【隠れ家】m-factカフェ 9杯目【フリコス】

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35C.N.:名無したん

ってそれから容易に座敷へ入《い》れない。台所の板の間で他《ひと》が顫《
ふる》えていても一向《いっこう》平気なものである。吾輩の尊敬する筋向《
すじむこう》の白君などは逢《あ》う度毎《たびごと》に人間ほど不人情なも
のはないと言っておらるる。白君は先日玉のような子猫を四疋|産《う》まれ
たのである。ところがそこの家《うち》の書生が三日目にそいつを裏の池へ持
って行って四疋ながら棄てて来たそうだ。白君は涙を流してその一部始終を話
した上、どうしても我等|猫族《ねこぞく》が親子の愛を完《まった》くして
美しい家族的生活をするには人間と戦ってこれを剿滅《そうめつ》せねばなら
ぬといわれた。一々もっともの議論と思う。また隣りの三毛《みけ》君などは
人間が所有権という事を解していないといって大《おおい》に憤慨している。
元来我々同族間では目刺《めざし》の頭でも鰡《ぼら》の臍《へそ》でも一番
先に見付けたものがこれを食う権利があるものとなっている。もし相手がこの
規約を守らなければ腕力に訴えて善《よ》いくらいのものだ。しかるに彼等人
間は毫《ごう》もこの観念がないと見えて我等が見付けた御馳走は必ず彼等の
ために掠奪《りゃくだつ》せらるるのである。彼等はその強力を頼んで正当に
吾人が食い得べきものを奪《うば》ってすましている。白君は軍人の家におり
三毛君は代言の主人を持っている。吾輩は教師の家に住んでいるだけ、こんな
事に関すると両君よりもむしろ楽天である。ただその日その日がどうにかこう
にか送られればよい。いくら人間だって、そういつまでも栄える事もあるまい。
まあ気を永く猫の時節を待つがよかろう。
 我儘《わがまま》で思い出したからちょっと吾輩の家の主人がこの我儘で失
敗した話をしよう。元来この主人は何といって人に勝《すぐ》れて出来る事も
ないが、何にでもよく手を出したがる。俳句をやってほととぎす[#「ほとと
ぎす」に傍点]へ投書をしたり、新体詩を明星[#「明星」に傍点]へ出した
り、間違いだらけの英文をかいたり、時によると弓に凝《こ》ったり、謡《う