149 :
名無シネマ@上映中:
この映画に感銘を受けた人もいるようですが・・。
この映画の原作がどういう評価をされているか、原作者の石井光太はどういう人間なのか、
知っておいたほうがいいと思うので簡単に説明します。
原作者の石井光太は、講談社ノンフィクション賞に2回候補に挙がりました。
第33回は「レンタルチャイルド」で、第34回はこの映画の原作である「遺体」で。
そしてどちらも落選しています。
理由はどちらも、「どこまで本当なのか怪しい」、「話を盛りすぎ」、
「これはもうノンフィクションじゃなくて小説」ということです。
第33回 レンタルチャイルドの選評
http://g2.kodansha.co.jp/8079/8501.html 第34回 遺体の選評
http://g2.kodansha.co.jp/17703/17870.html 会員登録(無料)をすると全文読めますが、このスレにもコピペしておきます。
ここからレンタルチャイルドの選評 --------------------------------------------
野村 まず「レンタルチャイルド」という言葉自体が、インドの社会福祉関係者やインドに長年
暮らす日本人のあいだですら、まったく知られていないのですね。インドのヤフーやグーグルで
「rental child」を検索してみても、トップ100に本書で使われている意味ではまったく出てきません。
このような子どもたちがいることは事実ですが、「レンタルチャイルド」という言葉そのものからして
著者の造語ではないでしょうか。
著者がインドのスラムに行ったことまでは疑いませんが、物乞いやストリート・チルドレンに、
外国人の著者がこれほど簡単に接近し、彼らも初対面の外国人にこんなにあっけなく、本音
どころか《引き裂かれ、常に膿が糸を引いて垂れた》肛門までさらけだすとは、常識的には
考えられませんよ。たとえ通訳がいても、彼らの会話が言語障害や罵詈雑言の類まで詳細に
再現され、またそれに見合った「いかにも」と言いたくなる仕草や情景の描写が都合よく繰り
返されるのも、非常に不自然です。
150 :
名無シネマ@上映中:2013/03/06(水) 18:12:51.04 ID:yjt7ATa+
インドの社会福祉が専門の知人によれば、こうした人々には、虚言や妄想に基づく話をする
傾向があり、発言が事実かどうかを確かめるのも不可能に近いそうです。著者はその真偽を、
どうやって見極めたのか疑問に思いますね。
また、この本には、蛆虫、ゴキブリ、鴉、蛭やら、鼠・野良猫・蠅・蛾・ナメクジの死骸やら、魚の
眼球・臓物やら、とにかくおぞましい生き物や物体が「これでもか」と言いたいぐらいに登場しますが、
著者はスラムそのものを誤解しているのではないか。スラムの家の中は、実は意外なくらいに
片付いているし、住民たちも清潔好きな場合が多いのですよ。既成のイメージでスラムを
造り上げていると思わざるをえません。
たとえば、インド人の女性がマフィアに精通している証拠として、《ゴミ箱を漁ると切断された体の
一部が出てきたものだわ》とか、《赤ん坊がそのまま捨てられている》といった会話がとりあげられ
ています。しかし、「マニラのスラム3部作」と呼ばれる四ノ宮浩監督のドキュメンタリー映画があり
まして(『忘れられた子供たち』『神の子たち』『BASURA』)、彼の映画にまったく同じシーンが
出てきます。ゴミの山から、切断された足や赤ん坊の死体が出てくる。つまり、これはすでに
流通している情報で、マフィアに詳しいことの証拠にはならないわけです。
私はこれまで数えきれないくらいアジア各地のスラムを訪ねてきましたし、スラムを描いた
ドキュメンタリー映画や劇映画も多数観ていますが、本書を読んでいると、そこで撮られている、
おぞましいもののコラージュを見ているような気がしてくるのです。他人の作品から着想を得た創作が、
かなり入っているのではないかな。
いや、これは全部自分が見聞きしたものだと言われたら、私も引き下がるしかありません。誰にも証明は
できませんからね。ただし、いま眼前で見聞きした事実と、過去に見た光景とを同一場面として描くのも、
ノンフィクションでは明白なルール違反です。そのあたりのジャーナリズムの原則が著者にはわかって
いるのかどうか、私には最後まで疑問が残りました。ひとことで言えば、この本が英語かヒンディー語に
訳されたとき、インド社会から返ってくるであろう強烈な反発に著者はまともに対応できるのかな。
151 :
名無シネマ@上映中:2013/03/06(水) 18:13:22.00 ID:yjt7ATa+
辺見 私も野村さんがおっしゃったことと、とてもよく似た感想をもちます。この作品は、ノンフィクションでは
なくフィクション、小説にすればよりいっそう良くなると思いました。タイトルも非常に興味深いですし、
マノージやラジャといった人物は魅力的です。彼らのその後の経過も描かれていて、とくにラジャの変化が、
魅力的な少年だっただけに凄まじさを感じさせました。
石井さんは表現力もあり、才能がある人だと思いますが、ただ、ノンフィクションかどうかと言われると、
少し疑問があります。
重松 読み物としては6作のなかで一番面白かったんです。ただ、中沢さんもおっしゃったように、
通訳を介した台詞というものに、どこまでの脚色が許されるかという問題が残ります。また、そこに
