http://www.bk1.jp/0247/02476190.html 山田耕筰『生れ月の神秘』、実業之日本社から近く出るみたい。
さて、この本の紹介を。
>>19では1925年と書いたけど、それは、国立国会図書館に
残っている4版の出版年であって、初版がいつかは不明。
1972年に復刊された際に、耕作の妻、山田真梨子が文章を寄せている。
それによると、出版された当時、占いの専門家もこの本を参考にして
いたそうだ。占い関連の本じたい、とても珍しかったらしい。
ただし、なっちがちょっと調べてみたところ、「占ひ」と名乗る本だけでも
「現代独占ひ」「お指の占ひ」「開運御鬮独占ひ」「西洋新式花占ひ」
「吉凶占ひ」などがあった。ただ、誕生月占いとなると、どうだろう。
ともかく、山田が誕生月占いの火付け役となったのは間違いない。
この本はロングセラーとなった。
「トリビアの泉」では、山田耕筰に関するこんなトリビアが
紹介されたことがある。
> 「赤とんぼ」を作曲した山田耕筰は自分の頭に毛がないこと
> を悩み名前の「作」の字にカタカナの「ケ」(毛)を付けた
しかし、真梨子によるとこうだ。
> 山田耕作という同名の人が多くて、よく電話が間違ってかかる
> ことが多かったので、『筰』の字に変えたのだと聞いております。
真梨子の序文には耕筰に関する面白いエピソードが他にも書かれて
いるのだが、あまりダラダラ書くわけにもいかない。
肝心の耕筰の占いにうつろう。
この本の構成を説明しよう。
各月ごとに「○月生れのひと」というタイトルがつけられた章が
設けられている。それぞれの章には、「性格」「なすべきこと」「短所」
「慎むべきこと」「子どもの運勢」の5つの節が設定されている。
付属資料として、「○月生れの偉人、名士と芸能人」が各章の
最後に配置されている。
復刊にあたって、ある易学者の手により、「○月生れの偉人、名士と
芸能人」には近年の有名人が新たに追加された。
長嶋茂雄、藤田まこと、朝岡雪路など。
文章は丁寧体。
改行するたびに、前の文章との間を1行開けるというスタイル。
たいてい1行から4行書くごとに改行される。
ということで、ページは余白だらけ。
普通の本で頭がクラクラしてしまう人でも、この本なら「文字の羅列」
に苦しむことはないのではなかろうか。
さらに、古めかしい用語があまり使用されていない。
そのため、今の時代を生きる我々でもたいして違和感を感じずに、また
あまり辞書に頼らずに読むことが可能だ。
やがて占い本が百花繚乱する時代になってもこの本が版を重ねて
いられたのは、上のようなことによるのだろう。
各月生まれがどう言われているか、冒頭を紹介する。
生まれつきこれらの傾向があるってこと。
1月 指導者、思索家としての素質あり。
2月 人一倍強い人間であり、また一方では人一倍弱い人間でもあるといわれる。すぐれた才能を持つ。
3月 工学、演劇、文学の才能に恵まれている。
4月 頭脳のはたらきを必要とする職業につけば、必ず頭角を表す。
5月 才知と技術に恵まれている。
6月 二重の性格を与えられていることが多い。良い方を活かすよう絶えず心がけよ。
7月 大きな事業を画策し完成することにかけて、卓抜した才知と非凡な能力に恵まれている。
8月 心優しく、寛大で、磁力を豊かに備えている。
9月 寛大で、情に厚く、心がやさしくて、磁力にめぐまれている(←8月生まれとほとんど一緒!)
10月 度量が大きく、胸は大望に燃えている。
11月 絶倫な意力と、偉大なおちつきとを備えている。
12月 淡白な、精力的な、進歩的な性格をもち、同胞の信頼を勝ち得る。
どの月生まれでも何らかの才能があるってことらしい。
なお、磁力とはこの場合、「人をひきつける力」。
この本には、いろいろな人生訓が書かれている。
「なすべきこと」「慎むべきこと」で列挙されているもののなかには、
迷信だと批判されるであろう項目(例参照)もあるにはあるが、それら
の割合は少ない。多くは、他の月生まれが読んでもためになるだろう。
このことも、ロングセラーになった理由だと思う。
例 四月生まれの女性は、紫水晶か金剛石(ダイヤモンド)か瑪瑙
(メノウ)の入った指輪をはめろ。男性は、これらのいずれかの石を
用いたネクタイピンをさせ。
そして、この本は基本的に前向きだ。
誰しも才能や欠点を持っている。己の長所と短所をよく理解し、
その上でなすべきことをなしていけば、幸せになれるのだと。
著者が直接そのように書いているわけではないのだが。
『生れ月の神秘』のレビューは以上で。