【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ10

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1名無しになりきれ
*「ここは 邪気眼 のスレです」
*「sage や 酉 は入力しなければ意味がないぞ」
*「荒らしを構った後には 荒らし扱いになるよ」
*「おお名無しよ 版権キャラを使ってしまうとはなさけない」

*過去スレ
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ
ttp://etc7.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1203406193/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ2
ttp://etc7.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1209655636/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ3
ttp://etc7.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1211555048/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ4
ttp://etc7.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1213536727/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ5
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1218369923/
邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ6 
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1225711769/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ7
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1229691027/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ8
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1235132485/
【邪気眼】二つ名を持つ異能者になって戦うスレ9
ttp://changi.2ch.net/test/read.cgi/charaneta2/1246115227/

*避難所
二つ名を持つ異能者になって戦うスレ避難所5
P C:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/computer/20066/1254052414/
携帯:ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/i.cgi/computer/20066/1254052414/

*まとめサイト
二つ名を持つ異能者になって戦うスレ@wiki
ttp://www9.atwiki.jp/hutatuna/

*これまでのあらすじ
『闘って奪い獲れ。生き残るためには勝ち残れ』。
舞台はどこにでもある地方都市、貳名市。
この街には「二つ名」を持ち、それに由来する異能力を有する『異能者』たちが存在した。
一通のメールは、異能者たちを否応なく闘いに駆り立てる。
2名無しになりきれ:2009/11/07(土) 17:58:28 O
終了
3名無しになりきれ:2009/11/07(土) 17:58:56 0
※参加者は原則として、絡んでる相手の書き込みから
【三日以内】に書き込んでください。(一人の場合は前回の自分の書き込みから三日)
もし、それが無理な場合は>>1にある【避難所に報告】してください。期限を最大七日まで延ばせます。
もし報告もなく、【四日以上書き込みが無い場合】は居なくなったとみなして、話を勝手に進めさせてもらいます。
どうかご協力お願いします。

*【テンプレ】
(キャラクターのプロフィールを記入し、避難所に投下した後、
 まとめサイトにて、自分のキャラクターの紹介ページを作成してください)
名前:
二つ名:ttp://pha22.net/name2/ ←で↑のキャラ名を入力
年齢:
身長:
体重:
種族:
職業:
性別:
能力:(一応二つ名にこじつけた能力設定を)
容姿:
趣味:
好きなもの:
嫌いなもの:
キャラ解説:

S→別格 A→人外 B→逸脱 C→得意 D→普通 E→不得意 F→皆無
U→変動 N→機能未保有 ……の九段階まで。
・本体
筋  力:
耐久力:
俊敏性:
技  術:
知  力:
精神力:
成長性:

・能力
範  囲:
破壊力:
操作性:
応用性:
持続性:
成長性:
リスク :
4パンドラ@代理:2009/11/08(日) 01:55:20 0
ここだな、これからが狩りの始まりだ!!

ビルなどを足場に山についたパンドラ。
着地した瞬間、パンドラの周りに10人ほどの分身が現れ辺りに散る。
そして目標を発見したのか、ほぼ全ての分身が消え、残った一人がある方向に駆け出す。

「そこか!!」

草木を無視して走った先には三人の男が居た。
目標の姿を確認した瞬間何かが俺に当たる。

【池上らと遭遇:戦闘に入る】
5伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/10(火) 00:07:22 0
前スレ>>224-226

――姿を消す異能力。だがそれも種さえ解れば恐くは無い。
熟練の異能者なら異能の波動を探知すれば大まかな位置を図る事が出来る。
加えて私の異能なら大気の流れで物体を感知する事も可能だ。
敵の異能は今現在も姿を消すという力を発揮し続けている。
ならばそこから異能の波動が迸るのは必然だ。
レオーネとてこれを見逃す筈は無い。
敵が姿を消したまま私の方に近づいてくるのが解る。
多少疑問に残るのは異能の波動があまりにも解り安すぎるという点だ。
これは何かの罠だろうか?
そう勘繰るよりも先に、レオーネが前に出て虚空に蹴りを放つ。
風車の様に遠心力を付けて放たれた蹴りは見えざる敵を過たず捕えた。
綺麗に入った、そう思った、あの手の技は男性の肉体を持って初めて意味を成す、
悔しいが女性の身体ではあれ程の威力は望めない、それに私は暗殺者であって戦士ではない。
「ここに来て漸くのダメージ1、か。伊賀響、力を貸してくれる事には感謝する」
含みを込めた言い方、嫌な男。やはり私はこの男と相容れる事は無いだろう。
それは相手とて同じ事か、この男も最終的には『私達の計画』の邪魔になる。
ああ駄目、思考が逸れてしまった。
彼女の思考に間を挟む様に、敵が質疑の声を上げる。だが、それに答える者は誰も居ない。
「ぐぅううぅむむむ!! なぜ、なぜバレたぁ!」
本当に居場所が解らないと思っていたのか、いや、油断してはいけない。
認識を誤れば、死ぬ。私達の世界では常にそうだ。
油断は死に繋がる。昔の私はそれでも良いと思っていた。
思えばあの頃の私は死に場所を求めていたのかもしれない、
だけど今の私は死ぬ訳には行かない。

「響さん、レオーネ。貴方達が私の願いを聞いてくれるというのなら力を貸してあげる」

またも逸れ掛けた思考を女性の声が引き戻す。
声の主は塚原ひかるだ。願いが何かはともかく、助力を得られるのはありがたい。
今はあらゆる手を尽して敵を倒すだけだ。

倒す――、彼女はそこであえて殺すと断じなかった。

「後でこの子のお墓を作ってあげる事……。
 それが私の望み――」

冷淡な女性(ヒト)だと思っていたひかるからこんな一面を見せられたのは以外だった。
簡単な事だ、その望みは理解できる。
「さ、手を繋いで頂戴。そうすれば仕掛けられた罠が見えるようになるわ」
ひかるの望みに了承し、差し出されたひかるの手の平に私の手の平を重ねる。
すると周囲の罠が赤く光って見えるようになった。
仕掛けられた罠がどういった物なのかについては、もれなくレオーネの方が詳しいだろう。
得に重要なのは罠を作動させる為に張り巡らされた線すら見えるということだ。
6伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/10(火) 00:08:10 0

「人間の脳は目というカメラに映った物しか認識しない。
 そんな物質的な視点からではなく、
 アストラル的な視点からならばあらゆる事柄を見通す事が出来る……」

ひかるの種明かしを聞き納得する、暗視装置越しの視点で見ている様な錯覚を抱いたけれどこれは優れものだ。

「もう手を離しても大丈夫。ビジョンの共有は少しの間だけど、
 それだけあれば十分でしょう?」

「ええ…、十分よ」

最早敵の手札は尽きた、敵の位置も罠の位置も全てが解る。
これで、王手(チェックメイト)だ。
後方に大気の噴流を受け、それを推進力として敵に急接近する。
半ば砲弾となった彼女の身体は敵が反応するよりも速く弾丸のような蹴りを見舞う。
彼女は蹴りの際の反動によって速度を相殺し、そのまま宙を駆け上がるように上昇し身体を一回転させ、
身体能力と異能力を総動員させた見事な空中制御により加速を完全に殺しきった。
その後は自由落下に身を任せ、彼女の丁度真下で倒れている敵を組み伏せる事に成功した。
                                           ・・・
ここまでは彼女の目論見通り、だが彼女は蹴りを見舞った時点である違和感を覚えていた。
既に彼女の左手には苦無が握られており、一方の右手は敵の左肩を的確に押さえつけている。
この時点で、彼女は敵の制圧に成功していた、問題は敵を押さえている右手の感触、それこそが先程の違和感の正体。
敵は防護服を着ている、服にある程度の厚みを持たせ、衝撃を吸収する事に重きを置いた、所謂"対爆スーツだ"。
その性質は爆風による衝撃に対する防性に加え榴弾の破片効果への防性も備えている。
先程のレオーネの蹴りも対爆スーツに衝撃を吸収され決定打には成らなかったのだろう。
彼女の算段では組み伏せた後速やかに戦闘不能に陥らせる手筈だった。
しかしこの対爆スーツの上からではそれは困難を極める。
関節部分を狙うのは現実的ではなく、攻撃部位は唯一露出している頭部に限られた。
「…」
それは僅かな時間だが、明らかに不自然な間が空いた。
見る者からすればそれは彼女が止めを刺すのを躊躇っているようにも見える。
敵はその隙を見逃さず、上に乗っている彼女を強引に引き剥がす。
彼女の身体は左肩から水溜りに着水し、その身を隈なく雨に濡らした。
敵はほうほうの体で彼女から距離を取り、置き土産とばかりに榴弾を一つ、彼女に投げつける。
彼女がその場を離れる前に榴弾は爆発し、爆風とそれに伴う破片を持って彼女を襲う。
咄嗟に彼女は榴弾の爆発に対し、それと同等の風圧をぶつける事で爆風の威力を無力化したが、
飛散する破片は風圧を受けて尚その殺傷力を失わず彼女の右肩を穿った。
「ッ…!」
彼女は痛みに顔を強張らせながらレオーネの居る場所まで風を受けて大きく飛び退く。
「…レオーネ、敵は防護服を着ているわ…」
右肩を抑えながら、彼女はレオーネに告げる。
レオーネは先程の彼女の様子に不可解な表情を示しているが今の彼女にはそれを気に掛ける余裕など無かった。
何故あの時に止めを刺さなかったのか? 今の彼女は心の中で自問自答を繰り返していた。

【響:右肩からの出血、戦闘に支障は無い】
【敵は対爆スーツを着ている事が明らかになる】
7池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/11/10(火) 02:14:19 0
>>4
「て、敵って……どこ──」

桐北が辺りを見回そうとしたその時──
俺は空中に浮遊させていたツララを、桐北に向けて発射した。

「──!?」

だが、ツララは桐北には命中しなかった。
ツララは、驚く桐北の顔の横を通り抜け、彼の背後に迫っていた男に命中していた。
瞬間、「ドス」という鈍い音と共に、低い呻き声が辺りに響く。
それを聞いて、桐北は敵が自身の背後に迫っていたことに気がついたのか、
背後を振り返りながらあわててその場から飛び退いた。

「こ、こいつが……敵……!?」
「お前はこいつが登山者にでも見えるのか?」

桐北に対し、冷静にそう返しながら、俺は改めて男に目を向けた。
男は髭も髪の毛も、異常なまでに長く伸び、上半身は裸という格好をしていた。
一見するとただの変人に見えるが、この男がそうではないということは、
男から感じる異能の気が証明している。
     オマエラ
「ったく、機関の戦力の豊富さには呆れるよ。次から次へと現れやがって」

男は左肩に突き刺さったツララを引き抜くと、
それを片手で粉々に握り潰して、不敵な笑みを浮かべた。

「……。悪いが、俺は戦闘を楽しむ気はないんでね。直ぐに終わらせてもらう」

俺は掌を、男に向けた。

【池上 燐介:戦闘を開始】
8姫野与一 ◆N8yTRtOcY2 :2009/11/11(水) 00:19:29 0
――雨が降りつづける中、彼の気配だけを辿り、走りつづける。
洋館で鳳旋さんと別れた後、私はかなり出遅れて外へ飛び出した。

"――その時はあなた……本当に……本当に殺すわ――"

あの時銀水苑さんに対して創り出した無数の槍……あの行動が起爆剤となり、私の身体に大きなダメージを与えた。

元々、私の異能力は一度に"外に放出できる力"が少ない。
機関に居た時の任務も『一撃必殺』の狙撃だったため、鍛える必要性も全く感じていなかった。
だけど神の力で限界まで力を引き出した結果、私の身体機能が能力の処理に追い付かなくなった――。

そしてあの場で私に起きた症状は一時的な全身麻痺と大量の吐血。
このまま能力を乱用すれば近いうちに私の命は……だけど、それでも――……

「そこで止まってもらおうか。No.20……いや、元No.20」
「――ッ!!」

突然、どこからか聞こえた私を呼び止める声に気付き、立ち止まって辺りを見回す。
ナンバーで私を呼んだという事は十中八苦、機関の追っ手……だが周囲にそのような人影は見当たらない。
私は警戒を解かず、すぐに能力が発動できる状態で相手の反応を待った。

「ククク……なかなか素直だな……」

私の正面、何も無い空間から短刀を持った腕が伸び、空を縦に裂いた。するとまるで瞼が開くかのように空間が裂け
その中から陰鬱そうな顔の痩せ細った男が姿を現した。

「俺は名護……粛清部隊……名護 鉄機だ……機関からの離反者、No.20姫野与一……危険分子はこの場で排除する――ッ!」

名護と名乗った男は私に考える暇すら与えず、一心不乱に短刀を構えながら私に向かって駆け出して来た。
しかしそんな単調な攻撃に当たるわけも無く、そのまま背後から名護の背中目掛けて回し蹴りを放つ。

「クク……」

瞬間、名護の口元がニヤリと笑みを浮かべているのが見えた。
彼の罠に嵌った――。今更そんな事を考えても勢いを増した私の蹴りは止まらない。

「なっ!?」

だが、私の蹴りは彼の身体に当たるどころかそのまますり抜け、勢いだけが空回りしてしまう。
そしていつの間にか目の前には、名護が接近しておりそのまま私の肩を掴んだ。

「二重の罠にも気付かんとは……これは俺の本体ではない……今から行く先で、貴様は果てる……次元領域(ポータブルディメンション)!」
「クッ……鳳旋さん、光龍さ……」

瞬間、男と与一は消えた。

【名護 鉄機と交戦→どこかに転移】
9廻間 ◇7VdkilIYF 代理:2009/11/11(水) 22:05:47 0

卵を割り、油を広げ熱したフライパンで調理する。
フライパンの大きさからして、二つが精々といった所か…つまり三回繰り返すと。
…ここで問題なのは、半熟か完熟のどちらかにするかだ。
俺個人としては完熟の方が好きなのだが、他の面子はどうなのだろうか?
まあ、起こすのはあれだし普通に完熟でいいだろう。
飯だけで大げさに文句を言う人間も居なさそうだしな。
目玉焼きだけと言うのも寂しいな…他に何かないか?
目玉焼きを作り終えたら、冷蔵庫の中を見てみることにしよう。
しかし、他人の家の冷蔵庫を勝手に空けるのは…マナー違反だよなあ…

「なーにかいい匂いがすると思ったらよ…やっぱ料理が出来てたのか」
「ん?」

フライパンの様子を見ていると、後ろから声が響いてくる。
声の主は…高山だった。どうやら目玉焼きの匂いを嗅いで起きてきたらしい。

「ああ、まだ人数分は揃ってないぜ。
 出来たら呼ぶから、大人しく待っててくれよ」
「いや、一人より二人だ。
 二人ならメシの時間も早く来るだろうし、俺も手伝うぜ」
「そうか…?
 なら、冷蔵庫の中に何かあるか見てくれないか?」
「分かった」

高山は冷蔵庫を空け、中を調べる。

「ウインナーがあったぞ。
 目玉焼きだけってのもなんだし、これ焼こうぜ!」
「はいはい…」

それは俺も思っていたことだ。
目玉焼きとウインナーなら、まあ貧相って事も無いだろう。
贅沢を言えば、ここにもう一品ほしいところだが…我慢するか。

「…問題は、フライパンの数がこれ一個しかないって事だ。
 まあ一人ぐらいだったんだろうから仕方ないんだが」
「流石にこれだけのために、フライパンを買いに行くってわけにも行かないしな…
 気長に待つしかないか」
10廻間 ◇7VdkilIYF 代理:2009/11/11(水) 22:06:35 0

結局俺は、二個の目玉焼きを三回焼いて6本のウインナーを三回焼いた。
…一番最初に作った目玉焼きは多少冷めてしまっている。

「それじゃ、俺が皿を持ってくから…
 …ええと、名前は?」
「統時、廻間統時」
「統時か、俺は高山宗太郎。よろしくな。
 統時は片づけを頼む」
「ああ」

俺は卵の殻やウインナーの袋をそれぞれ専用のゴミ箱に片付ける。
まあ、片付けってのはその程度のものだったので直に終わった。
高山は片手に一つずつ持って行ったようだな…うーん、お盆か何かあればいいんだが…って、あるじゃないか
俺はお盆に皿を三つのせ、空いてる手で皿を一つ持つ。
部屋に移動し、テーブルに皿を乗っける。
瑞穂や国崎も、匂いに釣られたのかもう起きていた。

「…勝手に人の冷蔵庫を開けるものじゃないぞ、廻間」

国崎が頭を摩りながら呟く。
やはり、勝手に冷蔵庫を開けられるのはいい気はしないようだ。

「分かってるさ、でも料理するのは俺の役目だと思ったもんでね…
 さ、腹が減っては戦は出来ないっていうだろう。
 話は後にして、今は食事の時間にしよう」

キッチンから割り箸を持ってきて、返事をする。
とりあえず、今は飯を食うことにしよう。

【廻間:高山と協力し料理を作る。
    今から軽食を食べる】
11銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/12(木) 23:23:04 0
俺は鳳旋や光龍と離れ、街中を疾走していた。
町で暴れる粛清部隊を始末する為に。
「……やる気があれば追いかけてくるだろう」
知れず、口から零れた言葉に驚きを隠せなかった。
彼らなど、関わらない方が本当は良い筈なのだ。
この俺が、部下ではなく、志を同じく共に肩を並べ戦う仲間を求めているとでも言うのか。
更紗には【リサイクルバザー】や【洗濯機】のルートを確保することを命じておいた。
俺達は掃除屋。ただ表の世界の意味とは全く違う。
これは機関内や裏世界で使われる隠語。
【リサイクルバザー】は型落ちとなった旧式の軍用ライフルや戦車、戦闘機、ミサイル……
要するに、中古の兵器の市場。
【洗濯機】は違法な手段で手に入れた金を合法化する
マネーロンダリング、資金洗浄のルートだ
……この計画は金剛の一世一代の大博打だ。
ココが分岐点だ。奴が失敗したら機関から独立する。
もし成功すればその報酬として切り取ってやる。どちらに転んだ所で問題は無い。
俺達は生きねばならんのだ。例えその生が穢れていようとも。
(ふっ……俺もすっかりと闇の世界に染まってしまったな……)
かつて、穢れを焼き尽くす焔を司る崇高な一族の面影は無い。
自嘲気味に乾いた笑みが漏れる。
(だが……今は、今すべき事は悔やむ事でも未来の金勘定では無い)

そう、今やることは……
程なく、異能の力で外界と隔絶された場所を見つける。
そこで行われていたのは狂宴だった。
銀水苑の、粛清部隊の鬼畜どもを灰燼に帰すという
底なしの殺意以外何もない、恐ろしく冷たい瞳が、いまだ遊び呆ける六人の男達を捉えた。
地面には、人の顔をした獣に殺された哀れな犠牲者達。
転がった首が恨みを呑んだ目でアスファルトをにらめ付けていた。
まだひくひくと胴体がまだ痙攣している。
男の一人が目隠しをして斧を振るうと、勢いよく今度は右足が飛ぶ。
間違いない、粛清部隊だ。
12銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/12(木) 23:24:43 0
「……人間でスイカ割りか、良い趣味してるよお前ら」
統治の声には何の感情も篭っていなかった。

「あん?なんだぁてめえ?」
「あ、こいつ銀水苑ですよ、始末屋の」
「まあ待てよ掃除屋。あせんなって、まだお楽しみが残っているんだ」
良く見ると、猿轡と手錠をされた、女子高生とOLと思しき二人が居た。
一人は恐慌に慄き、一人は明らかに失神している。
「死体を片すのはゆっくり姦してからでも遅くはねえだろ?」

「……その前に一つ聞きたいが、そいつ等はバトルロイヤルの参加者か機関の敵対者か?」

「あ?その辺の一般人だがなんか文句が」

「消えてなくなれよ、今すぐに」

最後まで言わせず、人間の限界領域の速度で突き出された小太刀が、その男の頭に生えた。
ポカンとしたまま、粛清部隊の男は崩れ落ちた。
残り五人。

「て、手前何しやがる!」
「舐めやがって!たかが裏方の掃除屋の分際で!」
「手前の能力は割れてるんだ!この人数相手に勝てると思うなよ!」

一人の身体がみるみるうちに岩の鎧に包まれる。

「これでてめえの炎なんか通じねえぜ!脳味噌ぶちまけて死にやがれ!」

岩に包まれた豪腕が容赦なく銀水苑に振り下ろされる。
下卑た粛清部隊の宣言通りに――はならなかった。
13銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/12(木) 23:26:55 0
「う、腕ガァァァァアアア!!」

くぐもった爆音。一拍の後、岩使いの悲鳴。
岩を纏った豪腕は爆破で砕かれ、骨の飛び出し原形の止めぬボロ雑巾と化していた。
統治は、何時ものように酷く冷静に、呟いた。

「――中々やるじゃないか。
だがお前など鳳旋や姫野の足元にも及ばない燃え尽きろ」

『荼毘灰塵帰掌!』

『微塵』で岩使いの腕を吹き飛ばしたあと
間髪いれず統治は指を揃えた形に拳を作り直す。
指先にガスバーナーのような火勢の強い炎が灯る。
非常に透明度の高い紅い炎。
この世の物とは思えぬ獄炎の熱量と、ルビーを炎にしたような朱を宿す炎。
荼毘、とは火葬にする事。炎の能力を併用した必殺の貫手。
岩の鎧には、微塵で亀裂が入っている。
相手の細胞組織を蒸発させながら焼き尽くして突き入れるのが一段目。
そこから能力を発動して相手を体内から吹き飛ばすのが二段目。
二段目を防いだとしても一段目を貰えば間違いなく重度の火傷と裂傷をあわせた深手となる。
二段目が胴体に入れば膨大な熱量と火焔を注がれた相手は――

「ぎゃああああああああああああああ!!!」

人間松明と化し、数秒後には骨も残らず全て灰となって降り積もる。
中身である主の肉体を失った鎧がガッ、と重い音を立てて地面に転がった。
統治は抜き手が刺さったら冗談抜きでそこから即死に持っていく。

「……遠くから見ると、ニンゲンが燃えて出す光は、せいぜい六十ワット三時間。
俺の炎の場合はそこまで掛からんがね。
相手がどうしようもない屑でよかった。俺も遠慮なく全力を出せる」
残り、四人。

【粛清部隊と交戦中】
14パンドラ ◆vpAT/EK2TU :2009/11/13(金) 00:08:44 0
「っぐ!!」

久しぶりの戦いに興奮して油断しすぎていたようだ、
その攻撃を避けることができなかったようだ。
これこそが、この緊張感こそが!戦い、戦い、戦いー!!

すぐに左肩に刺さったツララを抜きそれを片手で粉々に砕き笑う。
そしてそれを放った者を確認する。
白い短髪のガキ、黒髪眼鏡のガキ、そして灰色の髪をした男!
奴がこれを打ったのだろう。俺には分かるぞ!その強い殺気!その強い力!!

「ふははははははは!やるじゃないか!久しぶりの戦いだ!愉しませてもらう!!」

俺がそう言うと灰髪の男は少し面倒くさいという表情をし、

「……。悪いが、俺は戦闘を楽しむ気はないんでね。直ぐに終わらせてもらう」

そう言って掌をこちらに向ける。

【パンドラ:左肩損傷】
15レオーネ ◇GWd4uIuzU6 代理:2009/11/14(土) 21:23:26 0
>>6

罠が見えればこちらの物……。先程からの敵の攻め手を見る限りでは、
技量はこちらの方が圧倒的に上回っている。
伊賀の取った行動からもそれが顕著に現れていた。
彼女は水口に向って風の風力を利用した強烈な蹴りを放ったのだ。
近くに居たオレの髪が風になびく。まるでロケットかミサイルが間近で発射されたかのようであった。

ファーストナンバーを謀殺しようとするのであれば、それ相応の技量が必要だ。
保護色というアドバンテージが在るとは言え、敵の攻め手は余りにお粗末であり、
はっきり言うとコイツはオレを殺るには役不足なのだ。
伊賀の攻撃は極めて流動的であった。
一撃で仕留められなかった場合も考慮して、確実に攻めていく。
蹴りを起点として空中で一回転する事を成功させ、
見事伊賀は水口を組み伏せる事に成功したのだった。
流石殺し屋、手際が良い。ほんの数秒の内に敵を征圧するとはな……。

むっ、一体どうしたというのだ? 当の伊賀は短刀を握り締めたまま、マウントから動こうとしない。
何をモタモタ躊躇っている? 一気にケリを付けろ!
その隙を見逃す程、水口は馬鹿ではなかった。これ幸いとばかりに伊賀を引き剥がすと、
距離を取った後、彼女に榴弾という置き土産を見舞わせたのだった。

距離を取ったというのはあくまでも、異能力の波動から察した物で、実際に見ては居ないのだがね。
それはともかくとして、問題は伊賀の方だ。
爆風に顔を腕で覆うが、すぐに離して状況を把握する。
オレの所まで飛び退いてきた伊賀は、明らかに負傷していた。
戦闘に問題がありそうには思えないが、負傷箇所は肩だ。幾許かは攻め手に影響は出そうだな。

>「…レオーネ、敵は防護服を着ているわ…」

……だろうな。最初にオレが奴目掛けて蹴撃を放ったが、
明らかにまともに入ったにも拘らず、奴の骨を砕く感触が無かった。
それにもう一点。これは常識的に考えれば解かる事なのだが、
手榴弾はともかくとして、地雷を扱う者が自殺志願者でないのであれば対爆スーツ――
所謂EODスーツを着込むのは当たり前だ。
オレ自身、伊賀に言われるまで失念していた。
水口がEODスーツを着用しているのであれば、なるほど合点がいく。

「イハハハハッ! その通りぃ! よぉく見破ったなぁ小娘ぇ!
 これを着込む事でぇ。自らが爆発に巻き込まれてもぉ、頭部への被弾さえ避ければ多少は問題は無いのだよぉ!

