ロック界のカリスマ 音楽雑誌編集長を暴行
自分の批判記事に怒り殴る蹴る
元ロックバンド「ブランキージェットシティ」のメンバーで、ロックミュージシャンの
浅井健一(37)が“暴行事件”を起こしていたことが発覚した。浅井は、自らの作品につ
いて批判的な記事を書いたとして、音楽雑誌「ROCKIN' ON JAPAN(ロッキング・オン・ジ
ャパン)」の編集長に暴行。暴行を受けた編集長が同誌で浅井の暴行を“告発”して事件
が明らかになったもので、関係者やファンに衝撃が広がっている。
浅井は90年にロックバンド「ブランキー・ジェット・シティ」を結成し、ボーカル&ギ
ターとして活躍。2000年の解散後は「JUDE(ユダ)」を結成するなど、ロック界の実力派
として人気を集めている。人気シンガー・椎名林檎が「最も敬愛するミュージシャン」と
公言していることでも知られ、椎名は自曲「丸の内サディスティック」の歌詞に、浅井の
愛称「ベンジー」を登場させるほどだ。
そのロック界のカリスマが“暴行事件”を起こしたのだから、ただごとではない。浅井
から暴行を受けた「ロッキング・オン・ジャパン」の編集長が、同誌11月25日号で一部始
終を“告発”した。
それによると、浅井が先月発売の同誌に載った「JUDE」のニューアルバムに対する批評
が気に入らず、激怒したことが発端だという。浅井はテレビ番組で「あの雑誌は買って欲
しくない」などと発言。
これに対して編集長が10月12日、話し合いを持ちに一人で浅井に会いに行ったところ、
浅井とマネージャー2人から暴行を受けたという。マネージャーから「おまえなめてるだ
ろう」「取材したいと言っておいてなんだあの記事は」と怒鳴られ、その直後に浅井が無
言で編集長の顔面を2発パンチ。倒れたところを2人から背中や腰を何度も蹴られ、部屋の
外へ放り出されたという。謝罪を求めても、浅井サイドは「間違ったことはしていないの
だから、謝罪するつもりはない」の一点張り。編集長は被害届けを出すつもりはないとし
ている。
編集長は本紙の取材に「雑誌に書かれていることがすべて。それ以上お話しするつもり
はありません。あまり大ごとにはしたくない」と困惑気味に語る。一方、浅井の所属レコ
ード会社は「担当者がいない」としてノーコメント。
音楽誌関係者によると「先月の批評で、浅井のアルバムについて『ラフなノリに聞こえる
』『自分の力を抑えたり爆発させたりする計算があまり見えない』などと書かれ、納得で
きない浅井が過剰反応したようだ。今までも、浅井は『ジャパン』(同誌)の批評には不
満があって取材もあまり受けていなかった。昨年のフジロックのライブ中に、浅井が『ジ
ャパンはダメ』などと批判したこともあった」という。同誌にも両者が「しばらく疎遠だ
った」とある。
同誌で編集長は「浅井氏自身のメッセージを待っているし、それを掲載する用意はいつ
でもある」と謝罪を求めている。浅井がどうこたえるのか注目されるところだ。
リラックスした浅井
メンバー3人が激しく争うように演奏したBJC、音楽全体を自分の色で染めようとしたシャーベッツ、
UAというもう1つの個性と組み合ったAJICO。それらが始まった時と今回とでは、かなり雰囲気が違う。
かつての浅井は、バンドの中で自分の力をどう扱えばいいのか、強く意識していた。
だがJUDEでは、そうした意識はあまり感じられない。
自分と相性のよさそうなプレイヤーと演奏してみて、出てきた音楽が楽しめたなら、
とりあえず録音しておこう。そんな、ラフなノリに聞こえる。他のメンバーとのバランスを意識して、
自分の力を押さえたり爆発させたりという計算が、あまりみえないのだ
(まあ、かつての計算も、動物的な勘に近いものではあったが)。
「永遠の少年」的なメルヘンと、弾けたロックンロール。浅井の音楽性は以前から一貫しているが、
バンドにかかわる姿勢は変化した。自分の歌とギターさえ入れば、誰とどう組んでも、
自分なりの世界は成立する――そんな達観の境地に入ったのだろうか。
忌野清志郎的な、ロック仙人の領域に一歩踏み込んだようでもある。
なるほど、リラックスした浅井も悪くない。でも、2枚同時発売ではなく、
曲を選んで1枚にまとめて欲しかった。これが、正直な感想だ。 (遠藤利明)
