ともあれ、あの音楽を聴いても蛙のイメージがちっとも沸かない。
たぶん、他の読者の多くもそうだろう。
高橋悠治をよく知っている人は、「ああ、実にあの人らしいな」と
思うかもしれないけど。
ストーリーは、蛙たちが、池に浮かんでいる、黒くてでかい物体に
遭遇するもの。その物体の正体は、物語の最後で語り手によって
明かされる。
蛙の絵本だったらみんなそうだろうけど、蛙の鳴き声がふんだんに
ちりばめられている。
文章は普通。たいしたひねりもなく、安心して読み進められる。
なっちはここで蛙詩の巨人、草野心平のことを思い出す。
機会があれば、《勝手なコーラス》や《第八月満月の夜の満潮時の
歓喜の歌》や《誕生祭》を読んでいただきたい。
それらと比べると、高橋流の鳴き声には物足りなさを覚えてしまう。