電車に飛び込んだ瞬間見た人!!

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(続き)
轢いた直後から約10秒、まるでコンクリートブロックでも引きずっているかのような
「ガリガリガリ」という異音と妙な振動が電車全体にこだまし、車輪が異物で空転
したのかモーターが「ウィーン」と高回転のうなりを上げているのが印象的だった。
運転手は瞬間しまったという顔をしていたが、非常制動で電車がとまると「ちっ」
といいながら苦笑いの表情を作っていた。明らかに、挙動が可笑しかったが(かなり
ショックを受けている様子だった)、すぐに気を取り直し、ドアを開けて電車から降り、
後方に走って遺体を確認しにいった。戻ってくると指令室に電話をかけ、必死に
指示を仰いでいた。スピーカーから流れる列車指令の「・・・・・了解。・・・・了解。」
という機械的にも冷静な指示には驚きだったが、運転手のとにかく何かにすがり付き
たいような泣きそうな顔もまた哀れだった。

先頭1号車の客は50人はいたが、ショックで動転している自分を除けば目撃した
者もなく、しかし事態を察知したのか長い停車時間の間、みな一言も発しなかった。
自分は横の窓を開けて持っていたタバコに火を付けた。持つ手が震えていた。
もちろん車内は禁煙だったが、幾人かの客が同情するような目でうなずきながら、
自分の蛮行を許してくれたようだった。

30分後電車は動きだし、終点の淀屋橋に着いたのは予定時刻を遥かに過ぎた後だった。
終点には作業員数名がバケツとモップを持って待機しており、電車が止まる前から
電車の前面を覗き込む様に眺めていた。私は前面を確認する勇気も、惨事に直面
した運転手の表情を見る余裕もなく、足早にホームの階段を駆け上がっていった。

翌日ちらりと新聞を広げてみたが、この事故については1行も載っていなかった。
この件を他人に明かしたのは今回が初めてだ。約3年前の出来事である。