【番外編】不良漫画SSスレ part3【番外編】

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11985 ◆8BVPwsPs7s
ここは不良漫画SSを書くスレです。

不良一選手権(仮)まとめサイト
http://www1.u-netsurf.ne.jp/〜hinomoto/baki/ss-long/tuppari/index.htm
21985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 03:11 ID:???

●主な登場人物(出典)●

・矢沢栄作(カメレオン)
・前田太尊(ろくでなしブルース)
・葛西(ろくでなしブルース)
・三橋(今日から俺は!)
・一条武丸(特攻の拓)
・池戸定治(ゴリラーマン)
・極沢うさぎ(湘南純愛組)
・日比野晴矢(ボーイ)
・河合星矢(エリートヤンキー三郎)
・柴千春(グラップラー刃牙)
・鬼塚栄吉(GTO改め湘南純愛組)
・花菱哲(てっぺん)
・沢渡憂作(CUFFS)
・石田小鳥(キューピーQP)

○○要員�
・前田直也(エリートヤンキー三郎)�
・児島猛(エンジェル伝説)�
・ミン(CUFFS)�
・天草銀(ウダウダやってるヒマはねえ)�

闘わない?キャラ�
・徳川光成(グラップラー刃牙)�
・栗木拓次(グラップラー刃牙)�
・松尾象山(餓狼伝)�
・姫川勉(餓狼伝)
・安部(無頼伝 涯)
31985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 03:21 ID:???
 未だ、煙のただようバス。煙の中に二つの影。三橋、低姿勢からの渾身のアッパー。
 初めての致命打。衝撃が晴矢の体を突き抜け、肩から脇にかけてふさがっていた刀傷から黒血がほど走る。

晴矢「……ッ!!……」

 鋭い痛みに耐えきれず、晴矢のひざが地面につくと同時に三橋が高く飛び上がる。
 晴矢の鼻の骨がきしむ音。三橋の左ヒザが晴矢の顔面に食らいつく。
 苦悶に顔を歪ませる晴矢になおも、三橋の右足が晴矢の腹を蹴りあげる。
 なすがままの晴矢。さらに顔面を三橋の右足が跳ね上げる。
 三橋の空中可変式三段蹴り。人間、いや、重力に縛られたものにとって不自然な動き。
 三橋の天分。空中において自在な体重移動。世の理を無視した動き。
 『敏捷性』 この才能を神より与えられた者にのみ許された領域。
 
 視覚、嗅覚、聴覚。刺激物による三感殺し。不意の傷口への渾身のアッパー。人間離れした空中連続蹴り。
 さしもの晴矢も数秒間、立ち上がる事を忘れ、無防備に仰向けに寝転がっている。
 三橋は瞬時に間合いを詰め、晴矢にまたがる。それは何かに憑かれたかのように無意識のうちの行動だった。
 そして、数え切れないほどの乱打、乱打、乱打。まるで獣のように容赦なく拳を止めない。
 三橋の本能は気付いていた。この時を逃す事はすなわち勝機を逃すという事。
 しかし、三橋にとってこの時、二つの不幸があった。
 
三橋「……ハァッ……ハァッ……!」

 肺の底から息を切らす三橋に己の拳が目に留まる。
 深紅。晴矢の血で染まった拳。己の拳を相手に一瞬、のけぞり、我に返ったように足下の晴矢を見やる。
 血染めの服。開いた刀傷からおびただしい量の血液が流れている。
 三橋は晴矢に明らかに消えゆく命の『何か』を感じ、静かに拳をおろした。
41985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 03:23 ID:???
 一つ目の不幸。それは三橋がしばらくの間、真剣勝負を欠いていた事。
 転校を機に、不良としてそれまでの人生と決別すべく、自らを変えるために髪を金髪に変えた頃。 
 辺りにはまだ強敵がひしめいていた。しかし、生まれながら恵まれた身体能力。そして非凡な格闘センス。 
 日々日々、強さと凶悪さを増してゆき、次第に辺りに恐れるべき相手は少なくなっていった。
 そして開久高校を崩落した日、ついには強敵どころか、自分と同等の敵すらいなくなってしまった。
 そして、いつの間にか産まれた慢心。それが三橋の拳を止めた。
 
 三橋はバツが悪そうに晴矢をまたいでいた片足を外した次の瞬間。
 三橋の脳が揺れた。何か分からない。何かが鋭く、アゴを貫いた。
 不意の一撃に吹き飛ばされる三橋。素早く起き上がると先ほどまで、なすがままに殴られていたはずの晴矢。
 薄い煙の中、うつむき、ふらついているものの、あの状態から確かに立ち上がっていた。
 先ほどの一撃。不完全ながらもマウントポジションから、180cmを超える三橋を吹き飛ばすほどの威力。
 これもまた、世の理を無視した動き。神より『力』の才能を与えられた者のみ許される一撃。 
 二つ目の不幸。それは日比野晴矢という男に今まで出会わなかった事。
 未曾有の怪物に三橋は思わず戦慄を覚える。 
 
 『敏捷性』と『力』 二つの才能が呼応する。
 自分と同じく非理なる者。未体験の領域に思わず三橋の鼓動が高鳴る。
 だが、先ほどの一撃。この戦いの最中、唯一食らった一撃ではあるが、それが三橋の意識をかすませる。
 晴矢の拳。言うなれば大振り。純粋なる不良の拳。技もなく、巧もなく、産まれたままの原始の拳。
 しかし晴矢は『力』の非理。その一撃は必殺の意味を持つ。たとえ不自然な体勢からでもその拳は鈍らない。
 景色がボンヤリかすみ、足の震えはとまらない。だが、悪い事ばかりではない。
 先程の一撃のおかげで無意味に浮き足立っていた三橋の思考がいつもの冷静さを取り戻していた。
51985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 03:24 ID:???
 そして、感じる違和感。先ほどから晴矢から感じる気がおかしい。
 この男は四六時中、周囲にいる人間に何かピリピリとした灼揚感を与えている。
 だが、今はそれが一切ない。静かすぎる。不自然なほどの静けさ。 
 何かうごめく物を感じるでもなく、ただただ荒い呼吸が聞こえてくるだけ。
 この雰囲気、呼吸の荒さ、おぼつかぬ足。三橋は晴矢の余力が少ない事を悟る。
 だが、立ち上がったという事は気持ちは萎えていない。未だ、三橋を倒そうという意志を残している。

 あと一撃。この手負いの獣のような男からあと一撃奪わなければならない。
 三橋は首の骨を軽く鳴らす。さんざん考えてみたが、思い付く良案は一つ。 
 こういう一撃必殺の空気の時に、下手な策を弄する事の無意味さを三橋は本能的に知っていた。
 答えはいたってシンプル。相手の拳が自分に当たるよりも先に相手を殴り倒す。

 自らの『敏捷性』が上か、それとも晴矢の『力』が上か。そして三橋、大きく息を吸い込み、
 噴射されたかの如く、風のように晴矢の間合いに詰め寄る。そして思いきり拳を。
 だが、なぜか途中で拳を止まる。そうしてる間にも晴矢の拳が三橋の頬面に食い込む。
 大きく揺さぶられる三橋の脳。三橋の視線の先。晴矢。目をつぶっている。 
 気絶している。立ち上がり拳を振るいながらも。晴矢、意識を絶っている。 

三橋「……気絶してんのか?……バカじゃねーの……つきあって……らんね……ぇ……」
晴矢「…………」
 
 三橋はあきれ果てた。気絶してなおこれまでの威力のある拳、そして晴矢の闘争本能に。
 だが、三橋はこの数秒で自らの勝利を確信していた。自分の傷、晴矢の傷。明らかに負傷具合は相手が上。
 この大会のルールは携帯を奪った方が勝者。ならばこの戦い。先に目覚めた方が勝者。先に目覚めるのは。

三橋(……俺が先だ……)

 グラリと景色が暗転し、そのまま、三橋が晴矢を巻き込むように倒れ、両者、力なくバスの床に突っ伏した。
61985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 03:26 ID:???
長々と御待たせしてしまいました。バレさん、並びに読んでいてくれた方々。本当にすいませんでした。
ようやく全て書き終わったのでこれからのんびりやっていこうと思います。
どうかおつきあいのほどよろしく御願いします。
7マロン名無しさん:04/08/26 07:54 ID:???
>1985
散々待たせやがってコンチクショウ!!!
責任とって、ちゃんと連載しやがれ!!!
81985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 11:11 ID:???
 ……それからどれくらい時間が経ったのか。三橋の意識がようやく元に戻りはじめた。
 だが、何か様子がおかしい。床が柔らかい。ベッド? 三橋が異変に気付き、目を開けるとそこは。
 
三橋「……へ?」

 自分の身に何が起きたのか三橋にはさっぱり分からない。
 自分はバスの中にいたはずなのに。なぜか白い部屋でベッドの上。
 思わず呆然とする三橋。すると後ろから声の太い笑い声が。

??「ヘヘヘ。やっと起きやがったか。」
三橋「……! テメーまだ……」

 声に反応し、三橋が素早く振り返ると、そこにいたのは晴矢ではなく、
 ベッドに横たわる首に仰々しくコルセットをはめた、飄々とした金髪の男。
 だが、その鈍い眼光から男が凄まじい力を有している事が簡単に察する事ができる。

三橋「……誰だ? テメー?」
??「俺か? 俺の名前は鬼塚英吉。なんとなく分かってるだろうが俺も大会参加者だ。
   残念ながら初戦敗退ってとこだがよ。」
三橋「ふーん。で? その負け犬がなんで、ちゅうか俺はなんでここにいんだ?」

 鬼塚、『負け犬』という単語に少し血管を浮かせるものの、すぐに三橋の軽口を鼻で笑い飛ばし、
 必死で口から漏れる笑いを手で抑える。そんな鬼塚を不思議そうに見つめる三橋。
91985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 11:13 ID:???
三橋「……?」
鬼塚「あー、お前なんにも覚えてねえんだな。まぁ、覚えてたらそんな軽口叩けねえよなぁ。
   俺も詳しくは知らねえが。いいぜ、教えてやるよ。お前がどうしてこんな所にいんのかをよ。」
三橋「…………」
鬼塚「まず、最初にお前らがどこで喧嘩やったか覚えてるか?」
三橋「どこって……バス。」
鬼塚「そうだ。でもよ、疑問なんだけどお前らなんでバスなんかでケンカおっぱじめたんだ?」
三橋「知らん。バス乗ってたら突然なんか訳の分からんバット野郎が襲いかかって来やがった。」
鬼塚「……なるほどな。まぁ、出会ったところで開始ってのがルールだけど
   もう少し場所考えた方がいいじゃねえのか?バスん中じゃやりづれーだろ?」
三橋「それがあのバットマン。人の話も聞かずに襲いかかってきてよ、
   ワケのワカンネーこと叫びながら初対面なのにすげえ怒ってんの。
   ありゃあ間違いなく脳線2、3本切れてんな。もしくは悪い薬。間違いない。」
鬼塚「ふーん。そうか、そうか。それで『出ちまった』のに気付かなかったんだな。」
三橋「……? おい。もったいぶらねーでさっさと教えろよ。なんでオレはここにいるんだ?」
鬼塚「そう焦んなよ。まぁ、テメーらにとってはバスで始めたってのがついてなかったな。」
三橋「? ……あ、そういやーあのバット野郎はどうした?」
鬼塚「お前の対戦相手だったやつか? 今手術中だよ。生きてるのも不思議なくらい大怪我なんだとよ。」
三橋「手術……ってことはここはやっぱり病院か。」
鬼塚「ああ。大会で負傷した連中は全員ここへ運ばれてくる。負けた奴は一人残らずな。」
三橋「……ほーん。負け犬収容所ってとこか。」
鬼塚「ふん、なんとでも言いやがれ。俺は相手が悪すぎたんだよ。……って話がそれたな。
   んで、お前らがバスでケンカして最後に両方とも気絶した、でいいんだよな?」
101985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 11:14 ID:???
三橋「ああ。ところでよ、ここってどこなんだ?病院なのは分かったけど。」
鬼塚「ヘヘヘ。ここは西雲総合病院。……もう何となく分かったんじゃねえか?」
三橋「は?……何言って……! 西雲!?」
鬼塚「そう。ここは西雲町。東雲町のお隣の町だ。」
三橋「ちょっと待て! じゃあ……」
鬼塚「あのジイサンもたいしたタヌキだよなぁ。ルール説明の時にはさんざん『安全』『将来を考えて』
   とか言いながらよ。お前、気付いてたか? あの町にはちゃんとした病院が一つもねえんだよ。
   つまり怪我を治療しようと思ったら東雲町から出なけりゃなんねぇ。エグいルールだよな。
   でも、街を出ようなんて奴いねえよな。なんてったって『一億円』だ。」
三橋「……ひょっとして……失格?」

 この大会の唯一のルールと言える失格条件の一つ。『東雲町から出てしまう事』。
 三橋、あまりの出来事に自分の平衡感覚が歪んでいくような感覚を覚える。
 だが、ある事に気付き、はっきりとした怒りと共に意識を覚醒させる。
 誰が自分をこんなところに運んだのか? 放っておいてくれれば自分の勝利だったのに。
 まだまだ自分は闘える。無言のまま立ち上がり、徳川光成に抗議に行こうとした瞬間、
 鬼塚がボソリとつぶやく。

鬼塚「……倒れたお前らを病院に運んだのは確かに黒服どもだが勘違いすんなよ。
   お前らは黒服が駆け付けた時には既に東雲町から出てたんだ。
   ところでお前ら二人のうちどっちか気付かなかったのか? 
   携帯から範囲を出る前にアラームが鳴るはずなんだけど?」
三橋「……なっ そんなもの一度も……!」
 
 アラーム。つまり、『音』。未だ混乱する頭の中である光景がフラッシュバックする。
 爆竹。耳栓。三橋が晴矢をかく乱するために取った策、三感殺しの一部。
 お互い『音』の存在しなかった魔の数分間。思わず三橋の表情が固まる。
111985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 11:16 ID:???
三橋(…………)
鬼塚「まぁとにかく。それで圏外に出たまま一向に連絡のないお前らを心配して
   わざわざ本部からお前らを回収しに黒服どもが派遣されて……今に至る、と。」

 三橋、あまりの出来事に力なく病院の床に突っ伏し、そのまま気を失った。
 その様子をベッドの上から満足そうに眺める鬼塚。おもむろにタバコに火をつける。

鬼塚(……あー、すっきりした。あとは東京に帰って冴島の野郎をシメたら嫌な事も忘れれそうだぜ。)
三橋(…………)
 
 ……ちなみに、このあと鬼塚がこの病院に滞在する事となる5日間。
 隣のベッドの三橋の八つ当たりをその一身に受ける事となる。
 しかし、まだその事を鬼塚が知る由もない。

