【芸術家高本秀行、栄光の軌跡】 ■第十六回■
楽しかった小学一年生の生活も三月には終焉を迎えた。
友達はみな幼稚すぎて彼のお眼鏡には叶わなかった。
実際、彼の両親は学校に対して、特例措置として
秀行少年を小学四年生にするよう求めつづけた。
学校側としても確かに秀行少年が四年生に十分値する
学力があることは認識していたが、硬直した文部行政は
それを許さなかった。
終業式を終えた学校の職員室に、秀行少年の両親の姿があった。
彼らは担任に一年間の礼を述べた後、特例措置についてきりだした。
秀行少年の一年生としてはずば抜けた学力を考慮すべきだ、
二年生として学ばせるのは酷ではないか、同級生も気の毒だ、
子供の学力に応じた処遇を考えるべきだ、と学校側を説得していた。
校長は言う。確かにご両親のおっしゃることは正論ですが、
現在の文部省の方針はそれを許さない、どうかご理解いただけないか、と。
そうして両者のやり取りが熱を帯びる中、職員室の戸をノックする音がした。
(第十七回に続く)