【追悼】ローター・コッホの名演【BPO】

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261岩城宏之氏の文章より@
 以前、ローター・コッホを札幌交響楽団の定期演奏会の独奏者として
招いたことがあった。彼はベルリン・フィルの首席オーボエというより、
世界のオーボエ吹きの代表のような存在である。このときはモーツァルトの
オーボエ協奏曲の他に、テーリヒェンという作曲家がコッホのために
作曲した新作の演奏をしてもらった。この作曲家はベルリン・フィルの
ティンパニ奏者でもある。1曲目はフュルストの「いろのたわむれ」だった。
ウィーン・フィルのヴィオラ奏者で作曲家としても活躍しているひとである。
つまりこのときのぼくのプログラムの主旨は、両オーケストラの楽員でしかも
作曲活動をしている人間の曲を札幌の定期会員に聴いてもらおう、というのだった。
 
 練習のニ日間、コッホはピッチの調整に苦労していた。札幌交響楽団の
ピッチは (A=) 440である。彼がリードの付け根を最大限に引き抜いても、
どうしても音程がオーケストラより上ずってしまうのだ。無理もない。ベルリン・フィルの
ピッチは、公式には444と言われているが、実は446、7であるというのが
音楽家の間での常識である。
262岩城宏之氏の文章よりA:03/05/30 19:41 ID:???
  2曲目のテーリヒェンのオーボエ・コンチェルトが終わって、休憩になった。
音楽会の始まる前からずっとステージの袖にいた札幌交響楽団の事務局長の
話を楽屋で聞いて、仰天した。1曲目の「いろのたわむれ」の演奏中、コッホは
ずっと音を出し続けていた、というのだ。「いろのたわむれ」は厳格な12音の
点描形式で書かれている。われわれがふざけて「ピーポー」と言っているタイプの
音楽だ。「現代の音楽」をお嫌いな方々には申しあげにくいが、現代音楽の専門の
ようなぼくなどがニ、三十回聴いたって音を覚えられるような音楽ではない。

 コッホはこの曲をゲネラル・プローぺのとき、袖でじっと聴いていたのだそうだ。
そして本番になると、客席に聞こえないような小さな音でオーケストラと「ピーポー」を
やっていたのだという。自分のピッチを試していたわけである。
一度しか聴いていないのに、どうしてそんなことが可能なのだろう?