論説ノート:シリアの禁煙令=布施広
http://mainichi.jp/select/opinion/ronsetsu/news/20091022ddm004070154000c.html たばこのことを書くと励ましとともに毎度おしかりをいただく。飲食店は禁煙
が当然だと言うと「食後の一服を楽しむ権利を奪うのか」と怒る人がいる。
では、煙を吸わず楽しく食事したい人の権利はどうなるのかという当然な問いが、
日本では実に軽いのだ。 どうも日本のたばこ対策は遅れているなあとボヤくと
「新聞記者が国家の規制を望むのか」などと、思わぬ方から手裏剣が飛んでくる。
行政の遅れや怠慢を指摘すると国家主義者のようにみなされるなら、報道や言論
の役目とは何なのだろう。 ただ、この辺は筋書きの知れたドラマを見るような
もので、世界的な禁煙の流れが日本に及ばぬはずがない。他の先進国と同様、
日本でも飲食店での喫煙はなくなるだろう。が、それまでに「禁煙後進国」の
イメージが定着しては困る。五輪開催地の選考でも不利になったりして……。
そんな心配をしながら、煙の漂う飲食店で新聞を広げると、中東のシリアが公共
施設を原則的に全面禁煙にするという記事が載っている。医学を志したアサド
大統領が発表した法令だ。 独裁とされる国の「禁煙令」はさぞかし行き渡る
だろう。独裁体制が崩れたイラクも今夏、飲食店など公共施設での禁煙法案を
閣議決定したという。「たばこ天国」の趣だった中東も禁煙の波に洗われている
わけだ。 元中東特派員の私自身、今春ペルシャ湾岸のカタールを訪れ、禁煙や
分煙が進んでいることに驚いた。日本も「脱たばこ」へ奮起しないと取り残される。
そう言うと今度は、米政府指定のテロ支援国家(シリア)などと一緒にするな、
としかられるのだろうか。
毎日新聞 2009年10月22日 東京朝刊