 ナンバー6お得意の格闘術もぉ、わたしにはぁ通用しないぞぉ」

先程伊賀にコテンパンにされた人物とは思えない程、活力の在る声である。
やれやれ、怒りを通り越して呆れてきた。正直、殺す価値も無いとは思うがけじめはけじめだ。
16伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/14(土) 21:24:26 0

「伊賀響、奴は確かに保護色だ。
 だが、異能の波動を利用した逆探知を使えば、保護色は大した問題じゃない。
 加えて水口には最大の弱点が在る。それはオレ達を舐めている事だ。
 
 ――オレが囮になる。奴曰く、オレの攻撃は自分には通用しないらしい。
 だからお前が水口を始末しろ」

オレは伊賀にだけ聞こえる程度の小声で話し終えた後、一歩前へ出た。

「貴様、水口と言ったな! 如何してオレ達を狙う!」

「イハハハハッ! どぉうしてぇ? 決まっているじゃあないかぁ!
 ヤァハウェだからさぁ、オマエとぉ、塚原ひかるはぁ!」

外道院め、オレが最早ヤハウェである事を辞めたのは知らないようだな。
ならば、これは好都合という物。上手い事利用させてもらう事にしよう。

それにしても、せめて接近してくれればこちらから攻撃を加える事が出来るのだが……。
先程蹴られた教訓か、奴はオレの間合いに入るのを警戒している様子だ。
となると、攻撃手段は遠距離からの――……ちょっと待て。奴は先程妙な事を言っていなかったか?

自らが爆発に巻き込まれても、頭部への被害さえ防げれば多少は問題は無い――
奴は確かにそう言ったな……まさか!

虚空から現れる一つの手榴弾――。
旧ドイツ軍が開発したM24型柄付手榴弾か、またノスタルジックな物を出してきたな。
通称ポテトマッシャー(じゃがいも潰し)が放物線を描いた先は、横転した車……。
そして、車の周囲には――

「むっ! いかん!」

オレはひかるを抱きかかえると、車に背を向け身を低くする。ひかるへの被害を最小限にする為だ。
伊賀は自力でかわせるだろうが、ひかるは違う。彼女は紛れも無く戦闘の素人だからな。

――…強烈な轟音で耳が痛いな。
正味な話、手榴弾の爆発はさほどでも無かったが、問題は車の周囲に点在した罠や地雷の存在だった。
車を巨大な起爆剤とした一連の連鎖的な爆発は、強力な爆風と無数の破片を生み出し、
辺りの物体を損壊させる程であった。

破片による傷は軽い裂傷程度であったが、スーツの上着はこれ以上無い程ボロボロになってしまった。
特に背中は酷いものだ。折角のゼニアのスーツが台無しだ……。

「……一応聞くが、伊賀響。無事か?」

【レオーネ:市街地中央区】
【粛清部隊員水口と戦闘中】
17名無しになりきれ:2009/11/14(土) 21:25:37 0
代理の名前ミス、ごめんなさい。
18銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/14(土) 23:29:02 0

「こ、こいつやべぇ!」

今更に気が付くには遅すぎた。
統治は例え危地に陥っても、負傷しようと、敵が自分より強かろうと冷静さを失わないプロの始末屋。
また抹消部隊の隊長として、機関での立ち位置を思慮し、部下を纏め上げ
時にはファーストナンバーにすら働きかける裏世界の住人としての侮れぬ狡猾な知性。
戦闘に置いてはその冷徹さを持って敵に当たり、強者には敵味方問わず敬意を払う。
そこには油断も慢心も存在しないひとかどの戦士。
まさに、格が違う。
そこに数の優位などと言うものがどこまで絶対性を保ち、果たして本当に存在しえるのか?
対して相手はどうだろうか。
数と異能を頼みに自分より格下の相手を嬲り殺すことしか知らぬ烏合の衆。
自分がまさか狩られる立場になるとは露ほども思っていないだろう。
戦いではなく、殺しを楽しむとしても……
同じ悪にしても、果たして彼らはファーストナンバーほどの
戦闘能力の強さから来る余裕や根拠はあるのか?
答えは否。だから彼らの優越感は、鍍金。

「お、俺らが悪かった!つつ、つい任務を忘れて調子に乗っちまった……
だ、だから勘弁してくれよ!」

「…………」

統治は小太刀を袖に収めてクルリと後ろを向いた。

一瞬の後、呆気にとられたような粛清部隊の男達の顔が、
凶相を宿した笑みに変わる。
19銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/14(土) 23:30:11 0

「へへっ馬鹿が!死ねぇ!!!」

統治の姿に光弾や銃弾などが雨霰と降り注ぐ。
普通の人間をミンチにする異能の攻撃が統治に降り注ぐ。
粛清部隊の男達は、その瞬間自分たちの勝利を確信していた。
「舐めやがってクソが、これでミンチに………あ、れ?」
攻撃したはずの統治の姿は肉片も血飛沫も上がらなかった。
統治の姿が、水滴と火の粉になって変わってしまっていた。

「――『熾火』『不知火』
……ああ、遅かりし由良之介。
お前達下衆はこうやって隙をさらすと面白い用に罠に掛かってくれる」

「てめぇ!!!馬鹿にしやがって」

男達は激怒して振り返ったが
統治は冷めた目で男達の足元を指差した。
「お前らの始末はもう終わってるんだよ。――『熱月』」

男達の足元にはテルミット焼夷手榴弾が音も無く転がされていた。
「不知火」の分身を調子に乗って攻撃した、異能や銃の発射音に紛れて、さりげなく。
人を僅かの時間で灰塵にかえる灼熱の獄炎の力をたっぷりと込められた………

避ける間もなく巨大な炎の火柱が、生えた。
四人の男を飲み込んで。
『熱月』(ねつげつ)
テルミット焼夷手榴弾に異能の力を込める事で火力を増大させた物。
着弾と同時に火焔竜巻のような強力な高熱の火柱が立ち上る。
火焔もそうだが真に危険なのは中の酸素濃度。
火炎竜巻に囚われた人間は数秒で窒息死する。
発動までに多少の時間が掛かるが火炎と窒息で二重に殺しに行く凶悪無比な威力を誇る。
テルミットは焼却剤でギリシャ語の(therm - 熱)に由来する
テルミドール(Thermidor)とは、革命時制定された革命暦(後にナポレオンにより廃止される)の熱月を意味する。
この月に起きた反乱、この事件をもってフランス革命の終焉とする説もある。
20銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/14(土) 23:31:38 0

「この火、消えねえぞっ!!くそっクソっ畜生!!」
「ひぃいいいいいいい!!!」
「火が火が絡みついてっ!た、助け」
「息がっいきができ……」

何とか逃れようとする男を統治は無慈悲に火炎竜巻の中に蹴り戻した。
「お前達はそういう命乞いをしたい一般人を助けた事があるのか?」
統治が敬意を払うのはあくまで強者。
見え透いたこんな罠に掛かるような外道の雑魚に払う敬意は無い。

「さてと……」
ポケットから小さなケースを取り出す。
中には注射器のアンプルが入っている。
「あんたらもこんな悪夢はさっさと忘れるんだな」
倒れている女性二人に、機関で使われる記憶消去剤を使用する。
使えば、三日程度の記憶が曖昧になるという優れものだ。
アルコールも検出されるので、調べられても酔っただけと判断されるはずだ。
それと拘束を解いておく。
戦闘の痕跡も、焦熱も嘘のようだ。粛清部隊の下衆どもは、骨も残さずに灰になったから。

「……さて、次はどうする……?
姫野の監視……何時の間にか場所がずれている……ここからは少し遠いな。
露払いをするのならナンバー6の所に向うのが効率が良いか……」

【粛清部隊の異能者達と交戦し、レオーネ達の居る方向に向かう】
21池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/11/15(日) 18:27:55 0
>>14
異能力が解放され、俺の周りを冷たい空気が漂い始める。
俺の体から発散される凍気が、周囲の空気を急速に冷却し始めたのだ。
その凍気は、まるで吸い込まれるかのように一斉に掌に集まると、
やがて掌上に、激しい横回転をする強力な凍気球を形成した。

「──死ね」

俺は顔色一つ変えずに言い放つと、
笑みを浮かべ続ける男に向けて、凍気球を撃ち放った。
その瞬間、凍気は形を変えて渦状となり、男を一気に飲み込んだ。
『氷雪波』──極寒の嵐に飲み込まれる者を待つのは、高確率の死。
数秒後に俺の眼前に広がった光景は、
殺気と自信を漲らせた闖入者とて例外ではないということを示していた。

嵐が過ぎ去った時、目の前にいたのは、
先程まで戦闘に高揚していた男ではなく、人の形をしたただの氷像であった。
俺は間髪入れず、それを強く蹴飛ばす。
止めともいうべき一撃を受けた氷像は、音を立てて崩れ落ちていった。

「……は、ハハハ……随分と呆気ない奴でしたね……。
勿論、池上さんの異能力が物凄かったのもあるんでしょうけど……」

桐北が憮然とした表情で俺を見た。
だが、依然として瓦礫の山をじっと見つめる俺に違和感を感じたのか、
やがてその顔は怪訝なものへと変わっていった。
しかし、この時最も不可解なものを感じていたのは、恐らく俺であったろう。

(確かに死んだ。だが……妙だ。何故、未だこいつの異能の気を感じるんだ……)

俺の体が、男の気を、まだピリピリと感じとっていたのだ。
しかし、男は確かに目の前で砕け散った。
技が直撃する寸前に回避した様子も無い。これはどういうことなのか──。
初めて体験する奇妙な感覚を受け、一瞬言い知れぬ不安が頭を過ぎった。
──と、その時──突然俺の眼前の空間を、何かが舞った。

「──!?」
22池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/11/15(日) 18:30:36 0
それは何かの棒切れのようなもので、くるくると回転していた。
だが、よく見ると、それは棒切れではなく、『人間の左腕』であった。
本物なのか作り物か、誰のものなのかも分からないが、
とにかく人間の左腕がヘリコプターのテールローターのように空中を舞っているのだ。
何だか分からないが、とにかくここにいるのはまずい──。
そう直感した俺は、桐北と海道に離脱を指示しようと、二人に向き直った。

「お前ら! この場から離れ──」

だが、そう指示をしかけて、俺は思わず言葉を止めた。
二人が何か異様なものを見たような、愕然としたような顔をして俺を見ているからだ。
よく見てみれば二人の視線は俺の左腕部分に注がれている。
二人につられるように、俺はふと自分の左腕に目を向けた。
──そこで俺は、ようやく何が起こったのかを理解した。

「──こっ、これは!?」

左腕は、肘の部分から先が無く、そこから真っ赤な血が噴き出していた。
空中を舞っていた何者かの左腕──それは他でもない、俺の腕だったのだ。
それを認識すると同時に、これまで感じなかった鋭い痛みが、体中を駆け巡った。

「グッ……ああぁぁぁぁぁああァァァァッ!!」
「クックック……いい声で鳴くじゃないか。どうだ、腕を失った気分は?」
「──ッ!」

不意に俺の耳元で、誰かが囁いた。
振り向くと、そこには倒したはずの、あの上半身裸の男が立っていた。
                       アイス・ストーム
「や、やはり生きて……! だが、俺の『氷雪波』をまともに受けて無傷とは……バカな……!!」
「教えてやろう。あれをくらったのは、『俺であって俺ではない』ものなのだ……!」
「な……何だと……?」

男が、ニヤリと笑った。

【池上 燐介:左腕を切断され、戦闘力低下】
23パンドラ ◆vpAT/EK2TU :2009/11/18(水) 12:28:47 0
「死ね」

池上は顔色を変えずにそう言うと、パンドラに向かって凍気球を発射した。
その瞬間凍気は形を変えて渦状となり、パンドラを一気に飲み込んだ。
そして凍りつき池上に蹴り砕かれる。



その様子を見ていたパンドラの本体は興奮を抑えきれぬように、だが心の一部は冷静に分身を一体作り出してそこに残し、池上に対して飛び掛る。

これほどの強者だすぐに殺してしまうのは面白くない。
とりあえず腕でも飛ばすか。

瞬間的にそんな思考をし、池上の腕を手刀で切り飛ばす。

池上は切り飛ばされた腕を見たものの自分の腕とは分からなかったようで、そばにいた桐北と海道に対して声をかけようとする。

「お前ら! この場から離れ──」

そこまで言った後、何か異様なものを見たようなその視線に気付く。
自分の左腕の位置を見ている二人の視線につられるように自分の腕を見る。

「──こっ、これは!?」

肘から先が無く、真っ赤な血が吹き出ていたその腕を見て、それまで感じていなかった鋭い痛みに悲鳴を上げる。

「グッ……ああぁぁぁぁぁああァァァァッ!!」
「クックック……いい声で鳴くじゃないか。どうだ、腕を失った気分は?」
「──ッ!」

殺したはずのパンドラに囁きかけられ、振り向き飛びのく。
                       アイス・ストーム
「や、やはり生きて……! だが、俺の『氷雪波』をまともに受けて無傷とは……バカな……!!」
「教えてやろう。あれをくらったのは、『俺であって俺ではない』ものなのだ……!」
「な……何だと……?」

俺はニヤリと笑いそう宣告する。

「なかなか痛かったぞ。俺が殺されるとは思わなかった。
さて、貴様の能力は見せてもらった。次は俺の力を見せてやる。」

俺はそう言い、十体程の分身を出現させた。
池上はそれを見てさらに警戒を増したようではあるが、さらに告げる。

「勘違いしてもらっては困るが、俺の力はこんな物ではない。
それでは・・・楽しませてもらう!!」

俺はそう言い、六体を池上に、残りの四体を桐北、海道に向けて繰り出す。

【パンドラ:二分の一分身十体を三人に向けて繰り出す】
24伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/18(水) 22:13:11 0
>>15->>16

幸いながら彼女の右肩の傷は、流血こそしているものの傷そのものは浅く、破片を摘出さえすれば運動には支障をきたさないものだった。
敵は先程の教訓からか、まるで此方に近づいてこようとはしない。
痺れを切らしたかのようにレオーネが口を開いた。

「伊賀響、奴は確かに保護色だ。
 だが、異能の波動を利用した逆探知を使えば、保護色は大した問題じゃない。
 加えて水口には最大の弱点が在る。それはオレ達を舐めている事だ。
 
 ――オレが囮になる。奴曰く、オレの攻撃は自分には通用しないらしい。
 だからお前が水口を始末しろ」

そう言われた彼女は気怠げに苦無を構えた。それと同時にレオーネが一歩踏み出し敵を挑発する。
「貴様、水口と言ったな! 如何してオレ達を狙う!」
水口――、そう呼ばれた敵はあっさりとその挑発に乗り、高笑いを上げる。
「イハハハハッ! どぉうしてぇ? 決まっているじゃあないかぁ!
 ヤァハウェだからさぁ、オマエとぉ、塚原ひかるはぁ!」
水口の返答からは、敵の内情が伺えた。
会話中に投げたのだろうか、水口が投げた手榴弾は放物線を描きながら横転した車の傍らに落下した。
――車の周囲には地雷がある。水口が罠として仕掛けたクレイモア地雷がある。
それらは手榴弾から発せられた爆風と炎熱により誘爆を起こし、辺りを真っ赤に染め上げた。
響く轟音。一連の連鎖爆発の内、水口の本命であろうクレイモア対人地雷は、直径1.2mの鋼鉄球を700個あまり備え、炸薬の爆発によりそれらを銃弾に匹敵する速度で扇状に撒き散らす残忍な対人兵器である。
多数設置されたクレイモア地雷は最早誘爆によって起爆したのか、それとも信管による起爆なのかは定かではないが、3000発を優に越える鉄球が銃弾にも匹敵しうる速度で無差別に撒き散らされた。
鉄球は生物に致命的な殺傷を与える暴風雨と化し、レオーネ達に襲い掛かる。
それに対して響は、既に先程のやり取りの間に大量の風を左手に集めていた。彼女が集めた大気は空間が歪んで見える程に圧縮されている。
その圧縮させた空気に指向性を持たせ放つ"圧縮空気砲"の初速は亜音速の域にまで達するものだ。
本来ならば反動を抑える為に両腕で放つ事になるこの圧縮空気砲だが、右肩を負傷している現在は、左腕だけで撃つ事を余儀なくされる。
当然ながら、左腕への負担を省みるならば威力を落とさざる終えない。
彼女は水口本人に使うつもりだったそれを、目の前の暴風雨に向けて使う事になった。
自身が反動で吹き飛ばない様に発射方向の反対側から風を受けて自身を固定し、彼女は左腕を暴風雨に対し水平に向け、圧縮した大気を解き放った。
――途端に、空気が、爆ぜた。
圧縮された空気は高温に熱せられており、焼け付くような熱風が彼女の身体を煽る。
放たれた圧縮空気砲はクレイモアの散弾の軌道を悉く逸らす事に成功するが、
それでも勢いを失わなかった鉄球の幾つかが後方に居るレオーネの着ていたスーツを台無しにする結果を招いてしまった。
しかし被害がその程度で済んだのは幸運だったといえよう。
25伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/18(水) 22:14:43 0

「……一応聞くが、伊賀響。無事か?」
レオーネがひかるを離して立ち上がり響に問う。
「…ええ、大丈夫よ」
そうは言うが彼女の身体は先の圧縮空気砲の反動によりダメージを受けている。
やはり片腕という無理な体勢で圧縮空気砲を撃ったことが祟りとなったようだ。
圧縮空気砲の反動と、自身を固定する為に使った風の圧力との間に挟まれた彼女の身体は今大きなダメージを受け、一時的ではあるがその身体機能を著しく低下させていた。
しかし、水口の仕掛けた連鎖爆発。それらを潜り抜けた今、水口の周囲に残る罠は殆ど見えなくなっていた。
響は好機とばかりに水口に再び接近する。だが。

「イハハッ! ゆぅだんしたなぁ? もうわたしの周りに罠はないとぉ、
 いっただろぉう、透明になれるのはぁ、わたしだけではぁ、なぁい」

――水口の異能力を厳密に言えば、自身と、自身の血液を付着したものを透明にするというものだった。
透明という定義がどのようなものかは定かではないが、透明になれるものは固体の枠にとどまらず…。
そう、液体さえも彼女の異能力の範疇に合ったのだ。

透明で見る事は出来ないが彼女の周囲にはガソリンが撒かれており、彼女はそれにマッチで火をつけた。
着火点を起点にして走るように伸びてゆく火の手は、やがて響の足元まで届く、身体機能が低下している彼女は咄嗟にこれをかわすことが出来なかった。

「イハハァ!!! どぉうだぁ? くやしいかぁ!? イハハハハハ!!」

炎に飲まれる寸前、響は自身の身体を風で飛ばし、左方に逃れた。その際に、彼女が着ているワンピースの裾が焼けてしまう。
三叉を描くように上がった炎は丁度響と水口の間に壁を作る形となっている。そして炎の向こう側からは水口の勝利を確信した高笑いが聞こえてくる。
幸い、響の身体に火傷は無いが、今の攻撃は精神的なダメージのほうが大きかった。
依然として、炎の向こう側からは「とどめだぁ」などという間延びした声とともにあてずっぽうに手榴弾が投げられてくるのだから尚更タチが悪い。
響は堪らず爆発の届かない範囲まで後退した。レオーネはこの敵を三下の様に見ている様だが、その実はなかなかのしたたかさを備えた敵である。
いささか無頓着なきらいがあるが、決して策を切らす事は無い。事実、響達は未だ水口に決定打を与えられずにいるのだから。

【現在地:市街地中央区】
【仕掛けられた罠の大半が無くなる・水口の周囲に壁となるように炎が上がる】
26銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/11/19(木) 20:06:22 0
「……レオーネ様、それにそちらの御二方。遅れてしまって申し訳ない」

突如、伊賀 響とレオーネ、そしてひかるの耳朶を打った。
しかもその声は、炎の壁の中から聞こえてくる。
静かな呟きのような声だが、酷くはっきりと聞こえる。

「……『インビシブル』の水口――数年前のルーマニア以来だな。
貴様がこの作戦の小隊長か」

水口に向って話しかけているようだが……
しかし、何の温度も感じさせぬ凍えるような冷たい声だった。

「イハハハハハ!その声は銀水苑か!機関の秘密を守る為なら躊躇無く村さえ焼き払う無慈悲な鬼札!
外道院様にすら認められたその徹底した無慈悲さと冷酷さは
こちら側の人間だと思っていたんだがなあ!裏切りものめ!」

「……否定はしない。だがお前達と俺とでは決定的に違う所がある」

銀水苑と呼ばれた男は、炎の壁の中から響き達の方に現れた。
それなのに衣服にも顔にも焦げ目一つ付いていない。

「俺は人殺しを楽しんだ事は一度もないということだ!『操炎!!』」

銀水苑の右手が閃き、小柄が飛ぶ。
小柄は炎の壁に向って飛来し、燃え盛る地面に飛んで刺さる。
するとどうだろう。
今まで水口を守るはずだった炎の壁。それが形を変える。
伊賀響の前に道を開ける。まるでモーゼのように。
それどころか走る炎の壁が逆に水口の周囲に回りこんで檻と化したではないか。
『操炎』
既に存在している炎を操る技である。

「イハァ!?やってくれるねえ!だがっ、こぅの程度でわたしの策が……」

何らかのアクションを取ろうとする水口に、統治は足元に何かを投げて寄越す。

「お前の策とはこの焦げ肉の事か?ファーストナンバーを暗殺する腹積もりなら、一人で来るわけが無い。
必ずどこかに伏兵を配置すると思っていたよ」

それは、炭化した人間の腕だった。先ほど、撃破した粛清部隊の物だ。

「イハッ!?」

「炎の壁は剥がれ、策は尽きた。だが、我は無情。明日の日は貴様の為に在らず」

今度は伊賀響の方に歩み寄ると、暖かで柔らかい光を放つ炎を翳す。

「『活炎』――痛む左手と肩はましになったか?
……お膳立てはこれくらいで構わないな?お前の戦い、後は自分で始末を付ける事だ」

【現在位置:市街地中央区に出現】
【炎の壁を逆に操り、道を開けて水口の退路を塞ぎ、響をサポート】
27海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/11/20(金) 11:38:37 0
ズン

そんな何かが落ちたような音がしてきた。
なんなんだ?今のは。

そうして驚いて固まっていると、池上の声が聞こえた。

「チッ……厄介なことになったな。やはり、お前は薬局で殺っておくべきだったようだ」
「え……?」
「敵さんのお出ましだ。
やれやれ……こういう事態は避けておきたかったんだが、な……」

敵だって!?
池上の敵が来たという言葉に辺りを見回すが誰もいない。
そして、桐北に目を向けるとその後ろに、左肩にツララが刺さった男がいた。

「こ、こいつが……敵……!?」
「お前はこいつが登山者にでも見えるのか?」

桐北に対し冷静にそう返す池上。
ツララが刺さった男は髪も髭も以上に伸び、上半身裸という格好だった。
俺は、その異様な姿に、固まってしまった。
だが、そのままでは殺されるかもしれないと感じ、その男を見すめる。

「ったく、機関の戦力の豊富さには呆れるよ。次から次へと現れやがって」

機関?なんなんだ?それは。
池上の言葉を聞き、考え込んでいると、男が肩に刺さっているツララを引き抜き、片手で握りつぶし、不敵な笑みを浮かべる。
そして桐北、俺、池上の順に目を向け、池上を睨む。

「ふははははははは!やるじゃないか!久しぶりの戦いだ!愉しませてもらう!!」

その声にまたも固まってしまう。
が、

「……。悪いが、俺は戦闘を楽しむ気はないんでね。直ぐに終わらせてもらう」

という池上の言葉に冷静になる。
自分が戦うのではないのだ。せめて足手まといにならない様にしないと!

池上の突き出した掌に何かが集まっていく。
やがてその掌上に、激しい横回転をする気弾ができ、

「──死ね」

池上が顔色を変えずにそれを男に放つ。
放たれた気弾は形を変え渦状となり、男を一気に飲み込む。
そして数秒後には男の氷像が出来上がっていた。
池上がそれを強く蹴飛ばし、砕く。
28海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/11/20(金) 11:39:37 0
「……は、ハハハ……随分と呆気ない奴でしたね……。
勿論、池上さんの異能力が物凄かったのもあるんでしょうけど……」

そうだろうか?あの時、男は回避もせず迎撃をしようとする様子も無く、ただ攻撃を受けた。
あそこまでの殺気を放つ男が何もせずにただ突っ立っていた。
それがどうも気にかかり、池上に問いかけようとする。
が、その時突然池上の腕が飛ぶ。

「お前ら! この場から離れ──」

池上はそう指示をしかけて、言葉をとめる。
そして自分の腕を見て腕が切れていることに気付いた。

「グッ……ああぁぁぁぁぁああァァァァッ!!」
「クックック……いい声で鳴くじゃないか。どうだ、腕を失った気分は?」
「──ッ!」

懸念が当たっていたのか、死んだはずの男が池上に囁きかける。

                       アイス・ストーム
「や、やはり生きて……! だが、俺の『氷雪波』をまともに受けて無傷とは……バカな……!!」
「教えてやろう。あれをくらったのは、『俺であって俺ではない』ものなのだ……!」
「な……何だと……?」

なんだって?
『俺であって俺ではない』もの?分身でもできるということなのか?そうだとしたら不味い。
俺達に来るかもしれない。

「なかなか痛かったぞ。俺が殺されるとは思わなかった。
さて、貴様の能力は見せてもらった。次は俺の力を見せてやる。」

男はそう言い十体程の分身を出現させる。
その分身の数に俺は恐怖する。だがさっきまでとは違い固まりはしなかった。自分に来たときに固まっていては殺されるということを認識しているからだ。

「勘違いしてもらっては困るが、俺の力はこんな物ではない。
それでは・・・楽しませてもらう!!」

【海道:分身がきた時に備えて覚悟を決める】
29池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/11/22(日) 18:29:57 0
>>23
>「なかなか痛かったぞ。俺が殺されるとは思わなかった。
>さて、貴様の能力は見せてもらった。次は俺の力を見せてやる。」

男が言い放った次の瞬間、思わず目を疑う光景が眼前に広がった。
どこからともなく、男と全く同じ容姿をした人間が十人程も現れたのだ。
人形か、それとも残像か。いや違う。そのような子供騙しのトリックではない。
紛れも無く男の存在そのものが増えたのだ。
        コピー
(そうか……分身を作り出す異能力……。死んだのは、奴の分身に過ぎなかったのか)

俺は左肘に手をあて、そこに直接凍気を送り込んだ。
凍気によって冷却された傷口は見る見る内に凍りつき、
とめどなく出血していた左肘は、やがて一滴の血も流さなくなっていた。

>「勘違いしてもらっては困るが、俺の力はこんな物ではない。
>それでは・・・楽しませてもらう!!」

だが、俺に反撃する暇も与えまいと、男達は再び攻勢に出た。
一、二、三──……一気に六体の分身が、猛然と向かってきたのだ。

「チッ!」

俺は後方に飛び退き、同時に向かってくる六の分身体に向けて八つの凍気弾を放った。
この技は数は出せるが、直撃しても大きなダメージは期待できない。
しかも高速というわけでもないので、それなりの実力者であれば容易にかわすことができるものだ。
男の分身体達も、ジャンプしたり、真横に飛び退いたりして当然のように次々とかわしていく。
しかし、そんな彼らのとった行動こそ、正に俺の望んでいたものであった。

「──マシンガン・アイス!」

俺は、男達の気付かぬ間に空中に作り出していた百を超える氷の弾丸を、一斉に撃ち放った。
瞬間、空中に飛び上がっていた三人の男が血を噴き、悲鳴をあげた。
無数の氷を高速で飛ばすこの技を敵が回避することはただでさえ難しい。
それが空中におり、身動きのとれない状態であれば尚更である。
しかし、空中へと逃れなかった他三人は一発の直撃も許した様子はなく、
彼らは体勢を整えると再び急接近を開始した。
(地に足をつけていたとはいえあのスピードをかわすとは、やはり並の手練れじゃない……!)

