新日本フィルハーモニー交響楽団 2期目

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105名無しの笛の踊り
音楽−新日フィル定期演奏会(朝日新聞2006年1月12日)

「意欲・創意表す重厚な選曲」

 ベルギー・モネ劇場の音楽監督を務める大野和士が、2年ぶりに新日本フィルハーモニー交響楽団
の定期に客演した。松の内でもハードな作品を期待するファンに照準を合わせ、新春気分を吹き飛
ばす。今年生誕百年のショスタコーヴィチと、没後10年の武満徹に捧げられた江村哲二の新作を組
み合わせた重厚なプログラム(6日、東京のすみだトリフォニーホール)。

 核に据えたのは、演奏の機会が極端に少ないショスタコーヴィチの交響曲第4番。プログラムを差
別化し、指揮者の意欲と創意を示した点で的確な選曲だった。演奏に1時間を要し。打楽器9人にホ
ルン8人を含む総勢110人の大編成は、マーラーの規格はずれの交響曲に一脈通じるが、歌劇「ムツ
ェンスク郡のマクベス夫人」を思わせる俗っぽさと不気味さ、悲劇性が混交した音楽ははるかに生
硬。いたるところ、亀裂だらけだ。
106名無しの笛の踊り:2006/01/12(木) 23:21:19 ID:9Yecdr+b
 深刻なメロディーに木琴が滑稽味を添え、行進曲と舞曲が交差し、爆発するトゥッティと抒情的
な独奏が間髪おかずに接続するなど、極端なものが同居して肥大化した音楽を大野は整理せず、破
綻をそのまま示した。無骨な刻みにのせて強烈なキャラクターの楽想が次々と放たれ、一貫して明
朗に突き進んでいく。驚異的速度でフーガを弾ききった弦楽器群、頻出する管楽器の鮮やかな独奏
など、指揮に応えた新日フィルの底力頼もしい。とくにニュアンスたっぷりのファゴット独奏(河
村幹子)はみごとだった。

 ただ、暗部の表現は弱い。当時、「マクベス夫人」をめぐる嵐のような批判にさらされて暗澹と
していた作曲家の危機的精神に肉薄するには、たとえば各楽章の消え入る終結部に、癒しがたい孤
独感が欲しかった。

 世界初演となった江村の「地平線のクオリア」は、左右に分かれた楽器群が呼応しつつ、緩やか
に動いては立ち止まる呼吸感のある佳作。ゆらぎと甘美なハーモニーは武満の音楽の佇まいを想起
させたが、新たな胎動を孕む中低音域の楽想とその推移に独創性が刻印されていた。

 ショスタコーヴィチのピアノ協奏曲第1番は、マケドニア出身の注目の若手シモン・トルプチェス
キが独奏。古典様式に収められたダダイスティックな楽想の羅列を、安定した打鍵で駆け抜けるよ
うに弾ききった。(白石美雪・音楽評論家)