「どうして、出番が回ってこないのかな?」
本当は分かってる。
地味で、可愛げがなくって、見栄えのしない私の登場なんて…誰も求めてなんかくれやしない。
「どうしたら、出番が増えるのかなぁ…」
そう考えてたら、閃いた。
この世の中には陽の当たる"枠"というものがある。
その枠からはみ出た人間が何とかして陽の目を見たいのであれば…その枠に"空き"を作ってやればいい。
「なんだ、こんな簡単な事だったんだ…」
まるで暗く閉ざされていた未来が急に開けたかのような、すがすがしいまでの高揚感。
お気に入りの紅茶を入れながら、鼻歌交じりに計画を練り始めた。
長い秋の夜はまだ始まったばかり、多少の夜更かしなら構わない。
10月2日、晴れ。
「うん、今日は素敵な一日になりそう。」
お気に入りのネックレスを首にかける。
まだ平等に出番が与えられると信じていた頃、これからの出番に備えて新調したモノ。
結局私に出番が回ってくる事はほとんどなくて、自然と身につける事はなくなっていた。
現実の理不尽さ、私とは対照的にきらびやかな舞台に立ち続ける彼女達への憎しみ、
絶望と無気力…積もりに積もった思いを吸って鈍く輝くこのネックレスと共に、
私は新しい人生への一歩を踏み出すの。
本当は知っていた、みんなが私を笑いものにしている事を。
仲の良い友人のフリをしていたあの子も影で私を馬鹿にしていたに違いがない。
どいつもこいつも、裏では私の事を笑っているんですよね、クズ野郎ども。
許さない、許さない、絶対にぶっ殺してやる。
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…思念がぐるぐる回り始めて螺旋を描き、
私は渦の中へと取り残される。
ふと気がつけば、いつの間にか3-Aの教室の前に立っていた。
「時間の感覚がおかしいのかなぁ…」
最近こんな事ばっかりだ、と呟きながら扉を開く。
「…んだ〜、なら…」「…って言うから、私てっきり…」「…ですわオホホ、そういえばこの…」
教室の中は既に生徒達で溢れかえり、喧噪の渦と化していた。
けれど誰も私に声をかけようとはしない。
それが私のポジション、私はここに在りながら無き者として扱われる。
出番無しの不景気女に近づいたら自分の出番まで減ってしまうと、
みなさんそうお考えになられているのです。
「…バーカ、何言っ…」
私を馬鹿だと、蔑む声が聞こえます。
「…にもう、これだから…」
私を指さし、嘲笑しているのです。
「〜っぺん死ね!全く…」
私にまた死ねと言っているの…だから、私を殺そうとしてるんだから、
殺される前に殺しちゃっても、おかしくなんか、ないよねぇ?
退屈な一日の授業が終わり、放課後私はとあるクラスメイトに声をかけた。
「宮崎さん。ちょっと、いいかしら?」
声をかけられた彼女は初め、何が起きたのか分からないといった様子で
キョトンとした表情を浮かべる。
…私が彼女に声をかけたのは、初めての事なのです。
「あっ、は、はい、なんでしょう?」
戸惑いながらか弱そうな女性を演出する…この演技で出番を稼いできたのです、この女。
全部、計算づくでやっているんだね。
何もかも。
…腹の底から、黒い何かが私の芯をかき回し始める。
「ちょっと探している本があるんだけど、どうしても見つからなくて…
宮崎さんなら図書委員だし、置き場所とか分かるんじゃないかなって。」
「あ、なるほど…分かりました、早速お調べします!」
人の良さそうな柔らかい笑顔を浮かべて…これも、演技。
「良かった…それじゃ、一緒に図書館島に行きましょう?」
はやる気持ちを抑えながら、さぁ図書館島へと向かいましょう。
「図書館島に来るのは久しぶりですぅ。」
…彼女は、無防備。
「ここには色々危険な罠が仕掛けてあって、私達図書委員でも把握仕切れてはいないんです。」
きっと人を疑うという事を知らずに生きて…いえ、それも演じているだけなんですよね。
「だから、絶対に道を間違えたりしないでくださいね。」
もうそろそろ演技にも疲れてきたんじゃない?
「ところで、探している本って言うのは…」
だから、終わらせてあげる。
「宮崎さん。」
「ハイ、なんでし…」
返事を言い終える間もなく私に突き飛ばされた彼女は、驚きに目を見開きながら道を踏み外し、
ポッカリと空いた図書館島の奈落の底へと吸い込まれていった。
「アハッ、これで、枠が空いた…」
私の中で渦を巻いていた黒いもやは一層その回転を増し、振り切れ、そして抑えようのない
笑いが私の中から次々とわき起こる。
「ハッ、アハッ、アハハハッハハハハハハ!!!!!」
やった、やった、やった!ザマーミロッッッ!!!
愉快で愉快で仕方がない。
首にかけたお気に入りのロザリオを握りしめながら、私は笑い転げた。
枠を占め、出番を奪い、私を蔑む豚が死に…陽の当たる場所へ私はゆける。
そう信じて疑わなかった…この時は。