【TRPG】ギルドアドベンチャー【ファンタジー】

このエントリーをはてなブックマークに追加
1メルティ
ジャンル:ファンタジー
コンセプト:何でも屋ギルドの一員となって冒険
期間(目安):シナリオによりけり
最低参加人数:3
GM:あり※シナリオを担当したい場合は交代します。
決定リール:あり
○日ルール:七日
版権・越境:ナシ
敵役参加:基本ナシ
避難所の有無:あり

この王国には金さえ払えば何でもやるギルドがある!
ベビーシッター!ハイッよろこんで!
輸送車の護衛!まかせとけ!
ダンジョン攻略!合点だ!
夕飯の支度!カレーでいいじゃん!
暗殺依頼!・・・そういうのはちょっと

とにかく、汚れ仕事以外なら何でもやるギルドが存在する。
その名も何でも屋ギルド「銀の杯団」!
ここで君は平凡からかけ離れた日常を送ることになるだろう

ギルドアドベンチャーここに開幕!
2名無しになりきれ:2014/03/21(金) 05:36:26.69 0
ギルドアドベンチャーの避難所
http://774san.sakura.ne.jp/test/read.cgi/hinanjo/1395328705/
3メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/03/21(金) 06:45:23.44 0
レギュレーション

種族について:特に制限は無し、ただし、あまりにも度が過ぎたものに関してはNGが出るかも
文明について:世界観的には中世に近い、科学技術と魔術もそれなりに発達し
       人が乗れるゴーレムやあまり浸透していないが銃火器のたぐいも存在している
ジョブについて:特に制限は無し、しかし、これも度が過ぎていた場合NGが出るかも
その他:細かい設定等々は各々で出しても問題ナシ、しかし、クエスト進行に関わる場合は応相談

設定
【銀の杯団本部】
ギルドの拠点、普段は「銀の杯亭」という酒場を営んでいる。
もちろん、従業員はギルドメンバーが当番制で働いている。
二階建てになっており、一階が酒場で二階にはギルドメンバーが経営している子店が集まっている。
敷地内には、ギルドメンバーの寄宿舎があり、そこで生活をしている。
【王国】
ルミエリア王国、海に面しており公益が盛ん
治安はほどほどによく、目立った不安もない。
ちなみに銀の杯団は王国の認可を受けているので、有事の場合は呼び出しがかかることもある。
4メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/03/21(金) 06:45:58.27 0
名前・メルティ=アイスマンテ
種族・ヒューマン
性別・女
年齢・28歳
ジョブ・【団長】戦士
性格・わがまま、いい加減
髪型・銀髪のショートヘア
容姿・サラシにホットパンツ、
   長身でバランスのとれた体系、褐色肌
装備・片刃のショートソード(刀身が分厚い)、スモールシールド
備考・普段はサンダルだが、仕事のときはグリーブを装着する。
好きなもの・お酒、冒険、イケメン、料理
苦手なもの・寒いところ、アンデッドの類
うわさ1・婚期を逃して少し焦っているらしい
うわさ2・若い頃、罰として闘技場で金稼ぎさせられていたらしい
5メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/03/21(金) 06:51:21.88 0
現在参加者募集中

参加表明等は>>2の避難所でお願いします。
6名無しになりきれ:2014/03/21(金) 18:45:41.71 0
盗賊が突如出現

3人はいると思われる

血に飢えた盗賊どもは下半身を露出しつつメルティに襲い掛かる
しかも全員イケメンだ
ちなみに下半身を露出した理由は倒した後すぐ犯すためである

どうするメルティ?!!!
7名無しになりきれ:2014/03/24(月) 09:05:58.90 0
>>6
キモッ
8 ◆kEgNZfTROQ :2014/03/24(月) 22:22:49.14 0
〔銀の杯団寄宿舎〜大食堂にて〜〕
銀の杯団の朝は朝食前の朝礼から始まる。
これはギルドを立ち上げた先代の団長が始めた習慣で
乱れがちな団員の生活リズムの矯正と団員達の結束力を育むことを目的として行われているのだが…
団員の皆が席についている中、団長の席だけが未だにぽっかりと空いている。
その様を見て、副団長であるマックスは一つため息をもらしてから声をかけた
「これから朝礼を始める!諸君、おはよう!」
こうして団長のいないまま朝礼が始まる。
朝礼にて話すことは、前日の酒場の売り上げや依頼の結果報告
そして、新しく入った依頼の確認とその担当の割り振りが主だ。

淡々と副団長が朝礼を進めていく最中、勢いよく食堂の扉が開かれた。
「ごめ、また寝坊しちゃった・・・いやー商会の会長さんが帰してくれなくてさ」
特に悪びれもせず遅れてやってきたこの女こそ、現団長であるメルティ=アイスマンテその人である。
メルティはそそくさと自分の席に座ると、シブい表情を浮かべるマックスに視線を向ける。
「そんな怖い顔しないでよ…これでも仕事とってきたんだからさぁ」
そう言って依頼書を取り出して見せた。
「でさ、朝礼はどこまでいったの?」
「今担当の割り振りの最中ですよ」
「あら間が悪かったか・・・まぁいいや、えーっと会長さんからの依頼で
 隣国にいく荷馬車の護衛だってさ、ホラ最近あの辺で盗賊団が出るらしくてさ
 そろそろ依頼が来るかなーって話振ってみたらドンピシャよ」
ドヤ顔で語りながら、メルティは依頼書をマックスに渡した。
すぐにマックスは依頼書を確認すると、適当な担当を決めて発表した。

第一話「銀の杯団」

〔ラムレット商会〜応接室にて〜〕
商会の人間が貨物の用意をしている最中
銀の杯団は応接室でミーティングを行っていた。
「改めて今回の依頼内容を説明するよ」
テーブルに上に地図を広げ、メルティは話を続ける。
「今回の依頼は、荷馬車の護衛、荷馬車はこの後ここを出発して
 東の街道を通って隣の国へ行き、荷物を降ろした後、同じルートで戻る予定だ
 んで、このルートの場合、途中で見通しの悪い森を通りぬけなきゃいけないんだけど
 …どうやらこの辺りで盗賊に襲われているらしい
 ここまで何か質問ある?」
団員の様子を伺いながらメルティは尋ねた。
9ジャム ◆dEgS0EaW9zOd :2014/03/25(火) 03:39:01.92 0
団員が一堂に会する朝礼。日毎の習慣とはいえ自身の今日の仕事にも関わる。確り出席し話を聞くのがギルドの一員としての務めであろう。
が、必ずしもそうでない団員もいる。たとえば今日も遅刻している団長がそうであり、隅の席で机に突っ伏し寝息を立てている神官姿の男がそうだ。
名をジャムという。一応本職は教会に勤める神官の筈だが、何の因果かこのギルドに籍を置くこととなり、今に至る。
どうも朝が苦手なようで、朝礼の時間にこんなことになっているのは珍しいことではない。いつものことだから、副団長も何も言わないのだ。

やがて聞こえた慌ただしい音に睡眠を阻害され、薄目を開けたジャムの視界に飛び込んで来たのは団長の姿だった。
少しずつ意識がはっきりし、理解したのは団長が何らかの依頼を持ってきたということ。自分には関係ないとばかりにもう一度夢の世界に向かおうとしたところ、
副団長から呼ばれたのは自分の名前。その依頼の担当に、ジャムも含まれていたのである。
正直なところ面倒だ、やりたくない。だが特に理由もなく不参加など、繰り返しているとこちらの立場が危うい。
渋々ながら、ジャムも荷馬車の護衛に参加することに相成ったのである。

> ここまで何か質問ある?」
「……『襲われているらしい』ってぐらいだから数回は被害あってんだろ。盗賊の大体の人数ぐらいはわかってねぇのか? 得物は? 魔法使う奴とかはいるか?」
そもそも襲われることがわかっているのならば見通しの悪い森など通らずもう少し安全な経路を探せよと思わないでもないが、
迂回するのにかかる時間と護衛を雇う費用を秤にかけて、後者の方が軽かった。つまりそういうことなのだろう。なら何も言うことはあるまい。

ふと周りを見渡し、同じく荷馬車の護衛に向かう面子を確認する。一人一人顔を見た後、また視線を落として。
「まぁ団長とおっさんがいるならただの盗賊団ぐらいどうにでもなるだろ。俺がついてく必要なんか感じられねぇぐらいだ。
 そこのお嬢ちゃんもだけど、せいぜい積荷に累が及ばないように暴れてくれや。少しの傷ぐらいなら治してやっからさ」
そう言うと、まだ眠気が覚めていないとばかりに大きく欠ぶ。
10名無しになりきれ:2014/03/25(火) 20:41:55.33 0
そこに跳躍した盗賊が出現
お前らに襲い掛かる

メルティ半焼
11フローラ ◆CFwoAEJ66. :2014/03/26(水) 20:27:39.19 0
いつも通りの朝礼。団長の遅刻も見慣れたものだ、。
しかしそんな朝礼にいまだ慣れられず、そわそわとしている人物がいた。
フローラ・スマインターグ。入団三ヶ月目の新人である。
生まれ育ったのは放浪の民族。行く先さえ気ままな自由の風土だった。
そのため集団に抑えつけられることに不慣れで、周囲から落ち着きがないと評されることもしょっちゅうだ。
研修期間は終えたもののまだまだ半人前。宛がわれる依頼はせいぜい猫探し程度だろう。
そんな呑気な思考の前に現れたのは、彼女の歴史上初となる『人の身を預かる』依頼だった。

依頼主の応接室。フローラは緊張と張り切りからその体を震わせる。
今回のメンバーに選ばれたことは光栄で、できることなら何でも協力したいと息巻いてはいるつもりだ。
しかし新人の自分になぜこんな荷が重い依頼がと、わが身を嘆くような気持ちもあった。
そんな折にかけられた、「質問はないか」という問い。
急にかけられた声に気が動転し、ついつい声を張り上げてしまった。

「あ、あの、今のところ無いですっ!」
12フローラ ◆CFwoAEJ66. :2014/03/26(水) 20:33:18.18 0
一通りしゃべって首を項垂れてしまう。動転した自分をさらけ出したことがただただ恥ずかしかった。
説明の言葉は頭には入るが、それらがぐるぐるとまわって一向にまとまらない。
荷馬車の護送。森を抜ける必要がある。盗賊団に要警戒。
得られた情報のキーポイントを頭の中で反復し、落ち着きを得ようと躍起になった。

>そこのお嬢ちゃんもだけど

自分のことか。唐突な指名に肩をびくんと跳ねさせる。
過失があったわけではない。ただ会話のネタになっただけ。
少し時間をかけてそう状況を理解し、話題に乗ろうと声を上げた。

「は、はいぃ!大丈夫ですよぉ」

変な応答じゃなかったか?気にかかって仕方がない。
でも心のどこかでこれで大丈夫だという確信が不思議と確かに存在し、彼女の精神に行き渡った。
まだまだ続くミーティング。紡がれる言葉は須らく自分たちへの責任。
それでもその一言が生み出した安寧が、確かな自信を彼女にもたらしていた。
13名無しになりきれ:2014/03/26(水) 23:01:03.85 0
>>12
クラッシュバンディクー
がフローラにとび蹴り
14名無しになりきれ:2014/03/28(金) 21:37:36.83 0
ドシュッ・・・
(フローラ ◆CFwoAEJ66. が暗殺される)
15ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2 :2014/03/30(日) 00:22:50.67 0
銀の杯団と呼ばれるギルドの食堂では、今日も朝の慣習である朝礼が行われていた
置かれた古臭い……よく言えば歴史を感じさせるテーブルにはギルドに所属する面々が座っており、
ある者は緊張した様子で、またある者は惰眠を貪りつつ、語られる内容を聞いたり聞き流したりしている
副団長であるマックスも慣れたもので、一同の様子をチラリと眺め見てから淡々と
前日の売り上げや依頼の進捗状況の確認を行っていた

変わらぬ朝、変わらぬ日常

>「ごめ、また寝坊しちゃった・・・いやー商会の会長さんが帰してくれなくてさ」

そしてそんな中、彼女が遅れてやってくるのも変わらない
メルティ=アイスマンテ……銀の杯団現団長
勢い良く扉を開き食堂へと入って来たギルド最高責任者であるメルティは、
悪びれる様子も無く自身の定位置……マックスが立っていた席の横に着座すると

>「そんな怖い顔しないでよ…これでも仕事とってきたんだからさぁ」

そう言って一枚の依頼書を取り出した
副団長のマックスは一度ため息をついてからそこに記されていた内容を確認すると
その場に居た面々から適当に……けれど、彼なりの判断基準は守りつつ依頼の担当を決めて発表した

ただ……その何時もの中に、今日は少しだけ変わった所があった

「何じゃ、ワシに護衛任務をやらせるのか?護衛ならば重戦士辺りを着けた方が安心じゃと思うがの」

それは、抜擢された人員の中に大きな灰色のローブを目深に着込んだ男……
少年の様に小柄で華奢な体格を持つ『魔術師』のライア=ワードレスが存在していたという事

・・・・
16ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2 :2014/03/30(日) 00:26:17.94 0
呼び出された応接室
そこではメルティを中心として、ライアの他に数人の人員が依頼についての話し合いを行っている

>ここまで何か質問ある?」

メルティが受けてきた依頼の内容とは、噛み砕いて言えばいたって普通の護衛任務であった
道中の荷馬車の護衛と、襲撃を受けた場合の対処
どこにでもある、ギルドとしては標準的な依頼

神官のジャムは、そのだらしない態度とは裏腹に襲撃者人数や武装を確認し、
新入りのフローラは、特に質問が無いと言う答えなくても良い事を緊張からか大きな声で答えていた

そんな中、相も変わらずローブを着込んだままのライアは全員の質問がやんだのを見越してから口を開く

「メルティ嬢よ。ワシの記憶が確かなら、未だ達成報酬と特別報酬の話を聞いておらん気がするんじゃが」

メルティ嬢と、一見丁寧な呼び方に聞こえるが、ライアのその言葉からはメルティへの信頼など一切伝わってこない
ライアは、部屋の端に置かれていた木製の椅子に腰かけるとメルティの方を見る事も無く続ける

「仮に盗賊共と出会ったとして、一匹倒せば幾らの追加報酬があるのか。生死は問うのか
 依頼以外の余計な仕事を頼まれた時は、どれだけ金が貰えるのか……金にならんようならワシは依頼を降りるぞい。
 何せ、ワシは遅刻の常習をしても許されるダンチョウ殿と違って明日の生活をも知れぬ身じゃからの」

ライアが語る声は鈴の様に美しいのだが、語る内容は一から十まで金絡みと俗の極みであった
彼の人間性を知らない者がその語り口を聞けば、あまりのギャップに混乱する事請負いだろう
17名無しになりきれ:2014/03/30(日) 13:14:05.91 0
殺せんせー「オレオマエコロス」

ドシュ…
ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2が頭から切り裂かれる…!
さらに2人の兵が飛び掛る
18名無しになりきれ:2014/03/31(月) 19:38:28.26 0
ライアはバラバラになった
そこに食人鬼
19シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/04/01(火) 02:26:21.25 0
>「ここまで何か質問ある?」

「えっ?あ、えっと・・・」
団長の説明の後、副団長の鋭い視線が一瞬自分に来たのを感じ、竜のあごを模したような大きな頭が持ち上がる。
手元の薬瓶を弄るのに夢中だった彼は、意表を着かれたかのような頓狂な声を返した。
どうやら何も聞いていなかったらしい。

「えー・・・っと、とくになーし・・・」
聞いていませんでしたと言わんばかりの生返事を返し、そうしてこの竜人もどきはまた性懲りも無く手荷物の整理を始める。
シュレッド・ヘッド、竜人族(自称)。入団して間もない新人の「錬金術師(自称)」。
退屈な朝礼を終えていつもの子店巡りをしようとした矢先に召集が掛かり、突然の荷馬車の護衛の依頼である。
もちろん、彼はこういう荒事の絡む任務など経験皆無、加えて本人も戦闘スキルはゼロ。何故呼ばれたし。

「(ねぇねぇ、どういう依頼だっけ)」
「(盗賊からの護衛・・・?えー・・・そういうの始めてっすね・・・)」

ミーティングの内容に追いつこうと隣の人員に今更聞き返せない質問を小声で聞いていく。
森林に出没する盗賊と言ったらそれほど珍しい物でもないだろう。棍棒持った髭もじゃの大男達が金品を略奪するというよくある構図だ。
地図を開き、その森と目的地の場所、人員の特徴程度の簡単な情報をメモに書き込んでいく。
団長、副団長、目つきの悪い神官、新人臭半端無い女性、やたら態度のでかい魔術師・・・と、このあたりである事に疑問が浮かぶ。

「えっ、これで盗賊と対峙するんすか・・・?」

そう、盗賊相手にはどうもトリッキーな連中が多すぎる。
普通筋骨隆々の屈強な男衆で固めるのが護衛任務というものだろうが、神官、妖精使い、魔術師、そして錬金術師。まるで百鬼夜行である。
いや、この面子だと寄せ集めと言ったほうが近いかもしれない。辛うじて戦士やシーフがいるのを見るとレベル上げパーティのような編成だ。

まぁ、致死毒や属性魔法を使う特殊部隊のような連中が相手ならわからんでもない編成だが・・・
20名無しになりきれ:2014/04/01(火) 17:50:13.29 0
シュレッドに食人鬼が襲い掛かる


歯で噛まれてとうとう致死毒がまわる
21名無しになりきれ:2014/04/02(水) 23:28:23.54 0
痛い!痛い!やめて〜
22メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/04/04(金) 17:55:05.32 0
メルティの問いにいの一番で応えたのは新人のフローラだった。
「本当にぃ?」
表情、声その他諸々からフローラテンパっているのがよくわかる。
口では問題ないといっているが、本音は全くわからないのが実だ。
それぐらいのことはダメ団長のメルティでも察することが出来る。
だからこそ、メルティは意地悪そうに微笑んでそう聞き返す。
そこへ、フローラの返答よりも先に神官のジャムが尋ねてきた。
「さっすが先輩、中々鋭いこというじゃん
 フローラちゃんもこういうの見習わないとダメだよ
 周りに合わせるのは簡単だけどさ、多少煙たがられてもいいぐらいの気概でさ
 質問していったほうが自分の身になるしね」
フローラにそういいながら、メルティは憲兵団からもらってきた資料を広げた。
「話がそれたね、盗賊団の人数はおおよそ15名、主にナイフとか棍棒を持った奴が大半だが
 弓使いが少数とけっこうオーソドックスな盗賊だな
 手口としては、事前に木を倒して道を塞ぎ、立ち止まった瞬間に一気に襲い掛かる待ち伏せ型で
 無抵抗であっても殺しにくるそうだ
 …ただちょっとばかし気になることが一つ」
そう言ってメルティは資料の中から一枚の絵を取り出した。
これは複写術で描かれた現場の状況を切り取った一枚なのだが、
それには、丸太に串刺しにされた荷馬車が映し出されていた。
「…被害者の証言だと同じ盗賊団に襲われたらしいんだが、どう考えても人間業じゃない
 もしかすると、儲けで何かヤバイもんを手に入れた可能性があるから注意したほうがいいかも」
そう促して、メルティは座っていたソファーにもたれる。
「あと悪いジャム、重戦士のオッサンなんだがどうやら腰をやっちまったようでさ
 今日はこれない、一応マックスに増援で誰か送るよういったけど、期待しないほうがいいかもね」
23メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/04/04(金) 17:55:47.33 0
一通り質問に答えると背後から魔術師のライアが口をあける
「相変わらず爺は金に汚いな、本当にエルフなのか
 まぁいいや、とりあえず、基本報酬は金貨20枚
 襲撃があった場合、上乗せで10枚、そこから一人頭生死関係なく銀貨5枚ずつ上乗せってことになってる
 あと、金額はきまっていないけど、この盗賊団の首領に賞金がかけられるのが決まっててね
 大金にはなりはしないが、まぁそれなりの値段になるのは間違いないはずだよ
 あとは・・・まぁ追加の依頼があった場合はその時に決める形になるね
 それとも、そうなった時に報酬を吊り上げろってんじゃないよね
 だったら爺が交渉したら?私も文句言われずに済むし」
多少皮肉を混ぜつつも報酬の説明をすませ、話を進めようとした時、
不意に新人のシュレッドが本音を漏らした。
「いや、十分でしょ」
不安を浮かべるシュレッドに対し、メルティは不思議そうな顔で返す。
「近距離は私がいるし、遠、中距離はフローラと爺でなんとかなるし
 サポートにジャムもいる、まぁ欲をいえば、もう数名ほしいとこだけど
 バランスは最高にいいと断言できる!
 …もしかして、お前サボる気だったな
 そう易々とサボらせると思ったか、今回の荷馬車を引っ張るのは馬ではなく
 移送用のホースゴーレムだ。何かトラブルがあった場合はお前が修理を担当することになってる
 あとついでに戦闘用のゴーレムを用意しておいた、前線に出て戦えとは言わないが
 自分の身ぐらいはちゃんと守ってもらうぞ!」
シュレッドに指を突きつけながら、そう捲くし立てると
一度呼吸を整え、ミーティングを再開する。
「んじゃ、ミーティングを続きね
 荷馬車は全部で二台、うち一台はさっき言ったとおりうちのほうで用意したゴーレムがつけてある
 私らは二つに分かれて荷馬車に乗り込んで前方と後方の監視をする。
 んで、とりあえず、前の荷馬車には私とフローラが乗って、後ろは残りの皆が乗り込む形で行く
 とまぁそんなところかな」
あらかた話し終えたところで応接室の扉がノックされる。
どうやら出発の準備が整ったようだ。
「それじゃ出発するとしますか…おっと忘れてた」
メルティは立ち上がると、皆に腕章を配った。
「連絡用の腕章、組み込まれた術式でつけた者同士で連絡がとりあえるようになるから
 ちゃんとつけといてね」
新人の2人にそう説明して腕章を手渡した。
「さて、お仕事の時間だよーっと」
24メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/04/04(金) 17:57:31.91 0
〔東の街道〕
商会を出発してからしばらくして、特に目立ったトラブルもなく一行は順調に進む
「フローラちゃんさ、ギルドには慣れた?」
貨物の隣で寝転びながら、見張りを任せているフローラに声をかける。
別にメルティに深い考えは無い、なんとなく尋ねているだけだ
「そういや、こういうのは入団してから初めてだもんね
 まぁ緊張するなとは言わないけどね、言えば言っただけ緊張しちゃうし
 人の命だってかかっているわけだし、むしろ、それぐらいのほうがいい時だってあるよ」
言葉とは裏腹に、メルティは寝転んだまま気ままに話を続ける。
「たださ、依頼中ずっーとそのまんまっていうのは無理がある、人間だもの
 じゃあ、どうすりゃいいかっていうと必要なときにそうすればいいのさ
 そうすりゃ自然と余裕が出てくるよ」
なんとなくそうアドバイスするとメルティはさらに続ける
「だからさ、そろそろ見張りを交代する時間だけど、心の余裕がほしいから寝てていいかな」
どうやら、先程のアドバイスはサボるための口実だったようだ。
呆れるもよし、突っ込むもよし、さぁどうするフローラ
【商会を出発、ワンクッション置くための雑談タイム】
25フローラ ◆CFwoAEJ66. :2014/04/04(金) 21:08:01.79 0
時折車輪が石畳に引っかかり生じる揺れに身を任せながら流れる景色を見る。
監視自体は慣れたものだ。特に自然の中に暮らしていれば、機を待つケースなどいくらでもある。
ゴーレムといった魂のない魔法生物を妖精は嫌がるけれど、この程度なら差し支えない程度には制御できるようにもなった。
そうしてふわりとした風を浴びながら見張りをしていると、背後から団長の声が聞こえた。

「え......? はい。おかげさまで」

ギルドの仕事に慣れたか、といえば答えはNOだ。二ヶ月ぽっちで一人前になれるとはもとより思っていない。
けれども自然とは違う居住空間や往来する人々、そういった街としてのギルド。
前とは違う生活には確実に慣れていた。今はギルドのメンバーを仲間として、家族として、認識できる。

だから、いまだって団長の言葉は、すっと心に落ちてくる。

いつも朝礼には遅れてくる、いい加減なところもある人だけど。
30過ぎるまでに、なんて焦ってたりもする人だけど。
彼女の慈愛に包まれるような独特の雰囲気が、フローラはきっと好きだった。
緊張しきりの任務中でも、彼女の言葉が身体に染み込んでくるのがわかる。

そんな中で発せられたのは、寝ててもいいかなという提案だった。
...ついさっきまで、良い事言ってたのにな。若干の呆れと共に苦笑を浮かべる。
でも、いつもの団長だ。ふわふわしていて、それでいて優しくて。

「了解です!見張り番は任せちゃってください!!」

自然と声も大きくなる。肌に当たる風が心地いい。
やっぱり私は、このギルドが好きなんだな。初の護衛のフローラにまたひとつ、大きな心の支えが生まれた。
26名無しになりきれ:2014/04/05(土) 02:12:15.47 0
誰かが言った
「そのフローラ、返してくれ」
男はフローラに馬載りになると、腰を振った
「フローラってのは馬の名前なんだ」
27ジャム ◆dEgS0EaW9zOd :2014/04/05(土) 19:04:09.53 0
こっちの荷馬車にはギルド員はあと2人乗り込んでいるが、口数が多いわけではないジャムは自分の見張りの番が終わればそちらを見ようともせず。
貨物に凭れ掛りながら、足を組んで瞼を閉じる。傍目から見れば寝ているようにしか見えないが、意識ははっきりとしている。
嫌々ながら受けた面倒な依頼ではあるが、一度こちらの手に委ねられたのであれば確りと果たす。それが神に仕える身の務めである。

思い出すのは応接室での状況説明。15人程度ということだ、人数は盗賊団としては特筆することはないだろう。
とはいえ寡数というわけでもない。この人数を持ち出してせっかく奪った戦利品が夜の酒代に消える程度では話にならない。
何度も被害があるということは、何度も大きな荷物が通る算段がついているということだろう。商会からの情報の漏洩も疑って然るべきか。

得物はナイフ、棍棒。取り立てて何も言ってこなかった以上、衣服は軽装と考えて間違いはないのだろう。特にメイスが通らないこともあるまい。
強いて言うならばこちらが護衛を雇っているようにあちらも用心棒のような何かを連れてきている可能性ぐらいだが、
こればかりはいざ鉢合わせてみない限りはなんとも言いようがない。星の数ほどある可能性のひとつとして考える他はない。
寧ろ危険なのは弓使いの方か。こちらに向かう矢に関しては気をつければ良いだけだが、流れ矢が積荷や護衛対象に当たる可能性を留意。
(弓兵は最初になんとかする――ま、当たり前の話だよな)
遠距離相手はあのエルフ辺りが適当に魔法でやってくれりゃ楽かな、まぁなんとかなるだろう。その程度なら楽観的思考もある。

となると1番考えなくてはならないのはあの荷馬車を串刺しにする丸太であろう。射出する絡繰兵器か魔力兵器でも積んでいる、と見るべきか。
だが、ここまで大きい丸太で貫くのだ、精密動作が出来るとは考えにくい。積荷を駄目にしてしまっては元も子もないことを考えれば、
そう頻繁に打ってくることもないだろう。なんとか使われる前に盗賊団を片付けてしまえればそれが最善ではあるのだが。
何にせよ、「丸太が荷馬車を貫いている」という状況しか情報としてないのだ、それ以上を今考えるには些か材料が足りない。
何かがある可能性を常に頭の隅に起きながら、いざという時に臨機応変に対応していくしかないのだろう。

(団長、俺、あのエルフ、んでもって新人2人……)
応接室で新人の片方が言っていたが、あまり盗賊団の護衛に向いているような面子ではないのは確かな気はしないでもない。
新人2人とは特に会話したことなどないのでどんな風に戦うのかは知らないが、あまり近接戦闘に秀でているようには見えない。
とはいえ団長はわりと楽観視しているようだし、新人を2人も連れて行こうというのだ、副団長もそれほど不安視はしていないと思われる。
さすがにあのおっさんが直前になって不参加になってしまったのは少し想定外な要素ではあるが、補充がないなら、所詮その程度か。
まぁ戦闘用ゴーレムとかあるらしいしきっと強いんだろ。じゃあそれに任せりゃいいんじゃね。むしろ俺いらねぇんじゃねぇのやっぱり。

抔。色々考えた上でそれを払うように軽く頭を振り、薄目を開けてまた閉じた。
(抑も、襲われない可能性だってあるんだけどな)
そっちの方が楽だな、むしろそうあって欲しい。そんなことを考えながら、やがて本当に眠りの底へ落ちていった。
「例の森に近づいたぐらい……いや、なんかあったらでいいや。適当に起こしてくれ」
目を閉じているのだから本当にそこにいるかもわからないが。同行の輩にただ一言、それだけを残して。
28名無しになりきれ:2014/04/06(日) 00:23:07.83 0
パンパン!!
(ジャムが銃殺される)
29シュレッド:2014/04/07(月) 19:48:01.98 0
後方の荷馬車はただでさえ狭苦しく、僅かな心許無い空間すら主にシュレッドの大荷物で埋め尽くされている。
ジャムはこの窮屈な空間においてお構い無しに睡眠を開始していた。しかしまあよく寝るものである。普段から相当に脳を酷使しているのだろう。
シュレッドは見張りをしつつよくわからない何かの干物をむさぼり、毒々しい色彩の錬金物を研磨し、伝書鳩を飛ばしたりと忙しい。

「(入団2ヶ月もしないで戦闘経験ゼロなのに荷馬車護衛なうwwww)っと・・・」
「じゃ、次はヴ・ナードを渡ってグランドベウのいつもの鳥舎ね!はいお駄賃」

「ユウビン、タマワリマシタ!」
なお、伝書鳩と言っても鳥人や妖精が主に使われている。竜か猛禽類に食われでもしない限り容易く運んでくれるだろう。
彼らはいちいち鳩舎を介す必要が無く、配達量は多く、配送量も安い。非常に優秀な通信手段である。
最近は寄せ書き形式で大量に速達回覧を回すのが若者の間で流行っているのだがそれはまた別の話。

「いやーしかしいい天気っすねー、盗賊も寝てるんじゃないすかー?」
彼は非常に能天気であり、かつ警戒心もなく、お世辞にも盗賊と退治できるタマではないことは確定的に明らかである。
地平の果てから徐々に見えてくる大きな森は、この能天気な着ぐるみ竜人を飲み込まんとする緑黒い色を放ち、この阿呆はその禍々しさを全く感じ取れていない。
サボる所か、むしろ動くだけで文字通りの大荷物と化しかねない危うさ。ミーティングの丸太の件などとうに忘れてしまっているのか。

「んお?」

「ブシュー・・・ブシュー・・・」
ふと、馬もとい輸送ゴーレムの一匹が煙を出し、速度を落とし始めた。煙は独特の臭気を放ち、風下に向かって流れてくる。
シュレッドは持ち前の身軽さでゴ馬に飛び乗ると、ゴ馬を動かしたまま動力部を修理するという器用な芸当を見せてくれた。

「あー、んー、これは何やら妙に魔力干渉してるっすね・・・ライアさんの魔力が強すぎるのかな?」
確かに大魔導師レベルになると、ゴーレムが動作不良を起こすほどの魔力が溢れ出ている者もいるので考えられなくはない。特に木製は何かと干渉を受けやすいものだ。
最も、魔導機や水晶でもこういったことは起こるが、それほどの魔具であれば、大抵は厳重に管理されている。
「ここをこうしてそれから・・・うわっ品質悪い木だなー、ケチりやがったな」
数分もすると煙は収まり、ゴ馬は元の――いや、むしろ速度を上げて追いつこうとするかのように、少し歩幅を広げて動き出した。
30ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2 :2014/04/07(月) 21:07:49.28 0
「ふん、金があれば大概の願いは叶う世界にしたのはお主ら人間じゃろうが
 ……ああ、値段の吊り上げに関しては勿論するつもりじゃぞ。ある所からは絞れるだけ絞らねばのぅ」

メルティの皮肉を交えた返答を聞いたライアは、フードに隠れて見えないだろうが
小ばかにする様な笑みを浮かべ返答を返す
エルフという種族の特性上、極めて美しい少女の様な外観をしているライアであるが、
その笑い方と深い隈が刻まれた悪すぎる目付きのせいで、神秘性は全く感じられない
……というか、どう見てもゲス顔であった

・・・

ゴトリゴトリと車輪を揺らしながら、二台の馬車は進む。
前方の馬車にはメルティと新人のフローラが乗り合わせ、
後方の馬車にはライアを含めた数人の男衆が乗っているのだが

「狭い上にむさ苦しいのぅ……ジャムの奴はよくここで眠れるものじゃ
 やはり神官なんていう碌でもない職に就く奴は、心も普通じゃないのかのぅ」
 
シュレッドによって持ち込まれた大量の荷物、我関せずと着いたら起こすように言って眠り始めたジャム
狭い空間に男衆が密集する事によって上昇を続けている不快指数
何より……そんな馬車の中でスペースを確保する為、荷物の上で荷物の様に寝そべる姿勢を強いられ、
不機嫌さを隠さず八つ当たりの様に毒を吐くライア

「そもそも、新人錬金術師も気を使って荷物を積まぬか
 後方の馬車は、ただでさえいざという時切り捨てられる位置じゃというのに……」

――――ぶっちゃけ、馬車の中の空気は最悪だった

と、そんな進行の最中で馬車を曳いていたゴーレムの一体が煙を出し始めた
同時に馬車の進行速度も急激に低下し始め……乗客達に牽引するゴーレムが故障したという嫌な事実が伝わる
ただでさえイライラしていた時に起きたこの災難に、依頼人に怒鳴りつけてやろうかと思い始めたライアであったが

>「あー、んー、これは何やら妙に魔力干渉してるっすね・・・ライアさんの魔力が強すぎるのかな?」

「なんじゃ、お主随分と器用じゃの……失礼な、無意味に魔力を垂れ流すのは二流魔術師だけじゃ」

驚いた事に、馬車の故障はシュレッドがものの数分で修理してしまった
移動しながらの修理と言う離れ業を眼にしたライアは一瞬驚いた表情を見せたが、
直ぐに不機嫌な表情に戻りフンと鼻を鳴らすが、そこで思い返した様に言葉を付け加える

「ああ……そういえば二流魔術師以外にも、魔物や魔道具も魔力を垂れ流すのぅ。一応、気を付けた方がいいかもしれんぞ」

速度を少し早めた馬車の中で呟かれたライアの言葉、
聞かれても聞かれなくてもどちらでもいいという気持ちで放たれた言葉であったが、
一応、ライアなりの忠告ではあった
31名無しになりきれ:2014/04/08(火) 07:52:13.07 0
跳躍する男…!!

