長木誠司助教授

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332長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう
36. ブリテン《ねじの回転》
2001年4月19日 新国立劇場

 新国立劇場、小劇場の催しだけは例によって勇猛果敢。ただ、ヨーロッパの歌劇場にあるような、このクラスの実験劇場的使用法に比べれば、まだまだ甘い。という前提をしたうえで、今回のブリテンによる《ねじの回転》は、総合的に見ればまあまあの水準の舞台だったでしょう。
333長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう:2001/04/24(火) 05:53
 新生東フィルのメンバーを中心にする小編成アンサンブル(会場には、両楽団、いや今となってはひとつの楽団の事務局の方々が見に来ていました。合併早々いろいろと気になること、気にすることが多いかもしれませんが、幸福な〈結婚〉生活を送って欲しいものです)と、この手の作品に手堅い指揮を見せる松岡究さんの棒。リズムがやや重ったるい点を抜かせば、ブリテンの熟練のスコアを実にクリアに音にしていた。
334長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう :2001/04/24(火) 05:54
 《ねじの回転》の上演は、もう15年以上も前に、東京オペラ・プロデュースによる日本語上演があっただけのような気がします。少なくとも、私が日本の舞台で見たのはそれだけ。あのときは、チョン・ウォルソンさんの家庭教師役が楚々としたいずまいといたいけな弱さ、そして同時に気丈さを見せて美しかった。
335木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう:2001/04/24(火) 05:54
 今回、初日のキャストは、みな適材適所という感じで好演。遠藤久美子さんの家庭教師をはじめ、みなさん英語の訓練のあとが聴けてよかった。イタリア語やドイツ語による作品よりも、たぶん英語の作品が一番苦手だと思われる日本のオペラ界で(だって、みんな英語はちょっとできてしまうから、かえってちゃんとやらないし、オペラ学びにイギリスやアメリカには普通行かないので...)、これくらいできれば及第かなという感じです(私がいくらネイティヴ志向に汲みしないとしても、あまりといえばあんまりの発音にぽかあんとさせられることも多かったですから)。もちろん、まだいろいろと課題は大きいですけどね。
336長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう :2001/04/24(火) 05:55
 で、問題は演出。これはちょっとひどいと思う。というか、ジェイムズの原作などおかまいなしで、原作の謎を非常に浅薄なレヴェルで見せ物にしてしまったという感じが否めません。あえてこの作品を選んだブリテンというひとの作品としても、大いに疑問が残ってしまう。初めて見るひとにはこんなもんでよいのかも知れませんが、曲がりなりにも「国立」を謳う劇場の、それもいわゆる文学オペラの出し物としてはちょっとお粗末。いろいろと不満はありますが、まず説明調のシルエット演技。シルクハットの〈後見人〉の思わせぶりだけの登場。序幕部分にはああいった小手先の、それも門切り型の説明は要らないと思うのですね。なんか、作品のコワサが阻喪する。
337長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう:2001/04/24(火) 05:55
 まあ、それは趣味の問題でもあるでしょうが、どうしようもないのは、2幕冒頭、クイントとミス・ジェッスルのSM的場面(ここは、とりようによっては、亡霊同士が話し合う、けっこうマヌケでギャグ的な場面だとも思うのですが)。それはないでしょ、いくらなんでも、という感じです。平尾さんは原作ちゃんと読んだのかなあ、そしてこの作品の演出歴とか調べたのかなあ。そもそも、ブリテンというひとがどんな作曲家で、ほかにどんな舞台作品があるのか、よ〜く知っているとは思えない。
338長木誠司東京大学助教授に美文を学ぼう:2001/04/24(火) 05:56
 そもそも、『ねじの回転』が第1級のホラー小説だという評価を鵜呑みにしている観があって、それ以上の突っ込みがないのがもの足りないです。家庭教師の性的妄想による幻想か、邪悪なものの実際の現前か、なんてことジェイムズにとっては実際どっちでもよかったんだろうと思います(だいたい、小説書いている本人が、実際どっちかわからないなんていうのはナンセンス)。ただ、そういう二項対立をわざわざ打ち出しておいて(第三者がうち立てた対立でもあるわけですが)、さもどっちかであるような仕掛けをしておくのが、小説の大きなレトリック。その罠に、平尾さんはまんまと陥っているし、だいたいが、セクシャルなもののあのSM解釈はないだろう...。あの「ヘンなおじさん」タイプはないだろう。性的なものがあるとすれば、家庭教師側にそれを呼び覚まさせた、クイントとマイルズとのあいだの関係(あるいはミス・ジェッスルとフローラの関係)の方がたぶん重要で、おそらくブリテン自身の同性愛志向と密接に関わるその要素にまったく言及も暗示もすることなく演出することの浅はかさが、極め付き的に出てしまった舞台でした。あれでは、今の演出として面白くも何ともない。平尾力哉という演出家、私は嫌いではなかったのですが、今回のでバツイチだなあ。 
339平尾さんって離婚しているの?:2001/04/24(火) 06:39
>338
>平尾力哉という演出家、私は嫌いではなかったのですが、
>今回のでバツイチだなあ。

平尾さんって離婚しているの?