「謎の彼女X」 植芝理一総合 第13章

このエントリーをはてなブックマークに追加
758名無しんぼ@お腹いっぱい
不思議な町並みの雑踏の中、人ごみの向こうを卜部が歩いているという夢。
呼び掛けても聞こえないのか、卜部は振り返らずに歩き続ける、距離が離れすぎていた。
椿は卜部を追いかけて、走る。
人並みに流され、町並みに迷い、予測不能な卜部の歩みに振り回されて、それでも少しづつ距離を近づけていく椿。
卜部は、謎めいていて、分からない所ばかりで、でも不意にもの凄く可愛らしい所や色っぽさを垣間見せる椿の交際相手。
一番分からなくて、分かりたい相手。卜部に触れたい、近づきたい。
椿は夢の中で激しい発作を起こしかけていた。どうすればこの苦しみから解放されるのか、椿は知っている。
二人だけの絆で、確かめ合えば良いのだ、いつも通りに。
声の届く距離に近づいた時、再び椿は呼び掛ける。
「卜部!」「なあに?」
聞こえた返事は、後ろからのものだった。
驚いて振り向くと「呼んだかしら?」と卜部。
椿は卜部に対して、呼び掛けたが、気付かないようなので追いかけた事と、自分が発作を起こし掛けている事とを伝える。
それを聞いて指につけた涎を差し出す卜部。いつも通りの二人の関係、謎めいた、二人だけの間で通じる儀式。
しかし、涎を舐めても発作は止まらない、苦しさは募るばかりだ。
胸を抑え、頭を抱え、うずくまる椿。
絆が、意味を失ってしまったのだろうか?
それとも、自分には理解できない何かが違ってしまったのだろうか?
弱々しく卜部に呼び掛けながら顔を上げる椿。
そこには紙みたいに薄っぺらな卜部(?)の姿があった。
気が付くと椿の身体も紙のように薄っぺらくなっている。
椿だけではない、不思議な町の不思議な雑踏を構成する全ての要素が紙のように薄くなっていた。
「卜部…」
目の前の、薄っぺらな卜部の肩を掴んで立ち上がろうとすると……。
白刃が閃き、自分を含む視界の中の全てが切り刻まれた。
紙のように薄い卜部も、同じように薄くなった椿も、町並みも、人波も、全てが細かい紙片となり舞い落ちる。
細切れの紙切れとなった椿の視界の中に、鋏みをパンツの中にサッと戻す、卜部の姿が見えた。

そこではっと目が醒める椿。
ここ最近の卜部に対して感じていた違和感が、確かな形を持って胸の中で渦巻き始める。