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名無しの笛の踊り:
ドライブスルー完備のマクドナルドが出来た。俺の住んでいる町では始めてだ。
前々から新聞の折込にチラシが入っていたので、当日は結構な盛況ぶりだった。
いつもはガラガラの国道が、その日に限って渋滞していたぐらい。
店の方も初日の混雑を予想していたらしく、ドライブスルーには入口・中間・出口にそれぞれ人が配置され、システムの説明と交通整理を行っていた。
そろそろ日も落ちかけた頃、店の裏手で何かでかい物がぶつかる音と悲鳴が聞こえた。
駆けつけた俺達が見たのは、ドライブスルーの道筋から外れた車が、駐車場に止まっていた車の横っ腹に突っ込んでいる光景。
それを呆然と見つめるドナルドとビッグマックポリスだった。
「ゲボッ」
蛙の鳴くような声の先には、車と車の間に挟まれた男子小学生が、顔を真っ赤にしながらボンネットの上に吐瀉物を撒き散らしていた。
イチゴ色に染まったポテトやパン。それを見た女子中学生が吐き出したのをきっかけに、あちこちで吐き出したり叫び声が湧き上がった。
ぶつけた運転手は車から降りず、ひたすら前方を見つめハンドルを握り締めていた。
助手席に座っていた子供は父親に必死でしがみつき、後ろに乗っていた母親と祖母は前の座席の背もたれに顔を埋めていた。
混乱する中で、ドナルドが運転手に向かって車をバックさせるように話すと、運転手がドアを乱暴に開け、よろめいたドナルドを殴りだした。
「お前が、お前が」
馬乗りになって殴りつける運転手。止めに入るビッグマックポリス。運転手の腰にしがみつき殴るたびに小刻みに体を震わせる子供。
「ウボッ」
「ウボッ」
運転手が降りたため、再び動き出した車の圧力で、小学生がまたピンク色の吐瀉物を吐き出した。
後から聞いた話では、手伝いに来た系列の社員が気を利かせてドナルドの格好をして応援に来たらしい。
一日中説明に立っていたアルバイトと交換するため出てきたのだが、おどけたアクションで飛び出したのがまずかった。
驚いた運転手が、ハンドルを切ってアクセル全開してしまい、駐車場にいた小学生を挟む形で車に追突したらしい。
しばらくして到着したパトカーに乗る運転手。ドナルドは警官に事情を説明した後、うなだれながらパトカーに乗っていった。