煙を出したゴーレムがライアに襲い掛かり、爆発する・・・!
32コルガ・オラスミス ◆InntcJOaXE :2014/04/08(火) 22:18:18.91 0
ぽっくりぽっくり、速足のリズムながらもどこか長閑な蹄の音が東の街道に響く。
空は気持ちよく晴れ渡り、時折吹く柔らかな風に木々の緑が揺れる。
非常にうららかな風景ではあったものの、騾馬の背の上に座る人物はあまりそれを堪能してはいないようだった。

コルガの所属するギルドの団長が、懇意にしているラムレット商会から依頼を請け負ってきたのはつい先日の事。
しかし、その日の朝会のうちに選出されたメンバーの中にコルガの名前は入ってはいなかった。
選出されてもいない仕事について行くような性格のコルガではないので、彼女は自分に割り当てられた仕事
――予約客が入った銀の杯亭で料理を作る、をこなそうと厨房にて準備をしていたのだが……

「――……?」

ふいに団員からかけられた声にぱちくりと金の双眸を瞬かせ、まじまじと相手の瞳を見返す。
曰く、本日の商会の荷馬車護衛任務に増援として向かってくれないか、と伝言を受けたとのこと。
増援として向かうのには何の問題もない、問題はないのだが自分が抜ける分の料理はどうするのだろうか。
そんな疑問が相手に伝わったのだろう、コルガに声をかけてきた痩身の青年は料理担当は自分が引き受けたのだと笑った。
ならばもう考えることもない。
そもそもコルガは深く何かを考えるのには向いていない頭をしている。
適材適所、頭脳労働はそういうのが得意な輩に任せ、自分はこの頑丈な体で肉体労働するのみだ。
そして増援の依頼を受けた今、すべきことは戦いに向けぬかりなく準備をし一刻も早く仲間のいる荷馬車へ向かうことだった。
途中伝書鳩――もとい可憐な飾り羽を生やした鳥人から、今回の依頼の概要が記された紙と腕章を受け取り、
ついでにと渡された速達回覧に書かれた大量の伝言や絵をつらつらと流し見る。
【#憧れる理想の馬車ドン】やら【#馬車殴り代行】いう印がやたらと目に付いたが気にしないことにして回覧を鳥人に返した。

ぽっくりぽっくり、騾馬の背に揺られて街道を進むこと四半刻程、漸く前方に二台の荷馬車が見えてきた。
この道の先に広がるのは暗く見通しも良くない深緑の森地帯。
そこに近づくにつれ、うなじの毛を逆撫でる様ななんとも言えない不快感が強くなってくる。
生理的な嫌悪にも似たこれは間違いなく魔力の気配といえる。
生まれつき魔力との相性の良くないドワーフだったコルガだからこそ分かる、独特の感覚。

と、目の前の森の木々が震える様に動いた、気がした。
コルガはその様を見とめると短く声を上げ、速足の騾馬を急かす。
ぐんぐんと二台の荷馬車に近づいていき、連絡用の腕章に向かって声をかける。

「増援で来た、……わたし、コルガ。盗賊、来た?」

後続の荷馬車まであともう少し、しかし前方の馬車の前までは見通せずコルガはギリ、と奥歯を噛んだ。
背中に背負っている頑強でひたすら重そうな戦槌に手をやりながら、森の奥に視線を走らせる。
33名無しになりきれ:2014/04/09(水) 10:06:10.63 0
「コルガではない…私は、コウガだ…」

その女は言った
34名無しになりきれ:2014/04/11(金) 00:32:57.70 0
>>33
ウソダ!!!!!
35メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/04/12(土) 13:35:08.39 0
「え…あ…マジで?んじゃお言葉に甘えちゃおっかなー」
快諾されるとは思ってもいなかったメルティは動揺するそぶりをみせるが
依然変わらず、寝転がったままだった。
「いやー、フローラちゃんは良い子だねー、絶対良い奥さんになるよ」
などとそんなことを言いながら、何気なく視線を後方の馬車へと向けた。
ちょうど、そのタイミングでホースゴーレムが異常をきたした。
「あちゃー、こりゃ一度止まんなきゃ不味いかな」
そう言って、指示を出そうと思った瞬間、シュレッドが故障したホースゴーレムにまたがりすぐさま修理を始めた。
「動かしならが直すとかやるじゃん」
その手際の良さに感心しシュレッドにそう伝えると、メルティは馬車の速度を緩めるよう指示を出した。
森へはまだ幾許か時間はある。後方の馬車が追いつくには十分だろう。

しばらくして、一行は盗賊が潜んでいる森の目の前まで到達した。
「…うっし、休憩終了っと」
森の異様な気配を感じ取ったのか、メルティは立ち上がり目の前の森を睨んだ。
その表情はいつもの能天気さが嘘のように思えるほど真剣だった。
その時、増援のコルガの到着を確認する
「いや、まだだよ。そのまま、後方の馬車の前についてもらっていい?」
いよいよ、一行は森の中へ踏み入る。
「さて、そろそろ森に入るけど皆いつでも動けるよう準備しとくように」
こうして一行を乗せた馬車は森の中へ入っていった。

〔森〕
森の中は異常なまでの静けさと嫌な気配が立ち込めていた。
「静か過ぎる」
ポツリとマルティが呟く
「フローラちゃんさ、こういう森に入ったことある?」
周囲を警戒しながら、フローラに問いかける
「私は実際入ったことはないけど、話なら聞いたことがあるよ
 森がここまで静かな場合、二つ考えられることがあるんだって
 一つは、生態系が壊れて、生物がいなくなっているか、そして、もう一つは…ッ!!!」
それは、突然の出来事だった。
なんの前触れも無く、それは目の前に突き刺さった。
土煙が舞う中、それがなんだったか遅れて認識することになる。
それは、乱雑に抜かれた大木だ。
しかし、それに驚く時間も疑問を持つ時間は無い。
盗賊だ。間髪をいれずに盗賊たちがおそいかかってくる。
盗賊たちは前方と後方から挟み撃ちの形で迫ってくる。
「敵襲!!!」
メルティは叫びながら、剣を抜き馬車から躍り出る。
土煙を切り裂くように走りながら、敵の数を確認する。
「前方零時、敵を確認
 前方2、3時の方向、木陰に弓兵が数名、フローラそっちのほうは頼んだ
 後方そっちの状況を報告!」
団員に指示を出すと、メルティはそのまま敵の中へ向っていく
矢を紙一重で交わしながら、盗賊との距離をつめる。
お互いの間合いに入った瞬間、盗賊は自身の得物を振り下ろすが
「おせぇよ!」
盾を振るい、強引にそれを弾き飛ばす剣闘士特有のパリィで受け流すと
間を置かずに刃を振り下ろした。
盗賊は咄嗟に盾を構えるも、当った瞬間、たては真っ二つに折れ、剣の一閃が盗賊の首を刎ねる。
「そんなちゃちな盾で私の剛剣は防げないよ」
返り血に濡れながら、すぐさま次の得物に向かって奔る。
その姿はさながら血に飢えた獣だ。

【盗賊襲来、各人お好きなように暴れちゃってください。】
36フローラ ◆CFwoAEJ66. :2014/04/12(土) 20:03:56.71 0
「は、もうゆっくり休んじゃってください。ほらほら」

メルティに寝転がるように促そうと振り返るも、彼女はすでに横になっていた。
そもそも会話の間中メルティは横になっていたのだが、フローラにそれを知るすべはない。
すこし肩透かしを食らったように、あははと乾いた笑いをもらして誤魔化す。
気が楽になった余裕から少し鼻歌混じりに。それでも見張りはしっかりと。

>「いやー、フローラちゃんは良い子だねー、絶対良い奥さんになるよ」

聞こえたそんな声に鼻歌が一瞬裏返る。
だが次の瞬間には何事も無かったかのように先のメロディが流れていく。
......よく聴けばほんの少しだけ、テンポが歪んでいたりするのだが。
同様をメルティに悟られまいと、紅潮した顔を向けることもせず。
そうして街路を進むうち、件の森が広がってきた。
37フローラ ◆CFwoAEJ66. :2014/04/12(土) 20:48:02.14 0
「はい。静か過ぎます」

生まれ育ったのは放浪の民族。行く先さえ気ままな自由の風土。
湖を、草原を、森林を。あらゆる環境を糧とし暮らす、自然に生きる日々だった。
そんな彼女にはすぐに解った。今この場所が異常だということ。

「ありますよ。ええ、何度も」

背負ったコンポジットボウ。左手を背に回しゆっくりと取り外す。
紅蓮、蒼碧、新緑、黄金。四色の宝珠が僅かに顔を覗かせる。
周囲を回っていた一匹の妖精が少しだけいつもより小刻みに羽を震わせる。
フローラの肩にかかった髪が僅かにふわりと風を受ける。

>「私は実際入ったことはないけど、話なら聞いたことがあるよ
> 森がここまで静かな場合、二つ考えられることがあるんだって
> 一つは、生態系が壊れて、生物がいなくなっているか、そして、もう一つは…ッ!!!」

「人間...!」

ひときわ大きく髪が揺れ、次の瞬間には大木が刺さる。
右に大きく掲げた弓の緑の宝珠が光を放つ。羽を震わせていた妖精も淡い光を纏わせる。
剣でも振るうように弓で空間を薙ぐと、砂煙を切り裂くように風の剣閃が吹き荒ぶ。

「了解、弓兵を迎え撃ちます!」

フローラの的確な指示ですぐに弓兵の一団を発見する。遠距離武器の無力化は最優先だ。
首を回す、その間にポケットに手を入れるようにして腰に掛かった弓懸を装着する。
そのまま矢すら番えずに弓を引き絞り、口元で呪文を詠唱する。
木々が生い茂る森林地帯でも行動に支障が出ないように小型化されたその弓へと風が一点に寄り集まる。

「―――破ッ!!」

離した弓から不可視の一矢が一本の木に向けてまっすぐに放たれる。
目いっぱい引き絞り風の力を得た一撃は樹木にほんの小さな風穴を開けてその向こうの人間を射抜く。
それに気付いた弓兵たちは弾かれたように次々に矢を番え始める。
奇襲は成功、脅威も植えつけた。動物ならここで引き下がるが、人間は違う。
次は風を拡散させて、威力は小さくても広く当てに行く。こちら側が被る被害は出てくる前に潰してしまう。
少しずつ、じわじわと。風の力で届いてはいるものの決め手にかける射撃は、それえも確実に弓兵たちの戦力をそいでいく。
38シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/04/12(土) 21:48:39.79 0
森の妖気は通常程度に魔力が感じられれば只ならぬ「雰囲気」として感じ取れるものである。
それはどこか退廃的で、何か負の感情を呼び起こすような黒魔術の気を感じさせるものだった。
さて、この竜人はいよいよ本番といったこの場面においても割と呑気・・・というより、妖気に反応した闇属性素材を、馬車を降りては拾い集めていた。

「うおおドクブタノフグリ!この時期に芽を出しているとわ!んっあれはマガタマダケでh」

完全に好奇心が彼の危機管理能力を相殺どころか消し飛ばしている。
最も、ドラゴンという種族自体自然界において殆ど敵無しな種族であるため、その名残としてシュレッドにも「ニブさ」がしっかり受け継がれているらしい。
とは言っても彼には飛竜のような強靭な翼もなければ東洋龍のような神懸り的な能力も、鋼鉄の如き鱗も見当たらないわけで・・・

「さて、そろそろ予備のポーチも埋まるしこのくらいに・・・」

パンパンになったポケットを見て流石のシュレッドも大きな頭を上げ―――その時だった。
鋭い風切り音を立てて馬車に突き刺さった矢。気づくと頬に走っていた切り傷、そして垂れる血。
直後、火薬詰めの大砲が着弾したような荒々しい衝突音が前方から響く。
<「敵襲!!!」
梢が引き裂かれ、何人もの足音・・・その辺りでシュレッドの思考は吹っ飛んだ。
39シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/04/12(土) 21:50:01.62 0
「うわああああああ!うわあああああああああ!」

竜の咆哮とまでは言えないが耳をつんざく程度に大声は出せるようで。それは近くにいた弓兵をびびらせるという思いもよらぬ貢献をした。

前後の馬車への挟み撃ち。盗賊らしく全て林の死角から来る奇襲であった。
大きな苔むした岩の陰、道を挟んで一本だけ、異様に太い楠の木の枝にそれぞれ弓兵。
そして想像していたよりかなり立派な鉄槌を構えた槌棒兵が、左右の木の上から馬車に向かって飛び掛り、続いて長柄の鎌のような得物が伸びてくる。
普通の鎌なら農奴あたりの貧乏盗賊だろうが、農具にしてはやたらと歯が小さい。恐らく騎馬兵を引きずり下ろす強靭な物であり、積荷や馬車を壊すのも容易だろう。
ああ、そういえばこういう暖かい時期は麦含め多くの作物の植え込みが始まる。戦争が減り傭兵が暇になって傭兵崩れも起こる時期だ。

「(ザリッ・・・ガシャッ・・・ゴゴゴゴ・・・・)」

先程の大声で一瞬止んだ矢の攻撃。その間にすさまじい逃げ足で馬車に飛び乗り、幌を切り裂き、目にも留まらぬ早業で護衛用ゴーレムをチューニングし起動する。
ゴーレムは丁度、後方馬車の人員を弓兵から庇うように起き上がり、僅かながら男衆達に戦闘準備の余裕を与えた。
後続の弓がゴーレムにすっ飛んでくる。安価とはいえ泥岩と砂利を敷き固めた複合装甲はそれなりに硬く、突き刺さりはしても致命傷には全くなっていないようだ。
馬車を叩き割りにかかる槌棒兵の一人にラリアットを食らわせ、ゴーレムは積荷を守るような形で勇ましく陣取った。
見ると前方では巨大な大木が地面に突き刺さっている。伝書で見た絵と同じもの。これほどの大木を動かせる物と言えば――――
・・・尚、シュレッドはというと荷物の山に潜りしゃがみ込んでぶるぶる震えていた。
40名無しになりきれ:2014/04/13(日) 15:34:02.83 0
シュレッドがシュレッダーにかけられる

「うわぁあああああああ!!!!!!」
41名無しになりきれ:2014/04/14(月) 01:43:59.87 0
シュレッドってほぼ荒らしだな
42ジャム ◆dEgS0EaW9zOd :2014/04/14(月) 11:25:42.47 0
>「敵襲!!!」
>「うわああああああ!うわあああああああああ!」

団長からの号令、及び直後に聞こえた叫び声により、否が応でもジャムの意識は覚醒する。
すぐに馬車から飛び降り、状況を確認する。襲いかかってくる盗賊達。木々に隠れて弓兵が弓をつがえるのも確認できる。
前方馬車の近くには土煙もあがっている。ここからではよく見えずうまく判断は出来ないが、何かの足止めがあるのは想像に易い。
「こっちも弓兵が何人か、あと白兵の輩がひい、ふう……めんどくせぇ。それなり」
襲われている最中というのに、焦る様子もなく。団長に報告しろと言われたからであろう、悠長に腕章へと現状を告げる。

「さて、と」
今は戦闘用のゴーレムが守ってくれているとはいえ、動きはそこまで機敏ではないはず。盗賊退治より、とにかく馬車を守らねば。
「――」
口を動かす。見れば、何か詠唱しているのはすぐに分かるだろう。神に仕える者だけが行使することを許された、神の奇跡を用いた魔法。
しかし、神官姿の男が何か詠唱していることに気づいた盗賊の1人が、ジャムに向かってその得物を振り上げ襲いかかる。

その武器が当たらんとする、が空を切る。ただしゃがみ込んだだけだ。だが殺ったと思い切って振り込んだ盗賊は大きく平衡感覚を崩す。
あとはジャムは軽く足払いをするだけだ。軸足に軽く蹴りを入れるだけで、盗賊はものの見事にその場に転倒する。その背中を踏みつけて。
「あんまり戦いそうにない服装だし、しかも何かの詠唱中。楽勝とでも思ったか?頭わりーんじゃねぇのか」
このような荒事もこなすギルドの一員である。修羅場もいくつかくぐってきた。油断など、遠い何処かに置いてきた。
「少なくとも俺は殺しはしねぇから安心しろや。無駄な殺生は禁じられてるからな。かといって痛くしない訳にもいかねぇんだ。
 まぁアレだ――せいぜい神に懺悔しな」
神官がメイスなどの打撲武器を使う理由として、戒律によって刀剣を扱うのが禁じられているということが主たるものであろう。
しかし、打撲武器が斬撃武器に劣るという証左にはならない。振るうだけの筋力があれば、それは十分な凶器に他ならない。
力任せに振り下ろす。その重量を以って押し潰す。骨の砕ける音がした。

呻く盗賊を尻目に再びメイスを構えるも、ジャムは自分から敵に向かっていったりはしない。腕利きが揃っていることは分かっている。
とりあえずの処理は味方に任せる。相手が何をしてきても対応出来るよう、自分はこうして一歩下がって大局的見地から戦況を見守るのだ。
サボっている訳ではない、のだがそうにも見えるので。ジャムは弓矢を気にしつつ、先ほど阻害された魔法の詠唱を再び始めた。
43名無しになりきれ:2014/04/14(月) 20:45:44.82 0
>「敵襲!!!」
>「うわああああああ!うわあああああああああ!」
44ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2 :2014/04/16(水) 01:55:20.54 0
「なんじゃ、コルガの奴まで呼ばれたのか?
 護衛依頼にあのドワーフまで寄越すとは、マックスの小僧も何を考えてお――――ぷぺっ!」

増援としてやってきたドワーフ族のコルガ
ギルドの中では中堅所であるその女の到着に怪訝な表情を浮かべるライアであったが、
直後に突如として起きた、まるで巨大な質量が地面に叩きつけられたかの如き揺れと、
ホースゴーレムが緊急停止した事により発生した慣性の力によって、その思考は強制的に中断される事となる

具体的には、シュレッドが待機状態であったゴーレムを起動させた事と、
先の揺れによって体制が不安定だった事が相まって、
ゴーレムの背に乗っていたライアは顔から馬車の床に落ちたのだ

「お、おのれ……シュレッドの坊主め、いきなりゴーレムを動かしおって。後で身体から色々剥がして売ってやるのじゃ」

その後、痛みと羞恥の為に暫くの間動けなかったライアであったが、
やがて赤くなった鼻の頭を手で摩りながら立ち上がる
そして、フラフラと馬車の外へ顔を出せば、直ぐ眼前に骨を叩き折られた盗賊と
何かの詠唱をする神官であるジャムの姿
奥には矢を番えるフローラと、盗賊の首を豪快に叩き斬るメルティ
……あと、ゴーレムを暴れさせつつ震えて荷物に頭を突っ込むシュレッド

(ほう……挟撃と言い、展開の速さと言い、盗賊にしては随分と練度が高いものじゃな)

ライアが馬車から出てくるまでの間に、戦闘は始まっていた
奇襲と挟撃を行い数で攻める盗賊と、それに対して技能で圧倒するギルドの面々
一見してギルド側に天秤が傾きつつある攻防。だが

「このままなら容易く勝てるじゃろうな……じゃが、何か嫌な予感もするのぅ」

ぽつりと呟くライア。それは、虫の知らせの様なものだった
果たして、数人の個人技で封殺される盗賊がどうしてこれまで退治されずにいられるものだろうか
或いは、先に投擲された巨木を『引き抜いた』のは何者なのか。
そういった疑問の積み重ね、それが齎す不安……様々な要素が、ライアの警戒心を刺激する。だが

「まあ、どんな策を弄していようと――――盗賊共を殲滅する事は変わらんがの
 一匹銀貨五枚。気合を入れて稼ぐとするのじゃ」
45ライア=ワードレス ◆yCE/UC4zB2 :2014/04/16(水) 01:56:18.11 0
ライアは、フードの下でニヤリと悪人じみた笑みを浮かべると、そんな不安など関係ないとでも言うかの様に
右手に持った杖……竜の骨で出来たとされるそれの先端を、後方から襲ってきた盗賊達に向ける

「盗賊共、貴様らにワシの魔法を見せてやるのじゃ。御代は貴様らの首にかかった賞金でいいぞい」

ライアがそう言い放った直後、杖の先端が置かれた中空に、青く光る円形の陣が浮かび上がる
ライア自身の魔力によって描かれた、古代文字と現代文字が混じり合い、複雑怪奇な数式が書き込まれた円形の陣
名を『魔法陣』というそれは……魔法というこの世の摂理を外れた異端の力を生み出す為の術式であった。

「『土蛇(アース・スネーク)』――――!」

そうして、ライアが構えた杖をほんの少し前に突き出すと、それは起きた
盗賊達の足元の地面が突如として変形し、それがまるで蛇の様な形を取り盗賊達に絡みついたのだ
突然の出来事に驚いた盗賊たちは蛇を振り解こうとするが、剣で切ろうと殴りつけようと
土で出来た蛇は即座に再生し、盗賊達を絡め取っていく。
やがてその土の拘束は首元までに達し、締め上げ、呼吸する機能をも奪い始め……徐々に盗賊たちが倒れていく。

「殺しはせんから安心するのじゃ。貴様らには後で、貴様らが溜めこんだ金品の所まで案内させねばならんからの」

そこまで言った時、ライアは自身の魔術範囲から逃れ、馬車の方へと向かっていく数人の盗賊を目撃した
本来であればその場で追いかけていき迎撃をしなければいけない状況ではあるが、
けれどライアは彼らを追いかける事はしなかった。何故ならば

「……よりにもよってあちらに向かうとは、運の無い連中じゃのぅ
 あちらには、コルガの奴がいるというのに」

盗賊達が向かった先には、褐色の肌を持つ少女の様な見た目の女――――コルガが居るからだ
46名無しになりきれ:2014/04/20(日) 01:02:53.83 0
その褐色の肌の少女は

跳ね飛ぶと血を噴出した
47 ◆kEgNZfTROQ :2014/04/24(木) 00:20:58.77 0
〔森〜メルティ達から離れた小高い丘にて〜〕
「流石は商会といったところかな、そこそこの手練を雇ったみたいだね」
丘の上で優男が双眼鏡でメルティ達の様子を伺いながら喋る
「まぁこの程度のことなら十分予測の範囲内だ。問題はねぇさ」
その隣で同じく双眼鏡を覗いていた髭面の男は口元に笑みを浮かべてそう返す。
「にぃちゃん、オデも双眼鏡みてぇ」
オークと見間違えるほどの醜男が優男に詰め寄る
「仕方ないな…ホラ、壊すんじゃないぞ」
優男は醜男に双眼鏡を渡すと、腕を組み、考える素振りをみせながら髭面に尋ねる。
「ウォリアーが2人にアーチャーが1人、それにプリーストとウィザードとアルケミスト
 護衛向きじゃないメンツではあるけど、あの様子だと現場にいる連中じゃ太刀打ちは出来ないね
 どうする『頭』、行くなら僕は構わないよ、あのアーチャーの娘を狩ってみたいし、新しく買ったコイツを試したいからね」
優男の問いに、髭面もとい盗賊団の頭領は双眼鏡を外し、優男を一瞥して、答えた
「今はほっとけ、丁度選別したかったところだしな…
 生き残る奴は生き残るべくして生き残る、今死ぬようなクズは助けたってすぐ死ぬ
 それはお前らが一番わかっているだろう?」
「相変わらず子分には厳しいねぇ、まぁ否定はしないけどさ」
お互いに笑みを浮かべながら頭領は続ける
「それに…だ、商会の品よりも金になるモンを見つけ」
<ベキャ!>
話を遮るように異音が発せられる。
反射的に視線を向けた先には、見るも無残に握りつぶされた双眼鏡と
小刻みに震えながら呆然と立つ醜男の姿だった。
「…してぇ」
おもむろに醜男が呟く
「あの褐色女ぁオ…オデの嫁にして!」
醜男のいきなりの発言に、頭領と優男はポカンと口をあけた。
「…あぁそうだね…確かにお前ごのみだとは思ってたよ」
「気持ちはわかるが、逸るんじゃねぇぞ!会えない時間が愛を育てるって言うしな
 って話が逸れちまったな、連中が連れているあのドラゴニュートを攫うぞ!」
「オデの嫁は」
「そのへんは好きにしろ、とりあえず、一旦アジトに戻るぞガンス、ランス」
「現場の連中はどうする?」
「しばらくしたら撤退の狼煙をあげさせるさ
 次に連中を襲うのは、再び奴らがここを通るときにするからな」
双眼鏡をしまい、踵を返してアジトへ戻る頭領を追うように『ガンス』『ランス』と呼ばれた
優男と醜男はその場を後にした。
48メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/04/24(木) 00:27:36.23 0
〔森〜荷馬車付近〜〕
「クソッなんなんだあいつ等はよぉー!」
盗賊達は狼狽する。
「鎧ごとぶった切ってくる女戦士が出てきたと思ったら、木ごとぶち抜いてくる弓使いが後ろに居やがるし
 なんだよ、クソがたった2人しかいねぇのに近づけやしねぇ、こうなりゃ後ろの車両を狙うしか」
「だったらさっさと行ってこいよ!神官かゴーレムに殴り殺されるか、魔法で締め上げられるのがオチだぜ」
「こうなりゃ分断だ!奴らの間に分け入って分断すりゃその内ボロが出てくる」
前方、後方共に攻めるのが困難と見た盗賊たちは、君達を分断するために中央へよってくる
だが、しかし、そこで盗賊たちが見たのはまた別の地獄だった。
「なんだよ…こりゃ」
そこでは、コルガが自身の得物を振り回し、盗賊を次から次へとなぎ払っていた。
だが、彼らに茫然自失に浸れる時間はない。

「敵が中央に集まってきている!!!一気に畳み掛けるぞ」
メルティが腕章に向って叫び、盗賊たちに突っ込んでいく
「フローラ!私は右に集まっている連中をやるから、左側をお願い
シュレッド!ビビッてないで状況に慣れろ!
 爺!ケチらずに派手なのを一発よこせ!
 ジャム!フローラと一緒に左側の掃除!」
各々に付け加えると、メルティは目の前に迫っている盗賊を睨み、一閃、盗賊の腕が斬り飛ばされる
更に一閃、近くの盗賊の膝が割れる。次々と盗賊を切りつけていく、
49名無しになりきれ:2014/04/24(木) 00:34:00.45 0
更に一閃、近くの盗賊の膝が割れる。次々と盗賊を切りつけていく、
 ↑
これ文章としておかしいし物理的に色々破綻してる
50シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/04/26(土) 01:13:07.96 0
>シュレッド!ビビッてないで状況に慣れろ!

やはり手馴れなのか引く様子を見せない盗賊の散撃。
既に馬車の幌は襤褸切れと化し、至る所に矢が刺さり最早戦場である。
振動と衝撃のたびに飛び上がっていたシュレッドの頭に、団長の声が響く。
その一種の叱責がエコーとなって頭に響き、それはどこか淡い昔の記憶を呼び起こしていた。
思えば、小さい頃からそうだった。

『やーいのろまー!デカ頭ー!』
同じ種族の若衆は、皆逞しい四肢や鋭い大顎を振るい、自分よりもずっと強くて早くて、華々しい凱旋を繰り返し故郷の礎となっていった。
『兵隊にも出ねえで毎日妙ちくりんな本ばっかり買ってきやがって!ボンクラ息子は家にゃあいらねえぞ!勘当だ!』
そうして近場の国を渡り歩き、偶然行き着いたこの生活。

>「お、おのれ……シュレッドの坊主め、いきなりゴーレムを動かしおって。後で身体から色々剥がして売ってやるのじゃ」

少なくともあの魔術師には隠し事がばれている。実際、その学を持っていれば牙、皮、角、自分の身体は全て希少素材のオンパレードだ。
現にそれを承知で雲海を降りてきたのだし、それは自分への試練であった。
ところがこの状況において、今こそ身を守るべき時において、自分はただ荷物に頭を突っ込んで震えている。
なんてザマだろうか。抵抗すらできない。そして役に立てていないんじゃないかという焦燥感が、

「ち・・・ちくしょう・・・・どいつもこいつも好き放題言いやがって・・・!やってやる・・・やってやるぞ・・・!」
そんな逆恨みにも似た衝動を生み、シュレッドは荷物の山の上に這い上がり、不釣合いに発達した頭の大顎を思いっきり開く。
髪のように見えていたその牙は、磨いだナイフより鋭く、太かった。またシュレッドの額から上が”全て”上顎となっている。
そのシルエットは正に「人外」であり、着ぐるみのような印象は一瞬で消え去ってしまう、異型の竜であった。

「Vedgragzyaaaaaaaaaaaaaaa!」

舐めんなこんちくしょう、の意。興奮からか思わず地元の竜語で叫んでいる。特定されたらどうするつもりだ。
馬車から飛び上がり、手近で様子を伺っていた盗賊へ、その巨大かつ凶悪な形状の上顎を全体重をかけて叩きつける。
威力は想像するに難くない。闇レートだが牙一本で金貨1枚はする天然の短刀がずらりと生え揃っているのだ。
頑丈な兜に刻まれた歯型と、色々とあらぬ方向に曲がって倒れた盗賊を見れば一目瞭然であった。
51シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/04/26(土) 01:14:19.12 0
「おい、なんか見ねえ種族がいるぞ!」
「あの頭にぶら下げてる天秤みたいなの高そうだぞ!攫っちまえ!」

さて、幸か不幸かシュレッドの渾身の一撃を盗賊達は誰一人、見ても聞いてもいなかった。
それどころか、竜の髭にぶら下げた純銅製の魔力天秤に目をつけられてしまう。そういえばそれなりに高いものだった。
知らぬ間に盗賊は馬車と馬車の間に寄っており、シュレッドは混戦のど真ん中に丸腰で集中砲火を浴びながら逃げ回る格好となる。
先程の巨顎竜の片鱗は何処へ行ったのか、平時の丸っこい姿に戻り必死で跳ね回る。

「えっ!?いまのノーカン!?ちょっ!やめっ!ぎゃーーー!いやーーー!」

形勢が覆りつつあると見るや盗賊は岩を投げたり、砂を撒いたりととあらゆる手段を使い防御陣形を崩しに掛かってくる。
見ると辺りは存外豊富に岩が転がっており、投げるには丁度良い重さのようで、それが幾つも飛んでくる。
苔生してはいるが、色からして石灰岩。しっかり開発すれば良質な石灰が取れそうだが、今は投擲弾でしかない。

混戦の中で白兵はこれでもかと場を掻き乱し、砂塵が相俟って奥に構えた弓兵に照準が定めづらくなる。
最も相手方も同じなのか、時折突風に煽られた矢が予想外の方向に飛んでくる。
馬車に刺さった矢はかなりの量になっており、柔らかい場所にはそのまま撃ち返せそうな代物まである。

また長柄の一人は積荷に鎌を引っ掛け、抜け駆けをする様に積荷を引き摺り下ろそうとする。
何とも盗賊らしい浅ましさだが、こんな姑息な手段で貴重な商材を盗まれたのではたまったものではない。
ゴーレムが気づいて一人を跳ね飛ばすが、存外抜け駆けは多い。
そんな周囲の状況をシュレッドは知る由も無い・・・・と、どうも危うく捕まりかけている様子だが?

「おいそいつ押さえつけろ!すばしっこいったらありゃしねえ!」
「いでででで!離せ薄らハゲ!このっ!このっ!」
「ぐげっ!ごがっ!言ったなてめえ!身包み剥いだ金でルミエリアの育毛剤買い占めてやrぶべら」
「ハゲなんかに絶対負けないもん!」
52名無しになりきれ:2014/04/26(土) 01:31:43.74 0
凄いジャンプ!

シュレッドはシュレッダーによって死んだ
53名無しになりきれ:2014/04/30(水) 22:33:52.77 0
やるきがないならやめちまえ
54名無しになりきれ:2014/04/30(水) 22:45:31.78 0
現在の避難所はアクセスできない状況が長期続いてて、管理人も不在なので復帰が不透明
新しい避難所を検討した方が良い
55名無しになりきれ:2014/04/30(水) 23:34:47.95 0
避難所ないとロールの打ち合わせも出来ないからね
56メルティ ◆kEgNZfTROQ :2014/05/01(木) 00:01:17.97 0
なんか書き込みエラーが起こっているみたいなんで新しい避難所を設けました。
助言ありがとうございます。

http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/9925/1398870009/
57名無しになりきれ:2014/05/01(木) 00:48:02.37 0
>>55
ドス…

(メルティ ◆kEgNZfTROQ が追撃を受け暗殺される)
58名無しになりきれ:2014/05/21(水) 00:20:43.81 0
お前らとアナル開発したくてminecraft買ってきた
59 ◆yjsGG.N8rw :2014/05/21(水) 20:35:26.28 0
毎度の朝礼はそりゃもううんざりするほど同じような依頼同じような日程同じようなメンバー同じような依頼・・・
ここんとこ大したキナ臭さも無い依頼ばかりを捌くこの状況にいい加減飽きるだろうとお思いの諸君、その通りである。
実に退屈な最早日常と化したその行為はたとい殺し合いだろうと全く以って張り合いがない。
だが安定した利益という尊い物の副産物ならいくらでも安いものである。それをどうかご理解いただこう。
で、そんな蟻の行列を延々と潰すが如き毎日にそれはそれで困った非日常が起きた・・・
事の始まりは会計の連中の騒ぎに遡る―――

「あぁぁあぁクソっ!また偽造硬貨だ!」
「今週四度目ですよ・・・自警団も一向に連絡寄越さないし、どうなってんですかねぇ」

寝なべで金属の塊を数えて量って何が楽しいんだか自分にはさっぱり理解できないが、とにかくその日の会計連中は騒がしかった。
見た感じ全く同じ形の硬貨を天秤に乗せてはぺちゃくり回り、半分笑ってはいるが半分憤っている。
銭ゲバ共が困窮するのは見てて面白いもんだがこれに関してはウチの金だから性質が悪い。
この世にはいさかいを生む物が三つある。飢餓、痴情、空の財布。中でも空の財布は飛びぬけて最悪だ。

「やれやれ、朝っぱらからご苦労な事ですね?両替商諸君」

「ひぇっ・・・」
「ヤクzっ・・・あ、副団長・・・」

「騒がしいところ申し訳ありませんが、そろそろ今週の誤差を纏めて提出してくれませんかね」

「は・・・はい・・・しかしその・・・」
「はい?何か問題でもございましょうか?」

「えーその会計作業の上で問題が発生いたしましてその・・・締め切りには間に合わせますんで・・・」

強面なのは自分でも解かっているのでなるべく穏便な言葉遣いをするようには気をつけている。
のだがそれでも鷲鼻の男は、いやこのゴブリンは自分の姿を見るやいなや体を飛び上がらせて震え声でそう言った。まったく失礼極まりない。
当然この程度で会話を詰まらせる必要など本来無い。特に会計の連中は後ろめたい奴が多すぎだ。一体どれほどの額をピンハネした?
というわけで恐らくは連中が一番うろたえているであろう事象にダイレクトアタックな質問を一切オブラートに包まずナイフと一緒に投げつける。
しみったれた色の柱に投げナイフが突き刺さり、鈍い音を響かせる。
こちらも、もちろん全力の笑顔で。

「今 週 詐 欺 ら れ た 額 は 幾 ら だ っ て 聞 い て ん だ よ 」

「「ひいいいいいい!」」

その悲鳴が少なからず今朝のギルド員の安眠を妨害した事は想像に難くない。
60 ◆yjsGG.N8rw :2014/05/21(水) 20:36:06.57 0
―――ギルド寄宿舎、大食堂

ミーティングルームは今のところ差して重要でもない仕事の会議で埋まっている。なので急遽こちらでミーティングすることになった。
周りは伝書鳥が行きかったりウエイターが飯を運んだり、昼間っから酒で潰れているろくでなしがいたりと騒がしい。
奥では大量の食材が調理されており、空腹を誘う匂いがそこらじゅうを漂っているがマックスはそんな事には微塵も動揺する様子を見せない。

「というわけで仕事は次の通りです。
ごく最近此処ルミエリアへ流れてきた偽金貨はご周知の通りでしょう。
昨夜、ついに密書で王都グランヅヴェウから出てきているという情報が入ってきました。のでこの出所をいい加減に潰します。絶対に潰します。以上」

自慢ではないが自分は金銭絡みの事情にはめっぽう厳しい。それが原因で恋路に敗れたほどである。
だがこんな事で只でさえ不安定なギルドの収益を大幅に減らされる事などあってはならない。
そしてヒューマン史上最大の発明である貨幣を冒涜する輩など一秒たりとも存在を許してはならない。
可及的速やかにマフィアだろうが何であろうが乗り込んでひねり上げて粉微塵にしてくれる。
でもなければ何のためにこんな筋肉馬鹿ばかりを雇っているのか解からんではないか。

「もちろん目星など付いていませんが、出所の情報が来ただけで十分です。
まず王都市民のフリをして手当たり次第に怪しい取引を当たります。そこでこのルミエリア偽金貨。
これをグランヅヴェウの王都金貨とあえて交換させて商品を取引するんです。
まともな取引であれば両替の時点で取引が中止されるはずです。これでスムーズに交渉が進んでしまうならそれは偽通貨の回収、つまりグレーか黒。
拷問でも尋問でもしてやってください。相手がゲロればいいんですからね」

その淡々とし、かつ驚くほど流暢な説明と、時々見え隠れする不穏な語彙が既に少しキレ気味であることを伺わせていた。

「ある程度の目星をつけたらそいつの所属を徹底的に洗います。尾行で失敗するなどあってはなりませんからね。
 わざわざ向こうも商会を一つ寄越してくれるとの事ですから、報酬は期待していいですよ」

王都の商会のバックアップ。裏を返せばこの一連の流れが政治介入の種であるという事。
自身の都市が偽通貨を流通させていると知れれば王はたまった物ではない。そしてそれをひっ捕らえたとあらば尚更だ。
と言ってもこの情報を寄越してくれたのが向こうの商会とのことなので、流石にそちらの報酬は向こうに譲らなければならない。
それを差し引いても、王都の商会の報酬というのは魅力的な物なのである。
61シュレッド ◆yjsGG.N8rw :2014/05/21(水) 20:40:16.11 0
子供並みの体躯と子供のような顔に見たこともない竜の頭が乗っかったなんとも張り合いの無い姿。
傍目にはただの着ぐるみにしか見えないその自称竜人が真っ先に質問を返す。

>「もちろん目星など付いていませんが、出所の情報が来ただけで十分です。
>まず王都市民のフリをして手当たり次第に怪しい取引を当たります。そこでこのルミエリア偽金貨。これをグランドヴェウの王都金貨とあえて交換させます。
>まともな取引であれば両替の時点で取引が中止されるはずです。これでスムーズに交渉が進んでしまうならそれは偽通貨の回収、つまりグレーか黒。
>拷問でも尋問でもしてやってください。吐かせればいいんですから」

「はいはいしつもーん、怪しいとこなら買うものとか自由でいいんすか?
経費で落ちるならあれを当たるっす、ヘビネズミのミロ酒漬け!」

名の通りヘビのように長いそのネズミは丹念に小骨を取り除き、特殊な酒に砂糖を入れて漬けたものが非常に珍味で知られている。
しかしヘビネズミは取れる時期も生息地もやたらと偏在しており、時期が違うモノであればその漬かり具合や味や匂いで一発でバレる。
またこれを含めたミロ酒料理は結構な値段がするので、実はかなり贅沢品である。
そのためこれが異様に安値で売られていようものなら確かにそれはそれで怪しい。

だがもちろんシュレッドはそんな事など一分一厘も想定しておらず完全に食い意地から発生した思いつきを述べているだけであった。
文字通りに私腹を肥やす気満々である。あとで副団長に粕も残らないほど絞られるがよい。

>「ある程度の目星をつけたらそいつの所属を徹底的に洗います。尾行で失敗するなどあってはなりませんからね。
> わざわざ向こうも商会を一つ寄越してくれるとの事ですから、報酬は期待していいですよ」

「お、王都の商会・・・だと・・・」

此処ルミエリアも商業都市ゆえに商会の権力もそこそこ強いが、それはあくまで経済的なもので王都の商会とはベクトルが違う。
商材と資産で政治に介入するような連中の用意する報酬だ、骨付き肉を死ぬほど食えるくらいの相場はあって然るべき。
・・・と、世俗極まりない思考であからさまによだれを垂らしているその顔が物語っていた。

「あ、やっぱ偽造金貨ってんだから削ってくすねた金の欠片とか溜め込んでるんすかねぇ、
 ていうか何かしら奴さんの巻き上げたもんとか貰えるっすか?希少素材とか全力で行くっすよ、マジでブースト掛かるっすよ!」

今回の件は偽造通貨製造元を突き当て潰す、ほぼ武力行使確定のかなり大事かつ荒事極まりない仕事である。
故に報酬を期待していいと言われた以上は全力で期待させて頂こうじゃないか。
62フローラ ◆WavOJ.wdWQ :2014/05/23(金) 01:35:44.47 0
(うぅ、何だか今日の副団長さん怖いですよぉ...)