鬼塚「ふぁぁ、今日は気持ち良く寝れそうだな。」
三橋「……一億……」 
――――――――――――― 三橋 VS 晴矢 両者、圏外。

――――――――――――――――三橋 圏外失格。
――――――――――――――――晴矢 圏外失格。
121985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 11:20 ID:???
>>7
どうも、重ね重ねすいません。
ようやく全てを書き終えましたんでもう休みを取る事もありません。
幸い纏まった休みも取れたので来週中までには全てが終わると思います。
13マロン名無しさん:04/08/26 16:23 ID:???
待ってたよ。
14マロン名無しさん:04/08/26 16:47 ID:???
>>1
「ページが見つかりません」
151985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/26 17:19 ID:???
すいません。正確なアドレスはこうでした。

http://www1.u-netsurf.ne.jp/~hinomoto/baki/ss-long/tuppari/index.htm
16バレ:04/08/26 20:25 ID:???
お帰りなさい。
本当にお帰りなさい、ですね。

耳栓がこう言う形で関わってくるとは思いませんでしたね。
策に溺れた三橋に冥福。

来週で完結ということは毎日更新があるのでしょうか、楽しみです。

17マロン名無しさん:04/08/26 21:24 ID:???
ぬるぽ
181985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 00:46 ID:???
 東雲町グラウンド。満天の星空と遮る物もなく煌煌と輝く月の下。伸びる影二つ。
 けたたましく鳴り響くブザーの音を無視するように両者しばし無言のまま睨み合っている。

憂作「……前田、太尊だな?」
太尊「ああ。」

 憂作、太尊の闘気に思わず口元がつり上がる。嬉しくてたまらない。
 目の前の男。血が繋がっているとは言え、長年闘う事を夢見続けた相手と瓜二つ。
 顔のどこがというわけではない。立ち居振る舞い、雰囲気。形容できぬもの全て。

憂作「一つ、聞きたい。」
太尊「……」

憂作「こっちには腐るほど理由があるんだがなんでお前は俺をここに呼び出した?
   ……まさか文尊から何か聞いているのか?」
太尊「……文尊?……お前親父の知り合いか!?」

憂作(……知らない? だろうな。……俺も『この体』では文尊とは面識はない。)
太尊「答えろよ。テメー、親父の知り合いか?」

憂作(……チッ……やぶへびだったか。)
太尊「……」
191985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 00:50 ID:???
憂作「お前こそ俺の質問に答えろ。なんで俺を呼び出した?」
太尊「お前を倒してほしい。……そうある奴から頼まれた。」

憂作「敵討ちか? ずいぶんおめでたい野郎だな、そうやって利用されてる事に気付かねえとは。」
太尊「最初は俺も断るつもりだったがよ。そういう事をいう奴じゃネエんだよ。あいつは。」

憂作「……池戸じゃないな。そうか、なるほど。あの回し蹴りの野郎か。」
太尊「……」

憂作「さっきの質問だが。安心しろ。遠い昔にあった事があるだけだ。
   ……たぶん向こうももう忘れてるだろうぜ。」

 憂作の言葉が終わると同時に二人の間の空気が張りつめる。
 もはや語る事もない。あとは両者、決着のみを望む。

―――――――――――― 前田太尊 VS 沢渡憂作 開始。
201985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 00:51 ID:???
 満面の月の下。太尊が一呼吸のうちに間合いをつめる。
 いつものようにのけぞるように全体重を右の拳に乗せ、一気に体ごと振り抜く。必殺の右ストレート。
 だが憂作は落ち着いた様子で顔面を捉えようとしていた太尊の拳に軽く添打し、拳をそらす。

太尊「ッ!」 
憂作「……なめてんのか?」
 
 一瞬。太尊が姿勢を戻す前に今度は憂作の右ストレートが太尊の顔面をとらえ、脳を揺らす。
 しかし太尊もそれに怯む事なく、もう一度ストレートを放とうと地面を踏み込む。
 だが今度は軸足に痛烈な痛みが走る。憂作の足払い。重心を払われ、思わず前のめりにバランスが崩れる。
 そこに容赦なく、憂作のショートアッパーが太尊の顔面を歪ませる。一瞬の連撃。
 自分に何が起きたのかも分からず、地面に大の字で寝転ぶ太尊。
 それを冷徹なまでの瞳で見下ろす憂作。太尊の本能に思わず戦慄が走る。

憂作「……それがお前の実力か?」
太尊「……うぅ……」

 だが、明らかな追撃のチャンスというのに一向に憂作は動かない。
 一歩も動かず、地面に転がる太尊を石ころでも見るような目で見下している。

太尊(……なんだ、こいつ。葛西の野郎……面倒なのを押し付けやがって……)
憂作「チッ。こっちもはずれか。」

 憂作の隙を見計らい素早く太尊が起き上がるが、
 憂作は追撃もせず、ただ太尊が立ち上がるのをじっと見つめている。
 太尊はひと呼吸。息を飲み呼吸を整え、再びファイティングポーズを構える。
211985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 00:53 ID:???
憂作「……やめとけ。見たとこどうせ始めて2、3年の付け焼き刃のボクシングだろ?
   そんなもんが俺に通用すると思ってんのか?」
太尊「うるせぇッ!」

 憂作の言葉に耳も貸さず、太尊。猛牛のように一気に憂作に詰め寄る。
 寡戦の猛者を葬ってきた渾身のスクリューフック。
 ―――だが、視界からふいに憂作が消える。次の瞬間、頭上に何かが……!!!
 空中に描かれる完全なる円の軌道。憂作のバック宙キック。
 突如頭に走る鈍痛に思わず、うめきにも似た息が太尊の口から漏れる。
 景色が揺らぎ、フラフラとそのままバランスを失い、再びバタリと地面に倒れ込む。
 憂作は服についた砂を払いのけ、太尊に歩み寄り、つかみ上げる。
 先ほどの衝撃から未だ焦点定まらぬ太尊の目。思わず溜息が漏れる。
 
憂作「……本当にガッカリだな。こんなもんなのか、文尊の息子は。
   これならよっぽどあの廃工場にいた野郎の方が……!」

 次の瞬間、突如、憂作の両手を太尊の両手がつかむ。
 一瞬の油断。全力で振り払おうとするも太尊の腕はびくともしない。
 
憂作(……なんだ?この馬鹿力!?………)
太尊「さっきからごちゃごちゃうるさいんじゃッ!われぇ!」
 
 太尊の目。未だ焦点が合っていない。『廃工場』。この単語で自分の交わした約束。
 その重さを改めて思い出す。あのプライドの高い葛西の頼み。
 そしてここに来るまで、2人の男に借りができた。
 たとえこの場でこの体が壊れても果たさなければならない。
221985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 00:55 ID:???
>>16
長々と御待たせしてしまってバレさんには感謝の言葉もありません。
本当にありがとうございます。更新は一日3回くらいの目安で行こうと思います。
23マロン名無しさん:04/08/27 00:58 ID:???
噂には聞いていたが、こりゃ相当巧いよ。
ルール設定や病院、耳栓、凄すぎ。
この板のSSで感心までさせられたのは久々。
奥深えなあ、2ch。SSスレ。
24マロン名無しさん:04/08/27 01:02 ID:jepmKvid
今度こそ頑張れ、期待している
25マロン名無しさん:04/08/27 05:52 ID:???
まとめサイト、下にスクロールができなくてエントリー編しか見れないんですが俺だけ?
26マロン名無しさん:04/08/27 06:13 ID:???
本編のボタンは押した?
271985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:42 ID:???
 両者、相手を睨んだまま動かない。
 先ほどから太尊の膝が笑ってる。拳の握りもどんどん不確かになっていく。
 連戦のダメージ。考えてみれば最初の戦いから勝ち目の無い喧嘩ばかりだった。
 寡戦猛人なる北海道の『てっぺん』、花菱哲。
 何者かは知らないが王者の風格を持っていた男、矢沢栄作。
 とてもではないが自分の勝てる相手ではなかった。

 だが、自分はここに立っている。
 矢沢にはお情けで見逃してもらい、自分より強いであろう花菱哲に勝ちを譲られた。
 先ほど本部から届いたメールによると後、残るは8人。
 あれだけ集められた男達がもうそこまで減っている。 
 見はしていないが、それが激烈な死闘の連続であったことは容易に想像できる。
 なのに、自分たった一度の戦いでここに来てしまった。
 自らへの憤り。そんな思いが強く太尊を駆り立てる。
281985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:45 ID:???
太尊(……葛西と約束した。あいつを止める。)

 『……あいつはお前に倒してほしい………他の奴じゃなく………
  ……お前なら大丈夫だ………喧嘩の負けには二種類ある………
  ………納得のいく負けと………納得のいかねえ負け……………
  ………もしあいつが………納得のいかない負け方をしたら……
  ……もっと深い所へ………そうなったらあいつは終わりだ……』 

太尊(……いまなら、あのてっぺん馬鹿の言ってたことが何となく分かる。)
  
 『…………お前、卑怯だぜ。もう一人分の『信念』乗せられちゃあ
  俺一人の『信念』じゃ勝てねえよ。要はギブアップって、こった。』

太尊(……矢沢栄作。あんたの恩に報いるためにもまず約束を果たす。)

 『……約束があんだろ?……見のがしてやる……
  ………………さっさと俺の前から消えろ………』

 そして自分自身。沢渡憂作が許せない。
 不良の喧嘩には常に理由がある。
 プライドの為。友の為。女の為。あらゆる理由で拳を振るう。
 だが、目の前の男は違う。戦う為だけに、戦っている。
 そこに理由は無い。『手段』であるはずの戦いを『目的』とし、歪んで生きてきた男の目。
 ただそれを終わらせてやりたい。
291985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:47 ID:???
 『約束』『信念』『恩』『使命感』
 四つの思いが頭の中で加速していく。
 握りが不確かだった右拳。今は体のどこよりも確かな存在を感じる。
 腹の底から。心の底から。沸き上がってくる衝動。

太尊「あああああああああああああああ!!!」
 
 太尊、覚悟の咆哮が東雲グラウンドに響き渡る。
 太尊の咆哮。辺り一帯、グラウンドに一瞬で太尊の気配が広がっていく。
 ビリビリと大気が震えていくさまを肌で感じる憂作。
 だが、それだけではない。この震体感。自らの体からも発せられている。
 
 間違いない。目の前の相手は、自らが長年待ち望んでいた相手。
 先ほどから感じていた『類似』などではない。紛れも無く、文尊そのもの。
 渇望の強手。体の底から、魂から歓喜の強震が響く。
 『やればできるじゃないか』一瞬、そんな笑みを浮かべ、喧嘩の修羅の顔へ戻る憂作。
 張りつめていく空気。両者の気配が徐々に増していく。
301985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:49 ID:???
 耐えきれず先に駆け出したのは憂作。
 このとき憂作は『連速』を選んだ。

 駆け抜けた勢いそのままに滑り込むように太尊の腹を蹴る。
 だが、微動だにしない。それは人ではなく、まるで岩、山のような感触。
 しかし、それも数十年前の戦いで経験している。前田文尊と同じ。
 一撃では崩せぬ山。それを『連』で削り、『速』が山を打ち崩す。 
 中段蹴りから、すばやくしゃがみ下段に足を払う。
 それでも動かぬ太尊には気にも止めず、立ち上がり様にみぞおちを左拳で貫く。
 相手の状態を気にかける暇はない。一撃でも多く、山を削る。
 そのまま腕をずらし、素早くみぞおちに深くヒジを突き立てる。
 閃瞬の連撃。太尊のノドから一瞬、呼吸が漏れた。

憂作(……ここだっ!)

 連撃のすべての呼吸をそこに合わせていたかのように、
 流れるように、太尊のアゴを標準に定め、
 全身の筋肉をフルに稼働させ、流動する渾身の右ストレート。
 太尊に向かい伸びてくる右拳。今まで山のように不動だった太尊。
 瞬間、眼気が強まる。憂作、太尊。両者の咆哮が周囲の空気を振るわせる。

憂作「ッあああああああ!」 
太尊「っらああああああ!」

 憂作の拳が太尊の眼前に迫る。だが太尊の拳は動かない。
 4cm、3cm、2cm……
 
太尊(……相手の拳が近ければ近いほど、威力倍増……)
311985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:51 ID:???
 8mm、7mm、6mm……
 憂作の拳が太尊のアゴを捉えようとした瞬間、憂作の眼前に、何か。
 次の瞬間、爆ぜる景色。痛みも、闘志も、意識さえも理不尽に吹き飛ばす衝撃。
 憂作の拳は虚しく太尊の右肩の上を空振り、逆に憂作の顔面にはミシリと太尊の拳が刺さる。
 憂作の渾身の右ストレートの威力を利用し、自らの拳の威力を倍増させる。
 太尊、決死のライトクロス、炸裂。

太尊「………付け焼き刃のボクシングの味はどうだ? くそったれ……」
憂作「……」

 太尊の言葉が終わる前に、音を立て、憂作はその場に倒れこんだ。
 地面に倒れた憂作を哀情の目を向ける太尊。

太尊「…ハァ…ハァ…」

 深く呼吸をし、息を整える。消えそうな意識。そのまま地面に横になりたい、という誘惑。
 それらを払いのけ、無理矢理自らの意識を覚醒させる太尊。
 憂作の懐から携帯を奪い、本部へ連絡した後、
 太尊はグラウンドのフェンスに体を預けながら、そのままヨロヨロとどこかへ向かっていった。
 
太尊「……まだだ……まだ……」

――――――――――――― 沢渡憂作 VS 前田太尊 前田太尊の勝利。

――――――――――――――――沢渡憂作、失格。
321985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 07:56 ID:???
>>23-24
ありがとうございます。
もう書き終わってますがそう言う書き込みを見るとやる気がでます。

33マロン名無しさん:04/08/27 14:40 ID:???
1985
早く続き出してくれ!!!
341985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 19:47 ID:???
――――――――――一方、東雲町商店街西。

 完全に陽は落ち、街灯がベンチを照らしている。
 ベンチに二人の男。矢沢栄作と、極沢うさぎ。
 さきほどから矢沢、笑いが止まらない。

矢沢「へへへへへへ。」
 
 さきほど矢沢の携帯に本部からメールが届いた。
 『大会参加者残り4名。』
 
 ついにここまで来てしまった。大会ベスト4。
 ほぼ丸一日がかりの地獄が終わり、『一億円』が自らの元へ転がり込む真際。
 負ける事などまずあり得ない。自分には極沢がいる。
 笑いが止まろうはずも無い。

