と『桜の国』の二部構成。
『夕凪の街』は、原爆投下より10年後の広島が舞台。
父を亡くし、遠く茨城に弟を養子に出し、母と二人暮らす平野皆実(みなみ)を軸に描かれる、被爆の悲しみ。
『桜の国』は現代が舞台。
皆実の弟・石川旭が広島に戻り、被爆した女性と結婚。
一男一女に恵まれるが、被爆2世という事が、彼等の恋愛に暗い陰を落とし…という話。
原爆投下から10年後、昭和30年の広島。
建設会社の事務員・平野皆実は貧しいバラック小屋で母と二人暮らし。
茨城に養子に出した弟に母を会わせる為、交通費を捻出しようと
娘らしいお洒落もせず、節約生活を送っている。
同じ会社の営業・打越といい雰囲気であるが、なかなか素直になれない。
ある日の会社帰り。
女物の洋装店を覗く打越を見掛けた皆実は
「好きな人にあげるんじゃが、見立ててくれ」と言われ、
「ふられてつっ返されても、これで泣きゃええが」と、レースのハンカチを選ぶ。
店を出て、打越から「返さんでくれ」と、
そのハンカチを渡された皆実は、照れながらも受取る。
河原を歩きながら、皆実は打越に体をもたせかけ、キスを交す。
瞬間、彼女の脳裏には10年前に目の前の川が焼死体で埋まっていた光景が広がり、
「ごめんなさい」と打越を振り払って走り出す。
10年前の8月6日。
皆実は原爆で父と妹を亡くした。
救護所で丸く膨れた母を見つけ、姉の霞とも落ち合った。
あまりの惨状に感覚は麻痺し、死体を平気でまたいで歩くようになった。
腐臭に苛つき、橋の上から姉と一緒に川に溢れる死体に石を投げつけた。
やがて姉も、被爆症で紫のシミだらけになって死んでいった。
自分は、幸せになってはいけない人間なのだ…
そんな想いが、皆実を頑なにさせていた。
翌朝。
会社で打越と挨拶を交した皆実は、彼に
「うちは、この世におってもええんじゃ、と教えて下さい」と
10年前の体験を話して聞かせる。
打越は理解を見せ、「生きとってくれて、ありがとうな」と、優しく皆実の手を握る。
その翌日から皆実は疲れからか、体がだるくなり、寝込んでしまう。
見舞いに来た打越は帰り際、『月がとっても青いから』と鼻唄を歌う。
それを見送りながら、皆実も続きを歌う。
♪月がとっても青いから 遠回りして帰ろう
もう今日限り逢えぬとも 想い出は捨てずに
君と誓った並木道 二人きりで さぁ帰ろう♪
夕凪の、幸せな風景。
翌朝には皆実の足腰は立たなくなり、夜遅く、真っ黒な血を吐いた。
被爆症が今になって発症したのだった。
友達や会社の同僚が見舞いに訪れるが、皆実の症状は急激に進み、目も見えなくなった。
(皆実モノローグ)
黙って手を握る人がいた。知っている手だった。
痛い。喉をまた生ぬるいかたまりが通ってくる。
もう、ただの血ではなくて、内臓の破片だと思う。
髪も抜けとるのかも知れんが、触って確かめる気力もない。
明日にしよう…明日…
嬉しい?
十年経ったけど、原爆を落とした人は、私を見て
「やった!また一人殺せた」と、ちゃんと思うてくれとる?
ひどいなぁ。
てっきり私は、死なずにすんだ人かと思ってたのに。
ああ、風…
夕凪が終わったんかねぇ…
そして、いつかの河原に座り込む打越の横を、剥がれた
『原水爆禁止世界大会』のポスターが風にあそばれてゆく。
皆実の手には、打越に貰ったハンカチが、力無く握られていた。
(終わり)
お、重い
やたら新聞とかでも評判になってたから気になってたけど、やっぱ原爆物だけあって重いねぇ。
>471-472
漫画が柔らかい絵柄なだけに、悲壮感更に倍、みたいな…
モノローグの場面は背景無しの白いコマに延々と書かれていて、心に迫ります。
後半の『桜の国』は少し希望のある感じです。
夜に書きます。