蒼天の拳11

小学生の頃、クラスにＷさんという女子がいた。彼女は先天的な病で体がただれていて、声もうまく発声できなかった。
大人しい子でいつも本を読んでいた。
男子の友人はいなかったが、女子の友人は不思議と多いようだった。

修学旅行で旅館に泊まった時、友人が女子の部屋に遊びに行こうと言い出した。
俺も同意して、どうせだからこっそり行って驚かせてやろうってことになった。
そしてクラスで一番人気のあった女子のいる部屋に行く事となった。
こっそりドアを開けると（どのように鍵を開けたかは忘れた）恐ろしい光景が。
体育座りで座り込むＷさんを円になって囲むようにクラスの女子全員が立っていた。
そして、Ｗさんに対して「豚」「焼けど野郎」などと罵声を浴びせていた。

さらにクラスで最もかわいかった子が「じゃあ、カツラはずしまーす」と笑いながら言ってＷさんの頭に手を伸ばした。
次の瞬間、Ｗさんの髪の毛が全部その女の手にあった。Ｗさんは頭皮も病気で、髪の毛が生えないためカツラをしていたのだ。
男子は誰もそれを知らなかった。ショックで何が何だかわからない俺の前で女子はＷさんを蹴飛ばしたりカツラをライターであぶったり。
Ｗさんはかすれた声でうめく。助けを呼びたくても呼べないのだ。
俺と友人は無性に怖くなって見つからないように逃げた。
次の日、Ｗさんもクラスの女子も何事も無かったように京都を観光していた。
それが一番怖かった。

時がたって同窓会が開かれた。Ｗさんはすでに亡くなっていた。
俺は思い切って女達に修学旅行でのことを聞いてみた。
すると例の一番かわいかった女の子が「あんなの別に死んだっていいじゃん」といった。
趣旨がちょっと違うかもしれないが、これが俺の経験した最も怖い話です。 　　　　　　　

Wさん＝田親分？

紅華会に居た頃、Dさんという三番頭がいた。
オシャレな人でいつも髪型を気にしていた。
紅華会に友人はいなかったが、青幣の友人は不思議と多いようだった。

大新世界に泊まった時、友人が風呂に入りに行こうと言い出した。
俺も同意して、どうせだからこっそり行って驚かせてやろうってことになった。
そして上海で一番人気のあった浴場に行く事となった。
こっそりドアを開けると（どのように鍵を開けたかは忘れた）恐ろしい光景が。
湯につかるDさんを円になって囲むように紅華会の構成員が立っていた。
そして、Dさんに対して「なんて重いんだ」「（ヅラ野郎）」などと罵声を浴びせていた。

さらにマッサージ師までもが「じゃあ、カツラはずしまーす」と笑いながら言ってDさんの頭に手を伸ばした。
次の瞬間、Dさんの頭がマッサージ師の手にあった。Dさんは鉄のヅラをボルトで留めていたのだ。
構成員達は皆それを知らなかった（ふりをしていた）。ショックで何が何だかわからない俺の前でマッサージ師はDさんの関節をはずしたり、カツラごと浴槽に投げ入れたり。
Dさんはかすれた声でうめく。助けを呼びたくても呼べないのだ。
俺と友人は無性に怖くなって見つからないように逃げた。
次の日、青幣が何事も無かったように復活していた。
それが一番怖かった。

Dさんはすでに亡くなっていた。
俺は思い切って友人に死因を聞いてみた。
すると新聞を読んでいた友人達が、「紅華会のカッパの田が大浴場で溺死だとよ」「何でカッパが溺死すんだよ」といった。
趣旨がちょっと違うかもしれないが、これが俺の経験した最も怖い話です。