矢沢「ヒヒ。ギャーッハッハッハッ!!」
極沢「………」
 
 一方、極沢も無表情ながらも万感の思いでベンチに腰掛けている。
 彼にとって『真の友』と過ごす時間は何よりの喜びなのであろう。

 二人は今、なにをするでもなく時間をつぶしていた。
 ラーメン屋で腹ごしらえをしたものの、いざ敵を捜してみると一向に見当たらず、
 疲れ果て、仕方なくグチグチと不満をこぼしていた所で矢沢はようやく理解した。
 『この大会は、戦わなければ戦わないほど有利』
351985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 19:48 ID:???
 そう気づいた矢沢は時間いっぱいまで粘る事に決めた。
 確かに自分には極沢がいる。負ける事はまず無い。だが。
 『もしも』という事がある。今まで自分が調子に乗ってロクな目にあった事が無い。
 運が良ければ自分と極沢以外の参加者が噛み合って、潰し合ってくれる。
 珍しく浮かんだ良策。今回は流れ行く時間に身を任せる事にした。
 
 二人は特に何を話すでもなく、のんびりと休息の時間を過ごした。
 時間の経過と共に、通行人も徐々に減り、商店街の明かりが消えていく。
 地方都市特有の閑散としたコンクリートの吐く風。それが足下を吹き抜けていく。

―――――――― それから30分後。
 ついに辺りから音が消えた。すべての店が閉まり、街灯の下以外、漆黒に包まれている。
 二人は大会の事など忘れ、のんびりとした時間を過ごしていた。
 
極沢「……ッ!」
矢沢「……? なんだ、極沢。」
 
 極沢が突然、なにかの気配を感じ、周囲を見渡す。
 しかし辺りには誰もいない。極沢の奇行を不思議そうに見つめる矢沢。
 警戒を怠らずそのまま再びベンチに腰掛ける極沢。

極沢「……エイちゃん。なにかが近づいてきている。」
矢沢「へ?」

 極沢に促され、ベンチから立ち上がり、周囲を見回す矢沢。
 やはり辺りには誰一人としていない。
361985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 19:50 ID:???
矢沢「……おいおい、びびらせんな……!!」
 
 商店街の闇から音が反響してくる。靴の音。誰かが歩いてくる音。
 音は徐々に大きくなっていく。周囲に緊張が走る。

矢沢(……あっ……ハハハ、何も人が来たからって大会の参加者って訳じゃ……)

 しかし。ビーーーーーーー。
 矢沢の願いも虚しく、静寂を携帯のブザーが打ち破る。
 大会ベスト4。全国の不良の中で、最低でも三番目に強い、猛者。(矢沢をのぞいて3位)

極沢「……?」
矢沢「……おい!極沢。」

 靴の音を不思議そうに聞いていた極沢。矢沢の声に促され、ベンチから立ち上がる。
 極沢は注意深く、闇から響く音に耳を傾ける。音を発しているのは一人。
 
極沢「? ……一人?」
矢沢「おい、極沢。大丈夫か?おい!」

 さきほどから様子のおかしい極沢を心配して矢沢が声をかける。
 極沢は何事かの迷いを振り払い、拳をパキリと鳴らす。

極沢「……大丈夫だ。」
矢沢「大会ベスト4だぞ。勝てるか?」

 矢沢の問い。さきほどからの極沢の異変を感じ取っての物なのだろう。
 極沢はそんな矢沢の不安を一言で振り払う。

極沢「……ワンミニッツでイナフだ……エイちゃん。」

―――――――――――――――― 矢沢&極沢 VS ?? 開始。
371985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/27 19:55 ID:???
少し宣伝がてらにあげておきます
38マロン名無しさん:04/08/27 21:26 ID:???
面白いでやんす。
391985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 04:25 ID:???
 張りつめる空気。向こうから歩いてくる影は一言も発さない。
 しかし、何か様子がおかしい。

矢沢「……ん? なんだありゃ?」

 影はふらふらと壁に寄りかかり、壁にすりつくようにこちらへ足を進める。
 暗い闇に月明かりがさし、男の輪郭を照らし出す。

矢沢「! オメーは……たしか前田……」

 月明かりに照らし出されたのはあまりに無惨な前田太尊の姿だった。
 右の拳は黒く変形し、顔面はもはやボコボコに腫れ上がり原形をとどめていない。
 
太尊「……あんたか。良かった。あんた、になら……すまねー……頼みが、ある。」

 なんとか矢沢達の所に辿り着いた太尊は必死に荒れた呼吸を整え、なんとか言葉を紡ぎだす。

太尊「……このままじゃ引き分けに、なっちまう。あんた俺に。とどめを、刺してくれ。」
矢沢「はぁ?」

 予想外の太尊からの提案。もはや自分が手を出すまでもなく太尊が
 立ってもいられない状態と言うのは分かる。なのになぜ?
 矢沢の顔に浮かぶ疑問を察したのか、蚊の鳴くような声で太尊が必死に声を出す。
 
太尊「……あんたにも言っただろう……約束なんだ。
   引き分けじゃなく、俺は、勝たなくちゃいけない。でもこのままじゃ……
   頼む。何度も迷惑かけてすまないがあんたが、俺を、倒してくれ。それで、約束は守れる。」
401985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 04:26 ID:???
 思わず、息を飲む。なぜここまでできるのだろうか。友人との約束?
 そんな事の為に命を張ると? 軽薄な矢沢の心にも動揺が流れる。
 事態を察した極沢は後ろへと身を引き、矢沢を前に押し出す。
 
極沢「……エイちゃん。やってやれ。」
矢沢「うぅ。」
太尊「……さぁ、頼む。」
矢沢「……うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

 渾身の叫びとともに全力で矢沢は瀕死の太尊へ拳を振るう。
 闇夜に響く女の平手打ちのような乾いた音。だが、その拳で太尊は地に屈する。
 もはや限界だったのだろう。太尊はようやく、その拳で眠りにつく事が許された。

極沢「……エイちゃん。早く携帯を。」

 極沢に促されるままに矢沢は太尊の懐から携帯を取り出す。
 手が震えている。なにか、乾いていた矢沢の心に。なにか。

矢沢「……もしもし、本部か? 矢沢だ。早く救急車を……」
??「動くなっ!!!」

 矢沢の声が何者かの声でかき消される。
 声の先に目をやると、いつの間にか暗闇の中に多くの息づかいが潜んでいた。
 
――――――――――――――――――――矢沢&極沢 VS 前田太尊  矢沢の勝利。

―――――――――――――――――――――――― 前田太尊、失格。
411985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 11:32 ID:???
 闇の中うごめく何か。一瞬の間をおいて、カッと矢沢達を人工の光が照らす。
 反射した明かりで向こうの影が浮かび上がる……商店街中埋め尽くされた、警察官の群れ。

矢沢「……なっ!?」
極沢「 やっぱりか。」

 矢沢、思わず足がすくむ。なぜこれだけの警官が?
 群れの中の中心らしき人物が拡声器を手に諭すように語りかける。
 
警官「……今日、この街で多くの事件が起きた。傷害、器物破損、そして、殺人。
   これらの事件の目撃例から『他所からきた未成年』という犯人像が浮かび上がった。
   そして今、君たちがそこにいる学生に暴行を行うのを我々は目撃した。
   もはや言い逃れはできんぞッ!糞餓鬼共!」  

 最後には語気を荒げ、拡声器から発せられる音がノイズとともに響き渡る。
 一瞬の判断。とっさに群れとは反対方向に逃げようとするが。
 横の路地、後ろの道、全てを警官が塞いでいる。

警官「我々も必死なんだよ。今日一日起きた事件。一日かけての捜査。
   その結果が何も成果なし、じゃ大人の世界は大変な事になるんだよ。
   貴様ら、死んでも逃さんぞ。覚悟しろッ! 糞ガキどもがッ!!」 
矢沢「……さ、殺人事件?」
421985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 11:36 ID:???
 心当たりが無いと言えば嘘になる。この大会の参加者の仕業だろう。
 この人数からも相手が警察のメンツに必死なのは手に取るように分かる。
 逃げようとした所で逃がしてくれる道理も無い。

矢沢「き、極沢ぁ。」

 矢沢、あまりの逆境に気を失いそうな声で振り返る。
 だが、極沢は目を閉じたまま。いっこうに返事が返ってこない。
 すると、目をゆっくりと開け、矢沢の目を見据え、ゆっくりと語りかける。

極沢「エイちゃん。『一億円』欲しいか?」
矢沢「……は? 何言ってんだ! それより今この状況を…」
極沢「答えてくれ。頼む。」
矢沢「……欲しいよ! 欲しいに決まってんだろうがッ!!」
極沢「なら、一言、俺に何か言ってくれ。何でも良い。」

 矢沢、極沢の意図が一切読めない。
 頭がいかれたのか? そんな顔を浮かべ、極沢を見つめる。
 だが極沢は一切視線をそらさない。ただ待っている。矢沢の、言葉を。
 警察は瀕死の前田太尊を運んでいるのだろうか、一時、人の山は割れ、動けずにいる。
 目の前の二人はすぐに投降する。その余裕からか警察は動かない。
 そして、極沢もじっと矢沢を見据えたまま動かない。
 
極沢「……」
431985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 11:38 ID:???
 初めての『友』 だが、自分はいつものように利用されているのかもしれない。
 いつものよう。それも少し違う。今までは友人なってくれるなら誰でも良かった。
 だが、今は違う。『エイちゃん』で無ければ。たったの数時間の付き合い。
 だが、もう自分には他に友人はいない。唯一無二。たった一人の親友。

 目の前には大勢の警察官がひしめいている。正義の公僕。
 親が教えてくれた、世の中の摂理。警察には逆らってはいけない。正しく、絶対のルール。
 だが、自分は見つけてしまった。自分の中で何よりも正しく、美しい、新しいルール。
 世の中の『摂理』と、真の『親友』 もはや、較べるまでもない。
 声に出さねば極沢は動かない、そう感じ取った矢沢は訳も分からず叫ぶ。

矢沢「頼む。俺を優勝させてくれッ!! 極沢ッ!!」
極沢「……OKだ。エイちゃん。」

 たった一言だ。この一言で、何者にも。何者にでも。
 極沢はおもむろに懐から自分の携帯を取り出す。
 
極沢「……もしもし、極沢、リタイアだ。」
矢沢「なっ!?」

 電話の向こうからも矢沢と同じように驚嘆の声が上がるのが聞こえた。
 だが、自分にはもう関係ない。自分はこれからどうなるか分からない。
 そのとき、自分が矢沢の優勝に何か足枷にならないとも限らない。自分はここで消える。
 突然の奇行にあっけにとられている矢沢。その襟首を極沢がつかみあげる。

矢沢「……な、なにすんだ? 極沢?」

 極沢は矢沢の問いに答えない。ただ、高く遠くを見つめ、ある物に目を付けた。
 遠くに見える、ビルの屋上にある鉄網の柵。

―――――――――――――――――――――――― 極沢 失格。
441985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/28 11:43 ID:???
またあげておきます
45マロン名無しさん:04/08/28 20:12 ID:???
あ〜テステス。
ただいまマイクのテスト中。
46マロン名無しさん:04/08/28 20:21 ID:???
作品の分量、レス数にして500レス分はあるよな?
まさか100、200レス分程度で単独スレは上げんよな?
47マロン名無しさん:04/08/28 20:37 ID:???
1000
48マロン名無しさん:04/08/28 20:41 ID:???
>>46
あるに決まってるだろ。
あまり失礼な事言うな。
49マロン名無しさん:04/08/28 23:30 ID:???
次回、警察地獄絵図の予感。
スペックが警視庁で暴れまわった時みたいになんのかね。
501985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 03:04 ID:???
――――――――東雲町、大会本部。

光成「……どういう事じゃ?」

 極沢からの突然のリタイアの知らせ。ベスト3。大会の終盤。ここまできての突然の棄権。
 大会本部に動揺が走る。慌てふためき、お互いの顔を見合わせる黒服達。だが、ただ一人。

栗木「……徳川様。」
光成「ん? なんじゃ、栗木。」

 黒服の一人、他ならぬ極沢をスカウトしてきた男、栗木拓次。
 普段より幾分、引き締めた顔で徳川の前に歩み出る。

栗木「……質問があります。このあと、極沢の処分についていかにお考えですか?」
光成「ん。 ……実はのぅ、今日、この街で殺人事件があったじゃろ? 
   さっきあの周辺に隣町から大量の警察が投入されたと言う知らせがあったんじゃ。
   たぶんその辺が原因じゃとは思うんじゃが……それでもリタイアはのぅ……」
栗木「………」
光成「うーむ。極沢の処分か……どうしたもんかのぅ。
   ワシとしてはせっかくここまで残った猛者達じゃ。
   後日残りの3人で再試合と言うのも……」
栗木「……では今すぐ私を解雇して下さい。」
光成「……!」
栗木「…夜叉猿に敗れ恐怖で逃げ出し、格闘界に居場所のなくなった私を拾ってくれた事。
   大変感謝しています。ですが。俺は…」
光成「……分かった。今からお主には暇を出す。どこへなりと行くが良い。」
511985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 03:05 ID:???
 栗木、光成に深々と一礼し、そのまま振り返る事もなく本部をあとにする。
 それを見届け、イスに深々ともたれかかる光成。黒服の一人が歩み寄ってくる。

黒服「よ、よろしいのですか!? 光成様。なんで栗木さんは……?」
光成「……まぁ良い。極沢のリタイヤ。仕方ないが受諾しよう。おぬしには分からんか?
   栗木も地下最大トーナメントに選ばれるほどの闘士。何となく分かっておったよ。
   奴の口から『夜叉猿のような男』と聞いた時からの。試してみたいんじゃろう。
   それに案外……今の奴ならひょっとすると……」
黒服「…………」
光成「さて!残るはあと二人。このままではまたしょうもない水入りが入らないとも限らない。
   今すぐ二人に連絡をとれ! それと今すぐ車を出せ。ワシらも行くぞ!」
黒服「は? ど、どこへ?」
光成「決まっておる! 今大会の最終決戦。至上の傍観者としてこれを見逃す手は無い!
   急げ! こういう大勝負、決まるのは一瞬。急がねば見逃してしまうぞッ!!」
黒服「は、はい!」
521985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 03:07 ID:???
――――――東雲町、風俗街。

 道いっぱいに広がる人ごみの中、遠くから見ても一目でそれと分かる。
 包帯に包まれた上からでも分かるほどの凶相。さまよう悪鬼のように街をうろつく。
 大会最後の生き残りの一人、一条武丸。
 ついに最終決戦に向け、本部からも連絡が入る。

黒服「……ですので、今あなたのいる風俗街が一番警察も手薄と言う事なので
  そこで闘っていただきます。もうしばらくお待ちください。
  もうしばらくすればあともう一人、最後の対戦相手を誘導しますので……」
武丸「……待てるかよ。」
黒服「え?」

