ヤムチャが死んだ。日本行きの旅客機の便所で、日の出ずる方角に
土下座をして息絶えていた。土下座に生き、土下座に死んだ男だった。
隣のシートの男に目をやる独歩。両の手を真紅の血に染め、胸には
ヤムチャの遺影を抱いている。範馬勇次郎である。犯人はこいつだ。
怒りの独歩が契約書をつかみ出し、ヤムチャの名前にバッテンを引いて
勇次郎の名を書き入れる。こいつはドッポリアの救世主だ!スカウトだ!
勇次郎はしかし、首を横にふるばかり。口から垂らしたソバのつゆが
独歩の片目にジャストインした。これが戦闘の合図だった。ファイト!
揺れる機体をものともせず、二つの巨体が激しく撃ち合う。この間にも
独歩はドッポリアのアピールを忘れない。勇次郎のパンチを受け流す傍ら
乗客にパンフレットを配布する。勇次郎には約款を手渡し
条件面での刷り合わせを試みる。隙を見て強烈なローを叩き込む。
「いやその金額では」と賃金釣り上げを要求する勇次郎が目潰しをかます。
「そこをなんとか」と採算ラインを堅守する独歩が頭突きをお見舞いする。
竜虎相譲らず。社会人の腹のさぐり合いを交えた頂上対決は、しかし勇次郎が
ペースを支配しつつある。押され気味の独歩が、たまらずコクピットに
逃げ込んだ。間髪入れずに後を追う勇次郎。
快適な空の旅を演出するコクピット。独歩の正拳突きで、まずは副操縦士が
あの世へ旅立った。空席となったシートに独歩が腰を下ろす。
勇次郎のカウンターが、独歩の傍らの正操縦士にヒットした。たまらず逝った
正操縦士の遺体を、便所に放置しっぱなしのヤムチャの亡骸と共に水に流した。
天国へ旅立った二人のパイロットは、僕らの胸に青臭い想い出を残した。
臨時パイロットとなった勇次郎が、操縦桿を倒してガラパゴス諸島へ向かう。
副官の独歩がワインを開け、二人の未来を祝してグラスを傾けた。
独歩が消息を絶って一週間。一人の女性が立ち上がった。
元ドッポリア右将軍・愚地夏恵である。夫からドッポリーナの称号を受け
それを拒否して逐電した夏恵であるが、戸籍上は今でも夫婦である。一応は
心配してやらないと世間体が気になって仕方がない。面倒くさいが
探偵事務所に捜査を依頼してやることにした。夏の日差しに、ビルの看板を透かし見る。
「神心会探偵事務所」