メルティの柔らかな雰囲気に誘われるようにギルド入りしたフローラにとって、彼の刺々しい空気はあまり好ましいものでは無かった。
金銭と言うものはこうも人を狂わせるのだろうか。自然に囲まれて育ったフローラの頭にはそんな的はずれな問答さえ浮かぶ。
時折零れる不穏な台詞、言葉の端々から伝わる怒気。心のなかで肩を震わせながら、今回の仕事のミーティングを聞いていた。

ここでふと、ある疑問が浮かんだ。
しかし口に出してもいいものだろうか。今聞くにはあまりにこの問は場違いすぎた。
森を草原を越え、その日のものをその日のうちに手に入れ使い暮らす毎日。そんな生活と貨幣は無縁だった。
隣の竜人くんが嬉々として語る『ヘビネズミのミロ酒漬け』なる代物の価値もまるで分かったものではない。

「あのー...... なんで私呼ばれたんでしょう...?」

聞きたいことは直ぐに聞いておく方がよい。尊敬する彼女が言っていた。
だからマックスのオーラは怖くても、恐る恐る手をあげて問うた。
言い切る前に少しずつ後悔し、語尾が徐々に小さくなっていく。
この仕事、大丈夫かなぁ。天性の野伏の血が首をかしげる、そんな場違いさに身を少しだけ縮めた。
63名無しになりきれ:2014/07/01(火) 20:11:01.97 0
ほぼ全滅
64名無しになりきれ:2014/07/02(水) 22:56:12.65 0
GMがいないんじゃあねぇ
65名無しになりきれ:2014/07/03(木) 23:52:37.50 0
くそう、面白そうだと見に来たら死んでたか
66名無しになりきれ:2014/08/06(水) 23:07:26.54 0
賢木 和太(さかき かずた)20歳。♂
職業は霊媒師。一応エクソシストの才もあり、祓魔師などの仕事を請け負う。
普段は。軽いノリで仕事をこなすが、大物やヤバそうなものが相手になると真面目になる。
67名無しになりきれ:2014/09/12(金) 01:43:41.53 O
GM…
68名無しになりきれ:2014/09/14(日) 12:56:19.73 0
やれと言われればまたやりたい
でもいま新スレ多いからまたコケそうだなと思っている
69名無しになりきれ:2014/09/14(日) 20:38:11.19 0
始めるのならやりたいなー
良さげなスレを探していたんだ
70名無しになりきれ:2014/09/19(金) 07:42:58.22 O
ちゃんとしたTRPGできるならきたい
71名無しになりきれ:2014/09/23(火) 23:26:31.66 O
どんなGMやればいーの?
72名無しになりきれ:2014/09/24(水) 14:30:31.81 O
例えばだけども

とりあえずギルドと、副団長はそのまま利用

@RPはするけど多少パラメーターも作って…
そのパラメーターとレス時間のコンマ秒利用し、行動成功判定を出したりもする。


ARPがとにかく重要、とった行動により次の展開が動く。
敵だって頑張ってくる、受け手の判断次第で怪我したりもする。
仕事だけじゃなくてただの日常だったりもするかも?
73名無しになりきれ:2014/09/24(水) 14:38:18.44 0
もし俺がやるならダイス的要素は使っていきたいな
ボーナス判定も欲しいが
74名無しになりきれ:2014/09/24(水) 15:05:34.74 O
あ、ダイス持ってないから取り敢えずコンマ利用、のつもりで書きました
75名無しになりきれ:2014/09/24(水) 15:08:55.90 0
勿論そのつもりで
76名無しになりきれ:2014/09/24(水) 16:34:06.97 O
後は人が来るか、にもよるけど…
ファンタジーな世界のシナリオ、介入はし過ぎない、日勤、ならなんとか出来るかも
77名無しになりきれ:2014/09/24(水) 17:12:04.26 O
後は7日間過ぎても書き込まれない場合FOと
なんとか出来るならGMしてみたいけどな
78 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/24(水) 23:27:24.35 O
取り敢えず様子見るから、酉つけてageとくね
79名無しになりきれ:2014/09/25(木) 16:59:59.27 0
>>2の避難所が見れないでござる
80 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/25(木) 17:30:26.68 O
81 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/25(木) 20:31:46.79 O
まあ避難所はいじらなくていいかな
82 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/25(木) 20:55:33.20 O
現在のパラメーター案ー

腕力・物理攻撃タイプは高いかな
体力・防御力、HPをまとめた感じ
精神力・胆力、あと痛みとかに耐えれるか
魔力・魔法をどれくらい使えるか、かな?
知識・単に頭がいいか、後魔法の攻撃力にも影響しそう
容姿・見た目が重要な依頼だってあるよ
素早さ・足も手も、あと不意討ちとかに
幸運・困ったら運任せ


これらに1〜99の値を割り振る感じ
ただし合計480まで

ただの案だけどね
83 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/25(木) 20:57:55.61 O
ちなみに、個人的には合計300まででいいかな?
とか思ってますよん
84 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 00:16:11.58 O
反応ないか〜
85名無しになりきれ:2014/09/27(土) 01:27:22.97 0
面白そうだとは思うが、最低3人ぐらいは参加者ほしいよなー
86 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 01:30:30.94 O
そーなんだよね
私は完全にGM側のつもりだから、参加しないし…
取り敢えず避難所は>>80にあるから、キャラ作ってみたかったら来てみてーな
8785:2014/09/27(土) 01:53:57.30 0
>>86
テンプレは明日の夜中にでも投下できるかなー
あんまり期待しないでいてくんろー
88 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 02:22:21.48 O
>>87
来てくれるだけ嬉しいよ〜
稼働TRPG見たいし
89名無しになりきれ:2014/09/27(土) 02:37:25.06 0
ここのTRPGって中々レスが来なくて長引くやん?熱冷めるやん?
90 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 03:43:41.43 O
>>1からの、元々の程長文じゃなくていいから、レスするつもりな人じゃなきゃやれないね
参加するなら日勤くらいでないと辛いかな

てか元の人帰ってきたらどーしよ
91名無しになりきれ:2014/09/27(土) 07:05:23.56 0
本気でやりたいんならスレ立て直した方が絶対いい
新しいスレの方が人も来るし
92 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 12:01:19.76 O
まあそれも考えたけど
残ってる設定面白かったから、もしこれでも集まるなら、って感じ
新しくたてるくらいならGMじゃなくてPLするし
93名無しになりきれ:2014/09/27(土) 18:40:59.53 i
日勤が地味につらいと思われ
94 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/27(土) 22:38:16.55 O
やっぱ皆はそーなるよなあ…
取り敢えず私は来るからねー

別に仲良く楽しめれば、長々でもいいんだけどなあ
95 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/28(日) 10:06:03.62 O
取り敢えず避難所で応募受け付けしてるからね
ファンタジーな世界が待ってるよ!
96 ◆aGab3MEKhY :2014/09/28(日) 23:43:44.98 0
よろしくお願いします

名前・フロウ
種族・ハーフエルフ
性別・男
年齢・230歳
ジョブ・魔法使い
性格・堅実。安全策が大好き。
髪型・肩の辺りで切りそろえたボブ
容姿・銀髪碧眼に小柄な体格、到底男には見えない。乳白色に紫の縁どりのされたローブ
下には赤いズボン、たまに黒いズケット(帽子)を被る。なお、普通の肌色。
装備・魔法のかかった鉄の中盾と大皿付きの天秤を模した杖(フロウと同じくらいの高さ)
備考・一般的には人間とエルフの間の子をハーフエルフと呼ぶ、がフロウはダークエルフ
の母とエルフの父との間の子である。厳密に区別がなかったのでなんともいい加減
な話である。ロマンの塊のようにも思える彼だが、互いの遺伝子が互いの長所と
短所を潰し合う形になり結果として凡庸な能力となってしまった。
唯一の取り柄は魔法や状態異常に耐性があることくらい。
広く浅いレパートリーの魔法でギルドのみんなをサポートする。

入団の経緯は数年前にフロウが職を探していたときに、ギルドで人員の臨時募集に
応募したのがきっかけで、今のところはずっと契約を結んでいる。
一人ならまだ使い道もあるが何人もいると逆に困るタイプ。
依頼がないときは二階の一角で他の団員と小規模な貸本屋を開いている。

好きなもの・自分が強くなれそうなもの。ローリスク。
苦手なもの・格上挑戦、行き当たりばったり
うわさ1・どうも宗教がらみで何かあったらしい
うわさ2・お酒にはめっぽう強いらしい
97 ◆aGab3MEKhY :2014/09/28(日) 23:44:38.61 0
ステータス

腕力  40
体力  50
精神力 50
魔力  40
知識  50
容姿  90
素早さ 40
幸運  40
98名無しになりきれ:2014/09/29(月) 00:03:44.36 0
避難所で貼ろうぜ?
99 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/29(月) 07:27:15.15 O
ありゃ、こっちにも貼ってくれましたか。
でも今回は参加者がいる、ってわかってもらいやすいからいいよー
100 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/29(月) 14:52:14.44 O
ちゃんと見てまーす
101 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/30(火) 18:44:15.19 O
質問とかも受け付けてまーす
102フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/09/30(火) 23:04:36.51 0
耳を澄ませば海鳥の声、波の音。顔を上げれば流れる雲と青い空。
鼻を鳴らせば、カビの匂いと飯場の香り。ここはギルドの体裁を整えた何でも屋
「銀の盃団」本部、二階建てで下は酒場、上は……まあギルドメンバーの店舗が
ぎゅうぎゅうに詰まっている。

その二階の隅っこにある倉庫めいた一角にあるのが貸本屋「取水亭」であり、
現在店番をしているのが、ギルドメンバーの一人、聖職崩れのハーフエルフこと
フロウであった。




 こんな感じで、とりあえず人が集まってくれるまで質雑をしたり設定を
考えたりしていきますので、よろしければお付き合いください
103 ◆IC7RKFJkf6 :2014/09/30(火) 23:59:31.42 O
店番をしているフロウは、物憂げにため息をついた。
原因は先程来た副団長だ。
「依頼書をおかしな所に混ぜ混んだ阿呆がいてな、書類整理で今更見つかった。
仕方ないから、朝に割り振りをしていなかった奴らを集めている。
声をかけたやつにはこの店に来るように言う、それまで好きにしているように」
早口で言っていた副団長は、随分とイライラしているようだった。
フロウが口を挟めなかったのも、無理もないだろう。
そんなわけでテーブルに置かれた一枚の依頼書。
だが、どんな人と組むかもわからない、行き当たりばったりな現状では、それを読む気にもなれないのであった。





フラグだけ、ね
104フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/01(水) 23:13:41.94 0
カウンターの上に一枚の紙片。受け取りを拒まれた領収書、ではない。
副団長ことマックスが押し付けていったのだ。相当急いでいたようだ。
どれくらい急いでいたかというと、こちらをろくに確認もしないまま
入室から依頼書を置いて退室するまで歩みも説明もまったく止めなかったほど。
傍目には来る部屋を間違えたのではないかと思えるくらい手短な用件だ。

フロウはドアが閉められてから、読書用の丸眼鏡を外して、本から顔を上げた。
そしてドアを見てから、依頼書に目を落とし、溜め息を吐いた。文鎮を件の
紙の上に置くと、目を閉じて今の出来事を整理する。

(何やら副団長殿が苛立っていたようだ。恐らくこの依頼は期限が目前に
迫っているのだろう。いっそ過ぎていてくれれば面倒がなかったのだけど)

耳を澄ましたところで取水亭には現在彼だけであり、生憎と貸本の返却期限
にはまだまだ余裕があった。

(何にせよ、支度をしないとか)
よっこいしょ、と言うとフロウは装備や旅の準備をするため、部屋を出ると
ドアにかかっているボードを裏返して「閉店」にして寄宿舎へ向かった。
105フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/02(木) 23:31:32.38 0
少ししてここは寄宿舎。機能的という表現は聞こえこそ良いものの、実態は
そういいものではない。多種多様な人間を受け入れるようなところの特徴は
大まかに言って「何でもある」か「何もない」のどちらかであり、銀の盃団の
寄宿舎は概ね後者である。ギルドのメンバーが一堂に会することができる食堂
にスペースの大半を占められているせいか他の区画や個室は狭い。

フロウは自分の部屋の壁にかけられている盾と杖を取り、引き出しや道具入れ
から数個の煙玉や魔法陣が描かれた使い捨て用の羊皮紙をローブの内側の
ポケットへとしまった。彼の服は内側の至る所に有袋類のようなポケットが
縫い付けられている。

フロウはざっと室内を見渡した。狭い室内は置かれた本棚のせいで一層
閉塞的であり、人を選ぶ内装となっている。棚の中身は数々の魔道書
(初級ばかり、あっても中級まで)や彼の考察した魔法を記録したノート。

床には畳まれた多数の着替えや保存食の袋。安っぽい子供用の机の引き出し
の中にはやはり魔道書と何らかの教典がある。
ベッドが小さくなければ部屋のキャパシティを超えていたかも知れない

(まあ、特に入用があれば連絡があるでしょう、それにしても)
窓の外からは厨房の料理の匂いが先程よりもはっきりと流れてくる。今は
昼を少し過ぎた頃か。
(故郷にいた頃は、まさか自分がこんなことになっているなんて思いもしなかったなあ)

人よりも尖った小さな耳にかかった髪をかきあげると、フロウはまた小さく溜め息を吐いた。
そしてそのまま、今度は食事をとりに食堂へと向かったのだった。
106名無しになりきれ:2014/10/03(金) 18:42:35.51 O
ちょとあげ
107メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/04(土) 18:49:25.12 O
対してこちらは食堂。
食事時とあって、人が溢れ帰っている…ということもなく、席はまばらに埋まっている。
様々な人種や性格、もしくは依頼の為、食事の時間はそれぞれバラバラな事が多いのだ。
そんななかに、目立つ席がひとつ。
いくつも積み上げられた皿、それ以上に並べられている料理、中央に見える小柄な少女。
なんともアンバランスな光景だが、ギルドの者ならばよく知っている事だ。
その食い様は肉食獣を思わせる、彼女はメアリ、猫科の獣人、とアバウトな認識しか持たない暴れんぼうだ。
「あーもう!なんで書類整理なんかしなきゃいけなかったのよ!
結局唸りながらやったのに、依頼書が混じってたって怒鳴られたし!
副団長だってさあ、あたしにそーゆーの向いてないってわかってるくせにさあ!」
大きな一人言を叫び、炒飯を掻き込む。
一旦落ち着いたのか、やっとスプーンを置き、水をぐいぐいと飲み干す。
「ぷはー…それにしても、あたしは尻拭いしろって言われたけど、このあと貸本屋に行けってどゆこと?
依頼書ちゃんと見せてくれなかったしー
一人じゃ面倒な依頼だから、他にも声かけるっていってたけど…
まあ、食べてからでいっか!」
自分のミスなんてあっという間にどうでもよくなる。
毎回反省していれば、少しは改善されるであろうに…
そんな周りの思いなど伝わらず、今日も少女は食事を楽しむのであった。
108フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/04(土) 22:59:56.18 0
今にして思えば自分が教会を追われることになった原因には心当たりが多々ある。
呪われたアイテムや魔法使いギルドとの共同開発に失敗した新魔法に関する
資料の処分、聖書と教会史を現実の歴史と照らして"盛った"部分の修正上申、
教えに反していないとは多数の宗教の同時信仰などなど……
煙たがられるのも当然と言える。

そんな今さらどうしようもないことを指折り数えながらフロウは食堂に入る。
まず視界に飛び込んで来たのは皿の塔だ。こういう手合いはギルドに数人いるが
皿の向こうから聞こえるぼやきから察するにどうやらメアリのようだ。

「こんにちわメアリ、いつもながら元気そうですね。はいこれ食後のまたたび」
アイスコーヒーとサンドイッチを手にメアリの隣まで行って腰掛けると、フロウは
服の内側からまたたびを出しておいた。

基本的にぼっちのフロウにとってこの裏表の概念に乏しいメアリーのような
人物は彼にとって数少ない心の癒しであった。

「そうそう、さっきマックス殿がいらっしゃいましてね、依頼書を置いて
いきました。いつも以上に恐い顔をしてましたよ、食べ終わったらお店に来て
くださいね」
クスクスと微笑みながら、フロウもコーヒーを一口飲んで昼食をとり始めた。
109メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/05(日) 22:01:00.10 O
その後も黙々と…いやぼやきながら食事を続けていると、こちらへ近づいてくる足音が聞こえた。
これは馴染みのある音だ。
メアリは読書が好きなわけではないが、色々な絵が描かれた本を見るのは楽しんでいる。
そんなわけでフロウの貸本屋にも通っていた。
彼は隣の席まで来ると、少しばかり楽しそうに話しかけてきた。

>「こんにちわメアリ、いつもながら元気そうですね。はいこれ食後のまたたび」

もちろんまたたびは大好物。こんな風に優しくしてくれるところも、フロウの店へ行く理由になっている。
「わぁい!ありがとうフロウ!これ食べ終わったらいただきまーす!」
実年齢よりも幼い、大きな動きで喜びをあらわす。
ここが大食堂でなかったなら、フロウに飛び付いていたかもしれない。
だが、次の言葉を聞いて、その喜びは一瞬で消えた。
>「そうそう、さっきマックス殿がいらっしゃいましてね、依頼書を置いていきました。いつも以上に恐い顔をしてましたよ、食べ終わったらお店に来てくださいね」
「あ…そうだった、仕事あるんだったよー…またたび控え目にしないと…。でも副団長が行ったってことは、フロウと一緒に行くのは確かなんだね。よろしく!」
魔法には精通していないメアリは、ちょっと困った時にはフロウを頼る。
簡単な魔法のひとつですら、メアリには輝かしいものであったのだ。
そんなフロウと一緒にいく依頼なら、なんとかなりそうだな。この時はそれらいにしか思っていなかった。
110 ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/06(月) 22:59:39.98 O
まだまだ募集はしてますからねー
111フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/07(火) 22:39:31.04 0
メアリはまたたびを喜んで受け取ってくれた。端的にいえば煙草のような
ものなのだが、危うさのかけらも見当たらない反応である。

 一見して幼子が年上の女の子に気に入られようとしている。そんなふうに見えるかも
知れないが、関係としてはおじいちゃんが孫を滅っ茶苦茶に甘やかそうとしている
というほうが正しい。

 彼女は取水亭にちょいちょい顔を出す。もっぱら立ち読みで文よりも絵を見に来る
のだが、画集や小説の挿絵など特に区別がない姿勢には賛否が分かれる。

>「あ…そうだった、仕事あるんだったよー…またたび控え目にしないと…。
でも副団長が行ったってことは、フロウと一緒に行くのは確かなんだね。
よろしく!」

「ええよろしく。ほどほどに頑張りましょうね」

フロウが相槌を打つとメアリは残りの料理を平らげにかかった。彼は既に済ませて
いたが、隣人の番を待った。そして食べ終わると声をかけて、彼女と共に取水亭へ
戻った。

 下の酒場は昼を過ぎて人もまばらで、上の階も閑散としている。それなりに上手く
回っているときのギルドの昼はこんなものだ。人がいるのは早朝と夜ばかりである。

「今頃みなさんはちゃんとやれているんですかねー」
 二階への階段を上がりきったところで、フロウは「おっと」と言って立ち止まった。
廊下の先、取水亭の前にいる人物に気が付いたからだ。

「こんにちは、あなたはえーと……たしか……そう……ティアさんでしたね。
お待たせしてすいません。今開けますから」
 その人物の名前をなんとか思い出すと、フロウはかかったボードを表返し、「開店」
にすると取水亭のドアを開けて、メアリとティアを店内へと促した。

「いらっしゃいませ。ご用件はなんでしょうか」
 少年風エルフは小走りにカウンターの向こうへ位置すると、ありきたりな文句で
二人を出迎えた。
112ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/08(水) 02:22:22.07 0
「解りきってるだろうにさ。まあ暫く厄介になるさ」

出迎えた声に目を向けようともせず、本を手に取りながらローブの男が答える。
彼の名はティア、ギルドメンバーとしては割と新参者の部類に入る斥候だった。
その為、ティアは悩みながらも自分の名を脳の片隅から引き起こした少年(風の)エルフに若干の驚愕を覚えた。
最も、その感情が表に出ることはない。言葉にも視線にも、眉の動きにさえせずにその感情を仕舞い込む。

人が行き交うようになれば、厄介事もそれだけ増える。
アクシデントの解消を他人に持ち込むような輩も、その数だけ増えていく。
ほとんどの者がそのようなタスクを請け負い、人の影もまばらになったギルド。
しかしそんな中でもアクシデントは発生するようで。ティアのその日の安寧は一声で塵と消えてしまった。

「...仕事なんだろう?誰だか知らないが書類くらいしっかり管理してほしいな
 で、説明してくれるのはエルフの君か?獣人の君か?それともこの場にいない誰かなのか?」

開いた薬草学の書物から目を話さず、壁にもたれ掛かったまま声に答える。
ティアは心底、予定されていた調和が崩れる事にうんざりしていた。
少し曇った声色が取水亭のふわりと紙のにおいがする空気を震わせていった。

彼の僅かな苛立ちを示すかのように胸元の懐中時計が針を、時を刻んでいく。
聞き慣れた一定間隔の無機質な音を聴きながら、しかし視線は本へと落としたまま。
失われつつある時間を一刻も早く取り返すべく、ティアは用件を今か今かと待ち望んでいた。
113 ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/08(水) 08:07:02.81 O
取水亭には、既に先客がいた。
だが、メアリの頭では仲の良い人と、美味しいものをくれる人しか名前が出てこない。
うーん?と首を捻っていると、フロウがその人物に声をかけた。

>「こんにちは、あなたはえーと……たしか……そう……ティアさんでしたね。
お待たせしてすいません。今開けますから」

ティア、と名前を聞いてもやはり思い当たらない。
そうでなくとも、人が多いこのギルドの人々の名前全てなんてメアリには覚えられそうにない。

>「...仕事なんだろう?誰だか知らないが書類くらいしっかり管理してほしいな
 で、説明してくれるのはエルフの君か?獣人の君か?それともこの場にいない誰かなのか?」

ぐさり、と何か刺されたかのように感じた。
確かにミスをしたのは自分で、面倒事に巻き込んでいて、明らかに自身が悪いのはわかっている。
わかってはいるのだが…
「頑張ったもん、でも失敗しちゃったんだもん…」
小声で言ってしまったのは、ほんの少しの意地からか。
だが、それもフロウの後ろで言っている以上、言い訳にも満たない泣き言だった。
「…あたしのせい、ごめんなさい!…説明は依頼書読んでないから出来ないよ、集まったから、もう読んでいいよね?」
それでも悪いと思ったので、大声で謝る。
謝りつつも怒られるのは怖いので、何か言われる前に、と依頼書に飛び付き読み上げ始めた━━
114 ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/08(水) 08:36:52.33 O
↑メアリ、と入れ忘れました


━依頼書━
この街から南西にある洞窟、その最深部まで赴き、涌き出る泉付近に生える光輝花(こうきか)を遮光瓶三本分集めよ。

報酬は三本分で金貨10枚
距離が近いため経費無し

※遮光瓶は支給します
※ブルースライム増殖期により注意
※瓶を割ったら弁償していただきます
115フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/09(木) 22:31:21.48 0
 人の顔を覚えることは商売の基本だと前の職場で叩き込まれたフロウは、完璧とまで
は言わないが多くの人のことを覚えるようになった。仮にも聖職にありながらこの教え
方について疑義を唱えずにはいられなかったが、役に立っていることは間違いない。
>「解りきってるだろうにさ。まあ暫く厄介になるさ」

「ああ、それじゃああなたが」
 依頼を受ける三人目のメンバーなのだろう。ティアは返事をせずに棚から出した薬草図鑑を読み始めた。
>「...仕事なんだろう?誰だか知らないが書類くらいしっかり管理してほしいな
 で、説明してくれるのはエルフの君か?獣人の君か?それともこの場にいない誰かなのか?」
>「頑張ったもん、でも失敗しちゃったんだもん…」
 メアリは自分より背の小さい人の後ろで更に小さくなりながら反論し、そして次に大声
で誤った。落ち込んでいても落ち着かないのがこの子の気質なのだろう。
「はい、よく言えました。次は気をつけましょうね」
 フロウはメアリの頭をいい子いい子しながら返事をする。悪い子ではないのだが、
できればカウンターの内側まで入ってこないで欲しかった。
 そして依頼書が読み上げられたのだが、どうやら採取依頼のようだ。場所は南西に
ある洞窟。それなりに危険だが、それなりに人の手も足も入っている場所でもある。
「近場といえば近場です、今日中に間に合わせようと思えば出来なくもないでしょう。
でも今からだと暗くなってしまいますし、その状態で洞窟に入るのは危険です。私は
今日のうちに準備をして明日の朝一番で行くことを提案します」

 フロウは二人に安全策を勧めた。スライムは相手にしてみると意外に面倒な相手で、
わざわざ数も多いであろう時期、状況の悪い時間帯に乗り込まねばならないような、
そんな危険を冒さねばならない相手ではない。

「勿論、それが叶えばの話ですけど」
 フロウは様子を窺うようにティアとメアリを見ながら、小さく付け加えた。
流石にいきなり日帰り旅行のように訪ねるのもどうかと思えたのだ。
116ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/10(金) 02:10:54.30 0
「光輝花、ねぇ。あれは人を惑わせる魔性の花だよ。
 俺には何がいいのかさっぱりだがね。理解できない」

メアリの声を張った謝罪を柳に風と受け流し、言及したのは依頼内容についてのみ。
愚痴程度で気負うような者なら次からミスは繰り返さない。逆に開き直る者ならどう口を出しても無駄。
そして見極められないのなら触らぬ神に祟りなし。ある種の消極的な信条のもと、メアリに声をかけることはなかった。

ぱらぱらと流し読みしていた薬草学の書籍をぱたんと閉じる。少し古くさい紙のにおいが柔らかに鼻へと届く。
獣人の少女が更に小柄な少年に慰められるという奇妙な光景を横目に、ティアは鋭い目で思案する。

スライム。障害として見る場合、連中はそれほど厄介ではないだろう。
全身が粘性の液体である彼らにとって少しの移動も骨らしく、見た目相応に鈍いのだから。
何をどう反応させるのか知覚はあるらしいが、魔物としてはそれほど鋭敏でもない。
ただ排除対象としてみる場合は別だ。叩けど揺れるだけ、斬れば傷から繋がっていく彼らに物理攻撃は通用しづらい。
手軽な手段としては魔法があるが、生憎ティアはその方面に見識は浅い。足音を消す魔法を使える程度だ。

「敵が現れるとしたら、それはスライムなんだろう?残念ながら俺は魔術方面には疎くてね。
 だから戦闘の要足り得る魔術師様に逆らう理由はないよ、賛成だ。問題は......依頼の方かな。
 特に急ぎって訳じゃ無ければ良いんだけどね。その辺りはどう書いてある?」

後ろ手に本を仕舞いながら獣人の少女に尋ねる。彼女の意思確認の意味合いも込めて。
何故か今回の依頼には色々と違和感が浮かぶが、行ってみなければ解らないことも多いだろう。
棚に仕舞った本の背表紙を指で叩きながら、これからのパーティとなるであろう二人に目を向ける。
僅かな違和感を頭を振って追い払う。考えるのは後でもいいと、自分に言い聞かせながら。
117メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/10(金) 08:31:50.78 O
ティアから謝罪への反応がなく、落ち込みかけたメアリは、暖かい掌を感じた。

>「はい、よく言えました。次は気をつけましょうね」

「ぅー…子供じゃないよう…」
そう言いつつも、獣人単位で齡17は十二分に子供である。
その上長年生きてきたフロウからは、どう見たって子供にしか見えないだろう。
悔しいが、撫でられた頭に安堵を覚えたのも確かだった。
メアリは完全に、子供だ。
…早く大人になりたい。
すこし暗い気持ちになっていると、フロウもティアも口を開く。
>「敵が現れるとしたら、それはスライムなんだろう?残念ながら俺は魔術方面には疎くてね。
 だから戦闘の要足り得る魔術師様に逆らう理由はないよ、賛成だ。」

スライムはメアリにとっても不得意な敵。
双剣では切ってもダメージには程遠い、もし自分で倒すとしたら…
「…マジックアイテム屋見ておこうかな」
武器に魔力を付与するアイテム、そういったものに頼るしかない。
だが入荷しているかどうかはわからない、あとで見に行かなくては…
…運が良ければ手に入るだろう、値段は高いものではない。
後の問題はその時間があるかどうか。

>「勿論、それが叶えばの話ですけど」
>「問題は......依頼の方かな。特に急ぎって訳じゃ無ければ良いんだけどね。その辺りはどう書いてある?」


「…大丈夫みたい、納期は明後日の夜まで。間に合うはずだよ」
依頼書を隅まで読み、納期を確認。
明日中に終わらせれば、まず問題ないだろう。
瓶は窓口で受け取れる、しかも三人でいくのだ、心配はいらない。
それなのに、メアリは言い知れぬ不安を抱えていたのであった

(このレスコンマが幸運値以下ならマジックアイテム入手します)
118 ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/10(金) 08:34:41.59 O
レスロール失敗、メアリは通常武器のまま向かうことになります。
このように、購入したいアイテム等がありましたら幸運判定です。
馴染みの店、予約、等々補正要素は多々あります。
119フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/10(金) 22:26:26.46 0
>「…大丈夫みたい、納期は明後日の夜まで。間に合うはずだよ」
 メアリは依頼書の期日の欄を見てそう答えた。ティアも異論はないようだった。
「決まりですね。早速準備にとりかかりましょう。という訳で本日は解散」
 その後現地集合及び時間などを決めて、フロウは二人と別れた。洞窟探検とスライム
対策用のアイテムの買い出しのため、街の市場へと来ていた。石畳の上には商品の
入った木箱が所狭ましと置かれ、様々な店が客を呼ぶ。壁にも店、道にも店だ。

生活に必要な物の大半はここで手に入る。今回フロウがお求めなのは「石鹸」「小麦粉」
「油」の三つである。あまり真面目に受け取る人はいないがこれはこれで使えるのだ。

「すいませーん、これありますー?」
 彼は市場の角地にある普段から行きつけの雑貨屋へと足を運んだ。店頭には珍しい
観葉植物が置かれており、中からは店番の女性が顔を出す。『どこにでもいる』人間
のおばちゃんだった。

「実は急に入用になっちゃって……」
 ティアやメアリが何か言い知れぬ不安や危険を感じ取っているのに反して、フロウ
はのんきその物といった「てい」でおばちゃん店主と話し始めた。

【ここで判定】
120フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/10(金) 22:37:48.64 0
 フロウは特売のチラシを片手に聞いてみたところ、おばちゃんが取っておいて
くれたらしい。この自分用に取っておいたものを馴染みの客が来たらサッと売って
くださるところが大変素敵です奥様。ポイント券は使わないでおいてやる。

「いつもありがとうございます助かります!」
 フロウはお礼を言うと、特売で買い込んだ三点セットを買い物袋に詰め込み市場を
後にした。
 少年エルフの天子のような微笑みにおばちゃんは形容し難い笑い声えを上げて満面
の笑みを返してくれた。

(これで少しは楽になる……かなあ)

入手したアイテム

小麦粉 4kg
油   1リットル(壺) 柄杓付き
石鹸  12個
121ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/11(土) 02:02:48.32 0
ギルドで依頼を受け、二人と別れた後。ティアはいつも通り自分の時計屋にいた。
とは言えど営業はしていない。扉に提げたプレートには来客を拒むCLOSEの文字。

「さーって... 何から手を付ければいいやら。
 依頼者も気になるが二日三日じゃ時間が無いな...
 大人しく依頼に従っておく、か......」

頭をかきながら建物の奥に入る。幾つかの本棚の間にひっそりと存在する地下への階段。
そこは広大な倉庫だった。乱雑に詰め込まれた物品がうっすらと埃を被っている。
取水亭の紙のにおいとは別ベクトルの、むしろ黴臭い古めかしさが嗅覚を刺激する。

「出来ることは、やっとかないとな。
 明日また太陽が拝めるように、さ」

魔物より人を相手取ってきたティアにとって、戦闘用のマジックアイテムなど疎遠なものだった。
それでも生活用から陽動などまで、広い汎用性を持つマジックアイテムはその限りでない。
威力としては軽微なものだが、それでも無いよりはマシだろう。

「どこにやったっけな。そもそも残ってるか?ええと...」

蜘蛛の巣揺れる地下倉庫、一人の男の孤独な宝探しが始まった。


【物品探索ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【補正:+10 乱雑とはいえ自身による管理。他で探すより発見は容易だろう】
122ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/11(土) 12:27:12.08 0
十分ほどだろうか。地面に崩れた物品の中から目当てのものの一つを見つけ出した。
それを引っ張りあげると埃が盛大に舞った。バンダナでも口に当てておけばよかったと後悔しながら手にした物の埃を払う。
木製の小さな箱の中には赤く煌めく宝珠が三つ。簡単な着火のできるマジックアイテム。

「そろそろこれも買い足さなきゃあな。無くなって嘆かないうちに」

懐に箱を仕舞いながら一人そう呟いた。この先何があるか解らない、用心に越したことはない。
帰ってきたらこの倉庫もしっかり整理しておくか。誇りまみれの荷の山を背にしてそんなことを考えた。
これさえ見つかれば後の準備は探し物をする必要はない。いつも通りのアイテムを一通り倉庫から取り出す。
そして小さく軋む階段を踏みしめ店内へと戻る。月明かりが柔らかに差し込み写し出されるティアの作業机。
その引き出しから胎動するように淡く光る小さな石を手に取った。拳のうちに握りしめ瞑目する。
暫くそうしていただろうか。その結晶をチョッキのポケットに仕舞いこみ、顔を上げたティアの目は鋭く光っていた。

【物品探索ロール成功。発火晶×3、魔動クォーツを獲得】
123メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/11(土) 12:36:50.32 O
>「決まりですね。早速準備にとりかかりましょう。という訳で本日は解散」

そうして解散したものの、メアリは目的のマジックアイテムを手に入れられなかった。
店を何軒も回ったが、ちょうど品切。
自分の運の悪さに辟易するが、どうしようもないのは仕方ない。
最後に行った店に、今度入荷したら一つとりおいてほしい、とだけたのみ、自室へ戻った。
とは言え、ベッドと多少の雑貨が転がっているだけの部屋。
背負っていた二対の剣を床にほおると、フロウからもらったマタタビを取り出す。
犬にはジャーキー、猫にはマタタビ。
そんな言葉があるくらいに、マタタビからは心地よい酩酊感を得られる。
「ふにゃー♪」
明日は己の目と耳と鼻くらいしか役にたたないだろう、そんな気持ちを投げやりたくて。
本当はティアに頑張りを見せたかった、謝罪を無視されたのは心に痛かった。
それなのにこの様だ、マタタビに走りたくなったのは若さのせいか。
ベッドの上でゴロゴロし、いつの間にやら眠りについてしまうのであった。

【予約フラグ、次回依頼以降なら一度だけ、武器に魔力付与するアイテム、入手自動成功】
124フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/11(土) 22:53:53.29 0
なんやかんやあって翌日、朝露もまだ消え去らぬ時間帯に、フロウ、メアリ、ティア
の三人は目的地である洞窟の前へと集合していた。それぞれになんらかの準備はして
きたようだ。

 フロウは普段の装備に加えて小麦粉の入ったリュックサックを背負い、腰には油の
入った二つの水筒が吊り下げられている。石鹸はポケットの中だ。

「おはようございます二人とも。今日は天気も良くて助かりましたね」
 空にはちぎれ雲が浮かび、風に流されていく。雨の日にスライムの群生地に赴く、
そんな嵐の日に船を見に行く漁師のような真似をせずに済んで本当に良かった。

「遮光瓶は持ちましたか?確認しておきますが、これに目的の花を入れて持ち帰るのが
今回のお仕事です。なので道中のスライムもできるなら無視していきましょう」

 よろしいですか?と二人に念を押すように聞く。とくにメアリのほうを長めに見な
がら。どういうわけか昨日とあまり変わりがないように見える。恐らくアイテムの
購入ができなかったのだろう。安手のマジックアイテムの需要は尽きないのでたまに
売り切れる。

「メアリ……挑戦心が旺盛なのはいいけれど、手抜きも覚えましょうね」
 なっているかどうか分からないフォローを入れておく。
 
 それから往復にかかる時間などの小さな打ち合わせを済ませた。
朝っぱらから会議をすると血圧に関わらず大抵の人はうんざりするが、始める前に
やっておかないと「余計なこと」をし始める人が出る。
 とはいえ、嫌気が差すとさっさと終わらせたいと思うようになるのが人のサガ。言わば
これは避けられない必要な行程なので仕方がない。これはフロウが前の職場で上司
からとてもとても遠回しに教えてもらったことだ。

「よし。他に何もないなら行きましょう。相手はスライムだから逃げること自体は
難しくないはずですからね」
 フロウは何か気がかりな点がないかを二人に聞いて、それから洞窟内へと足を踏み
入れた。このとき、彼の頭には「危険」の二文字はとても小さく、薄いものであった。
125ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/12(日) 23:02:39.93 0
僅かに曇った表情に見えるメアリを横目にミーティングを聞き流す。
内容自体は規定事項の再確認。いまさら聞き直す程の内容でもない。
それよりもティアにとって気がかりなのは「ブルースライム増殖期」の文言だった。

魔物に詳しいとは言えないため、今が本当に増殖期なのかは解らない。だがその危険性は理解している。
もとよりスライムが冒険者の入門編のように語られるのは、その鈍さと協調性のなさに依るところが大きいのだ。
限定された空間で多数の個体に囲まれればたかがスライムといえども、いやスライムであるがゆえにひとたまりもない。

「ああ、行動の流れについては了解だ。異論も特にない。
 ただスライムに対する決定力はどう細工しても魔法使いが主になるからな。
 俺か獣人の...何て言ったか?のどちらかが先行しどちらかが殿を務める事を進言しておく」

そう言うだけ言って席を立つ。相性を引き合いに本心を誤魔化したがどうにも不安が拭えない。
...自身の、魔物に対する経験の少なさが故か。だとしたらまだまだ俺も未熟だな。
そんな皮肉を心の中で呟くことで己自身さえも欺きながら、洞窟の入り口に視線を向ける。
朱色に淡く光る発火晶を手のひらで弄びながら、何事も起こらぬようにと無意識が祈っていた。
126メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/12(日) 23:25:00.71 O
>「おはようございます二人とも。今日は天気も良くて助かりましたね」

「うん!むず痒くもないし、今日明日は晴れ!」
猫らしさか、雨が近いと耳の後ろ辺りがむずむずする。
今日はそんなこともないので、天気の心配は0だ。

>「遮光瓶は持ちましたか?確認しておきますが、これに目的の花を入れて持ち帰るのが
今回のお仕事です。なので道中のスライムもできるなら無視していきましょう」

「リュックに三本、ちゃんと受け取ってきたよ。落としたくらいなら割れないけど、叩きつけたら割れるくらいの強度だって!」
強化ガラスなのかな?と黒い瓶を眺めたのは今朝のこと。
思ったより重いが、元々力のあるメアリには大したことはなかった。
これにより彼女の背には×の状態の双剣と、リュックサックと中々に重そうなことになった。
実際重いので、転けたら誰にも支えられない事間違いなし。
瓶を考えると、せめて前向きに転びたいものだ。等と後ろ向きな考えをしてしまう。

>「ただスライムに対する決定力はどう細工しても魔法使いが主になるからな。
 俺か獣人の...何て言ったか?のどちらかが先行しどちらかが殿を務める事を進言しておく」

「…あたしが先いくよ、別れ道が多い訳じゃなさそうだし、後ろはあんまり危なくない、と思う」
スライムなら、怖くない。
逃げても、切り刻んでも…手段がない訳じゃないのだから。
メアリは意気込んでいた。

>「メアリ……挑戦心が旺盛なのはいいけれど、手抜きも覚えましょうね」

フロウに言われ、ドキリとする。
スライムを双連撃、で倒して見せようとしたのがばれたのだろうか。
瞬時に四つ切りにしてしまえば、メアリでもなんとか…と考えたのはバレバレだったようだ。
少ししょんぼりしてしまったが、とにかく依頼が上手くいけばいい!とすぐ立ち直る。
…こういうところは子供と言うより、単純というべきなのだろう…

>「よし。他に何もないなら行きましょう。相手はスライムだから逃げること自体は
難しくないはずですからね」

「のろのろだもんね、花びら詰めて速く帰ればいいだけ…だよね」
言いながらも、なんとなく不安な感覚がある。
だけ、と言っているのに、何かもっと嫌な予感がする…
当たらなければいいのだけれど、と少し心配しながらも、歩き出した。
127フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/13(月) 22:21:56.10 0
せっかくの天気にも関わらず暗い洞窟の中へぞろぞろと入っていくのはなんとも
言えないがっかり感がある。中はどこからか光が入っているのか、全く何も見えないと
いう訳ではなかった。
 大気の流れから聞こえていた風鳴りも奥へ進めばその分遠ざかっていく。フロウは杖
に付いた皿に小声で呪文を唱えると、仄かな魔法の明かりが灯る。白く柔らかな光だ。

>「ああ、行動の流れについては了解だ。異論も特にない。
 ただスライムに対する決定力はどう細工しても魔法使いが主になるからな。

 ティアの隊列に関する提言を聞くと、フロウは声をあげた。
「あら、スライムなら種類を問わずにご家庭にある物で撃退、あるいは逃げることが
できますよ。例えばそうですね……あそこにいるスライムですが」

 フロウはその辺にうろついているスライムに向かっていくと、おもむろにリュックに
入れていた小麦粉を500gほど振りかける。当然だがその小麦粉は吸収されるわけだが、
取り込まれた小麦粉がスライムの中で、スライムの水分を奪いながら捏ね回されていく。

次に内ポケットから携帯しているバターと塩を加える。そして待つこと数分。なんと
スライムはパン生地になってしまったではないか。くっつかないよう表面に小麦粉を
さっとふって、フロウはそれをリュックにしまった。焼けば食べられる。

「ね?簡単でしょう?」
 次にこちらへ向けてにじりよる別のスライムに向けて石鹸を放り込む。すると……
なんと見る見るうちに泡立っていくではないか!泡立つスライムを避けながらその辺
を歩き回ると、追いかけてくるスライムは泡立つうちに体積を減らしていき、とうとう
なくなってしまった。

「ね?簡単でしょう?」
 同じ台詞を繰り返して彼は振り返る。
「人間と同じですよ。魔物だって生きてる以上は、ちょっと調べたら簡単に死んじゃう
方法がいくらでも見つかります。魔法は最後の手段ですよ」

 そう言ってフロウは自然で柔らかな、とても優しい笑みを浮かべた。
「さあ、これで奥までは比較的安全にいけると思います。先を急ぎましょう」
128ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/14(火) 02:35:56.42 0
幼い見た目のエルフが笑みを浮かべてスライムを『料理』していくのを見て、意外に思うのと同時に少し気が引けていた。
まずその呆気なさに拍子抜けした、といったところか。知らなかっただけで抜け道はそこら中にあるようだ。
なるほど、魔物を長く相手しているのだろう。長寿の種族の年の功からか見た目に違わず敵を熟知している。
同じく水分の多いナメクジのように、塩をかければ縮むだろうか。逆にナメクジではパンは作れないが。
そんな下らないことを考えた矢先に、フロウが鞄にパン生地を仕舞いこむ。

「.........食べんのか、アレを」

途中でおかしいとは思った。動きを封じるだけならバターと塩は必要ない。
だとしたらアレは食用、なのだろう。自分なら気味が悪くて食えたものじゃあない。
どうか道中、アレを焼いて食べさせられる様なことが有りませんように。心の中で小さく呟きフロウの後を追う。

「ご家庭にあっても手元に無いんじゃあな。第一俺にはそんな料理の趣味はない。
 何にせよ最後の手段が必要なときに使えなきゃ意味ないだろう?...だからそう先へ先へ進むなって」

