◆「天才抜刀術師」という名のピエロ
私は甲野善紀というという人物をほとんど知らない。武術家だそうだ。
そういえばテレビでチラッと居合かなにかを演じているのを見たことがあり、
元巨人の桑田投手が師事してピッチングに役立てたという話も聞いたことがあった。
ちょっと調べてみると、あきれたことに50冊もの著書を書いている。
さらに脳科学者、精神科医、数学者などなど、さまざまな分野で著名人と交流があり、
共著もいっぱい出しているし、講演会もこなしている。
なんだタレントじゃないか、どこが武術家なんだ? としか思えなかった。
YouTubeにも、テレビなどで公表した自身の抜刀術を紹介している映像がみられる。
http://www.youtube.com/watch?v=AwY4lN24Vfk これは一例だが、武術としてはお笑いのたぐいで、どうしようもない。
あれでは真剣で鍛錬しているまともな剣術家と真剣で勝負したら、簡単に斬り殺されるにちがいない。
彼の抜刀術は体操かもしれないが、武術ではない。素人向けのショーである。
もし宮本武蔵とか幕末の志士たちと立ち会ったら、「おぬしは曲芸か?」とあざ笑われること請け合いである。
彼の使っている刀が軽いもので、真剣ではない。
真剣であればあんなに軽々と箸でも操作するように動かせるものではない。
模擬刀を素早く振って見せるために軽くつくってある。
映画やテレビの時代劇でやっているチャンバラの刀は、真剣とは大違いの超軽量だから、
みんなすごい速さで振り回しているけれど、真剣は非常に重いためいかな豪傑でも、
まるでバトンみたいな動かし方は不可能である。
◆「真剣白羽取り」という名の曲芸
甲野善紀氏とは別の話だが、世間ではよく「真剣白刃取り」という
「曲芸」をやって見せるご仁がいるが、これもまったくのショーである。
http://www.youtube.com/watch?v=TwqYWzSQdFs このYouTubuの動画で「真剣白刃取り」なるものを見ることができるが、
ちゃんと見れば、真剣を斬りつける側が相手(空手家)に振り下ろしはするが、寸前で止めているのがわかる。
つまり、斬りかかっているようでも、白刃取りができるように親切に相手の頭の上あたりでストップし、
それを空手家がすばやく両手で挟んで受けるのだ。
まあ二人でよく練習してきたのだろうが。
このような人を食ったようなイカサマでも、人はみな騙される。
この動画では「真剣白刃取り」をやる前に、その刀が本当に斬れることを証明するために
人に持たせた巻き藁を斬ってみせているけれど、よく見てもらえば刀のかなり切っ先を使っている。
切っ先だけ刃が入っているのだ。
それでいざ「真剣白刃取り」をやるときは約束ができているから、
空手家の方は刀の刃を入れていない真ん中のあたりを安心して掴むことができる、という仕掛けである。
要するに、これは手品や曲芸と同じことでしかない。
◆いつ鍛錬してるの?
話を戻すが、甲野善紀氏の抜刀術も刀(居合刀)を超軽量にしてある手品なのだ。
手品=マジックを見破れない人(テレビに出るような著名人)は、見事騙されて
ヨイショするエッセイをあちこち雑誌などに書くから、甲野善紀氏が「達人」であるかのように大衆は信じ込む。
冒頭の 甲野善紀氏が「週刊文春」に発表した「私の週間食卓日記(第640回)」の食事のことに戻ろう。
まず驚くのは、7日間の起床時刻である。9時半、10時、9時半、11時、9時、8時半、とあって
某日などは深夜2時半まで仕事をして帰宅して早朝5時に寝た、とある。
こんな自堕落な生活をしていたのでは体はまともには維持できない。必ずどこか体調が崩れる。
抜刀術を極めていると豪語しても、この「遅寝遅起」ではウソになる。
さらに驚くことは、この方はテレビタレント並の忙しさで、原稿を書いたり、旅行したり、講演したり、テレビに出たりとやっている。
抜刀術の稽古は? というと、たった1回、「午後は片付けや屋根まわりの掃除にきた人と一緒に作業、そして稽古」とあるのみ。
「あっと驚くタメゴロ〜」とはこのことである。
しばらく前にバレエの最高峰を極めたプリセツカヤを話題にした。
彼女の言葉だったと思うが、バレリーナとは、1日休めば自分で落ちたことがわかり、
2日休めば踊る相手にわかり、3日休めば観客にわかる、と厳しい言葉を言っている。
一流の芸術家、学者、武道家などはみんなこれと同じである。
ところが、甲野氏は、金稼ぎや売名行為に忙しく、1週間にせいぜい1=2時間の稽古しかやらず、
あとは新幹線に乗ったり車で移動したり、会議で座りっぱなしでいたり、およそ体を鍛える生活過程はほとんどない。
棒状のものを武器にできる剣道と違い、彼の抜刀術はこの21世紀の世では、
真剣を持ち歩くわけにはいかないのだから、実戦にはほとんど役に立たない。
趣味でやっているのならとりたてて言うほどのことはないけれど、
こんな低レベルな見世物を「武道」などと名乗ってほしくないものだ。
──某ブログより