漫画家Xが仕事の合間に質問に答えるスレ

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375漫画家X ◆xxxTLP/6
>>338
私も村上春樹作品は、ほとんど読んでいます。私にとって特別な作家でした。
「でした」という過去形を使っているのは、『ねじ巻き鳥クロニクル』は何故か今まで
のように熱中できず、途中までしか読んでいないからです。

『羊をめぐる冒険』について語るのは、残念ながら一言では不可能です。

>>339
私はかつて壁にぶつかったことがあります。何が面白いのかわからず、精神面はボロボロでした。
成功している漫画家の作品は見たくもなく、自分が上手くいかない原因を心の中であれこれ言い訳
ばかりしていました。「担当がいろいろいじるからいけないんだ」「売れてる漫画家は時流に乗っただけだ」
「受け狙いで流行のジャンルを描けば自分だって簡単に売れる。けど、そんなの最低だからやらない」
等々・・・最悪でした。

私は精神面をコントロールする必要を感じ、スポーツ選手のメンタルトレーニングの本を読みました。
オリンピックにも出場したことがある射撃の選手の書いた本で、確かタイトルは『メンタル・タフネス』
だったと思います。この本の中に次のような事が書かれていました。

『潜在意識でイメージされたものは、事にあたった時、無意識に反映される。』

例えば、自分は標的を外すかもしれないと何度も心の中で思うと、実際に射撃する時
緊張してしまい外すというのです。緊張すると失敗するというのは当たり前の様ですが、
その緊張の原因がネガティブなイメージトレーニングのせいというのは新しく感じました。

私はこれらのことを漫画に置き換えてみました。
「担当があれこれいじるからいけないんだ」私は、自分が思うような評価を得られない理由を
担当のせいにしていました。自分の実力が足りないと言うことを認めるのが辛かったからです。
私は何度も担当が発言した内容を「あんなことを言った。こんなことを言った。やる気を
なくさせた。方向性を失わせた」と繰り返し頭の中で思い返しました。すなわち、負のイメージ
トレーニングを繰り返し行ったわけです。その結果、私は担当の発言を全て悪く取るようになり、
ますますやる気をなくすようになってしまっていたのです。(続きます)
376漫画家X ◆xxxTLP/6 :02/01/05 19:31
>>339(続き)
「売れてる漫画家は時流に乗っただけだ」「受け狙いで流行のジャンルを描けば自分だって
簡単に売れる。けど、そんなの最低だからやらない」
私は売れている漫画家を否定していました。彼らの作品に対する純粋な評価ではなく、
売れているから否定していたのです。なぜなら、売れてない作家の悪口を私は言ったことが
ありません。本来作品を好き嫌いという気持ちと、その人の作品が売れているかどうかは
別問題のはずです。にもかかわらず、売れている漫画家についてだけ悪口を言うのは、
明らかに妬んでいるからです。そして、彼らを否定することにより、自分自身の作品や作家と
しての自分を肯定しようとしていたのです。
このように、私は「売れている漫画家」を否定することにより「売れることそのもの」を
否定していました。売れるということは、イコール大勢の人に「面白い」と評価されることです。
私は、何度も何度も繰り返し面白い作品を描くことを否定するイメージトレーニングを
行っていたのです。何が面白いのかわからなくなるのは当然です。

私は、上手くいかないのを担当者のせいにするのをやめました。
売れている漫画家を否定するのをやめました。
そして、担当者を毎回作品を発表する前に感想を聞かせてくれる『近所の兄ちゃん』と思うようにし、
すごく面白い漫画を描いて自分も大勢に「面白かった」と言われたいと思うようになりました。
すると、なにが面白いのかわかるようになりました。

その後、漫画家として続けてこれたのは、ひとえに読者から「面白い」という声を聞きたいという思いだけす。
そして、ひとつの連載が終了しても落ち込むことはなくなりました。
次にもっと面白い作品を描けばいいだけの話ですから。