 そう言うと武丸は携帯を地面に落とし、
 従来の物より頑丈に作られているはずの徳川印の携帯を踏み壊す。

武丸「……早く……早くよぉ……待ってられねぇんだよぉおぉぉぉぉぉ!」
  「うるせーぞぉ、糞ガキィ!!」
 
 武丸の咆哮に、酔っぱらいが気に障ったのかクダをまく。
 次の瞬間、武丸に足に引き潰される酔っぱらいの顔。
531985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 03:07 ID:???
武丸「……クソがぁッ!足んねぇ!足らねーンだよぉッッ!!」

 武丸の突然の凶行。道行く通行人を誰彼構わず気が済むまで殴っていく。
 標的が動かなくなると、また人ごみ中から新たな標的を見つけ殴り飛ばす。
 気がつけばいつの間にかあれほどいた人ごみが逃げる人間と野次馬で
 武丸を中心に輪を作り即席のリングを作り上げていた。

 その狂気の輪から必死で逃げ出す人、人、人。
 反対側から歩いてきた男がそのうちの一人を捕まえ、尋ねる。

??「おい、いったい何があった?」
  「知らないよ!なんだか変なガキが暴れてるんだ!」

 ほぅ、と声を出し、人の動きとは逆に酒を片手に狂気の輪へと歩を進め、
 まるでおもちゃを見つけた子供のように顔をきらめかせる武神、松尾象山。
 
象山「ちょうど姫川がホテルに帰っちまって暇してたとこだ。
   ハハハハ! まったく。良い酒の肴じゃねーかよ、おい。」
541985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 03:09 ID:???
>>46
すいませんが後100レスもないです。あくまで完結させる為だけに立てましたから。
55マロン名無しさん:04/08/29 03:10 ID:???
済んだら感想とかで900くらい埋めたりするよ。
56マロン名無しさん:04/08/29 03:29 ID:???
ヤザワが優勝したとして、ご老公は素直に金を渡すのだろうか?
571985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 08:27 ID:???
―――――東雲町商店街・西。

矢沢「なにすんだッ!? 極沢ッ!」

 極沢は矢沢を掴み上げたまま質問には答えず深く息を吸う。
 これだけの警官。矢沢を守り切る自信は無い。
 これしかない。そう意を決し、体をまるで一振りの弓のようにしぼり切る。

極沢「……また会おう。エイちゃん。」
矢沢「へ………ビギっ!」

 次の瞬間、矢沢の体に強烈な負荷がかかり、景色が加速する。
 ふと、地面が無く、空が無い、方向と言う物がなくなり、体が回転していく。
 気がつけば遥か空の上。空中を旋回している。
 極沢全力の投擲。矢沢の体は紙くずのように遠く、空へ放り上げる。
 矢沢、なんとか空中で姿勢を保ち商店街を見る。敷き詰められたように配置された警察官。
 ゆうに200人以上はいる。いくら極沢でも………。
581985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 08:29 ID:???
 ……今、気がついた。さっきの極沢の言葉を。
 『また会おう』 その言葉に秘められた意味を。思わず、ノドからせり上がる叫び。

矢沢「極沢ーーーーーーーーーー!」

 その声が聞こえたのか、極沢は一瞬、表情を緩めた。
 突然の事態に警察は慌てふためいている。そのうちの一人が正気に戻ったように叫ぶ。

警察「な、なにをしている! 早くあの飛んでいったチビを追……」

 言葉が終わる前に、警官の顔面には極沢の拳がめり込んでいた。
 吹き飛ばされる警官。突然の極沢の抵抗に驚いた複数の警官が極沢に覆いかぶさる。
 だが。闇夜に響く、音速を超える拳の音。警官が次々なぎ倒されていく。

極沢「……誰一人、追わせはしない……」

 そう言い終わると、地を蹴り、警官の群れの中に単身飛び込む。
 拳の音ともに次々と地に屈していく警官達。その異様な光景に一人、警官が立ちすくむ。
 その前に立ちふさがる極沢。足が震えて動けない。思わず、腰に下げていた拳銃に手を……。
 ―――――次の瞬間、夜の商店街に一つ。拳銃独特の乾いた音が響いた。
591985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 08:29 ID:???
>>55
少々虫のいい話ですがそうしていただけるとありがたいです。
601985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 11:53 ID:???
 あるビルの屋上。人一人を『受け止め』、原形をとどめず醜く歪んだ鉄網の柵。
 その傍で何もできず呆然とうずくまる、矢沢。
 全て計算し尽くしての行動だったのだろう。きちんと、柵に着地し、衝撃を殺すように。
 そして自分は一人、あそこで犠牲になる事も。
 矢沢は無言で立ち上がり歪んだ柵をなでる。顔をうつむき、思い出したかのように吹き出す。

矢沢「……プッ。ギャッハハハハハ。ま、まさかあそこまで役に立つとは思わなかったぜ!
   全くよぉ、なんでそこまで初めて会った人間信用できんだっつーの。
   ハハハ。利用されてる事に微塵も気づかねーなんてよぉ。全く馬鹿丸出しだぜ。
   ……ギャハハハハハハ! ……ハハ……」

 ――そこで『嘘』は止まる。忘れる為の嘘。自分をごまかす為の嘘。悲しい嘘。    
 再び無言でうつむく矢沢。ふいに懐の携帯から着信音が鳴り響く。
611985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 11:53 ID:???
矢沢「……もしもし?」
光成「おー! 矢沢君! 決勝進出おめでとう!」
矢沢「お、おう。じいさんか。当たりめーだろ。俺はあの矢沢様だぜ?」
光成「おうおう、頼もしいのぅ。で、君に伝える事があってな。
   ひょっとしたら気づいてるかもしれんが今、東雲町には警察がひしめいておる。
   だから最終戦の場所はこちらで指定させてもらう事にした。」
矢沢「……警察……ああ、気づいてたぜ。それで、どこで、やるんだ?」
光成「場所は一番警察の巡回が手薄な北西の風俗街。残りの一人はもうスタンバイ済みじゃ。」
矢沢「…………」
光成「……? 矢沢君。何か元気が無いのぅ。大丈夫か?」
矢沢「……あ、ああ。」
光成「ふむ、矢沢君。君は勝者の責任、というのを知っておるか?」
矢沢「……勝者の、責任?」
光成「そうじゃ。今君の立っている場所はいわば、積み上げられた敗者達の死骸の上。
   おぬしなら分かるじゃろ。そこに至るまで、何人の漢達を見てきた?
   今おぬしがいる場所は今大会に参加し、敗れていった猛者達でできておる。
   その者達の為にもおぬしは全力で闘いに臨まなくてはならん。」
矢沢「……今まで出会ってきた……」
光成「公正を期すためあんまり大声じゃ言えんが実はワシはおぬしに勝って欲しいと思っとる。
   小身が大漢を制す。まさに爽快に尽きるじゃないか。それじゃ君の勇士を期待しとるよ。」

 プツリと電話の音が切れ、再びあたりを静寂が包む。だが矢沢の耳にある言葉が染み付く。
 『今まで出会ってきた漢達』 この大会で、出会った連中?
621985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 11:55 ID:???
 光成を自らの祖父に重ね、光成を喜ばせる為だけに闘っていた、河合星矢。
 友との約束の為、プライドをかなぐり捨てての土下座。
 そしてその約束の為に自分の命すら投げ出そうとすらしていた、前田太尊。
 そして極沢。極沢の声。『エイちゃん』と呼ぶ声が頭の中にこだまする。
 
 矢沢栄作と言う男は、本来、他人に心を動かす事は無かった。
 力なき弱者が力を手にしたとき、余りある残虐性を発揮する。
 矢沢栄作。彼もそう言う男だった。だが。ここに来るまであまりに多くの。
 彼はあまりに多くの心を踏みにじってきた。親切、愛情、尊敬、そして友情。

 人は元より『善』でも『悪』でもない。
 もしそのどちらかに染まるならそれは『偽善』と『偽悪』でしかない。
 そして今、心の中ですら無視してきた思いが矢沢の『偽悪』を否定する。
 自らの生き方に負い目を感じていた何かが、今、ようやくあふれ出す。
 
 ―――――――気がつけば、頬には涙が伝っていた。
 今まで溜め込んでいた、生き方への後悔、自らへの怒り、そうしたものたちが、今。

矢沢「……う…うあああああああああああああ!」

 衝動のまま、矢沢は叫ぶ。叫びは街の雑踏にかき消される事なく闘いの街に響き渡る。
 今、矢沢の中で確かな何かが芽生えようとしていた。最終決戦、直前。
63マロン名無しさん:04/08/29 15:56 ID:zrtw+7R8
期待age
64マロン名無しさん:04/08/29 16:11 ID:???
>>55
絶対やれよw
俺は読んでないからできないけどw
65マロン名無しさん:04/08/29 16:12 ID:???
>>64
過去ログ読んで
ハイライトシーンを挙げて解説したりするよ。
661985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 18:53 ID:???
 風景は見えない。ただただ涙を流しながら足を進めた。
 深い腹の底には何か暖かいものがあった。それが徐々に熱いものへと変わっていく。
 夜の街を大股で歩いていく。ただただ決戦の地に歩を進めた。
 
 昔、自分は似た名を持つ矢沢永吉に憧れ『不良』に憧れた。
 しかし、小学校、中学校。いつの間にか自分は『不良』からはかけ離れ、
 逆に『いじめられっ子』としての悲惨な日々を送った。
 そんな自分に嫌気がさし、高校に上がると同時に自分を嘘で装う事にした。
 
 ――――仕方がなかった。
 生来、体も小さく、力も無く、根性も無い。
 自分が『不良』になるにはその手しか無かった。
 しかし、そんなものは言い訳だった。
 無い物ねだりで地面に這いつくばり、他人を妬んでいるだけ。
 
 何も鍛えず、何も考えず、何も信じず、何もしない。
 そんな自分が『不良』になれるはずが無かった。自分の憧れた『不良』
 無敗を誇り、何事にもとらわれず、人の為に、自分の信念の為のみ闘う。
 まるで極沢のように。自分はなろうと。そこを目指していたはずだった。

 努力を嫌い、他人の勝利を妬み、人の優しさをあざ笑う。
 昔夢見た『自分』からはかけ離れた『自分』

 無言で戦いの地へ足を進める。いつか夢見た『不良』のように。
 友の為、何かの為に闘おうと心に誓う。河合のように、前田のように、極沢のように。
 気がつけば、頬を伝っていた涙は枯れ、
 腹の底から沸き上がる熱は全身を伝い、矢沢を熱の固まりに変えていく。
671985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 18:54 ID:???
 気がつけばケバケバしく輝く東雲町風俗街。
 足下にはゴロゴロと人が転がっている。
 全員例外無く顔面を腫らし、何者かの暴力によって地面に転がっているのが伺う事ができる。
 一つの確信。いっそう歩みを早める。進むごとにその何者かの痕跡が増えていく。
 ビーーーーーーー。暴夜に響き渡るブザー。
 
 見ると、目的の男はすでに何者かと向き合い、戦闘態勢をとっている。
 だが自分の懐からも鳴り響くブザー音に気づくとゆっくり顔をこちらに向けた。
 体中から死気を臭わす怪物、一条武丸。
681985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 18:57 ID:???
武丸「……やっとかよ……やっと揃う……揃いやがったぜぇ……ハハハハハ!」
象山「おい、無視かよ。」

 武丸と臨戦していた象山。無視された事に苛立たしげに語気を強める。
 だが、武丸は一向に視線を戻さない。矢沢を見据えたまま。
 つられて象山も視線を武丸の視線に重ねる。

象山「……ん、ありゃあ、ラーメン屋にいたチビじゃねえか……?……
   ……いや、あれは……どういうこった? さっきとはまるで……」

 ラーメン屋で見たときは耳糞ほどにしか感じなかった。はずの男。
 酔いのせいだろうか、矢沢に少し興味がわく。たった数時間で人があれほど変われるのだろうか。
 目先の怒りや闘争心より格闘家としての好奇心が強まっていく。
 
象山「……へっ……まぁいいや。譲ってやるか。」

 象山は拳をほどき、ドカッと近くのゴミバケツに腰掛ける。
 最も近く、最も多くを見る事ができる即席の観覧席。
 この大会の最終戦。『執念の怪物』、一条武丸。『成り上がり』、矢沢栄作。
 
 ―――――――――――― 一条武丸 VS 矢沢栄作 開始。
691985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/29 18:57 ID:???
>>65
そこまで読んでもらえて逆に恐縮です。
楽しみにさせてもらいます。
70マロン名無しさん:04/08/29 20:17 ID:???
いや、あの、そのレス、ネタなんだけど・・・
71マロン名無しさん:04/08/29 20:22 ID:???
>>70
頑張れよ、700レスも感想と解説って大変だぞ
協力してやりたいが読んでないからな
72マロン名無しさん:04/08/29 23:21 ID:???
65≠70ですがね。
73マロン名無しさん:04/08/30 00:19 ID:???
象山らしくないな
74マロン名無しさん:04/08/30 02:35 ID:???
>>70
最低だな・・・。
751985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:32 ID:???
 相対する二人。交わす言葉などあるはずもなく、そのまま決戦に臨む。
 だが、矢沢には闘気は無い。ただ無表情で立っている、だけ。
 だがそんな事はおかまいなしに武丸は拳を構え、
 矢沢の顔面を引き潰す事のみに執着し、まるで全てを食らい尽くす獣のように襲い来る。

武丸「がぁああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 矢沢は、特に冷めた顔で武丸に向け、足を進める。まるで散歩でもするかのように。
 そこからは何一つ、技を繰り出す事ができぬ雰囲気をまといながら。
 
象山「……ダメだな、こりゃあ。」

 もはや象山でなくとも、誰が見てもこのまま矢沢は武丸に引き潰される事が分かった。だが。
 ――――矢沢には高校に進学すると同時に奇妙な『悪運』がついて回った。
 矢沢を生か死かの極限までに追い込み、そしてその極限まで来るとふいと助ける『悪運』
 それはまるで、矢沢を試しているかのようでもあった。

象山(……終わったな。)
矢沢(………)
 
 いつもはうつむくはずの目は凶悪なる敵・武丸を見据えている。
 いつもは逃げるはずの足は悠然と武丸に向け進んでいる。
 いつもは臆するはずの心はなぜか涼しい。
 いつもと違い、初めて何かの為に、誰かの為に体が動く。
 ―――――次の瞬間、矢沢の『悪運』が『天運』へと昇華する。
761985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:37 ID:???
 死地へと悠々と進む矢沢の足に、捨てられていたナイロン袋がまとわりつく。
 取られる足。バランスを崩し、後ろ向きに重心が移動する。
 だが矢沢の表情は変わらない。まるで、こうなる事が分かっていたように。
 次の瞬間。

武丸「 ! ? 」

 そこには見据えていたはずの標的、矢沢の姿がない。武丸に腕に何かがまとわりつく。
 一瞬、何かがゾクリと全身を突き抜け、視界に月が入る。
 だが、歪んでいく月。丸く輝くはずの月がぐにゃりと形を変える。
 
