メロディーの影・・ ジムノペディーに隠された・・

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136名無しの笛の踊り
売れない作曲家のサティは場末のキャバレェでのピアノ弾きやピアノ教師として
何とか糊口をしのいでいた。
そんなある日、超大金持ちの未亡人が新しく生徒になったんだ。サティ25歳の
ことだった。その未亡人は69歳ながらあっちも現役、しかしデヴィ夫人みたいな
ルックスで誰一人近付こうとはしていなかった。

未亡人はサティにパトロン契約を申し入れた。契約内容は「家の中は好きに
使っていい。欲しいものは何でも買ってやる。ただし外出は必ず未亡人同伴で
あることと、他の女とは一切縁を切る事。この条件を呑めば月あたり日本円換算で
150万円を与える」というものだった。
キャバレェの残り物を持ち帰って食べるのが毎日だったサティはすぐにOKしてしまった。
心に引っ掛かったのはひそかに五年間も想いを寄せていた踊り子のベティだったが、
今やトップアイドルのベティが自分に振り向くはずもないと自分に言い聞かせての決断だった。

キャバレェ勤務最後の日、店は閉店後にささやかなさよなら会を催してくれた。その席で
彼はベティから思いもかけない言葉を投げ掛けられた。「ずっとあなたが好きでした。
いつか告白してくれるような気がして、待っていたのに、私の一人相撲でした」

サティは今夜も未亡人の床へと向かう。ただひとつだけの犠牲を払い、地位も名声も
金も物も欲しいものは全て手に入った。しかしその犠牲はあまりにも大きく、サティは
感情というものを失ってしまったかのようだった。貧乏も哀しみもない、だけど喜びなんて
いう言葉すら忘れてしまった。

今夜も未亡人の部屋から冷たい響きのジムノペディが流れている。