新・ピアニスト川上敦子

このエントリーをはてなブックマークに追加
2名無しの笛の踊り
「音楽の友」昨年3月号の記事です。

●川上敦子
 川上敦子の<ピアノ編曲の世界>へ足を運んだ。目玉は
ベートーヴェン=リスト編の第9交響曲である。川上はリ
ストを得意とする技巧派のピアニストであり、プロ・デビ
ューの演目はブダペスト版(新リスト全集)の超絶技巧練
習曲全曲であったという。
 先ずはリストの《リゴレット》のパラフレーズ、楽譜を
用いての演奏だが、豪快な導入部に続く主題のテンポが対
照的に極めて遅く、どんな理由でそうなるのか考え込んで
しまった。そしてピアノ版第9交響曲、第1楽章からすで
に先が見えたというか、決して速く弾くことができないわ
けではないだろうが、完成に至らなかったものなのか、あ
まりにもテンポが遅いのだ。第2楽章はより滑らかに進行
し、第3楽章、そして第4楽章、オーケストラでは通常は
呈示場面で、カデンツァの男性バリトン・ソロが入る直前
の序奏は相当ぐらつき、聴く方も緊張したほど。展開部ク
ライマックスの左手オクターヴ (右手=歓喜の歌の主題)
によるパッセージとオスティートも・・・・・・? 全体
的に見ても左右のバランスが今一つで、強弱をつけるのに
精一杯のようであった。それでも実演でピアノ版《第9》
を聴けたことは意味があるし、欲を言うなら、安全にまと
めようとせずに、危険であってもあえて60分台あるいは
70分台に収める冒険をしてほしかった。
(85分は少し長すぎる)。
(12月26日・東京オペラシティ・リサイタルホール)