作曲家の著作について語るスレ

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106( ☆´ー) ◆PpNattILVM
>>61で予告したけど、リスト『ショパン その生涯と芸術』の紹介。
前にも書いたけど、表紙と奥付でタイトル名が微妙に違っている。

原書Chopinは1852年にパリで出版された。
8つの章にわかれている。
第一章 ショパンの作品概観
第二章 ショパンの作品(ポロネーズ其他)
第三章 ショパンの作品(マズルカ其他)
第四章 ショパンの演奏
第五章 ショパンの生活(天才と日常)
第六章 ショパンの生ひ立ち
第七章 レリア(ジョルジュ・サンド)
第八章 ショパンの最後
107( ☆´ー) ◆PpNattILVM :05/02/04 00:39:41 ID:hOBmOWkF
この本は、ショパンの作品を分析、研究した本ではない。
「……今はその様な研究の時でも場合でもない。これらは
対位法や和声学の大家の興味をそそる丈だから。」(第一章)

また、ショパンの演奏について語るわけではない。
「彼の死が鋭く心に感ぜられる我々には、このやうな分析をする元気
もない。又我々が全力をあげて努力したとしても、どれ程の効果を
予期できようか。彼の演奏の比類なく詩的な魅惑を、実際に聞いた
事のない人に分らせる事は、殆んどのぞみない事である。」(第四章)

また、ショパンとの個人的なつきあいについて書いた本でもない。
人とつきあう時のショパンはこんな感じだったよといったことは
書いているのだが、著者がはじめて彼に出会った時のエピソード
などは省略されている。

また、「ショパンの曲はこう弾いたらいいよ」という本でもない。
108( ☆´ー) ◆PpNattILVM :05/02/04 01:04:23 ID:hOBmOWkF
それではどんな本なのか。
リストは、訳者が指摘しているように、「極めて多くの頁をポーランドの
歴史、風俗、国民性、伝統などの観察のために割いてゐる」。

そのことが最もよく現れているのが第二章と第三章である。
第二章では、ショパンのポロネーズそのものよりもはるかに多くの
スペースを使って、昔のポーランドのポロネーズの様子や、
伝統的なポーランド人論の記述に力をつくす。
109名無しの笛の踊り :05/02/04 19:42:30 ID:X9VIyf5F
>>106-108
その本だったらこんなサイトもあるが。
ttp://homepage.mac.com/kobakoshi/hondana_4210.html
110( ☆´ー) ◆PpNattILVM :05/02/05 13:20:19 ID:Sh1aKbc8
>>109
ジョルジュ・サンドに関係している第七章だけ抜けてるのを確認した。

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つづき。
この本のもう一つの特徴は、訳者が指摘していないことだが、
芸術家論が随所にはさまれていることである。
第五章では、最初の1/3を使っている。リストによるとこうだ。

「芸術作品を創造して高貴な感情を美しく表現する」芸術家の
日常生活に、人々は多大な関心を持つ。
彼ら(人々)は、「芸術作品を創造して、高貴な感情を美しく
表現」する芸術家が、実生活においても、「高尚な生活」を
送ってもらいたいと願っている。
その願いが裏切られた時、人々は芸術家を誹謗し、芸術家の
霊感を蔑むのだ。

リストは人々に対し、芸術家に「寛大な態度を以て臨むのが
正しいのではあるまいか」と主張する。
芸術家が現実の生活でよくない行動をしていたとしても、
作品によって、多くの人々を激励し、高貴な道に向かわせたのだから、と。

このように自らの主張を展開していくのを見た読者には、
「ショパンも、私生活ではやはり問題があったんだろうな」と
思わせてしまうことだろう。
しかし、リストはその推測を否定する。
ショパンには、人々に誹謗されるような行動がなかったのだ。
だから、彼はより素晴らしいのだと。
111( ☆´ー) ◆PpNattILVM :05/02/05 13:57:32 ID:Sh1aKbc8
というわけでこの本は、「一人の作曲家を扱った本」にしては、
ショパンに関する記載が少ない。著者も認めている(第八章 p.202)。
ここで挙げられた伝記的事実の中には、後世の研究で
修正されたものもあるだろう。

ショパンの演奏家やファンの必読書とはとてもいえない。
ただ第一章は、「現代音楽論」として読むと、とても面白かった。

  新しい言語に精通する為には努力が必要である。多くの人が
  外国語を習はうとしないのは此の努力を嫌ふからである。音楽
  の場合も同様である。新しい作品は習慣の惰性に染まらず、
  熱烈な魂と、若々しい溌剌とした想像力を持つ人々の努力を
  通じて受入れられてゆく。

ショパンも生きていた当時は、「大胆な表現」を使う現代音楽
作曲家だったし、彼の音楽を受けつけない聴衆も大勢いたの
だということがあらためてわかる。

後世の研究成果を反映した新訳の出版をお願いしたい。