セクシーストーンズレコード
浅井健一様
マネージャー様
ロッキング・オン・ジャパン10月25日号(10月10日発売号)掲載の、JUDEのディスク・レヴューに
端を発した件について、弊誌鹿野とマネージャーさんの間で、何度か電話による話し合いを
持っていただいているかと思いますが、ここに改めて手紙という形で書かせていただきます。
まず、抗議を受けたディスク・レヴューの内容自体に関しては、批評であり中傷ではないという点において、
正当なものだと我々は考えています。ただし、その批評を掲載したことにより、
アーティストを傷つけ不愉快な思いをさせるという結果を招いてしまったことに対しては、
誠に申し訳なく思っており、遺憾に思っております。
それに対する謝罪をしたいという理由と、これは中傷ではないということを分かっていただくべく
説明したいという理由で、時間をいただいて、去る10月12日におうかがいしました。
しかし、その対応として暴力をふるわれたということは、どうしても納得ができません。
メンバー・スタッフ5人の部屋に、誰も連れず一人で話し合いに来た相手に話す隙も与えず、
一方的に怒鳴ったあといきなり殴りつけ、無抵抗のまま倒れたところを二人がかりで蹴るというのは、
どう考えても正しいこととは思えませんし、自分がそういう扱いを受けて当然だとも思えません。
私が、誰も連れず一人でうかがったのも、ことを構えるためでなく話し合うためであったということは、
きっと浅井さんとマネージャーさんにもご理解いただけていたはずだと思います。
マネージャーさんは鹿野に「何も間違ったことはしていないのだから
謝罪するつもりはない」とおっしゃったそうですが、物事の解決の手段として暴力を使う、
ということが正しいとは、我々にはどうしても納得できません。
暴行を受けたのだから法に訴える、という解決法もあるのかもしれませんが、
今は浅井さんとマネージャーさんの誠意ある対応を待ちたいと思っております。
我々はメディアであり、そのメディア上の批評に対して暴力がふるわれたということに
泣き寝入りすることはできませんし、したくありません。
よって、このまま文章による謝罪をいただけない場合、我々は我々の健全な批評活動を貫くために、
ことの一部始終を文章化して誌面に掲載し、世の判断をあおぐという手段をとりたいと思います。
無論、その前に浅井さんとマネージャーさんに私の主張をご理解いただき、
謝罪していただけるのが一番の希望です。
いまだに、表現者としての浅井健一さんを尊敬する気持ちは変わりません。
そこはご理解いただけるとうれしいのですが、そのためにも正しい判断をあおぎたいのです。
一週間以内に、文書による御回答をお願いいたします。
(株)ロッキング・オン ロッキング・オン・ジャパン第一編集長
兵庫慎司
本誌と浅井氏との関係性は、しばらくの間疎遠になってしまっていた。
それを修復したくて、僕は初夏あたりから何度かマネージャーに時間をもらって、取材を受けてほしいと
オファーをしており、この号が出た時もその交渉中だった。
なのに、何で批判的なレビューを載せるんだ、という理由で怒っているということが、
暴行後にマネージャーから鹿野に告げられた。
僕はこれは中傷ではないし、真剣な批評であると今でも思っている。
しかし、その結果として、本誌に登場してほしいと願っている重要なアーティストを傷つけ、
不快な思いをさせてしまったことに大しては、後悔しているし残念にも思っている。
だから、直接会う機会を作ってほしいとお願いし、実際に作ってもらったのだが、
その場で抗議の方法として暴力を使うのは間違っている。
ビートたけしのフライデー事件は、メディアによって身内のプライバシーを暴かれた上に、
暴力までふるわれた報復としての暴力であったが、我々は浅井氏に対してそういうことをしたわけではない。
浅井健一氏は、我々が尊敬するすばらしいアーティストだし、JUDEはすばらしいバンドだし、
こんなことになって非常に残念だ。
もしかしたら、抗議に対してもっと適切な対処の仕方があったかもしれない、という後悔もある。
しかし、メディア活動に対し暴力を使われたという事実に、黙って泣き寝入りすることはできない。