武丸「……つ、"月"が狂って……」

 顔にドシリと何かが当たる。当たる? 違う。なぜか呼吸ができない。
 なぜか左の頬にコンクリート、地面が存在している。腕、首、全身に何かが巻き付いている。
 次の瞬間、体から全身を駆け抜ける音が響き、その音を最後に武丸の視界が暗転していく。

 武丸の肉体は不死身。執念が突き動かすその体。腕が折れればヒジで殴り、足が折れればヒザで立つ。
 だが、人体が耐えうる衝撃を超える、最大限の痛覚。脳が強制的に武丸の体を停止させる。
 最も近く、そのすべてを見ていた武神・松尾象山。眼を見開き、体を武者震わす。
 その背にはここ数十年、決して流れる事の無かった冷や汗が伝っていた。
771985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:38 ID:???
次の更新で大会は終了。エピローグに入ります。
781985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:44 ID:???
すいません。やはり都合上、今日中に全て終わらせてもらいます。
791985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:47 ID:???
 ―――――――それは一瞬の出来事だった。
 バランスを崩し、後ろに倒れ込む矢沢の前に突き出された武丸の拳。
 それを手に取り、倒れる勢いのままに武丸の体をこちらに引き込む。
 右足は自然のように武丸の首にかかる。より安定を得る為に左足も武丸に近づける。
 そのまま武丸の顔面に炸裂する左ヒザ。そのまま武丸の体をクッションにし地面に落ちる。
 足下には武丸。ただ目の前に極められた武丸の右腕。ただそれを。簡単だった。
 軽く力を入れると、崩壊する武丸の右腕。足下でも武丸の動きが止まる。
 ――――――それは、偶然が生み出した技だった。

象山「……『虎王』…」

 松尾象山は見た。その一部始終を。目の前の。貧弱な少年が繰り出したその技を。
 ―――――少々形状こそは違うが、それは紛れも無く『虎王』だった。
 
象山「……どういうこった……」

 別に少年が『虎王』を繰り出した事に驚いたのではない。
 それならば既に今日、そんな少年を一人見ている。葛西は言っていた。
 TVで丹波文七戦を見て、見よう見まねで覚えた、と。
 しかし、違う。目の前の『虎王』はあの時とは形状が違う。初めて見る型。
 ならば竹宮流の誰かに教わった? 泉宗一郎? 藤巻十三? 違う。
 こんな見事な『虎王』 教えられる人間など自分の知る限り存在しない。
 ―――――嫌な予感に思わず背筋が凍り付く。
 独学。TVで丹波戦を見、そのあと自分自身の技へと昇華させた?
 こんな少年が。一度見ただけで。自分流のあらゆるものを加え?
 それは完璧な『虎王』だった。間の殺し方、意の消し方、近代武術が忘れた全て。
801985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:48 ID:???
象山「…………」

 才覚。自分と同格、もしくはそれ以上の。
 象山は先ほどの『虎王』を反芻する。もし、あれが自らに飛んできていたら?
 ――――避けられなかった? 自分もあそこで寝転んでいる少年と同じ目ように?
 無言で拳を作り、矢沢の背後ににじり寄る象山。しかし。
 ふいに何者かが矢沢の体を引っ張り、人ごみの輪に埋もれ、視界から消える。
 
象山「……!」

 象山は人ごみを急いでかき分け、輪から抜けると既に矢沢は黒塗りの車に乗り込んだあと。
 象山の事など気にもかけず、発進する。「!」

象山「……そうか、今日見たあいつらは全部……」
811985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:50 ID:???
 握った拳を宙に振るう。轟音とともに文字通り空を切る正拳。
 全身で回転し、轟音とともに文字通り空を切る回し蹴り。
 腹の底。眠りかけた何かがうずく。体が、止まらない。
 闘気を押さえ、元の場所へ戻るとそこに転んでいたはずの武丸の姿もそこには既になかった。
 まるで全てが夢だったように。だが、象山は見逃さなかった。先ほど見た車に彫られた、徳川の紋を。

象山「首謀者は徳川のジジイか……ハハハッ! 面白くなってきたじゃねえか!」

 武神は全てを理解し、驚喜する。日本中に埋まる『不良』という名の原石達に。
 そして武神は狂喜する。これから間もなく訪れるであろう、新しい『武』の時代に。
 そしてその時代においてもなお、自分が頂点に君臨する事を夢見ながら。
 今はただ衝動のままに、空を相手に演武のように全身を叩き付ける。
 たぎる血を押さえながら。『武』の高みでただ一人、その時を待つ。
 
――――――――――――――――――――矢沢 VS 武丸 矢沢の勝利。

―――――――――――――――――――――――― 一条武丸、失格。
821985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:53 ID:???
ここからはエピローグです。
831985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:55 ID:???
 ――――東雲町商店街・西。 
 全ての闘いが終わり、朝焼けに染まりだした街。照らし出されるのは、人の山。
 倒れているのは無数の警官。そしてそれらが積み上げられてできた山の端。
 弾のかすってできた顔の傷にハンカチで止血している―――――極沢。

極沢「……………」
 
 一晩かけて、誰一人矢沢の元に辿り着く事なく殲滅された警官達。
 それらを積み上げた山の傍で一人。少しばかりの眠気を抱き、もたれかかっている。
 
??「な、なんだッ!? これは?」

 突如、眠気を覚ます声が後ろで響く。
 振り返るとそこには黒服の男。自分をこの大会に誘った黒服、栗木拓次。
 端に潜む極沢に気づくと不敵な笑みをこぼす。
 
栗木「これは君がやったんだな? 極沢君。」
極沢「……ああ。」
栗木「そうか、そうだろうよ。こんなのは君以外にはできそうも無い。
   ……極沢君、一つ聞きたい事がある。君はなぜ、リタイヤしたんだ?
   はっきり言わせてもらって君ならこれくらいのアクシデントは簡単に……」
極沢「……人一人を守り切る自信は無い。」
栗木「……矢沢君か。気づいていたよ。君たちが組んでいる事ぐらいは。
   しかし、なぜ君が犠牲になる必要がある? なぜ君一人だけ?
   それこそ二人で抜け切れば良い話じゃないか。あまりにも薄情な話だ。」

 『薄情』 その言葉に一瞬表情を曇らせるものの極沢は答えない。
 少し、何とも重い空気が周囲に流れる。
841985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 06:56 ID:???
極沢「……俺は、エイちゃんに優勝して欲しかった。」
栗木「つまり、勝ちを譲ったと言う訳か。君たちに以前面識があったと言う情報は無いが?
   なぜ初めて会った人間にそこまでの犠牲を払う?」
極沢「…そうだ。初めて。今日、初めて会った親友だ。
   もし、勝ち負けと言う話をするのなら、たぶん。あのとき。
   エイちゃんと握手したあの時。あの時、俺は、負けた。」
栗木「……なるほど。まぁいい。疑問は解けた。 ……さてここからが本題だ。」

 栗木は深く姿勢を沈め、熟練された空手家の技を披露する。
 深く息を吸い、深く息を吐く。演武の最中、栗木はぽろぽろと自分の身の上を語りだす。

栗木「俺はね、極沢君。これでも伝統派空手と言う分野での最先鋒だったんだ。
   誰にも負けなかったし、誰にでも勝てるつもりでいた。だが。
   『地下最大トーナメント』、と言うものがあってね。」
 
 まるで苦虫をかみつぶしたような顔で。まるで懺悔するかのような口調で。
 今までの事の顛末を語る栗木。極沢はただ黙って耳を傾ける。

栗木「そこには世界中からあらゆる分野の格闘技。その最高峰の人間が集まっていた。
   当然、自分もそこに呼ばれた。負けるつもりは毛頭なかった。
   だが、そこは人外魔境。文字通り怪物が潜んでいた。その名は、『夜叉猿』」

 『夜叉猿』 その言葉を最後に栗木の演武が止まる。
 うつむき、顔が見えないものの語気からひどく狼狽しているのが分かる。
851985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:06 ID:???
栗木「奴は怪力を誇る大猿でね。ただの人間である自分の技など何一つ通じなかったよ。
   だが、ただ負けただけなら良い。格闘家として、よくある事だ。だが。
   ……自分は恐怖にとらわれ、 ……逃げてしまったんだ。恥も外聞もなく。
   世界の格闘家に復讐するつもりだった。『健康体操』『寸止めダンス』『臆病空手』
   そうして馬鹿にされ続けた伝統派空手こそが最強だと知らしめる為に。
   ……だが、自分の中にあったのは、ちっぽけな自尊心だけだった。」
極沢「………」
栗木「それからは散々だったよ。華々しく送り出してくれた仲間も。
   自らに期待していた弟子達も。そのすべてが自分から逃げてしまった。
   ……あれから私は幾月も修練を積んだ。確実に強くなった。その実感はある。
   『夜叉猿』 奴に今度挑戦してみようかと思う。今度こそ、今度こそ。」

 自らを落ち着ける為なのか、一つ息を吐き、呼吸を整える。
 すると、栗木はすっと拳を極沢の方に突き出す。

栗木「誠に勝手な願いだが、極沢君。俺は君の中に『夜叉猿』を見た。
   ……一度、試しに私と闘ってはもらえないだろうか?」

 栗木の願い。極沢は答えない。
 少し考えた後、すっと立ち上がり、栗木を迎え撃つように拳を作り上げる。
861985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:06 ID:???
極沢「……こい。」
栗木「―――感謝する。」

 数分後、乾いた音速拳の音と珍妙な奇声。それが商店街に響いた後。
 極沢は無言で警官の山に一つ。栗木を積み上げた。

極沢「………帰るか。」

 闘いは嫌いだった。何も生み出さぬ闘いを嫌悪していた。
 だが、友ができた。それだけで足取りはなんとも軽い。
 たぶん。エイちゃんにはもう会う事もないだろう。だが、それでも彼は自分の『親友』だ。
 常に一緒にいるのが親友と言う訳ではない。
 たとえ、離れ、二度と会う事なく、死に別れたとしても、悲しくはない。
 また、数時間の親友と出会える事を夢見て、これからも生きていこう。
 土を払って立ち上がる。その巨躯。そこにはもはや憂いなどあろうはずがなかった。

極沢「……また会おう。エイちゃん。」
871985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:08 ID:???
 西雲警察署。拘置所に誰かが階段で降りてきた音が響く。
 どこかくたびれた印象を受ける中年。西雲署警部、安部。
 拘置所の鍵を開け、ゆっくりと暗闇に手招きする。

安部「……出てこい。釈放だ。前田太尊……」
太尊「…………」

 太尊は矢沢に敗れたあの後、警察の手で西雲病院で手術を受け、
 そして術後、すぐさま重要参考人として地下拘置所に拘置されていた。
 安部は表情を変えず、太尊を拘置所から外へ案内する。

安部「……すまなかったな。」
太尊「………なんで俺は捕まってたんだ?」
安部「まぁ、謝ってもすむ問題じゃないな。事の顛末を教えるとしよう。
   普通こんな大怪我を負った人間を拘置所に入れるなんて正気の沙汰じゃない。
   実は今日殺人事件があってな。その捜査が行われてた訳なんだが。
   ……どうもその殺されたガキってのがある有名な大富豪様の息子だったらしくてな。
   滑稽な話だ。一日必死になって探しても成果があがらないもんだから
   上の連中は、偶然見つけたお前をおとりに使ったんだよ。」
太尊「……おとり?」
安部「そう、『囮』だ。奴らはこの町のほとんどの警官を隣町に導入して犯人を捜していた。
   しかし、一向に成果が上がらない。そして、次第に上層部も狂気に満ちてきた。
   何も成果が上がらなければ自分達の身も危ない。奴らも必死だった。
   もはや正確な犯人などどうでも良い。とにかく誰かを、ってな。
   そして、奴らは瀕死の重体でどこかを目指しているお前を見つけた。」
太尊「………それで?」
881985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:10 ID:???
安部「連中は考えた。そこでお前を捕まえるのは簡単だ。だが。
   今日はいつもと違い特別な日だった。普段暇なはずの隣街のあちこちで事件が起きた。
   目撃されたのは全て未成年だったらしく、共通点はいわゆる、『不良』。
   さすがに、これら事件、全てをお前一人にふっかけるのは無理だと悟った。
   そこで連中は考えた。おまえをしばらく泳がせれば仲間の不良の所へ行くだろう、と。
   そして、合流した瞬間に傷害罪で一気に捕まえる。」
太尊「……傷害罪? 何もしてないのにか?」
安部「そこでお前の出番さ。分かりやすく言うならお前は道ゆく途中に暴行を受けた被害者。
   そして、たまたま合流したお前の仲間達は今回の一連の事件の加害者達。
   むちゃくちゃな話だろ? まぁ、そこまで連中も追いつめられてたって事だな。」
太尊「……でも、それならなんで俺が?……」
安部「そして合流した連中は都合の良い事にお前に暴行を加えた。」
太尊「……ぼ、暴行って……あんな軽いパンチがかよ。」
安部「なんだっていいんだよ。とにかく、お前は暴行を受け、倒れた。
   何から何まで連中の思い通りになったって訳だ。」

 拘置所の扉を開け、安部は階段の上から太尊を手招きする。
 すると、突然向こうから走ってきた警官が安部の手をつかむ。

警官「ちょ、ちょっと安部さん! 勝手に釈放しちゃ困りますよ!」
安部「安心しろ。俺が上の連中と掛け合って、上の連中も了承済みだ。
   少なくともお前に危害が及ぶ事はねーから安心しろよ。」
太尊「………!」
891985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:12 ID:???
 安部の説明におそるおそる、手を離す警官。
 そんな矮小な様を鼻で笑い、安部は署内を悠々と太尊を連れ出す。
 外は夜。暗闇の中、駐車場で車を出す安部。

安部「家は東京だったな。送っていってやるよ。」
太尊「い、いや。さすがにそこまでやってもらうわけには……」
安部「気にすんな。俺もちょっと東京に用事があるんだ。さぁ、乗れ。」

 何も無い、ただまっすぐな道路を車が行く。
 車窓を流れる景色。ふと太尊が先ほどから気になっていた事を聞く。

太尊「……なぁ、あんたさっき『上の連中』と掛け合ったつってたよな。
   まさかあんた俺を助けてくれたのか?」
安部「……そういや話が途中だったな。奴らの思惑通りだったてのはここまででな。
   流石に奴らも想像しない事態が起きた。お前を殴った連中、ありゃ何者だ?」
太尊「…………」
安部「ふん、まぁいい。フフフ、信じられるか? 訓練された警官、総勢約200名。
   これがたった一人に全滅させられちまったんだよ。」
太尊「………んな馬鹿な……」
安部「だろ? でも事実だ。中には発砲した警官までいたって言うのに、
   結局、誰一人捕まえる事ができなかった。
   そして、仕方なく、上の連中はお前を殺人犯にしようとしたんだ。」
太尊「……で、あんたが救ってくれたのか?」
安部「……『救う』なんて大したもんじゃない。お前がな、似てたんだよ。
   前に俺の人生に生きる意味をくれた野郎に。工藤涯って言ってな。
   そいつもお前のように金持ちのクズどもの思惑で殺人犯にされようとしてな。
   だが奴は闘い、無実を勝ち取った。実は俺もそれに協力しててな。
   おかげで御偉い方に睨まれて今では田舎暮らしって訳だ。」
901985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:13 ID:???
太尊「…………ぅ」
安部「…上の連中も冷静になればそんな事は無茶だと気付く。簡単な話だったぜ。
   それに200人の警官の失態、発砲。これだけ材料が揃えば表沙汰になるのはヤバい。
   俺は少し、連中が冷静になるように諭しただけだ。気にするな。」