何が、とは言い切れない。ただ嫌な予感がする。
だが振り向いたフロウの表情は楽観そのものといった様子だった。
単に自分が魔物相手が不安なだけかもしれない。しかしなぜか不安感が拭いきれない。
だが出来ることは何もないのだ。考えるのを止めてフロウの背中をただ追う以上には。
過剰なほどに背中を気にしながら、前へ前へと移動するパーティの最後尾でティアは先を急いだ。
129メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/14(火) 08:44:57.42 O
>>スライムはパン生地になってしまったではないか。

「え、えーっ!?た、食べれるの?美味しいの!?」
予想だにしなかった光景に、思わず大声を上げてしまう。
流石にこんな倒しかた…倒したと言うのかも複雑な方法、考えもしなかった。
フロウ以外にこんな方法知っている人はいるのか…疑わしいくらいに。
だが、次の光景に更なる衝撃を受けることになる。

>>追いかけてくるスライムは泡立つうちに体積を減らしていき、とうとうなくなってしまった。

…スライムって、なんだっけ?
そう言いたくなるほどにあっけない。
なんだか可哀想になってくるくらい、あっさりだ。
しかし、最奥にはどれ程のスライムがいるかわからない。巨大なものがいたら、倒せるかどうか…
フロウも小麦粉や石鹸は使い果たしたようだ、油断はできない。
…できないが、どうも気が抜けてしまう。
「…ねーねー、そのパン生地どうするの?」
歩きながらも、ついつい集中力がなくなってしまったメアリだった。
130GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/14(火) 08:49:28.01 O
洞窟の最深部、そこには泉と、その周囲に咲く光輝花、そして大量のスライムがいた。
大きいのから小さいのまで、とにかくうろいろしている。
一番大きいものにとらわれでもしたら、命を吸われてもおかしくはない。
だが…メアリとティアはその光景以上に、不安感を感じるのであった。

【ここから80ロール開始】
131フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/14(火) 22:04:24.15 0
>「え、えーっ!?た、食べれるの?美味しいの!?」

「ええ、勿論。味はともかく焼けば食べられますよ」
 ぞんざいな扱いで撃破されたスライムにメアリたちは面食らっていた。無理もない。
もっと真っ当な倒し方を想像していたのかも知れない。

 魔物の中には食用に適するモノもいないではない。とはいえ、スライムを「食べる」
という方法を真面目に考えたのはフロウくらいだろう。水分の塊なのに飲めないという
ことに納得しかねた幼き日の彼が、スライムを料理に使うという形で落としどころを
模索した結果である。

>「…ねーねー、そのパン生地どうするの?」
「これだけあれば二、三日は困らないかな」
 パンになったスライムをリュックに詰めながらフロウは言う。最初に比べて背部が
かなり重たくなっているが、それでも進行に支障はない。

(あとは焼くだけだから調理時間も省けるな。食事の時間に少し余裕ができるから、
その分魔道書だって読み進められるし)

 ホクホク顔で奥へ奥へと進んでいく一行、正確には上機嫌なのはフロウだけだが、
は洞窟の最奥へと到達した。かなりのハイペースで来たので時間にも随分余裕がある。

 しかし、目的地である泉と目的物である光輝花を目の前にして、彼の笑顔は俄かに
曇った。増殖期と聞いてはいたが「いすぎ」というくらいに週に大量のスライムが
いたからだ。来るまでに倒した分より多いんじゃなからろうか。フロウは内心うんざり
した。

「……とりあえず、花を摘んでしまいましょう。まことにもったいないですが、この
パンを使って時間を稼げばそこまで難しくはないでしょうし」

 ため息と共にフロウは即決すると、スライムパンの生地をちぎっては花の周りにいる
スライムを誘導するように投げていく。一部のスライムがのそのそとパンを追いかける。

「さあお二人とも、ここは私に任せてお早く!」
 使った小麦粉代を意識から振り払うように、フロウは強い口調で二人を促した。
132ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/15(水) 02:34:15.22 0
洞窟の最奥、目的地に着いたとたんティアはげんなりした。まさかスライムがここまで増殖しているとは。
辺り一面が浸水でもしているかのように所狭しとスライムがひしめく。足の踏み場を探すのがやっとだ。

>「さあお二人とも、ここは私に任せてお早く!!」

スライム印のパンを千切っては投げ、フロウが二人を急かしている。
...スライムって、パンを食うのか。しかもあれでは共食いだろうに。

「ダメだな、今は集中しろ......」

どうも今回はエルフの少年に振り回されている気がする。くだらない疑問が頭を離れない。
それではダメだと頭を振り思考をリセットする。光輝花を摘んで帰って、それから考えるなり調べるなりすればいい。
ふっと一息、身を屈める。靴に手を翳し魔力を集める。効くかどうかは知らないが、これでマシになるなら上等だ。
魔法は苦手ながらに一本特化で洗練した静音化のエンチャント。足音を消すための魔法だった。

「了解、そっちはミスんなよ!」

ダガーナイフを取り出してぶっきらぼうにフロウの声に答える。
僅かな隙間を縫うように飛び移り、流動体の敵たちをすべて置き去りに光輝花へと向かっていく。
幸いにして花の周囲にはまだスライムが少なかった。最も、いつまでそうであるかは分からないのだが。
だが今は好都合、すれ違いざまにナイフの峰と親指で茎を挟み、捻るようにして茎を切る。

次は...彼処か。フロウからかなり離れてしまいかねないほど遠い場所。
他の場所をメアリに投げてきてしまった以上、自分が行く道は其処しかないのだが。
背筋が急にぞわりと泡立つ。だが不安を降りきるようにティアはまたスライムの合間を飛び交った。

【80ロール 使用ステータス:無し】
133メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/15(水) 06:06:56.47 O
「この状態で花びらだけを瓶三本…これ、金貨が払われるわけだよ…」
メアリが不思議に思っていた、報酬の高さ。その答えは目の前にある。
明らかに多すぎるスライム、メアリとそう変わらない大きさのものまでいる。
危険きわまりない状況だ。

>「……とりあえず、花を摘んでしまいましょう。まことにもったいないですが、このパンを使って時間を稼げばそこまで難しくはないでしょうし」

まさかまさかのパン生地が役に立つ、とは言っても量に限りがある上に、つられないものもいる。
かわしながら摘めば大丈夫、不安ながらも花に近づく。
>「さあお二人とも、ここは私に任せてお早く!」

「い、急ぐね!」
ティアに一本瓶を渡しつつ、蓋を開ける。
後はわしわしと花びらを詰め込むだけ、近付いてくるスライムから離れても、花は沢山ある。
…沢山ありすぎる、気もするが。
深く考える暇はない、フロウが無理だと言い出したら、きっと直ぐにスライム達がたかってくるだろう。
あんなのに捕まったら、きっと…
「ダメダメ!とにかく急がなきゃ!」
悪い考えを振り払い、花摘みに集中する。
…おかしなスライムがいることに気がつかないままに。
134名無しになりきれ:2014/10/15(水) 18:18:07.62 0
え?
135GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/15(水) 21:40:27.09 O
>>134
どうしましたか?
136フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/15(水) 22:51:12.18 0
「これで……最後!」
 パンを投げ終えたフロウは現状を再確認した。既にティアとメアリは光輝花を瓶二つ分
の回収を済ませたようだ。共食いをしているスライムもじきにまた動き出すだろう。

 残る花は随分奥まったところに咲いていた。位置的にはティアが向かうだろう。しかし
それでは彼だけが突出する形になってしまう。何かフォローする手立てはないか。

(仕方ないか)
 フロウは盾の持ち手を胸元に引っ掛けると、杖についた皿に油を注いだ。そしてそれを
両手で捧げるように持って呪文を唱え始めた。

「出でよ炎、星明かりの化身、旅人の心よ。我が贄を孕み、汝の道を歩め」

 皿に注がれた油に火が点き激しく燃え上がる。やがてその中から二筋の炎が真っ直ぐに
奥の光輝花の手前まで伸びる幅にして約1メートル、膝丈程の炎のレールが出来上がる。
『タビトの導き(フロウ命名)』という魔法である。

「ティアさん!戻るときはなんとかその道を辿ってください!」
 そこまで言ってフロウは違和感に気づいた。奥のほうで何やら素早い動きをするスライ
ムが右から左へ流れていったのだ。同じ光景が短時間に数度繰り返される。
 
「……………………」
 恐る恐る出てくるほうを見れば、岩壁の下部の穴から何かに押されるようにスライムが
飛び出してくる。改めてよく聞いてみると何か堅く鈍い音が壁の向こうから響いている事
が分かる。

――これ、壁の向こうにいっぱいいるんじゃないか?

「二人共、早く切り上げて戻ってきてください!」
 ここでようやく危機感を抱いたフロウは、スライムが出続ける穴を見ながら二人に呼び
かけたのだった。
137ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/16(木) 03:28:16.22 0
>「二人共、早く切り上げて戻ってきてください!」
「言われなくとも長居はしたくねぇよ......っと!」

不意に視界の端で弾かれるように跳び跳ねたスライムが映る。
ちょうどその場から別の場所に跳び移る途中だったティアは幸いにして難を逃れたが。
目撃情報もまばらな『跳ねる個体』。溢れんばかりのスライムのなかにはこれ等も入り交じっていた。
足の踏み場を間違えれば途端に粘性の海に溺れかねない現状、何処に潜んでいるとも知れない彼らは重大な要素となる。

「こんなのも居るのか......面倒な!」

左胸のポケットからほんのり橙色に光る珠を取り出す。倉庫に眠っていた発火晶。
一つをスライムの近くの一匹に投げつけると、それを踏み潰すようにして足から魔力を流し込んだ。
魔力によって励起した発火晶は接触状態にあるティアの靴とスライムに火炎の属性を付与していく。
熱せられたスライムはその身を縮めながら黒色の炭素の塊となって消えて行く。
一方ティアの右足、その靴も徐々に焦げていく。静音化のエンチャントに覆われた靴裏だけが焦げることなく残っていく。

「こんな場所は御免だからな!さっさと帰れる準備でもしてな!!」

右足の熱を歯を食い縛り堪えながら、火炎に任せてスライムを踏みつけ最短距離を急ぐ。
燃えた右足にはスライムはまとわり付こうとはしない。踏みつけたあとに波紋が広がるようにその身を捩らせ炎を避けている。
こんな乱暴なエンチャントがそう長く持つはずもない。恐らく靴が燃え尽きるまでもなく消えてしまうだろう。
だから少なくとも、消える前に目標にまでは達していたい。逸る気持ちに任せてティアは先へ先へと進む。

......フロウが見たスライムの間欠泉、その存在が真横にあるとも知らず。
突如として沸き出したように、スライムが穴から弾かれティアへと迫る。

【危険感知判定 使用ステータス:幸運(52)】
【下降補正=-5、燃える右足の熱に耐えることで注意力は散漫に】
【成功時は次レスで回避判定へ、失敗時は気づくことなくメアリのロールへ】
138ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/16(木) 03:48:31.93 0
「出やがったな、『跳ねるヤツ』が......」

なんてタイミングだ。ティアは思わず舌打ちしそうになるほど現状にうんざりしていた。
しかしそうも悠長にはしていられない。あの突進に当たったが最後、ブルースライムの海にダイブを決め込むことになるだろう。
この状況でそうなれば四肢の動きも儘ならない。仲間の助けをただ待つだけの木偶人形と化すだろう。
そうなることはプライドが許さない。幸いにしてティアには恵まれたフットワークがあった。

ティアは迷わず跳躍し、青い海の窪んだ浮き島へと足を伸ばす。
そこまで行けば光輝花まであと僅か。文字通り光り輝くその先へと手を伸ばしながら。

【回避判定 使用ステータス:素早さ(71)】
【下降補正=-5、依然として右足は炎を纏っている】
【成功時は問題なく光輝花に辿り着く。失敗時はバランスを崩し再度判定へ】
139ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/16(木) 03:53:26.72 0
【転倒判定 使用ステータス:体力(55)】
【下降補正=-5、右足の炎】
【成功時はバランスを持ち直す。失敗時には転倒】
140ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/16(木) 04:13:28.59 0
避けた。そう思っていた。
弛緩しきった精神を現実に引き戻したのは、肩口に感じた強い衝撃だった。
当てられた。相手のスピードを見誤った。
そう理解した瞬間に体は地面に叩きつけられる。左半身が無数のスライムに飛び込み水飛沫をあげた。

変に一度襲撃を受けたがゆえに、その程度の速度だと誤認していたようだ。
間欠泉から押し出されるようにして現れたスライムは、それよりも早い速度でティアに襲いかかっていた。
そのスライムはぶつかった肩口にそのまま付着していた。肩に、腕に、脚にベタつく感触が浸透してゆく。
空いた右手をなんとか使って立ち上がるも、半身がべっとりとスライムで覆われまともに動けもしない。
このまま行けば迫り来るスライムの波に呑まれ溺れて行くのを待つだけだろう。

「テメェ等、離れやがれ......!!」

ホルダーから抜き取ったナイフで左腕のスライムを削ぎ落とそうと試みる。
切られた先から結合して行くスライムは、徐々にナイフの刃にもまとわりついて行く。
青の空間で立ち尽くすばかりのティア。胸元で変わらず秒針が音をたて、時間だけがゆっくりと流れていった。
141GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/16(木) 13:14:37.76 O
>>138
>03:48:31.93
コンマが80以上となりました。


ふらふらながらも、何とか立ち上がり続けているティア。
だが、そんな彼の近くへ大きな跳ねるスライムが近付いてきていた。
仲間は叫び、危険を知らせるが時すでに遅し、ティアへ強烈な体当たりが行われていた。
まとわりついていたスライムごと吹き飛ばされるティア、その先は泉のなかだった…。

勢いのせいで撒き散らされた、辺りの光輝花、それからフロウの生み出した炎。
二つがあいまり、水中でも中のようすが確認出来た。
ティアが初めに感じたのは体への衝撃、次に体から離れていったスライム、最後に水底に見えた山ほどの骨と巨大なスライム。
そのスライムは骨の山の頂点にい、ティアが沈んでくるのを待ちわびているかのように感じられた…

逃げなくては、今なら体を邪魔する存在はいない。
逃げなくては…
142メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/16(木) 13:28:31.84 O
フロウの作る炎に安心感を感じたのもつかの間、ティアが転倒した、その瞬間にメアリは走り出していた。
耳、目、鼻、すべてを駆使してスライムをかわしながら近付く。
跳ねているかどうかなんて、メアリにはどうでも良かった。
ただただ、誰かを失いかねない現状に恐怖した。
「ティア!」
無理やり起き上がった彼を見て、助けられる、そう思った瞬間…
彼の姿がかき消えていた。
代わりにその場へいるスライムを見て、メアリの思考は一瞬止まった。
しかし、バシャンという大きな水音に、慌てて泉に目をやる。
波紋からするに、彼処へ落ちたのだろう、だがメアリは猫科、水が得意ではない、泳げなくはないが大嫌いだ…
「…でも…」
瓶入りのリュックと剣をフロウのいる方へ投げると、ティアの救助へと飛び込むのであった。


【幸運ロール+リュックによる補正10として瓶が割れたか判定】
【剣には特に何もない】
143メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/16(木) 13:31:55.21 O
【幸運ロール失敗】

飛び込む寸前、カシャン、と嫌な音がした。
けれど今となってはどうでもいい、今はテープでも布でも巻き付けて、あとで弁償すればいいのだから。
一番大切なのは、命だ。
144フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/16(木) 22:55:41.18 0
 この短時間のうちに起ったことを簡単にまとめるとこうなる。
@ティアがスライム二匹に攻撃されて泉に落ちる。
Aメアリがそれを見て助けに行く(泉に飛び込む)
Bそのときに荷物はフロウの前に投げ出される。
C遮光瓶割れる(依頼失敗の可能性大)      ←今ここ!

 さて現状どうするべきか、緊急事態ではあるが焦ってはいけない。フロウはこの場で
何をすべきかを考えた。

(まず、魔法を維持したまま、荷物を持って泉までいく)
 杖を片手持ちに変え、メアリのリュックを背負う。次に目の前の大剣を空になった自分のリュックに乗せて引きずる。
 フロウは走りこそしなかったが、ティアの帰路にと創った最短距離を通ることで花の
元へとたどり着いた。

(次にあの穴を塞ぐ!)
 残った油壺を丸ごとスライム間欠泉に投げ込むと、湿った地面を掴み断熱材代わりに
して、地面に転がっていたティアの発火晶も加える。着火。火で蓋をされた間欠泉から
スライムの出るペースが目に見えて落ちる。

「あとは」
 メアリのリュックを下ろして中を確認する。間違いなく二つとも割れている。
こうなると分かっていれば自分が一つ持っていたものを。後悔しても遅い。幸いティア
の分は近くに転がっているのを回収できた。

「『魔法使い』になれますように……!」
 フロウは片手で炎のレールを維持しながら、もう片方の手で割れた瓶にかざした。

「変わりゆく者、失い続ける者よ、我が命に従いその姿を遡れ!」
 フロウは『修繕の魔法』を唱えた。彼の中では魔法使いとは苛烈な炎を生み出す者
でも、天雷にて敵を引き裂く者でもない。少女にドレスを用意し、手を使わずに紅茶
を淹れ、妖精と語らうことのできる、そのような術と相応しい精神を持つ者が魔法使い
なのだ。二人なら大丈夫だと自分に言い聞かせ、彼はその後のための行動をとった。


【魔法使用中に他の魔法を使用。精神力‐10で判定】
145フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/16(木) 23:06:51.65 0
粉々に割れた遮光瓶は、元通りの姿となって蘇った。これで弁償の件は
なんとかなるだろう。フロウは人間の社会で暮らすようになって、このお金と
やらの邪悪さは嫌というほど思い知らされた。だがそれも何とかなりそうだった。

あとは二人が戻ってきて脱出すれば依頼は完了だ。フロウは杖を水面に
かざして、メアリとティアの帰還を待った。

(二人とも、早く、早く戻って……!」
146ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/17(金) 19:44:43.79 0
刃に、四肢に、スライムは絡み付く。時を刻むごとに体が重くなっていくのを感じる。
視界もふらつきだした刹那、ひときわ大きな衝撃が彼を襲った。
先程とは比べ物にならないほど大きな水飛沫を上げ、ティアは泉へと沈んで行く。
フロウの作った炎の道の光が水中で揺らめく様を、何処か夢見心地で眺めていた。

ゆらり、ゆらりと沈んでいくティアの体。いつの間にかねばつくスライムは彼の体を離れていた。
生命力を吸収され重くなっていた体。彼らが離れたことで感覚も軽くなっていた。
いっそこの身を委ねてしまいたい。地上の青い粘性の海に比べれば、柔らかな水が体を撫でる感覚は遥かに心地いい。
そして差し込む光から目を逸らした時、ティアは水底で蠢く『それ』を視た。

積み重なった人骨。その頂点で舌なめずりをするように待ち構える肥大したスライム。
この身を心地よさに委ねてしまえば、自分もあの死屍累々の一部となるのであろうか。
不意に聞こえた何かが飛び込む音。目を向ければ此方に向かってくるメアリの姿があった。
まだ、生きたい。ふと沸き上がる欲求がティアの腕を彼女の方へと伸ばしていった。
暗い深淵を背にして、それでもティアは差し込む光を求めた。
147メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/18(土) 12:44:31.62 O
飛び込んだ先に見えたのは、思っていた光景とは違った。
猫の瞳は水底までをしっかりととらえ、異常なスライムと骨の山を視認した。
急がなくては、ティアもあの仲間入りしてしまう。
水を蹴る足に力を込め、彼が伸ばした手をとる。
小柄な体に合わぬ怪力で、男一人ぐらいなら枷にはならない。
片手と、両足を必死に動かし水面を目指す。
早く、早く、早く。
そして水際まで辿り着き、ティアを一気に引き上げた。
「はあっ!…はぁ…はぁ…大、丈夫?」
濡れた体が気持ち悪い、スライムも気持ち悪い、とにかく帰りたい。
目の前にいるフロウに飛び付いて泣きたい、ぐらい水が辛い。
耳にも入って、ぼやぼやとした感覚までする、でも…
助けれたなら、いいや。
148フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/18(土) 22:38:12.94 0
 洞窟の奥、小さな花畑に続く炎の一本道、その先には泉。これだけならそれなりに
幻想的な光景に見えることだろう。周りにいるスライムの大群さえなければ。

「散れ!こっちに寄るんじゃない!」
 メアリの重たい剣の一つを炎で熱し、近づくスライムを切りつける。スライムの何匹
かはこれで遠ざかっていくが、すぐにまた別の個体が物見高く近づいて来る。

 皿に灯った炎が不規則に揺らめく。
「まずい……」

 触媒となる油が尽きかけているのだ。油が消えればあとは本人の精神力を直に削って
保持しなくてはならない。出口まで等間隔で並んでいた火柱の勢いが弱まり、背も低く
なっていく。そのときだ。メアリが水面から勢いよく飛び出してきた。

>「はあっ!…はぁ…はぁ…大、丈夫?」

 文字通り力づくで引き上げられたティアはぐったりとしている。息はまだあるよう
だが、意識はどうだろうか。生憎現状では悠長に確かめている暇はなさそうだ。

「二人とも、良かった……。急いで脱出しましょう。ここは危険です。
メアリ、しっかりしてください。さあこれを!」
ずぶ濡れの獣人の足元に剣を放り、代わりに瓶を入れたリュックを背負いなおす。

「ティアさん、歩けますか?」
 改めて魔法に集中しながら、フロウは尋ねた。生命力を吸われて弱っているようだが
事と次第によってはメアリに担いでもらう必要があるかもしれない。

「スライムの様子が変です。急にこちらに気付いて、私たちを囲み始めた」
 統率がとれている訳ではないが、明らかにこちらを認識している。

「まるで何かに引き寄せられるかのようだ」
 薄暗い洞窟の殺風景とはおよそ対照的な彼の表情は、次第に剣呑の色を帯び、静かに引き締められていく。フロウ達の周囲には、これまでまばらに散っていたスライムが集
合しつつあった。
149ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/19(日) 01:29:25.95 0
伸ばした腕を引かれ、ティアの体はどんどん上へと進んで行く。
水底の巨大なスライムが物欲しそうに身を捩るのが見える。
頬を流れていく水の感覚を、少しだけ名残惜しく感じながら。
力任せな小さな両腕に、ティアの体は地上へと引き摺り出された。

「あぁ......何とか、な!!」

ぜえぜえと息を荒げるティア。水中では気にならなかったが、地上に出ると体の重さが直に感じられた。
生命力を座れた影響か。確かに体は重く、動かしづらくなっている。だがそれほど問題にはならない。
纏わりつかれた初期の頃に泉に飛び込めた為であろう。そのお陰でそれほど長く生命力を吸われたわけではなかったのだ。
落ちていた自分のダガーの柄の先を踏みつける。反動で浮いたそれを足で掬い上げて逆手に握る。
ほら、この程度のことはやってのけられる。二度も世話になっては堪らないからな。

「...泉の中の、巨大なスライム。
 この奇っ怪な行動には、ヤツが絡んでいると見ていいな」

ティアが沈んでくるのを待ち構えていた、肥大したスライム。
恐らくヤツがここにいるスライムの頂点、なのだろう。
増殖期だからか突然変異なのか、それはティアには解らない。解るのは「ヤツは危険だ」と言うことだけ。

「ひとまず泉から離れる、炎の道を消えないうちに辿れぇ!!」

ポケットから取り出した最後の発火晶。そしてもうひとつは豆粒ほどの魔導クォーツ。
ダガーで発火晶に傷をつけると、無理やり魔導クォーツを捩じ込んだ。
発火晶を切りつけた刃の切っ先からは炎が尾をひく。発火晶も脈動するかのように光を増してゆく。

ひときわスライムが多い区画。そこに向けて発火晶を投げ込むと、火炎のダガーを片手に炎の道を辿っていく。
飛び出してくるスライムを炎剣で蹴散らしながら、がむしゃらに前進し退路を切り開いてゆく。
刻一刻と輝きを増していく発火晶の淡い橙を、横目に感じながら。ティアは舞うように軽快なステップでスライムを切り刻んでいった。
150メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/19(日) 11:07:22.28 O
「良かっ、たぁ…ひゃっ」
引き上げたティアが無事だとわかり、気が抜けかけたが、スライムに触れそうになり慌てて跳ねる。
まだまだピンチに変わりないのだ、これだけ濡れてしまっては動きも悪くなってしまう。
とにかくフロウが投げてくれた自分の双剣を引き抜き、撤退目的として火の道を走る。
今スライムを切るには体力が続かなくなる、そう判断したメアリは剣の平でスライムを吹き飛ばす。
火の中へ飛ばされたスライムは、そのまま蒸発されていくだろう。
怪力だからこそできる荒業だが、長くは無理だ。
肥大したスライムだかなんだかはどうでもいい、走って帰って乾かしたい。
どうせメアリの頭で考えても、あれがどんな存在かなんてわからないのだ、体を動かすのが一番。
ギルドへの報告が面倒なことになったが、詳細は二人がちゃんと話してくれるだろう。
「走ろう、遅れたなら引っ張るから、皆で帰るよ!」
彼女にはもう、三人で帰ることしか頭にないのであった。
151フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/19(日) 23:27:37.08 0
>「...泉の中の、巨大なスライム。
 この奇っ怪な行動には、ヤツが絡んでいると見ていいな」

体勢を立て直したティアが放った言葉を受けて、フロウは泉を見た。ここからでは
良く見えないがしかし、良く見るためだけに水面に顔を近づけるつもりもない。

「うちの副団長殿も、つくづく面倒事を持ち込んでくれたものです」
 じりじりと後退しながらフロウは小さく零した。後退して通過した分の炎を消して
残りの火の勢いと持続時間に充てる。

>「ひとまず泉から離れる、炎の道を消えないうちに辿れぇ!!」
>「走ろう、遅れたなら引っ張るから、皆で帰るよ!」
「ええ、急ぎましょう!」
 ティアが熱を帯びた短剣を、メアリが双剣を手に帰路へとひた走る。両方共ずぶ濡れ
で疲労の色も濃かったが、それだけに撤退への移行速やかだ。
 三人はまずこのフロアの入口を目指して走ったが、その途中でスライム達が妨害を
始めるようになる。動きの素早い、身軽な個体が炎を飛び越えて来る。これらは主に
ティアが反応し打ち払い、体の大きな個体がその耐久度に物を言わせて炎を踏みつけて
強引に来ようとすればメアリが薙ぎ払う。
 
 最早『群れ』としての動きを隠そうともしないスライム達の中を進むうちに、フロウ
はふと、背中のほうを、つまり泉のほうを見た。

『水面が持ち上がる』とでも言うのか。増水して水面が上がるのではない、水面自体が
何らかの力によって固体のような形を持ち、もぞり、と水際に乗り上げてくる。
不可解ながらも意識した途端に違和感と得体の知れない恐ろしさがこみ上げてくる。
ティアの言っていた巨大なスライムが『コレ』なのだとフロウにも理解できた。
 そして、二人の焦りや狼狽の理由も。
「……追って来た!」
 
 ようやく入口に差し掛かった辺りで、フロウは先に到着していた二人に警告を発した。
冒険者たちを前に洞窟の暗がりは静けさを脱ぎ捨て、その貪欲な本性を剥き出しにして
襲い掛かっていた。
152ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/20(月) 01:45:22.25 0
「そろそろ、か......」

秒針が時を刻む音を胸元から感じとりながら、ぽつりとティアは呟く。
そうしている間にも種々のスライムが跳びはね這いずり進路を塞ごうとしてくる。
ティアはその内の鈍重な個体をメアリに任せ、自分達へと跳ねてくるものだけを的確に切り伏せていく。
一度見た。認識とのズレも修正した。今のティアがスライムの動きを見切れぬ理由などない。

「後ろに構うな、外に出ろォ!!」

巨大な塊が押し上がるような、そんな重苦しい音と共に地面が響くのを感じる。
泉の底でティアを見上げていた、あの巨大なスライムだろう。
少しだけ不安が募る。細工はしてきたが、ヤツ相手に何処まで通用するものか。
だがそれでも十分だ。此処から外へ出る程度の時間なら難なく稼げるはずだ。

スライムに踏みつけられることなく光を放つ発火晶。
魔導クォーツのパルスを受け、刻々と輝きを増していく。
もともと発火晶は魔法など使えない人のためのアイテム。その励起には微弱な魔力で十分なのだ。
......ならば、その魔力を継続して流し込み続けたなら?

時計の針は変わらず一秒一秒を刻む。ティアも変わらずそれを聴いていた。
そうして針が真上を向いたとき、太陽と見紛わんばかりの光が洞窟の最奥から溢れだした。
押さえ込まれ続けて行き場を無くした魔力が、発火晶の枠を越えて周囲へと迸る。

「走れェええぇえ!!!」

それを感じたティアは即座に声を荒げる。同時に足は出口へと真っ直ぐに向かう。
炎と水とが混ざり会う生暖かい風を背中に受けて、三人を行かせまいと追い縋るそれを振り払うように。
153メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/20(月) 10:53:43.04 O
鈍いスライムをどんどん弾き飛ばし、出口を目指す。
こんなに大変な依頼だなんて思っていなかった。これならもっと頑張って、マジックアイテムを探してみれば良かった。
後悔先に立たず、とはまさしくこの事だ。
今は、一人ではなかったことに心底感謝している。もし一人だったなら…死んでいた、だろう。
重たく感じ始めたスライムを尚も吹き飛ばすと、ティアが叫ぶ。

>「走れェええぇえ!!!」

その瞬間聞こえた凄まじい音に、メアリはこれまで以上のスピードで足を動かした。
出口はすぐそこ、もうスライムに構ってる暇なんてなかった――


洞窟の外までついても、三人は走り続けた。
振り向いて確認なんてしたくなかった、とにかく離れてしまおう、皆が思っていたのだ。
走り疲れて、ちょっとした林についた頃、やっと三人は足を止めた。
ティアの仕掛けでスライムがどうなったかはわからない、それでも逃げ切ったのは確か。
くたくたの三人が休憩をとるには、十分な状態だった。
「疲れた…こんなに走ったの、久しぶり…」
地面に寝転がり、それでも辺りを音と匂いで確認するメアリ。
害敵は感じられない、少しくらい休んでも安全だろう。
「周りには何もいないよー…もう、水はこりごりだよー…」
走って随分乾いたが、まだじめっとしている。
ほっとくと沈む体がゆえ、泳ぎは覚えたが、やはり苦手意識は強い。
こんな事態でなければ絶対水には入らない、お湯じゃなきゃ嫌だ。
でも、泳げたから助けられた。
そう考えれば、頑張ったかいもある。皆で無事に帰れるのだから。
154フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/20(月) 22:48:52.00 0
ティアが発火晶を投げて猛然と走り出す。メアリも武器の重さを感じさせない速度で
駆けて行く。素早さの差で自然とフロウは殿を務めることとなった。

(もうこの炎はいらないな……!)
 残り火を使い切るように後方へ吹き流すと、彼もまた全力で逃げ出した。走りながら
も時折振り返っては追手の姿を確認する。迫るスライムは周囲の同族を次々に飲み干し
つつ、増々大きく、早くなっていく。

「まさかスライムにこれほどの脅威があるとは!」
 そう身構えることもないだろう、昨日から今日の朝方にかけて抱いていた余裕が今
は全く残っていない。入口を全員が抜けた後、このスライムもまた何不自由なく通ろう
とした時、それは起こった。

 突如眩い光がスライムの中から発したのだ。フロウは最初これが新しい攻撃手段かと
身構えた。目を灼かんばかりの輝きは水の腹を突き破り、盛大な水蒸気を噴き上げる。
次いでスライムの巨体が身じろぎし、動きが止まる。
 これで倒せた訳ではないが明らかにダメージを負っているようだった。

「倒しようは……あるってことですね」
 そう呟いてフロウは再度駆けだす。先に脱出した仲間と合流を果たしたときには、既
に幾らか平静を取り戻すことができた。

>「周りには何もいないよー…もう、水はこりごりだよー…」
「はあ、はあ、ぜえ、ぜえ、ふたりとも……足、速すぎ……」

 だが合流したエルフの少年は、全身汗だくで息も絶え絶えだった。荷物込みの上に
体力的にも劣る中ずっと走ればこうもなろう。彼の服装はお世辞にも動きやすい服では
ないのだ。

「……あ、あとこれ……と、とりあえず、依頼は完了です、よ……」

 差し出したリュックの中には目的の遮光瓶が三つ。瓶の中には光輝花の姿が。折角の
美貌を汗と泥と真っ赤な顔で台無しにした対価である。

「と、とりあえず、まずは……ゲッホ、ゲホ、ウヴンっ!!」
 疲れにやられてフロウはしばらくの間、咳き込む息を整えることに精一杯だった。
155ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/21(火) 01:24:14.38 0
脇目もふらず走り続けて辿り着いた林。ここまではスライムも追っては来ないだろう。
林は林で別の危険があるにせよ、これで一息つけそうだとティアは思った。
真っ直ぐに空へ向かう一本の木へと背をもたれ、顔をあげて荒い呼吸を整える。
何時もならこの程度で息はあがらないが。どうやら吸われた生命力の影響のようだった。

「全員無事か... だが此のまま帰ろうにもキツいな......
 キャンプでも張ってゆっくり戻るか?幸い時間に余裕はあるさ」

空高く太陽が輝く時刻。時計の針は共に12を指していた。
少し休憩した程度では日も落ちない。今日中に危険を冒すことなく帰ることができるはずだ。
それに、と思う。ずぶ濡れになった服をいつまでも引きずるのは気分が悪い。
見ればメアリも似たような表情を浮かべている。火でもつけるかとポケットをまさぐる。

「あれ...... 切らしてらぁ
 こう言う時の為のアイテムだってのに...」

そう、戦闘中に全ての発火晶を使いきってしまったのだ。
そのぶん役には立ったのであるが、必要な場面で物がないのはやや気分を辟易させる。
まあ、無いものは仕方がない。無ければ変わりを調達するまでだ。

「薪になりそうな木でも拾ってくるわ。待ってな」

ふかふかの腐葉土に時折足を取られそうになる。その度に木に寄りかかりながら手頃な木材を探しに出る。
兎にも角にも、あの地獄から抜け出せたのだ。ここらで盛大に羽を伸ばしたいと、ティアは陽を浴びながら思った。
156メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/21(火) 11:39:23.91 O
>「薪になりそうな木でも拾ってくるわ。待ってな」

「あ、あたしも探す!フロウは休んでて、この辺り危ないのいないから」
ティアの発言に、はっ、と反応して飛び起きる。
一番元気なはずの自分が頑張らなくては、まだ動けるのだから。
幸い林の中で薪を探すのは簡単だった。
集めた木にティアとフロウがささっ、と火をつけると、暖かな空気が漂う。
濡れた服で動き続けた、冷えたからだにはとても心地よく、ふわあ…とあくびがでてしまった。
「にゃ!んでもない!」
まだまだ元気!とアピールしようとするが、再びあくびが。
…獣人は本来人より長生きする者、メアリを人間年齢にすればまだ九歳くらいになる。
体こそそれなりの発達はしているが、子供なのだ。本来旅に出るような歳ではない。
そんな彼女がうつらうつらとし始め、すっかり丸まって寝息を立てだすのに時間はそうかからなかった。
耳も尻尾も、安心しきったように力が抜けている。
一時間程は熟睡してしまうだろう…。
157フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/21(火) 22:50:55.25 0
暑い。それが若いエルフの偽らざる本音である。なぜ今焚き火が行われているのか。簡単だ。びしょ濡れの二人が体を温め、服を乾かすためだ。じゃあなんで暑苦しい服装
のフロウも一緒になって焚き火にあたっているのか。
 汗をそのままにしておくと、今度は自分も体が冷えてしんどくなるのだ。なので多少
汗臭くなったとしてもここで服を乾かしておかねばならない。それにしたって暑い。

(かといって水被ってたら私の足では逃げ切れなかったし)
 ポケットから取り出した手拭いで汗を拭く。時間は正午をややすぎた頃か、現在地は
洞窟から相当離れた森の中。街まで走れば良かったのだが、些か通り過ぎてしまった
らしい。まあ依頼の瓶は今日中に届ければいいのだから心配はいらない。

 フロウはもう一度リュックの中身を確認して、それからメアリを見た。あられもない
寝姿から見える無防備な手足は青少年には刺激が強いのかもしれないが、このサイズの
生き物が本当に猫のように丸まるとどこか不気味なものを感じる。少なくともフロウに
はそう見える。いっそ大の字のままならまだ良かったのだが。

(寝顔は可愛いんだけどなあ)
 欠伸をしたときの顔は本当に猫そっくりだった。海から届いてくる風がたまに草木や
髪の毛を揺らす。周囲は驚くほど静かだった。疲れも落ち着いてくると、今度は空腹で
あることに気が付く。

「……しまったな。こんなことならスライムの生地を少しくらい残しておけばよかった」
 そう言うと、フロウはティアを見てクスリと笑った。

「今回の成功は、あなたによるところが大きい」
 ティアは奥の光輝花を採り、スライムを掻き分け、逃げる際も足止めをしてくれた。
裏切る訳でもなく見捨てるでもない。一番体を張ったのも間違いなく彼だろう。フロウ
はただお茶を濁していただけだ。

「今日は本当に、お世話になりました」
 そして改めて頭を下げる。この褐色の青年の人となりはまだよく分からなかったが、
それでもフロウにとっては『評価するに足る所もある人間』という位置付けと
なったようだ。
158ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/22(水) 02:55:03.91 0
>「今日は本当に、お世話になりました」

「よしてくれ。別に大した事はしてないさ。
 それともアレか?ミスって泉に落ちた俺への当て付けか?」

フロウの真摯な礼を苦笑混じりに茶化して返す。
ティアにとって人族とは敵だった。知恵が回るぶん何よりも厄介な。
しかし今のフロウはただ真っ直ぐにこちらを見据えていた。それがどうにもむず痒い。

「...俺だけじゃ、ない。獣人の娘がいなけりゃ俺は今頃水の底だ。
 あんたの炎だって撤退には絶対に必要だった。お互い様ってヤツだよ」

そんな視線を正面切って返すことは出来なかった。火を見つめながら一人ごちるように返す。
あの洞窟の中で、燃える火の光は正に希望の灯火だった。パチパチと弾ける炎に少しの安堵を覚える。
ティアはそんな炎の近く、数本の串を突き刺した。
パン生地を切らし腹を空かせたフロウへと、試すような視線をおくる。

「薪のついでに捕ってきたツチノコだ。
 見た目はエグいが案外油がのってて旨いんだよ。
 これでちょっとした『ご家庭にある』調味料でもあれば最高だが...
 あんたなら持ってるんじゃないか、『暮らしに便利な魔術師さん』?」
159メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/22(水) 13:18:57.12 O
何かが焼ける臭いで、メアリはやっと目を覚ます。
「ほえ…すっかり寝ちゃった…」
ごしごし目を擦り、今度こそ元気になった!と匂いのもとを見た。
…焼いたツチノコだった。
別に嫌いじゃないし、どうってわけじゃないのだけれど、その匂いで目覚める自分に何となくショックだ。
そんなにお腹がすいてしまって…いたが。
だが空腹は一旦置いておき、言おうと思って言い損ねていたことを今言う。
「あのね、二人ともありがとう」
ニコニコと感謝をのべた、その心はちゃんと伝わるだろう。
細かいことではない、一緒に頑張ってくれて、ありがとう。
そんなことを言うほどに、普段のメアリは独りだった。
160フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/22(水) 22:48:17.00 0
【お詫び】
 メアリは別に猫なべ式の寝方をしていたわけではなかったので、不気味の下りを訂正
します。ヨガじゃなくてよかった!

