【リンチ新作】 インランド・エンパイア 【ローラ・ダーン】

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375名無シネマ@上映中
どこからが夢で、どこからが現実なのか?最早、明確な回答を出すことなど、デビット・リンチの作品においてはあまり意味がない。
ハリウッドの女優ニッキーとしてのシークエンスは、口に痣のあるストリートガール=スーザンの<夢=願望>。そう考えるのがこの映画の一番素直な見方だろう。

撮影中止になったポーランド映画「47」のリメイクがオリジナル版と入り乱れて、映画内映画として作品に取り込まれている点。そして、うさぎ人間の声役でナオミ・ワッツを、
映画完成のお披露目式のようなシーンでローラ・エレナ・ハリング登場させているのを見ると、本作品がまるで同監督による「マルホランド・ドライブ」のリメイク版のような印象さえ受ける。

「インランド・エンパイア」ロスの新聞と同じ名前の映画タイトルは、多重人格者スーザンが心の中に築き上げた架空の部屋を暗示しているのだろうか。
妻子のいる男を奪おうとしたスーザンが、
痴情のもつれから路上で刺されて死ぬ。どこかで見た映画や、売春婦仲間、路上のホームレスから聞いた話から、
死ぬ間際スーザンは心の中に<内なる宮殿>を変幻自在に再構築(リメイク)していく。

スーザンが路上で死んだところで終わっていれば、「マルホ・・・」と全く同じといっていい展開だが、
その後さらにリンチは<死後の夢>をスーザンに見せようとする。男が妻子の元に返り、
夫を奪おうとした自分はその妻(ロストガール)に許されるという、非常に都合の良いハッピーエンドで映画を終わらせている。
ここが、後味の悪い結末で幕を閉じた「マルホ・・・」と最も異なっている点だ。

「マルホ・・・」ではリンチのハリウッドに対する恨み節が炸裂していたが、DVを使うことによって金の悩みから解放されたリンチは、
本作品の中で自分のやりたいことをやっている。もう誰も手の届かないところまで行ってしまったようだ。
彼の場合、多少製作側からリミッターがかかって作品がポピュラライズされた方が、我々観客にとってはありがたいのかもしれない。