「チッ!」

向かってくる残りの三体に向け、再び凍気を放とうと右手に力を込める。
だがその時、異変が起きた。
集約されつつあった凍気の塊が、見る見る内に輝きを失い、消えていったのだ。
30池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/11/22(日) 18:31:56 0
「──ッ!」

その異変に気付くと同時に、体を激しい疲労感が襲い掛かった。
まるで重石を背負わされたかのように、体が重い。
突然の体の変調。だが俺は、その原因が何であるか、ハッキリと分かっていた。

(参ったな……)

原因──それはこの一日、闘いすぎてしまったということにある。
異能力というものは際限なく使えるというものではない。
そう、一日に使えるエネルギー量には、誰しも限りがあるのだ。
その量を使い切ってしまえば、異能者はガス欠を起こし、ただの人間となる。

「ハァ……ハァ……。朝から連戦続きだったからな……無理もない、か……」
「どうした! それで終わりかッ!!」

腹部に重い衝撃が走る。

「ぐっ……はっ……!!」

俺はそのまま真後ろへと吹き飛び、巨木に音を立てて激突した。

「い、池上さん!」

立ち上がらず、ぐったりとしている俺に気付いた桐北が声をかける。
しかし、張っていた糸がぷつりと切れたように、
体から急速に力が抜けている俺は、返事をすることができない。
(もはや……頼みの綱はあの二人か……)

【池上 燐介:戦闘不能】
31レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/11/23(月) 19:15:29 0
>>25>>26

>「…ええ、大丈夫よ」

オレはスーツのジャケットを脱ぎ捨てると、伊賀の答えに頷いた。
スーツだけで済んだのは伊賀の功績による所が大きかった。
彼女は爆発の時、埋められていた地雷の鉄球や周囲の破片などの飛翔物に空気の塊をぶつける事で、
その殆どを無力化したのだった。
しかし、爆発を御する程の大技を片腕というコンディションで放ったのだ。
彼女への負担は相当な物になった事だろう。

こちらの行動を制限していた周囲の赤い光りも、殆どが先程の爆発で起爆し、
最早こちらの制限は無くなったと言っても過言ではない。
だが、妙だな……。水口の異能力は透明になる事――。
奴の仕掛けた罠が見えなかったのは、奴自身の異能力の恩恵による物なのだろう。
とするならばだ、罠から何かしらの――そう、言うなれば異能力の残り香のような物が感じ取れる筈だ。
しかし、それは微塵も感じ取れなかった……。これが水口という女が未だに余裕を見せている要因なのだろうか?

>「イハハッ! ゆぅだんしたなぁ? もうわたしの周りに罠はないとぉ、
> いっただろぉう、透明になれるのはぁ、わたしだけではぁ、なぁい」

伊賀は先程の雪辱を晴らすべく、再び水口に接近戦を挑む。
その時―― 地面を舐めるかのように火の手が伊賀に向けて放たれた。
失敗したな。透明になれるのは水口本人だけではないのだ。
奴の罠にも適応されるのだ。二重三重の罠に良いようにやられたな……。
やがて炎は水口と伊賀を隔てるように燃え広がり、
水口の勝ち誇った笑いが業火の中から木霊する。

炎の向こう側に居る相手に攻撃するだけの何か……。
それが無ければ現在の状況を突破する事は不可能だった。

>「……レオーネ様、それにそちらの御二方。遅れてしまって申し訳ない」

炎の向こう側、丁度水口の居る側から炎を隔てて聞こえてくる声……。
この声にはつい最近聞いた事の在る声だ。――そう、この声は……。

>「……『インビシブル』の水口――数年前のルーマニア以来だな。
>貴様がこの作戦の小隊長か」

>「イハハハハハ!その声は銀水苑か!機関の秘密を守る為なら躊躇無く村さえ焼き払う無慈悲な鬼札!
>外道院様にすら認められたその徹底した無慈悲さと冷酷さは
>こちら側の人間だと思っていたんだがなあ!裏切りものめ!」

そうだ、No.25――銀水苑だ。
なるほど、抹消部隊ならばこの惨状にいち早く気付き、処理に当たっていた筈だ。
ならば、この場に彼が来るのも道理という物か。

やがて燃え盛る火炎の中から銀水苑が現れるが、
その肌はおろか、衣服にすら焦げ目など一つも無かった。
当然だろう、炎は彼の僕なのだから……。
そして――
32レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/11/23(月) 19:19:40 0
>>31

>「俺は人殺しを楽しんだ事は一度もないということだ!『操炎!!』」

続く言葉と共に彼の手から放たれた鋭く光るモノ……。
それは『小柄』と呼ばれる日本の短刀の一種だった。
短刀といっても、アレは切り結ぶための物じゃない。小柄の使用方法は投擲にあった。
丁度今、銀水苑がそうした様に……。

飛来した小柄が地面に刺さったその瞬間、今まで水口と伊賀を隔てていた炎の壁がその姿を変えていく。
これがNo.25の技だというのか……。天を焦がす地獄の獄炎は、今度は水口の周囲を囲む炎の檻となったのだった。
なるほど。腕も立つようだ、あの銀水苑という男は。

>「お前の策とはこの焦げ肉の事か?ファーストナンバーを暗殺する腹積もりなら、一人で来るわけが無い。
>必ずどこかに伏兵を配置すると思っていたよ」

銀水苑が水口に向って投げ捨てたのは、酷く炭化した人の腕であった。
つまり、伏兵は既に銀水苑に始末されていたという事か。
ならば最早万策尽きたな……。

後は水口を殺るだけだが、一番近くに居るのは伊賀か。
だが、伊賀は突っ込んでいく等という愚考をするような人間じゃない。
それに水口の性格からして、まだ最後の一手を残している事だろう。
とするならば、奴の注意を引き付けておけば、或いは……。

では、そろそろあの切羽詰った顔をしている馬鹿女に、格の違いという奴を教えてやるとするか。

「お前たちはなんなんだぁ! この混沌とした状況がぁ、楽しくないのかぁ!?
 わたしちぃ異能者はぁ、混沌の中でしかぁ、生ぃきていけないのだぞぉっ!
 わぁたし達が楽しくしてやってるんじゃあないかぁっ!」

その言葉は途中で途切れ、今まで異能を使い周囲に溶け込んでいた水口がその姿を現した。
酷く重そうな対爆スーツに身を包んだ恰幅の良い女、それがオレが見た水口の第一印象であった。

水口の顔が見る見るうちに青ざめて、狼狽の色が浮んでいく。
無理も無い。今異能力を解除したのは自分の意思であって、自分の意思ではないのだから。
奴は今こう思っている筈だ。"解除する必要も無いのに、急に解除しなければと思った。何故だ"、と――。
明らかな驚愕の色が窺える水口と視線が交わる。そうだ水口、原因はオレしか居ない。

水口は、オレがそこらの精神系異能者に毛が生えた程度だと思っていたのだろうか?
催眠と暗示による精神防壁? それが如何した?
壁が在るのならこちらの精神攻撃で解除してやれば良い。

確かに精神系異能者にとって、催眠療法や暗示などによる精神攻撃耐性は厄介極まりない。
だが、それはあくまでも普通の異能者にとっては……でしかない。
オレも自分の系統の弱点ぐらい知っている。だからこそ、その"防壁を解除する"術も身に着けたのだ。
兎にも角にも奴の注意はオレに逸れた。後は近くに居る伊賀なり銀水苑なりが止めを刺せば良い。

――これから死に逝く者にオレは静かに手を振った。

【レオーネ:現在地 市街地中央区】
【水口の保護色を解除させる】
33海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/11/25(水) 12:51:43 0
>「勘違いしてもらっては困るが、俺の力はこんな物ではない。
>それでは・・・楽しませてもらう!!」

パンドラがそう言った瞬間池上の方に6人、俺達の方に4人の分身が襲い掛かってきた。
俺には格闘技の経験も喧嘩の経験も殆ど無い。
襲い掛かってきた分身たちに、池上の腕を飛ばした力を持つものに、恐怖して瞬間逃げ出す。
桐北が戦闘できるかということを考えずに、桐北の腕をつかんで高く飛び上がる。

「ごめんいきなり。
でも俺もお前も今恐怖で固まりかけていた。とりあえず作戦を立てる時間を作った方がいい。」

いきなり腕をつかんで飛び上がった俺に怒鳴った桐北にそう言った。
桐北は固まっていたことに気付いていなかったのか、少し呆然とする。
が、すぐに理解を示したのか「分かった。」と返事をする。

そして下を見てみると、分身は二人ずつで組になって二段ジャンプをしていた。
移動して避けるが、さらに高く飛び上がった一人がもう一人を足場に飛び込んできた。
その時、桐北が俺の腕を振り解き、降下する。

【海道:空に逃げ作戦を立てようとする】
34廻間 ◆7VdkilIYF. :2009/11/26(木) 21:26:49 0
「ごちそう様」

箸をおき、そばにあったティッシュをとり口を拭く。
ちらりと辺りを見回すと、みんなも食べ終わっているようで食器は置かれていた。

「そう言えば、池上と桐北は?」

池上と先輩がいないことに気付いたのか、辺りを見回しながら瑞穂が呟いた。

「用があるらしく、出かけたよ」
「…こんな時にか?」
「こんな時に、だ」

食器を持ち、立ち上がる。
洗う洗わないは別として、この食器は片付けた方がいいだろう。

「俺が皿持ってくよ」
「ん、わりぃな」

テーブルの上に置かれた食器を纏めてキッチンに持っていく。

「さて、これからどうする?」

テーブルを囲むように俺達は座る。

「とりあえず、本社の突撃はもう無理じゃないか?」

リースが切り出すように喋りだした。

「確かにそうだな、一日に二回、同じところに襲撃をかけるのは非常に厳しい」
「こっち圧倒的な戦力を持っているなら別だろうが…残念だが、こっちの戦力は少ないうえに疲弊しきっているな」

俺と瑞穂は同じ結論に達したようだ。
敵の本拠地に一日に二度攻め込む…聞いた事もない戦法だ。
…一回崩したところでもう一回攻め込む、という利点があるから
もしかしたら通用するのかもしれないが、それは圧倒的な戦力を持ってたらの話だ。

「こっちにももっと味方がいれば、いけたのかもしれねーのに…」

高山が悔しそうに言い放った。
…確かにこの面子なら疲れていても、そんじょそこらの面子には負けないだろう。
俺達と同じような実力の人間が、今の倍の数があれば奇襲も成功したのかもしれないが…

「…そういや、お前…」

今まで黙っていた国崎がリースを見て、何かを言い放った。

「ん?俺?」
「…いや、何でもない。悪いな」
「??」

何かを言いたそうな国崎だったが、発言を取り下げた。
指摘されたリースは首をかしげながら、頭の上にハテナを浮かべている。

(これからの事に関してどうするか…池上や先輩が来るまで待ったほうがいいか?)

池上が先輩がいない状況で、勝手にこれからの方針を決めては不味い気がする。
あの二人にも意見というものはあるだろうしな…俺はとりあえず、もっと考える事にした。

【廻間:これからの事に関して会議中】
35桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/11/28(土) 03:28:19 0
>>33
海道の腕を振り解き、地面に着地した桐北は咄嗟に叫んでいた。

「い、池上さん!」

桐北の目線の向こうにはぐったりとして大木に背を預ける池上の姿があった。
桐北はそこに駆け寄ろうとするが、そんな桐北をパンドラの分身が見逃すわけはない。
四体のパンドラは即座に桐北を取り囲んだ。

「くっ!」
「貴様の相手は俺達だ。
灰色頭のもとへ行きたければ、俺達を倒してからにしてからにするんだな!」

分身の一人がその場から消え、瞬間、桐北の頬をハンマーで殴ったような衝撃が走った。
口から地混じりの唾液が噴き出し、地震が起きたかのように視界がブレる。

「ぐふっ……!」
「おーっと! まだ寝てもらっちゃ困る。もう少し楽しませてくれよ……なぁ!?」

分身の一体が倒れかけた桐北の胸倉を掴み、更なる攻撃を加えていく。
その一発一発は、どれもかわしようがないほど速く、
桐北にとって骨を砕かれるように感じられるほど重いものだった。
手も足も出せずにいる桐北は、思わず海道の腕を振り解いてしまったことを後悔した。

(クソッ……どうして俺はこんな真似を……!
どうして海道の言葉に従わず、一人で勝手に降りたりしたんだ……!
大体、俺は闘いたくなかったんじゃないのか……!)

「どーしたァ! 少しは抵抗してみたらどうだ! フハハハハハ!」
「げほっ! ぐはっ!」 
「ハハハハハハハハハ──ハッ!?」

突然、分身は拳の動きを止めた。
桐北の両手の周りから、小さなスパークが発生していたからだ。

「──! 電気!?」                             スパー
「いいさ、少しは抵抗してやる……! う──ぉぉぉおおおおッ!! 『放電──」
「──遅いッ!!」

桐北が両手に溜めた電撃を放とうとした瞬間、分身の拳が桐北の下顎にヒットした。
36桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/11/28(土) 03:33:08 0
「ぐうあっ!?」

不意の攻撃を受けて意識が完全に朦朧となった桐北は、
直ぐに体のバランスを崩し、ふらつく間もなくバタリと倒れた。
それと同時に両手を覆っていた電気も、「バチ」っと小さな音を立てて消えていった。

(ハハハ……やっぱり……俺なんかが適う相手じゃなかった……。
でも……いいさ……。やるだけのことはやったんだ……。
あのまま池上さんに殺されるよりは、まだマシな死に方かもしれない……)

「ったく、貴様も終わりか。歯応えのねぇ奴だ。
だが……空中に逃げたあいつは、少しは楽しませてくれるんだろう?」
「ま……待ってくれ……殺すなら俺を殺してくれ……。
あいつは関係ないんだ……だから、逃がしてやってくれ……」

桐北は海道に向かおうとする分身の足を掴んで、悲壮な表情で哀願する。
しかし、分身は逆効果というように、二ィと口元を歪めて言い放った。

「……麗しい友情というやつか。
だが、そう言われたら益々殺したくなってきたぜ。クックック……」
「まっ、待ってくれ……! あいつは……」
「黙れッ!!」
「ごはぁっ!!」

分身は桐北の頬を蹴り飛ばし、手を振り払って海道を見据えた。
桐北は尚も分身の足を掴もうと腕を伸ばすが、届かない。
それを尻目に、分身は他六体の分身を引き連れ、じりじりと海道に迫っていった。

「まっ、待て! 待ってくれ!!
く……くそぉぉぉおおおお! 逃げろ! 逃げろ海道ーーーーッ!!!!」
「俺達から逃げられると思うなよ?
貴様は他の二人以上に痛めつけてから殺してやるさ。
ククク、フハーハハハハハ!!」

【桐北 修貴:ダメージ大。海道に逃げろと叫ぶ】
37伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/29(日) 01:05:30 0
>>26>>31

「……レオーネ様、それにそちらの御二方。遅れてしまって申し訳ない」

炎を隔てて聞こえてくる声。それは静かな男の声だった。声の主は言葉を続ける。

「……『インビシブル』の水口――数年前のルーマニア以来だな。
貴様がこの作戦の小隊長か」

その言葉は他ならぬ水口に対して向けられていた。

「イハハハハハ!その声は銀水苑か!機関の秘密を守る為なら躊躇無く村さえ焼き払う無慈悲な鬼札!
外道院様にすら認められたその徹底した無慈悲さと冷酷さは
こちら側の人間だと思っていたんだがなあ!裏切りものめ!」

会話の内容から察するにどうやら彼は水口と面識の在る事が伺えた。

「……否定はしない。だがお前達と俺とでは決定的に違う所がある」

炎の中から声の主が姿を現す。
銀水苑と呼ばれたその男は燃え盛る炎の中から顔を出したのにも拘らず、その身体と衣服には一切の焼け跡が見られ無い。

「俺は人殺しを楽しんだ事は一度もないということだ!『操炎!!』」

続く言葉と共に彼が投げた小柄が燃え盛る地面の一角を捕える。
すると炎が形を変え、響に道を譲る。
それと同時に炎が水口の周りを囲み檻となって水口を追い詰めた。
炎は彼の僕だった。操炎の名が冠する通りに…。
そして、続け様に彼が水口の足元に投げた者は炭化した人間の腕だった。
38伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/11/29(日) 01:06:57 0

「お前の策とはこの焦げ肉の事か?ファーストナンバーを暗殺する腹積もりなら、一人で来るわけが無い。
必ずどこかに伏兵を配置すると思っていたよ」

「イハッ!?」

「炎の壁は剥がれ、策は尽きた。だが、我は無情。明日の日は貴様の為に在らず」

彼は響の傍らに立ち寄り、柔らかで暖かい、治癒の炎を翳す。
それにより彼女の乱れた脈拍は安定し、身体の不調も幾分かましになる。
そして何よりも精神的に暖かく、落ち着くものがあった。しかし、彼女にはその温もりが何よりも煩わしく感じられた。

「『活炎』――痛む左手と肩はましになったか?
……お膳立てはこれくらいで構わないな?お前の戦い、後は自分で始末を付ける事だ」

「…おせっかいな男…」

彼女はそう呟いた。

「お前たちはなんなんだぁ! この混沌とした状況がぁ、楽しくないのかぁ!?
 わたしちぃ異能者はぁ、混沌の中でしかぁ、生ぃきていけないのだぞぉっ!
 わぁたし達が楽しくしてやってるんじゃあないかぁっ!」

そう捲くし立てる水口の言葉は半ばで途切れ、水口がその姿を現した。
水口の顔が見る見るうちに青ざめ、狼狽の色が浮ぶ。
響にはその理由がすぐに解り、ちらとレオーネの方を垣間見た。
その後すぐに水口の方に向き直り、歩みを進める。
彼女は先程の水口の言葉を歯軋りしながら聞いていた。
『異能者は混沌の中でしか生きられない』それは違う。
混沌の中でしか生きられない者は唯の狂人でしかない。
異能者だって一人の人間なのだ。人が人の幸せを奪う権利なんて無い筈だ。
懸命に生きる人達の願いを踏みにじる者が居るのなら、自分が先んじて其れを絶つ。
たとえこの手が血に染まろうとも。

「…楽しい訳…無いじゃないか…」

響が水口を間合いに捕え、言い放つ。
咄嗟に殴り掛ろうとする水口の右手を苦無が貫いた。

「ッギィアアァアアァ!!」

響は痛みに悶える水口を見下ろしながらこう告げた。

「痛い? 人を殺すということは自分を殺すという事なんだよ。それには痛みが伴うの…。
 今まで快楽の為に人を殺してきた貴女には、痛みなんてわからないんだろうね…」
 
彼女は見上げる水口の顔に右手を翳す――、そして、大気が爆ぜた。
水口の顔を大気の奔流が打ち付ける。その威力は水口の全身を後方に飛ばす程の物だった。
吹き飛ばされた水口は仰向けに倒れたまま動こうとしない。気を失ったのか、それとも。

【水口:戦闘不能】
39海道 翔@代理:2009/11/30(月) 00:11:35 0
>その時、桐北が俺の腕を振り解き、降下する。

「桐北!!」

海道は叫び連れ戻そうとするがもう遅く、すでに桐北は着地していた。

「い、池上さん!」

桐北のその声に池上の方を見る。
そこにはぐったりとして、大木に背を預けている池上の姿があった。
そこへ向かおうとする桐北を四体のパンドラが取り囲み袋叩きにする。

(くそ!俺に戦う力が無いから!
でも、このままじゃ二人が死んでしまう!)

桐北を袋叩きにしている分身たちが動きを止める。
見ると桐北の両手の周りから小さなスパークが発生していた。
だが桐北がそれを放とうとすると分身の拳が桐北の下顎に当たり、両手に纏っていた電気が消える。

「ったく、貴様も終わりか。歯応えのねぇ奴だ。
だが……空中に逃げたあいつは、少しは楽しませてくれるんだろう?」
「ま……待ってくれ……殺すなら俺を殺してくれ……。
あいつは関係ないんだ……だから、逃がしてやってくれ……」

桐北が懇願するように分身の足を掴み海道を逃がしてほしいと言う。

(こんな状態でも俺を心配するなんて。さっきも、今も。)

だが分身は分身は逆効果というように、二ィと口元を歪めて言い放つ。

「……麗しい友情というやつか。
だが、そう言われたら益々殺したくなってきたぜ。クックック……」
「まっ、待ってくれ……! あいつは……」
「黙れッ!!」
「ごはぁっ!!」
40海道 翔@代理:2009/11/30(月) 00:13:05 0
分身は桐北の頬を蹴り飛ばし、手を振り払って海道を見据える。
桐北は尚も分身の足を掴もうと腕を伸ばすが、届かない。
それを尻目に、分身は他六体の分身を引き連れ、じりじりと海道に迫っていった。

(桐北!俺には戦う力は無い。でも、考える力は有るじゃないか!
・・・・・・そうだ!!)

