【隠れ家】m-factカフェ 9杯目【フリコス】

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33C.N.:名無したん

記憶している。その時におさんと云う者はつくづくいやになった。この間おさ
んの三馬《さんま》を偸《ぬす》んでこの返報をしてやってから、やっと胸の
痞《つかえ》が下りた。吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、この家
《うち》の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。下女は吾輩をぶら下げ
て主人の方へ向けてこの宿《やど》なしの小猫がいくら出しても出しても御台
所《おだいどころ》へ上《あが》って来て困りますという。主人は鼻の下の黒
い毛を撚《ひね》りながら吾輩の顔をしばらく眺《なが》めておったが、やが
てそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入《はい》ってしまった。主人
はあまり口を聞かぬ人と見えた。下女は口惜《くや》しそうに吾輩を台所へ抛
《ほう》り出した。かくして吾輩はついにこの家《うち》を自分の住家《すみ
か》と極《き》める事にしたのである。
 吾輩の主人は滅多《めった》に吾輩と顔を合せる事がない。職業は教師だそ
うだ。学校から帰ると終日書斎に這入ったぎりほとんど出て来る事がない。家
のものは大変な勉強家だと思っている。当人も勉強家であるかのごとく見せて
いる。しかし実際はうちのものがいうような勤勉家ではない。吾輩は時々忍び
足に彼の書斎を覗《のぞ》いて見るが、彼はよく昼寝《ひるね》をしている事
がある。時々読みかけてある本の上に涎《よだれ》をたらしている。彼は胃弱
で皮膚の色が淡黄色《たんこうしょく》を帯びて弾力のない不活溌《ふかっぱ
つ》な徴候をあらわしている。その癖に大飯を食う。大飯を食った後《あと》
でタカジヤスターゼを飲む。飲んだ後で書物をひろげる。二三ページ読むと眠
くなる。涎を本の上へ垂らす。これが彼の毎夜繰り返す日課である。吾輩は猫
ながら時々考える事がある。教師というものは実に楽《らく》なものだ。人間
と生れたら教師となるに限る。こんなに寝ていて勤まるものなら猫にでも出来
ぬ事はないと。それでも主人に云わせると教師ほどつらいものはないそうで彼
は友達が来る度《たび》に何とかかんとか不平を鳴らしている。