【総合】バキスレへようこそ Part 8【SSスレ】

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296彼の地の守護神
池袋、ふくろうビル最上階のゲームセンター。
「花山さん。ここらへんにしようか」
と、ゆっくり振り向きながら刃牙が言った、と同時に!
「刃牙いいぃぃっ!」
花山の巨大な拳が、唸りを上げて刃牙を襲った。刃牙は素早くガードを固めるが、
そんなもので受け止められる拳ではない。一瞬たりとも踏ん張ることは叶わず、刃牙は
紙屑のように吹っ飛んだ。奥でゲームをしていた小学五年生くらいの少年の背中に……
「うがっっ!」
激突! 少年は突っ伏し、そのおかげでゲームオーバー。刃牙はそんな少年のことなど
無視して、立ち上がって花山に向かっていこうとするが、
「……待て」
少年に、がしっ、と肩を掴まれた。刃牙は有無を言わさず振り払おうとした、が、
『! こ、こいつっっ!?』
「ここの守護神を自負する者として、お前を見過ごす訳にはいかない」
少年の、得体の知れない気迫に反応し、刃牙はつい手を出した。ボクシングの
現役世界ランカーに匹敵する拳が、少年の顔面に向けて放たれる。
が、驚愕すべきことに、少年の手が刃牙の拳より速く一閃した。しかもその手から炎が迸り、
「あぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢいいいいいいいいぃぃぃぃっ!」
刃牙を、走るキャンプファイヤーにしてしまった。水水〜っ! と悲鳴を上げて刃牙は退場。
少年は、落ち着き払った態度で、一人残された花山に近づいていく。
「近年、あみゅ〜ずめんとなんちゃらとか呼ばれて、ここも随分明るく、平和になった。
昔の、侵略者シールがガラス戸に張られていた頃の、危険な匂いを知っている者はもう少数派
だろう。そんなこの地で、かつてのような暴力沙汰を起こす人間を、俺は絶対に許さない」
「人の獲物を取っておいて、何を訳の解らねえ演説こいてやがる。許さないのは俺の方だ」
「もとより、あんたにはお仕置きをするつもりだ。表に出てもらおうか」
花山の額に、青筋が走った。どう見ても格闘家でも何でもない小学生が、こんな……!
「てめェ、何者だ?」
赤いジャンパーとバスケットシューズその少年は、敢然と花山を見上げて名乗った。
「石野あらし。またの名をゲームセンターあらし、だ」
真っ赤な帽子にキラリと光る、チャンピオンマークはインベーダー。
巨大な出っ歯が、ピカッと光っている。
297彼の地の守護神:03/09/15 22:26 ID:???
ふくろうビル近くの公園。ゲームセンターからついてきたギャラリーもついてきている。
「天・地・人! 真空ハリーン撃ちいいいいぃぃぃぃっ!」
あらしが、全身を激しく回転させて強力な竜巻を起こした。真空の刃を無数に飛ばし、
風圧で家一軒を楽に吹き飛ばす威力を秘めた技である。が、
「ぬ……っ!」
花山は、両足をしっかりと踏ん張って持ち堪え、のみならず少しずつ、前進していった。
あらしは激しい回転運動をしているのでその場を動けない。やがて間合いがつまり、
「喰らえええええぇぇっ!」
花山の拳が、あらしを襲った。が、あらしは高く跳んで月面宙返りムーンサルト。
「やるな! ならばこいつはどうだ! 炎のコマリング撃ちいいぃぃっ!」
あらしの手から、炎のリングが十数発打ち出された。刃牙に喰らわせたものとは比較に
ならない火炎が、花山を襲い……命中。花山は、瞬時にして火ダルマとなった。
が、花山は悲鳴一つ上げずにズボンの両裾を掴んで引っ張り上げ、そのまま上着まで全部、
燃え盛る衣服を丸ごと破りとって投げ捨てた。傷だらけの肉体を晒した、下帯一つの姿になる。
「少し、熱かったがな。この程度の炎じゃあ俺は焼けねえぞ。解ったら、本気で来い」
花山の背中の、侠客立ちが少し焦げている。その迫力に、あらしは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「普通の人間相手に全力を出すのは……と思ってたが、そうも言ってられないようだ。あんた、
強いよ。あんたがもしドンキーコングなら、100mのビルから落ちても死なないだろうな」
『? ドンキーコングが? 100Mのビルから落ちる?』
15歳の少年は、アーケード版初代ドンキーコングを知らなかった。ともあれ、
「いくぜっ! 風よ、雲よ、雷(いかづち)よ! グレートタイフーンっっ!」
突如、超局地的な大型台風が出現した。自然と一体化し、真空ハリケーン撃ちを遥かに
越える風を巻き起こすグレートタイフーン。原子力潜水艦をぶっ飛ばしてしまうこの技には、
「ぅおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」
さすがの花山も抗しきれず、吹き上げられてしまった。一気に十階、いや二十階分ほどの
高さまで持ち上げられたかと思うと、急転直下、同じ勢いで地面に向けて……

ずどおおおおぉぉぉぉんっ!



298彼の地の守護神:03/09/15 22:27 ID:???
叩きつけられた。下向きの風と落下の加速、想像を絶する速度で地面に激突したはずだ。
あらしが息を切らせて着地する。花山は、大きなクレーターの中央で半ば地面に埋まっている。
左腕は異様な方向に曲がっており、右腕は土の中。両足も骨折しているようだ。
「ふうっ……俺の、勝ち……」
と、あらしが言いかけたその時、花山の右拳が土中から飛び出して、

ずどおおおおぉぉぉぉんっ!

あらしに命中! 完全に油断していた上、もともと格闘家でもなんでもないあらしはまともに
喰らってしまった。軽く十メートル以上弾き飛ばされ、ジャングルジムを粉砕してしまう。
花山が、ふらりと立ち上がった。が、すぐに尻餅をついた。もう立てる状態ではないのだ。
あらしの方は、動かない。ギャラリーの中にいた木崎が、ふっと息をついた。
「弾薬庫に残った最後の一発が、勝負を決めたか。あの二代目をここまで……」
その時。あらしがふらりと立ち上がった。
「な、何っ!?」
木崎が、花山の方を見る。と、花山の右拳の四本の指から、ぶしゅう、と血飛沫が上がった。
花山に向かってふらふらと歩いていくあらしの、大きな出っ歯の先から、同じ血が滴っている。
「ライフル弾を止めるこの出っ歯ごと、俺の顔を叩き潰せると思ってくれて、命拾いしたぜ」
立ち上がれない花山は、ふらつくあらしを見上げて言った。
「お前の……勝ちだ。格ゲーなら、タイムアップのライフ差負けってとこか」
「へっ。レトロゲーマーが格ゲールールで勝っても、嬉しくねえよ」
見つめあい、どちらからともなく笑う二人。木崎が、手を叩いた。
「いい喧嘩だった……」
ギャラリーたちからも、拍手と喝采が溢れた。

ふくろうビル内の、男子トイレ。洗面台で水を浴び、どうにか服の火を消した刃牙。そこに、
「胸と肩とに軽度の火傷……ってとこか。まだ始まったばかりらしい。ところで、」
ランボーみたいなカッコした勇次郎がやってきて、きょろきょろと辺りを見回した。
「花山とかいうのはどこだ?」
「今頃、ゲーセンの守護神とかいうのとやりあってるよ。多分」
「何だそりゃ。ゲーセンの……って、おい! ふぶきちぁんが来てるのか!? こ〜しちゃいられんっ!」
勇次郎は鼻息荒く目ぇ血走らせて、最上階のゲームセンターへと駆けていった。