象徴されるんですが、描写のうまさに“出来過ぎ感”を感じてしまう。ゴキブリや鴉など“スラムの
花鳥風月”の出し方が、物語としてキマりすぎて、石井さんの手つきが見えてしまうんです。読者としては、
石井さんの作品はすごく好きなんですが、選考委員として考えると、少し留保しておきたい点が出てきます。
レンタルチャイルドの選評 ここまで--------------------------------------------
152 :
名無シネマ@上映中:2013/03/06(水) 18:13:56.09 ID:yjt7ATa+
ここから遺体の選評 --------------------------------------------
重松 マスメディアは東日本大震災の遺体を「なかったこと」にしたわけですが、石井さんはそれを
正面から取り上げた。しかも、死や命、魂という宗教的な描き方ではなく、あくまでも即物的に描きました。
「穢れたものが聖なるものに変わる」というように安易に物語化せず、遺体をそのまま描いたことを評価します。
ただ、前回、最終候補に挙げられた『レンタルチャイルド』でも問題になった点ですが、石井さんは
カギ括弧内で書く直接話法の言葉にもっと神経を配る必要はないでしょうか。津波から命からがら
避難してきた人が、カギ括弧の中でさまざまな状況を一気に説明してしまう。あまりにも一気に、要領良く
意訳しすぎではないかと思います。
この作品では、東北の方言が使われていない点も気になりました。すべてを方言にしなくても、せめて
キモとなる部分には整理される前の「肉声」を響かせてほしいと思いました。
高村 わたくしも重松さんが御指摘になったのと同じことを考えました。東日本大震災を描く切り口の
一つとして、遺体という視点はありうると思います。ただし、三人称によって物語化した『遺体』のような手法が、
果たしてノンフィクションとしてOKなのか。わたくしは読者として、たいへんな違和感を覚えました。中身が
どうこう言う以前に、『遺体』の手法についていけないところがありましたのでC評価をつけています。
立花 僕も高村さんと同じ意見です。中身の評価以前に、『遺体』の描き方はいくらなんでもおかしいでしょう。
これはノンフィクションではなく、ほとんど小説のように思えます。
153 :
名無シネマ@上映中:2013/03/06(水) 18:14:19.01 ID:yjt7ATa+
野村 前回、候補作になった『レンタルチャイルド』があまりにも疑わしかったので批判しましたが、ご本人からは
何の反論もありませんでした。で、おかしいと思い、この人の著書をデビュー作から10冊読みました。彼の
テーマと手法は一貫していますね。1作目の『物乞う仏陀』(05年刊行)ではさほど露骨じゃないけれど、特に
海外ものが作り話めいています。『神の棄てた裸体』(07年刊行)など限りなくフィクションに近いのではない
でしょうか。各々の地域にどれくらい住み込んだのか、具体的に訊きたくなります。何冊かで写真を証拠写真
のように使っているけれど、大半が街頭で撮ったスナップ・ショットばかり。何年も住み込んだというスラムや
マンホールなどの内側から撮った写真は1枚もありません。
海外ものなら、どんなに作り話を入れてもバレっこないとでも思っているのかなあ。この手法を認めてしまうと、
誰もしんどい海外取材はしなくていいという結論になってしまいますよ。取材困難な箇所は、全部創作で埋めれば
いいわけだから。こうした著作を「ノンフィクション」とか「ルポルタージュ」と銘打って売り出してきた出版社の責任も重大です。
また、この人の扱ってきたテーマを見ると、執筆動機そのものにも疑問を抱かざるをえません。アジアや中東、
アフリカの障害者や物乞い、ストリート・チルドレン、売春婦、男娼、麻薬中毒患者、ハンセン病患者、
エイズ患者たちを取り上げてきた。そして今回は死体です。遺体への弔意からではなく、津波による凄惨な
死体にパッと飛びついただけじゃないかな。
154 :
名無シネマ@上映中:2013/03/06(水) 18:14:34.43 ID:yjt7ATa+
災害や事故の取材で一番胸にこたえるのは、家族を亡くした方々に直接ロング・インタビューすることです。
ところが『遺体』にはそういうケースは一例も出てきません。ということは、遺族にきちんと取材できていない
のではないでしょうか。釜石の歴史や風土への深い洞察も窺えません。
この人は、社会的弱者への共感ではなく、むかしの見世物小屋的な指向で題材を選んできたような気がします。
しかも徹底的に取材しているわけでもない。とりわけ、海外にいて反論できない社会的弱者を晒し者や作り話の
ネタにしてもいいのかと私は思いますね。
第一、題材がこんなに重いのに、内容はなぜこんなに類型的で予定調和的なのでしょうか。このようなテーマでの
ノンフィクションの量産は事実上不可能なのに、なぜ次から次へと出せるのか。ようするに単なるネタ扱いで、
苦しむ人々に正面から真摯に向き合っていないためではありませんか。タブーを犯すふりをしているだけで、
実は犯しも犯されもしていないんじゃないかな。こうした諸点を見抜けない編集者たちの眼力に対して、
私は強い危機感を覚えます。
遺体の選評ここまで --------------------------------------------