以下本編

「別にそんなつもりはありませんよ」
 ティアの茶化しを受け流す。敢えて無愛想を装っているのかこの青年は炎を見ながら、
フロウやメアリのことを、お互い様だと言って認めてくれた。起きていればさぞや少女
も嬉しがったことだろう。
 
 規則正しい寝息を立てているメアリを横目に、ティアが獲ってきたツチノコを串焼き
にしていく。

「たしかに、こういうときは『お互い様』ですかね」
 フロウは楽しそうに、小さく笑うと懐から調味料を取り出す。簡単に塩を振りかけて
キャラメルのように包装してあるバターを一つ手渡す。油が火に爆ぜて肉の臭みは炭の
匂いに染められていく。
 ティアの言うとおり見た目は良くないが、脂の乗った肉は厚く、菜食主義でもなけれ
ば食の進みを約束してくれること間違いない。

 そろそろ焼けたかという頃合いでメアリが目を覚ました。本当に動物っぽいとフロウ
は思ったが、自分も動物には違いがないと内心その考えを打ち消した。

「おはよう、メアリ」
 杖についた皿を取り外し、串焼きをよそり本来の用途に使っていると、彼女はティア
とフロウをまじまじと見つめ、やがてにっこりと笑った。

>「あのね、二人ともありがとう」

「……どういたしまして。それと、こちらこそ、ありがとうメアリ」
 一拍の間を置いて、フロウは微笑み、そう返した。目の前の獣人の子どもが嬉しそう
にする度に青いツインテールが揺れる。

「さ、じゃあ冷めないうちに、食べましょうか」
 昼をややすぎた頃、一つのパーティが遅ればせながら昼食をとりはじめたのだった。
161ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/23(木) 01:09:28.85 0
ふっくらとした白身の上をバターが通ると、香ばしい香りが一面に広がっていく。
その香りを嗅ぎ付けてか、メアリが目を覚ます。ツチノコを彼女によそうフロウを横目に見ていた。
...あの皿、食事に使うのか。そんな栓の無いことを頭に浮かべながら。
こんなバカみたいな事を考えていられるのもこの二人のおかげかな、と。ティアはそう感じた。

ティアの戦場は人族の網。生き馬の目を抜き明日を掴む世界。
緊張の糸が途切れれば終了。常に不信に苛まれる、そんな世界。
だが今日は違った。そこには協調があった。
今日のこの日を共に生き延びた二人を、真に仲間だと。ティアにはそう思えた。

>「あのね、二人ともありがとう」

「...いいから早く喰っちまえ。固まると不味いぞ」

一度口に出した信用を、それでも蒸し返すのは気恥ずかしかった。
『お互い様だ』と、その言葉を飲み込んで急かすように串を手に取る。
ふわりと漂うバターの香りを、取水亭の紙の香りと重ね合わせながら。
噛みしめたツチノコの身は、柔らかな息吹を乗せた甘く優しい味がした。
162GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/23(木) 06:38:56.58 O
昼食をすまし、無事に街、ギルドまで帰還した一行。
依頼の品を受け付けに渡すが、ここでまたトラブルが。
「…報酬が消えてる?」
ナンバリングされた保管庫の、この依頼の中身が消えていた。
これは由々しき事態、と副団長がすぐさまよばれ、調査することとなった。(団長外出)
その際、二人からスライムについての報告もなされた。(メアリは特に何も言えていない)
そして翌日、空き部屋に三人は集められた。時間は朝のミーティングの後。
副団長が苦々しげな顔で、結果を告げる。
「…調査結果をまとめる。まず依頼人は偽名、実際はギルド内にいた錬金術師だった。
報告を受けたブルースライム、その研究に人を送り込むことが目的だったそうだ。
跳ねるスライムに人を食らわせた状態と、周囲に生えやすくなる光輝花の研究。
ただし、今回は増えすぎたスライムを減らす処理と、新しい餌として依頼した、と言った。
…その為に依頼書を他の書類に混ぜ混み、強すぎないパーティーを作らせた、とのことだ。この点に関しては謝罪する。メアリは丁度よかったから利用された、ミスではなかった…すまない。
錬金術師は牢にぶちこ…入れたので、これ以降は非人道的な事もできまい。聞きたいことも脅し…いや聞き出したから問題はない。
そして報酬だが…ギルドからの詫びも含め、金貨12枚を支給することとした。
分け前についてはそちらで決めてくれ。
それにしてもよく帰ってこれたな…良いトリオとして頭に入れておく。」

こうして長い長い報告が終わり、三人の手元には12枚の金貨が煌めいていた。
どう分けてもいい、そういいながらも三当分しやすい額を残して副団長は去っていった。
さあ、どうするか。
163メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/23(木) 06:47:19.20 O
「…よくわかんなかった…」
正直なとこ、メアリには自分のミスではなかった、という部分しかきちんと理解できなかった。
悪い人がいて、危ない目に遭わされた、そんな感じだろうか。
「えと、取り敢えずお金どうしよう?ティアが一番多くていいと思うんだけど…」
いい話の時に寝ていたメアリには、自分が力になれた気がしていない。
だからこそ等分するには引け目を感じていた。
「あたしは少なくていいし、買い物もしてないし…」
なのに、何故か語尾が下がってしまう。
わからない、なんだか変な気分だ。寂しいような、不安なような…嬉しいような。
彼女にはそれが、良いトリオ、と言われたからだと、まだわかっていないのだ。
164フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/23(木) 22:48:31.08 0
通常依頼を達成すれば後はギルドに団員ないしは依頼者から報告が入り完了、報酬を
受け取る手筈となっている。のだがフロウ達三人組がその段取りを踏めたのは翌日の事
だった。報酬はもらえず何が何やら分からないにも関わらず彼らが一度解散したのは、
一重に「なんかトラブルあったな」という空気を察して避難したからだ。

 そして真相を聞かされたのは、皿の油汚れもキレイにし終えた今日の朝。フロウ達は詐欺に遭い、その犯人は銀の杯団内部の人間とのことだった。
魔法使いや錬金術師に限らず欲望に素直な研究者が人体実験をしたくなることは歴史
の中でも珍しくはない。実際に被害者の側に立つと嫌なことこの上ないが。

「ああ、スライムを全滅させない程度に間引いて、私たちが力尽きて餌になるところ迄
が予定だったんですね、そのスライム研究家の人にとっては……」

 目と目の間を軽く指で押さえてフロウが呟く。『強すぎない』とはよく言ったものだ。
確かにフロウがメアリとティアにエンチャントしたとして、あの数をどこまで相手に
できただろう。素早いスライムに徐々に体力を削られやがて物量に飲まれるのがオチだ。

「しっかし身内の犯行とはいえ、スピード解決ですね」
 言いながら増額された金貨を数える。お金に汚い副団長の本気を垣間見た気がする。

>「…よくわかんなかった…」
 メアリが呆然と呟く。無理もないだろう。詐欺に遭ったと知らされたのと同時に解決
が言い渡されたのだ、別の詐欺を疑っても不思議はないし混乱もするだろう。

「簡単に言うと、メアリの書類整理にミスがあったという訳ではなかったということ」
 そう教えると副団長のマックスはフロウ達をいいトリオだと言った。フロウは考える。
誰かが統率した訳でもないのに撤退の際に狼狽もせず、また団結を見せたのも確かだ。
協力して逃げることは、攻勢に転じるよりも遥かに難しい。

「まあ、そういうこともありますよ」
 否定も肯定もせずに、フロウは柔和な笑みを浮かべた。一夜漬けのパーティにしては
上出来だ、だから否定はしない。けどまぐれの可能性もある、だから肯定もしない。
ただ、この結末は満足のいくものであることは変わらなかった。

「あ、証拠物件の資料や書類は詰所に提出する前に写しをとらせてください」
 そしてちゃっかりアイテム入所のための予約を入れておく少年?エルフであった。
165ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/24(金) 01:20:41.73 0
「...傍迷惑な野郎が居たもんだな。通りでスライムが五万といたわけだ。
 ありゃあ潜り抜けて行くべき量じゃねーよ。掃討屋(イレイザー)の領分だったからな」

まさか依頼そのものから仕組まれていたとは。本業であったはずのことに気を遣れなかった自分が情けない。
なるほど、討伐ではなく採集を目標にしておけば戦闘能力が押さえられたパーティが組まれるだろう。
最奥の光景を見たときに、あるいはもっと前に気づいておくべきだったか。今となっては最早意味はない思考ではあるが。

せめて事が終わった今からでも、集められる情報は集めておくか。今後仲間を危険に晒さないようにするためにも。
自然とそう思った自分に対しふっと笑みを浮かべた。昨日の一件で俺も随分丸くなったんじゃないか、と。
だがそれでいい。今の自分はギルドメンバーでありスカウトなのだ。

>「えと、取り敢えずお金どうしよう?ティアが一番多くていいと思うんだけど...」

「お断りだ。折角均等に割れるのに平等に分けなくてどうする。
 それともお前が水底から引き上げた俺の命は金貨数枚より軽かったか?」

もしそうなら貰ってやるがな、と皮肉るように付け加える。
それでもティアの表情に嫌味な色は含まれていない。小さな子供をたしなめるような、そんな苦笑を浮かべていた。

「それでも納得できないなら次は行動で返しな。
 往々にして『良いチーム』にはチャンスが回って来るモンだしな」

受けとる物を受け取って、ティアは早々にギルドの建物を出る。
さっきはああ言ったが、メアリの台詞如何に関わらずより多くの金貨を受けとる気は無かった。
目映く差した日の光が生を実感させてくれる。
あの洞窟内から生き延びたと言う、そんな感情を新たにして。
全てを終えたあとの空は、どこまでも澄みきって見えた。
166GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/24(金) 12:46:20.06 O
こうして、三人の冒険が一つ終わった。
だが再びチームとしてよばれたのは、僅か一週間後。
今回はきちんと朝礼で名を呼ばれ、依頼書を渡される。
さあ、次はどんな仕事なのだろうか…?
167GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/24(金) 12:53:08.78 O
168GM ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/24(金) 12:54:44.25 O
失礼、リンク間違えました。
正しくはこちらhttp://jbbs.m.shitaraba.net/b/i.cgi/internet/9925/1398870009/
169 ◆aGab3MEKhY :2014/10/24(金) 23:04:19.71 0
今回予告

クエスト詐欺に遭ったメアリ達に次なる依頼が舞い込んだ。
事件は古式ゆかしき『ゴースト退治』!夜な夜な現れるというその霊に
しかしフロウは心当たりがあるようで……?
街外れの共同墓地に怒号と悲鳴が木霊するのか
草木も眠る丑三つ時に、故人の秘密が暴かれる!

次回 「墓の下の懲りない罪人」



「お前死んでも許さないって私言ったよな」
170フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/24(金) 23:06:32.78 0
 窓を開けば多くの音が入ってくる。天気はあいにくの薄曇りだが雨は降っていない。
ここは冒険者、ではなく何でも屋と開き直ったギルド『銀の杯団』二階の一角。数人の
団員で運営される店の一つ、貸本屋『取水亭』である。
 店番を務めるのは銀髪碧眼の若いエルフ魔法使い、フロウである。彼は不機嫌だった。
先週のクエスト詐欺は結果的に成功を収めたものの、本日のミーティング後に齎された
新しい依頼は一週間分の上機嫌を一瞬で吹き飛ばしてしまったのだ。

『フロウ、ティア、メアリの三名にはこの依頼書を渡す。目を通しておいてくれ』

 今回の依頼書は素人目にも分かるほど上等なものであり、特定の団員を指名して依頼
を出すためのものだった。指名はフロウ宛てで、二人を加えたのはチームとしてまとめておきたい副団長の思惑だった。団員は基本的に個人の集まりなので、まとまりのある
人員の育成は必要なことであり頭の痛い課題でもあるのだ。

『依頼人 :エステロミア正教会ルミエリア支部
 依頼内容:教会管理下の墓地に出没するようになったゴーストの確認と退治
 報酬  :金貨1枚と銀貨25枚
 場所  :住宅街外れの墓地                         』

 そしてこの依頼人名を見た瞬間からフロウの顔は全くといっていいほどの無表情と
なったのである。
「この依頼断っちゃいましょうよ……」
 そして取水亭に戻ってからこの“ていたらく”である。

「料金もこの前より安いですし……」
 当たり前である。金貨12枚などという価格が飛び出したのは一重に詫びというより
も口止め料の意味合いが大きく、かつ支払えるだけの質草が犯人から引っ張れたからだ。
金貨1枚あるかないかの依頼を大量に受けていくのが一般的なギルドの運営スタイルである。

「私教会嫌いなんですよねー、なんでしたら依頼人の方への聞き込みはお二人で……」
 クリーニングに出してピッカピカの宗教服に身を包んでいるいながらこの言いようである。フロウの心は今日の天気のように鈍色に染まっていた。

【移動すればなんのかんの言って付いて来ます】
171ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/25(土) 20:41:34.42 0
「はぁ?見ない間に頭を蟲にでもやられたか?
 依頼としちゃシンプルな額だし第一あんたは名指しだろうが。
 指名されたヤツが行かなくてどうするって言うんだよ」

かわらず古びた紙のふわりとした香りが満ちる『取水亭』。
呪術の入門書を片手に読んでいたティアが店番のエルフが溢した言葉に声を荒げた。
まっさらの聖服に刻まれたエテロスミアのシンボルを横目にフロウをたしなめる。

...大方、フロウの不機嫌の理由は過去に協会といざこざを起こしたか何かだろう。
そうでなくては聖服を纏うような人族が雑用ギルドに居座る理由が薄い。
だが、そのような私情で依頼を取捨選択されては困る。転がった先とはいえ仮にもここはギルドなのだ。
そうしてフロウが駄々をこねること約7分。いい加減に鬱陶しくなったティアは本を閉じ眉根を寄せた。

「ああもう面倒だなぁあんたは!いいから行くぞ!
 ...メアリ、お前からも何か言ってやれ。これじゃ埒が開かない」
172メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/25(土) 21:32:17.31 O
『取水亭』に三人で集まれるとわかったときはうきうきしていた。
しかし、ここまでフロウが依頼を嫌がっているのを見ると、なんだかしょんぼりしてしまう。
彼が嫌がっている理由は知らない、とっても嫌なことをされたのかもしれないし、傷つけられたのかもしれない。
それでも、これは彼への依頼なのだ。
「フロウ…やなことされたら頑張って助けるから、一緒に行こうよ…?」
何より寂しい。
ティアと二人でいるのも楽しいが、せっかく三人で行動するチャンスなのだ。
一人より二人、二人より三人。
親が死んでからは、ご飯が美味しいここにいついた。
…でもその時の寂しさは怖かった。
今でも人間に虐められて、怖がっていたりするけれど、今でも友達はフロウとティアくらいだけど…
「それでも、嫌なら…頑張ってくる、から…」
自分が涙目になっているなんて、メアリにはわからない。
嫌な思いなんてしてほしくない、辛い記憶はずっとしこりのようになるから。
少しくらい寂しいからって、フロウが嫌なら、無理にとは言いたくない。
メアリはそれだけ言うと、フロウの服の裾をきゅっと引っ張り、見上げながら返事を待つだけだった。
173フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/25(土) 23:58:13.84 0
北風と太陽という話しがあったが、今のこの状況は熱風と雨だ。ティアがイラつき
メアリが涙ぐむ。フロウはうなだれた。
『ああ自分がわがまま言ったからこうして跳ね返って来たんだな』と実に分かり易い。

「分かりました、分かりましたから。……期日の相談もしないといけませんしね。ほら、
メアリももう服を離してください、大丈夫ですから」

 溜め息を一つ吐いて立ち上がると居住まいを正す。そして二人に言った。
「ただ、ひょっとするとものすごくくだらないことに巻き込むかもしれない」

 ルミエリア王国は海に面した国である。国内の比重は港に近付くにつれ大きくなる。
街の区画も概ねそれに準じており、住宅街は海の被害を受けない高台の王城と、港に
続く市場に挟まれて存在する。

 この住宅街にも当然ながら大小様々な店や施設が存在するが、冠婚葬祭の取り扱いと
来ればここ『エステロミア正教会ルミエリア支部』である。元聖職者のエルフは二人に
道中で簡単に教会の説明をした。

 広さは中規模程度で銀の盃団よりやや大きいが敷地面積で負ける。簡単に説明すれば
建物内にあれこれ詰め込んだ大型施設だ。石畳の道を少し上がった普段は日当たりの良い教会の入口は、鉄格子の重々しいもので、頭上のアーチにかかる月桂樹の枝葉の絡む
太陽のシンボルが微妙に合わない。

 入口で掃き掃除をしていた修道女、白い簡素なローブに手袋とマスクで全身を隠した、
が小走りに寄ってくる。好奇心旺盛な輝きが唯一様子を確認できる目から溢れていた。

「あ、ギルドの方ですね!?ギルドの方ですよね!お話は伺っております中へどうぞ!」
 早口でまくし立てられて、フロウたちは教会内に追い立てられる。普通は自分から聞
くのが筋だが手回しの良さに辟易する。道行く修道女達がちらちらと見てくる。

「この先右が応接室、手洗いが左手奥。真っ正面の窓の外に見える建物が礼拝堂です」
 案内されながら案内するの若エルフは、今度は客として応接室に招かれる。中は失礼なくらい質素で、自主制作の長机に長時間座ると尻を痛めるような安い椅子が置かれている。

 椅子の向かい側には一人の老修道女が座っていた。
174フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/25(土) 23:59:38.97 0
「ようこそおいでくださいました。さ、おかけください」
 銀の盃団のメンバーをちらりと見ながら彼女は勧めた。

「還俗するってこういうことですよ、クラム」
「っ、失礼しましたフロウ司祭」
「“元”助祭長です」

 ぴしゃりと断るフロウの言葉には断固とした響きがあった。クラムと呼ばれた修道女
は、改めて依頼を彼らに話し始めた。


1 ここ数週間、毎夜毎夜、修道女達の深夜の徘徊が増えていること。それは夢遊病のような状態で、その時のことは殆ど覚えていないとのこと
2 被害に遭っているのはみな年若い修道女ばかりであること。
3 調べるうちに行き先が教会内の共同墓地であること、どうもゴーストの仕業だと
いうこと。
4 このゴーストをギルドの皆さんになんとか解決して欲しいということ
5 期限はひとまず一週間、報酬は額面通りであること

これがフロウたちに開示された依頼内容であった。

「教会の墓地で化けて出たとあれば信用に関わります。が、それに対する自浄作用を持つことの証明として、こういったことへの対処も教会の務めのはずですが」
 『分かっていながら』フロウは尋ねた。

「……もしも、その、教会の関係者のゴーストとなれば、その場合、私達は戒律に従い
手をだしかねますので……」

 クラムは目を伏せた。確認できていないような口ぶりだが、既に部外者を呼んだ時点
でそんなはずはないことは明らかである。

「それで外に出た私にお鉢が回ってきたのですね」
 クラムは重々しく頷き、フロウ、ティア、メアリを判断しかねるといった顔で見る。

「まあ、取り敢えず、一度見てから対策を立てましょう」
 そして元管理職は同意を求めるようにティアとメアリを見たのだった。
175ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/26(日) 08:34:28.84 0
【見識判定 使用ステータス:知識(51)】
【成功すれば「教会の戒律」に対するある程度の知識を持っていることになる】
176ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/26(日) 09:10:29.12 0
>「ただ、ひょっとするとものすごくくだらないことに巻き込むかもしれない」

「ギルドってのは得てしてそういうモンだろう?
 まあ先週の『アルケミストのエゴ』を越えてこないように祈るさ」

すれ違い様にメアリの頭にぽんと手を置き、ティアは取水亭の扉をくぐる。
鈍色の曇り空が何処と無く陰りを増した、気がした。


港と王都に抑圧されるようにした住宅街。一際広い敷地を有する建物を見上げる。
『エテロスミア正教会ルミエリア支部』。ティアは聖職者からのお祓い仕事にどうにも腑に落ちない感情を抱いていた。
その意味を知るのは一先ず話を聞いてからで良いだろう、と割り切って。ギルドとは違う豪奢な門扉を通っていく。

慌ただしく出迎えた修道女に連れられて応接間へと通される。凝った意匠の表面とは異なり、内部はかなり質素になっていた。
節制の教えか、逼迫した経費か。要らぬ考えを巡らせて老修道女に目を向ける。
恭しく頭を下げる老修道女の様子からは、フロウに対する敵意といった感情は見られない。
一体何がフロウをはぐれ者たらしめたのだろうか。目前のやり取りからは推し量れるものは無かったが。

(......別に良いか。これで依頼に障害が生まれる訳じゃ無さそうだ)

あるいは。とも考える。この事案の裏、ゴーストをゴーストたらしめたのが...?
だがティアは直ぐに考えを押し込めた。内部事情をよく知らずに考えを巡らすとろくなことがない。

>「まあ、取り敢えず、一度見てから対策を立てましょう」

「専門家が言うんじゃ遮る理由は無いけどな。
 幸いこの街も辺境って訳じゃあない。余程の物じゃなければ買えるだろうしな」

詳しい話が無かったために心もとない持参品。ここからでも十分カバーできる。
教会の近郊ということで、街にはある程度の活気がある。こういう所は品数もそれなりに取り揃えているものだ。

「案内は『"元"助祭長』殿に任せるかな。頼むぜ」

【見識判定に失敗。戒律についての事前知識は薄かった】
177メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/26(日) 15:00:20.16 O
「教会って大きいんだね」
興味がないことへの知識はとことんないメアリ、彼女に宗派だの聖職者などといった話は無縁だ。
それでも見慣れないものには興味を示してしまうもので、あっちこっちきょろきょろしていた。
だが流石に依頼の話はちゃんと聞く。
「若い修道女さん?若い女の人ならいいのかな?あたしもなるのかなー?」
夢遊病のよう、といったくだりで疑問を口に出す。
関係があるからそんな風になるのか、別に誰でもいいのか。
ゴースト自身にでも聞いてみなければわからない。
そもそも、スライム以上に触れることすら出来ないゴーストへ、説得以外なにができるのだろう?
魔法の力なら効果があるのだろうか。
そうならば尚更フロウに従うべきだろう。
「でも、結局どうすればいいのかな?」
調査?と首をかしげるメアリ、今回はどうしたらいいのかわからないことだらけだ。
178フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/26(日) 22:43:48.20 0
ティアが茶化しながらも同意を示してくれた隣で、メアリがクラムへと質問をする。
『そうですね。教会の外の方は普段は居りませんから、お嬢さんがなるのかというと、
正直分かりません。また若い修道女に限るのは、恐らくは心の隙間に入り込まれるから
ではないか、ということも言われています。なにぶん多感な時期ですから……』

 とクラムは答えた。そして次の「どうすればいいのか」という問いへはフロウが返す。

「ゴーストへの対処は二通りあります。一つ目は会話が可能な場合。これは相手の未練
を聞いて、出来る限りこれを叶えて差し上げることです。ですが邪な願いやあまり無理
な要求であれば残念ですが“力ずくで”ということになります」

 ゴースト退治に使えるようなアイテムや装備は礼拝堂裏の体育館で売っていること
を二人に伝える。スポーツで体を動かしストレスを発散させる、アンデッドとの戦いを
想定した訓練を行うといった目的のためにあるのだと付け加えておく。

「主に聖水や燭台、捕縛用のロープに、武器ならメイスと儀礼用のダガーがあったはず
です。在後があればですが。街で見るものより安いですから見ていくといいですよ」

「そして二つ目、これもやはり“力ずく”となります。初めから正気を失い、妄執や
欲望の塊が、魂の残りカスを乗っ取って現れるタイプのゴーストは、一刻も早い駆除が
必要です。被害の速度も程度も比較になりません」

 そして立てていた指を戻しながらフロウは告げた。
「まず力ずくとなるでしょうが一応確認はとらねばいけません。夜を待って寄宿舎と
墓地を見張ることとしましょう。場所はあとでお教えします。持ち場はそれぞれの判断
に任せますよ」

 そこまで言って、彼らはこの教会に寝泊まりする場合や食事に関する取り決めの細々
としたことを決めた。具体的には以下の通り。
・日中は自由だが日が落ちてから教会に来て見張りをすること。
・寝泊まりは礼拝堂内の宿直室で。
・教会の食事はおいしくない健康食

「では、可能であれば今晩から張り込みを始めたいと思います」
 一先ず打ち合わせはそこで終了となり、各自はそれぞれの行動に移り始めた。 
【買い物ができるようになります:幸運で判定:買えなかった商品は予約となる】
179ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/27(月) 22:47:40.64 0
「一つ目で済めば良いけどな。取り敢えず俺は墓地に行かせてもらうか」

一次の打ち合わせはそこでお開きとなった。
なにぶん不馴れなものとの戦いは何があるかが解らない。前回大いに学ばせてもらった。
だからありったけの準備をしてしまいたい。しかし余りに過剰な装備であまりゴーストを刺激するのも不味いかもしれない。(

(...その気になれば逃げおおせることは容易いか。
 恐らく相手は場に縛り付けられているタイプの怪だろうからな。
 戦闘はある程度任せて、「その1」のケースに備えるか...?)

隠し持てる小型の武器となにかつまめる旨いもの。それだけ用意すればひとまず良いだろう。
期限は長い。見てから確かめることだってそこから更に買い足すことだってできる。焦ることはない。
そう方針を決めたティアは教会内部の販売所へと足を運んだ。食料は後で街に出て買い足すこととしよう。

【物品購入ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【成功すればダガーと少量の食料、小瓶のウイスキーを入手】
180ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/27(月) 22:48:22.83 0
【物品購入ロール失敗。後日商品は入手】
181メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/28(火) 00:24:55.97 O
>『恐らくは心の隙間に入り込まれるからではないか、ということも言われています。』

心の隙間。
メアリは、自分がそこまで弱い精神をしているとは思っていない。
生きるためなら残飯を漁り、石を投げられても引かない。
たくましくなくては、死んでしまうのだから。
けれど…親を…故郷を失った事は、乗り越えられたのか?
寂しさに枕を濡らす日々は、強い者と言えるのか?
体への痛みや苦しみなら耐えて見せる。だが、一番怖いことを揺さぶられたら…
メアリには、耐えられないかもしれない。
「えと、聖水と儀礼用のダガーほしいなー、あたし狩りに投擲したりするし」
少しの怯えを隠すように欲しいものを述べてみる。
実際中型くらいの動物ならナイフで狩れる。使えなくはないだろう。
買いにいって損はしないはずだ。
後は…フロウについて回ろうか…
【投擲成功率は素早さ+幸運/2にします】
【購入:幸運ロール20、失敗時は予約します】
182メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/28(火) 00:40:36.75 O
【購入失敗、予約して後日買います】

…売ってなかったや。
取り敢えず、フロウといようかな…ティアは墓に行くっていってたし。
ちょっと、ちょっとだけ、自信ないから…
183フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/28(火) 23:04:18.93 0
 どうやら二人とも買い物は上手くいかなかったようだ。街の市場が開いている時間は
決まっているので値比べしていると買いそびれるなんてこともあるし、教会内の装備品
は普段から品薄だ。武器が豊富に揃っている教会なんてそれこそ問題である。

 夜までの間にフロウは施設内を案内した。後にして数年の古巣であるが、変わりない
風景に少しばかり安堵する。教会の施設は字にすると「ヨ」の字に配置されている。
                          ↑本棟

・寄宿舎 三階建てでどの施設からも離れている。何故だか男性はいない。
・体育館 主に日々の鍛練をする場所。寄宿舎から上に進むとある礼拝堂の隣。
・礼拝堂 本棟の裏手にある建物。讃美歌を歌ったり結婚式を挙げたりする。
・教務棟 礼拝堂の裏手にある建物。座学はここで行われる。平屋一階建て。
・共同墓地 教務棟の左、体育館の上、「ヨ」の一番左上にある場所。規則正しく墓石
が林立し、奥に合葬墓の石碑がある。芝生たっぷり。

 昼間にゴーストが出ない理由には諸説あれど未だに判明しない、が出ないうちに場所
の確認だけは済ませておく。

そしてつつがなく夜の十二時を迎える。規則正しすぎる教会の生活ではこの時点でも
深夜と呼んで差支えない。あまり美味しくないマッシュポテトと干物、塩スープ等を
食べたり食べなかったりした後だ。

 やがて張り込みをする三人は、どこからかフラフラとおぼつか無い足取りで歩く女性
の人影を見つけるだろう。寄宿舎のほうから、質素な白い寝巻に裸足のまま歩いてくる
若い修道女の姿を。

「危害は加えられていますが命に別状はないので、今日は手を出しません。いえ、可能
ならば今日中にでも始末をしたいのですが万全を期したい気持ちもありまして……」
 
 フロウの声は小さいながらもはっきりと聞き取れるくらい声は低く据わっていた。
自分に言い聞かせているといったふうだ。

 隠れて後をつけると、少女は一つの墓の前で立ち止まる。不意に風がざわつき、大気
が冷え込む。急にざわつき始める周囲に応えるかのように、「ソレ」は現れた。
 他に光源がないのではっきりと見えることだろう。墓石の中から青白い、発光する
「もや」が現れ、次第にその輪郭を生前の姿へと整えていく。
184フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/28(火) 23:05:01.42 0
「やはりあいつか…………!」
 
 人間の上半身を象ったゴーストは、穏やかそうな老人の姿をしていた。少女は焦点の
定まらない瞳で老人を見上げている。

「………………………………」
 
 その様子を満足そうに見つめる老人は、霧のようになったかと思うと少女の体を包み
込むようにまとわりつき始めた。この瞬間からフロウのこめかみに青筋が浮かぶ。
 少女の目に何が見えているのか、幸せそうな安らいだ表情を浮かべているが、顔色は
どんどん悪くなっていく。精気を吸っているのだ。

 このとき、注意深く観察していれば、少女の体、具体的には「胸」「尻」「腿」の辺り
がまさぐられるような動きで変動していることが分かるだろう。この辺りでフロウの
顔色も普通のエルフのように白くなる。

 やがて青白い光は桃色に染まり、満足したのかゴーストはその後姿を消した。少女は
というと音もなくその場に倒れふしている。

「行きましょう」

 フロウは二人を促して少女のもとへ駆け寄って助け起こす。気を失っているだけだ。
安堵の息を漏らし、次に謝罪の言葉をかけると、彼は目の前の墓を見た。
 墓石にはこう刻まれている。

『エステロミア司教ベルゴリウス4世ここに眠る』

「……行きましょう」

 時刻はそろそろ夜中の2時。少女を寄宿舎に預けてから、フロウは二人に向き直る。
キレて物に当たる寸前といった空気が先程からずっと彼を取り巻いている。

「もう遅いですが、事情を説明するのは、今と朝、どちらがよろしいですか」
 ティアとメアリに、今聞くか、後で聞くかを尋ねた。終日曇りのままだった今日、
ついに雨は振らなかったが、夜に月を見せることもなかった。
185ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/29(水) 02:38:55.68 0
『やはりあいつか』。フロウの口から漏れた言葉に僅かに目を細める。
老修道女とのやり取りから、フロウが何かしらこの件に関して確信していることがあるとは踏んでいた。
少女に憑き淫らに色めき立つゴーストの生前と、関わりがあったのは間違いないだろう。

ティアはゴーストの扱い方を心得てはいない。自然と相手を知的生命体と捉えてしまう。
それにゴーストの挙動は『欲望の塊』と呼ぶには半端な気がしてならなかったのだ。
ヤツには自我があり、思慮があり、目的がある。その可能性を無意識で第一序列に置いて紐解いてゆく。
後ろ暗い過去で研鑽された、それがティアのスタイルだった。

(とは言え知り得る事実は色欲のゴーストの存在と激昂する元助祭長だけ。
 あのゴーストが単に『そういう趣味』の可能性も否定できない。
 だが『こうなる』事を知っての上でなら、ターゲットは取り乱した元助祭長、か...)

これまでの被害者の系列から外れる者が出るとするなら、それは間違いなくフロウだ。
これ程までに興奮するフロウに漬け込もうと言う算段なら、一筋縄ではいかない相手だろう。
考えすぎだろうか。先走るなと自らを制する気持ちもあった。
何にせよ除霊はティアの預かり知る領域では無いのだ。精々動けるところでフォローさせてもらうとしよう。

「その二択を用意するって事は、今晩中にもう被害は出ないんだろうがな。
 初動が速くても困ることはない。今この場で話してくれ。
 『あのゴーストはどっちのタイプだ』?『生前の奴と過去何があった』?
 ...最もうちのチビっ娘が、途中で寝ちまわない自信があればだがな」

横目でメアリをちらと見た後、墓場があった方へと顔を向ける。
墓碑に刻まれた名前。一字一句を頭の中で反芻しながら。
ゴーストに目的意識があるのなら、それを知ることで対処がしやすくなるのだ。

(『エステロミア司教ベルゴリウス4世』、か...)

よどんだ空に向けた視線を瞼を落として遮った。自身の記憶の糸を辿るように、ゆっくりと繰り返す。
一際長い時計の針が、今ティアの胸の前で12を指した。
186メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/29(水) 09:50:39.60 O
ほぼ1日中フロウに引っ付いて行動し、食事を食べてからが本番だった。
「拾い物より美味しかったよ?」
未だに不安な気持ちがあるメアリは、夜の訪れが嫌な気分になっている。
とはいえ茶化したわけではなく、実際の感想をのべたまでだった。
しいていうなら、量が足りないくらいだ。
…時は止まらない、夜中になると修道女が歩きだし、墓場へ向かっていく。
そして、確かにゴーストと呼ばれるであろう存在を見た。
もし自分が眠っていたら、あんな風にふらふら吸い寄せられてしまうのだろうか?
そう考えると、思わず身震いしてしまう。
そのまま様子を見る、とのフロウに従い、静かにしているとゴーストは好き勝手に動く。
が、残念というか幸いというか、修道女がされていた事の意味は理解していない。
…体以外は完璧に子供だとも言える。
修道女を送り届けた後に、今話をするかどうかを聞かれたので、正直に答える。
「眠るの、怖いから…今聞きたいな」
何をされていたかはわからなくとも、勝手な事をされるのは嫌だ。
今晩はもう大丈夫なのだろうが、今のフロウの苛立ち以上に、自分自身が不安。
なんなら話をしてしまうことで苛立ちも晴れてしまえばいいな、と期待するのであった。
187フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/29(水) 23:02:26.70 0
ティアとメアリは今聞くことを選んだ。フロウはこれに同意した、取り分けメアリの
生い立ちに深い傷があることは彼も知っている。ギルドで生活する中でのとある日に、
彼女のほうから零したことがあるからだ。話しを聞くことが仕事だった元聖職エルフは
これを一通り聞いた。
 眠るのが怖いのは猥褻ではなく自身の心の傷に思い至ったからだろう。だからこそ、
フロウはこの事件が一層苛立たしかった。深呼吸を数回してから彼は答えた。

「あのゴーストは後者です。ただし、まず間違いなく理性らしきものがあります。
より高次の悪徳が魂に染みついているとでも言いましょうか」
 悪さのために使う頭が残っているのだと、フロウは言った。そして、生前のゴースト、
ベルゴリウスとの因縁について、話せば長くなると断ってから静かに語り始めた。 

――あれは今から数十年前のことです。私はここで一助祭として日々の勤めを果たして
いました。助祭の役目は簡単に言えばスケジュール調整と各式場の準備、それと孤児の
世話に教務棟で教鞭を振ることでした。それなりに平和な日々でした。ですがある日、
ベルゴリウスはやって来ました。代々聖職者を輩出している家の出らしく、教義、作法
は元より、魔力にも秀でるものがありました。見た目も凛々しく着任してからすぐに、
彼は人望を集めました――

 薄暗い室内を照らすのは、壁にかかった燭台に灯るいくつかの炎。その炎が揺らめく。

――ですが私には違いました。いえ、彼の態度の端々には亜人や孤児に対するトゲや
冷たさがありました。なまじ能力があり周囲の覚えもめでたい彼だからこそ、不自然の
裏にあるものが、見え透いていたのです。…………彼は野心家で、好色でした。初めは
ただ子供っぽさが抜けていないのかと思いましたが、ベルゴリウスは事あるごとに教会
の地位を向上させることばかりに囚われて、身の周りには常に修道女を侍らせるように
なっていました。そして日々の勤めを疎かにするようになっていく彼と私は次第に衝突
するようになっていました。教会の役職は職務の内容こそ違いますが階級の差という
ものは厳密にはありません、が、彼はそうは思わなかったようで、彼が司教補佐のうちに私が助祭長に任命されたときは本当に不機嫌になっていましたね――

 遠い昔を思い出すフロウの横顔に、懐かしむ様子は一切ない。

――もとより教会は争いごとや栄華といったものに興味の薄い方ばかりでした。彼、
ベルゴリウスも職務への正当な対価を標榜していましたが、それは勤めを果たす当人達
の心から数えるものです。空回りを続ける彼もやがて若者から中年に差し掛かった頃。
188フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/29(水) 23:04:00.27 0
転機が訪れてしまったのです。当時の司教がお亡くなりになった際、次の司教に選ば
れたのはベルゴリウスでした。彼は私たち以外には善良な人物でしたし、月日は実績と
見なされました。教会の、主に魔法や武力における面を進歩させたのも彼の功績です。
 私も自分の職務を第一にすること、そしてあまり女性を小間使いのように連れ出す事
を控えることよう注意して、その上で賛成したのです。結果から言えばこれは間違いでした――

――あるとき、私が礼拝堂の懺悔室、つまり昔のここです。ここで、人々の懺悔を聞く
ためにいた私の前に、一人の女性が現れました。他でもないこの教会の娘でした。稀
にあることでしたし、何よりその子は孤児から修道女になった、大げさに言えば私の育ての娘です。分からないはずはありません。これもままあることと受け止めていた私に
齎されたのはしかし、あるまじきものでした――

 俯くフロウの表情が銀髪の帳に覆われて、窺い知ることができなくなる。声は止まる
ことなく出続ける。

――あの子は言いました。洗礼とはいえ、自分の純潔を捧げることは、本当に避けられ
なかったのか、と自分は洗礼を受けた日からどうにも何を信じていたのかよく分からな
いと、私は耳を疑いました。洗礼なんてものはこの宗教にはありません。ましてや私は
この教会の祭事の支度を与ってきた身です。知らないことはありません。そんなこと
どうでもいいんです。私はたまらずに己の姿を晒してあの子を問い詰めました。今で
もあの子の恐れ、傷つき、罪の意識に苛まれた顔を忘れることはできません。何が、
何があったのか、何をされたのか、簡単すぎました。ベルゴリウスは身の周りの女性を
騙しては洗礼と称して修道女達を穢し、己の獣欲を慰めていたのです――

 がりっ と音がする。机に突きたてられたフロウの爪が深々と表面を抉ったのだ。

――私は居ても立ってもいられず、メイスを持って奴の元へと行きました。一切の躊躇
もなしに人の顔にメイスを振り上げたのはあれが初めてです。問答はありませんでした。
殴って、引きずり倒し、気を失えば起こし、死にかければ魔法で直して何度も殴った。
奴は言いましたよ。「こんなことをしてただで済むと思うのかって」恍けもしなかった。
魔力が尽きてあとは殺すだけとなったところを、皮肉にも被害に遭った方々に止められ、
独房入りを免れました。全てが明らかになったあとの処分は、ベルゴリウスは司教位を
死ぬまで剥奪の上教会内の軟禁が決まり、私がそれの監視を務めることになり、修道女たちの申し出もあって、そこでこの件は終わったかに見えました――
 司祭にはその時任じられたと、フロウは小さく付け加えた。
189フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/29(水) 23:08:57.50 0
――それから私は奴が寝たきりになるまで教会に留まった後、留保されていた自分への
罰として還俗したのです。実はあのスライムの一件から3日後に、訃報が私の下へ届い
ていたのです。私のことを恨んでいたことを考えれば、こういうこともあるかもと、
思ってはいたのですが……――

「本当に、お二人をこんなくだらないことに巻き込んで申し訳ない」
 フロウは項垂れたまま、少しだけ頭を下げた。声はいつしか弱々しくなっていた。

「以上が、ベルゴリウスと私にまつわることの顛末で、今回の発端となる出来事です」

 そこまで話して、ようやくフロウが顔を上げた。過去の記憶によって消耗した顔には
疲れの色が見える。

「本当に……くだらないでしょ」

「だから、私はなるべく受けたくなかった。巻き込んで申し訳ないと思っています」
 しかし、彼は依頼を断るとは口にしなかった。そういう気持ちになることを、彼は嫌っていただけだから。
190ティア ◆zlaomeJBGM :2014/10/30(木) 23:18:41.37 0
「まあ、な... 下らないだろうがよくある話だ」

