>>105さんへ
>>102です。
1969年のリヒターは精悍そのもので、今で言う「オーラ」を強烈に放ち、何か近寄り
がたい感じでした。コンサートのステージも、リヒターを中心にしたオケ・合唱団・
ソリスト全体から燃える炎が立ち登るような熱気を感じました。演奏も瑞々しく新
鮮で、まさにこの瞬間・瞬間にバッハの音楽が新たに生まれているという印象を受
けました。凡庸な演奏では長く感じる「マタイ」「ロ短調ミサ」が、リヒターの指揮で
は集中して聴けたために時間の経つのも忘れ、あっという間の出来事に感じました。
聴く前と後とでは世界観が変わってしまったかのようにも感じました(とても言葉で
はうまく言い表せませんが・・・)。
1979年の単身来日の時のリヒターは、分厚いレンズのメガネをかけており、すごく
やさしくなったなという印象を受けました。それは察するに、1970年代の前半にリ
ヒターは失明するかもしれない目の病のため(網膜剥離だったと聞いています)、大
手術をし、精神的にも大分痛手を経験したためではないかと思います。演奏もリヒ
ター特有のスケールの大きさはありましたが、1969年の時のようなものすごい集中
力とは違い、柔らかなゆったりした流れに乗った感じを受けました。かつてのリヒ
ターでは考えられないようなミスタッチもありました。でも広く深く温かいバッハ
の世界を堪能できた事は事実です。例えとしてふさわしいかどうかはわかりません
が、「腐っても鯛」という言い方をすれば「衰えてもリヒター」と言う事でしょうか。
いずれにしても、シュトラウベ、ラミンを師としたリヒターは、ライプチヒのバッ
ハ演奏の正統的系譜を受け継ぐ最後の偉大な演奏家と言えると思います。