安彦良和総合・機動戦士ガンダム THE ORIGIN 21号
安彦良和、『王道の狗』を語る――――― 1
「王道」というのは、論語の本来の意味では君主による善政という
ようなことですが、石原莞爾が言う「王道政治」の中では「覇道」
の反対語とされています。今でいうと中国なんかが盛んに使う「覇
権を求める政治」、その対極ということなんでしょう。日常的には
「いちばんまっとうな道」というような使われ方をしていますね。
この作品では「正義・人道に悖ることのない生き方」を象徴してい
ます。そういう生き方を貫く「狗」が、主人公・加納周助=貫真人
なんです。
「狗」は表に立てない、裏街道しか歩めないケモノ人間ということ
ですよね。脱獄囚である加納はその極めつけです。表舞台で目立っ
て、いいとこ取りでヒーローになっていく人はいっぱいいるけど、
その陰にはきっと立派な生き方をしている無名の人や、報われない
まま使い捨てにされた人がいるんですよ。
安彦良和、『王道の狗』を語る――――― 2
(中略)
自分の作品で何か一つ選べって言われたら『王道の狗』ですね。
『虹色のトリツキー』も愛着あるけど、あれは満州時代の気分
みたいなものを描きたかった。何が言いたいかって言われたら
はっきり答えられない。でも『王道の狗』は明快ですよ。箇条
書きにできるくらい。
ポイントは日清戦争だっていうことも一つ。あと、明治の政治家で
いちばんの大物は、大久保利通をのぞけば陸奥宗光。伊藤博文でも
山県有朋でもない。すごい人ですよ、陸奥は。ただの「条約改正を
した外務大臣」なんかじゃない。
(中略)
いろんな有名人が出てきますけどね。好きな人、嫌いな人にはっき
り分けられる。好きなのは勝海舟、榎本武揚、ちょっとしかでない
けど宮崎滔天。陸奥は嫌いだけど凄い。福沢諭吉は嫌いだけどなあ。
そんな感じもかなり露骨に描き分けたつもり。そういうことも含め
て、自分としてはけっこうストレートにメッセージを表現出来た作
品だと思ってるんですがね。いろんな事情で後半ずいぶん駆け足に
なっちゃってるんだけど。
(COMIC新現実vol.1より)