そう、それはティアにとっては『よくある話』だった。
人が人を怨み、妬み、嫉む。人が人を犯し、汚し、傷つける。
多くを手にした人物が浅はかな欲求に身を任せる。本当に、よくある話。

「まあアンタは精々気を付けな。
 今がどうあれアンタを見たら、奴は真っ先に襲ってくるだろうさ」

なまじ才が有るがゆえに与えられた高みの椅子。所詮は空虚な砂上の楼閣だ。
だがそれはそのまま才能の証明となるのだ。油断ができる相手ではない。
計算づくで行動しているのだとしたら、目的はまず間違いなくフロウだろう。
あるいは、逝き永らえた命でただ淫欲を満たしているだけかもしれない。それほど単純な話では無いだろうが。

「俺から言えることは少ないが、自分の感情には振り回されるな。
 怒りは、怨みは、悲しみは。全て刃を鈍らせるものだからな」

ゴーストとは強い精神の塊。心に隙を見せれば漬け込まれる、のだろう。
たとえそうでなくても、我を忘れた人間と言うものは思わぬ事故をおこすものだ。
そう忠告した上でティアは自分の黒いダガーを月明かりに翳した。

「ただまあ、危ないのはアンタだろうからな。
 元助祭長様の護衛任務、悪く無いんじゃあないか?」

事の発端、過去の因縁。下らないと吐き捨てるフロウにティアは意地の悪い笑みを向ける。
放っておけばフロウに被害が及ぶ。それを戒律で縛られた神官たちは守れやしない。
だったら、仲間の俺達が守らなくてどうする?それだけだって、依頼としちゃ十分だ。
そのかわり高く付くがな、と付け加え。ティアは屈託のない笑みをフロウに向けた。
191メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/10/31(金) 00:00:30.91 O
「好色とか…純潔とか…よくわかんないこともあるけど…」
話を聞き終えたメアリは、わかったことだけを頭に入れた。
「フロウが、やっつけた悪い人が、また悪いことしてるんだね。…くだらなくなんかない、あたしが手伝えるなら頑張るよ!」
内心緊張しているのはバレているだろうか、だとしても言ったことに嘘はない。
フロウの判断が悪とした人物、更には死してなお悪事を働く存在、それを倒すことを手伝いたいのだ。
逆に、自分が邪魔になったら…とも思いはする。
魔法なんて習ってもいないメアリでは、ゴーストへの対処が限られる。
予約したアイテムと、今持つ雷のアイテムだけで助けになれるのだろうか?
操られたりして、危険な目にあわせたりしないだろうか?
不安は沢山ある、それでも、それでも役に立ちたい。
いつも寂しさを和らげさせてくれるフロウの、助けになりたい。

それは、自己犠牲をいとわない危険な程の思い。
はたから見たら、哀れな少女でしかないが、本人が気づくわけもなかった。
「ただ、あのね?ちょっと眠りたくないなって…おんなじ部屋で、静かにしてるから」
もしかしたら、救いは恐怖を感じられることだろうか。
命の危機を恐れられれば、ぎりぎりで引き返せる。
この歯止めがなくなった時、彼女はブラッティーマリーの名を再び与えられるだろう…
ティアがフロウへかけた、我を忘れるな、その言葉はメアリにも当てはまるものだと、ティアは知らない。
192 ◆aGab3MEKhY :2014/10/31(金) 23:12:34.60 0
まずは幸運の買い物判定でませい
193フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/31(金) 23:14:04.88 0
>「俺から言えることは少ないが、自分の感情には振り回されるな。
 怒りは、怨みは、悲しみは。全て刃を鈍らせるものだからな」
>「フロウが、やっつけた悪い人が、また悪いことしてるんだね。
…くだらなくなんかない、あたしが手伝えるなら頑張るよ!」

フロウの人生の汚点を、彼らは糾弾することも、拒絶することもなかった。それも覚悟
のことだったが想像していたよりも反応は暖かいものだった。

「二人とも……ありがとう……」

 フロウは静かに息を吐いた。長年彼の心の中にわだかまっていたものが、少しだけ雪が
れたような気がした。

>「ただ、あのね?ちょっと眠りたくないなって…おんなじ部屋で、静かにしてるから」

「大丈夫ですよ、私が見ていますから。ご安心を」
 いつもの自分に戻れたエルフの青年は、穏やかな笑みを浮かべてそう返した。

そして翌日、正午を迎えたとき、彼らは再び教会に集まっていた。

「今日はゴーストへの対策をより具体的にお教えします。残りの日数でこれをこなして
いきましょう」
 昨夜の陰りはなりを潜め、今でははきはきとした少年のようなフロウの姿があった。

「相手も長年ゴーストをやってる訳じゃありません。勝手が分からないところがあります。
そこを突いて前もって正面決戦を挑めるよう工作をしていきます」

 フロウは指を一本立てた。
「まず墓石を全て前に倒しておきます。墓地の死体がゾンビ化されて呼ばれることがある
からですが、実はゾンビは地面から出ることを邪魔さえしてしまえば無力化できます。幸
いここは墓地だから出る位置は分かりきっています」

 フロウは指をもう一本立てた。
「次にベルゴリウスの死体を燃やすこと。あまり知られていないことですが、ゴーストが
一人歩きできるようになるまでは死体が必要なのです。これが自然に失われて初めて彼ら
は野良になれます。これを本人の目の前で行うことでダメージを与えられるのです」
194フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/10/31(金) 23:14:31.95 0
 フロウは指を更にもう一本立てた
「あとは魔法のかかった装備でバラバラにすれば退治は完了です。彼は私を狙うでしょう
が、却って好都合です。私よりも素早いお二人に襲われれば上手くいけば一手で落とせる
かもしれません」

「残念ながら彼を前にすれば私は冷静でいられる自信がありません。そのときは、宜しく
お願いします」

 そしてぺこりと頭を下げる。銀色の髪がしゃらりと揺れる。
 気弱な言動をとは裏腹に、指示を出す今のフロウには助祭長時代の風格が戻っていた。

【買い物判定失敗。購入は後日】
195ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/01(土) 22:56:12.70 0
「正面決戦か... むしろ搦め手でいった方が良いんじゃないのか?
 まあ俺が正面切ってぶつかるのが苦手なだけだがな」

自嘲気味な苦笑を浮かべてティアは言う。
教会の店に並べられた品書きを見ながら、ティアは一応の策を練っていた。
とはいえ自分とてゴーストとの戦いかたがわからない以上、案でしか無かったわけだが。

「例えばあの結界用のロープ。一度広い範囲で結界を張ってから縮めるとかな。
 そう都合よく掛かってくれるとは思わなかったが、出てくる位置が解るならアリだと思う。
 それとアンデッドを燃やす蝋燭。アレもなんとか使えないかと思ってたんだ。
 ゾンビ化した奴等を燃料にすればかなりダメージがあるんじゃないか?

 ......まあ、そう思って声をかけたら揃って品切れだ。今すぐって訳には行かない。
 届くまでで続ける被害に死体を利用する事。それが受け入れられないんだったら別に構わないさ」

その策がさらにフロウに辛抱を強いるだろうと知りながら、平然とティアは言ってのけた。
仮にも聖職者の前で操られる死体を燃料呼ばわりは非道だとは思ったが、安全と成功を考慮してのことだ。
それにティアにとってはこの程度の後ろ暗さなど取るに足りないものでしか無かったのだ。

「アンタの策でも上手くは行くだろうが、一応、な。
 実働部隊としてはあの手この手で自分の安全が欲しいんだよ。
 アンタと違っていまいち勝手が解らない分、尚更な」

そう言ってティアはフロウに向き直る。どこまでも真っ直ぐに相手を見据えて。
多少挑発気味な内容だったかもしれない、それでも依頼のことを考えての献策だったと。
ある意味ふてぶてしく構えながら、一人の神官へと指示を仰いだ。
196メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/02(日) 00:05:05.07 O
「墓石倒す、死体燃やす、ゴースト倒す、覚えた!」
元気になったフロウのおかげか、メアリもいつもの調子を取り戻していた。
それに昨日買えなかった品物も手に入り、気力が高まっている。
買ったのはアセイミダガーを3本と聖水を1本。
お金をほとんど使ってしまったが、やけ食いをしなければなんとかなる。
いざとなったら熊や鹿を狩って、昔のように毛皮を買い取ってもらおう。
「でも、ロープと蝋燭も安全そう…」
ただ、ティアの案も気になる。
品物さえ手に入れてしまえば、かなり上手くゴーストを倒せそうだ。
死体を燃料にする…のは気が引けるが、ゾンビ化してしまっている相手ならまだいいかな、と思える。
心配なのはそれまで続く被害。
寝続けないわけにもいかないし、誰かに見てもらい続けるわけにもいかない。
昼寝をするのすら、怖い。
自分がああなったら…?
もしその現場にフロウが現れでもしたら、大変なことになる。
フロウを憎んでいるというのだから、操り状態の者がいれば利用しそうだ。
…心を少しつつくだけで、メアリは爆発するだろう。
いつかの出来事のように、敵味方も何もわからないまま、剣を振るってしまう。それだけは嫌だ。
しかし、作戦自体は安全に思える。
「わかんない…どっちがいいの?」
結局どちらの案が良いのか、メアリには判断しきれない。
197フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/02(日) 22:21:54.15 0
「いやまあ基本的に墓を掘り返す人はいないから死体を燃やすこと自体はあまり問題
になりませんし、アンデッド化した場合も蝋燭の火が引火するから数の暴力に訴えるの
もできません。そうですね……」

 フロウは目を閉じて少し考えた。正面から挑むのは、悪人の中でもゴーストに自力で
なるような者は逃げ場が無い状態でそうされるのが一番嫌だからだ。あくまでもフロウ
がベルゴリウスを追い詰めたいだけであって、効果はあってもプラスになるかは怪しい。

「……そうですね。搦め手、はありでしょう。幸い敵の出る場所は決まっている訳です。
……となれば急いで罠を張る必要がありますね。急を要するので墓石を倒すのは無し。
作戦は変更です」

 そのとき、老修道女が小包を持ってやって来た。彼女は息子の「ナニカ」に目を瞑る
母親の態度だった。フロウは無言で会釈を返すと小包を受け取った。

「決行は今晩。今から急いでとりかかります。作戦はこうです」
1 予め墓地に結界用のロープを張り巡らせる。

2 ベルゴリウスを捉えたら蝋燭の火を付ける。

「そしてそのための前準備はこう」

1 寄宿舎を見張り出てきた修道女を捉える。

2 女装したフロウが入れ替わりベルゴリウスと会う。

「後は私が彼を目一杯煽ります。罠の起動はティアさん、私への物理的な護衛はメアリ
が担当するということでいかがでしょうか」

 小型の衣装ケースを小脇に抱え真顔でフロウは聞いた。火の点いたゾンビは一転して
ただの障害物になりさがる。混乱に乗じて一か八かの逃走も防げるだろう。時と被害を
秤にかけて、これがベターな選択であると考えてのことだ。

「それとご心配なく、ベルゴリウスにお稚児さんの趣味はありませんから私は安全です」

 どこかでカラスが不吉な鳴き声を発したが、それは彼には聞こえなかった。
198ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/02(日) 23:57:02.62 0
意外にも要望はあっさりと受け入れられた。少し拍子抜けしたような気分だ。
それでも決行を今晩と焦る辺りは因縁の相手が故か。

「品が届くならそれでもいい。ちょっと逸りすぎな気もするがな。
 まあ罠については任せてくれ。こういうことなら手慣れてる。
 ...あ、その課程で死体を掘り起こすことになっても大丈夫か?」

ならば、ともう少しだけ踏み込んでみる。ティアは墓荒し紛いの行為の許可を申し出た。
死者への冒涜を重ねようと、可能な限り生き残る手だてが欲しい。

「ダメならダメで考えるがな。
 ...さて、今日の品揃えを見に行くか」

そう言って手をぞんざいに振り、二人に背を向け歩き出す。
昨日の品でも十分に罠は張れるが、万全を期すために改めて物品が欲しい。
幸いにしてティアの財布は先週の一件もありまだまだ余裕がありそうだ。
明けの空に響く濁った烏の鳴き声が、やけに響いて聴こえた。

【物品購入ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【成功すれば追加の『水の蝋燭』と『発火晶』を獲得】
199ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/02(日) 23:57:54.05 0
【物品購入ロール:失敗。前日の予約品のみを入手】
200メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/03(月) 00:55:06.02 O
>「後は私が彼を目一杯煽ります。罠の起動はティアさん、私への物理的な護衛はメアリが担当するということでいかがでしょうか」

「…フロウの女装は見てみたいけど…ちょっと心配」
フロウが罠の範囲に入る前にバレてしまったら、ゴーストは何をしてくるだろうか。
その為に護衛係をするのだが、如何せん不慣れな相手。何が危険で何なら防げるかわからない。
「ちゃんと服着て、あたしが囮になった方がバレにくいんじゃないかな…?背は靴を変えればいいし…体型は誤魔化せるよ」
自分がどうこう、よりも周りの心配が先。
万が一ゴーストとの対峙の時点で操られそうになっても、武器さえあれば先に動けるだろう。
瞬時に人を操れるならば、寝込みを襲う必要はないだろうから。
「支配が解けたふりして、お話ししたら、あたしでも時間稼げるかも…?」
ただ、フロウを説得する自信がない。
正直今回の彼の作戦は、本人の意思の強さも関わると思う。
…目の前にした瞬間、殴り出すんじゃなかろうか。魔法で攻撃するより、そんなイメージがわいてしまう。
「その、えっと…目の前でいきなり切りつけることもできるし?」
もうとんちんかんな事を言い出したが、必死だというのは見た目からも伝わる。
問題は、メアリが意味のわからないままの言葉があることかもしれないが…
これでもフロウを思っての事、とがんばるのであった。
201フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/03(月) 23:59:31.02 0
「いえ、なにも本当に今日やる訳ではないです。気持ちの問題です。流石に」
 片手を目の前でぱたぱたと振ってフロウは自分の発言を訂正した。必要なアイテムが
届いてもいない内から行動を起こしても仕方ないし、まだまだ確認しておくこともある。

「あ、それと墓を掘り起こすのは流石に駄目ですね。不可抗力といえなくなりますから」
 そしてティアの提案も承知しない。現実的な話、人間の言う「仕方ない」の9割方は
仕方なくないのだ。追及という名の第三の敵を呼ばないためには「やらない」という
選択も時には必要なのだ。

>「…フロウの女装は見てみたいけど…ちょっと心配」
「ありがとうメアリ。でもね、それであなたが代わりに助平なことをされるのは私が
嫌なの。だから今回は我慢してね?」

 フロウ個人がメアリをそういう対象に見ていないこともあってか、性的な範疇にない
者に手を出すような暴挙は見過ごせないのだ。

「不幸中の幸いは、ド助平は女性に危害を加えても、命までは取らないことです。焦る
必要はありません」
 そう言うと、フロウはこの話しを切り上げて、一時解散となった。


 そして二日後、寄宿舎の前、薄い白のワンピースに身を包んだ、銀髪碧眼の美少女の
姿がそこにあった。無論女装したフロウである。携行する武装は内股にバンドで留めた
魔法の呼び鈴一つ。敢えて化粧はせず修道女らしさを出した。よくみればなんと!胸の
辺りに谷間ができている。詰め物と肌着のおかげである。

「今晩辺りよさそうですね。二人とも、準備はいいですか?」
 ウイッグで少し伸びた髪をかき上げながら背後を振り向く。月の光を浴びた銀糸が、
風によって僅かにたなびく。

 時は二日後の夜。寄宿舎の被害者の若い修道女は数に限りがある、どうやらローテー
ションで回復の早い者から順に襲っていたようだ。そして今日、フロウと身長の近い
娘の番であることが判明した。フロウは半ば断行する意思を固め、ティアとメアリに
問いかけた。
「……あまり見ないでください。これでも恥ずかしいんですから……」
 表情は変わっていないが、フロウの耳は真っ赤になっていた。
202ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/04(火) 03:30:11.09 0
「りょーかい。そういうことなら体裁は保つさ」

さして気にした様子もなく、後ろ手に手を振って返す。
もとより許可されずともやりようはあった。計画に支障が出るわけではない。
ただ少しだけ大袈裟に肩を竦めて見せると、その日の内に物品の確認を急いだ。


そして、二日後。
前日から仕込みを始めた道具は今朝の内に仕掛けてきた。こっちの準備はまず完了した。
フロウも見たところ、この二日間の間の被害を割り切っているようだ。
証拠に、自身の女装を見られて赤面するだけの精神的なゆとりがあるのだ。

>「今晩辺りよさそうですね。二人とも、準備はいいですか?」

「...一先ず、な。後はゴーストの野郎を引っ掻けるだけだな」

意地の悪い笑みを浮かべてティアはそう答える。
いつもの格好より、似合ってるんじゃないか。からかいの言葉を飲み込んで。

ともかく、後は作戦を決行してから、どう転んだかで調整してやるだけだ。
ゴーストがフロウに感づこうと、ゾンビを使いさえすれば完全に罠は機能する。
逆に使わなかった場合なら、単純に数で勝ることになる。初期案通りいたぶってやればいい。
借り物の小さなランタンを提げた手を掲げて応えてやる。出来る全てを尽くせと、そんなメッセージを込めて。
203メアリ ◆y0qpB96BEM :2014/11/04(火) 06:10:32.60 O
>「ありがとうメアリ。でもね、それであなたが代わりに助平なことをされるのは嫌なの。だから今回は我慢してね?」

「助平…?…うん、フロウが嫌なら、我慢する…。で、でも気を付けてね?」
よくわからないが、とてもいけないことらしいので我慢することにした。
助平、よくわからないけれど。
…メアリには、足りない教育が沢山ある。里ではただの子供だったのが、今では戦士。
学校に行くつもりもない彼女に、これから常識は身に付くのだろうか…
九歳くらいの心、ある意味では困りものである。
二日後。
フロウの女装はとても綺麗で、あんな大人になりたいと思うような姿だった。
だが、とても恥ずかしがっているのが勿体ない。
「恥ずかしがらなくていいよ?とっても綺麗!」
悪気は無いのだ、それでもフロウの顔の赤みは増した。

…作戦決行の時刻、修道女を素早く保護し、フロウからほどよく離れてついてゆく。
自慢の足で、確実に駆けつけられる距離から、アセイミダガーを両手に歩く。
音も立てずに歩くメアリは、こんなところは大人も顔負けなほどだ。
アンバランスな彼女の存在は、吉と出るか凶と出るか…
204フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/04(火) 23:30:21.12 0
 二人の言の葉がフロウの自尊心に刺さる。なまじ自分でも似合うことが分かるせいで
なんとも言えない気持ちになるのだ。昔ちょっとした思いつきでこの姿で教壇に立った際
に年端も行かない修道女から【女性として】告白されたのは彼の苦い思いでである。

「とにかく、いきましょう!」
 からかわれるならまだしも素直な賞賛と、敢えて否定されないという表現は逆にフロウ
の羞恥心を刺激する。彼は大股で墓地へと進むがその度にワンピースの裾から生足が覗く。


 操られていた修道女は取り押さえた際に、無理矢理墓地へと向かおうとしたが抵抗して
暴れるようなことはなかった。なので単純に身動きをとれないようにすることであっさり
無力化できた。

 時は教会の真夜中、静まり返った終の棲家には少女の皮を被った聖職者が一人、僅かに
離れて二人の冒険者。フロウはベルゴリウスの墓の前まで進み、立ち止まる。

 やがてうっすらと白い煙のようなものが地面から浮き出てくると、それは老人の顔へと
変化していく。

『おお、迷える子羊よ。よくぞ参った。夢の中にあるお前の悩み、望み、叶えてやろうぞ。
慰めてやろうぞ。せめて夢の中でだけは、自由でいるがよい……おうおう……仕方のない
ことよ……そなたは悪くない……悪くないのだ……』

 ベルゴリウスは少女たちから奪った精気で力を増したのか、人間の言葉を発していた。
そして遠慮なくフロウに取り付き体をまさぐると……


おもむろに横ヅラを鈴で殴られた

『ぐぬわ!?キサマ!操られておらぬのか!』
「術者のくせにそんなことも分からないのか、生前よりも増長癖と油断グセが酷くなった
らしいですねベルゴリウス」

 自分の名前を呼ばれてゴーストがびくりと震える。急いで少女だと思っていたものから
離れると、相手の顔を確認して驚愕し、次に怒りで文字通り真っ赤に発光する。
「き、キサマ!まさかフロウ!おのれまたしてもわしの邪魔をするのか!」
205フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/04(火) 23:30:52.96 0
フロウは腕を組んで素足で貧乏ゆすりをし始める。苛立ちを隠さないのはお互い様だが
これはティアたちを促す合図でもある。

「そのよう姿までして恥を知れ!」
「お前が言うな俗物!聖職者の面汚し、親の七光りを黒く塗りつぶした馬鹿者!死して猶
色欲に迷いでる変態めが!他の者は手出しできずいい気になっていたらしいが、私が来た
からにはそれもこれまでだ!今度は跪いても許さん!魂までバラバラにしてやる!」

 いったいのその小柄な体のどこから出るのか、夜を覆さんばかりの怒号がベルゴリウス
を叩く。
「ふ、ワシがただ修道女たちを手篭めにするために拐かしていたと思うのか!全てはお主
をおびき出すグワ!?」

 セリフの途中でフロウが打擲!

「こ、この!いい気になるなよ薄汚い亜人の小僧めが!肉の檻から解き放たれたワシは更
なる力を得たのだ!この墓地全てがワシの力だ!いでよ我が下僕たち!」

 夜中に浮かび上がる赤い人影が両手を上げると、風もないのにあたりがざわめく。足元
に微小な響きが伝わり、それが少しづつ大きなっていくだろう。

「なにが来るかもう分かろう!一人で来たことを後悔せよ!現れよゾンビども!」
「お前は私を誘き出すために少女たちに猥褻を働いたんじゃない。少女たちに猥褻を働く
ために私への復讐を企てたのだ。手段と目的が逆転しているのだ馬鹿め」
「だまれーーー!!」

 一方的な決めつけにゴーストが激怒するのと同時に地面から次々に青白く、あるいは赤
茶けた腕が突き出す。やがてそれは全身を這い出して大地に立つ。無数のゾンビである。
それら全てがフロウへと向き直り、覚束無い足取りで向かっていく。

「正面から挑めばいいものを何一つ習熟していない小細工に頼るところも変わらないよう
ですね。馬鹿は死んでも治らないということを教科書に書き足しておいてやる」

 一切容赦のない、欠片も恐れのない軽蔑100%の瞳をベルゴリウスから外さないまま、
フロウはゆっくりと片手を上げた。
「お二人共お願いします!」
206ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/05(水) 00:00:07.19 0
「はいよ。 まずはファーストフェイズクリア...っと」

腕が、足が、胴体が。無数に土の中から溢れかえる異様さ。
そんな光景を目にしてなお眉ひとつ動かさず、ティアはそう呟いた。
静音化の魔法で多少そっとしゃべる程度では気付かれはしない。声を張ればおしまいだが。
それを行動毎にピンポイントにかけてやり、自身の存在を出来る限り隠蔽した。

墓の向きから死体がどのように横になっているかはおおよそ予測できる。
ティアはそこからゾンビの首が出てくるだろう位置に目星を付け、輪を作った『清めの縄』を置いていた。
外周に位置する墓から表れたゾンビの首には揃ってロープが引っ掛かっていた。だが今はそれだけだ。

あとはフロウに向けて殺到するゾンビでロープの径を狭め、魔力を流し込み結界を張る。
そのあとにランタンを使って火を付ければ、ロープに巻き付いた紐を辿ってゾンビをすれ違い様に燃やし尽くすだろう。
紐には予め溶かした『水の蝋燭』の蝋を塗り込んである。たどり着く炎は不死だけを燃やす蒼い炎だ。
不死ながら肉体を持つゾンビの特性を生かしたトラップ。精々血の通わない頭に血を登らせていればフロウを取り囲んでくれるだろう。

「さーて、そっちは任せたぜメアリ」

そう、ゾンビがフロウに、そしてゴーストに寄っていなければ意味はない。
そしてそれはそのままフロウの身が危険にさらされることを示しているのだ。
限界までゾンビを引き付け、ゴーストの目をロープから反らし注意を引き付ける。
火をつけるタイミングを物陰で伺いながら、ティアはそう一人ごちた。
207メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/05(水) 00:21:20.25 O
>「いい気になるなよ薄汚い亜人の小僧めが!」

バキ、と何かが折れた音がした。
不思議に思って見渡しても、メアリの周りに壊れたものなどない。
おかしいなぁ、と思いながら耳についた言葉を反芻する。

━いい気になるなよ薄汚い亜人の小僧めが!━

バキン!
今度は、何かが完全に壊れた音が聞こえた。
…ああ、この音は、聞いたことがある。
夢のなかで、いつもいつもメアリの内に響く音。
枷が、割れた音。
「…あんなやつ…許さない…」
フロウを苦しめ、亜人を馬鹿にする男。
誰がなんと言おうが、あいつは許してやらない。

>「お二人共お願いします!」

その言葉と共に、二振りのダガーが煌めいた。まるで、メアリの意思と呼応するかのように。
そして彼女は、フロウすら驚く、弾丸のようなスピードで飛び出した。
己が、涙していると知らぬまま…

フロウのもとへつくのに、一秒かかっただろうか。
無意識のまま、彼をゴーストから守るように目の前に立つ。
しかし、そんな彼女が取った攻撃は…ゴーストへの蹴りだった。
勿論効果があるはずもなく、空を切る足。
だが、その無駄な行為にたじろぐゴーストと、フロウへ近付いてきたゾンビの群れ。
時間を稼ぐ為だけの、あえての蹴り。…スカートではないのが幸いだ。
これだけゾンビが近くに来ていれば、ティアの罠は働く。
我慢する必要なんて、無いだろう。
「…こんな人間がいるから!」
泣くよう叫び、ゴーストへ斬りかかるメアリの動きは素早い。
しかも縄の結界からは出ないよう、ゾンビからも離れすぎないよう、何よりフロウが傷つかないよう動いている。
獣のような柔軟さと速さ、人としての心。
それはギリギリのバランスをとれていた。
目の前のものを抹殺したい、という意思以外は…
208ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/05(水) 01:32:41.67 0
死屍累々に飛び込んだメアリ。影からその動向を見守る。
八面六臂の暴れようは、フロウを巻き込んでいないのが不思議なほどだった。

「頃合い、か...」

意味なんてない、しかし的確に相手を惑わせるメアリのフェイント。ゴーストは体よく釣られているようだ。
そうして集まってきたゾンビの一陣が程よく密集した頃。

「......外に出ろォお!!」

タイミングを見計らいロープを引く。小さくなるロープの径。
同時に魔力を流し込み、不死を幽閉する領域を展開。二人へ撤退を促した。
もう片方の手に掲げたランタン。燻る紐が蒼い炎を生みロープを螺旋に辿っていく。
しゅるしゅると音を立て、まるで蛇が食らいつくように。ゾンビの四肢を蒼で満たしていく。

「フロウ、脱出できたら結界の維持を頼む!」

ロープをぐっと引き絞りながらそう指示を飛ばす。
ロープの径はどんどん縮まり、蒼い炎を密着させる。
やがて炎はゾンビ全てを燃やし始め、ゴーストへと辿り着くだろう。
全てが事なきままに終わる、ティアはそう思い始めていた。
209フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/06(木) 23:03:09.47 0
嫌な予感というものがある。フロウは合図をする少し前、ベルゴリウスの言葉、正確
には亜人の小僧のくだりから後方に出現した気配に対して、その嫌な予感というものを
覚えた。あるいは危機感といったほうがいいのかも知れない。

>「…こんな人間がいるから!」

早い。もしかしたら合図をするよりも前から飛び出していたのではないか。そう思え
るほどにメアリの登場は早かった。フロウは自分の迂闊さに内心で舌打ちする。メアリ
は人間に襲撃されて滅ぼされた獣人の里の生き残りだ。怒りと恐怖によるヒステリーで
半狂乱になり、その暴走の果てに今の仇名が付いたのだ。

 彼女にとって「亜人種に対して」の明確な敵対的な言動はそのヒステリーを呼び起す
スイッチ、条件反射なのだ。ベルゴリウスとの対立に慣れていたフロウは自分への悪罵
がメアリにも飛び火することにまで意識が行かなかったのだ。

『うわ!フロウ貴様!傭兵を雇いおったのか!』
 霊体となり普通の攻撃は効かないはずのベルゴリウスが悲鳴を上げる。自分に暴力を
振るわれることに平気な人間は少ない。特このゴーストはフロウに衆人環視の中で瀕死の域まで殴られたことがトラウマになっているのか、効果があるダガーでの浅傷よりも
頭や胴体を素通りする拳足に対して動きが鈍くなる。

『む、無駄なことを!ど、どのみちお前らはこのゾンビの群れを超えられん!』
 足がないので後ずさるとそのまま滑っていくことができるのか、逸る気持ちのままに
逃げられることに安心したベルゴリウスが威勢を取り戻す。

「ほう、私に向かって殺到したせいで渋滞を起こしているこの首輪の付いた骸の群れを、
私が脱出できないと」

 人間は、そして多くの動物は実に複雑かつ精密な判断の下に行動をしている。人ごみ
の中で同じ方向に進む人々が全員ぶつかり合うこともなく、ぶつかっても押し合いの末
身動きが取れなくなるなんてことはまずない。

 判断力というものが著しく損なわれたゾンビ達はある距離まで近づくと、互いの体が
邪魔になり弾き出された者がよたよたと進むばかりだ。中には倒れてそのまま這いずる
ようになるゾンビもいる。
『左様、この物量を前に貴様は力尽き……む、な、なんだ、通れぬ!?』
210フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/06(木) 23:04:59.91 0
>「......外に出ろォお!!」
 合図の声が離れた場所から聞こえ、屍の首に巻かれた清めの縄へ一斉に魔力が走る。
首輪をされたゾンビの群れは、ゴーストでさえ潜り込めない『肉の檻』だ。結界の発
動により同じく輪の中に取り残されたベルゴリウスは狼狽した。今や幾重にも連なる光
の線がフロウ達を取り囲んでいる。

「メアリ!!私を抱えて飛んでください!」
 ベルゴリウスを追い回していたメアリは不服そうではあったが、それでももう一度名
前を呼ばれるとフロウを抱え、手じかな墓石を足場に勢いよく環の外へと跳躍し、脱出。
お姫様抱っこしていた女装エルフをゆっくりと降ろした。
「ありがとう、ごめんねメアリ……」

>「フロウ、脱出できたら結界の維持を頼む!」
「分かりました!」

 振り返れば、屍人の群れは蒼炎に焼かれて巨大な松明と化していた。水の蝋燭の塗り込まれたロープは結界の力を保ったまま、触媒となる炎の色を変えながら次々と燃え広
がっていく。

 フロウは呼び鈴を頭上にかざすと、ロープに向けて結界魔法の呪文を唱えた。
「絶海の海神!ぬばたまの大勇音!四十万を平らげる闇の慟哭よ!不浄なる土塊共を
この大地に留め置き給え!」

 そして数回に渡り鈴を鳴らす。するとゾンビ達の周囲に水が湧き出し壁となって彼ら
を取り囲み、共鳴するかのようにロープの輝きが増す。『メティスの引潮(フロウ命名)』
という魔法である。

『こんな……こんなバカなことが!フロウ、貴様、こともあろうに教会の死体を燃やす
などと……、貴様、人間をなんだとっ!ぐ、ぐぬぬうぅぅぅおおおぉおぉぉーー!!」

 ついに炎が引火したベルゴリウスが苦し紛れに墓の下へと逃げ込み、次の瞬間、耳を
塞ぎたくなるような絶叫が地面から上がり、すぐにそれは聞こえなくなった。

「……大方、自分をゾンビにして永らえようとしたのでしょうが、あんな状態では体に
も火が点くのがオチです。一つの罰を拒んで二重の苦しみを受けるところも、変わって
いないのですね……あなたは……」
 炎がすべてを燃やし尽くした後、残っているのは夜の闇と灰の山だけだった。
211ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/07(金) 03:09:27.62 0
自身が作り出した不死の檻の中、踊るように舞うメアリ。
その様を見てティアが感じたのは焦りだった。
もし、あのまま憑かれたように暴れ狂い、作戦の進行を忘れていれば。
もし、あのまま取り残されてゴーストと一対一になれば。

だがそんな思いは杞憂に過ぎなかったようだ。証拠に掛けた声には反応を示した。
フロウを抱えて結界を飛び出したのを確認して、ひときわ強くロープを引き絞る。
蒼い炎、その軌跡を彩り棚引かせながら。
死に損ないの悲痛な叫びが大きく地を揺らしたあと、一陣の風が灰を吹き散らせてゆく。

「...こんなもんだろ」

手首を返してロープを引き寄せると、手早くくるくると巻いてしまう。
未だ燻るような煙を吐く灰と死体が這い出た穴を残し、罠の痕跡は呆気なく片付けられてしまった。
巻かれたロープを腕に提げ、そのまま二人の、いやメアリへと歩み寄る。
空いた手で拳を作りメアリに向ける。彼女の額をコツンと強めに小突き、責めるような視線で見下ろす。

「この阿呆。ちょっとは頭冷えたか?」

それだけ言ってティアは宿舎へと歩いていく。労いの言葉も無しに。
別に不機嫌な訳では無い。終わったのなら早く寝てしまいたかっただけだ。
やはり後ろ手に手を振って、ティアは墓場から離れて行く。
雲の切れ間から今覗いた月が、柔らかく辺りを照らしていった。
212メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/07(金) 07:42:05.85 O
輪からフロウを連れて飛び出し、成り行きを見守るしかなかったメアリの心は、段々と冷静さを取り戻していった。
同時に、自分の動きに恐怖し、座り込む。

>「この阿呆。ちょっとは頭冷えたか?」

ティアに小突かれたころには、冷えに冷えきったものだ。
フロウだから巻き込まずにいられた、だけどあれが知らない人間だったら…切り刻んでしまっていたかもしれない。
そして流れるように思い出す風景。
血にまみれ息絶えた獣人たち、避難していたのに巻き込まれた子供たち、全てを消すかのように焼かれた家々…
涙が、止まらなかった。
あんな人間がいるから、そう言ったけれど自分だってどうなるかわからない。
恐ろしい、人も自分も記憶も、何もかもが。
今日幸いだったのは、月が照らす姿が血にまみれていなかったことだろうか…
213フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/07(金) 22:51:54.74 0
「すいませんねクラム、お墓を元通りにするのは私達の仕事ですのに」
「いえいえ、元よりお墓の更新があれば死体と石は処分されますから」

 翌日、ゴースト退治が無事に終了したことを依頼主であるクラムに報告したフロウ達
一行は、ゾンビが這い出して穴だらけになった墓地の後始末をしていた。
 空になった棺桶を出し、掘り返された土を戻す。これを延々と繰り返すだけの作業に
追われることになったのだが、故人の失われた墓を整えるというのは、フロウの気持ち
になんとも言えない不毛さを与えた。

 ちなみに女装はやめており姿はいつもどおりになっている。

「みなさんも、昨夜は本当にありがとうございました」
 老修道女は他に作業をしているティア、メアリにも頭を下げた。こうしてスコップを
片手に額に汗している姿はただの老婆以外の何者でもない。

「これでもう、あの子らが誑かされることもないでしょう」
 そう言って、クラムはまた頭を下げた。同じくスコップを手にしていたフロウが口を
出す。
「いいえクラム。彼女たちが心に付け入られたのは、そういう要素があったからです。
ホームシックや思春期の葛藤は誰にも憑いて回る物。気をつけないと今度は自らの意思
で逸り、ここを脱け出すでしょう」

 老修道女は懐かしそうに、しかし苦々しい様子も表情も浮かべながら頷いた。

「まあでも、これで私の肩の荷は下りました。今度こそ、本当に決着をつけられたこと
ですし、ティアさん、メアリ、あなたたちも、本当に世話になりましたね。ありがとう」

 フロウは二人にも礼を言う。憎い仇敵を倒した彼の胸には喜びや達成感は無く、災害
が過ぎ去った後のようなささやかな安堵があるばかりであった。ふと上を見れば、彼の
頭上を海鳥たちが港へ向かい飛んでいくのが見えた。

教会の空にはまだ雲が多かったが、それでも今日は晴れていた。しばらくして礼拝堂
の方から遥かに響くルミエリアの鐘の音が聞こえてくる。この数日間の慌ただしく騒が
しかった空気を、そして何よりも非常に矮小な俗っぽさを洗い流すかのようであった。
214ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/08(土) 01:59:21.77 0
「まあ、な......」

クラムの礼に歯切れ悪くティアが答える。その手には同じくスコップを提げながら。
と言うのも、自分で立てた策の結果、こうもひどく墓地が穴だらけになるとは思っていなかったのだ。
昨晩はよく見えなかったところも、心に余裕ができ太陽に地が照らされればこうして明るみに出ることも多い。
延々と続く墓石の一つ一つを埋めていく作業。力仕事は性に合わないティアを心底うんざりさせた。

そしてもうひとつ。それが昨日のメアリだった。
舞うような舞闘、閃くダガー。その戦いは美しさまで感じさせる程だったが、同時に綱渡りのような危うさも秘めていた。
一歩間違えば奈落へと突き落とされる、そんな感覚。ピアノ線のような理性の糸が、いったい何処まで持つだろうか。

(考えたって仕方はない、けどな......)