「まっ、待て! 待ってくれ!!
く……くそぉぉぉおおおお! 逃げろ! 逃げろ海道ーーーーッ!!!!」
「俺達から逃げられると思うなよ?
貴様は他の二人以上に痛めつけてから殺してやるさ。
ククク、フハーハハハハハ!!」

桐北の逃げろという声と、分身の痛めつけるという声。
そして、分身は海道のいる場所に向かい跳躍する。

「やってやる!!」

海道は跳んできた分身の背後に回り強く突き飛ばす。
突き飛ばされた分身は普通ではありえないほどに遠くに飛んでいく。
海道は続けて他の分身達を遠く突き飛ばしていく。

(俺は自分が飛ぶ力を持っている。
そして、俺が触れたものの重力を10秒間制御することができる。手が離れても。
なら、その力で突き飛ばせば。)

そして桐北と、池上を回収してもう一度空を飛ぶ。
だがその時、ピュン、といった風を切る音が聞こえてきた。
池上を支えている腕に飛んできた何かがぶつかる。

【海道 翔:分身を遠くに突き飛ばし桐北と池上を回収する】
41銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/01(火) 00:48:16 0
>>37>>38


「…おせっかいな男…」
彼女はそう呟いた。

「おせっかいか……そうかもしれないな。
俺のやっていることは自己満足にすぎんのかもしれん」
俺はそう答えた。

「お前たちはなんなんだぁ! この混沌とした状況がぁ、楽しくないのかぁ!?
 わたしちぃ異能者はぁ、混沌の中でしかぁ、生ぃきていけないのだぞぉっ!
 わぁたし達が楽しくしてやってるんじゃあないかぁっ!」
そう捲くし立てる水口の言葉は半ばで途切れ、水口がその姿を現した。
水口の顔が見る見るうちに青ざめ、狼狽の色が浮ぶ。
「…楽しい訳…無いじゃないか…」
響が水口を間合いに捕え、言い放つ。
咄嗟に殴り掛ろうとする水口の右手を苦無が貫いた。
「ッギィアアァアアァ!!」
響は痛みに悶える水口を見下ろしながらこう告げた。
「痛い? 人を殺すということは自分を殺すという事なんだよ。それには痛みが伴うの…。
 今まで快楽の為に人を殺してきた貴女には、痛みなんてわからないんだろうね…」
彼女は見上げる水口の顔に右手を翳す――、そして、大気が爆ぜた。
水口の顔を大気の奔流が打ち付ける。その威力は水口の全身を後方に飛ばす程の物だった。
吹き飛ばされた水口は仰向けに倒れたまま動こうとしない。

「無駄だ伊賀響。こいつ等は迷わない。
闇に生きるものとしての最低限の誇りも無い。力と殺戮の誘惑に負け、完全に堕ち切った。
……離れろ、今からこいつを抹消する。――巻き添えを食うぞ」
伊賀響に離れるよう促す。

圧縮空気の衝撃波か…対爆スーツの所為で殺しきれて居ない。
だが問題ない。風の異能のお陰で新鮮な酸素は十分に有る。
死んでいようが死んでいまいが、俺はこうするつもりだった。

「お前には勿体無い技だが……
街を火の海にしてくれたお陰で、容易く打てる。
後悔しろ。お前は奪わなくても良い命自らの愉悦のため殺めすぎた
自業自得の報いをかみ締めて、灰塵になれ水口――さようなら、だ。」

静かな怒りを込めて呟いた後
幾つもの炎の塊を、水口の周囲に投げる。
生じた猛り狂う炎の柱が、先ほど操炎で操った炎の壁を飲み込んでいく。
熱く、紅く。燃え盛る。

「――永遠の炎に包まれた都が見える。獄炎の流れが渦を巻いて押し寄せて……」
「救いを求める呪われた人々がその中でもがいている」
「祈りにもこう有る。汝灰にして、灰に還る――奥義」
42銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/01(火) 00:51:01 0

俺は、一言一句かみ締めるように、区切るように言い放った。

『浄罪界・煉獄』

15メートルを越える渦巻く炎の柱が、水口を発現点に発生した。

煉獄(れんごく)とは――
天国に行けるほど清くない魂が、その罪を清めるため赴くとされる地獄の事。
異能の波紋が広がり、水口が爆破した車から立ち上る炎や
ガソリンでつけた炎すら、奴の周囲に集まっていく。
まるで、この惨劇を引き起こした罪人を
決して許さぬ地獄の炎が、罪の償いと復讐を求めて狂い猛っているかのように。

『浄罪界・煉獄』――小規模な火災旋風を引き起こす統治の奥義の一つ。

火災旋風とは、地震や空襲などによる都市部での広範囲の火災や、
山火事などによって、炎をともなう旋風が発生し、さらに大きな被害をもたらす現象。
火災旋風は、都市中心部では、ビル風によって発生する可能性が指摘されている。
個々に発生した火災が空気(酸素)を消費し、火災の発生していない周囲から空気を取り込むことで、局地的な上昇気流が生じる。

火柱を水口の周囲に発したのは、炎を集める呼び水にする為だ。

これによって、燃焼している中心部分から熱された空気が上層へ吐き出され、それが炎をともなった旋風になる。
高温のガスや炎を吸い込み呼吸器を損傷したことによる窒息死が多く見られる。

火炎竜巻の中にある街灯や車の鉄板が、まるで飴細工のように溶けていく。
それもそうだろう。温度は優に鉄の沸点の2750 ℃をも超える超々高温。
熱風の速度は秒速百メートル以上の炎の竜巻である。
まさに、「煉獄」の技名に名前負けしない火炎地獄。
発動に条件と時間が在るが
喰らえば炭化した死体になるだけではすまない。
跡形も残らず焼き尽くされて文字通り灰となって火炎竜巻に吹き散らされる。

自然現象と違い、酸素のある方向に移動しない。
火柱、いや火炎竜巻は真っ直ぐ上方に伸びている。
まるで火災を研究する実験室で人工的に作られた火柱か
あるいはRPGの火炎魔法のように現実味の無い、整った形の火炎だ。
だがそれゆえに恐ろしい、この世の物とは思えない紅く熱い炎。
熱を収束させて威力を上げるのと……周囲を巻き込まない為に。

それでも、火傷を負うほどではないにしろ
響やレオーネ達に吹きつける余波の熱風は熱い。
サウナや砂漠の真っ只中に居るような酷く乾いた風だ。

「……蒸すのは勘弁してくれよ」
レオーネや響達に、そういった。

【水口に止めを刺すため『煉獄』を放つ】
43レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/03(木) 23:53:39 0
>>42-42

「――終わったな……」

立ち上る不自然な炎に照らされながら、私は独りごちた。
辺りには未だ乾いた風が吹き付けている。
リビア砂漠に吹いていた風もこのような感じだったな……。
この風を昔リビアに行った時に体験した事が在る事を思い出した。

粛清部隊――水口の手により、消えなくても良い命が奪われてしまった。
結局の所、機関も粛清部隊という存在を持て余しているのだ。

それは彼らを束ねているのがファーストナンバーであるからに他ならない。
あの女を止めなければ……。これと同じ惨劇が繰り広げられてしまうだろう。
あぁ、だがその前に――

「ひかる……。約束を果たそう。その子を連れてきなさい」

ひかるは大事そうに半身の無い猫を抱きかかえ、私の側へと歩いてくる。
この猫の墓を建てる事。それがひかると交わした約束。
だが、このまま埋めるのは忍びない。
魂と呼べる物が在るとするならば、それを肉体という檻から解放してやるべきだろう。
私は落ちていたスーツのジャケットを拾うと、それで猫を包んでやった。
……どうせこのジャケットはもう着れないからな。

ひかるから猫を受取ると、伊賀、そして銀水苑達に近寄る。
初めてみる銀水苑は、私の予想していた人物像とは違い、
何処か仄暗さを感じさせる青年であった。
彼はこの面子の中で一番まともそうだな。
無論ひかるを除いて、だが。

「No.25、君のお陰でこれ以上無駄な犠牲が増えずに済んだ。
 あそこに居る女の子共々礼を言うよ、ありがとう。
 済まないが、もう一仕事頼まれてはくれないか?
 君が良識の在る人間だと見込んでの事だ。
 実は――」

銀水苑にひかるとの約束の件を伝え、猫をそっと彼の前に置く。
思えば、この猫も憐れだな。人間同士のくだらない争いに巻き込まれて命を落とすとは……。
いや止めよう、感傷に浸るのは……。

「それと……伊賀響。よくやった、流石だ。
 お前と戦う時は苦戦しそうだよ」

――私は微かに笑うと、今回最大の功労者を労った。

【レオーネ:現在地 市街地中央区】
【銀水苑に猫の火葬を頼む】
44桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/12/04(金) 04:06:12 0
>>39>>40
海道のまさかの攻勢により、桐北と池上は窮地を脱した。
しかし、桐北は自分の身を省みず救出してくれた恩人に礼を言うどころか、
依然として険しい表情のまま、怒鳴るように声をあげていた。

「海道……どうして、どうして今のチャンスに逃げなかったんだ……!
どうして俺を助けた……! このままじゃ、お前も死ぬぞ……!」

鮮やかともいえる海道の決死の速攻劇。
しかし、それで敵が怯んだわけでも、倒されたわけでもない。
むしろ「まさか」を起こされたことで、次からは慢心を捨てて襲い掛かってくるだろう。
恐らく、逃げるチャンスはもうない。
結果的とはいえ、機関との闘いとは無関係であるはずの海道を巻き込み、
挙句、本来なら助けるべき人間に助けられてしまったせいで
彼にみすみす逃げる機を失わせてしまった。桐北は自分自身が何とも情けなかった。

「クソッ……!」

桐北は唇を噛み、海道に向き直った。
と、その時──池上を抱えている海道の腕に、何かが直撃した。
それは切り落とされた池上の左腕。
手の指が、まるで楔と化すような勢いで放たれ、腕に突き刺さったのだ。
海道は思わず抱えていた腕を離し、支えを失った池上は地上へと落下した。
体力を使い果たしてしまったのか、それとももう気を失ってしまっているのか、
池上は倒れたまま動こうとしない。

「──どうする? この灰色頭を助けに、もう一度向かってくるか?」

残った最後のパンドラが動かない池上に悠々と歩み寄り、
空にいる桐北達にニヤッと笑みを向けた。

「当然、そうするだろう?
自分の身より他人の身を案ずる貴様達なら、当然なァ……。クックックックック……」
「……!」

パンドラの言葉が、一瞬桐北の体を硬直させた。
ただ、彼の言葉は相手を挑発するものではあったが、
桐北はそれに刺激されたわけではなかった。
自分の中で何かが氷解したような、そんな感覚を受けていたのだ。

「……海道、一つ頼みを聞いてくれないか?」

一つの間を置いた後、桐北は視線をパンドラから海道に移して、語りかけた。
その声はこれまでの怯えや悲愴といったものが感じられるのとは違い、
どこか何かを悟ったような、冷静さを感じるものであった。
45桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/12/04(金) 04:12:20 0
「お前は池上さんを連れて国崎薬局という薬局へ行ってくれ。
そこには俺の仲間がいるから、怪我も手当てしてもらえるはずだ。
俺は……ここであいつを食い止める……!」

それを無謀と思ったのか、海道は桐北を止めようとするが、
桐北はそれを聞かず、言葉を続けた。

「俺……解った気がするんだ。俺は闘いが嫌だったけど、それは自分が傷付くからだと思ってた。
けど、そうじゃないんだ。本当は目の前で他人が傷付いていくのを見たくなかったんだ……。
俺がこの場所に来なければ、お前も池上さんもこの闘いに巻き込まれることはなかった。
だから……だからこの闘いのケリは、俺一人でつけなきゃいけないんだ……!」
「おい、ゴチャゴチャ言ってねぇでとっとと来たらどうだ! それとも、こちらから行こうか!?」
「──! 海道、ごめん!」

桐北は腕を振り解き、地面に降り立った。
それを見たパンドラは再び笑みを浮かべて桐北に歩み寄っていくが、
その途中で彼は急に顔を曇らせた。
桐北の眼が、先程までの光の失ったそれではなく、鋭い光を放っていたからだ。

「……」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったか、
パンドラが咄嗟に足を止めると、それを見計らったように桐北が口を開いた。

「あんた、本体だろ? 俺達が闘ってる最中、遠くから一人静観してたのを知ってるよ。
あんたを倒せばこの闘いは終わる、違うかい?」

一瞬、呆気にとられる顔をするパンドラ。
しかし、直ぐに口元を吊り上げ、笑みを零して言った。

「倒せれば、な……。         コピー    オレ
だが、貴様は勘違いしている。──分身など、本体が存在する限りいくらでも作れるんだよ。
──このようにな!」

瞬間、パンドラの体の線がブレたかと思うと、
パンドラが残像でも作ったかのように、両脇に彼と全く同じ人間が二人も現れるのだった。

「いいことを教えてやろう。それぞれの分身の力は、その数の多さと共に落ちていく。
先程は10体程だったが、あれらが持つ力は、本来が持つ俺の力には到底及ばん。
だが、俺本来の実力を持つ分身を作り出すこともできる。その数は、二つ……」
「……」
「つまり、これからお前は、本来の実力を持つ俺を三人も相手にしなければならんということだ。
それでも、お前はそんな眼をしていられるかな? フフフフフ……」

一瞬戸惑うような顔をしながらも、桐北は直ぐにキッとパンドラに眼光をぶつけた。
                          オマエラ
「……覚悟は決めたんだ。俺は闘う! もう機関には! 誰一人殺させやしない!!」
46桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/12/04(金) 04:15:10 0
桐北は叫び、あの日、塚原ひかるという女性から貰った
『トルマリン』という石を、ぎゅっと握り締めた。

(一人ひとりと闘ってたんじゃ、俺に勝ち目はない……!
三人を同時に倒せるくらいの力が……圧倒的な力が今は必要なんだ……!)
              エネルギー
握り締めた石に、体中の雷が集まっていく。
そしてやがて石は強烈なスパークを発し始めた。
それは先程の『放電』とは比較にならない力強さだが、
この力では、まだ倒せない。少なくとも桐北はそう思っていた。

(まだだ……! もっと……もっとだ……!!)

更に雷が集まり、火花が辺りの木々にまで広がって枝葉を焦がしていく。
それでもまだ桐北は雷を集める。足の先から頭のてっぺんまでの隅々から。
だが、予想だにしないエネルギーを目にして、
今まで無言でただ目を見張っていたパンドラ達が、そこで動いた。

「──ハッ!
フフ、驚きだ……まさか貴様にそれだのパワーをコントロールする力があったとはな……!」

パンドラが顎をしゃくると、それを合図に分身二体が、土を蹴って勢いよく突進を開始した。
この時、既に異能力の規定量を全てトルマリンに集めていた桐北だったが、
彼はまだ異能力の集約に努めていた。
心の中で、まだだ──もっとだ──と、念仏のように唱えながら。

(くそっ……くそうっ! こんなんじゃダメなんだよ!!
わかるんだ……こんなんじゃまだ倒せないって……ッ!!
頼む! もっと力を! 正しいことに使うんだ! いいだろ! もっと出てくれよ!!
俺は……俺は特殊な異能者なんだろ!? その力を出してくれよッ……!!)

心の叫びも規定量という壁の前には空しく響くだけ。
気がつけば、すぐに目の前にまで分身が迫っていた。
殺意を滾らせた分身の形相を目にした桐北は、無意識の内に想いを爆発させた。

「──トルマリン! お前は『希望』の石なんだろッ!?
俺に──俺達に──希望を与えてくれェェェーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

刹那──異変が起きた。
桐北の体から枯渇したはずの異能力が溢れ出し、
それが激流となって一気にトルマリンに押し寄せたのだ。
トルマリンは白い閃光を放ち、それは正に光の速さで高台一帯を飲み込んだ──。
                    トール・ハンマー
【桐北 修貴:『覚醒』。極大化した『神撃』を放つ】
47銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/04(金) 22:18:07 0
>>43

「その猫を荼毘に伏すのですね……。わかりました」
ジャケットに大切に包まれた猫の遺骸を、
レオーネが俺の前に置いた。
果たすべき勤めを成す事にしよう。
猫の遺体は静かに燃え上がる。
その仕事は、速やかで、かつ厳かな見事なものだった。
かつて、聖なる炎を御した一族の名残かもしれない。
そして機連送で自らの副官に連絡する
「更紗、忙しい所すまんが花束を頼む。座標は此処で良い」
程なく、虚空から花束が静かに舞い降りてきた。
統治はそれを捉えると、そっと荼毘に付される猫の遺骸の元に置いた。
猫と、この街で戦いに巻き込まれて死んだ人間の為に
統治は静かに黙祷を捧げた。

そしてそれが終わった後、ふと、口ずさんだ。

「So am I still waiting, For this world to stop hating」
(俺はひたすら待ち続ける この世の憎しみが消えるのを)
「Can't find a good reason. Can't find hope to believe in」
(けど未だ見つからない 全人類が信じるべき道理なんか)

「――流石に、酷く疲れましたよ……
今日一日で、何度荼毘と弔いの炎を灯した事か
関係の無い人間も、罪の無い動物も、沢山死んだ」

統治の顔には深い疲労と悲哀が刻まれていた。

「俺はまだ良いです。裏世界に生きるものとして、殺し殺される覚悟はできていますから。
だけど、こうやって関係の無い者や子供が死ぬのは何時まで立ってもやりきれない……」

統治は片膝を地面に突き手を祈りの形に組んで顔を伏せた。
なんて弱々しく、それ以上に悲しい背なのだろう
超一流の始末屋として名を馳せる強者にして戦士の、人としての一面。
それはまるで、決して許されぬ自己の罪を知り神に懺悔を乞う咎人の用だった。
【レオーネの頼みを受け、猫を火葬に付したあと、犠牲になった者の為に祈る】
48海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/06(日) 18:26:45 0
「海道……どうして、どうして今のチャンスに逃げなかったんだ……!
どうして俺を助けた……! このままじゃ、お前も死ぬぞ……!」

俺は決死の思いで桐北と池上を救出した。
桐北の言葉に軽いショックを受ける。
桐北の言うことも分かる。
だがそうしなければ全員死んでいただろうと俺は思う。

その時、池上を抱えている海道の腕に、何かが直撃した。

「ぐあっ!!」

それは切り落とされた池上の左腕。
手の指が、まるで楔と化すような勢いで放たれ、池上を支えていた腕に突き刺り、池上を地上に落としてしまう。
落ちた池上は気を失っているのか、倒れたまま動く気配が無い。

「──どうする? この灰色頭を助けに、もう一度向かってくるか?」

残った最後のパンドラが動かない池上に悠々と歩み寄り、
空にいる桐北達にニヤッと笑みを向けた。

「当然、そうするだろう?
自分の身より他人の身を案ずる貴様達なら、当然なァ……。クックックックック……」
「……!」

パンドラの言葉が自身に突き刺さるように響いてくる。
そしてその言葉にパンドラを怒らせてしまったと確信し、思考が停止する。
助けなければ良かったのか、それとも助ける前にパンドラに攻撃していればよかったのか。
そんな思考の渦にとらわれかけた時、桐北が話しかける。

「……海道、一つ頼みを聞いてくれないか?」

頼みだって?今何をしろというのだ。
ただ逃げろと言われても絶対に俺は動かないだろう。
だが桐北の表情は、死ぬ覚悟を決めた、というよりは冷静に考えた結果のように思える。

「お前は池上さんを連れて国崎薬局という薬局へ行ってくれ。
そこには俺の仲間がいるから、怪我も手当てしてもらえるはずだ。
俺は……ここであいつを食い止める……!」
「桐北!無謀すぎ「俺……解った気がするんだ。俺は闘いが嫌だったけど、それは自分が傷付くからだと思ってた。
けど、そうじゃないんだ。本当は目の前で他人が傷付いていくのを見たくなかったんだ……。
俺がこの場所に来なければ、お前も池上さんもこの闘いに巻き込まれることはなかった。
だから……だからこの闘いのケリは、俺一人でつけなきゃいけないんだ……!」
49海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/06(日) 18:27:26 0
俺は桐北を止めようとするが、途中で遮られ、その覚悟を見せた。

「おい、ゴチャゴチャ言ってねぇでとっとと来たらどうだ! それとも、こちらから行こうか!?」
「──! 海道、ごめん!」

話をしているうちにパンドラの怒号が響き渡る。
その声に桐北は再び俺の腕を振り解き地面に降り立つ。
それを見たパンドラは再び笑みを浮かべ桐北に歩み寄っていくが、
その途中で彼は急に顔を曇らせた。
桐北の眼が、先程までの光の失ったそれではなく、鋭い光を放っていたからだ。

「……」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったか、
パンドラが咄嗟に足を止めると、それを見計らったように桐北が口を開いた。

「あんた、本体だろ? 俺達が闘ってる最中、遠くから一人静観してたのを知ってるよ。
あんたを倒せばこの闘いは終わる、違うかい?」

一瞬、呆気にとられる顔をするパンドラ。
しかし、直ぐに口元を吊り上げ、笑みを零して言った。

「倒せれば、な……。         コピー    オレ
だが、貴様は勘違いしている。──分身など、本体が存在する限りいくらでも作れるんだよ。
──このようにな!」

その言葉と共に、パンドラが動いたおかげで、パンドラから少し離れた池上を救出する。
そして空に駆け上がりパンドラを見るとその数は3人になっていた。
そのうちの一人がこちらを見るが、興味を失ったようにいっそうし、桐北に向かい嘲笑う。

「いいことを教えてやろう。それぞれの分身の力は、その数の多さと共に落ちていく。
先程は10体程だったが、あれらが持つ力は、本来が持つ俺の力には到底及ばん。
だが、俺本来の実力を持つ分身を作り出すこともできる。その数は、二つ……」
「……」
「つまり、これからお前は、本来の実力を持つ俺を三人も相手にしなければならんということだ。
それでも、お前はそんな眼をしていられるかな? フフフフフ……」

一瞬戸惑うような顔をしながらも、桐北は直ぐにキッとパンドラに眼光をぶつけた。
                          オマエラ
「……覚悟は決めたんだ。俺は闘う! もう機関には! 誰一人殺させやしない!!」

パンドラの言葉に逃げずに一緒に戦うべきかと考えたが、
その直後の桐北の言葉に桐北の生還を祈りながら飛び去る。

(一刻も早く国崎薬局へ!そして桐北たちの仲間を連れて戻る!待っていろ桐北!!)

【海道 翔:池上を連れ国崎薬局へ向かう】
50伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2009/12/06(日) 21:56:34 0
51パンドラ ◆vpAT/EK2TU :2009/12/09(水) 12:35:28 0
最初に作り出した分身10体。
3体池上に倒され、池上を倒した。
そして地上に降りてきた桐北を痛めつけ、海道に攻撃をしようとし飛び掛る。
だが残っていた分身たちは海道の決死の突撃により倒れた。

池上と桐北を回収して空を飛ぶ海道に向かって、落ちていた池上の腕を投げ飛ばす。
その腕は海道の腕に突き刺さり、海道は池上を取り落としてしまう。

そして落ちた池上に歩み寄り、

「──どうする? この灰色頭を助けに、もう一度向かってくるか?」

挑発する。

「当然、そうするだろう?
自分の身より他人の身を案ずる貴様達なら、当然なァ……。クックックックック……」
「……!」

そう言った後、空に浮いている海道たちが話し始める。
俺は少し時間を与えてやることにする。
来なければその程度の奴だったというだけ。池上を殺しまた適当に強い異能力者を探し回る。
来るならもっとこの戦いを楽しめる。

「(そろそろか)、おい、ゴチャゴチャ言ってねぇでとっとと来たらどうだ! それとも、こちらから行こうか!?」
「──! 海道、ごめん!」

俺がもう一度挑発すると、桐北が海道の腕を振り解き地面に降り立った。
それを見た俺は、まだ楽しめそうだ、と思い笑みを浮かべながら桐北に歩み寄る。
だがその途中、桐北の鋭い光を放つ眼に気付く。
そして足を止めると

「あんた、本体だろ? 俺達が闘ってる最中、遠くから一人静観してたのを知ってるよ。
あんたを倒せばこの闘いは終わる、違うかい?」

ほう、分かっているじゃないか。だがな

「倒せれば、な……。         コピー    オレ
だが、貴様は勘違いしている。──分身など、本体が存在する限りいくらでも作れるんだよ。
──このようにな!」

2体の分身を作り出す。
52パンドラ ◆vpAT/EK2TU :2009/12/09(水) 12:36:09 0
「いいことを教えてやろう。それぞれの分身の力は、その数の多さと共に落ちていく。
先程は10体程だったが、あれらが持つ力は、本来が持つ俺の力には到底及ばん。
だが、俺本来の実力を持つ分身を作り出すこともできる。その数は、二つ……」
「……」
「つまり、これからお前は、本来の実力を持つ俺を三人も相手にしなければならんということだ。
それでも、お前はそんな眼をしていられるかな? フフフフフ……」

一瞬戸惑うような顔をしながらも、桐北は直ぐにキッとパンドラに眼光をぶつけた。
                          オマエラ
「……覚悟は決めたんだ。俺は闘う! もう機関には! 誰一人殺させやしない!!」

桐北がそう言ったとき、池上を掻っ攫う海道がいた。
何だ、お前は逃げるのか。
そう思い、海道に対する興味をなくす。そして桐北を見、嘲う。

だがそれを見ていなかったのか、桐北は何かを掴み、集中していく。
そしてその何かがスパークし始め、火花が周りの木々に広がり枝葉を焦がしていく。

「──ハッ!
フフ、驚きだ……まさか貴様にそれだのパワーをコントロールする力があったとはな……!」

そして分身に殺れと指示を出す。
だがその動きに気付いていないのか、桐北はまだ集中し続ける。
そして殺意を滾らせた分身の形相を目にした桐北は叫び上げる。

「──トルマリン! お前は『希望』の石なんだろッ!?
俺に──俺達に──希望を与えてくれェェェーーーーーーーーーーーーッ!!!!」

刹那──異変が起きた。
桐北の体から枯渇したはずの異能力が溢れ出し、
それが激流となって一気にトルマリンに押し寄せたのだ。
トルマリンは白い閃光を放ち、それは正に光の速さで高台一帯を飲み込んだ──。
53パンドラ ◆vpAT/EK2TU :2009/12/09(水) 12:37:49 0
その閃光がパンドラたちを焼き尽くす。
先頭にいた分身2体はすぐに燃え尽き、消える。
だがその影にいたおかげか、本体のパンドラは片腕が肩から炭化し、崩れ落ちるにとどまった。
だがその威力が高かったためか肩膝を付く。

「クックックックックックックック!クハハハハハハハハ!!
楽しかったぞ貴様!名をなんと言う!」
「桐北修貴」
「そうか」

パンドラがそう言った瞬間、何かが飛んできてパンドラの首に直撃する。
桐北がその方向を見ると、焼け残った木の枝の上にいたそれを見つけた。
そこにはパンドラが存在した。

「安心していいぞ、虫の息の貴様を殺しても面白くない。
次に会ったときは殺すがな。
では、また殺しあおう!」

【パンドラ:高台を離れる】
54レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/11(金) 00:17:30 0
>>47>>50

>「――流石に、酷く疲れましたよ……
>今日一日で、何度荼毘と弔いの炎を灯した事か
>関係の無い人間も、罪の無い動物も、沢山死んだ」

そうだなとしか良い様の無い自分に腹が立った。
いや、腹を立たせては駄目なのか。私は機関のファーストナンバー……。
このような事で一々感傷的になっては勤まらん。
だが……。それでも――

>「俺はまだ良いです。裏世界に生きるものとして、殺し殺される覚悟はできていますから。
>だけど、こうやって関係の無い者や子供が死ぬのは何時まで立ってもやりきれない……」

>「ええ…、全くだわ…」

私の目指す世界、それは誰しもが平等で夢を、未来を語り合える世界。
国境も文化の違いも、地平線の彼方まで平らな世界。
確かに平和には犠牲が必要だ。だが、粛清部隊のやっている事は不必要な犠牲を出すばかり。
それは私の理想を汚す行為であり、見過ごす訳にはいかん。

>「ところでレオーネ…」

伊賀がくるりと反転し、私を見据える。どうもこの女の目はいけ好かないな……。

>「あなたは粛清部隊を、いえ、外道院をこのままにしておくつもりなの?」

伊賀のストレートな問いに、私は無言で機連送を取り出した。
晴れていれば深紅のボディが陽光を受けて輝くのだろうが、
今この分厚い雲に覆われた空からは太陽の光すらも見えない。

遠くから聞こえてくるヘリの音、人々のざわめき、そして未だ燻る弔いの炎の音……。
そんな中に機連送の操作音が混ざっていく……。

外道院……。私の理想の邪魔をするとはな……。
何時かこのような日が来るとは思っていたよ。
今日はっきりした。お前は私の理想の障害になる。
ここいらで手を打っておくべきだろう。
私はアドレス帳に登録されていたファーストナンバーの番号から外道院の番号を選んで通話ボタンを押した。

伊賀と視線が交わる。これが答えだよ、伊賀響……。
邪魔者は許しはしない。全力で排除する。

「世襲制を超合理的組織の中に組み込んで在る事自体が間違いなのだよ。
 彼らは長束公誠と共に滅びるべきだったのだ」

暫しパルス音を聞く羽目になったが、外道院は以外にも素直に電話を取った。

「なんじゃ……。折角美容の為にエステをしていたというのに……」

「エステをしていた……か。それは失礼をした。
 お前にそんな女性らしらが在ったとは意外だったよ。
 いや、失敬……」

私の嫌味に外道院は ほほほほと短く嘲笑する。

「――冗談じゃ。妾の美しさは完璧じゃからな。ほほほほほ……。
 して、何ぞ用かえ?」
55レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/11(金) 00:18:30 0
>>54

「お前に忠告しておこうと思ってな。今この街では機関が異能者の能力査定を行っている。
 それによる犠牲は必要な物だ。犠牲者には哀悼の意を表する。
 だが、お前とお前の部下達は如何だ? 明らかに機関の作戦行動を逸脱している!」

声を荒げてみたが、一向に意に介した様子は無く――
むしろ、外道院は受話器越しにニヤリと笑ったような気がした。

「だが、それはお主が今までやってきた事と大して変わらんのではないかえ?
 その場で聞き耳を立てている伊賀と銀水苑に、これまで自分がやって来た事を教えてやっては如何じゃ?

