【尽きない】オットー・クレンペラー 9【話題】

このエントリーをはてなブックマークに追加
656名無しの笛の踊り

クレがストラヴィンスキーの曲を演奏するときに作曲者を呼んだそうな。
そのリハーサルで客席に座っていたストラヴィンスキーいわく、

「私は音の洪水の中で溺れ死にそうになりました。私はすぐにパートバランスを整えてくれるように頼みました」

クレがやっていたのはスコアに書かれていた全パートを同時に並列して鳴らして、
オーケストラとして普通のピラミッドバランスで鳴らさないということ。

言ってみればウェーベルンみたいに各パートをひとつひとつパレットとして使用して空間に配置。
そして同時にそれを配置するから、スコアの全パートが同時に屹立してしまう。
つまり、対旋律や別パートの間に主客関係が希薄。

その方法論に実は、耳自体は古典的な部分を色濃く持って、
一般的な和声で演奏することを前提としていた作曲者がたまげてしまったということなのじゃろう。

クレの特徴は全パートを並列して同時に屹立させるところだと思う。
その点、空間的対位法の鬼というのがクレの肝だと思う。
これだからクレのバッハはたまらんです。
657名無しの笛の踊り:04/09/11 01:47:32 ID:OjX5gn23
グレコンのプルチネッラは正規録音やトリノに比べて
なんというかフレーズの歯切れが悪いというか非翁的に
粘っこいというか、なんかいまいち乗れていないように
思えるなあ。
入手が非常に困難な演奏を引き合いに出すのはとても
申し訳ないんだが、トリノのプルチは正規録音版よりも
更に迷いがないまるで一筆書きのような造形美と、翁一流
のスコアの隅々にまで光を当てたような細部の読み込みが
両立した、翁のライブでは最上の部類の1つに挙げたい
ほどの演奏。というか一連のトリノライブはどれをとっても
信者必聴のレベルだと思うんだが、青裏にさえなっていない
のが実に不思議だ。

とココまで書いたところで656を読んだのだが、656氏の
「空間的対位法の鬼」って実にいい表現だなあ。まさに
トリノライブは鬼の面目躍如といった感じなのですよ。
658名無しの笛の踊り:04/09/11 06:37:43 ID:aIbeJ3dc
鳥のライブにプルチネラが入ってるなんて初めて知った(ショボーン
659名無しの笛の踊り:04/09/11 15:37:55 ID:zCu1WdPt
>>656,657
勉強になりました。
660名無しの笛の踊り:04/09/11 16:05:46 ID:kSxHfPjz
クロアチア出身のサッカー選手に
クレソ・コバチェクという人がいる。
今度はクレとコバケソがガターイしてしまったといえよう。
661名無しの笛の踊り:04/09/11 16:11:48 ID:eXqcHJeA
>>656
オレも「空間的対位法の鬼」は巧い表現だと思った。ぜひ次スレ名に入れてほしい。
そのストラヴィンスキとのエピソードの出典は何?(ヘイワースでしょうか)

662名無しの笛の踊り:04/09/11 22:53:38 ID:w75GDc0g

>>656

ヘイワースの本ではなく、知り合いから伝え聞いた逸話。

知り合いはそのことをストラヴィンスキーの自伝か何かを読んで、
クレ好きの漏れに電話してきたという次第。

その知り合いは、現代音楽にメチャメチャ造詣が深い一方で、
10年程前から「ロスバウトのハイドン萌え〜!」
といっていたほどのヒストリカルにも強いリスナー。

きちんとした情報を提供してくれる人物なので、
ソースは探せばどっかに載っていると思う。
663名無しの笛の踊り:04/09/12 00:08:18 ID:rkvFf3Mi
トリノ未完成の恬淡とした水墨画のような世界が忘れられないが、最後に
聴いたのは何年前か…
664名無しの笛の踊り:04/09/12 12:03:28 ID:V0OZAHfs
>>656
クレのバッハはそんなにたまらんですか?
特にどれがおすすめ?
管弦楽組曲とかブランデンブルクとか、okazakiリマスター
しか手に入らないみたいだけど、音質はどうですか?
665名無しの笛の踊り:04/09/12 12:44:21 ID:uNrLvkjN
ペトルーシュカも確かに「空間対位法の鬼」としての
面目揚々だね。
ここまで立体的に聞こえるペトルーシュカって、
そんなに多くないんじゃないだろうか。
666名無しの笛の踊り:04/09/12 12:48:25 ID:3P2KbEiF
>664
入手しやすそうなところでいうと、管弦楽組曲なら54年の
正規mono録音全曲盤がtestamentからでている。


667名無しの笛の踊り:04/09/12 13:30:57 ID:mbZ2bnmd
>>664
あと、今セール中のOrfeoに管弦楽組曲第3番がはいってる。
ブラ4とのカップリングだったかな。
668名無しの笛の踊り:04/09/12 15:56:38 ID:B+sYX4aL

そもそもスコアの形式は [ 上段・金柑 ] [ 中段・木管 ] [ 下段・弦楽 ] になっている。
しかし楽器の中でどうしても埋もれがちなのが [ 中段・木管 ] 。

逆に言うと [ 木管 ] が聞こえるということはスコアの[ 中段 ] を中心として均等に鳴らすことになる。

両翼にヴァイオリンを配して弦楽の幕を前面に作り、その幕を突き抜ける形で木管が浮き出てくる。
そしてその木管に付随し、上に乗っかる形で金柑が鳴る。

結果として舞台という空間に音のパレットが【配置】される形となって空間対位法が完成する。

音を混ぜるのではなく、各自それぞれが独自に存在しながら同時に屹立させる。
【音】それ自体が空間に位置するときのエネルギーと質感が何よりも重要になる。
そのため音色や歌い回しには興味はなくなるというよりも、邪魔になってしまう。

クレが『木管が聞こえること!』と言っていたのは、このような背景があるのではないかと見ている。
「低音の上に〜」というピラミッド型の和声にはこの思考法はない。
そうなるとあそこまでクレが両翼配置にこだわったのには合点がいく。

この方法論は、ドイツの伝統的な流れよりもウェーベルンなどに近いものを感じる。

そのため、クロール時代のクレは苛烈・激烈なパッションの塊であった
ウェーベルンと考えたほうが良いのだろうと思う。
クレは伝統的演奏家ではなくヨーロッパの伝統の中では異質とも言うべき、
突然変異的なモダニズム(それでもかなり異質)の人だったと思う。