横目にメアリを見やれば、そこにはいつもと変わらぬ様子の少女がいた。
だが次にいつあの「狂戦士」が現れるか。その時彼女はどう在れるのか。
何処か遠くで、しかし確りと鐘の音が空気を叩く。
それは平穏の報せであると同時に、来るべき時へのアラートのようにも聞こえた。
215メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/08(土) 10:28:01.19 O
>「これでもう、あの子らが誑かされることもないでしょう」

「…誑かされるって、どういう意味だろ?」
礼よりも気になったのは単語。
今度フロウのお店で辞書を借りよう。
なんだかわからない言葉が沢山あった、ちょっとぐらいは勉強した方がいいみたいだ。
「うーんと、調べるのは好色、純潔、稚児、俗物、誑かす」
呟きながらせっせと穴を埋める、こういった作業なら大得意だ。
形としては、手伝ってもらったゾンビ…今は無き者達へ、心のなかでひっそりとお礼をいいながら埋めてゆく。
(ありがとう、亡くなった人達。)
(今度こそ静かな眠りを送って下さい。)
ザクザクと埋めるスピードこそ速いが、丁寧に穴を埋める。

そして、昨夜から不安だったことにけりをつけよう。
丁度視線を感じる、ティアだ。
あんな姿を見せたくなかった、メアリですら自分自身が怖かった。
そんなメアリを見て、彼は何を思ったのか…
「…ねえ、ティア…あたしの事、嫌いに…なった?」
例え嫌いと、恐ろしいと言われようともメアリは彼への信頼を無くすことはない。
何かがあれば、身を呈してでも守ろうとするだろう。
ただ、普段の生活は全く違うものになる。
…嫌われたなら、店へ通うのはやめるべきだろうと。
216フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/08(土) 22:58:42.79 0
少し離れた場所でメアリが何事かをぶつぶつと呟いている。その中身を聞いてフロウ
は「しまった」という顔をした。教育上よろしくない言葉を言い過ぎた。このままだと
メアリが……どうなるのだろう、いまいち想像できない。

(まあでも、酒場の喧嘩とかでもっと汚い言葉なんか聞くし、今さらな心配だな)

 長く尖った耳をそばだてるのを止めようとしたとき、彼女の悲しそうな声が聞こえた。

>「…ねえ、ティア…あたしの事、嫌いに…なった?」

(メアリ……)

 銀色の髪をそっとかき上げると、フロウは獣人の少女を見た。ここからでは顔を見る
ことはできないが、どんな顔をしているか、こちらは簡単に想像できた。そして、彼は
敢えて口出しすることを避けた。

 彼らが何を想って、どのような選択をするのか。それは他でもない、「彼らが彼らで
ある」ために必要なことだ。今は自分の言葉は必要ない。フロウはそのまま作業に戻る。

 ティアがどう返して、メアリがどう思ったのか、フロウは知らないでいることにした。
217フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/08(土) 22:59:34.91 0
 時と場所は移って夕方のギルド「銀の杯団」
 一日の終わりを迎えようとする団員と客の姿が徐々に増えてくる頃合いである。
 今まで墓穴の後始末に時間をとられて、それもやっと終わってのことである。

「よう、無事に仕事をこなせたようだな。さっき尼さんが来て教えてくれたよ」
 珍しいものを見たとその男、副団長ことマックスは告げた。いつも通りの不機嫌そう
な表情もこのときばかりは笑顔になる。見た者に眼鏡とオールバックの組み合わせが、『真面目』よりも『やくざ』な印象を与えるものだが。

「まずは報酬だな。例によって配分はお前らが決めてくれ」
 そういうとマックスはカウンター兼フロントから奥へ引っ込むと、保管庫から報酬の
入った封筒を取り出してフロウ達へと渡した。総額にして金貨1枚半、教会の依頼と
してみれば奮発したほうであり、『聖職者』抜きでのゴースト退治の値段としてはやや
リーズナブルである。

「次もこの調子で頼むぞ」
 そう言ってマックスは席を外した。まとめ役をこなす彼にも、当然依頼もあれば副業
もある。常に誰かが何かをしている場所で、フロウ達は一息ついていた。


「ふう。やっと終わりました……二人とも、お疲れさまです」

 フロウはティアとメアリに労いの言葉をかけた。疲れの色が見えるのは、穴埋め作業
のせいか、それとも不規則になった一日の時間のせいか、はたまた……

 ともあれ依頼は終わった。それも彼にとって満足のいく形で、だ。それはこの二人の
協力なくして実現できなかったのは明らかだ。

「お家騒動の後始末に巻き込んでしまってすいません。でもこれで、晴れて私も自由の
身です。お礼とお詫びもかねて、どうでしょう? 今日の晩御飯、ご一緒させていただ
けませんか。勿論、払いは私持ちで」

 フロウは二人を夕食に誘った。こういうことをしたのは初めてのような気がする。
内心緊張している彼をよそに、客の影も増え始め、声も次第に混ざり合っていくだろう。

 一つのパーティの悲喜こもごもを飲み込んで、ルミエリアの夜は更けていくのだった。
218ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/09(日) 01:46:27.26 0
向けた視線に気づいたのだろうか、おずおずとメアリが近づいてくる。
今にも泣き出しそうに瞳を潤ませる彼女を見下ろして、ティアは心のなかでため息をついた。
......言っておいた方が良いか。ここでだんまりを決めても、彼女の心は揺らぐばかりだろうから。

>「...ねえ、ティア...あたしの事、嫌いに...なった?」
「別に嫌ってはない。あの時お前は自分の出来ることを精一杯やってたさ。
 ただ一つ言うとすれば......不安、かな」

メアリの目をまっすぐに見据えて。
ティアは自分が感じたままを、彼女に伝えることにした。

「昨日の事、覚えてるか?結果だけ見れば大成功だった。
 だがな、あの時のお前ははっきり言って危険だった。どこから崩れようがおかしく無かったんだ。
 感情を消せなんて無茶は言わない。でも感情に振り回されてちゃ自分に殺されるんだよ。
 ...だからさ、あまり一人で抱え込むな。自分だけで持つのが重い荷物なら、俺も背負ってやるからさ」

戦闘を遠目に見ていたティアには、狂戦士への引き金を引いたのが何かは解らない。
それでも解ることはあった。...メアリの行動、あれは感情の暴走だった。
怒りは、怨みは、悲しみは。全て刃を鈍らせると。
あの時フロウへかけた言葉は、本当は彼女にこそ告げるべきものだったのかもしれない。

スコップから片手を離し、メアリの頭をがしがしと撫でてやる。
頭に置いてやった土のついたままの手。その中のしおらしい彼女はいつまで彼女であれるだろうか。
...そんなことを思っていたティアは、ついついメアリに言うのを忘れていたことがあった。


「その言葉、あまり調べない方がいい」、と。
219ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/09(日) 02:09:00.09 0
所変わって、「銀の杯団」。
例のごとく副団長から報酬が手渡され、晴れてこの依頼は終了である。
期間にすれば決して短くは無かった。だが動いた時間もそう多くはない。
比較的楽に事を終えられたことに対して、ティアはやや後ろ向きな充足を感じていた。

そこにフロウから声がかかる。疲れの色を隠せない、それでも満ち足りた、そんな表情。
そんな彼の口から提案された打ち上げに、もちろん反対する理由など無い。

「悪くないな。解放記念にパーっとやってしまおうぜ。
 精進料理はどうにも味気なくて、『普段の食事』には飢えてたんだ」

にっと笑みを浮かべて、ティアは無粋な愚痴を溢した。
教会の人間には申し訳ないが、厳然たる事実なのは間違いない。
それ故に開かれる宴は、三人を大いに高揚させることとなるだろう。
とるに足らない蟠りなどは、きれいさっぱり押し流してくれるほどに。
220メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/09(日) 07:26:17.35 O
>「...だからさ、あまり一人で抱え込むな。自分だけで持つのが重い荷物なら、俺も背負ってやるからさ」

「ティ、ア…ありが…とう…!」
話の途中から泣き出してしまって、途切れ途切れになった言葉。
それでも、これが喜びを表しているのは誰にでも分かる。
がしがしと頭を撫でられ、泣きながら笑えてしまう。
ああ、なんで自分はあんな心配していたのか。本当に嫌われていたなら、昨夜の時点で何か言われただろう。
そんな事すら考えれないくらい、ティアという人間が好きになっていた。
フロウの次に出来た、友達が。
「…帰り道、で…お話していい、かな?」
今なら苦しくない。
里のみんなの話をしよう。

ギルドへの帰り道に、今までフロウに話したことをティアにも話した。
襲撃、全滅、建物焼失、どれも聞いていて気持ちがいいものではない。それでも、最後まできちんと聞いてくれた。
悲しい出来事で、心が痛みすぎる記憶。
だが、最後の里の記憶。今はない大切な故郷と大切な人達の記憶。
それを分かち合えるのは、少し嬉しい事でもあった。
221メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/09(日) 07:28:25.67 O
そして「銀の杯団」について、ご機嫌な副団長から報酬を受け取った。
今回はすんなり出てきてくれた報酬は、高いのか安いのかよくわからない。
しかし、長くかかるかと思った仕事だったが、結果だけ見れば随分とすんなり終わったものだ。
…お陰でティアとしっかり向き合えたのだ、ほんの、ほんの少ーしだけあのゴーストに感謝してもいい。
フロウを怒らせるような奴だから物凄く嫌いだが、きっかけにはなった。
そして今は疲れが見えつつも、すっきりした様子の彼からの、楽しそうな提案。
「皆でご飯?わあ!そんなの初めてだよ、わくわくする!お肉食べたいな!」
もうすっかりいつもの調子になったメアリ。
三人で食べるご飯は、とても美味しいはずだ。
だって、三人なんだから。
そうだ、これからはちょっとわがままを増やしてしまおうか。
…たまに、同じ部屋で寝かせてもらえないか、なんて。
きっと二人とも、苦笑いしながらでも了承してくれる。
ああ、なんだかとても…幸せだ。
222GM ◆aGab3MEKhY :2014/11/09(日) 22:20:12.54 0
かくして、三人の冒険がまた一つ終わった。
フロウの長きに渡る確執が一つ解決し、彼らはまた一つ成長した。
束の間の平穏を噛み締めていた冒険者たちに、次の依頼書が渡されるとき、
待ち受けるのはいかなる困難だろう
223メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/10(月) 01:47:35.58 G
いろんな人にあってみたい、仲良くなりたい!
新規さん募集中だよ!

http://jbbs.m.shitaraba.net/b/i.cgi/internet/9925/1398870009/
224メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/10(月) 08:53:33.73 G
正確にはいつでも募集中!
見学も嬉しいな!
225ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/10(月) 22:06:54.11 0
人間と言うものは得てして利己的な生き物だ。その好奇心、義務感のためなら他を犠牲にする事をもいとわない。
今回の犠牲は『休息の時間』。ゴースト退治の僅か4日後、その依頼は舞い込んできた。
ギルドから与えられるような仕事は、人に押し付けたいほど面倒か困難なものばかり。理由は単純、ギルドこそその面倒の押し付け先に他ならないからだ。
だったらもう少し休ませてくれたっていいだろう。そう心中で愚痴を溢したティアの本心を、しかし誰も知ることは無いだろう。

「お前たちの団結と判断力は高く評価している。何せ錬金術師のスライムの海から逃げ仰せた程だからな。
 と言うわけで、この依頼はお前たちが適任だと判断した。出来るだけ多くをもぎ取ってこい」

副団長マックスからやや威圧的に与えられた今回の仕事。それは未開の遺跡の調査と言うものだった。
できるだけ多くを、というのはこの依頼の報酬が出来高に応じて変動するから。スライムの一件での行動に目をつけられたと言うわけだ。
とは言え押し付けられた方はたまったものではない。出来が金額に直結するプレッシャーも有れば、深追いすればするほど付きまとうであろう危険にも気を配らなければならないのだから。
そんな依頼を僅かなインターバルで与えられた三人は、例のごとく貸本屋『取水亭』に居た。

「地図製作に物品回収、状況調査に危険要因の排除か...
 まったくえらい依頼を押し付けられたものだな!
 いくらギルドったって依頼内容にも限度があるだろうが......ったく」

歴史書を片手に、依頼書をもう片方の手に。もはや不機嫌を隠そうともせずティアは舌打ちする。
如何せんやるべきことが多すぎる。それだけの重荷を背負わせながら、報酬の詳細な値が不明というのが苛立ちを増長させる。
とは言えティアには断るなどという選択肢はないのだ。だからこうして一応の下調べだってやっている。
...やってはいる、のだが。あまりにも大雑把な依頼内容に、何をどう調べておけばいいのかすらまるで見当がつかない。
そのままページを捲ること数分、己の行動の空虚さに辟易して本を閉じると、ティアはフロウへと依頼書を投げ渡した。

「ほらよ、これが『今回の依頼』だとさ。
 ったく、ギルドを体のいい奴隷だとでも思ってるのか?」

休暇が少ない分イライラしている、ティアが広げた依頼書の内容がこれだった。

『依頼者:ルミエリア史学研究会
 内容 :新発見の遺跡の内部調査。見取り図の製作に遺物の回収、危険の排除を含む
 報酬 :依頼遂行時の出来により変動
 詳細はルミエリア史学研究会にて確認されたし』
226メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/11(火) 10:25:54.82 O
>「地図製作に物品回収、状況調査に危険要因の排除か...」

「地図作り、あたし苦手ー…迷子にはならないけど、キレイにかけないんだよね」
四日しかなかった休みは、体力自慢のメアリでも不満だった。
今は取水亭のテーブルにつっぷしだれている。
現状、たれメアリ。
それでもやらないわけにはいかない、特に所持金からして食費を手に入れたいのも確かだ。
しかし、だれているのは見た目から明らかで、耳はへにょりとたれ、尻尾もだらーんとしている。
「…出来高って嫌ーい」
どのぐらい貰えるのか、それは相場にあっているのか、全然わからない。
むー、っとした顔で依頼書を睨み付ける。
…そんな事をしても何かが変わるわけもなく、溜め息をつくだけだった。
一応装備はキチンとしてきたし、ダガーは腰にぶら下げられるようにベルトもした。
足りないのは、気力…
ついでだが、辞書を間違えて借りてしまい。読めなかったなんて事もあった。
まあ…面倒なのでもう放っておくことにする。
たれメアリは、そのままの姿勢でフロウを見上げてみるのだった。
227フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/12(水) 23:23:15.68 0
『新刊入架』という文字が普段は「開店」または「閉店」しか書かれていないボード
に追加されている。ここ最近入手して既に読み倒した魔術所、研究書の二冊を始めとし
た数冊の本が書棚に納められている。

 それぞれ曰く付きであり悪い意味でホットなアイテムなので借り手はすぐについた。
偽聖職者の部屋の片付けで押収した分も含めて現在フロウの懐はすこぶる暖かい。

ここはギルド「銀の杯団」の二階、貸本屋『取水亭』である。店番をしているのは御
年230歳の若エルフ、フロウだ。そして彼の前にはすっかり馴染みとなった顔ぶれが
二つ。ティアとメアリだった。フロウは二人の乗り気でない様子に苦笑しつつ呟く。

「遺跡の探索ですか。私もこの国の歴史は一般常識の範囲までしか知らないのですが、
分担で行くと“危険因子の排除”がメアリ“状況調査”がティアさん、“地図の作成”
が私でいいんですが……」

 そこで一度切ると、フロウは懐からアメの入った小さな木箱を取り出すと、中身を誰
も使ったことのない灰皿へと移す。赤、緑、紫、黒、水色、などなど。白はミルク味だ。

「物品の回収役が足りませんね。最低限の目利き、鑑定役がいないと手当たり次第拾う
ことになります。副団長殿は後で人を寄越すと言っていましたから、そろそろ来る頃合
だと思いますが」

 灰皿をメアリの突っ伏しているテーブルに差し出す。フロウを見上げる顔は眠気と苛
立ちが混在する猫そのものだ。手乗りサイズだったらひっくり返して撫で回すところだ。
ティアはというと引き続き歴史書の類を漁っている。手先もそうだが流し読みで情報が
拾えるのだから、やはり器用だとフロウには思える。

「何にせよ、この研究会でお話を聞かないことには始まりませんね」
 そこで彼の長い耳がピクリと動く。そして入口のドアのほうを見る。

「噂をすればなんとやら、ですね」
 慣れない気配と足音、あまり取水亭にこない人、恐らく副団長のマックスが寄越すと
言っていた人物だろうか、フロウは水色のソーダ味のアメを口に放り込むと、そのまま
ドアが開かれるのを待った。
228エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/13(木) 15:15:03.75 0
申し訳程度のノックの後、室内の返事を待つこともなく扉が乱暴に開け放たれた。

「やぁやぁやぁ!遺跡調査を受諾したチームはこちらにあつまっていると聞いたんだがあっているかな?」

そこに立っていたのは、一言でいえば『不審者』だった。
声から女性だとは判別できるが、黒いローブで頭から足の先まですっぽりと覆い、手には手袋。全体的にみえている肌面積はないに等しい。
きわめつけはその顔を覆う怪しげな仮面だ。
白地にこまかな文様が描かれた仮面は目の部分だけが笑うような三日月形に切り取られていて、ぴったりと顔に密着している。横から覗いたとしてもチラリとも素顔は見えそうにない。
そんな、大通りを一歩あるけば巡回の警備隊士に止められそうな『ザ・不審者』は、室内に踏み込むなり早口にまくし立てた。

「マックス副団長に話を聞いてとんできたよ!あぁ、未発見の遺跡の調査だなんて私はなんてツイてるんだ!
いまだ発見されていない錬金術の知識が眠っている(かもしれない)神秘の場所!古代の錬金術の遺産がすぐそこに!これに興奮しないでいられようか!いや、いられまい!」

顔は見えないがその声色から満面の笑みを浮かべているのだろうと予想できる。いまにも踊りだしそうな様子だ。
そこで人心地ついたらしい。色々なことに固まっているティアたち三人に気づくと、大仰な手振りで「しまった」というポーズをとった。

「おおっと、私としたことが。挨拶もせずに失礼した。錬金術のことになるとついつい我を忘れてしまうタチでね」

不審者はあらためて三人に向き直るとフードをとって軽く頭を下げる。

「私はエメラルダ。真理の探究に全てを捧げるいち錬金術師さ。
あ、そこのハーフエルフの君はフロウ氏だね。君に借りたスライムの研究書のおかげで、すこぶる有意義な実験ができたよ!そもそも種類も豊富なスライムの特性が〜…(以下マシンガントークが続く)
……ところで、もう準備はできているのかい?できているならすぐ行こう、今行こう、さあ行こう!」

……どうやら彼女の異常な興奮状態は、しばらく続きそうだ。
229ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/13(木) 23:03:04.14 0
「あーあーあー分かった分かった!だからそう焦るな鬱陶しい!」

閉じた本を片手に、もう片方の手で額を覆って自棄気味にティアが制する。
これがフロウの言うところの『鑑定役』か。おかしな奴を引き当ててしまったものだ。
第一天才やら研究家やらと言うものはどうしてこうも変な人間が多いのだろうか。
自分のペースしか持てないような、『話を聞けないタイプ』の人間はティアの苦手とする分類だ。

心中でひとしきり散々な持論を撒き散らした後、改めてティアは来訪者を見据える。
異様と言うのが何よりも適切であろうその仮面。隙間なく黒で包まれた姿と仮面の目元が不気味さを増長させる。
対して人格の方は見た目に反して暗いわけでは無いらしい。生き生きとした声が頭に響く程度には。

「アンタの期待に添えるかどうかはまるで分からんがな。
 さっさと依頼人の所にいった方がいいってのだけは同意する。
 なんせ情報が少ないからな、行くだけ行って話を聞こう」
230メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/13(木) 23:09:10.10 O
知らない足音、そして人間の臭い。それがこの店を目指していると気づいた瞬間、メアリは跳ね上がるように立ち上がった。
白い飴を一粒口に放り込むと、素早くフロウの後ろに隠れる。
ティアの時は自分のミスがどーとか考えていて、気にする暇がなかったのだが、元々人間は得意ではない。
「さ、三人じゃなかったの…?」
ちゃんと話を聞いていなかったメアリは、また三人で行くのだと思っていた。
ここに来て新しく会う人が、どんな人物か…想像だけで怖くなってきて、身を縮める。
優しいミルク味が、なんとか騒ぎ出すのを抑えてくれていた。
それでも、怯えで耳と尾はすっかり寝ている。
…しっかりと、フロウの服をつかみ、ドアを見つめた。

…蓋を開けてみれば、初めてあった人間、エメラルダは不思議な人物だった。
錬金術師なのでメアリの毛や血液に興味を持つかもしれないが、怖いと言うより困惑する。
しかも話していることの殆どが理解できない、どうしよう。
ただ、今現在メアリだけが気付いていることもある。
肌の臭いが少し違う…仮面の下に傷痕か何かがあるような、普通の状態ではない臭いがしていた。
隠しているのだから問うつもりはない、見た目なんてメアリは気にしていないのだ、仮面があろうが無かろうがどうでもいい。
…でも、普通に接して大丈夫な人かがよくわからない。
「は、初めまして?」
フロウの後ろから挨拶をして、様子をうかがうことにした。
231フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/14(金) 22:50:55.32 0
「はいはいそんなに警戒しないの」
 人の気配に気づいたメアリは、またカウンターを超えてフロウの背に隠れた。頼りに
されていることは単純に嬉しいものの、これには少しまいってしまう。そんな彼女の頭
を撫でていたところ、その人物は現れた。

フロウの笑みが渋くなる。やって来たのはギルド指折りの不審人物である『錬金術師』
エメラルダである。つい先日入架した研究書を、その日の内に借りて行ったことは彼の
記憶に新しい。ひったくる様に持ち出して、隣にいた男性が慌てて手続きを行ったこと
を覚えている。

「ああ、その説はどうも……」
 分かる言語10割の内分からない言葉8割の雪崩を受けてフロウも元気を失くす。
錬金術師 本人が言うとおり真理を探究する者。とにかくありとあらゆる者を調べ、
自らの手で創り出そうとする全方位に向けて前衛的な人たちである。

魔法使いと一口にいっても色々な種類がいるように、錬金術師にも色々な輩がいる。
研究している分野が多岐に及ぶので一括りにするのは危険な人種であるが、良くて変人、
悪くて狂人という表現は概ね世間での共通認識である。

 彼らの研究成果が役に立つと踏んでからは国からも助成が出て、錬金術師用のギルド
やアカデミーも設立されているが、その成果は芳しくない。なんでかと言ったら目の前
の彼女を見れば分かる。

なんで女って分かるかって?会員カードにそう記載があったからだよ。

 衣食住が研究に勝る研究者は希少種である。およそ寝ることと失神することの境界が
あいまいで、食べることを回復魔法で賄おうとしたり、体力の不足分を極度の集中力と
興奮状態でゴリ押しする錬金術師は後を絶たないのだ。制御が困難なのである。

 どんなに恵まれた環境を整えたとしても最後には必ずフィールドワークに飛び出す
彼らの成果は、整理して活用できれば大したものである。街に普及し始めたゴーレムや
マジックアイテムの進歩は間違いなく彼らの功績である。しかし制御が困難なのである。

>「……ところで、もう準備はできているのかい?できているならすぐ行こう、今行こう、さあ行こう!」
 語りがひと段落した途端バネ仕掛けのような勢いでティアへと向き直る。
232フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/14(金) 22:51:35.29 0
 時間に正確なティアにとって相性が悪いことは誰の目にも明らかである。しかし、
こうして見ると些かガラが良くない筈のティアが普通に見えてしまう辺り、エメラルダ
の奇怪さは相当なものである。

「そうですね。機材の貸し出しとか遺跡の概略くらいはあるでしょうし」
フロウは皆を促して席を立つと、それとなくティアに耳打ちした。

「なるべく目を離さないようにしましょう、でないと危険です」
 いち早く今後の対策を模索することも忘れなかった。それからフロウは、このどこに
出しても似つかわしくない女性を改めて観察した。

(さっきのスライムの語りで話が飛躍していたから、理解はして自分なりにもう応用を
し始めているのは確かみたいだ。頭は悪くないんだろうけどなあ……)

 頭が良すぎて様子がおかしい人間を見ながら、フロウは小さく嘆息した。
ルミエリアの空は今日も青い。
233ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/15(土) 07:47:19.71 0
「だろうな。チームワークもだが何を仕出かすか解らない」

フロウの耳打ちにうつむき加減で、口元を誰にも見せず小声で答える。
すれ違い様の短い会話は他のものの耳に届くことは無かっただろう。
だが此処でじっとしていても仕方がないし、何より依頼が始まらないのだ。
行くとするか。何時もより重い腰をあげ、取水亭のドアをくぐった。

こうして新たに加わった奇妙な錬金術師を連れ、一行は依頼者のいる研究会へと向かう。
こうした研究施設の比重は比較的重く、商業区画たる港側からは離れた城下町に密集している。
件の研究会もその例に漏れず、城下の一画にその根城となる施設を構えていた。

大仰な名前のわりにその外見は簡素、飾りっ気のない建物にしか見えないだろう。
そのエントランスは丁度『取水亭』のようなカウンター一つと並ぶドアと階段の群れが有るのみだ。
そのカウンター、即ち受付で要件を言えば直ぐに依頼者の部屋へと通される。
そこでは金髪長身の白衣の男が両手を広げて一行を迎え入れた。
簡素だった外見とは一転して物品でごった返している空間に、申し訳程度に開けてあるようなソファー。
来客を迎える場所とは思えないそこに座るよう促され、お茶一つ出さずに依頼者は喋り出した。

「やあやあ良く来てくれた!君達が遺跡探索を引き受けてくれたギルドの人なんだろう?
 いやーこの時代に、近場に体よく未発掘の遺跡が残っているとは思わなくてね。
 この遺跡がなんと状態からして約5000年前のものと思われるんだよ。
 この時代と言うのはそもそも『魔導』という概念が......」

...と、呼びつけておいて名乗りもせず、一方的に捲し立てる依頼者の研究員。
その講義が唐突に始まってから時計の秒針が一周するのを待たず、痺れを切らしたティアが横槍を入れる。

「ああもう分かった分かった!お前の情熱はよーく分かったよ!
 だからその熱意は後でデスクのノートにでも向けていてくれ!
 ......俺達が行く遺跡の概要と注意点、他の伝達事項を手短に頼む。
 それだけ分かればさっさと行って調べてみるから。...ったく」

全くこれだから。パーティのニューフェイスを横目に心中で呟く。
どうして研究者と言うものは、こうも回りが見えなくなるのだろうか。
そしてそれに気づくことも悪びれることもなく、ぬけぬけと会話を続けるのだ。
...ちょうど、目の前の研究者のように。

「んん?言われずともそのつもりだ、人の話は最後まで聞くものだよ。
 ......おっと申し遅れたね、私はペディエと言うものだ。さて、今回の遺跡だが...」

全く、この調子にはうんざりだ。ティアの黒ずんだ気分を余所に話は進んでいく。
234ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/15(土) 08:19:23.34 0
「...それで約4500年前、技術体系は一度崩壊したと見られているんだよ、不思議なことに。
 つまり現代人にとってそれ以前の技術は未知のもの、あり得るはずのないオーバーテクノロジーだ。
 面白いと思わないかい?我々が必死になって編み出した技術はとうの昔に時代遅れだったかもしれないんだ。
 何が、どういう仕組みで、何をしているか。当時の状況を知るすべはかなり限定されている」

......結局はこの研究者の講義を聴く羽目になるのだが。
今まで平坦な口調で知識を捲し立てていた彼の口調は、ここで一気に強さを増した。

「そしてっ!今回この遺跡が発見されたと言うわけだ。これは非常に重要なことなんだよねー。
 そう、当時の技術で組み上げられたシステムがそのまま!...とまでは行かないかも知れないが、生きているんだよ!
 偶然そこに迷い混んだ冒険者が足を踏み入れた瞬間、屋内にも関わらず急に周囲が真昼のように明るくなったようだね。
 これだけなら現代でも頑張れば可能だろうが、まあ今回重要なのは施設が生きてるって方だよね。

 さて、それで先行調査を頼む理由なんだけど。これは他の遺跡の記録を解析したものなんだけどね。
 現代でいうゴーレムか、そんな使役獣の様なものが当時は一般的だったみたいでね。
 その中には戦闘が可能なものも多かった...もとい、そっちがメインみたいでね。
 僕らみたいな研究者だけじゃ迂闊に手は出ないんだよ!くぅ〜っ、歯痒いね!
 ...ついでに色々調べて見てくれると此方としても有り難いけど、危険排除は最優先でお願いするよ。
 とはいえ貴重な研究材料だ、無益な破壊活動は慎んでくれると嬉しいな!」

「あー、つまりアレか?
 遺跡はあるけど危なっかしい。だから手早く手堅く危険を廃したい。
 でも相手取るのも研究対象だからなるべく壊しはしないでほしい。
 ついでにそんな場所でも見てこれる俺達に簡単な調査も頼んでおきたい、と」

蘊蓄部分を流し聞きしながら話し半分に聞いていたティアが簡単に纏める。
依頼者からの反論が無いのを確認して、了解の意味で頷いておく。
...話は聞いたが、厄介さ加減は変わらない。寧ろ相手が未知なぶん増したとも言える。
難しい表情を浮かべたティアに、依頼者は一冊のノートを取り出して渡した。

「それを渡しておこう。私の個人的なメモ書きだけどね。
 発掘された画像記録を模写したものだが、概要を知るには十分だろう?
 もっとも、そこに描かれているものが出てくるとは当然限らないけどね」

気休めになるかどうかという程度の手土産を受け取り、ティアは左右を見渡した。
さて、先行きが不安だな。出発時から変わらず心で溜め息を吐きながら。
手持ちぶさたにノートを振って、他の面々が口を開くのを待った。
235メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/15(土) 09:12:29.56 O
>「なるべく目を離さないようにしましょう、でないと危険です」
>「だろうな。チームワークもだが何を仕出かすか解らない」

二人は、二人にしか聞こえないように話したのだろう。

でもね、猫って耳がいいんだよ?

けど、さっきまでとちがって怯えはなかった。
だって二人共注視しているのだから、危ないことになんてならないはずだから。
どんな人間だろうと、全員でいれば危険なことなんてない。
だからメアリはいつものように振る舞う。
「お仕事頑張ろー!」
きっと自然に見える、だなんて思いながら。

研究会へ行く間も、錬金術師は何か話していたが、やっぱりよくわからない。
なんというか、どう付き合えばいいのか…それともメアリには難しい話なだけだらうか?
等と考えている間に依頼人の所についていた。
こちらも人間、だが依頼人に怯えは見せないよう努力している。
精一杯の虚勢だが、そんな必要はなかったようだ。
…この人も何を言っているのか分からない。
「…おーばーてくのろじー?」
聞きなれない単語を、首をかしげながら繰り返すくらいしかできない。
勉強、していたとしても分からなそうな言葉。
誰か説明してくれないかなあ、と呑気に思っていたら、聞きたくなかった話へ辿り着く。

>「破壊活動は慎んでくれると嬉しいな!」

「えーっ!?む、難しいよ!ゴーレムみたいなのはやっつけちゃわないと怖いよ!」
と言うものの、単に壊さない自信がないだけだったり…
しかし、危険排除と言いながらあまり壊すな、とはかなり面倒な事を言う。
ティアがひらひらさせているノートを見ただけで、対処なんてわかるわけもないのに。
…人間というより、研究者という存在はあまり楽しくない存在かもしれない。
メアリはやっとそう思い始めた。
236フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/15(土) 23:27:48.92 0
所変わってここはルミエリア史学研究会。依頼人であるペディエから話しを伺うことしばし。
持ち出された遺跡の年代が所属していた教会よりも遥かに古かったものの、フロウは驚かなかった。
そもそもエルフにとって千年は人間に直すと百年に近く、エステロミアの起源事態には懐疑的であり、
それに神様の有無で信仰している訳でもないから、彼にとってそこは大した問題ではないのだ。

「戦闘向けの使い魔やゴーレムの無力化が必要で、しかし破壊は避けて欲しい……ですか」

 フロウの眉間に嫌な汗が浮かぶ。当然だが戦闘用のゴーレムというものは洒落にならないモノである。
ルミエリアでも自主制作した以外で個人が所有しているケースは稀だ。兵器となれば
値段にするのが馬鹿馬鹿しいのど額が提示され、値段に違わぬ威力を発揮する。

仮にこのペディエの言葉通りこの時代の文明が過去のレベルであるとするなら、相手は膨大な時の流れに
晒されているとはいえ、遠い未来の超兵器ということにもなりかねない。

その危険性にまるで無頓着な辺り、ペディアと、そして隣でうずうずしている仮面不審者が
不安になってくる。『無益』が何を意味するのかを問い質すのは怖いからしない。
隣のメアリのが批難の声を上げる。もっともだろう。

「我々も善処はします」
 最低限の回答で済ます。不戦が最善、撃破が次善、逃走せざるを得ないとれば論外だ。

「メモのほうは、ありがたく拝借させて頂きます」
 そう言ってフロウもティアから、絵はキレイだが字が個性的なノートを見せてもらうことにした。
237ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/16(日) 02:56:23.03 0
「破壊の一切を禁じるわけじゃないよ?こっちだって危ないのは嫌だからね。
 でも無駄に荒らされるのは困るってこと。そこらじゅうが研究対象足りえるからね」

あっけらかんとした口調でぺディエはそう言い放つ。あくまでもその根底にあるのは己の好奇心。
冒険者の身の安全のため、と言えないあたりが研究者というものの限界なのだろう。
最低限の破壊を容認されただけましか、とティアは思うようにした。
そしてフロウに促されて手渡されたノートのページを捲り、その顔を引きつらせる。

描かれていたのは無機質な憲兵たちだった。
その両腕そのものを武器とし、車輪や蜘蛛脚のような装置を下部に搭載していた。
何より脅威なのが、その武器の大半が銃......もとい火器であること。
つまるところはロボットという奴であるが、火縄銃が精々の現代の技術では到底『ソウゾウ』出来ないものである。

「こんな兵器が街にごろごろと!...はいなかったらしいけど、それなりに浸透はしてたレベルだったようだね。
 例の遺跡に何がどれだけ居るか、そもそも居ないのかは知らないがこれらの基本は銃火器で構成されているようだ。
 これがどんな動力をどう活性化させてどう動くか、楽しみだね!これら存在が現代で再現できない理由は銃火器よりも......」

マジかよ。そんな呟きも声にすら出さずに飲み込んだ。
再度横道に逸れだした話を右から左へ、ティアはただイラストを睨み付けていた。
...こうなれば自棄だ。金貨10枚は掻っ攫ってやるさ。
依頼に関する話題はもう聞けそうに無い、ヒートアップした依頼人をよそに静かに瞑目した。
238メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/16(日) 03:56:45.77 O
…ティアのめくっているノートを覗きこみ、彼が何に愕然としたか理解する。
よくわからない武器、銃をメインにするゴーレム…じゃなくてロボット?
きっとメアリでなくとも、それがどれだけ危険か、想像出来ないのだ。
破壊許可があろうと、破壊できるかも分からない。
「…頑張るから、大丈夫!」
速さからして、一番己が合見えるだろう。
心配させたくない一心で元気よく言う。
すべてよければいいのだ、どんな攻撃だろうと。
物理的なものならば双剣で弾くなり斬るなりできる、後はなるようになれ、だ。
多少怪我をするかもしれないが、致命傷の避けかたくらいはわかる。
頭と心臓を銃?とかから守れば良い。

それが、他の傷を負うことを恐怖と感じていない、危険な戦いのスタイルとも考えずに…

彼らは、遺跡へ向かうこととなるのだった。
239フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/16(日) 22:30:23.58 0
 『ゴーレム』 子どもに人気のモンスター筆頭でありいつもドラゴンと熾烈な頂上
決戦を繰り広げるこの魔物は、遭遇して生還すれば三日は酒場で会話の種になること
請け合いである。

(後でカタログに目を通しておかないとなあ)
 既存の策がどれだけ通じるかは不明だが、ゴーレムは設計や材質によって弱点が頻繁
に入れ替わる厄介なモンスターであり、サーガ等で倒される際は「力押し、罠、魔法」
のどれかに限られる。

 昔は炎の効果は薄いとされていたが、粗悪な煉瓦や軽石製なら高熱で割れてしまう事
が後年に発見されたし、新しい方だと金属製で電気の力により動くゴーレムは余計な電
気を流されるとエネルギーの循環が狂って機能が停止するという欠陥でリコール問題
に発展したこともある。

 どこぞの成金が自分の黄金像をゴーレムにしたが、強度の問題で普通に殴り倒される
なんていう冗談みたいな話もある。それくらいポピュラーだ。一方で近代兵器としての
ゴーレムはというと、単純な頑健さと怪力、ときに装備している機械な、いや、奇怪な
武器に度肝を抜かれることもある。

 フロウは自分の防具である鉄の盾を見た。年代物だが良く鍛えられており、重量に
対して性能は中々だ。構えてから屈めば盾の後ろに体をすっぽり隠せるし、自前だが
魔法がかかっているので同じ価格帯のものより頭二つは抜きんでている。

 そのはずだが、どうにもこれが『ぺしゃんこ』にされるような光景が瞼の裏に浮かん
で離れないのだ。格上挑戦回数=黒星の賜物である。

「後は一度戻って準備をしておきましょう。何が入用になるか分からないですからね」
 万全を期したいフロウとしては出発を遅らせて他の冒険者の報告を待ちたいところ
だったが、生憎とその報告を持ってくるのが今回の仕事である。
 
 たまに打つ相槌が渇いたものになっていくのが自分でもわかる。

「メアリ、今回のお仕事は調べものですからね。くれぐれも間違えないこと」
 すぐ近くで気勢を上げる獣人の少女をフロウは見た。先に言い含めておかないと一番
に飛びかかっていってしまうだろう。猫は驚くと前に飛び出してしまうが、彼女はそれ
に良く似たところがある、それがフロウには心配だった。
240エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/16(日) 23:33:53.32 0
エメラルダは、誰もこの仮面について言及しないことに内心驚いていた。。
ギルド員は多かれ少なかれ脛に傷を持つ者が大半なのだから必要以上に干渉しないことは基本だ。だが、全員がそれをわきまえているとはお世辞にもいえない。
その点このチームは、さすが副団長に推薦(という名の押し付け)されるだけのことはある。

自意識過剰と思われるかもしれないが、自分の風体について、問いただされることもないというのは稀だ。
初対面の人間はまず「ふざけるな」か「顔をみせろ」と言ってくる。もしくはその両方か。
素顔もわからない人間を信用はできないという理屈は理解できる。
なんせここまで全身を隙間なく埋めていると、たとえ中身が入れ替わったとしても背格好と声が似ていればほぼ判別できない。
とはいっても、動作が大仰なのは感情を表現できるのが身振り手振りくらいだからなのでどうしようもないし、顔をふくめ全身を覆っているのは幼いころに錬金の失敗で負った火傷の痕を隠すためだ。
それをみせることに抵抗はないが、見せた後の反応が面倒である(自分のそれをみて愉快になる人間はそうそういない)

普段はそうしたこともあって依頼の受諾も遂行も、弟に全て任せているのだが、今回はあいにく遠出していて留守だったし、帰ってくるのを待っていては依頼を逃すことになっただろう。それは嫌だった。
だが、エメラルダにとって、新しい縁を結ぶ上でほぼ必須な初対面のあれこれは、面倒くさいことこの上ない厄介ごとなのだ。
錬金術への探究心の前では取るに足りない事とはいえ、できれば遠慮したい。

だから、今回の依頼先である研究会に行く道すがら、とりとめのない話をしながら歩いていたのは、警戒(困惑)しつつも自分をスムーズに受け入れてくれたチームメンバーに感謝し、今後のためにも仲良くしようという、エメラルダなりの意志表示のつもりだった。
……その「とりとめのない話」も、錬金術に関係することオンリーな上に、専門的なことも混じる、その道の人間以外には理解しがたい話なため、意図が伝わったとは言い難いのだが……。
241エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/16(日) 23:35:37.90 0
そんなこんなで目的地である。

依頼人である研究員の話を聞くにつれ、エメラルダの中で、抑えようのない好奇心がムクムクと肥大していく。
ティアとフロウからの物言いたげな視線に気付いていながらも、自らの欲望を抑える気はこれっぽっちもなかった。

「5000年前の遺跡、生きているシステム、未知のゴーレム!」

いわれなくとも、そんな格好の研究対象を即座に破壊するなんてナンセンスである。
非難の声をあげるメアリには悪いが、そこは頑張ってもらいたい。
命あっての物種だが、対象あっての研究でもある。確保できるならギリギリまで確保したいと思うのが研究者という生き物なのだ。
それに、たとえ多少の怪我をしたとしても、自分秘蔵の治癒薬でも何でも使って治せば大丈夫だ。最低限の生命維持ができていれば問題ない。

そんな外道な考えは、依頼主からティアに渡されたノートの中身をみることによって、ますます強まった。

(な、なんだこのゴーレム!銃火器が標準装備の自立起動型だと!?パッと見、主な構成成分は鉱石か金属、それに順ずる錬金物質か?
遺跡の守護に当てられているということは、文明崩壊以降4500年以上は人の手が入らず、自動管理ということだろう!?一体どうやって動力を確保し、機能を維持しているのか……。
いやいや、そもそもこの年代のゴーレムがどのように生成されていたのかわからないんだ。錬金術ではない、未知の技術という可能性もあるか!?
だとしたら惜しい!専門外な上に私の研究対象からは微妙に外れて……いやいやいや!落胆するのはまだ早い!未知の技術によって錬金術が飛躍的に進歩しているのかもしれない!
または現代でも存在するように、錬金術と他の技術を組み合わせて使用しているのかも!
それならば期待が持てる!むしろそうであれ!)

