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青い瞳とウェーブのかかったブロンドの髪。両親ともドイツ人のドイツ
生まれ、しかし日本育ち。そして物心ついた時からピアノとヴァイオリン
の厳しいレッスンを受けてきた彼女は、いつしかクラシック音楽以外の
何物をも受け付けない、偏狭極まりない心になってしまった。
そんな有様で、更に見た目は完全にドイツ人なものだから、友人など
できようはずもない。彼女自身、日本の友人など作ろうとは、全く思って
いなかった。祖国ドイツの、ヨーロッパの音楽こそが最高であり、
趣味の悪い音楽しか聴かない友人など、欲しくはなかった。
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放課後、いつものように彼女はヴァイオリンを携え、校舎裏へとやって
来た。吹奏楽部の練習場所だ。吹奏楽部員の合同練習が聞こえてくる。
彼女はヴァイオリンを構え、わざと吹奏楽部の演奏をかき消すかの
ように、ヴァイオリンを奏で始めた。
吹奏楽部の演奏が乱れ始め、たちまち不協和音が響き始める。彼女はほくそ
笑んだ。いい気味だ。あんな低俗な音楽など、どうなっても構うものか。
やがて、吹奏楽部の演奏が完全に止まった。彼女はその様子を鼻で
笑いながらも、心の片隅に一抹の寂しさを抑えきれなかった。
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不意に、テューバが、ヴァイオリンの音色に寄り添うかのように、太い
音を響かせ始めた。彼女は、自分の演奏の伴奏をするかのごとく音を
重ねて来たテューバの響きに、一瞬面食らった。
続いてユーフォニウム。ホルン。クラリネット。フルート、トランペット、
サクソフォン……彼女のヴァイオリンを支えるかのように次々と楽器は増え、
最後にはパーカッションが加わり、壮大なハーモニーが出来上がった。
彼女は、夢中でヴァイオリンの弓をしごいた。ああ、音楽とはこんなに
楽しいものだったのか。幼い頃からの厳しいレッスンで、それは彼女が
忘れかけていたものだった。
演奏が終わった。汗びっしょりになってヴァイオリンを下ろすと、そこ
には吹奏楽部の部員達が立っていた。
部員の1人が手を差し出す。
「1人で弾いててもつまんないだろ? もっと一緒に演奏しようぜ」
彼女は、恥ずかしそうにうつむき、はにかみながらその手を取った。
瞳の色が違おうと、他人を思いやる心に変わりはないように、
楽器や曲が違おうと、音楽を愛する心に変わりはない。
クラシック板選対は(「クラシック板は」ではない)、吹奏楽板を
応援します。3月6日(日)は、<<吹奏楽>>板へ清き一票を。