 安部は気付いていなかったが、後部座席。
 太尊は泣いていた。自分があまりに多くの人間の世話になったという事実に。
 葛西との約束は守った。そして花菱哲に、矢沢に、安部に救われた。
 人と人が助け、助けられ生きていく。世の中の形。太尊は、ただ、泣いていた。
 こうして、東雲町での全ての出来事が終わり、車は一路、東京へと目指した。
911985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:15 ID:???
 ――――――西雲町病院。
 大会から数日後、鬼塚が大会で大怪我を負ったと言う情報を聞き、
 親友・弾間龍二や仲間達が見舞いに訪れていた。

 龍二「あ、すいません。看護婦さん。」
看護婦「はい?なんでしょうか?」
 龍二「ここに『鬼塚英吉』ってのが入院してると思うんですけど。」
看護婦「……あ、鬼塚さんの見舞いの方ですか?
    実は申し訳ないんですが今、鬼塚さん面会謝絶なんですよ。」
 龍二「……え? そ、そんなに症状が悪いんですか? 障害が残るとか?」
看護婦「い、いえ。そう言う訳じゃないんですけど。なんというか。
    一種の錯乱状態のようなもので。担当の人から聞いた話だと、
    突然、看護婦の前で全裸になって自分の股間をハンマーで叩かせようとしたとか。
    仕方なく今、全身拘束させてもらってるんですよ。」
 龍二「へ? ハ、ハンマー? 錯乱状態?」
看護婦「ええ。前々から同室の三橋さんから虚言癖があるとか報告はあったみたいで。
    ですので申し訳ないんですが見舞いはまた今度で御願いします。」
    
 呆然とする一同。前々から変な人間ではあったが、まさかそこまで突き抜けるとは。
 心配半分、好奇心半分。彼らは「帰れ」と言われて帰るような連中ではなかった。
 その日の晩。窓から病室に侵入し、鬼塚の様子を探る。

龍二「おーい、鬼塚ー?」
鬼塚「んー、ひゅーじ。ふぁひゃく、ふぁひゃくたふへへ。」

 見ると全身拘束具で拘束され、口には舌を噛まぬようにマスクが縛り付けられていた。
 腕と足を縛り付けられた拘束具は鍵付きで龍二達のはどうしようもない。
 見るに見かねて龍二達は鬼塚のマスクを外してやる。
921985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:17 ID:???
鬼塚「……ぷはぁ! はぁ、はぁ。 ……おい! お前ら頼む。早く!」
龍二「あ? なんだ?」
鬼塚「早く俺の股間をハンマーで叩いてくれ!!」

 無言で炸裂する龍二の右拳。
 周囲にいた仲間も白い目で鬼塚を睨みつける。

龍二「お前、アホだとは思ってたがそこまで……」
鬼塚「違うッ! 話を聞け! とりあえず早く! 俺のズボンをおろしてくれ!」
龍二「テメー、まだ……」
鬼塚「いいから! 早く!」

 ものすごい剣幕に押され、しぶしぶ龍二が鬼塚のズボンをおろすと。
 鬼塚の股間。○ンポが見事に石膏で塗り固められていた。
 全員、あっけにとられた顔でお互いを見合い、こらえきれぬ笑いに腹を抱える。

龍二「クッ……プッ…クク…な、な、なにそれ?」
鬼塚「昨日退院した三橋って野郎が俺の寝ている間に石膏で固めやがったんだよ!
   朝起きて気付いてからすぐにでも壊そうとハンマー持ったら、
   ちょうど看護婦が来てよぉ。多分全部、何から何まで野郎の仕業だ。ああ。
   もう分かっただろ? 頼むから早く。早くしないと……」
龍二「わ、分かった。ちょっと待ってろ。」
鬼塚「は、早く頼む。昨日からずっと小便我慢しててもう膀胱が……」
龍二「あー! 分かった分かった! ちょっと待ってろ!」
鬼塚「……先の方からな。慎重にだぞ? 俺にはまだまだやりたい事が……」
931985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:18 ID:???
 龍二は急いであたりを見渡し、鬼塚が使おうとしたハンマーを棚から見つける。
 息を飲み、振りかぶって何度もハンマーを石膏に叩き付ける。
 3度、4度。石膏に徐々にひびが入っていく。何事無く終わろうとしたそのとき。

鬼塚「! ……あ。」
龍二「……へっ?」

 龍二の手の先に何か温かな風を感じる。
 次の瞬間、刺激に耐えかね、石膏の間からおびただしい量の液体が噴射する。

龍二「……ギャーーーーーー!」

 騒然とする病室。逃げ惑う鬼塚の仲間達。
 かまわず放心状態で噴射し続ける鬼塚。狭い病室はまさに一瞬で地獄絵図と化した。
 鬼塚はこの大会で『一億円』を手に入れる事ができず、
 それどころか『小便小僧』という不名誉なあだ名を手に入れる結果となった。
 この時、鬼塚の耳には遠くどこかで三橋が笑っているような声が聞こえたと言う。

鬼塚「ぁーー。」
941985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:31 ID:???
 私は黒服の一人、名は加納と言う。今、大会終了後日比野晴矢の事で楽園高校へ訪れている。 
 それは徳川の御老公からの粋な計らいだった。
 対戦した三橋から晴矢の闘いぶりを聞いた御老公は晴矢をいたく気に入り、
 大会で重傷を負い、入院している最中の欠席を学校側と交渉して出席扱いにする事になった。
 そして自分は今、楽園高校に来ている。交渉と言っても簡単な取り引きだ。
 徳川光成。この威光に逆らえるものなどこの国には数人ほどしか存在しない。

 来客用の下駄箱に靴を置き、階段を上がる。
 幾人の学生が自分とすれ違っていく中、一人。異彩を放つ男を見つけた。
 長髪の奥に隠された眼光。鋭く獣のような瞳の男。
 向こうも自分に何かを感じたのか、振り向き、何を言うでもなく睨んでくる。

加納「何か用か? 君。」
一条「…あんた何者だ? どう見ても堅気の人間じゃねえ。この学校に何のようだ?」
加納「…なるほど。確かに大した逸材だ。君が、一条君だね?」
一条「……本当、何者だ? あんた?」
加納「警戒する事はないよ。君の事は候補に挙がっていたので知っていたまでさ。
   それにこの学校で何かする、と言う訳じゃない。事後処理と言う奴だよ。
   ちょっとここの校長に日比野晴矢君について伝える事があってね。」
一条「……日比野? 日比野ならあんたの後ろに……」

 振り向こうとした瞬間、背後からの突然の衝撃。その言葉を最後に私は気を失った。
 目を覚ましたときには街の一角のゴミ箱の上。 
 この時、いったい自分に何が起きたのか見当もつかなかった。
 だが、後に聞く所によると日比野晴矢はあの手術の3日後、こつ然と姿を消していたらしい。
 そして、私の背後に現れ、私をバットでぶん殴った。
951985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:32 ID:???
 多分、私の推測によると、日比野晴矢は誰にも心配をかけたくなかったのだろう。
 だからまだ動ける体でもないのに無理をして友人には一切悟らせぬように学校へ。
 そこへ私が現れたものだから仕方なく排除した。
 なんとも、気持ちの良い気概ではないか。
 徳川公にも伝えておこう。危うく彼の努力を水泡に返す所だった。
 自分にも経験がある。若さ故の無茶であるが、私はそれを祝福しよう。
 そんな加納の思いを知ってか知らずか、楽園高校に晴矢の叫び声が響く。

晴矢「清志郎! 今日は約束の給料日じゃ! お好み焼き食わせろーー!」
961985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:33 ID:???
 大阪、尚輪寺。蝉時雨鳴き止まぬ境内に男一人。
 日課のスクワットを行う、鍛え上げられた筋肉の固まりのような住職、前田文尊。
 
文尊「……234、235、236……」

 自分の影の向こうから砂利を踏む音が聞こえる。
 息子の用高が帰ってきたのだろうか?
 しかし、顔を上げると顔を腫らした見知らぬ少年が一人。

文尊「あ? 誰や? お前。用高のダチか? 用高はまだ帰ってへん……」
憂作「久しぶりだな。文尊。」
文尊「…久しぶり?」 
  
 その少年は誰かに似ていた。昔、どこかであった、誰か。
 しかしどうにも思い出せない。ノドまででかかっていると言うのに。

憂作「……あんたに頼みがある。」

 最初からこうすればよかった。随分と回りくどい道を選んだと自分でも思う。
 過去の決着が付ける事ができるのは、過去に闘った当事者のみ。
 少年・沢渡憂作は静かに荷物を地面に置き、ゆっくりと構える。
971985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:36 ID:???
文尊(なんや、このガキ? 一体……!)
憂作「……いきなりでなんだとは思うが。俺と闘ってくれ。」
文尊「…ククク。ハッハハハハ! なるほどの! ええぞ! やろうやないか!」
憂作「……本当にいいのか? 『坊主が喧嘩しちゃいけない』んじゃないのか?」
文尊「ハハハ! なんや? 自分から喧嘩ふっかけといてからに
   いざやるとなったらビビってしもうたか? 構やーせん!
   今だけ坊主は一時休業や。胸貸したるわ。こいや。」

 この男にはフェイントなど無意味。憂作はさらに固く拳を結ぶ。
 言葉が終わると同時に、憂作は間をつめ、右裏拳から返しての右フック。
 だが、文尊は連撃を避けない。右ほほにめり込む憂作の拳。
 文尊は顔色一つ変えない。それどころか愉快至極といった様子で笑う。

文尊「カッカッカ! ええパンチやんけ! 大きゅうなったな!九宝の息子!」
憂作「 !? 俺の事知ってるのか!?」
文尊「あ? なんや。お前の母ちゃんから話聞いてきたんとちゃうんかい?」
憂作「……どういう事だ?」
文尊「どうもこうもワシはお前が小さい頃に一度会うとる。
   協会の会合で東京に行ったときにお前の家に寄らしてもらったんや。」
憂作「……いつだ? それに何の為に!?」
文尊「お前は覚えとらんやろ。まだ産まれたばっかやったからな。
   昔、ワシと九宝は喧嘩した事があってな。まぁその時はワシの圧勝だったんやけどな。
   またそれからしばらく経ってワシの所に九宝が喧嘩ふっかけにきた事があったんや。
   『もう今の俺は昔の俺じゃねぇ……もう一度俺と戦え』とか言うてな。」
憂作「…………」
981985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:40 ID:???
文尊「ワシはその時坊主に成り立てでな。喧嘩なんてもっての他やった。
   それに人を殴るゆうのが凄い怖い事やと気付いたんや。
   人間はもろい。下手したらパンチ一発で死ぬ事もある。残念やけどそのときのワシにはその覚悟はなかった。
   でも後になって気付いたんや。殴られんと救われん人間もおるゆうてな。
   世界を救うのが仏の仕事なら人を救うのは坊主の仕事。『救世』ちゅう奴や。
   ワシはちょうど東京に行けるようになったついでに九宝の家に足を運んだ。」
憂作「……しかし、九宝龍二はいなかった。」
文尊「そうや。ワシが上京した頃には幼いお前と奥さん残して蒸発してしもうとった。
   そして、九宝の最後も新聞で知った。もしワシがあそこで喧嘩してやっとたら…。
   九宝の息子。お前には本当にすまん事をした。謝っても謝りきれん。全部ワシのせいや。」
憂作「…気にすんな。お前のせいじゃねーよ。奴が勝手に暴れて勝手に谷底に落ちただけだ。」
文尊「…ホンマにおまえは親父そっくりやな。その目とかその軽い口とか。
   お前にそう言ってもらえると少しは気分も晴れるわ。んなら、続けようか!」
憂作「おう!」
文尊「お前の親父の為に取っておいた一撃や。……遠慮せず受け取れ!」
 
 次の瞬間、憂作が避ける暇もなく、その拳は憂作を意識を貫いた。
 たった一発。しかし、憂作はその一撃で全てが終わった事を悟った。
 明日からは、『九宝龍二』ではなく、『沢渡憂作』として生きていけるだろう。
 地面に伏せった憂作の顔。そこには影一つない、爽快な顔を浮かんでいたという。
991985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:46 ID:???
 病院の一室。窓からは昼の太陽が差し、物々しくチューブが這う男の体を照らす。
 体中をチューブにつながれた男。その傍で付き添う人影、久保島。
 機械が放つ弱々しい脈の音に徐々に不安が増していく。武丸が、死ぬ?