 きっと妾と同じ穴の狢と表するぞえ、ほほほほほ……」

クッ……言わせておけば……! 私と貴様が同じだと?
私の目的はあくまでも世界平和だ。奴はその真逆――
世界を混沌に陥れる元凶そのものではないか!

「……? ちょっと待て。
 何故、私が今一人ではない事を知っている?

 ――外道院、貴様我々の姿が見える位置に居るな?」

おっと、失言じゃったと茶化す外道院を余所に、私は目で奴の居場所を探ってみる。

「ともかく……妾もお主に話が在る。
 レオーネ、塚原ひかるをこちらへ渡せ。
 なに、タダでとは言わん。代わりに妾の"戦利品"をくれてやろう。

 ちょっと待っておれ……」

ローター音を響かせ、一機のヘリがビルの合間を縫うように姿を現した。
先程から聞こえていたヘリの音はこれが原因だったのか……!
灰色と茶色の迷彩色、俗にオースカムデザートカラーと呼ばれる迷彩を施されたそれは、
目算18メートル程の大型のヘリであった。

「Mi-24……!?」

旧ソ連が開発した兵員輸送を主目的とした多目的型ヘリコプターMi-24。
西側でのコードネームであるハインドと呼んだ方が解かり易いだろうか?
そいつは我々の頭上凡そ10メートル程で機体を横にしてホバリングすると、
ハッチが開かれ、奴が…外道院が姿を現した。

「絶景、絶景――。宛ら温泉郷のようじゃの、ほほほほほほ……」

トレードマークの目の縁取りは無く、うざったらしい程の長髪も綺麗に一本に纏められていた。
以前見た丈の短い袴に巫女装束ではなく、緑黄色の和服を着用している。
素足が出ているが、これは最初からそういう風に作られているのかも知れない。
極彩色の着物は太陽の見えない今のこの状況では取分け目立つ格好であった。

「――外道院ッ!」

私は機連送を耳から話して直接奴に叫びを上げた。
銀水苑が犠牲者に捧げた手向けの一輪の花を、
ヘリから生み出される風はまるで邪魔だと言わんばかりに吹き飛ばしていく。

――私が叫んだ理由は、それが無性に腹が立ったからだった。

【レオーネ:現在地 市街地中央区】
【No.5外道院柚鬼 登場】
56銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/11(金) 21:04:57 0
>>54-55

ヘリから生み出される烈風は、手向けの花を吹き飛ばした。
戦ってきた者達の思いを無碍にする様に。
人知れず統治のギリ、と奥歯をかみ締める音がした。
(まだ機ではない、堪えろ……耐えるんだ)
現れた外道院をヘリごと異能の炎で撃ち落したくなる衝動を抑えた。
事故に見せかけてハインドのテールローターを爆破しようかとも
一瞬考えたがその思考を打ち消す。
(例え今仕掛けたところで奴は仕留められん……)
鳳旋、姫野、クローディア、オズワルド、粛清部隊と水口。
連戦をこなしコンディションはお世辞にも良好とは言えない。

「……この惨劇郷を温泉郷と評するとは相変わらず良い趣味をしていらっしゃる。
俺とレオーネどのに掛かって来た無礼者を手打ちにしましたが問題ないでしょう?
弱卒の兵は何れ死ぬ定め。貴方にも必要ないでしょう」

せめて皮肉を飛ばしてやるが、外道院は艶然たる笑みを一層深めただけだった。
ほほ、言いよるわ。掃除ご苦労じゃな。そう言っている。
奴の性格は良く知っている。味方の犠牲に躊躇する奴じゃない。
そう、敵の悲鳴も好きだが味方の苦悶する声も大好きな奴だからな。

体力、メタトロン共に万全とは程遠い。
高低差とメタトロンの不足。
例え攻撃したとしてもファーストナンバーを打倒できる可能性はゼロに近い。
こんな時こそ冷静になれ、血管に氷を流せ。
熱き煉獄の炎を白銀の雪解け水の如き冷徹さを持って扱うのだ。
私情を強引に精神力でねじ伏せ、努めて冷静に、今すべき事だけをする。

「レオーネ様……相手のペースに乗ってはいけません。
相手の神経を逆なでする言動にのっては相手の思う壺です」

ヘリの爆音が響く中、俺はそう言った。

「奴は交渉を持ちかけてきました、今は機を伺うのです」

俺はそうレオーネに進言した。

今は機を伺う――つまり裏返せば。殺るなら確実なタイミングで。だ。

【怒りを堪え、レオーネにペースを握られるなと進言】
57桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/12/12(土) 15:34:02 0
>>53
──轟音。
光に続き、次に高台を包み込んだのは耳を劈く轟音であった。
桐北は何が起こったのか理解できなかった。
自分は今、生きているのか、死んでいるのか……
何も見えない、自分が何をしているのかも分からない、
突然広がったこの白い世界の中では、それさえもあやふやであった。
だが数秒後、彼は自らの生存を確認した。

高台を包んだ光が消えた時、目の前に迫っていたはずのパンドラの姿はなく、
それどころか辺りの木々や地面に広がっていた芝生すら影も形も無く消失していた。

「お……俺がやった……のか……?」

誰かに訊ねるようにそう呟くが、答えは返ってこない。
だが、彼は答えを聞くまでもなく、既に解っていた。
手が雷で形成された一つの槌を握っていることに、気がついていたのだから。
       トール・ハンマー
「そうか……『神撃』……。でも……」

それでも敢えて誰かに訊ねたくなったのは、彼には一つ解せなかったからだろう。
『神撃』……それは桐北が持つ必殺技の中でも最大級の破壊力を持つものだが、
それでもここまで広範囲に渡って物体を消滅させるほど、強力なものではなかった。
明らかに以前とは段違いの威力なのだ。
しかし桐北は、その疑問をすぐに頭から打ち消した。
というよりも、すぐにその答えを見つけて解消した、というのが正しいだろう。
桐北は雷の槌を握る手に目をやり、手を開いた。
それと同時に槌は空気に混ざるように消えたが、手には残ったものがあった。
それはトルマリン。石言葉で『希望』を意味する、あの石だ。

「……ハハ、頼んでみるもんだな。この土壇場で本当に希望を与えてくれるなんて。
お陰で俺は……俺達は……」
「クックックックックックックック!クハハハハハハハハ!!」
「──!」

聞き覚えのある高笑いに、桐北は素早く身構え、声の方向を見た。
と、そこには消滅したはずのパンドラの姿があった。
いや、消滅したのは至近距離まで迫っていた分身。
本体は距離を置いたまま動かなかったので、倒すには至らなかったのだろう。
それでも威力が増した『神撃』は本体の片腕を肩からまるごと消滅させていた。

「楽しかったぞ貴様!名をなんと言う!」

腕を失いながらそれでも未だ笑みを見せるのは余裕の表れか。
だが、もはや桐北には一片の怖気もなかった。

「桐北修貴」

堂々とした態度でそう返す。その眼からは、どこか自信すら感じられた。
だが、その桐北の眼光に気圧されてか、それとも別の理由からか、
パンドラは「また殺しあおう」と言い残すと、素早くその姿を消した。
数秒も経つと、気配もこの場所から完全に消えていた。
58桐北 修貴 ◆ICEMANvW8c :2009/12/12(土) 15:39:24 0
戦闘の終結を迎えて、桐北は疲れたようなホッとしたような溜息をつき、
高台から街を見下ろした。
空はもうすっかり薄暗くなっていたが、街は電灯の光が溢れ明るさを保っている。

「……綺麗だな。……けど、いまいち輝いてる気がしないのは、何でだろうな。
やっぱり、この街を暗い影が覆っているからなんだろうか……?
そう……機関っていう、果てしなく黒い影が……」

言いながら、桐北は自分の中で何かが込み上げてくるのを感じ、
それを抑えるように拳をグッと握り締めた。そして、続けた。

「やっぱ……やるっきゃないんだよな。これ以上、犠牲者を出さない為にも……。
そういうわけで頼むぜ、トルマリン! 今後もお前の力が必要に…………えっ?」

トルマリンを握った手を開いて見て、桐北は思わず声をあげた。
トルマリンが粉々に砕け散っていたのだ。
驚き、呆然とする桐北。しかし、桐北は一度天を見上げ、
再び顔を下ろした時には、既に落ち着いた顔を取り戻していた。
桐北は何となく悟ったのだ。トルマリンはただ希望を与えるだけの不思議な石じゃない。
恐らく、自分の未熟な異能力を、制御する役割も果たしていたのだろう。
そしてその必要がなくなった時、石は役目を終えて自分のもとを去ったのだろうと。

「……これからは自分の力で何とかしろ……ってわけか」

幾多も自分の命を救ってくれた強力なアイテムの損失。
しかし、彼に絶望や悲愴はなかった。逆にキッパリした清々しさをもって、
彼は粉々の石を街に向かって振り撒いた。まるで盛大に弔うかのように。

「今までありがとう……そしてさようなら」

短い、だがはっきりとした言葉を残して、桐北は街に背を向けた。
彼の顔はもう、運命から逃れようと足掻き続けた男のそれではなく、
覚悟を決めて凛とした、戦士のそれとなっていた。

【桐北 修貴:高台→国崎薬局へ。PM6:00】
59海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/15(火) 23:54:31 0
>>49

(一刻も早く国崎薬局へ!そして桐北たちの仲間を連れて戻る!待っていろ桐北!!)

桐北の無事を祈りながら町に向かい飛ぶ。
桐北の言葉「国崎薬局へ向かえ」
国崎薬局?この町にある薬局の一つではあると思う。だが俺はその場所を知らなかった。
それでも高台で待つ桐北と、背中に背負う傷ついた池上を助けるためには探し出さなければいけない。
幸いなことに池上は、自分の切れた腕を凍らせて血が流れないようにしていた。
池上が死ぬことは無いだろう。だが速く見つけないと桐北が危ない。

町に着いてからは他の能力者に見つからないように地面すれすれを飛ぶ。
だが薬局の場所はなかなか見つからない。
そうこうしている内に何故か落ちていた新聞に気をとられる。
そんなものを見ている時間は無い筈なのにそれを拾う。
そして新聞に眼を落とすとそこには

『〇〇市で怪事件多発!
河川敷で鮫騒動と男性2名の変死体
某所で暴力団組員複数の死体
商店街裏路地で2体のミイラ死体と異形の怪物の死体
住宅街で爆発事件
国崎薬局店店主 国崎氏、謎の男達を一挙補導
他にも多数の事件が目撃されており…』

異能力者同士の戦いの被害と思われる事件の記事。
その中に書いてあった国崎薬局の文字、そしてそこの薬局と思われる写真があった。
そしてこの記事を三日前に見たことを思い出し、いつも行っている薬局が国崎薬局であるという事も思い出す。
今居る位置からだと建物を飛び越えたほうが速い場所、人の気配を探り、薬局に向かい一直線に飛ぶ。
60海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/15(火) 23:55:15 0
薬局に着くとシャッターが閉められ、店が開いていなかった。
それでも桐北はここへ向かえと言っていた。俺はシャッターを叩き、大声を出す。

「誰か居ないのか!
桐北と池上さんが大変なんだ!」

何度もそう言いながら叩き続けると、店主が店の横にある家につながるドアから出てくる。

「桐北と池上が大変だ・・・って池上!!」

俺の背負っていた池上を見たのか血相を変えて家に飛び込む。
俺はそのままここに居るよりは入ったほうがいいかと思い、開けっ放しになったドアから入る。

「池上を速く運べ!」

入った瞬間に国崎の怒鳴り声のような指示が聞こえる。
俺はその指示に従おうとして靴を脱ぎ向かおうとするがそこで力が抜け倒れる。
あんなに速く、それもかなり長い間飛び続けたせいだろう。
その時何故か身体が軽くなった。
横を見ると誰かが池上を担ぎ奥へ向かっていた。
そしてその男に言われてきたのか誰かが駆け寄ってくる。

「海道先輩じゃないですか、なぜあなたが?
っと、そんなことを聞いている暇は無いなとりあえず運びます。」

俺のことを知っていたのかその男は俺が池上を担いできたことに疑問を持ったようだ。
だがすぐに俺を起こし肩を貸し池上が運ばれたほうへ向かう。
そこには腕が再生されている池上と、そのそばに何人かの仲間と思われる人たちがいた。

【海道 翔:国崎薬局へ到着、池上が治療される。】
61池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/16(水) 04:21:57 0
>>34>>60
──天井。瞼を開けた池上がまず目にしたもの、それは天井だった。
それもどこか見慣れた天井だ。だが、ここがどこなのか、
彼はまだ意識が朦朧としているせいか直ぐには分からなかった。
(ここは……)

ぼーっと考えていると、ふと横から声がした。

「気がついたようですね。これでもう安心でしょう」
「良かった……。どうだ池上、気分の方は?」

見れば、そこには安堵の表情を浮かべている、籐堂院と織宮がいた。
そこで池上は、やっとここがどこであるかを理解した。

「薬局……。そうか……俺としたことが、あのまま気を失っていたわけか……」
「えぇ、ボロボロになって運ばれて来ましてね。
一時は心音すら弱まっているという危険な状態だったんですよ?」
「だろうな……」

何もかも解っていたというように平然と返す池上。
実際、池上は過去にこれと同じ経験をしており、
ガス欠を起こした時の反動がどのようなものか予め理解していた上での言葉だったが、
そんなことを織宮が知るわけもない。織宮は少々憤然とした顔をして見せた。

「……感謝して下さいよ。左腕も治しておいたんですから」

その織宮の言葉に、池上は布団から腕を出し、それをまじまじと見つめた。
確かにある。千切れたはずの左腕が、確かに治っているのだ。
池上は小さく笑った。かつて織宮について、あの戦場ヶ原に
「お前の失った腕すら治せるかもしれない」と評した自分が、間違ってはいなかったのだと。

「流石だ……。ま、どんな人間でも一つくらいは取り柄がないとな……」

称えながら、それでも最後に厭味を付け加えるのは、彼らしいといえば彼らしい。
それが彼流の愛嬌なのかもしれない。しかし、それを平然と受け流せるほど、
そこに強い耐性のある精神力を持つ者がいるとは限らない。
織宮は直ぐに顔をしかめ、怒りに肩を震わせ始めた。

「こっ、こいつ……こっちが下手に出てりゃいい気に……!」
「ま、まぁまぁ……」

咄嗟に籐堂院が織宮を宥める。
彼は池上をちらっと見ると、「フン!」と鼻息を残して部屋から去っていった。

「……はぁ、どんな時でも変わらないな、君は。
ところで、一体どこで何をしていたんだ? その怪我では当然何かあったんだろう?」
「桐北……?」
「あぁ、君が運ばれてきたその直ぐ後、ひょっこりと戻って来たんだ。
君を運んできたのは海道という少年だが、彼は疲労のせいか何も答えようとしないし、
桐北は僕がもっとしっかりしていれば、としか答えないのでな。何があったかサッパリなんだ」

どうやら煌神は池上達が外へ出た理由も報せてはいないらしい。
だが、それも今となっては好都合である。
何しろ外出の理由からしてあまりに複雑なのだ。説明するのは面倒といえた。
だから池上は真顔で素っ頓狂な返事をして誤魔化して見せた。
62池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/16(水) 04:27:13 0
「……フッた女に呼び出されて、そこで殺られかけた」

子供でも分かるような作り話だが、普段からあまり喜怒哀楽を表に出さない
池上が言うと、嘘か誠かまるで判別がつかなくなってしまうから厄介である。
籐堂院は敢えて追求せず、大げさに呆れて見せるのが精一杯だった。

「……なるほど、君ならありえるかもな」

そうして彼女を煙に巻いたのは良かったが、池上には一つの疑問が残っていた。
それは生きて帰ってきたという桐北や海道のことである。
例え二人がかりだったとしても、二人があの長髪男に勝てるのだろうか?
仮に闘わず逃げたとしても、果たして本当に逃げられただろうか?
答えはどう考えても否なのである。にも関わらず現実は違うのだ。

どういうことなのか……と池上がその乖離の理由を探り始めた時、
突然部屋のドアが大きく開かれた。
現れたのは高山達。そこには桐北や海道、そして目覚めた国崎の姿もあった。
今まで隣の部屋にでもいて、そこで織宮から意識が戻ったことを聞いたのだろう。

「おーっと、ようやく目覚めやがったか。お前をボコボコにしたのは、どこのどちら様で?」

高山がニヤニヤしながら訊ねる。
彼にしてみれば、普段は上から目線で自信が服を来て歩いているような男が
珍しくボロボロになって帰ってきたものだから、からかう気持ちがあったのだろう。
しかし、池上はそんな高山には目もくれず、桐北に視線を合わせた。
桐北は視線を逸らそうとせず静かに口を開いた。

「すいません池上さん。僕のせいでこんなことになってしまって……。
でも、無事で良かった……」
「……」

池上はすぐに違和感に気がついた。
眼が違う、と。これまでの桐北は、常にどこか脆さが感じられた。
しかし、今はそれが感じられないのだ。
(そうか……こいつが……)

池上は全てを理解した気がして、思わず小さく笑みを零した。

「フッ……災い転じて福となす……か。どうやら一皮剥けたらしいな。
もはやお前も無くてはならない戦力……そういうことか」

池上と桐北以外は、「どういう意味だ?」というように、互いに顔を見合わせた。
一瞬、場が静まり返る。すると、リースが話を切り出した。

「……それはそうと、これからどうするかを聞いておきたいんだ。
さっきも俺達で話しあったんだけどさ、具体的な方針までは決まらなくて」

この話題に、籐堂院と高山が続く。

「今日中にビルに再攻勢をかけるのは無理としても、次をいつにするかがな」
「次はどうしても勝たなきゃいけねぇ。その為には、やっぱもう少し戦力を増やすべきだぜ。
そこら辺の異能者を片っ端から捕まえて無理矢理にでも仲間するってのはどうだ?」

そんな高山の提案を、今まで沈黙を守っていた国崎が一笑に付した。
63池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/16(水) 04:33:27 0
「……あのな、もう少し冷静になれって、ブレザーの兄ちゃんよ。
数を揃えたって、そいつらに力がなきゃいねーも同然だろ?
力ある人間を揃えて初めて戦力って呼べんだぜ?」
「そ、そーかもしんねーけど、なりふり構ってられる状況じゃねーだろ?」
「……せめて、天さんがいれば……」

煌神の口から、ぽつりと戦場ヶ原の名が洩れ、彼を知る人間が一斉に押し黙る。
だが、そんな静寂を再び破ったのもリースだった。

「彼だけじゃない。神野さんも宗方さんも神重先生も、今ここにいたらどんなに良かったか。
でも、今彼らのことを考えるのは、俺達にとって前向きとはいえないな……」
「……ああ。今は、忘れた方がいい……」

と続いて七重。分かっていることでも、改めて言われると気落ちするのだろうか、
煌神はシュンとなって口を閉ざした。
彼女が戦場ヶ原に対してどういう想いを抱いていたか知っている分、
一同にも気まずい空気が流れ始めた。
そんな時、今まで場を静観していた池上が、重苦しいムードを払うように声を発した。

「結論から言えば、既に俺は奴らとの最終決戦は明日と決めている。
というよりも……こちらの意思に関係なく、明日は闘わざるをえないだろうよ」

その池上の言葉に、真っ先に国崎が同調する。

「ま……そうだろうな」
「どういうことだよ?」

疑問を呈した高山を一瞥し、国崎は煙の出ないタバコを口にしながら答えた。

「分かんねーか兄ちゃん? この場所も明日までには機関に割れちまうってことだ。
機関が奪られたモンをそのままにしておくと思うか? 奴らの諜報網を甘く見るな。
明日は、黙ってたってここに全戦力を投入してくるだろうぜ」

明日、ビルに攻め込むにせよ、薬局で待機するにせよ、戦闘だけは避けられない──
この街の命運を決する最終決戦が明日に迫っていることを知らされた一同は、
その表情をグッと引き締めた。

「んで……明日はどうするんだ?
薬局で迎え撃つのか、それともビルに攻め込むのか……
どちらにせよ俺は全力で闘うだけだがな!」

手をパンと叩きながらそう意気込む高山。
しかし、池上の回答は、彼がまるで予想していないものだった。

「そうだな、お前達はこの薬局で奴らを迎え撃て。
俺は……その間にビルで城栄と決着をつける……」
「──!!」

驚いたのは高山だけではない。城栄という人物を知る全員が、目を丸くしていた。

【池上 燐介:目覚めて、明日の方針を伝える。傷が全快する】
64池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/16(水) 04:50:23 0
>>61籐堂院の台詞
「……はぁ、どんな時でも変わらないな、君は。
ところで、一体どこで何をしていたんだ? その怪我では当然何かあったんだろう?
桐北は詳しいことを何も話さないが……」
に訂正。
65レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/16(水) 23:38:17 0
>>56

>「レオーネ様……相手のペースに乗ってはいけません。
>相手の神経を逆なでする言動にのっては相手の思う壺です」
外道院を睨みつけていた鋭く切れ長の青い瞳が、今度は銀水苑に向けられる。
勿論、銀水苑自体にレオーネが個人的な感情を抱いている訳ではない。

外道院の登場により若干集中力を乱し始めたレオーネに、銀水苑はそう進言した。
それは十分正論であるし、外道院の狙いはそこに在る事も確かだ。
そして、その事を知らないレオーネではない。
しかしながら、これまで貳名市で起きた無関係の者への暴力はレオーネの善しとする事ではなく、
むしろ嫌悪感を抱いていた。そこへ元凶である外道院柚鬼が姿を現したとあれば、
さしもの彼でも普段どおりの集中力や冷静さを失うという物である。

>「奴は交渉を持ちかけてきました、今は機を伺うのです」

「チィッ! ――そうだな、君の言う通りだ。
 今は……奴の手札を読む必要性が在る」

レオーネは大きく舌打ちをすると、熱しきった頭を冷やしていく。
外道院の事を良く知る人物が二人も居る……。その事は銀水苑やレオーネにとって幸運であったし、
逆を言えば外道院にとって不利な状況でもあった。

それでも計り知れない闇を抱えるのが外道院柚鬼という女である。
ファーストナンバーの中で最も扱い難い女であり、それ故に彼女はこれまで自由にやってこれたのだ。
自分の愉悦の為なら平気で他人を傷つける……。
実際問題、彼女は目的の為ならこの街を死の街に変える事も厭わないだろう。

「何故ひかるを欲しがる! 彼女はヤハウェでも何でも無い、只の異能者だ!
 私の命を狙うのは一向に構わん! だが、無関係の人間を傷つけるのは許さん!」

レオーネの声がヘリの爆音に負けじと響く。
彼も塚原ひかるはヤハウェである事を外道院が察知している事は既に知っている。
しかし、彼は渡す訳には行かないのだ。理想と信念が在るから……。
66レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/16(水) 23:43:46 0
>>65

今ここで交換に応じたらひかるは間違いなく殺されてしまう。
そうなれば、炎魔復活は為し得ず、ただ無念さが残る結末になってしまうだろう。
ひかるは炎魔復活の為の尊い犠牲者であるべきだと捉えるレオーネにはそれが我慢できなかったのだ。

「ほほほほ……。この期に及んで嘘を吐くとはなんとまぁ――馬鹿な奴よのう。
 妾たちが知らぬと思うてか? 炎魔の事ぐらいお前達よりも既に知っておったわ!

