クラシックギター総合スレ

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164名無しの笛の踊り
先日,深夜に仕事が一区切りしたので,久しぶりにギターに触りました。
ちょっと基本をやっていると急に話題になっていたソルの練習曲17番が弾きたくなりました。弾いてみるとどうやら大部分暗譜出来ているようなので,目を瞑り,自分の弾く音だけを集中して聴きながら弾く感じになりました。そこで感じた私の妄想です。

曲は,さりげなく「昔々あるところに...」と問わず語りに始まり,次第にまるで一人の生涯を語り始めるかの様に一歩一歩歩みが進められます。少し進み,極めて美しいメロディが最初の控えめな高揚を迎えると,一旦語りは止みます。
第二部分に入り,大きく過去を振り返るような冒頭のフレーズを皮切りに,様々な試練に遭遇して何かに立ち向かい辛苦に耐える様なメロディが続き,しばらくすると,失意の内に逡巡するフレーズが幾度か繰り返されて一旦人は深い絶望の淵に沈潜します。
しかしやがて人は遂に逡巡を断ち切り,勇気を以て立ち向かう途を選び取って歩みを暫し進めます。絶望の淵から一足一足歩みを進めると,やがて全身に降り注ぐ激しい感情が沸き起こり,遂には激情の内に波瀾の日々は終焉を迎えます(第2部)。
大きく振り返る様なホの3連音を合図に場面は一転し,晩秋を思わせる木漏れ日が差し込む平穏な日々が訪れます。語り部は日々を悦び,過ぎ去った日々を慈しみます。今は思い出となった人々との別離の記憶が語り部の静かな微笑みに一抹の哀色を加えます。
繰り返される幽愁のメロディに過日の盛夏の悦びと離別の慟哭の記憶が重ね合わされ,終焉を迎えて繰り返される逡巡のメロディにも,名状し難い思いから過ぎ去りし日々が走馬灯の様に脳裏を走り,やがて高音と低音のメロディが名残惜しげに呼応すると静かに消え入る様にこの美しい曲は閉じられます。

大バッハがあのシャコンヌにおいて様々な技法と数十分を費やしてようやく表現し得た様な波瀾万丈の人の一生を,ソルはこの曲で僅か数分の間に見事に描ききっているというのは言い過ぎでしょうか?本当に見事としか言いようのないものだと思います。
メカニック的・外形的にはほとんど禁じられた遊びのロマンスと同じようなこの曲に,比較にならない様な豊かな世界が広がっていることが確かめられ,至福の時を過ごすことが出来ました。ギターに,ソルに感謝致します。

....という妄想を感じました。