中国の経済事情 PART5

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「日米分断 中国の狙い」「強固な同盟構築 議論の前提」 葛西敬之
---空論「東アジア共同体」---
 「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙(つつが)無きや」。
7世紀に聖徳太子が隋の煬帝に送ったこの親書は、太子の時代にすでに日本の地政学的な座標が
「太平洋の西端で中国大陸と向かい合う島嶼」と認識されていたことをうかがわせる。
 今年は世界大戦終結から60周年。敗戦に至る昭和史を繙くと日本がこの伝統的な認識を
離れ、自らの座標を「アジアの東、日出ずる処」と変更したことが不幸の始まりだったことが分かる。
日本の指導者たちはアメリカとの関係悪化を恐れつつも、大陸での利権擁護を叫ぶ資本と国内世論
に流されて日中戦の泥沼にはまり込み、蒋介石の日米離間に絶好の隙を与えた。そのうえ
根拠のない希望的観測に縋ってアメリカの決意を過小評価し、三国同盟、仏印進駐、大東亜共栄圏
の推進など失策を重ねた結果、望まざる対米戦に追い込まれて国を滅ぼしたのである。
 60年の歳月が流れ、日本は今再び選択の岐路に立っている。「東アジア共同体」構想は中国主導
でなし崩し的に進められようとしている。昨年11月末の「ASEAN(東南アジア諸国連合)+3」首脳
会議で提起された「東アジア・サミット」の非現実性は、多くの人々の危惧を呼んではいるものの、
中国進出日本企業や財界一部の思惑を映してか、表立っては議論がなされないまま今年の暮れには
第一回の会議が開催される運びという。
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 このように国の運命を左右する国策が国民的な議論を経ることなく形作られ、しかも、同盟国である
アメリカの強い懸念を無視して、いつの間にか既成事実化されようとしている現状を60年前の過ちと
重ねるとき、不吉な予感を禁じ得ない。
 ブッシュ政権になってからの日米関係は急速に好転し史上最良の日米関係、世界で最重要な二国間関係
と評価されるに至った。中国の狙いが、アメリカを排除した共同体構想に日本を引きずり込み、良好な
日米関係に楔を打ち込むことにあることは想像に難くない。しかも「反国家分裂法」と一対をなすこの動き
は、日米同盟による日本の安全保障体制とは決して両立し得ないものだ。
 日本の「東アジア共同体」推進論者は口を揃えて日米安保は堅持すると言う。
それならば口先だけではなく実を示さなければなるまい。すなわち、まず集団的自衛権の行使を宣言し、
再編成・再配置される米軍を積極的に日本に取り込んで自衛隊との密接な協働体制を整えるべきだ。
併せて経済・産業面での日米相互依存関係を強め、一層多重的で強固な日米関係を構築したうえで初めて
、東アジア共同体について論ずるべきなのだ。それも国民的な場で透明度の高い戦略的な議論を。

「共同体」といえば通常は理念と価値観、例えば民主主義、自由主義、人権尊重などを共有する国々が
条約を結んで作るEU(欧州連合)のようなものを連想する。地域的にも近接し、構成国の人口は対等合併の
イメージに適う程度の均等性を有するのが前提だ。
 ところが「東アジア共同体」の場合、そのエリアは陸海におよび、広大に過ぎるばかりか、人口13億とも
いわれる中国がその中心的存在となるなら、共同体の形は吸収、併呑以外に考えられない。
共産党の一党独裁体制は民主主義、自由主義、人権尊重の理念とは対極の関係にある。
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 またEUの場合一人当たりGDP(国内総生産)の各国間格差は1対10程度であるのに対し、「東アジア共同体」
では1対100にものぼる。かく見れば「東アジア共同体」が非現実的な空論に過ぎないことは明らかである。
 にもかかわらず中国がこれを熱心に推進するのは「東アジア」、「共同体」などのイメージを政治的に
利用するためと考えるほかない。アメリカと台湾抜きで「東アジア・サミット」が開催され、それに
日本が出席することになれば日米関係に亀裂を生み、ASEANとアメリカを分断してAPEC(アジア太平洋経済協力会議)
を形骸化し、台湾を国際舞台から消し去る重要な一歩となる。
 3月9日読売国際会議でアーミテージ前国務副長官は「協議体の拡散は、米国とアジアの間に、また日米間に楔
を打ち込むことにつながらないだろうか。協議体が増えるのは、米国の存在感を小さくしようとする
動きなのではないか」と語り、アメリカが中国の意図を読み切っていることを示した。
 また共同体を掲げることにより日本への入国を自由化することが中国の狙いだと危惧する有識者も少なくない。
取りあえず人の交流だけでも先行させ共同体への地均しとしようという提案が中国側から出されても
何ら不思議ではない。
 自国内での人々の移動を制限している中国が日本に対して入国を自由にせよと求めるのは道理に適わない。
しかるに経済人の中には少子化、高齢化対策と称してこれに同調するような声も聞かれる。進出先の中国での事業を
やりやすくするために取引材料と考えているのだとすれば、情けない話だ。
 中国はすでに日本全土を射程に収める核弾頭ミサイルを多数配備し、さらに急速な軍事力の増強、近代化
を推進している。それらを背景に日本固有の領土である尖閣諸島の領有を主張し、排他的経済水域での
資源掘削を続け、原子力潜水艦による領海侵犯などを繰り返している。これらの挑発すべて、日本の決意
と日米同盟の実効性を試し、あわせて日米分断の可能性を探っていると見なければならない。
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 これらにどう対処すべきか。
 「集団的安保の逆説とはその能力が高まれば高まるほど、実際の力を使わなくて済む点にある。
中国に関しても、日米が肩を組む限り脅威が減るのは確かだ」というアーミテージ氏の認識が抑止戦略の
本質を的確に示唆している。すなわち、最重要な貿易相手であるとともに最大の脅威でもある中国と理性的に
向かい合い、安定的に共存するための唯一の現実的方策は不動の日米同盟である。
 両国がともに「太平洋国家」として必要ならばいかなる犠牲をも払う覚悟を示し、それを十分な備え
で裏付けたときに初めて抑止力が機能し、東アジアの平和と安定を保つことができる。ASEAN諸国の日米への期待
はまさにその点にある。
 そのためにも日米は明確なメッセージにより、決して分断されないことをあまねく認識させなければならない。
もちろん、このような侵害が繰り返されるなかで「共同体」を論ずるなど論外である。
 長期的、安定的な友好関係は相互の尊厳の上にのみ成り立つ。中国の市場をあてにして迎合的に振舞えば、
中国からは侮りを呼び、日米関係においては相互の信頼を失うだけだ。道義を踏まえ、毅然とした態度を
保持することだけが相互の尊厳と信頼を確保し、長期の国益に適うことを心に銘記すべきである。