 炎魔のミイラの発掘とこの街で今起きている生存競争を併せて考えれば、
 直ぐに答えが導き出せるというものよ」

確かに猿でも解る図式である。レオーネはより一層顔を強張らせた。

「妾としては炎魔復活は遠慮してもらいたいのでな。
 お主の大事な物と物々交換をしたいのじゃ」

後ろから押し出されるように姿を現した人物は、
外道院の言葉通りレオーネの大切な人物――永瀬翠であった。

「――おじさまッ!」

レオーネの姿を見つけた途端、永瀬のその形の良い口から悲痛な声が上がった。
永瀬が姿を見せてから、漸く平常心に戻っていたレオーネの怒りは再びバロメーターを上げていく。
が、先程のように感情を露わにしたりはしなかった。
これは銀水苑の助言が在ったからこそであり、
極めて冷静に対処をしなければ全てが最悪の結末になってしまうとの考えに基づく結果であった。
しかし、それでも――震えるほど堅く握られた彼の拳からは、赤く光る液体が滴っていたのであった。

「先程も申した通り、こちらもタダでとは言わん。
 塚原ひかるとこの娘を交換という事で手を打とう。

 悪い案件では在るまい? ほほほほほ……」

レオーネや銀水苑の怒りなど何処吹く風という様子の外道院であった。
何故ならば、彼女の手札はまだ残されているからだ。
もう一枚、とびきり重要な物が……。

「断る……と言ったとしたら?」

レオーネの問いに、外道院は酷く愉悦を憶えた表情で切り返す。

「この娘は殺す。……しかし、まぁお主は目的の為なら平気で人を傷つける男。
 正直な話、首を縦に振るとは思ってはおらん」

【レオーネ:現在地 市街地中央区】
【永瀬は攫われていた事が判明する】
67銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/17(木) 17:03:05 0
「……言い方は悪いが人質よりも国家の利益と犯罪者の撃破を
優先するってやり方は表世界の他の国の軍隊だってそうだからな
――だがそれを踏まえて……交渉の前に話しておきたいことと聞かせてほしい事がある」
少し考えれば無礼極まりない言動だ。ファーストナンバー達にする事では無い。
統治には考えがあった。
交渉を少しでも解決する糸口を掴む為に、
統治が最も嫌うやり方をしなければならない。

「機関のナンバーとしてではない。一族として、分家として、だ」

統治が苦りきった顔をする。会話に加わる為とはいえ……
絶対にやりたくなかったことである。

「レオーネ様も少しお時間を頂いて構いませんね。重要な話ですから」

「俺達は機関以前から炎魔について知っている。
この国で…最も古い先天性異能者の家系の一つだからな。
それに知らなくても良い事を知った者を始末する役目を負ったものが知らぬわけが無い」

身内に情報を完全に隠し通すことは不可能に近い。
秘密を知った者を始末する事は出来ても、
始末を担う暗殺者や始末屋は、世間から隠すべき情報対象を判別する為に
禁断の情報についても知っている。

「我が一族の口伝にある。異能の力とは魂の炎なり。炎は魔なり。
神話にあるメタトロンの別名は『神の炎』『小さなヤハウェ』
では大きなメタトロンは?……意味深なネーミングだよな。
一つ、いかなる手段を用いても異能を民衆に悟らせる事無かれ。
二つ、決して炎魔を覚醒めさせるべからず
三つ、一と二に反せぬ限り異能を用いて人を害しては成らぬ」

何が言いたい、言いたげな外道院に対し、更に言葉を吐く。

「――俺の家に伝わった炎魔についての伝承は
暴君の湯瀬政康が異能者であること。
『火炎魔人』という二つ名だけだ。
俺は機関が炎魔を使って世界を支配管理するのならそれも良いと思っていた。
炎魔を制御するのはファーストナンバーの能力を使って如何にかするのだろう」

「だがあんたが自らの愉楽すら一時棚上げにしてそれを妨害するのを見て懸念が浮かんだ
しかもこんな人質などという持って回った迂遠なやり方で。
俺の予想道理なら機関に完全に管理された世界でもあんたは殺戮の愉楽を追い求めるはず。
なら、炎魔とはひょっとすると俺が考えている都合の良い神以上の物なのでは無いか?とな
……あんたは今更黴の生えた家訓や口伝を守る奴じゃない。
となれば、炎魔が目覚めれば何かあんたの愉楽の不都合に成るということだ。
外道院の正統伝承者であるあんたは炎魔について恐らく機関の誰よりも詳しいはず
答えてくれ、炎魔の本質とはなんだ?炎魔が目覚めると何が起こる?」

【外道院に、炎魔について尋ねてみる】
68名無しになりきれ:2009/12/17(木) 17:09:24 0
ガノッサ
69海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/19(土) 20:58:31 0
池上が運ばれた部屋の一つ前の部屋に着いてしばらくするとただ一人居た女性が俺に話しかけてきた。

「君は一体?池上は一体どうしたというのだ?池上が傷を負うような相手とはどういった奴なんだ?先ほど店の前で叫んでいた言葉の中に桐北がどうにかなったようなことを言っていたがそれはどうしたんだ?」
「え・・・?」

彼女はいきなり色々な質問をぶつけてきた。
俺は疲れのせいか、その質問の数に動揺し何も答えられなかった。
少しずつ自分の中で噛み砕き、答えを返していこうとする。

「えっと・・・俺の名前は海道〈バタン!〉翔・・・」

がその途中で聞こえてきた扉が開く音に遮られ止まる。
玄関のほうに何人かが向かい、少しすると桐北が入ってきた。
桐北は俺が池上をつれて逃げる前と傷の量は変わっていなかった。
あの後無傷で勝てたことに安心と驚きを覚える。

「桐北、何があったんだ?」
「僕がもっとしっかりしていれば・・・」

桐北に誰かが事情を聞いているが桐北はそれしか答えない。

(違うんだ桐北、俺は逃げるしかできなかった。でもお前は戦えた。その言葉は俺の言葉なんだよ。)

そう落ち込み何かできることが無いかと考え始める。
その時池上のいる部屋から声が上がる。

「気がついたようですね。これでもう安心でしょう」
「良かった……。どうだ池上、気分の方は?」

池上が起きたようだ。
俺が足手まといになったせいで死んでしまったら、と考えていた俺は安心する。

池上は治療をした人物と話をしていた。
言葉は良く聞こえなかったが、その男を怒らせたようで男は部屋から出てくる。
俺を質問攻めした女性が池上に事情を聞くと

「……フッた女に呼び出されて、そこで殺られかけた」

ドアのすぐそばにいた俺にはそんな言葉が聞こえてきた。
俺は一瞬ポカンとする。
確かに髪は長かったが・・・
などと無駄な思考をし掛けて、頭を振り忘れる。
70海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/19(土) 20:59:23 0
中にいた女性はその言葉で納得したようだ。

何人かが部屋から出てきた男に池上が起きたことを聞いたのか、ドアを開け中に入る。
俺も続いて中に入る。

「おーっと、ようやく目覚めやがったか。お前をボコボコにしたのは、どこのどちら様で?」

一人の男がニヤニヤしながら訊ねる。
が池上はそんな男に目もくれず、桐北に視線を合わせる。
桐北は視線を逸らそうとせず静かに口を開いた。

「すいません池上さん。僕のせいでこんなことになってしまって……。
でも、無事で良かった……」
「……」

その言葉に俺も何か言うべきかと思ったが、その前に池上の口が開く。

「フッ……災い転じて福となす……か。どうやら一皮剥けたらしいな。
もはやお前も無くてはならない戦力……そういうことか」

池上はそんな桐北に何かを感じたのかそんなことを言う。
周りの者は何を言っているのか分からないようだった。
俺も少し分からないが。

「……それはそうと、これからどうするかを聞いておきたいんだ。
さっきも俺達で話しあったんだけどさ、具体的な方針までは決まらなくて」

そう言ったのはブロンドの髪をした少年だった。
その髪と顔を見て唯能高校の学生であることを思い出す。確かリースだったか?
そういえばさっき俺を運んでくれたのもそうではないか?
それにしても、方針とはなんに関してのものなのだろうか。

「今日中にビルに再攻勢をかけるのは無理としても、次をいつにするかがな」
「次はどうしても勝たなきゃいけねぇ。その為には、やっぱもう少し戦力を増やすべきだぜ。
そこら辺の異能者を片っ端から捕まえて無理矢理にでも仲間するってのはどうだ?」

そんな男の提案を今まで沈黙を守っていた国崎が一笑に付した。

「……あのな、もう少し冷静になれって、ブレザーの兄ちゃんよ。
数を揃えたって、そいつらに力がなきゃいねーも同然だろ?
力ある人間を揃えて初めて戦力って呼べんだぜ?」
「そ、そーかもしんねーけど、なりふり構ってられる状況じゃねーだろ?」
「……せめて、天さんがいれば……」

神妙な雰囲気に声が出せない。
71海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/19(土) 21:00:17 0
「彼だけじゃない。神野さんも宗方さんも神重先生も、今ここにいたらどんなに良かったか。
でも、今彼らのことを考えるのは、俺達にとって前向きとはいえないな……」
「……ああ。今は、忘れた方がいい……」

リースの言葉に驚く。
神重先生の名前が入っていたからだ。
あの先生のあの重圧も今思えば異能力だったのかもしれない。

「結論から言えば、既に俺は奴らとの最終決戦は明日と決めている。
というよりも……こちらの意思に関係なく、明日は闘わざるをえないだろうよ」

その池上の言葉に、真っ先に国崎が同調する。

「ま……そうだろうな」
「どういうことだよ?」
「分かんねーか兄ちゃん? この場所も明日までには機関に割れちまうってことだ。
機関が奪られたモンをそのままにしておくと思うか? 奴らの諜報網を甘く見るな。
明日は、黙ってたってここに全戦力を投入してくるだろうぜ」

機関?機関ってなんなんだ。
そういえばあの男と戦っている時に池上さんが漏らしていたような・・・

「んで……明日はどうするんだ?
薬局で迎え撃つのか、それともビルに攻め込むのか……
どちらにせよ俺は全力で闘うだけだがな!」

いずれにせよ明日戦いになるのは確かなんだな。
機関というのがまだ分からないけど俺にもできることはあるはずだ。

「そうだな、お前達はこの薬局で奴らを迎え撃て。
俺は……その間にビルで城栄と決着をつける……」
「──!!」

俺には分からなかったが、今ここに居るほとんどの人がそのことを聞いて驚いていた。
今ここで切り出すのもなんだが今言わなければ俺は帰されてしまう。

「機関というのがどんなところか分かりませんが、池上さんを俺が連れて行きます。
俺は空を飛ぶ力があります。無茶をすれば力の消費は変わらず空気の壁に当たってしまうような速度で飛行することも可能です。
城栄という人物は皆さんが驚くぐらい強いのでしょう。そこまでに池上さんが消耗してしまっては勝てる戦いも勝てなくなります。
俺に手伝わせてください、お願いします!!」

それを言った瞬間周りに居た全員が驚きなにかをを言おうとする。

【海道 翔:自分の力を伝え、行かせてほしいと頼み込む】
72レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/22(火) 00:13:55 0
>>67

>「……言い方は悪いが人質よりも国家の利益と犯罪者の撃破を
>優先するってやり方は表世界の他の国の軍隊だってそうだからな
>――だがそれを踏まえて……交渉の前に話しておきたいことと聞かせてほしい事がある」

この状況下では銀水苑の方がレオーネよりも冷静に動いているのは明白であった。
彼は人質のメリットとその条件を飲んだ事によるデメリットを瞬時に把握していたのだ。
無論、レオーネにもそれが解かっているはずだが、
如何にもこの状況では判断力と冷静さを欠いているように見えた。

>「機関のナンバーとしてではない。一族として、分家として、だ」

「ほほう……なんじゃ? 申してみよ」

>「俺達は機関以前から炎魔について知っている。
>この国で…最も古い先天性異能者の家系の一つだからな。
>それに知らなくても良い事を知った者を始末する役目を負ったものが知らぬわけが無い」

情報という物は何処からとも無く滲み出てくる。
そして、その滲み出てくる場所というのは、十中八九身内からなのだ。

>「我が一族の口伝にある。異能の力とは魂の炎なり。炎は魔なり。
>神話にあるメタトロンの別名は『神の炎』『小さなヤハウェ』
>では大きなメタトロンは?……意味深なネーミングだよな。
>一つ、いかなる手段を用いても異能を民衆に悟らせる事無かれ。
>二つ、決して炎魔を覚醒めさせるべからず
>三つ、一と二に反せぬ限り異能を用いて人を害しては成らぬ」

外道院の表情に若干の苛立ち――というより、不機嫌さが見え始めた事に、
銀水苑は臆する事無く話を続ける。

>「――俺の家に伝わった炎魔についての伝承は
>暴君の湯瀬政康が異能者であること。
>『火炎魔人』という二つ名だけだ。
>俺は機関が炎魔を使って世界を支配管理するのならそれも良いと思っていた。
>炎魔を制御するのはファーストナンバーの能力を使って如何にかするのだろう」

炎魔の名前は抹消部隊にも知れ渡っている。
No.1城栄金剛がその総力を挙げて研究をし、復活せしめんとする人物……。
何故中世代の人間のミイラ一つにそこまで躍起になるのか?
その答えは金剛とレオーネが知っている……。

>「だがあんたが自らの愉楽すら一時棚上げにしてそれを妨害するのを見て懸念が浮かんだ
>しかもこんな人質などという持って回った迂遠なやり方で。
>俺の予想道理なら機関に完全に管理された世界でもあんたは殺戮の愉楽を追い求めるはず。
>なら、炎魔とはひょっとすると俺が考えている都合の良い神以上の物なのでは無いか?とな
>……あんたは今更黴の生えた家訓や口伝を守る奴じゃない。
>となれば、炎魔が目覚めれば何かあんたの愉楽の不都合に成るということだ。
>外道院の正統伝承者であるあんたは炎魔について恐らく機関の誰よりも詳しいはず
>答えてくれ、炎魔の本質とはなんだ?炎魔が目覚めると何が起こる?」

銀水苑の言う通りである。外道院柚鬼は形骸化した家訓などに縛られる人物ではない。
そんな物など必要ない。結局の所、厳格な仕来りは彼女を縛る鎖にすらならなかったのだ。
そんな彼女が炎魔欲しさに躍起になっている……。これもある種の違和感を感じざるを得ない行動であった。
73レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/22(火) 00:15:16 0
>>72

「ほほほほ……。なるほど……。これは一本取られたわ。
 これだけの材料で、ようもまぁそれだけの理論を捏ね上げたものじゃ」

不気味さと卑屈さが綯い交ぜになったような形容しがたい笑いを上げる外道院。
彼女の心の底を垣間見る事が出来ないのが残念極まりない。

「分家のお主が知らぬのも無理は無いという物。
 良かろう。知らぬのであらば教えてやろうではないか。
 おっと、レオーネ! ……これは銀水苑が自ら望んだ事なのじゃからな?
 妾は教えたくて教える訳ではないのじゃ。ほほほほ……」

不敵に嘲笑う外道院はふと髪を掻きあげると、彼女の手に若干の雨粒が当たり、砕けた。
未だ降り続く雨は、地獄の炎を消せるのだろうか?

「炎魔自体に大した価値は無い。あれの持つ膨大な異能エネルギーもただの宝の持ち腐れじゃ。
 じゃが、それを自分の物にしてしまう事が出来たならば?
 その者こそ、新しい世界の支配者……いや、創造主になる」

右手を腰に当てた外道院は、尚も講釈を止めない。
レオーネは苦虫を噛み締めたような顔でそれを見ていた。
無理も無い。彼にとっての計画を白日の下にさらけ出すような物なのだから。
当然、肝心な部分は暈かしてはいるものの、相手は外道院家の分家――
答えに辿り付くのも時間の問題であろう。

「そして、現在炎魔の力に一番近い者こそが、No.1城栄金剛なのじゃ。
 問題は彼奴が炎魔の力を持つという事。それだけは何としてでも避けたい。
 なにせ、彼奴めは機関のトップに躍り出る前から妾たち世襲幹部を嫌悪していたからのう。
 そのような男が神ともいえる力を持ったとあらば、
 間違いなく妾たちを排除しようとしてくるじゃろう。

 そこで、妾……そしてNo.3は在る案を思いついた」

ここに来て漸く、外道院と繋がりの在る人物の名前が出てきた。
No.3……長束誠一郎からその座を譲り受けた彼の叔母に当たる人物。
機関を代表する世襲幹部であり、当然ながら外道院家とも繋がりが深い。
そんな彼女が外道院と手を組み姦計を企てるのは、理解できない話ではなかった。

外道院とNo.3が企てた姦計……それは――

「金剛とレオーネを良いように泳がせ、
 復活間近になったら妾たちがそっくりそのまま全て引き継げばよい、とな。
 勿論、金剛たちには屍となって貰うがのう、ほほほほほ!

 金剛の創り出す世界についてはそこのレオーネに聞いてみるが良い。
 もっとも、話してくれるかどうかは別じゃが?」

ここまで良い終えると外道院は両手を胸元で組み、勝ち誇った顔でレオーネを見下した。
お主が何を企んでいようが、妾はそれを叩き潰す……そう言っているように思えて、
レオーネの表情をより一層鋭くさせたのであった。

【外道院の狙いは金剛達の計画を乗っ取る事と判明】
74池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/22(火) 19:13:13 0
>>71
誰も池上に反論する者はいない。
ただし、それはそれぞれが反論の余地がないと判断したからではない。
ここにきて呆れるほど無謀に感じられる方針は、果たして本気なのか
冗談で言っているのか、その判断に若干の迷いが生じてしまった為である。

だが、そうして一同が静まり返る中、突然思い立ったように口を開いた男がいた。
それはこれまで会話の蚊帳の外にいた海道少年であった。

>「機関というのがどんなところか分かりませんが、池上さんを俺が連れて行きます。
>俺は空を飛ぶ力があります。無茶をすれば力の消費は変わらず空気の壁に当たってしまうような速度で飛行することも可能です。
>城栄という人物は皆さんが驚くぐらい強いのでしょう。そこまでに池上さんが消耗してしまっては勝てる戦いも勝てなくなります。
>俺に手伝わせてください、お願いします!!」

池上に続いて、海道の思い掛けない言葉。
思いもよらぬ展開に一同は再び目を丸くしたが、今度はそれに黙ることはなかった。

「俺はいいと思うぜ? 今は一人でも味方が多い方がいいのは確かだし、
どうやら本人も厳しい闘いを覚悟をした上で決めたみたいだしな。皆はどうだ?」

と高山が一同を一瞥する。一同の多くは構わないというように小さく頷いた。
だが、桐北だけは海道だけをジッと見つめて、やがてぽつりと呟いた。

「……海道……お前にはこれ以上、機関に関わって欲しくない……」

短いが、それには確かに桐北の本音が凝縮されていた。
誰でも気の合う友を危険に曝したくはないだろうが、
機関を倒せなければ、そもそも友人を含めた町の全ての人間が危険に曝されるのだから、
人によってはあるいは割り切れたかもしれない。
しかし、目の前で肉親を失った桐北が、もはや友までをも失うかもしれない危険に
理屈では割り切れぬものを感じていたとしても、不思議ではないだろう。

「ボウズ、お前さんが今まで健全な若者の人生を歩んできてることは、ニオイで分かる。
俺やここにいる連中とは違って血の臭い一つしねぇ。羨ましいくらい真っ当な生き方をしてる。
だが、それではこの世界で通用しないことを、自ら吐露してるようなもんだ。
悪いことは言わねぇ。この一件が終わるまで、家で大人しくしてろ」

続いて国崎が言い放つ。それは戦力として計算できないことを真っ向から通告しながら、
健全な人生を大切にしろという彼なりの優しさも混じっているようだった。

「ま……決めるのは本人だ。好きにすりゃいいさ」

周りが何を言おうが、結局、最後は本人の意思に委ねるしかない。
池上の出した至極妥当な結論に、全員は納得せざるを得なかった。
75池上 燐介 ◆ICEMANvW8c :2009/12/22(火) 19:15:52 0
「ただ……海道の認識は、一つ間違っていることがあるな」

続く池上の言葉に海道が怪訝な顔をするが、
池上は彼がそれを何かを訊ねようとする前に、回答を出していた。

「城栄と闘う前に俺が消耗している可能性は、ほとんどないってことさ。
国崎が言っただろ? ここに全戦力を投入してくるってな。
しかし恐らく城栄だけは、一人炎魔のもとにいるはずだ。
自分だけは空の城で堂々と待ち構える、あいつはそんな男だ」
「……あっ」

その時、何かを思い出したように高山と籐堂院が口を開けた。

「どうした?」           ヤツ
「そうだ、お前が言った一人で城栄と闘うって話だ! お前あれは本気か?」
「あぁ、正気とは思えない。いくら何でもキミ一人では無謀という他はないぞ」

二人が特にそう言うのも無理は無い。
彼ら二人は、池上との三人がかりでも城栄には傷一つつけられなかった、
その記憶が生々しく残っていた。正気かと疑われても仕方がないだろう。
しかし池上は表情一つ変えず、その疑問に平然として答えてみせた。
 ヤツ
「城栄と二回闘って解ったことがある。それは、奴には数は関係ないってことさ。
三人だろうと十人だろうと、奴は数を苦にしない。そういう異能力なのさ。
だから思ったんだよ。仮に俺一人で奴に勝てなければ、
例えこの場の全員で一斉にかかっても勝てやしない……とな。
万全の状態の俺が勝てない敵に、確実に勝てるという自信のある奴はいないだろ?」

二人は言葉を失った。
逆転の発想というのか、それとも単なる屁理屈なのか、それは各々の思うところだ。
だが、いずれにしても二人は無謀で非合理の極みと感じていたものが、
彼の言葉一つで単体で挑む方が逆に合理的に感じられてしまったのだ。
もはや反論する者は、ここには一人もいなかった。

「前の二回と違い、次は万全で挑める。白黒ハッキリさせる意味でもいい機会さ。
──さて、俺の話はここまでだが、何か質問は?
なければ俺はもう寝ることにする。疲れてるんでね」

池上はそう言い、布団にゴロンと横になった。

【池上 燐介:話を終える。PM7:00】
76銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2009/12/24(木) 20:23:23 0
>>72
「そうか……そして神の力を手に入れてどんな世界を作るつもりだ?」

銀水苑は冷たく静かに呟いた。
そして、ひかるの方に向き直った。

「炎魔の供儀よ…・・・」

供儀(くぎ)――儀式の供物。即ち生贄の古語。

「お前がその身を差し出せばあの娘は助かるかもしれん」

銀水苑の温度の無い瞳がひかるを見つめた。

「だが誰の生贄になるにせよ……永遠に続く惨劇郷か
No.1が偉大な兄弟(ビッグ・ブラザー)となる「1984」の再現か
どちらか選べと問われれば俺は後者を選ぶ」

統治は問うたものの、二人の描く未来のビジョンを悟っていた。
イギリスの作家ジョージ・オーウェルの小説
思想・言語・結婚などあらゆる市民生活に統制が加えられ
偉大な兄弟(ビッグ・ブラザー)と呼ばれる支配者に支配されるディストピアを描いた作品だ。

「だが、おまえ自身の意思はどうなのだ?
今此処で、ヤハウェとしての意思と覚悟を試されているように思える」

静かな、通る声。まるで、最後の審判の裁き手のような――
遠くを見透かすような発言だった。
目に見えぬ運命の力が彼の背中を押しているような。そんな錯覚を覚えさせる声。
水が人間を清めるというのは人類の共通のモチーフなのだろうか。
東洋で水垢離、あるいは西洋では洗礼。
遥かなる古には神職の家系を勤めた彼の名に冠せられた、能力とは相反する水の字。
いかなる因縁か、彼はメタトロンに導かれた「洗礼者」のように語る。

「妙な気分だ。まるでこの時が来る時を知っていたような既視感を覚える。
俺が生きてきたのを見る限り、自らの手を汚さねば何も変えられぬ。
ファーストナンバー二人の造る未来は己の命をかけるに値するものか?
誰と戦い、誰に従い、誰を救う?
それとも逃げるか。鍵は恐らく君だ。
自分の意思で選べ、後悔しない選択をするがいい」

【ひかるに問いかける】
77城栄 金剛 ◆ICEMANvW8c :2009/12/25(金) 17:58:08 0
機関No.1の称号を持つ男、城栄 金剛──。
彼は今、ナガツカインテリジェンスビル屋上から細長く聳え立つ電波塔、
その最上部である地上108階に位置する、
内部の者でも知る者は一握りしかいないといわれる秘密の研究所にいた。
『炎魔』の復活をその目で確かめる為にである──。
しかし、炎魔の肉体を復元している巨大フラスコを前にした彼の表情は、
憮然としたものだった。

「まんまとヤハウェを逃がしちまうとはな。
全く……怒りを通り越して呆れるぜ。こうも役立たず揃いだったとはよォ!?」

80%のまま復元が止まっているフラスコの前で、城栄は地鳴りのような声をあげた。
体の芯から響くような怒声に、後ろの黒服達は思わず恐縮しきった様子で跪いた。
        ロストナンバー
「……だが、忘却数字同士の衝突があったとは俺にも予想外だった。
まさか奴らに足を引っ張られるとはな……。
欠陥品とはいえ利用価値があると思って飼っておいたのが間違いだったか……!
──いいか、ビルに残っている忘却数字は一人残らず処分しろ! 今日までにだ!」
「──は、ははっ!! ただちに!!」

どんな事情があれ、次にまた彼の意に反する結果となったら、
自分達もどんな目に遭うか分からない……。
黒服達は一礼を済ませると、我先にとその場を後にした。

「ひょっほっほ……短気は損気ですじゃぞ、No.1」
「……北村のジイさんか。あんたがここに足を運ぶとは、随分と珍しいじゃねェか?」

城栄がギロリと睨み付けるように視線を右に移した。
そこはほんの数秒前まで確かに何も無かった空間だ。
しかし、彼がその場所を視認した時には、既に一人の老人がそこに佇んでいた。

「ひょっほっほっほ。炎魔がどれだけ復元されたか気になりましてなぁ?」

老人は先程までの黒服とは違い、城栄に対する畏れ一つ見せずに陽気にパイプをふかしている。
城栄もその態度を咎めようとしない。下級の部下であったら即、消されていることであろう。
この老人がそうはならないのは、実は400年は生きているのではないかと言われている
機関の古株であり、ファーストナンバーの一人だからである。名は、北村 幽幻。

「復活まで後一歩ってところまで漕ぎ着けたんだがな。
イカれたロストナンバーが引き起こしたゴタゴタもあって、後一歩のところで止まっちまった」
「元々、廃人を多く出す計画の被験者ですじゃ。
擬似ヤハウェと化す過程の中で、精神が異常をきたしていても不思議ではありますまい」
「フン……いずれにしろ、もはやパチモンに用は無ェ。
炎魔は本物を捧げねぇと目覚めねぇからな。それを見つけ出すのも時間の問題だ」
「逃げたヤハウェ、のことで? じゃが、果たして再び捕らえることができますかな?」
「……どういうことだ?」

北村はふぅーと煙を吐き出した。

「レオーネの奴と外道院の奴が、どうやら近々ぶつかるらしいんじゃよ。
しかも外道院のバックには長束の影があるようでしてな」
78城栄 金剛 ◆ICEMANvW8c :2009/12/25(金) 18:09:51 0
「フン……あの年増ババアが牙を向くこたぁ初めっから分かってることだ。
そういう意味じゃあのブリキジジイが早々に死んでくれたのは有り難かったが、
逆に夜叉浪の野郎にも死なれちまったのは誤算といや誤算だった。
まぁ、あのババアはレオーネ一人に任しといても問題はねェだろうよ」
「いえ、わしが懸念しておるのは、レオーネと外道院がやり合うこととなると、
果たして残りの戦力であの者共を抑え込めるのかということですじゃ」
「あの者共……? ……あぁ、ヤハウェを連れてった神の娘とその仲間のガキか。
だが、あの程度の実力者など、残りのセカンドナンバーを総動員すりゃ問題は無ェだろ?」
「夜叉浪もゴールドウェルも、そやつらに屠られたと聞いておるんじゃがのぉ」
「なに……?」
「しかも諜報部によれば、あやつらの仲間にはもう数人ほど、
セカンドナンバー上位級かもしくはそれ以上の実力者がおるとか。
しかもヤハウェも彼らの味方となると……」