久保島「……武丸ぅ。なんでいなくなったと思ったらさらに大怪我負ってんだよぉ。
    もう訳分からねーよ。何やってんだよぉ。武丸よぉ、おい!武丸ぅ。」

 目の前で長い付き合いの友人の死が近づいているのかもしれない。
 そう思うとなぜかいてもたってもいられなかった。
 余計武丸の体に良くないと分かっていても久保島は武丸の体を揺さぶる。
 肉はどこまでも冷たい。呼吸はか細く、弱い。今、生きている事が不思議なほどに。
 だが次の瞬間、何かが久保島を弾き飛ばす。

久保島「ぐげぇっ!」
 
 壁まで弾き飛ばされる久保島。何が起きたのかよく分からない。
 とにかく気を落ち着け、目を開けると。そこには。信じられない。

久保島「   ! ?   武丸!?」
 武丸「久保島ぁ。ソッコー俺のインパルス持ってこい……」
 
 ベッドからムクリと起き上がり、まるで蜘蛛の巣でも払うように生命維持装置を外していく。
 まるで何事も無かったかのように立ち上がる武丸。
 夢でも見ているのか? しかし殴られた右ほおが痛い。夢ではない。
 久保島の眼前に。差し陽の中、再び笑う悪鬼。
1001985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:48 ID:???
―――――某パーキングエリア。

 数十人にものぼる特攻服に身を包んだ男達が駐車エリア一帯を占拠している。
 排気ガスが起こす風なのか、暴風にたなびく『厳駄無』と書かれた特攻旗。
 その群れの中心、武丸同様、包帯に体中包まれた男に幹部らしき男が語りかける。

  「ねぇ、総長。本当来るんスか? 聞いた話だと総長より重傷だそうじゃないッスか。
   そんな体で喧嘩しに出かけるなんてあり得ないっすよ。もう何日待ってるんですか?
   帰りましょうや。大体、総長の体だって本当ならまだ動いちゃいけな……ぐげっ!」

 幹部の言葉が終わるより早く、包帯の男・柴千春は石膏に包まれた右腕を振り下ろす。
 その場に崩れ落ちる幹部。同時に千春の右腕の石膏も簡単にはがれ落ちる。
 
千春「ごちゃごちゃうるせぇッ! あいつが負けたまんまベッドで寝転がってるはずねぇだろが!
   ここは奴の病院から矢沢のいる成南まで直行の道だ。奴が来ねーはずはねぇ!」

 石膏がはがれ落ちた右腕。青黒く、まるで細胞そのものが死んでいるような色をしている。
 だが千春はそんな事など構いもしない。動かぬ指を拳の形に曲げる。
 
千春「いいかっ! テメーらッ!俺は徳川のジジイと約束した!
   優勝したものには誰一人手出しはさせないとッ! 
   この約束は俺に課せられた重しだ! テメーら! 俺の為に死ねる覚悟はあるか!?」
101マロン名無しさん:04/08/30 07:48 ID:???
100
1021985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:49 ID:???
 ある種、独裁とも言えなくもない千春の檄。
 しかし、猛人、柴千春についてきた暴走族『厳駄無』のメンバーに迷いはない。
 呼応するようにパーキングエリア中に男達の凱歌が響く。
 すると、向こうから。辺り一帯の大気を震わす排気音の群れ。その中。ひときわ目立つ異音。
 間違うはずもない。一条武丸が愛車、SUZUKIインパルスの排気音。
 眩しい陽光の下、はためく『魍魎』の特攻旗に、日章旗の描かれた単車。

千春「いいかぁッ!! テメーら! あいつには手を出すんじゃねーぞ!
   今から野郎と俺のタイマンだぁッッ!!」

 武丸の視界に『厳駄無』の特攻旗の文字が見える。
 道路一杯に広がり、お互いを睨み合い、牽制し合う『厳駄無』と『魍魎』
 
武丸「……また"オメー"かよ……あり得ねーぞ、"千春"ぅ。」
千春「さぁ、武丸。こないだの続きおっぱじめようや。2回戦の開始だぁッ!!」

 自らの身の安全よりも勝利を欲する狂気。勝っても何がある訳でもない。
 だが、構わない。目の前にいる、こいつが気に入らない。こいつを消したい。
 ある種、純粋な衝動。衝動に突き動かされ、今また誰よりも似通った二人の闘いが始まった。 
 ―――――不死身の怪物、狂気の猛人。二人の闘いはまだまだ終わらない。
103マロン名無しさん:04/08/30 07:50 ID:???
一気に終わらせる気か。凄いな
104101:04/08/30 07:52 ID:???
よくも俺の100ををををををををををををををををををををを!!!
1051985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:55 ID:???
 徳川のじいさんの話からすると結局極沢は無事だったという。
 ほっとした反面、なぜか心は落ち着かない。 
 自分の眼前に。未だに信じられない。積み上げられた万札。『一億円』

矢沢「………!!」

 金とは魔物である。この魔力に幾多の人間が希少な能力を埋没してきた。
 そして、またここに一人。
 大会から数日後。矢沢の部屋、兼、隔離小屋として親からあてがわれたプレハブ小屋。
 そこで正座して一列に並ぶ『OZ』のメンバー。一番奥で『一億円』の上に鎮座する、矢沢。

矢沢「……くくく………ハハハ……ぎゃーはっはっはっは! 
   どうよテメーラ。ミリオネア矢沢様になんか言葉はねーのかよ!?」
相沢「まさか本当に優勝しやがるとは………」
椎名「いや! さすがは殿! この椎名は信じてましたぞ!」

 あの日、徳川邸にて『一億円』を贈与されたあの日。
 もはや、矢沢には欠片ほどにもあの時の気持ちは残っていなかった。
 吹き飛ぶ『天運』 帰ってくる……『悪運』。 

 その日の酒宴はなおの事、豪華なものだった。
 何万もする酒を惜しげもなく、飲み干し、飽きたら次の酒へ。
 矢沢を含め、そこにいる人間に酒が回り切った頃には調子に乗って、
 高級酒を使ってのビール掛けの真似事もやった。……今思えばこれが良くなかった。
1061985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:56 ID:???
 翌日。けたたましいサイレンの音に呆然とする矢沢達。
 ばらまいた酒に吸っていた煙草の火が引火。瞬く間にプレハブ小屋は火に包まれた。
 残ったものは、炭と灰に彩られ焼け落ちたプレハブ小屋と、『一億円』だった物の炭。
 そしてOZのメンバーに前借りしていた壮行会の借金。

矢沢「…………」

 『高級な酒も飲ましてやったんだし、借金はチャラにしろ。』
 こんな常識じみた言い訳もOZのメンバーには通じない。
 相沢や蜂矢などは自分の生活費も切り詰めて金を出したと言う。
 背中に、嫌な汗が伝う。マグロ漁船、地下帝国、エスポワール。嫌な想像も心を巡る。
 そんな中、野次馬をかき分け、一人の男が矢沢の肩を叩く。全身黒尽くめの、黒服。

黒服「……矢沢、栄作様ですね?」
矢沢「ふぇ?」
107マロン名無しさん:04/08/30 07:57 ID:???
「笛?」
1081985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 07:59 ID:???
 この道着に袖を通すのは何年ぶりだろうか?
 それでも体が覚えている。まとわりつくように数秒で着替え終わる。
 池戸流の演舞。もう何年もやっていない。しかし、体が覚えている。
 自分は未熟だった。父と同じ構えを持つあの男との試合にも敗れ、
 結局、何一つ得るものも無いまま、この『池戸道場』に帰ってきてしまった。
 
 道場に久しく聞こえぬ踏み抜きが響く。
 一つ一つ、思い出すように。ひとつひとつ懐かしむように。
 その様子を、窓から忍び見るスーツの男、姫川勉。
 
姫川「……困りましたね。」
 
 未だ包帯の取れぬ体で、それでも生き生きと、楽しそうに演武を舞う。
 表情はいつもと変わらない。それでも、どこか心躍るような。
 姫川は、無言でくるりと踵を返し、道場を後にする。

姫川「……あんなに楽しそうに自分の流派の演武をする人間を他流派に?
   フフ、誘えないですよね。仕方ない。
   今回は諦めますよ、池戸君。また、どこか。光の当たる場所ででも会いましょう。」

 その後30分近く、ゴリラーマンは道場で演武を繰り返し、
 ひとしきり汗を流した後、またいつものように釣りに出かけたと言う。
 たまたま見かけた友人の話によると、その様子はどこか楽しげであったと言う。
1091985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:00 ID:???
 煙が風に漂う正道館高校屋上。二人の人影が柵にもたれかかる。
 二人は何を語るでもなく無言。いつもの時間。これが彼らのいつも通り。
 そして、タバコの火が尽きた頃、片方の男がようやく口を開く。

坂本「……で、結局前田とはやれたのか?」
葛西「…いや。」
坂本「……そうか。」

 坂本の問いに答えると葛西はうつむきタバコの火を消す。
 数秒ほど何かを考え、吐露するように事の顛末を親友に話す。

葛西「俺にそっくりな野郎がいたよ。力に飲まれて力に生きて。
   止まれなくなるどころか止まろうともしない。笑ってやがった。
   自分がもし、ああなっていたかと思うと吐き気がする。」
坂本「………」
葛西「……俺はな。あの大会に出て分かったんだよ。坂本。
   俺なんてちっぽけなカスみてーなもんだ。ただ粋がってただけの。
   ……今まで俺はこの世で一番か二番くらい強いと本気で思っていた。
   だが、違う。俺なんてそんじょそこらのジャリガキだった。」
 
 松尾象山との出会い。それが葛西の心に震揺を起こさせる。
 心の奥底。震えるような思い。
1101985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:01 ID:???
坂本「……葛西?」
葛西「だからな。俺は決めたんだよ。本気で目指してやる事にしたぜ。
   誰よりも強く、誰にも負けない、『最強』って奴を。」
坂本「…もう言う必要もないよな。」
葛西「……ああ。飲まれる事なく、逆に飲み込んでやるさ。
   この世の、ありとあらゆる強さってもんを。」

 武神との出会いが、一人の不良の何かに火をつけた。
 また、『武』の高みを目指す者が一人。
 葛西の決意を聞き、坂本は安堵の表情を浮かべ、葛西を鼓舞する。
 いつものように、いつもと変わらぬ問答。

坂本「…そうか。頑張れよ。」
葛西「……ああ。」
111マロン名無しさん:04/08/30 08:03 ID:???
パオ「…そうか。頑張れよ。」
1985「……ああ。」
1121985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:05 ID:???
 帝拳高校。前田太尊の友人、勝嗣、米示。何をするでもなくぼーっと。
 今あるこの退屈な時間をどう紛らわせようか思慮している。
 すると、廊下から誰かが全速力で駆けてくる音が響いてくる。

大場「た、た、大変だーッ! 殿! 殿ッー!」

 二人の元へ走ってきたのは大場ヒロト。
 太尊を『殿』と慕う、いつも面倒ごとばかり起こす困った後輩である。
 まるでこの世の終わりでも来たような顔の大場を白けた目で見る二人。

勝嗣「……なんだ? ヒロト。また何かやらかしたのか?」
米示「悪いけど前田さんはいねーぞ。最近鬼のようにボクシングに打ち込んでっから。
   お前、前田さん困らすのも程々にしとけよ。」
大場「ちっ、ちが……ハァ…ハァ…な、殴り込み! 殴り込みが来たんス!」
勝嗣米示「…! な、殴り込み!?」
大場「と、とりあえず、今外で小兵二さん達が相手にしてるんスけど……」

 殴り込み。非常事態に急いで二人は現場に駆けつける。
 外に出て、辺りを見渡す。既に服を脱がされ裸一丁で地面に転がる小兵二。
 その相手は……たった一人。

米示「……おい、ヒロト。殴りこみってのはこいつの事か?」
大場「はい! どうも殿に用があるらしくて……あ痛ッ!」

 無言でヒロトを殴る勝嗣米示。あきれ果てて物が言えない。
 たった一人で殴り込みなどと言う話は聞いた事もない。

勝嗣「……はぁ、ったく。この馬鹿は。」
1131985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:06 ID:???
 その声で来訪者はようやく勝嗣達の存在に気付き、歩み寄る。
 背丈は低い、しかしどこか熱い圧迫感を与える男。
 どこか要領を得ないと言った様子で地面に転がる小兵二を指差す。

花菱「……なぁ、こいつがここの『てっぺん』ってのは本当か?
   俺はてっきり前田太尊がここの『てっぺん』だと思ったんだけど……」
米示「あー、悪い。その馬鹿は放っておいてくれ。ここの大将は前田さんだよ。」

 その言葉にほっとしたのか、来訪者・花菱哲の顔はぱっと明るくなる。
 腕をぐるりと回し、待ちきれないと言った様子で花菱は尋ねる。

花菱「なぁ、早く前田の野郎を呼んでくれねーか? へへ。待ちきれなくってよ。」
勝嗣「あ、ああ。悪かったな。うちの馬鹿があんたらを殴り込みだと勘違いしてよ。」
花菱「……ん? あれ? 伝わってないか? 俺は殴り込みに来たんだぜ?」
勝嗣米示「……なッ!」
花菱「良いから早く前田太尊を呼んでくれよ。こっちは北海道から来てるんだ。」
勝嗣「……へっ!あいにくだが前田さんは今ここにはいねーよ。」
花菱「……あー、そうか。しまった。そういや約束したけど日時決めてなかったな。」
 
 花菱は突然頭を抱え込み、ぶつぶつと独り言を愚痴る。
 しばらくの間、何か考え込んで、ようやく肩を落とし答える。
 
花菱「……しょうがねーか。あっちにも都合ってもんがあるだろうし。
   仕方ねー。また出直すわ。前田によろしく言っておいてくれ。」
大場「このまま帰す訳ねーだろ! このチビ!」

 突如、不意打ち気味に花菱に殴り掛かる大場。
 とっさの攻撃。避けきれずさすがの花菱も吹ッ飛ばされる。
1141985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:07 ID:???
勝嗣「ば、馬鹿!」
米示「なんて事を……」
花菱「……いいねぇ。こっちの連中も気合い入ってんな。」
大場「うぁぁああああ!」

 一瞬。花菱の、たった一発で地面にひれ伏す大場。
 しかし、大場の一発で花菱に火がついてしまった。もう、止まれない。

米示「お、おい。ヒロトがやられちまったぞ! どうすんだ!?」
勝嗣「やるっきゃねーだろ!いくぞっ!」
花菱「オッケイ! それでこそ『不良』ってもんだ!」

 数分後、花菱の足下に転がる勝嗣と米示。
 少しは落ち着いたのか、自分が起こした事態を見て花菱はため息をつく。

花菱「……あー、そういやこいつらに前田がどこにいるのか聞きそびれちまったな。
   ………まぁ、しょうがねーか。また今度。徹底的にやろうぜ、前田太尊。」

 天高く、心のままに拳を突き上げる花菱。
 空は青く、花菱の将来の迷いも吹き飛ばすほどの快晴だった。
 全ての『てっぺん』を目指し、花菱はこの日から大きく躍動し始めた。
1151985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:08 ID:???
 親からの愛も受けた。心から笑える友もいた。自らの理を通す力もあった。
 だが、敵がいなかった。しかし、今ではそれも手に入れた。
 世の中は広く、まだまだ自分を凌駕する人間など腐るほどいると言う事実に。
 小鳥はようやく辿り着く事ができた。全てが、満ち足りていた。
 
 涼「ッどうしたんだ!? 小鳥?」
小鳥「いやな、へへへ。」

 学校に来るなり、見た事無いほどの怪我を負った小鳥に親友、涼は驚嘆する。
 全身包帯にまかれ、ただでさえでかい顔は腫れ上がっている。

小鳥「ちょっと、な。」
 涼「……まさか集団で袋にでもされたのか? くそっ!いったい誰が!」
小鳥「おいおい、落ち着けよ。へへへ。なぁ、信じられるか?
   俺ってよ、殴られたら浮く事ができるんだぜ。ビックリだろ?」

 小鳥の問い。古くから慣れ親しんだ涼、ツネ、幸三の3人でも
 小鳥が何を言っているのかさっぱり意味が分からない。
 そんな3人の考えを知ってか知らずか、小鳥は朗らかに笑う。
1161985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:08 ID:???
小鳥「まだまだ世の中想像もできねえような化け物がいっぱいいるって事だよ。」

