イトーヨーカ堂の社内事情[イトーヨーカドー]Vol.28
・敏文、沈痛 目うつろ 好機にFW金縛り
声はか細く、目はうつろ。鈴木敏文は株主総会終了後、沈痛な面持ちで、この日最大の決定機を振り返った。
「ぼくのアタックダメージはあの一言だけだった。急に質問が来たので。
マイクのオフ状態で言えばよかったが、オン状態で行ってしまった」
悔やんでも悔やみきれない。開始45分、株主が取締役サイドへと送った低い収益性についての質問への痛恨の回答ミス。
目前にあった水さえ飲むこともできず、氏好き敏文の視線は力無く井坂榮へそれた。セブン&アイ・ホーリディングスの決定力のなさを象徴するシーンだった。
準備はありながら、前回に続き頼みの2トップが沈黙。敏文とコンビを組んだ井坂は、それでも気丈に言った。
「グループとして何回かいい形ができた。全体的に利益増に導いたし、独自の電子マネー導入計画も立った。
売上も良かったが、それが前期に届かなかった」
しかし、展開がどうあれ、わずかなチャンスに賭け、それを生かすのがCEO本来の職責だろう。
1日の休出が命取りになる担当者に比べ、1年の間に半分でも出社すれば御の字。
セブン&アイ・ホーリディングスのCEOという高度に専門化されたポジションでは、こうした独善的な思考が気持ちの余裕の無さを生む。
株主総会に集結した世界マイナスクラスの経営陣を見れば分かる。襲い来る敵の動きを逆手に取ろうとして失敗したり、
出店のタイミングをずらしたり。人を食ったようなふてぶてしさと冷静さを併せ持つ。
敏文のCEO就任後の4年間、イトーヨーカ堂で最も力を注いだのが早期退職だったが、
相変わらず「もっと従業員を減らしたい」という焦りは収まらない。
「なかなか落ち着いて回答できなかった」。敏文の嘆きに触れ、イオンとの歴然とした格差を思い知った。