城栄は一瞬、神妙な顔付きで何かを考えるように押し黙ったが、
次の瞬間には不気味に笑い出していた。

「クックックック……そうか。こりゃあ俺も手足全てを失う覚悟が必要かもしれねェな」

そんな愉悦の途中で、不意に城栄の携帯が鳴った。
城栄の顔はその音が発されると共に自然に引き締まり、
彼は颯爽と携帯を耳に当てた。

「──なんだ?」
「ヤハウェの居場所がわかりました。レーダーが国崎薬局という場所で反応を捉えました。
しかも同時にその場所からヤハウェ以外の複数の反応も見受けられ、
どうやらそれがヤハウェを連れ去った神の娘の一派かと思われます」
「そうか。……ビルにいる他の全ナンバーに伝えておけ。明日、そこを攻め落とす。
どんな犠牲を払おうと一人残らず殺せ! だがヤハウェだけは生かして連れて来い、とな!」
「はっ!」

携帯を仕舞いながら巨大フラスコを見上げた城栄は、横で静かに佇む北村に言った。

「ジイさん、あんたにも明日の攻撃には参加してもらうぜ?」
「ご期待に添える活躍ができますかな? この老体に」
「ククク、あんたが自分の持ち駒を極力温存する喰えねぇ野郎だってことは分かってる。
悪ィがどんな事情があろうとあんたには行ってもらうぜ。この際ツバサの野郎にもな」
「レオーネに外道院をぶつけ、わしとツバサを攻撃部隊に参加させるとなると、
ビルにはファーストナンバーを含めた全ナンバーが居なくなりますなぁ?」
「ケッ! ビルで飼ってたところで働きゃしねぇ癖に良く言うぜ。
少しはナンバーに見合った働きをしろとわざわざケツを叩いてやってんだ。
俺の心配をするなら、まずは俺の優しさに応えてからにして欲しいねェ」
「ひょっほっほっほっほ。これは一本取られましたなぁ。
さて、それでは明日の準備もありますので、わしはこれにて失礼しますじゃ……」

北村はそれだけ言うと、まるで空気に同化するように音も無くその場から消えた。
残された城栄は、フラスコの中で未だ眠り続ける炎魔を見据え、再び笑い始めた。

【城栄 金剛:明日、薬局を攻撃するよう指示を出す】
79海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/26(土) 21:04:29 0
「機関というのがどんなところか分かりませんが、池上さんを俺が連れて行きます。
俺は空を飛ぶ力があります。無茶をすれば力の消費は変わらず空気の壁に当たってしまうような速度で飛行することも可能です。
城栄という人物は皆さんが驚くぐらい強いのでしょう。そこまでに池上さんが消耗してしまっては勝てる戦いも勝てなくなります。
俺に手伝わせてください、お願いします!!」

そんな俺の言葉にずっと黙っていた一同は驚き言葉を発し始める。

「俺はいいと思うぜ? 今は一人でも味方が多い方がいいのは確かだし、
どうやら本人も厳しい闘いを覚悟をした上で決めたみたいだしな。皆はどうだ?」

高山がそう言い、一同に確認を取るように目を向けていく。
一同の多くは構わないというように小さく頷く。
そんな中、桐北は俺のことをじっと見詰め、やがてポツリと呟く。

「……海道……お前にはこれ以上、機関に関わって欲しくない……」

短い言葉だった。
それでも力強く心に響いてくる声だった。
だがその言葉を聞いても、いや、その力強い言葉を聞いたからこそ引けない。
そうして気持ちを強くした俺は桐北の目を見つめ返す。

「ボウズ、お前さんが今まで健全な若者の人生を歩んできてることは、ニオイで分かる。
俺やここにいる連中とは違って血の臭い一つしねぇ。羨ましいくらい真っ当な生き方をしてる。
だが、それではこの世界で通用しないことを、自ら吐露してるようなもんだ。
悪いことは言わねぇ。この一件が終わるまで、家で大人しくしてろ」

続いて国崎が反対意見を言い放つ。
俺はもう関わったんだ。俺はもう見過ごせない。
そう言いたかったがどうしても声が出ない。

「ま……決めるのは本人だ。好きにすりゃいいさ」

そう言ったのは池上だった。
その言葉に反対意見を出していたものたちも諦めるように小さく頷く。

「ただ……海道の認識は、一つ間違っていることがあるな」

続く池上の言葉。
俺はその言葉の意味が分からず、どういうことだ?と言いたげな顔をする。
その顔を見てか、俺が理由を聞く前に答えが返ってきた。
80海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/26(土) 21:05:11 0
「城栄と闘う前に俺が消耗している可能性は、ほとんどないってことさ。
国崎が言っただろ? ここに全戦力を投入してくるってな。
しかし恐らく城栄だけは、一人炎魔のもとにいるはずだ。
自分だけは空の城で堂々と待ち構える、あいつはそんな男だ」
「……あっ」

答えのすぐ後、高山と藤堂院が口を開ける。

「どうした?」           ヤツ
「そうだ、お前が言った一人で城栄と闘うって話だ! お前あれは本気か?」
「あぁ、正気とは思えない。いくら何でもキミ一人では無謀という他はないぞ」

城栄という人物はそこまで強いのか。
やはりその機関という奴のトップなのだろうな。
ならば池上さんは大丈夫と言っていても万が一のことを考えるべきだ。

 ヤツ
「城栄と二回闘って解ったことがある。それは、奴には数は関係ないってことさ。
三人だろうと十人だろうと、奴は数を苦にしない。そういう異能力なのさ。
だから思ったんだよ。仮に俺一人で奴に勝てなければ、
例えこの場の全員で一斉にかかっても勝てやしない……とな。
万全の状態の俺が勝てない敵に、確実に勝てるという自信のある奴はいないだろ?」

池上は表情一つ変えずに高山と藤堂院に返答する。
二人は言葉失ってしまい何の反論も出せなかった。
普通ならばどんな異能力を持っている人間でも数の暴力には勝てないだろう。
それにこちらも異能力者たちの集団なんだ。
数多ある異能力の中には似ているものはあっても同じものは存在しない。
それを覆すような言葉でも、池上が言うと合理的な言葉のように周りに響いた。

「前の二回と違い、次は万全で挑める。白黒ハッキリさせる意味でもいい機会さ。
──さて、俺の話はここまでだが、何か質問は?
なければ俺はもう寝ることにする。疲れてるんでね」

池上はそう言い、布団にゴロンと横になる。
反論の言葉がなくなってしまった一同は、その行動に何もいえずに、全員池上が眠った部屋を出て行く。
81海道 翔 ◆vpAT/EK2TU :2009/12/26(土) 21:06:55 0
「で、結局どうするつもりなんだボウズ」

その、部屋を出た俺を迎えた言葉は、国崎から放たれた。
どうするといっても俺はもう決めている。

「行きますよ、俺は。
池上さんは、道中には何も居ないだろうと言っていましたが、万が一、ここに向かっている機関の人間に出会ったりすれば力を使い消耗してしまうかもしれません。
俺が連れて行けばすぐに戦線離脱できます。」
「そうか。
もう決めたのなら仕方が無い。
ただ、そこまで言うのならばしっかりやれよ」
「はい、必ず生きて帰ります」

答えを告げると国崎は諦めたように承諾の声を上げる。
そしてその後に続いた激励の言葉に返事を返す。

「・・・・・・誰か警戒に起きておいてくれ。
俺ももう寝る」

名前も知らない誰かがそう言ってどこかの部屋に引込んだ。

「そうだな、寝るものは寝ておいた方がいいだろうな。
海道、ボウズはもう寝てろ、池上と一緒に行くんだろう」
「そうします。おやすみなさい」

【海道 翔:明日に備え寝る】
82レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2009/12/27(日) 22:56:08 0
>>76

>「お前がその身を差し出せばあの娘は助かるかもしれん」

「そうね。助かる"かも"しれないわね」

相手はファーストナンバー中最も冷酷な女だ。最悪、二人とも助からないかも知れない。
全く持って分の悪い賭けである。

>「だが、おまえ自身の意思はどうなのだ?
>今此処で、ヤハウェとしての意思と覚悟を試されているように思える」

「わたしは……」

ひかるの顔が俯く。表情には陰りが見受けられる。
長束誠一郎からヤハウェの事を教えられ、自分がこの世で最も価値の在る存在だと知っても、
ひかるはそれに押しつぶされる事が無かったのは、ひとえに若宮こよみの存在が大きかった。
こよみはひかるにとって大切な存在――。同様にレオーネにとっても、永瀬は大切な存在なのだろう。
そうでなければシナゴーグで落ちこぼれだった少女の面倒など見る筈が無い。
だからひかるは、彼の今の心境は痛いほど理解できた。
ヤハウェが神の力を持っているのであれば、人だって救える筈――
それは亡きアンジェラ・エインズワースから長束誠一郎へ、そして塚原ひかるへと受け継がれてきた言葉……。
人は神にはなれない。それほど万能じゃない。だが、他人に手を差し伸べる事は出来る。
シスター・アンジェラの描いた救済を体現する事……。それが、ひかるの――。

>「妙な気分だ。まるでこの時が来る時を知っていたような既視感を覚える。
>俺が生きてきたのを見る限り、自らの手を汚さねば何も変えられぬ。
>ファーストナンバー二人の造る未来は己の命をかけるに値するものか?
>誰と戦い、誰に従い、誰を救う?
>それとも逃げるか。鍵は恐らく君だ。
>自分の意思で選べ、後悔しない選択をするがいい」

「……意思は――。わたしの意志は……」

ひかるが再びその端正な顔を上げた時、その表情からは先程までの陰りは消えていた。
眼光の奥に煌めく光を湛えており、それが自らの歩む道を決めた者の目だと、
見る者に悟らせるには十分であった。
決意の炎が消えぬ内にひかるはヘリの元へと歩み始める。
一歩、また一歩と……。歪みを生み出す元凶の元へと……。

「わたしはNo.1とレオーネの創る未来を肯定する訳じゃないし、
 外道院……貴女の創る未来も肯定する訳でもない」

それでも……。彼女はヤハウェなのだ。悲しい程に……。
ならば、救いを求める人間を救済する事が出来るのであるのならば、
その"行為"こそ、自分がこの世界に生まれた理由なのかも知れない。

「だけど、自分の命と引き換えに誰かが助かるのなら、
 天秤にかけるまでもないわ。

 さぁ、外道院。約束よ、翠ちゃんを放して」

――そんなひかるの決意を小馬鹿にしたように、外道院は鼻で軽くあしらうのであった。

【レオーネ:現在地 市街地中央区】
【塚原ひかる、ヘリに接近中】
83銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/01/03(日) 21:42:46 0
統治は音も無くひかるの後に付いて行く。
一足飛びで射程に入る位置を保ちながら。

「もしお前に誠意と言うものがあるのなら、先ずは人質を放してもらおうか」

銀水苑は冷たく言い放つ。
「さもなくば、玉鋼を異能の炎で鍛え上げた墨染がこの娘を斬る」

その発言に、場の空気が凍りつく。
その真意は、後に続く言葉で明らかになる。

「・・・・・・交渉においてこの程度の条件など定石だろうに。
ひかるがそちらについた瞬間、人質諸共纏めてお前の異能で全滅……
そんな都合のいい展開にはさせない。
お前の異能が人質と俺達を腐らせるのが先か。
俺の小太刀二天一流がこの娘を斬るのが先か試してみても構わんのだぞ」

銀水苑はひかるが先に外道院に渡った時の事を警戒していた。
ひかるは外道院の元に行けば人質が素直に開放されると考えていたのだろう。
だがそれは蜂蜜に付け込んだような甘い考えだ。
目的の物が手に入れば人質の価値が無くなる。
そうなれば、俺達を人質諸共全滅させて終わりだ。
外道院の顔が、興を殺がれた様に歪む。
まんまとひかるを手に入れた後は街の被害など構わず
銀水苑、レオーネ、響もろとも広範囲攻撃で殺害することくらいは企んでいたのだろう。

「それに人質に能力や爆弾を仕掛けているなら解除する事だな……」

只で帰すとは考えにくい。此方に人質が帰還した瞬間
爆弾や能力の媒介を仕掛けていて起爆させられたら全滅する。

「長瀬を離してこちらに歩かせろ、ゆっくりとだ。
人質交換するのなら、同時のタイミング、でだ」

一度だけレオーネたちの方向を振り向き
声を出さず唇の形だけで意思を伝える。
『人質の交換の瞬間、おそらく一瞬だけ外道院が
ひかるの方に意識を向け、油断する好機がある。
そのときは、俺に構わず仕掛けろ』
という内容の。

【全滅の警戒をし交渉に条件を出す】
84レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/01/12(火) 23:44:26 0
>>83

よもやこんな事になろうとは……。

レオーネの心境は複雑であった。
永瀬は彼がシナゴーグで機関エージェントの訓練をしている時に出会って以来、
ずっと目にかけてきた少女だ。
最愛の女性との間に産まれた子供を失っていたレオーネにとって、
永瀬翠という少女はその心の隙間を埋める事の出来るかけがえのない存在であった。

もし仮に交換相手がひかる以外の人間であったならば――
いや、ヤハウェ以外であったならば、レオーネはすぐさま自身の負傷を厭わずに永瀬を救出しに行った事だろう。
だが、その天秤も揺らごうとしている。
ヤハウェ――塚原ひかるはそれ程までに必要な存在なのである。
レオーネの夢見る理想郷の実現の為に……。

しかし、ここに来て事態は急展開を見せ始めた。

>「もしお前に誠意と言うものがあるのなら、先ずは人質を放してもらおうか」
>「さもなくば、玉鋼を異能の炎で鍛え上げた墨染がこの娘を斬る」

銀水苑統治――。外道院やそれに列なる細分化された血筋と共に、
この国の陰を見つめ続けてきた男のこの一言で……。
しかし、それが真意では無い事は外道院にもレオーネにも、
そして当のひかる本人にも解かりきっていた事であった。

>「・・・・・・交渉においてこの程度の条件など定石だろうに。
>ひかるがそちらについた瞬間、人質諸共纏めてお前の異能で全滅……
>そんな都合のいい展開にはさせない。
>お前の異能が人質と俺達を腐らせるのが先か。
>俺の小太刀二天一流がこの娘を斬るのが先か試してみても構わんのだぞ」

そう、銀水苑は外道院を良く知る者として、至極当然の配慮をしたまでなのだ。
彼女の異能力――。それは物体を腐食させる事。
それ自体が不味いのではなく、非識別型(勿論何らかの条件が付いているであろうが)である事が不味いのだ。
ここで外道院が能力を発動させた場合、この中央区そのものが死の静寂に包まれる可能性だって在る。
それを未然に防ぐ為に、銀水苑は敢えて予防線を張ったのだ。
こうすれば、外道院も迂闊に異能を発動できない。

>「それに人質に能力や爆弾を仕掛けているなら解除する事だな……」

「うーむ……。警戒されるのも当然といえば当然じゃが、
 ちと力み過ぎではないかえ? ほほほほ……」
85レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/01/12(火) 23:45:17 0
>>84

>「長瀬を離してこちらに歩かせろ、ゆっくりとだ。
>人質交換するのなら、同時のタイミング、でだ」

「ヤハウェさえ手に入ってしまえばそれでよい。
 これ、小娘を放してやらんか」

後ろから永瀬を羽交い絞めにしていた部下に一言告げると、
先程から続いた拘束は漸く解かれたのであった。
しかしながら、永瀬はすぐさま駆け出すなどという事はしなかった。
今自分がどのような立場に居るか、この場が同様な状況かを把握している為だ。
永瀬は周りが思っている以上に聡い娘であった。

外道院の大博打……。伸るか反るかここで決まるのだ。
自然と外道院の顔が綻ぶ。事態は今の所彼女の思う通りに動いていた。
銀水苑とて伊達に我が外道院家の血脈に列なる訳ではない。
もしもの時は本当にひかるを切り捨てようとするだろう。
しかし、それはあのレオーネが許しはしない。
あの男にとってヤハウェは炎魔復活という大儀の為の大事な贄なのだから。

仮に銀水苑がひかるを攻撃しようとしても、彼女はレオーネに守られる。
そのゴタゴタの中でひかるを手に入れればそれで良い。
銀水苑の手札は既に無力化されたといっても過言ではない――。
――否。銀水苑の作戦は外道院の一手先を読んでいたのだ。

銀水苑は一度だけレオーネたちの方向へくるりと振り向くと、
唇の形だけで己の意思を伝える。
幸いにもこの場には読唇術の心得の在る人間ばかりであった。
響は暗殺部隊という隠密行動が基本の部隊出身であるし、
レオーネも組織の最高幹部という立場上身に着けていて当然であったからだ。

>『人質の交換の瞬間、おそらく一瞬だけ外道院が
>ひかるの方に意識を向け、油断する好機がある。
>そのときは、俺に構わず仕掛けろ』

(良いだろう、その作戦に賭けようじゃあないか……!)

レオーネが銀水苑の口を読む事が出来るならば、
当然その前に居た響にも伝わっている筈……。
ならば、後はタイミングを合わせるのみだ。
――相手はファーストナンバー……。相応の痛手は覚悟しなければならない。
だが、それでも永瀬とひかる双方を助ける以上、避けて通れぬ傷である。

レオーネと響に緊張が走る。
86レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/01/12(火) 23:47:01 0
>>85

「外道院。お望み通りに来てあげたわ。煮るなり焼くなり好きにしなさいな。
 ……翠ちゃん、こんな形でさようならになるなんて思いもしなかったわ」

外道院はまるで行けと言わんばかりに、顎で永瀬にヘリから降りるように促す。
手札が一枚減ったが、これでヤハウェは手に入る。
後は炎魔を我々が復活させればよい。
そうだ、その前に邪魔な連中は抹殺しなければ……。
外道院は不敵に笑うのであった。

二人が交差する――その瞬間の事だ。
誰よりも先に動いたのは、何と永瀬の方であった。
ヘリの外道院に向けて立方体を立て続けに発射したのだ。
慌ててそれを雷で迎撃する外道院配下の異能者だったが、
如何せん急であった為に碌な対処も仕切れずに3発迎撃し損なってしまう。

「ほほほほほ……。威勢の良い娘じゃ。
 しかしのう……!」

外道院の目が妖しく光る。それが日光による物ではない事は、この陰鬱な空模様を見れば解かる。

「冥府六道……」

遂に外道院の能力が白日の下に曝される時が来るのか。
しかし、それを防ぐ為に響とレオーネは居るのだ。
もし失敗すれば自分達はおろかこの街も危険に晒される。

レオーネは『神具創造』でパーシアスの矛を創り出すと、槍投げの要領で一気に投擲する。
投げつけた場所は外道院ではない所が"ミソ"なのだ。
パーシアスの矛は基本的に第三者には見えない。他者が見る為にはあくまでもレオーネの許可がいるのだ。
外道院の目にはレオーネが可笑しな挙動をしているようにしか見えていなかった。
では、投げつけた場所はどこか? それは……。

「柚鬼様っ! パ、パイロットがっ……!」

報告に来た部下の慌てた様子から彼の言いたい事を飲み込んだ外道院は、
すぐさま打開策を切り出す。

「くっ……! 誰か代わりにハインドを動かすのじゃ!
 ええい、忌々しいっ!」

してやったりの顔をするレオーネであったが、
"彼ら"の攻撃はこれだけでは無かった。
レオーネによる攻撃は云わば踏み台でしかないのだ。

【レオーネ:永瀬、響と共に外道院の乗るヘリを攻撃】
87伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2010/01/19(火) 22:24:29 0
響はヘリに駆け寄る。
レオーネの起こした混乱の最中ひかるを拘束するものが誰も居なかった事が幸いした。
響は風を操りひかるの身体を宙に浮べ此方に引き寄せる。
外道院配下の異能者がひかるを連れ戻そうとするが、彼等は統治に討たれてしまう。
こうして永瀬とひかるの救出はあっけなく成功した。
手元までひかるを引き寄せ、保護した後、その場に居た面子の視線が外道院に向けられる。
響としてはこの状況でひかるをレオーネと引き離したかったのだが、相手が相手だった。
もし響がひかるを連れて離脱した場合この中央区が本当の地獄に変わる恐れがあるのだ。
ひかるさえこの場に居れば外道院が無差別に異能力を発動させる筈はない。
その為にもひかるはこの場にとどめておく必要があった…。

【響:ひかるを救出】
88銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/01/21(木) 18:20:20 0
ひかると永瀬が交差するその一瞬、状況が動いた。
誰よりも先駆けて永瀬が外道院たちに異能攻撃を仕掛ける。
不意打ちとしては上々だ。
負けじと外道院が異能を発動させようとした刹那
ヘリの挙動が乱れる。
レオーネもまた、ヘリのパイロットに向けて異能攻撃を仕掛けていたのだ。
ファーストナンバーの面目躍如といったところか。
連携の起点、後に続く者の先陣としては最高の仕事だ。
響は混乱の隙を突いてひかるを引き寄せる。
(よし!ならば俺の仕事は……!)
統治もまた動く。
『燎原之火!』
一歩駆け出すたびにアスファルトが割れ爆ぜ、火の線を引きながら疾駆する。
鳳旋や衣田などの炎使いが炎を推進力とし動きの加速に使う技の類型……
原理としては圧縮された炎を爆発させる「微塵」を足の裏で行っているのだ
炎を足裏などで爆発させることで急加速、急方向転換する高速機動。
(連携のカバーに入ることだ!)
外道院配下の異能者がひかるを連れ戻そうとする様を
統治の両目ははっきりと捉えていた。
しかも、ひかるに意識を奪われすぎている。
跳躍とともに紅の剣閃が煌き、なで斬りにする。
高速機動と小太刀の剣技と異能の炎。外道院の配下はひとたまりも無い。
「……貴様等は総じて異能に頼りすぎだな」
そう冷たく言い捨てるが、外道院配下の錬度が低いわけではない。
仮にも外道院の傍仕え。
三流の異能者なら異能で近付かれる前になぶり殺しに出来るはずで
近接戦闘にも訓練をしているはずなのだが
統治の得意とする近接戦闘、クロスレンジに置いてはむしろ相手が悪い。
生半な異能防御を使おうが同じく近接用武器を使おうが
統治の炎刃は生半な防御は貫くし数打の剣やナイフで応戦すればそれごと斬り捨てる。

【連携のカバーに入り、外道院の部下を討つ】
89レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/01/25(月) 23:01:45 0
>>87-88

「徒党を組んで妾を倒そうというのかえ?
 面白い」

響の活躍でひかるは彼らの元へ連れ戻された。
それでも、外道院の顔には十分な余裕が存在していた。
それは外道院が自身の強さを自負しているからに他ならず、
その事は永瀬の完璧な不意打ちによる攻撃の内、部下が撃ち漏らした物を
自分に到達する前に"溶かした"事からも窺い知る事が出来た。
実際にその気になれば街の半分近くを滅ぼす事も出来るのだ。

「銀水苑……何故妾がそなたを気に掛けてきたか解かるかえ?
 何もそなたが妾の分家などだからではない。
 ……そなたからは妾たちと同じ臭いがしたからじゃ。

 そう、渇いた血の臭い。それも幾重にも浴びて真っ黒に変色した血の臭いじゃ」

挑発するかのような眼が銀水苑に向けられる。
ククク……と薄っすら含み笑いを上げる外道院に金色の獅子が吠えた。

「見上げるのはもう疲れた。笑ってないでさっさと降りて来い!」

レオーネと外道院……。二人は反目しあって生きてきた。
お互いのやり方が気に入らず、
それ故に足並みの乱れがちなファーストナンバーの中でも取分け犬猿の仲であった。
いつの日か衝突する事は避けられない関係であったが、今日この日についに前面衝突と相成った訳だ。

「――そうじゃのう。ちと興がのったわ。
 ……どれ、軽く捻ってやるか」

外道院は多少ふらつくハインドから勢い良く飛び降りると、彼女の着物がふわりと風に舞う。
着地の姿勢は低く、腰を下ろした状態であった。外道院が再び立ち上がった時、
ハインドの巻き起こす上昇気流で極彩色の着物が、まるで生きているかのようにはためき始めた。

『冥府六道』……それが彼女の異能力の名前。
これを聞いた物は漏れなく腐り落ち、やがてドロドロの茶褐色の液体へと変貌する羽目になる。
正しく冥府へ誘う巫女に相応しい。

「妾の冥府六道、その本質そなたらに見切れるかえ?」

圧倒的な威圧感を醸し出しながら、巫女は銀水苑達へと歩を向け始める。
ノーガードで歩いてくるが、隙は微塵も無くましてや何の対策も考えていない事など無いだろう。
外道院はこの場に居る全ての異能者の事を知っているのだから……。

巫女が通った道に生えていた雑草は、何時しか茶色く枯れていた……。

【レオーネ:市街地中央区】
【ひかると永瀬を奪還。響、銀水苑と共に外道院と交戦開始】
90伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2010/01/27(水) 22:38:22 0
>>89

「――そうじゃのう。ちと興がのったわ。
 ……どれ、軽く捻ってやるか」

遂に外道院がハインドから地上へとその身を躍らせる。
低い姿勢で降り立ち、ゆらりと立ち上がるその身に合わせるかのようにハインドからの上昇気流を受けた着物が生き物のようにはためき始めた。

「妾の冥府六道、その本質そなたらに見切れるかえ?」

圧倒的な威圧感を放ちながら此方へと歩み寄る様は、構えを取らないノーガードでありながら一部の隙も無い。
異様な雰囲気を纏いながら近づいてくる外道院に対し初めに一歩踏み出したのは響であった。
腰のホルスターから取り出した細い針状の武器――、千本を手の内に三本構え、それ等を高速の気流に乗せて打ち出した。
彼女が放つそれは空気抵抗とは無縁であり高速で外道院に飛来する千本は人体を貫通するニードルガンに匹敵する威力を持っていた。
しかし、放たれた針は外道院の身体に届くより先に朽ち果ててしまう。

「はて…、伊賀よ、そなたはあの老い耄れ側の人間じゃった筈、何故レオーネ等と徒党を組んでおるのじゃ?
 そなたらにとっても目下の障害は其処に居るレオーネの筈、…今は妾の側についた方が良いのじゃないのかえ?」

挑発するように響に問いかける外道院に対し、

「そんな事は今はどうでもいいのよ! 貴方は、貴方は生きていてはいけない人間なのよっ!」

激昂する響を尻目に外道院は不敵な笑みを浮かべる。

「…ふむ、小娘の考えてる事は良くわからんでな…まぁ、この場でレオーネ諸共果てさせてやるから安心するがよい」

二人が会話を交わしている間に、既にレオーネと統治の二人は展開を済ませていた。
しかし、外道院の異質な異能を目の前に未だ手を出せないで居る。
恐らく、物理的な攻撃は一切、外道院に届く前に腐り果ててしまうだろう。
だが、この場に居る三人はそれぞれ物質に依存しない攻撃方法を所持していた。

レオーネの精神攻撃。
統治の操る炎。
響の操る風。

恐らくはこれ等の内のいずれかが外道院打倒の突破口を開く筈だ、、、

【響:市街地中央区】
【レオーネ、銀水苑と共に外道院と交戦中】
91銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/01/29(金) 20:59:46 0

>「銀水苑……何故妾がそなたを気に掛けてきたか解かるかえ?
 何もそなたが妾の分家などだからではない。
 ……そなたからは妾たちと同じ臭いがしたからじゃ。
 そう、渇いた血の臭い。それも幾重にも浴びて真っ黒に変色した血の臭いじゃ」

「そうだな。否定はしない……思惑がどうあれ俺の手も血塗れだ。
硝煙の匂いと血の香がこびり付いてもう取れないからな」

統治は静かに答えを返した。

レオーネが叫び
外道院はハインドから飛び降りる。

>「――そうじゃのう。ちと興がのったわ。
 ……どれ、軽く捻ってやるか」


>「妾の冥府六道、その本質そなたらに見切れるかえ?」

「……見切れなければ俺達には死あるのみだ。
だが、そう安々とやられはしない!
どちらにしても――此処が一千年に渡る因縁
外道院神道か銀水苑炎術どちらかの終焉の地になる!」

言い放つその間も、統治は必死に思考をめぐらせていた。
外道院の異能を看破する為に。
一族の歴史。
腐ると言う効果について。
(神道の穢れを払う概念の逆用……腐敗と死と病の概念……
恐らくは……瘴気か酸化か細菌!)
統治は腐るという効果について三つの可能性を考えた。
メタトロンを生命を損なう腐敗概念、瘴気に換えているか
それとも強酸を作り出しているか
強力な細菌やウィルスによって分解腐敗させているか……
(どれにしても……とてつもない異能の出力と範囲!)
かつて、統治は外道院の異能が村一つを滅ぼすのを見ている。
92銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/01/29(金) 21:01:37 0

統治の頭を様々な戦闘思考がよぎっては消える

(薄刃陽炎で直接斬りつける……現段階では賭けの歩合が悪すぎる!
相手の防御が炎を上回り武器を腐食させられたらこっちがやられる。
情報が足りない!防御強度、反応、能力の性質etc……
接近戦に持ち込むのは後回しだ!)