 小鳥はもう自分より強い者がいない、と嘆く事は無いだろう。
 小鳥の笑顔につられて3人も笑う。いつまでも。いつまでも。
 4人。お互いの言葉に笑い合い、お互いの行為に笑い合う。
 
 その日から、小鳥が笑わない日はなかったと言う。
 親友・涼が後に大事件を起こすその日まで。
 ただただ、幸せに、小鳥は笑っていた。
117マロン名無しさん:04/08/30 08:15 ID:???
終わり
118マロン名無しさん:04/08/30 08:17 ID:???
↓1985よりコメント
1191985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:17 ID:???
 私立徳丸学園。包帯まみれの男がパソコンを素早く操作する。
 時折聞こえる鼻息は彼自身が憤慨しているのがよく分かる。
 最後に、リターンキーを一回。ソロバンでも弾くように叩く。
 はじき出されたデータ。男はその画面を前に苦悶する。
 強欲の男、河合星矢。 

河合「……くう、大赤字じゃぁー!」
 
 あきれた事に、河合は大会開催直前。
 未だ手に入れていない一億円を念頭に商売を展開しようと既に借金を重ねていた。
 しかし、結果は惨敗。さらに入院費で足が出ると言う始末。
 だが、この男。転んでもただでは起きない。

岩田「……副総長。あれを売ればなんとか借金も返せるんじゃないんですか?」
 
 河合の参謀、岩田が指差す先には、あまりに河合には不釣り合いな豪華な宝石。
 怪しく赤く輝く宝石の売却。それを聞いて河合は一喝する。
1201985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:18 ID:???
河合「あほんだらぁッ! あれはせっかく徳川のジジイの家から
   死ぬ気でかっぱらってきたワシの秘策中の秘策じゃッ!
   そんな借金を返すなんて死に銭に使えるかい!」
岩田「……でも持っててもしょうがないんじゃ?……」
河合「いいか。岩田。あれはのぅ、世界には二つとない幻の宝石なんじゃ。
   徳川邸で見つけたときは本気でチビリそうになったわい。分かるか?
   今こうしとる間にも裏社会ではこの宝石が盗まれた事が話題になっとる。
   そんな中にこの宝石を売りたいと言ったら誰でも飛びついてくるじゃろ?」
岩田「……じゃぁ、なおさら……」
河合「じゃからお前はいつまでたっても半人前なんじゃ。愚図がッ。
   ここでこれ一つ売っても大した金にはならん。そこでじゃ。
   作ったらんかい。ククク。この宝石のレプリカを。良く出来た偽物を。」
岩田「に、偽物?」
河合「そうじゃ。しかも本物を元に作られた最高峰の偽物をな。
   そうなれば考えてみぃ。ワシの元にはザクザク巨万の富が流れ込む。」
岩田「おお! さすが副総長!」
河合「ひゃひゃひゃひゃ!」

 河合は立ち上がり、赤い宝石を自分の首にかける。
 その宝石はどこまでも怪しく、禍々しいほどの光を放っていた。
1211985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:19 ID:???
河合「ワシは昇り詰めるぞッ! この『エイジャの赤石』と共に!」

 強欲とは時に色んなものを引きつける。金、権力、女。
 だが、人生往々にして強欲は不幸を呼び寄せてしまうものである。
 しかし、それでも河合はへこたれないだろう。不屈の強欲とともに。
1221985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:20 ID:???
 猛者達が夢の国、後楽園地下闘技場。
 観客席一杯の観客。ひしめく歓声に闘技場も揺れる。
 木板に囲まれた砂の闘技場をいよいよ待望のライトが照らす。
 徐々に熱を帯びていく場内。解説者がいつものように饒舌に観客を盛り上げていく。
 
解説「紳士淑女の皆様ッ! 『不良』を見た事はありますかッ!?
   遥かなる昔からッ! 幾重なり現代までッ! 平和なる時もッ! 戦乱の世にもッ! 
   あらゆる場所ッッ! あらゆる時代にッッ! 変わる事なく息づいてきた原種ッ!
   『最強の不良を見てみたい!」 この御老公の一言から始まった不良一選手権ッッ!!
   地下闘士、柴千春まさかの初戦敗退ッッ! 乱戦に次ぐ乱戦ッ! 
   血と肉と骨で作る死闘! 前人未到ッ! 狂気のバトルロイヤルを制したのはっ!!
   見よッッ! 青龍の方角ッ! 不良一選手権優勝者ッッ! 矢沢栄作ーーーッッッ!!!」

 解説者の叫びとともに一斉に歓声を上げる観客。
 青龍と書かれた方角から闘技場に、押し出されるように矢沢が登場する。
 
矢沢(……なんでこんな事に……)

 『一億円』が焼け落ちたあの日、再び徳川光成の使いが矢沢の元に現れた。
 用件は地下闘技場への参加要請。また勝てば大量の金がもらえるかもしれない。
 しかし、闘うのは嫌だ。それなら、対戦相手を買収しよう。話せば分かる。分かってくれる。
 そう思い、出場を決意した。だが。自分の反対方向、白虎の方角。
1231985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:21 ID:???
解説「そして今回ッ! この異邦人を迎え撃つ地下闘技場代表はッッ!!
   見よッ! 白虎の方角ッ! 山の奥からまた来たよッッ! 
   最強の霊長類ッッ!! 夜叉猿ーーーーッッ!!!」

 解説者の言葉とともに向こうから対戦相手がライトの下に現れる。
 向こうから現れたのはゴリラが可愛く思えるような巨猿、夜叉猿。
 ――――言葉が、通じない。

矢沢「………涙で前が見えない………」


    不 良 一 選 手 権   完
124マロン名無しさん:04/08/30 08:22 ID:???
藁タ、そう来たか。
1985おつかれ。
125マロン名無しさん:04/08/30 08:23 ID:???
乙。
結局誰が優勝したの?
126マロン名無しさん:04/08/30 08:24 ID:???
乙。
なんか伏線散りばめられて続きそうって感じで終わったな。
第一部完って感じがする。もう続き書かないだろうけど。

にしても意外と人いるな
127マロン名無しさん:04/08/30 08:25 ID:???
こっから>>55の感想と解説うめが始まるのか。800レスに渡って。
本編よりはるかに長い解説、楽しみだ
128マロン名無しさん:04/08/30 08:26 ID:???
100レスとちょっとで終わっちゃった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
解説できるのか!?
129マロン名無しさん:04/08/30 08:27 ID:???
過去の分も合わせて、オープニングから解説しる
130マロン名無しさん:04/08/30 08:30 ID:???
ちなみに17・46・48・64・71・125・127は俺が書いたレス。

ていうかこれだけかよ!
少なくとも消える前と同じ位の分量あると思ってたよ!
1311985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:31 ID:???
とりあえず、これで不良一選手権、終了とさせていただきます。
ここまでつきあって下さった方々。心から感謝します。ありがとうございます。
この話、実はもう少し短く終わるはずでしたが次から次へと設定を足していく間にこうなってしまい、
結局完結させるまでに長々と一年以上もかかってしまいました。

また、途中で中断した事により、多大な人に迷惑かけた事を御詫びします。
バレさん、わざわざ無関係のこんなスレのSSまで補完してくれてどうもありがとうございました。
感謝し尽くしても仕切れない思いです。本当にご迷惑おかけしました。
また、楽しみに見ていてくれた人。本当にすいませんでした。
この場を借りてもう一度御詫び申し上げます。
132マロン名無しさん:04/08/30 08:32 ID:???
>>46>>48はやっぱ自演だったか。それが分かっただけですっきり。
1331985 ◆8BVPwsPs7s :04/08/30 08:38 ID:???
>>126
本当はご指摘の通り続きも書こうかと思っていました。
しかし、今一頭の中で纏まっていない上の膨大な量になりそうなので
今の所は勘弁してやって下さい。気が向いたら書いてある程度たまったらまた公表します。

いくら読んでも解決できない伏線ですが、
武丸が地方遠征で闘ったのは「大友勝将」です。今回の怪我の原因ですね。
続きでは、東京周辺 対 地方 という丸パクリをやろうかと思ってました。
134マロン名無しさん:04/08/30 08:40 ID:???
14=45=70=101=104=107=111=117=118=126=128=132=俺
俺と>>130以外の数人はしっかり読んでるみたいだな。
135マロン名無しさん:04/08/30 09:44 ID:???
>>133
武丸をやったのは勝将だったのか。
漏れはてっきりA犬のボアコンにでもやられたのかと……
136マロン名無しさん:04/08/30 11:35 ID:???
1985氏、お疲れ様ですた。





もし、再び不良漫画SSをやる際は、
ろくブルの川島、カメレオンの直人、カフスの轟あたりも参加させて欲しい・・・
137マロン名無しさん:04/08/30 13:19 ID:???
アマギンを正式参戦・・・は無理か
とにかく1985氏、お疲れ様でした
138マロン名無しさん:04/08/30 17:26 ID:???
あげ
139マロン名無しさん:04/08/30 18:54 ID:???
今日全部読んでみたが、アマギンの役があれだけだったのには白けた。
乱入するのかと思ってた。
140マロン名無しさん:04/08/30 19:33 ID:???
やっぱアマギンのファンはきもいのが多いな。
141マロン名無しさん:04/08/30 19:41 ID:???
それでどうするんだこのスレ。余りまくりだが
それにバレさん海外行くから、来月10日位まで書き込めんぞ。
142マロン名無しさん:04/08/30 19:49 ID:???
>>141
なんで書き込めないの?
143141:04/08/30 19:52 ID:???
更新出来ないの間違いだった。
それまでにこのスレ落ちるなw
144マロン名無しさん:04/08/30 19:54 ID:???
漫画サロンだし余裕で残るだろ。それにバレ氏が出かけるのは9月からだろ?
後一日あるし大丈夫だと思うんだけど?あの人更新早いし。
145マロン名無しさん:04/08/30 20:11 ID:???
スレも余ってるし、誰か新しく職人さんが不良漫画SS始めないかなぁ。
今なら独壇場なんだが。
146マロン名無しさん:04/08/30 20:38 ID:???
>>140
だな。以前「アマギン出して欲しいけど負けるのは嫌」とか言ってた電波を思い出した。
同一人物?>>139
147マロン名無しさん:04/08/30 22:59 ID:???
アマギンは作中で島田に敗けた、と言っても過言ではないだろ。
俺もアマギン大好きだけど、別に負けても全然OK。
元々「最強無敵キャラ」なんて奴じゃないし。
コイツの魅力は「誰よりも強かった」事じゃなくて、「誰にも縛られずに自由に生きた」事。
148マロン名無しさん:04/08/30 23:37 ID:???
アマギンはよく知らないが、雲のジュウザみたいなものか
149マロン名無しさん:04/08/30 23:49 ID:???
>148
だな。それに近い。
150マロン名無しさん:04/08/31 00:36 ID:???
>>135
ボアコンってちょっとアンタw
まあ、ボアコンの幹部8人VS不良最強8傑ってのも
見てみたいような気もするが
151マロン名無しさん:04/08/31 00:50 ID:???
ボアコン圧勝するんじゃないかな〜
1985氏に挑戦してほしいところですが。
152マロン名無しさん:04/08/31 00:51 ID:???
ボアコンって粘液のやつ?
153マロン名無しさん:04/08/31 06:34 ID:???
 1位 矢沢栄作
 2位 一条武丸
 3位 極沢うさぎ
 4位 前田太尊
 5位 沢渡憂作
 6位 三橋貴志
 6位 日比野晴矢
 8位 河合星矢
 9位 池戸定治
10位 鬼塚英吉
11位 石田小鳥
12位 葛西
13位 偽アマギン
14位 南谷雅彦(ミン)
15位 花菱哲
16位 ウルフ前田
17位 柴千春
154マロン名無しさん:04/08/31 09:38 ID:???
どうやらバレ氏の補完が完了した模様。お疲れさまでした。
155マロン名無しさん:04/08/31 17:17 ID:???
1985、もう何も書かないの?どっかよそで他の物を書くとかないの?
1561985 ◆8BVPwsPs7s :04/09/01 10:47 ID:???
>>155
いま、ジョジョとバキを一本づつ書いてます。
一応書き終わったらどこかに載せさせてもらおうとは思ってます。
ただ、今はSS以外にある物を作ってるのでもうしばらくは無理そうです。
157マロン名無しさん:04/09/01 11:06 ID:???
>SS以外
子供?
158マロン名無しさん:04/09/01 11:13 ID:???
子どもは物じゃないだろw
159マロン名無しさん:04/09/01 11:20 ID:???
者か。
160マロン名無しさん:04/09/01 18:53 ID:???
残り840レス。さて、これから感想レスが続くのだろうか。それともdat落ちするのか。
161マロン名無しさん:04/09/01 21:21 ID:???
>>156
おお、1985氏乙。
すっげ期待。当然、少なくてもどちらかはバキスレに張るよな?w
まさかバレ氏に保管だけさせて、お返しなしってのは無いよな?w
なんにせよ凄く楽しみだ。
162マロン名無しさん:04/09/02 20:09 ID:???
感想マダーーーーー
163マロン名無しさん:04/09/05 12:05 ID:???
頭から通しで読んだけど、キャラを使うの上手いな。
よくこんだけ登場人物を出して、うまくまとめられたものだと思う。
次回作はここに書くのか?
それとも別スレ?
1641985 ◆8BVPwsPs7s :04/09/07 22:39 ID:???
>>163
ありがとうございます。今の所不良物を書く予定はありません。よってここでは書かないと思います。
とりあえず今の予定は二つ。前にあったジョジョスレに上げるつもりだったものとバキものです。
カテゴリ的にもバキスレの方に投稿させてもらう事になると思います。
165マロン名無しさん:04/09/08 19:45 ID:???
>>164
やったーーーーーーーーーーーー。
1985氏の長編がまた読めるぞーー。
しかもバキスレでですか。
今あそこは強者の巣窟、そこで競い合って
また1985氏は腕を上げるんだろうな。
すっげえ期待。よってあげ。
166マロン名無しさん:04/09/09 15:23 ID:???
初期の「…」が多い頃辺りまで文章の手直ししてくれないだろうか?
はっきり言って読みづらい。
1671985 ◆8BVPwsPs7s :04/09/13 01:52:24 ID:???
>>163
http://comic6.2ch.net/test/read.cgi/ymag/1093994320/l50

こちらのスレに「ありふれたテーブルの上で」という題名でジョジョを書かせてもらいました。
まだ未読でしたら是非読んでやって下さい。

>>166
確かに初期のは自分で見てても酷い有様だと言うのは分かります。
機会があれば直したい、とは思ってるんですけどね。
168マロン名無しさん
読んだ読んだ。
あの作品は、一度読み直すとその良さがわかる作品だね。
しかしすごく腕あげたな。文章も、内容も。
早くバキも上梓してね。あと、フラッシュ最高だったよ。