92 :
名無しの笛の踊り:
みんなウソばっかり! 本当はこうだよ。
家賃滞納でセーヌ左岸の安アパルトマンを追い出されたサティは
モンマルトルの丘に建つ空き家を見つけてこっそり住み始めた。
数年たったある日、住み慣れたはずのその家に
まだ自分の知らない部屋があることに気づく。
サティは恐怖に立ち竦むが、やがて意を決して軋む扉を開け、
恐る恐る部屋に入って行く。
ホコリがうず高く積もった床の隅に四角い穴が開いていて、
地下へ降りる階段がのぞいている。
「 まるで善通寺のお戒壇巡りのようだ 」
そうつぶやくとサティはゆっくりと階段を降りていった。
降りても降りても階段は終わらない。
大きな螺旋を描いて下へ下へと続いている。
冥府の底まで届いているのか。
しかも進むにつれて獣臭とも腐臭ともつかぬ異様なニオイが
鼻孔を突いてくる。
ようやく降りきった突き当たりに扉があった。
異臭は耐えがたいほど強くなっている。
サティはしばらく耳をそばだてて気配を窺っていたが、
やがてソロリと扉を開けた。
彼が扉の向こうに見たものは------------------
うわあああああああああああああああああああああっ。
(続く)