とうとう火薬が尽き、やけくそ気味の斉射の爆音が唐突に、残響だけを残して消え去る。
それからたっぷり30秒ほどの沈黙を置いて、二人はようやく、渋々ながら、全ての終わりを受け入れる。
「終わってもーたんかな」
「…うん」
花火大会の最後に必ず付き纏う、ある種の寂寥感。
出来る事なら、いつまでもこうして見ていたかったのに。
それは到底叶わない望みで、夏休みがいつか終わるように、花火はやがて尽きてしまう。
この切なさの源は、あるいはそれが夏の終わりを予感させるからかもしれない。
「…帰ろうか」
「…うん」
若干の名残惜しさを引きずりながら、亜子が同意する。
浜辺を埋めていた見物客は一斉に帰りはじめ、既に最寄り駅へと向かう人の流れが出来始めていた。
この人の波の中では、じっとしている方がよりエネルギーを必要とする。
二人とも、それにあえて逆らうほどバイタリティのある方ではない。
バイタリティ溢れる二人の友人とは、駅を出てすぐにはぐれてしまっていた。
何しろ人が多く、合流するのはすっぱりと諦め、終了後に駅で落ち合う事にしたのだが、この分ではそれも難しそうだ。
いつもと同様、亜子が二歩ばかり前を行き、私が黙って後を追う。
異常なまでによく似合う、濃い目の青地に白いちょうちょのあしらわれた浴衣を纏ったうしろ姿。
不思議な空色の髪、その間から見え隠れするうなじは、日に焼けて赤くなっている。
みじかい髪が頭を動かす度にさらさらと流れ、あるいはふわふわと踊る。
(頭、軽そうだな)
見てると、そう思う。
(私も、短くしてみようかな)
そうも思い、ショートカットの自分を想像してみたりするのだが、うーん、やはりどうにも似合わない。
それにどのみち、自分がこの髪を切るわけが無いのは分かり切っている。