女の気持ち・男の気持ち
http://mainichi.jp/life/kimochi/news/20110831ddm013070161000c.html むなしい禁煙宣言 札幌市豊平区・川村ちえ(主婦・80歳)
76歳の主人は、若いころからヘビースモーカー。マラソンの途中に呼吸困難で
倒れて入院し、医者から「たばこだけはやめること」と強く言われ、10年以上前
に第1回の禁煙宣言をした。 退院後は、手持ちぶさたとイライラから、家族に
八つ当たりし、つらい思いをさせられた。 当時は住んでいたマンションの管理組合
の役員をしていたので、会議中はたばこの煙で、限界の中にいたようだ。友人から
「物置の陰でたばこを吸っていたよ」とよく聞いた。 夕食後、散歩に出ていく姿を
窓から見ていると、秋口などは、たばこの赤い火が、寒さのため足踏みしているよう
に揺れているのが分かり、ちょっと可哀そうに思った。「少しくらいなら家で吸って
もいいよ」と言った途端、元に戻ることの早いこと。驚きであった。 2人の娘も
「病気に悪いからやめたら」と何回も言ったが、聞く耳もたずで、脳梗塞(こうそく)
で1カ月半入院し、後遺症も残った。「今度こそやめる」と自分で灰皿を片づけ、
何回目かの禁煙宣言をした。それも実行できずに、「1本だけね」と手を出している。
でも、「ファー」と鼻の先でくゆらすたばこの煙の中、何とも言えない幸せそうな
主人の顔を見て、何と言われようと、たばこの魔力に魅せられている主人は、絶対
やめられないと思う。 壁に張ってある「禁煙」の文字もむなしく、私はもう何も
言わないと決め、半ばあきらめている。
毎日新聞 2011年8月31日 東京朝刊