(小柄……天尊龍炎……幾ら速度があっても迎撃されるのが目に見えているな)

(近距離は論外……ならば・・・…)

統治の周囲に無数の小さな火の矢が出現する。

『尖炎弓!』

横殴りの火矢の雨が、外道院に殺到する。
着弾と共に小爆発を起こす数センチほど小さな火矢だ。

(相手の傾向がわかるまでは先ずは『見』!
隙がないなら……威力はこの際捨てる!
出の速い技でかき回し手数で押す!
そして意識を火矢に振っておいて……)

間髪いれず、火矢の雨に隠れるようして、小太刀を大降りに振るう。

「燃焼と大気との関連。静と粛。風は火の呼吸、風炎!」

(不意打ちを混ぜる!)

刀を振るった軌道上の大気が掻き乱され、熱を帯びる。
振るった軌道がそのまま三日月の熱風の刃となって飛翔する。

(さて・・・・・・どう来る!?)

【銀水苑:市街地中央区】
【外道院に攻撃。大量の火矢は囮で本命はそれに紛れた熱風の刃】
93レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/02/02(火) 00:39:10 0
>>90-92

さながら大雨のように降り注ぐ、文字通りの火矢の雨。
それらは地面に、建造物に、それぞれ命中すると、小規模ながら焔を伴って爆ぜていく。
危険を感じたハインドは、これ以上の被害が出ないようにすぐさま高度を上げたが、
今の異能攻撃によってテールローターから白煙が上がっていた為に、
上手く上昇を掛ける事は出来なかったようだった。

外道院は縫うように火矢の雨あられの中を突破していく。
しかし、その陰に隠された本命の攻撃までは避けきる事は出来なかった。
刀の振るった形をそのままに、弧を描いた高温の熱風が外道院目掛けて押し寄せてきたのだ。
両腕を交差させて上半身……特に顔を防御する。
着用していた着物からは湯気が上がり、まるでアイロンをかけた直後のようにパリパリに乾いてしまった。

「……丁度……。丁度良かったわ。
 何せ、この湿気じゃて。さっきから気持ち悪くて敵わんかったのでのう」

防御を解いて体から立ち上る気化した水蒸気を見据えると、
外道院はニヤリと笑みを零した。

「――成る程。"そういった類の物"は腐らせる対象に当てはまらないのだな」

先程から銀水苑と同じく、外道院の異能力の分析をしていたレオーネが、
一人納得の表情で声を上げた。
そういった類――それは、自然現象。
即ち、炎や水、氷や風といった物であり、
奇しくもそれらは古来より人間の生命を育んできた存在であった
永瀬の立方体……。そして響の針による攻撃。
これらは全てこの条件に当てはまらない物であった為に、腐っていったのだ。
ならば、先程の銀水苑の攻撃は決して無意味な物ではなかったのだ。

これが解かっただけでも、彼らにとってプラスに働くからだった。
この場には炎と風がそれぞれ存在しているからである。
だが、それだけで事態が逆転したという訳ではない。

「左様。こればっかりはどうする事も出来ん。
 一度決まった異能力のルールは決して曲げられぬよ。

 しかし、知ったところで如何にもならん」

途端、外道院はレオーネ目掛けて走り出した。
同じファーストナンバーという事で苦戦は必死であろう彼を、
自分に十分な余力が在る内に倒してしまおうという作戦か……。

兎も角、急加速からの奇襲攻撃にレオーネも咄嗟に反応し、
反射的に腹部目掛けて抜き手を放ってきた外道院のその腕を左手でいなすと、
彼女を背負い投げる。外道院の突進力をそのまま利用したのだ、
いくら受身を取ったと言えども体には少なからずダメージは通っていた。

しかし、地面に膝を突いたのは外道院では無く、ダメージを与えた筈のレオーネであった。
膝を突き、右手を地面への錨とし崩れ落ちる体を何とか支えようとする。

「バカな……これは……!?」
94レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/02/02(火) 00:40:51 0
>>93

刹那、レオーネの左腕は肩から下にかけてが、
熱したバターのようにドロリと崩れ落ちたではないか。
文字通り腐り落ちたレオーネの左手を見て、外道院は愉悦の表情を隠そうともしなかった。

「ほほほほ……。反射的に出した反撃が仇となったのう。
 憐れ、憐れ……」

外道院は知っていたのだ。レオーネが"精神系異能者はタネが解かると只の人"と呼ばれる事を嫌い、
体術を異能と平行して極めて行った事を……。
そして、自分が攻撃をすれば、咄嗟に徒手空拳や近接格闘によって反撃を加えてくるであろう事すらも……。
外道院の方が一枚上手であったという事である。

今や茶褐色の小汚い液体となりさがった自身の左腕を見つめながら、
レオーネは外道院の異能力の正体を必死に模索していた。

(奴の異能力は体から出ている何かだ……!!
 それは解かった。自然現象を腐らせる事が出来ないのも解かった。
 問題はそれが何かという事……その一点のみ!
 何だ、奴の異能力の正体は……!
 何か無いか…ッ! 強力な腐敗を短時間で行うもの……!)

ここでレオーネは以前、とある書類を読んだ時に、興味深い記事が書かれていた事を思い出した。
その書類は世界中でこれまでに起きた病気を書き記した、WHO(世界保健機構)の発行した報告書であった。
ペストからエボラまで、あらゆる感染症の詳細の中に、とある奇病の報告が成されていた。

死亡率は約30%と細菌感染症の中でも高確率で、極めて急速に進行する軟部組織の感染症であり、
典型的な例では指先や足先など四肢の末端部から、一時間というごく短期間の内に数cmもの速さで壊死が進行する。

その感染症の名前は『壊死性筋膜炎(えしせいきんまくえん)』

医学に携わる物はこの感染症をこう呼ぶ事も在る。『人食いバクテリア』と。

そう、外道院の異能力はこの感染症を引き起こす微生物、A型レンサ球菌――
即ちバクテリアを異常増殖させて、通常よりも数倍の速度で範囲内の存在を壊死させているのだ。

「バ……、バク…テリア……ッ!!」

自分自身に異能力を掛けたお陰で、通常ならのた打ち回る筈の激痛にも耐えられたさしものレオーネも、
この感染症の主症状である全身を駆け巡る不快感を払拭する事は出来なかったようだ。

「伊賀響……! 外道院の体の周囲は、恐らくバクテリアで包まれている……。
 風を使えばそれらがどうなるか、解からないお前ではないハズだ……。
 拡散させるな……!」

彼女が異常増殖させたバクテリアは風によって運ばれる事で、
小規模の集落で在るならば、たった一人で壊滅させる事が出来る。
これが外道院柚鬼の異能力が最大で2kmにも及ぶ理由であった。

【レオーネ:外道院の異能力で戦闘不能】
【外道院の異能力がバクテリアを異常に成長・増殖させる事と判明】
95名無しになりきれ:2010/02/04(木) 03:38:42 0
雨が降ってきた…
細かい雨が…
96銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/02/05(金) 03:15:58 0
>>93-94

外道院は火矢の雨霰を突破し
熱風の刃を防御する。
「……丁度……。丁度良かったわ。
 何せ、この湿気じゃて。さっきから気持ち悪くて敵わんかったのでのう」
悔しいが的確かつ迅速な対応だ。
並の異能者ではこうはいかない。
「――成る程。"そういった類の物"は腐らせる対象に当てはまらないのだな」
自然現象は腐敗の対象にならない事をレオーネが看破する。
「左様。こればっかりはどうする事も出来ん。
 一度決まった異能力のルールは決して曲げられぬよ。
 しかし、知ったところで如何にもならん」
外道院はレオーネ目掛けて悪鬼の速さで急襲し抜き手を放つ。
一族に伝わる古武道。
統治自身も幼い頃から叩き込まれていたもの……
異能を載せて致死の一撃と為す技は見覚えがあるものだった。
レオーネもさるもので、腕を往なし合気の容量で投げ飛ばすが……
「バカな……これは……!?」
セリフと同時にレオーネの左腕が腐り落ち。
外道院は愉悦の笑みを浮かべる。
「ほほほほ……。反射的に出した反撃が仇となったのう。
 憐れ、憐れ……」

「ちいっ……」
思わず舌打ちを漏らす。
打撃は布石か!異能を既に身に纏わせて、肉を切らせて骨を絶つとは……
自分の無能さが恨めしい。
外道院の恐ろしさと狡猾な戦略は痛感していたのに。
距離を取り慎重に攻めるように
もっと早く警告を出しておくべきだった!
レオーネは自分自身に異能を掛けて
ショック死しかねないほどの激痛を堪えているのがわかる。
この局面、戦力の低下は痛すぎる。

「バ……、バク…テリア……ッ!!」
「伊賀響……! 外道院の体の周囲は、恐らくバクテリアで包まれている……。
 風を使えばそれらがどうなるか、わからないお前ではないハズだ……。
 拡散させるな……!」
97銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/02/05(金) 03:17:44 0
それでも、苦痛を耐え忍び伊賀にアドバイスを与える姿には胸打たれる……
レオーネが左腕を代償に看破した敵の能力……
――無駄にするわけにはいかない!

統治は伊賀に吼える。
「むしろ風を凪がせて止めろ!密度と威力は上がるだろうが・・・・・・
範囲は減少し攻撃は読みやすくなる!」

レオーネに止めを刺そうと悠然と歩を進める外道院。
だが統治の腕からほとばしる炎の壁が、レオーネと外道院を隔てるように走る。

「ゼッ……ハァ……いかに異能で強化された超好熱性細菌とはいえ……
千二百度の炎の中で生きられるバクテリアは存在しない!」

統治は気勢を上げて自らの異能を高めた。
「ぐっ……この程度の痛みで……」
連戦で消耗し、酷使された肉体が悲鳴を上げる。
異能の使いすぎで頭の中では割れた鐘のようにガンガンと激痛が響く。
「ッ・・・…はぁああああああああ!!!」
それでも歯を食いしばり、自らの肉体と魂を燃やす。

(守る……こんな所で終わってたまる物か!)

『火祭円輪乃結界!』
そして、いまだ街中に燻る炎も、戦いの舞台となっている場所を中心に
燃え盛る火の輪壁と化し
戦場と市外との境界、死闘に似合いの炎の闘場となった。
おそらくこれで街に被害は出る事は防げるか……

「さあ……俺達修羅にお似合いの舞台は出来た……
お望みどおり死ぬまでお前の遊戯に付き合ってやる……」

戦況的には追い込まれている。コンディションは最悪に近い。
恐ろしく不利な状況だが……
統治は獣の様な笑みを浮かべた。
さながら、火炎地獄で罪人を追い立てる獄卒のような。

【銀水苑:度重なる戦闘で疲労が蓄積している】
【レオーネの前に炎の防壁出現。戦場と市街を炎の壁で区切る】
98レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/02/16(火) 00:06:35 0
地を割き、悪鬼を逃すまいと燃え盛る炎。
それらは生半可な水では消える事は無いだろう。
しかし、この炎の輝きは銀水苑の命の輝き……。
炎の結界を創り出した事で、銀水苑の異能力は底を尽き掛けていたのだ。
それを見逃す外道院ではない。一人不気味ににやけると、手の甲を口元へ添えた。

「ほほほ……。綺麗な篝火じゃ。
 さぞ盛大に油を使ったのじゃろうなぁ……。時に銀水苑よ。
 そなたは今日どれだけの回数異能力を使った?

 油が無ければ火は起せぬ。そなたの油が尽きるのが先か、それとも妾の喉笛を食い千切るのが先か……。
 いずれにせよ、もう時間が無いという事じゃ」

不意に外道院が一同に背を向けると、着物の懐からやや大きめな無線機を取り出す。
粛清部隊はその特殊な任務上、機連送以外の通信手段を持ち合わせている。
それは機連送の内容を傍受される可能性を考慮しての事であった。

「妾じゃ……。例の作戦を始めろ」

外道院はそれだけを伝えると通信を切り、
再び一同に振り返ると、無線機を腰の帯に無造作に突き刺した。

「銀水苑……妾が何の策も持たずに、
 自ら足を運ぶと本気で思っている訳では在るまい?

 妾は既にヤハウェケースNo2『煌神リン』の居所を突き止めて在る」

機連送の傍受を恐れるという事は、自分達が傍受できるからという事の証明に他ならない。
事実、煌神リンの所在地も他の部隊――即ち虐殺部隊や暗殺部隊の機連送を盗聴して得た物であった。

「ヤハウェはそこの小娘だけではなかったという事じゃ。
 つまり、そなたの炎も、油でさえも、無駄に使ってしまったという事じゃのう。
 妾を倒して煌神リンを助けに行くかえ? そのような残りカスの状態で……?」

外道院は再度手の甲を口元に当てると、高らかに愉悦を漏らしたのだった。

【レオーネ:現在戦闘不能】
【外道院が配下に次の作戦を開始させる】
99銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/02/16(火) 05:40:34 0
「なるほどな……部下を捨石にしたのはそれが狙いか……
俺達に余力を残させず、同時にプランを進行する……」
部下を捨石にしつつも確実に俺達の戦力を殺いできたわけだ。
悔しいが見事な謀略の手段と言わざるを得ない。
統治は、静かに呟く。

「お前の言うとおり、ならばなおさら時間もないか……
だがな、お前は既に詰んでいるんだ
此処まで無駄に油を撒いてきたわけじゃない……
後は起爆まで、俺の霊力が持てばそれで良い……」

(最後の、博打だ)

銀水苑統治は、響の顔を見つめた。
(俺にとっての幸運だったのは、風使いがこの場にいてくれたことか……)

万感の思いを込めて、ひかる、響、レオーネを見渡した後
鋭く凛と叫んだ。
「響!頼みがある!レオーネとひかるを連れて走れ!
風に乗って二人を運びながら、
炎の壁に向って思いっきり最大出力でブチかませ!
それで決着が付く!あとは、任せたぞ!」

外道院の顔に戦慄が走る。
統治の表情には、何時しか
戦鬼のような憎しみも獣のような笑みも消えて、穏やかな覚悟だけが、そこにあったからだ。
100銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV :2010/02/16(火) 05:41:49 0


「バックドラフトって知ってるか?
柚鬼、お前の弔いの為に用意した、俺の炎の中で最も熱く絢爛な技だ。
全方位の一切如来に礼し奉る。
一切時一切処に残害破障したまえ。
最悪大忿怒尊よ――その怒りの炎にて一切障難を滅尽に滅尽したまえ――」

最後の仕上げのために真言を唱え手で印形を作る。
炎の壁はドームととなり、さらに完璧な炎の結界と化す。
わざわざ火焔をばら撒きメタトロンを消耗してまで炎の結界を作ったのは
何も町を守る為だけではない。
この賭けに出るためであった。
炎の結界内部の空気が抜ければ
炎の壁は自ずと狭まる。さながら風船に針を刺すように。
そして、「針」が抜ければ抜けた穴から空気が怒涛のように流れ込み
結界内部の大気全てが、爆燃する。全てを巻き込んで……
これこそが、統治の切り札、バックドラフトを利用した奥義――
『不動明王火界真言』

外道院も狙いがわかれば即座に響をしとめようと動くが
間髪いれずに銀水苑が炎を纏った小柄を放つ。

「行かせねえよ?今にも燃え尽きそうな俺の命だが――
言っただろ、死ぬまでお前の遊戯に付き合ってやるって」

そして、響、レオーネ、ひかるたちに叫ぶ。
共闘した時間はほんの僅かなのだろう。
だがされど、協力して命懸けで戦う戦友。

「行けっ!自分たちのやるべき事を見失うな!」

【統治、自爆覚悟で外道院を足止め】
101伊賀 響 ◆O93o4cIbWE :2010/02/18(木) 19:13:40 0
>>99-100

「響!頼みがある!レオーネとひかるを連れて走れ!
風に乗って二人を運びながら、
炎の壁に向って思いっきり最大出力でブチかませ!
それで決着が付く!あとは、任せたぞ!」

「…わかったわ」

響は統治の覚悟を感じ取った。
そして、言われるままにレオーネとひかるを連れ結界の端まで飛ぶ。

「バックドラフトって知ってるか?
柚鬼、お前の弔いの為に用意した、俺の炎の中で最も熱く絢爛な技だ。
全方位の一切如来に礼し奉る。
一切時一切処に残害破障したまえ。
最悪大忿怒尊よ――その怒りの炎にて一切障難を滅尽に滅尽したまえ――」

統治の唱える真言を背にありったけの力を結界にぶつける為の準備を始める…。
響も統治と同じく異能の使い過ぎによる反動が来ている。だが、そんな事はおくびにも出さない、唯自分の成すべき事をなすだけだ。

「行けっ!自分たちのやるべき事を見失うな!」

その叫びと共に響は空気の砲弾を結界へと放ち、結界を打ち破る。
そして、打ち破った際の気圧の変化によって起こるスリップストリームに乗り、一気に結界を抜け出しだした――…

「ハァッ…!ハァッ!」

結界から離れ、レオーネとひかるを降ろした後に響は強烈な頭痛と目眩に襲われる。
もともと風の異能はそれほど威力に長けているわけではない。
響の異能が統治の結界を打ち破れるほどに強力なのはひとえに彼女の持つメタトロンの量が通常の異能者と比べて並外れているからに他ならない。
しかし、いかに強化手術を受けて並みの異能者とは桁違いのメタトロンを持つ事が出来たとしても所詮は付け焼刃、代償として彼女の肉体は成長が止まっている。
前借りするような形で彼女の器を満たしていたメタトロンが枯渇した結果、つぎはぎに綻びが生じるように彼女の身体は深刻な状況にあった。

【響:レオーネ達を連れて結界から脱出】
【異能を使いすぎて満身創痍】
102レオーネ ◆GWd4uIuzU6 :2010/02/21(日) 21:03:11 0
>>100-101

>「響!頼みがある!レオーネとひかるを連れて走れ!
>風に乗って二人を運びながら、
>炎の壁に向って思いっきり最大出力でブチかませ!
>それで決着が付く!あとは、任せたぞ!」

銀水苑が手で印を結ぶと、
忽ち外道院を逃すまいと燃え盛っていた炎の壁は、
ドーム状となり、灼熱の余波は着実に外道院を焦がしていく。

貴重なメタトロンを消費してまで火焔を作り出していたのではない、
銀水苑は初めからこの展開を狙っていたのだ。
そう、この展開を……。

それは響たちの脱出によって始めて完成する。
炎の結界自体が内部の空気を消費して行く為、ドームは自然と狭まっていく。
そこへ響たちが抜けた"穴"から流れ込んでくる新鮮な空気が、新たな起爆剤となってドーム内部を焼き尽くすのだ。

自分ごと外道院を荼毘に服するために……。

流石にこれは外道院でも予想だにしなかった事態であった。
その為、僅かながら反応が遅れ、結果的に銀水苑以外の人間を取り逃してしまうという失態に繋がってしまった。

>「行かせねえよ?今にも燃え尽きそうな俺の命だが――
>言っただろ、死ぬまでお前の遊戯に付き合ってやるって」

こうしている間にも炎はドームの中をのた打ち回っている。
その事が打開する術の浮ばない外道院を苛付かせていた。

「銀水苑……っ! そなたは、ほんに死を望んでおるようじゃのう……!」

バックドラフトの影響であろうか、
外道院の直ぐそばに在る増築工事中のビルに骨組みとして使われている鉄骨が、
甲高い悲鳴を上げたかと思うと、
真下に居た外道院と銀水苑の頭上めがけて不意打ち気味に落下してきた。

落下してきた鉄骨は強く錆びており、目を凝らさなくともビルの骨組みに使える代物ではない事が解かる。

鉄細菌……。別名『鉄バクテリア』
それは鉄分を捕食、酸化させる事で繁殖する細菌の一種である。
外道院の能力は何も人食いバクテリアだけを異常増殖させるのではない。
ありとあらゆる全ての微生物に適応されるのだ。
鉄骨は銀水苑の異能力の余波で落下してきたのではなかった。
外道院はこの鉄細菌を使い、鉄骨数本を骨組み自体から切り離し、
地表に落下させてきたのだった。
錆びた部分は脆くなるという事を利用した奇策である。

「力量の違いという物を解かっておらん男じゃ……。
 この世の穢れは妾の味方……。そなたが付け入る隙など全く無いのじゃ」

【レオーネ:響たちと共に脱出】
【外道院:銀水苑と交戦中】
103銀水苑 ◆TF75mpHiwMDV

「銀水苑……っ! そなたは、ほんに死を望んでおるようじゃのう……!」

そのセリフと共に、ビルの骨組みとして使われていたであろう鉄骨が落下してくる
辛うじて上から降り注ぐ攻撃に反応できたのは
銀水苑の力量と訓練による賜物だろう。
「――微塵!」
しかし火球を爆発させて直撃を防ごうと試みたが
何時ものような精彩も威力も無い。
何とか完全に潰されて即死する事だけは防ぐものの
逸らし、回避し損ねた鉄骨が強かに銀水苑の左肩を打つ
メキッ、と骨の砕ける鈍い音と
他の鉄骨が地に落ちる激しい金属音が辺りに響き渡る。

「力量の違いという物を解かっておらん男じゃ……。
 この世の穢れは妾の味方……。そなたが付け入る隙など全く無いのじゃ」

火炎と熱風につつまれ
建材の落下の衝撃で舞い上がった土埃の中から
統治はゆっくりと現れた。
落下した鉄骨により骨を砕かれた左腕はだらりと垂れ下がり
足はふらつき、額からは血が流れて髪の毛に張り付いて固まっている。
体力も霊力もほぼ空っぽだ。
満身創痍という言葉がこれ以上ないほど当てはまっている。
それでも、冷たい覚悟を湛えた瞳は死んでいない。

「そうかも知れんな……
俺はずっと死に場所を探して今まで歩いてきた。
……だが勿体ねえな――」

統治は覚束ない手付きで、右手のみでポケットを探る。
取り出したのはナイフでも手榴弾でもなく煙草だった。
一本を抜き出すと、箱がポトリと落ちる。

火は、付けるまでもなくそこらにある。

「闘争と破壊が本質の俺の炎と違い――
お前の能力は穢れを与える事だけではなく払う事が本来の使い道。
正しく使えばワクチンや医学薬学を発展させて
多くの人の命を救うことも出来ただろうに……」

外道院を見る銀水苑の瞳には、憎しみではなく感傷があった。

「何処で間違ったんだろうな、俺達一族は……
今更に言っても詮無きことか……
もういい加減、お仕舞いにしようじゃないか、柚鬼」

ぎこちなく煙草の煙を吐き出すと
統治は右手を指を弾き、鳴らした。
澄んだ指弾の音がひどくゆっくりと結界の中に響き渡り……
結界がぎゅっと収縮する。
そこらじゅうで幾つもの大爆発が起こり
統治と外道院に向かい炎の洪水が殺到した。

【統治、左手と肩を骨折】
【結界を最終段階へと移行する】