続・リングに翔けよ
司馬 遼太ヱ門
平成12年が、明けた。
渋谷駅ハチ公口で、街の殷賑を睨めつけている男があった。灯ともしころ、渋谷109
のビルが、人込みを見下ろしている。
往来するのは、世が世なら、白刃をかいくぐっていたであろう若者たちである。男は、
人待ち顔の男女を押しのけるようにして、交差点に向かって歩き出した。
( だせえ国だ )
男は、姓を
香取
名を
石松
といった。
潮風を焚きしめたようなスタジアム・ジャンパー、濃紺のTシャツ、白のズボン、雪駄
履きという出で立ちである。左眉から頬にかけて、3寸ばかりの向こう傷がある。
言わずと知れた、黄金の日本Jr.の斬り込み隊長である。しかし、それも人口に膾炙
されることがまれになって、久しい。
17年の歳月は、重い。
ひとの風貌を変えるには、十分すぎる。
思春期の石松は、身の丈5尺そこそこ、そのくせ気性は荒く、
「 喧嘩の大将 」
と自称していた。
加えるに、婦人用の下ばきを見れば狂喜する無類の軟派であり、痴情を露わにして恬と
して恥じなかった。
これだけなら、巷間の不良と選ぶところはない。
ただし石松は、その魂に熾烈なる熱血と純情とを宿していた。これが、この男の大いな
る魅力であり、強さであった。
事実、その小躯から繰り出される殴撃は、世界の豪傑をして地に這いしめたのである。
つづく
続かなくてよろしい。
1ながすぎ。あとネタ板逝け。