コーホー大先生のクラシックなんでも相談

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708宇野功芳
バレンボイム/ベルリン国立歌劇場のべートヴェン「フィデリオ」

近年まれに見る名盤の登場である。同曲の演奏としてはフルトヴェングラー53年盤、ショルティ盤に匹敵する出来といえよう。
ぼくはつねづねバレンボイムを「音楽の才人」でありながら才能の無駄使いをしていると書いてきたが、同盤はそういう思いを微塵も抱かせない。
それにしてもなんという味わい深い響きなのだろう。
決して大げさな表現をとるわけでもなく、音も鳴らし足りないかと思うくらい控えめなのだが、そこにはえもいわれぬニュアンスが息づいている。
そして間の取り方の見事なこと!
これらが監獄の重苦しい雰囲気、それに立ち向かうレオノーレの心をこれ以上ないくらい見事に表現している。
作品の解釈も斬新だ。ロッコを善人者というより権力迎合者に見立て、よりいっそうレオノーレの行動の勇敢さを鮮明に打ち出している。
歌手陣も現在望みうる最高の布陣で(ヤキーノ役が弱いのが残念だが・・・)まさにバレンボイムの面目躍如といったところであろう。
いや、それどころか彼のベスト演奏といっても差し支えなかろう。
最後に一言。このような演奏はベルリン国立歌劇場のオーケストラの力があってこそ為し得たものといえよう。
これがシカゴ交響楽団なら・・・大いに疑問が残るところといえよう。