頭の中で(時々口に出して)様々な憶測を立てながら、改めて、この依頼を受けてよかったと実感する。

>「後は一度戻って準備をしておきましょう。何が入用になるか分からないですからね」

「うん、そうだね。入念に準備して遺跡の隅から隅まで調べつくせるようにしておかないと!」

一通り説明を受け終わり、下準備のために戻る提案をするフロウに同意しながら、エメラルダは仮面の下の顔が緩むのを自覚した。
242ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/17(月) 03:52:11.77 0
フロウとエメラルダがメモを見終わったのを確認し手帳を閉じる。依頼者はとうに蘊蓄を垂れ流すだけの存在と化していた。
心置きなく無駄話ができると言うことは、この研究者は伝えるべき事を全て伝えきったのだろう。ならばここにいても仕方がない。

>「後は一度戻って準備をしておきましょう。何が入用になるか分からないですからね」
>「うん、そうだね。入念に準備して遺跡の隅から隅まで調べつくせるようにしておかないと!」

「その意気は良いが突っ走るなよ?好奇心は猫をも殺す、ってな」

メアリの方をちらと見ながらエメラルダの言葉に返す。半分はメアリに向けたものだったが。
...何も猫を殺すのは好奇心だけではない。メアリの内に潜んだ狂戦士を、ティアは忘れたわけでは無かった。
そう思いを沈ませるまもなく、何処から人の話を聞けるようになったのか依頼人が口を挟んだ。

「じゃあ、よろしくね!
 ...だけじゃあれだし、此は準備資金に使ってくれ。
 前払いの報酬ってわけじゃない。個人的な資金援助ってやつさ」

そう言ってペディエは封にも入れない剥き出しの金貨を二枚、ティアに向けて放った。
少し面食らいながらも的確に宙で金貨を捕まえたティアは、軽く頷きだけ返して部屋の扉をくぐった。
此処は帝都の城下町。テクノロジーの先駆けを担う地区だけあって、少々奇抜なものだって手に入るだろう。
受け取った金貨のうち一枚をフロウへと投げ渡し、ティアはまだ見ぬ遺跡の中をシミュレートしてみる。
そこで一体何が必要になるのかと入念に思考を巡らせながら、右手の金貨を握りしめた。
243メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/17(月) 09:21:26.30 O
>「メアリ、今回のお仕事は調べものですからね。くれぐれも間違えないこと」
>「その意気は良いが突っ走るなよ?好奇心は猫をも殺す、ってな」

「あ、そうだった!」
うっかり、殲滅しにいかなくてはいけないつもりになっていた、危ない危ない。
あくまで調査がメイン、戦わなくてすむならそれに越したことはない。
…今回は人を相手するわけでもないのだし、暴れてしまうこともないだろう。
さて、準備を…と思ったがなんせ所持金がスカスカ。
支度金をもらってはいたが、結局何があればいいかも分からない。
仕方ないので所持品チェックをしてみた。
愛用の双剣、ダガー三本、聖水と雷付与のマジックアイテム…これに追加するとしたら…
「…お菓子食べたい」
食欲、等と笑われるかもしれないが死活問題。
遺跡の広さが分からないのだから、ちょっとした食べ物で癒されたいものだ。
後でフロウにねだっておこう、そう決めたメアリだった。

…今不安なのは、ゴーレムよりもエメラルダ。
錬金術師の戦いなんてしらないし、変なことを言われたらちょっと辛い。
守ろうとして巻き込まれては意味ないし、接し方が分からない。
冷静に…とは思いたくても、まだまだ知らない人。
毛をむしられることはなさそうでも、完全に安心は出来ない。
…何せ二人が共に見張っているのだから。
244フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/17(月) 22:53:37.58 0
研究会を後にしたパーティは各々探索のための準備に取り掛かった。フロウは街の
商店を巡って一先ず地図作成に必要な物品を手に入れることに成功、胸を撫で下ろした。

「メモ帳、大小の画用紙と画材、チョークと炭とメジャー、本当はボタン式が良かった
けど高かったから手回し式だけど……あとは付箋と糊、坂を図る銀玉、クリップもか」

 これがなくては話しにならないとはいえ、思ったよりも大荷物になってしまった。彼
の表情が曇る。これ見よがしな画材ケースがあったのでやむを得ずこれも購入、これで
転んでも道具が散らばることはないだろう。

 あちこちの店で調査用のアイテムが普段よりも前に出ていることは、この遺跡絡みと
見て間違いないだろう。情報が早いのは助かるがきっとその分値段も上がっていること
だろう。フロウはため息を吐いた。

(カタログは本屋での立ち読みと取水亭のもので確認するとして、他に必要なのは……)

【ここで買い物判定】 幸運+10で判定
245フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/17(月) 23:00:09.51 0
「すいません、ついさっき売れてしまいまして……」
「そうですか。ありがとうございます」

 魔法をかかっている魔石を幾つか用意しておきたかったが運悪く売り切れてしまっていた。
使い勝手のいい消耗品は基本的に品薄で、割引の一つもあろうものならこういう事態も
珍しくない。

(しかたない、最低限のものは手に入ったから、あとは自力でなんとかするしかないか)
便利さに慣れると、それを使えないことに対してより不安を覚える。

帰りに菓子類を補充してフロウは帰宅した。
246エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/18(火) 00:03:38.34 0
「じゃあ私は必要なものを取りに自室に戻るよ。手持ちのもので足りると思うから、ペディエ氏から貰った資金は君たちで分けてくれ」

研究会から出てすぐ三人にそう告げる。なにも遠慮したわけではない。その魂胆は――。

「そのかわり、回収した荷物を積む馬か馬車の手配はお願いするよ!私はこのなりだから交渉事が苦手でね。
あ、私はここから遺跡まで歩いてとか無理だから。移動手段としても必要だからね。あと、資金に余裕があるようだったら一番積載量が多いのでよろしく!」

そう、ずうずうしく自分の要望だけを告げると、あっという間に逃げるように去っていくのだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

三人と別れた後、エメラルダは自身の研究室で持ち物を吟味しながら、ティアたちとの研究会での会話を思い返していた。

>「メアリ、今回のお仕事は調べものですからね。くれぐれも間違えないこと」
>「その意気は良いが突っ走るなよ?好奇心は猫をも殺す、ってな」

前者は言わずもがなだが、後者は自分を戒める言葉のはずだ。
だが、あのときのティアの目線は完全に獣人の少女、メアリへ向いていた。

(ふむ?メアリ嬢は確かに幼い言動が目立つが、それほど心配する必要があるようにも見えなかったのだが……。
面倒見のよさそうなフロウ氏はともかく、ティア氏までとは。ただの過保護か、それともこの二人が心配するような何かがあるのか?
……まぁ、どちらにせよ私の目的に支障がなければいいか)

人の心の機微などには疎い自覚がある。わからないことは仕方がないし、万が一の可能性に備えておく程度でいいだろう。
そう結論付けると、考えていたことをさっさと頭の片隅に追いやって、これからいかに荷物を最小限でまとめるか、という考えに切り替えたのだった。

【物品探索ロール 使用ステータス:幸運(70)】
【補正:+5 自身の研究室だ。普段は弟が整理しているとはいえ、ある程度の物の場所は把握している】
【判定成功で下級ポーション、予備の錬金素材を入手。なおレスコンマ5以下でレアアイテム入手】
247エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/18(火) 00:12:11.45 0
【物品探索ロール成功。レアアイテムは入手ならず】

「む、霊薬がない…だと…?」

意気揚々と薬棚を開ければそこには何時もの常備薬がいくつかあるだけ。お目当てのものはなかった。

「エアのやつめ、根こそぎもっていったな」

エメラルダ秘蔵の霊薬。それがあれば怪我など恐るるに足りず、……だったのだが。

(しかたない、あれがない以上は多少怪我にも注意しなければ…。)

無理無茶無謀を実現可能にしてくれた(かもしれない)手段が失われたことを残念に思いつつ、常備している下級ポーションと予備の錬金素材をいくつか鞄に詰める。
それから自身のまとめた年代別の錬金術の資料と、遺跡内の狭い場所でも使える浮遊式の積載道具を持って、研究室をあとにするのだった。
248ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/18(火) 05:34:45.56 0
>「そのかわり、回収した荷物を積む馬か馬車の手配はお願いするよ!」
>「あと、資金に余裕があるようだったら一番積載量が多いのでよろしく!」

「資金に余裕、ね...」

エメラルダの人間性を今一つ見極められないまま、一行は一時解散することとなった。
そして足早に準備と称して、更に面倒を体よく押し付けて去った彼女にもはや返す言葉すら忘れていた。
呆気にとられていたティアはそう呟いて手のひらの金貨を見る。
...キャラバンを借り受けるには、どう考えても不足な額だった。

とはいえ荷馬車はどうしても必要だろう。無ければ物資回収自体が困難になる。
帰りの荷は馬にのせ、自分達が徒歩で帰ると言うなら話は別だが。
しかし行きは兎も角疲労も積もるだろう帰路でそれは避けたかった。
なにも倦怠感ばかりではない、そうした極限状態には常に不測の事態が付いて回るのだから。

「しゃーない、癪だが努力はするよ...」

エメラルダを危険視はしているが、それとは別に彼女の信頼は得ておいた方がいい。
何はともあれ今回の依頼を共にこなすことになるのだから。
予期される彼女の独走を止めるのも、信頼があった方が何かとスムーズではあるだろう。
そう理論武装して腹をくくり、ティアは単身近場に馬小屋を探した。

【交渉ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10の補正】
【成功の場合、ある程度のキャパシティを持つキャラバンを金貨一枚で借り受ける事ができる】
249ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/18(火) 05:51:16.98 0
「粘れば何とかなるもんだな...」

交渉すること30分余り。最終的に額を少し譲ることで合意へと至った。
占めて金貨1枚に銀貨10枚。四人で乗ってまだ余りあるであろう広さの馬車にしては破格とも言える額だった。
...ただ、譲った分の額はティアの懐から飛んでいってしまった。冒険前の貴重な準備期間には痛い出費である。

「ま、普通に準備すっか......」

マジックアイテムの一つでも見繕おうかと思ったが、この手持ちでは厳しいだろう。
よってランタンやロープ、携帯食料に水袋など基本的な冒険用具を見て回ることにした。
一応手持ちのものでも生きることは出来るが、念は入れておいて損はない。
活気ある露店に並ぶ品々に、ティアの望むものがあればいいのだが。

【物品購入ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【直前の連続購入失敗回数=2回により+20の補正】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10の補正】
【成功の場合ロープ50m、ランタン、携帯食料2週間分を入手】
250ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/18(火) 06:06:24.59 0
探し回って何とか食料は確保したが、他の物は見当たらなかった。
というよりティアの欲する品質に到達していなかった、と言うだけなのだが。
自身が小物を扱っているためか、どうにも拘りが先行しがちなのは少し困りものではある。

今回はキャラバンがうまい具合に借りられたと言うだけで十分だろう。
他も必要最低限は揃った。もっとも、特別な用意は出来なかったが。
交渉で些か神経を使ったために、それ以上は考えを回したくなかった、と言えばそれまでなのだが。
ひとまずこの市場での成果に満足を覚えたティアであった。

【物品購入ロール:失敗】
【1つきりの購入を使用。連続購入失敗回数をリセットし携帯食料2週間分を獲得】
251メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/18(火) 06:30:02.13 O
馬車、はあまり乗りなれない。
自分で歩いたり走ったり、それで済むような仕事ばかりだったからだ。
…副団長が気を使ってくれてるのか、今まで人間と仕事することも少なかったし。
ティアとは中々良好な関係になれた、と思っている。触発されて買った時計も、今では大切なものだ。
エメラルダは、どうだろう。
もしも今すぐにヒステリーを起こすようなことがあったら、きっと巻き込む。
フロウとティアとは違う、わからない人間。
その人と、馬車で対面のまま移動…不安が、わいてくる。
「……お菓子食べたい…」
甘いものでも食べて、落ち着きたい。
そう思いながらも、手はしっかりと近くにいたティアの服の裾をつかんでいる。
落ち着かないのは、仕事のせいもある。
…役に立てるのだろうか。
ゴーレムも出来るだけ倒さない、となるとメアリに出来ることはささやかなこと。
しかも、そんな遺跡では匂いが分かりにくくて、獣人とすら役に立てない気がする。
不安、不安、不安…
価値がない自分が、不安…

そんな後ろ向きな考えは、確実にストレスになっていた。
252フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/18(火) 23:17:49.49 0
ある晴れた昼下がり 遺跡に続く道 荷馬車がごとごと 私たちを乗せていく

「うーん……うーん……」
 遺跡行きの馬車の中で、フロウは顔色を白くして項垂れていた。酔っているのだ。隣で
メアリも元気がない、イライラしているようだ。

「ああ、メアリ、はいこれ、酔い止めです。気休めですが……」
 息も絶え絶えといった様子で懐から酔い止めの錠剤を取り出すと、それをメアリの前へ
と置いた。彼女も馬車酔いしているのだ勘違いしたのだ。現在の彼に諸々の事柄に気付く
余裕はない。ちなみに酔い止めは今ので最後である。ヨーグルト味。

「う、うーん……」
 画材の入ったいつものリュックを枕にして上を向く。何とか吐かずにいられるのは意地
のなせる技か。今は準備を終えて、いよいよ遺跡に乗り込む日なのだが、状態はご覧の有
様だ。馬車の外では見慣れた景色が遠ざかっていく。

 荷物を運ぶためにティアがキャラバンを用意してくれたことは素直にありがたかった。
のだが、普通の馬と異なる車体の揺れは、フロウが精神の平衡を損なうには十分な威力を
発揮した。

「ち、近場ならわ、わたし、たち、だけでむ、歩けば……よがったかも、しれません、ね」

 何とか言葉を絞り出して呼吸を調整する。黙っていると却って吐き気がこみ上げて来て
しまうのだ。馬車の速度は未だに収まらない。

「遺跡って、ど、どんなところなんでしょ……っ!」

 途中で鼻息が荒くなる。酔いを治す魔法はあるが、予め酔わないようにする魔法はまだ
覚えていない。こんなことなら休日中に習得しておけばよかったと、フロウは朦朧とする
意識の中でそう思った。

 キャラバンは進んでいく。その内見慣れない景色へと移り変わっていくだろう、しかし
ながら、完全に車酔いしてダウンしているこのエルフがそのことに気が付くことは難しい
だろう。
253エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/19(水) 20:16:12.82 0
目的地である遺跡に思いを馳せながら、エメラルダは上機嫌で荷馬車に揺られていた。
移動手段の確保を頼んだ(押し付けた)のは自分だが、こんな立派な馬車を借りられるとは思ってもみなかった。
よくてせいぜい小さな荷台の付いた一頭立てか、最悪荷物を持たせるだけのロバが一頭+a、ということも覚悟していただけに、これは嬉しい誤算だ。
エメラルダの中でティアの株が上昇していく。

>「うーん……うーん……」

「……む?」

と、そこでやっとエメラルダはパーティメンバーの一人、フロウの様子がおかしいことに気付いた。
メアリに酔い止めとして飴のようなものを渡すのを観察していたが、フロウ自身かなり酔いがひどいようだ。

(ふむ、これはいかんな。このままでは、遺跡についてすぐに調査、というわけにはいかなそうだ。それは困る)

エメラルダは、持ってきた素材になにかあったかな、と鞄を探るのだった。

【錬金ロール(一括判定)】
【素材有無判定 使用ステータス:幸運(70)】
【補正:+5 予備の素材を補充してある。少量ならあるかもしれない】
【錬金成功判定 使用ステータス:知識(90)】
【スキル発動:『錬金術の心得』錬金術に関する判定に+5の補正がつく】
254エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/19(水) 20:30:22.15 0
【錬金ロール失敗】

「……むむ。何もない、か」

手持ちの薬草で役に立ちそうなものはなかった。残念だがあきらめるしかないだろう。

(遺跡につくころには多少は回復していてくれるといいのだが……)

寝込みながら呻っているフロウをチラリと横目にみる。

(……望みは薄そうだ)

そう、ため息とともに考えていると、グッタリしながらも気丈に振舞うフロウの言葉が耳に入った。

>「遺跡って、ど、どんなところなんでしょ……っ!」

「!」

エメラルダの仮面の目元がキラリと光る。

「そうだねぇ!なんせ今までこんな近郊にあったのにみつからなかったくらいだ。遺跡を隠すために相当の技術が使われているはず!
その上システムも生きているということは中の状態も当時のままの可能性が高い。ならば……」

スイッチが入ってしまったエメラルダは、フロウの体調などお構いなしに自分の推測(妄想)を並べ立てるのだった。
255ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/20(木) 02:26:42.62 0
メアリに袖を引かれながら、ティアは揺れるキャラバンの壁面にもたれ瞑目していた。
どうせなら、着くまで眠っていたかったが。フロウの必死の呻きがそれを許してはくれなかった。
かといってそれが理由でストレスになるほど眠かった訳でも無いのだが。

対面したエメラルダが水を得た魚のように語り始めたのを柳に風と流す。無論目は瞑ったまま。
自分の知的好奇心が第一の典型的な「研究者気質」だ。放っておいても語ることだけで満足するだろう。
そうしたものは人の話も内容も、興味関心の琴線に触れない限りは気にしはしない。
そう割り切ってみると、エメラルダは何とも扱いやすい部類だ。この二日でティアの人物評はそう定まった。


「さて、そろそろか。出るぞ」

見慣れない場所。起伏の激しい入り組んだ土地で土砂に埋もれるようにして空いた空間。
近い過去に掘り起こされたであろう穴を潜ると、報告通り薄暗い穴の中に光が灯った。
と言っても周囲を見渡せど発光しそうな装置は見えない。そして影のひとつも出来ないような、不思議な照明で照らされていた。

廊下とおぼしき空間はチューブのように一直線。正面には歯を縦向きに噛み合わせたような鉄の壁が塞がる。
蛇腹のようなモールドが入ったその廊下でティアは振り向き、三人に簡単に告げた。

「...ちょっと調べてくる」

まさかこんなところで遺跡は終わらないだろう。恐らく分割線のある正面の壁が扉だろう。
だが現代の扉はドアノブを捻るか横に開くかが主流。持ち手の見当たらない壁をどの様にして開けるのか。
そんなことを考えながらまずは壁に近づくと、なんとその壁は独りでに左右に開き。

「なっ......!?」

その奥から腕が一本、ティアを薙ぐように伸びてきた。

【回避判定 使用ステータス:素早さ(71)】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10】
256ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/20(木) 02:38:43.47 0
遅い。とっさにその腕を攻撃と判断したティアは手早く横に逸れた。
開く中途の扉から延びた腕の可動範囲はまだ狭く、意表を突かれた以外は回避に手間取らない一撃でしかない。
だが、何故?その疑問は取り敢えず放り投げ、大きくバックステップで距離をとる。

全体像が見えた。何のことはない、つい最近見かけた魔物、ゾンビだ。
隙間から扉の奥を覗いたが、この一体の他に動く影は無さそうだ。

「さあ、どうする?別にコイツは研究対象じゃ無さそうだがな」

一応遺跡内での戦闘行動だ。余裕のある内はチームで意見を募っておきたい。
斥候の仕事は先行調査。だがそれは独断専行では無いのだから。
ぼろ布を纏ったゾンビの足取りは遅く、隊形を整えるくらいは優に可能だろう。
にじり寄る不死を相手に、ティアは教会で買ったきりのアセイミダガーをゆっくりと構えた。
257メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/20(木) 07:53:42.26 O
ついた場所は、見慣れない場所。
そりゃ遺跡だから当たり前なのだが、なんというか、変な感じがする。
フロウは酔い治しの魔法で楽になったらしく、今は普通だ。
…馬車でくれたのがお菓子だったと、教えない方がいいのだろうか。
結局食べずに紙に包んで持っているが、帰りに渡したら効いたつもりにならないか?
そんな事を考えていたら

>「...ちょっと調べてくる」

「え…き、気を付けてね?」
最初から皆でうろうろすると思っていたメアリは、未だ抜けない緊張で声が上ずった。
そこへいきなりの腕、更なる声をあげる前に、その腐臭に顔をしかめる。
「……ゾンビ?」
しかも古そうだ。
あんなのならティアは回避する。
いきなりゴーレムが来たのかと思ったので、ほんの少し安心した。

>「さあ、どうする?別にコイツは研究対象じゃ無さそうだがな」

「…なら、いらないよね」
アンデット用に腰に下げたアセイミダガーを抜き、ゆっくり構えている最中のティアより前へ出る。
首を撥ね飛ばすのに、なんの躊躇もなかった。
動かなくなったゾンビを無言で見下ろし、何かどす黒い感情が渦巻くのを感じる。
…落ち着かなくちゃ。
それでも人間の死体を切り裂いた手は、もっと、と疼いているような気がした。
もっと敵を倒させて、と。
これは本能か、不安がおかしな感情へ変わってきてしまったのか、メアリにはわからない。
258フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/20(木) 23:15:25.93 0
 馬車というもの簡単に言うと馬に牽引された荷台である。そして馬が荷台を勝手に
引っ張ってしまわないように停車しておくための道具もある。しかし、それはあくまで
停車している状態の馬車に対し使うものであって、たとえ減速しているとはいえ走行中
に機能するような画期的なブレーキはこれはついてない。つまり

 停車するには減速させるために、より速度が落ちるような動きが必要なのであって、
短時間に車体が二、三度大きく縦揺れを起こす。

「!!!!!!!!」

 吐き戻すための全てのフラグが成立したとき、フロウは全神経を集中させて酔覚まし
の魔法を使った。口を開くことができないので、指先に魔力を集中させて引っ掻くよう
に両掌に小さな魔法陣を描く、今までで一番必死だ。

 呪文を唱えることなく魔法を使用する方法だが、これで発動した「酔覚まし」の魔法
をかけた手で、フロウは自分の胸を骨が折れてしまいそうなほどの強さで何度も叩いた。

「あ、あぶなかった……」
 ハンカチで顔に浮かんだ脂汗を拭きながら呟く。なんとか喋れるようになったらしい。

 何度か深呼吸し現状の把握に努める。まだ日は高く、周囲の風景は海から離れ、これ
以上は馬車で入れそうにないような悪路となっていた。

(まずいな途中の道をまるで覚えてない)
 表情には出さないが内心ではけっこう焦る。みっともない姿も晒してしまった。穴が
あったら入りたいと思うフロウであったが、その気持ちさえも先回りしてきたような、
遺跡へと続く穴を見て半ば強制的に改めさせられた。

「これは……よくこんなところに、こんな大穴が空きましたね」
 
 形で言えば人が落ちた後の落とし穴をそのまま大きくしたようなものだ。大方遺跡の
上から迫り出した土砂が何かの拍子に崩れて露出したのだろう。ともあれ一行は穴の中
へと進んでいくのだが

「!……本当に明かりがつくんですねえ。しかもランタンのような入れ物も見えない」
259フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/20(木) 23:15:58.93 0
 不思議に思いながらもフロウはリュックから地図作成用の道具を取り出した。まずは
『入口』と書いてこの一本径を簡単に書く。ここまではペディエのメモにもあった。

 そしてティアが斥候としての役目を果たすべく、正面の鉄扉の前へと行って、
扉が一人でに開いて、中からゾンビが出て、ゾンビがティアへと襲い掛かり、メアリが
これを倒した。

 反射的とは違う、明らかに攻撃の意思のあったメアリを注意しようかとも思ったが、
フロウはそうしなかった。ゾンビが気になったからだ。

「中からゾンビ……ですか……」

 死体に戻ったそれの傍に屈むと、フロウはエメラルダを手招きする。

「この遺跡は発見されて日が浅い。中で何かあって死んだとしてゾンビになるにしても、
この死体は随分と傷んでいるように見えます」

 そこまで言ってからフロウはエメラルダに尋ねた。

「ですがまあ、これももしかしたら『出土品』かも知れないので年代の鑑定だけお願い
できませんかね? 持ち帰りませんが、まあ一応……」

 そして仕事のことを切り出した。実際に五千年も前の死体ならとうの昔にスケルトン
にでもなっているはずだ。なので、これはただの確認作業に過ぎない。

(けど)

 フロウは鉄扉の先を見ようとしたが、ここからでは中を伺い知ることはできない。

(もしも中がアンデッドとゴーレムの巣になってるとかだったら……)

「初っ端からなんですが、逐一逃げられるようにしておいたほうが、たぶんいいと思う」
 まだまだ中身がたっぷり残っているはずの遺跡を前にして、フロウはそんなことを言った。
260 ◆Sg5djUdds2 :2014/11/21(金) 19:08:29.74 0
ティアの呼びかけで目的地に到着したことに気付いたエメラルダは、そこでやっと口をつぐんだ。
乗り物酔いのひどそうだったフロウの様子を思い出し、確認のため視線をむける。
すると、しっかりとした足取りで立ち上がるフロウの姿が目に入った。

(……おや、体調がもどっている?なんだ、この調子なら心配する必要はなかったか)

どうやら何らかの魔法をつかったらしい。
すぐに遺跡の探索に乗り出せることがわかると、エメラルダもすぐさま立ち上がり、三人に続いて馬車を降りた。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

遺跡入口の穴を進み、通路に光が灯ると、エメラルダはすぐさま音がしそうな勢いで壁にはりついた。

「ふむ、特別な金属をつかっているわけではないのか?……しかし、錬金痕が見当たらないのに繋ぎ目も見えない。一体どのようにして……」

壁に向かってぶつぶつとつぶやくエメラルダをよそに、ティアが先行して入り口を調べにかかる。
そして、ティアが壁に近づいた瞬間壁が開き、現れたゾンビが襲い掛かった。

>「さあ、どうする?別にコイツは研究対象じゃ無さそうだがな」

「そうだね、なら……」

冷静にゾンビの攻撃をよけたティアの言葉に、エメラルダが肯定の返事を返そうとする。

>「…なら、いらないよね」

が、全てを言い終わる前にメアリがゾンビの首をはねた。
あまりに一瞬の出来事で、反応するのが遅れる。
だが、パチパチと何度か瞬きして現状を把握すると、エメラルダは小さく拍手した。

「おー、さすがだねメアリ嬢。あっという間だ」

コレは別に生きて(?)いる状態でなくとも構わないので、殺した所でエメラルダに不満はない。
のんきにメアリの手際に感心していると、ゾンビのそばにしゃがみ込んだフロウに呼ばれたのでエメラルダも近づいていく。

>「これももしかしたら『出土品』かも知れないので年代の鑑定だけお願いできませんかね?」

「確かにそうだね。じゃあ、くわしく見てみよう」

近くでゾンビを目視し、フロウの「状態が悪い」という言葉にもっともだと納得したエメラルダは、さらにくわしく調べるために死体に手を伸ばした。

【判定ロール 使用ステータス:知識(90)】
261ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/11/22(土) 03:52:44.55 0
【エメラルダ:鑑識判定に成功】
【人型の腐食体そのものに経年による劣化はあまり無いように見受けられる】
【しかしその身に纏った衣服の風化加減は少なくとも数百年やそこらで生じるものではないと解った】

「......だ、そうだ」

鑑定をしておけと言ったフロウに、錬金術師の見解を伝える。
出てきた解答は面妖に尽きる。だが彼女がこのような場面で嘘をつく要因など見当たらないのだ。
不審があるなら彼女自身も危険にさらされる。パーティを騙して避けられる危機などそうは無い。
珍しい発見があったなら、彼女のようなタイプは先に高揚を抑えられなくなるものだろう。

確かに不思議だ。だがそれを理由に立ち止まるわけには行かない。
解ったのはゾンビの出自が不明と言うことだけ。それだけなら障害でも調査対象でも無いのだから。
剥き身のアセイミダガーを手にしたまま、開きっぱなしのドアを潜る。
メアリとすれ違う際に、鋭い視線を向けながら。
262ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/22(土) 04:12:41.18 0
扉を潜った先は、奇妙なエントランスホールだった。
先の廊下とは打って変わってガラス張りのような壁面。その奥には金属光沢が目映い小動物の数々。
姿形はそのまま動物の姿だ。蛇や蛙、蝙蝠がその首を軋ませこちらを見る。
ガラスの向こうには植物だって生い茂っていた。ただ一点、動物たちが機械仕掛けと言うことを除けばそこはさながら森林だった。

もっとも、それはガラスの向こうだけの話。エントランスの床や天井は先の廊下と同じ材質のようだ。
その少し奥に、さっき潜った扉と同じタイプの金属壁が見える。
そこに刻まれているのは文字、だろうか。扉を指すような記号と共に描かれた幾何学模様。
ティアは取水亭の史学書を思い返しながら、その模様を解読しようと試みた。

【見識判定 使用ステータス:知識(51)】
【補正『古代の残滓』:触れる機会の限定される知識。判定値に-25】
【補正『書物の囁き』:ごく最近読んだ書物からヒントを回想する。判定値に+5】
263ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/22(土) 04:34:49.46 0
「居住区画、か......?」

その記号の並びから、朧気な記憶から引きずり出したそんなワード。
その隔壁の近傍には、たしかにそうかかれているように感じた。
もっとも、単に記憶にその文字列が残っていたに過ぎない。
他の場所で同じように文字を見かけたとき、解読できるかは怪しいものだ。

扉の向こう側が分かったとはいえ、直ぐに移動するのも考えものだ。
なにせ此処は謎な空間だ。見せつけるように、飾るかのように、金属製の小動物を囲っているのだから。
彼らはまるで生きているかのように時折首を傾げ、草を食み、その身を伸ばしていた。

「ここのゴーレム全員が、これだけ穏和そうなら良いがな」

恐らく彼らは鑑賞用、なのだろうか。未知との戦闘を避けたいティアはそうであってほしいと願った。
だがわざわざ生物でも可能なものをゴーレム化するのは何故だろう。
技術が進めば、そうした無駄に費やしたくなるのだろうか。ティアは一先ずそう結論付けたが。

「特別汚れている様子もなし、と。えらく設備が整ってるみたいだな、ここは。
 地図製作と鑑識は任せた。少し此処を調べよう」

5000年の歳月を考えれば、異常なまでに状態がよい。この時代のテクノロジーとは、一体どれほどまでの物なのだろう。
パーティの二人に作業を促して、ティアは辺りを見渡した。
見たところ障害物と言った障害物は見当たらない。唐突に何かが出現することも考えにくい。
警戒はするに越したことはないが、危険の調査はするまでもないだろう。

ティアの目下の懸案事項は、メアリだった。
ゾンビとの遭遇で見せた攻撃性。道中で出てきただけの魔物に抱くべきものではない。
やはり危険だ。半分周囲を、半分メアリを警戒しながら、辺りを一様に睨めつけた。
264メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/22(土) 08:03:38.74 O
「ゾンビは殺しちゃっていいよね、ゴーレムは邪魔するのだけ斬る。少しくらい痛くても気にならないし、狭い道を行くときはあたしが前歩くよ」
普段とは明らかに違う、すらすらと放たれた冷たい声。
「ここから逃げるときもその方が安全、悪いことなしだね」
声とは裏腹に、笑みはいつものように無邪気。
怯えも、恐怖の欠片すら見えない。何か足りないとしか感じられない表情。
だが本気なのだ、メアリは。皆の安全そのものを考えてはいる。
この方がいいではないか、傷も少なくなって。
そりゃあ経歴を鑑みればティアが一番状況を把握できるだろう、それくらいわかる。
ただのわがまま、そんなのわかってた。
「ああ、後…」

>「おー、さすがだねメアリ嬢。あっという間だ」

「嬢、なんてあたしには似合わない。やめてくれない?」
歩きながらの発言に、今度は苛立ちだけは混ざっていた。
…馬車を降りたときに気づいた。気にしないようにようと、考えない振りをした。
だが無駄だった…ここは里の近く。
本能が敵を倒せと叫ぶ、それが仲間を殺したものではないとわかっていても。
それでも、そんな事誰にも言えない。場所までは話したことがないのだから。
265メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/22(土) 08:13:35.79 O
ガラス張りの中のゴーレムは、更に苛つかせた。
生き物の姿だけ真似した物、だが襲ってこないのだから排除する必要はない。
…それが逆に苛立ちになる。
いったいここはなんなのだ?変なゴーレムと未だに生い茂る植物。
その答えはティアの呟きから想像する。

>「居住区画、か......?」

住む場所、みたいなものか。
ならここは公園みたいな物なのかもしれない。
…古代のセンスはまったくわからない、あんな偽物の動物の何がよいのだ。
可愛いかどうかなんてものじゃない、生きていないのに動いている。
ガラスを叩き割りたくなるが、流石に抑える。そんな事をしたら迷惑をかけてしまう。
ダメだと理解はしているのに、ざわざわと這いよる暗い感情が、さっきからどうしても消せない。

>「地図製作と鑑識は任せた。少し此処を調べよう」

しかも調査、研ぎ澄まされた耳には、あの偽物達の音位しか入らない。
…危険排除の必要がない。
ああ、でもそれなら、今なら。
「ならあたしあっち見たい、危ない音がしたら直ぐ言うから」
一人に、なりたい…
ティアの視線も、制止も気付かぬまま、物陰を求め走ってしまうのであった。
266フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/22(土) 22:38:46.76 0
「どういうことなんでしょう……」
 ゾンビの鑑定結果は不可解だった。着衣と死体との『時間』が不揃いだと言うのだ。
一つ分かったことは、この死体に対する違和感の正体がそれだということ。もっとも、
それが何故なのかは分からないままなのだが。

「どういうことなんでしょう……」
 先進むと開けた空間に出る。先程と同じ言葉を繰り返しながら、フロウは室内の観察
を始めた。入ってすぐの場所で一度、画用紙に全景を大まかに書き、ガラスの壁やその
向こうの、『動物の姿を模した何か』についての注釈を添え、メモ帳に簡易なスケッチ
をしてはクリップでまとめる。隅に小さく『居住区画』とティアの言葉を記載する。

「『居住区画』ですか。まるで街のようですね」
 訝しむ最中にも手を止めない。この遺跡は、といってもまだ入ったばかりなのだが、
おかしなところだらけだ。街や砦、大型船の中でもなければこんな言葉は出てこない。
つまり、この先には人が住む場所があり、更にまた別の区画があることを暗に示して
いる。

 次に動物だ。動物を模したゴーレム、仮にここが憩の場所だというなら生きた動物
でいいはずである。正直なところフロウは人間のゾンビよりも数段厄介な動物のゾンビ
を恐れていた。実際は奇妙な音、出処不明の音を鳴らして本物の真似をするばかりだが。

「ゾンビ以前に、動物が一匹もいなかったのでしょうか」
 さっきの廊下と似た床、天井に比べて不自然に温かみを装った室内のなんと寒々しい
ことか。ティアがここを調べようと言い出したのも無理のないことだ。

「そうですね。他へと繋がる通路もあるでしょうし、見て回るなら安全なほうがいい」
 外の空気と遠ざかることに不快感が募る。

>「ならあたしあっち見たい、危ない音がしたら直ぐ言うから」
「……メアリ、ダメですよ……って、あっち?あっこら!」
 フロウは暇を持て余した子どものようなことを言い出すメアリをたしなめた。効果が
なかった。彼女は見知らぬ通路の先へと行ってしまった。

「ああ、もう、これだから女の子って面倒!」
 思わず女子に対する不満を口に出してしまう。彼の中では女性は機嫌が良くなる理由
は褒めるかプレゼントしかないにも関わらず、不機嫌になる理由は際限なくあるからだ。
267フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/22(土) 22:39:34.30 0
『世の中の結婚男性の幸福の絶対量が少ない理由は女性と付き合うから』というのが、
彼の秘した持論である。

「仕方ない……ピーピング!」
 足元に置いて杖を拾うと、フロウは見失う前にメアリの背中に向かい魔法をかけた。

※ピーピング 覗きの魔法 遠見の魔法。対象の様子を離れた位置からでも見ることができる。ベルゴリウスの魔術書に書かれていた魔法の一つ、一般的なものと比べて遥か
に完成度が高い。

 呪文の詠唱なしに瞬時に放たれた魔法は暴走する気配もなく発動した。杖についた皿
の片方にメアリの後ろ姿が映し出される。

※ 詠唱と呪文名を特定の名前に封じ込めることにより、後はその名前を呼ぶだけで魔
法を使うことができる『詠唱無し』の技術である。これにより登録に時間は掛かるが、それさえ済めば以降は簡易かつ即座に魔法を使うことができるようになった。

 言い換えれば、この魔法と理論の開発者はまさにフロウの目を盗んで覗きを働いて
いたことになる。煩悩のためにここまで良くできたモノを作れるのだから人間という種
はある意味恐ろしい。

「これで何とか後を追うことは出来そうですが……」

 そこでフロウは改めて二人に向き直った。

「どうしますか?今すぐ追うか、それとも調査を進めるか。私は敢えて、残るべきだと
言わせてもらいます」
 少し厳しい口調で、言い聞かせるように話す。

「明らかにメアリの様子はおかしかった。追いかけてもまた同じ事になる可能性が高い。
酷な言い方をしますけど、今は半人前の気分に振り回されていい状況とは思えません」

「あの子が自分から戻ってくるのを待つべきです」
 追いかけたいやりたい気持ちはあったが、フロウはパーティの存続を優先した。不快
感がそのまま危機感へと直結するようなこの遺跡に、彼は言い知れぬ不安を覚えていた。
268エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/23(日) 02:37:00.81 0
ゾンビの鑑定が終わり、いくらかのサンプルを採取したエメラルダは、手袋を予備のものに交換しながらご機嫌な様子で鼻歌を口ずさむんでいた。

「ふふふふおもしろい。ただのゾンビかと思っていたら、こんな発見があるだなんて。これからは一般的なモンスターであっても気を配ったほうがいいかな?」

この場合の「気を配る」とはもちろん、警戒するという意味……ではない。
服と身体の経過が違うなどという、興味深い結果をもたらすものとはなんなのか?それを解明するため、しっかりと獲物を観察したほうが良いだろう、という考えだった。

エメラルダはゾンビを調べるために出した道具をかたずけると立ち上がり、3人に続いて歩きだす。
突然メアリが言い出した自分が先行するという提案も、特に頓着せずに受け入れた。
露払いは自分の役割ではないので、ほかのメンバーの判断にまかせることにしている。

>「嬢、なんてあたしには似合わない。やめてくれない?」

「ん?気に入らなかったかい?なら今度からは呼び捨てで呼ばせてもらうよ」

今までエメラルダを怯えた様に窺い、ほとんど声をかけてこなかったメアリの強い言葉には多少の違和感を覚えたが、些細なことだと気にとめなかった。
なにはともあれ。今回の依頼を受けた理由であり、この遺跡にきた目的である「未知の錬金術」への期待も高まったエメラルダは、軽い足取りで開かれた扉をくぐり、奥へと歩を進めるのだった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

扉の先のエントランスホール。そこにいたゴーレムたちに、エメラルダの目はすぐさま釘付けになった。
入り口のときと同様か、それ以上の勢いでガラスに張り付く。

「ふおおおお!なんて精巧なゴーレムなんだ!まるで本当に生きているようじゃないか!」

その見た目も些細な動作も、本物と見まごうばかりだ。身体が金属であることと時折聞こえる金属音さえなければ本物と変わらない。
しばらくうっとりと観察していたエメラルダだが、ティアに声をかけられ正気に戻った。

>「地図製作と鑑識は任せた。少し此処を調べよう」

「もちろんだとも!まかせてくれ!」

力強く頷き、もっと近くで小動物のゴーレムたちを観察するため、ガラス張りの壁の奥へ行く方法を探り始める。
年月を経ても完璧な状態を保つまわりの様子も気になるが、今はこのゴーレムのほうが重要だ。
だがいくら探しても入り口らしき扉が見当たらない。
もういっそのこと、このガラスを壊してくれるようメアリかティアに頼もうか考えだしたとき、フロウの焦ったような声が耳に届いた。
振り返ると、メアリが一人探索外の通路のほうへ向かう後姿が目に入る。
すぐさまフロウが魔法を使いメアリを見失わないよう捕捉したが後は追わず、ティアとエメラルダに、メアリを追うか調査を進めるかの提案をしてきた。
フロウは心配しつつも、メアリの不安定な状態と遺跡のただならぬ雰囲気に危機感を抱いているらしい。その意見はメアリ追跡に否定的だった。

>「あの子が自分から戻ってくるのを待つべきです」

「私もそれに賛成だ。メアリだって子供じゃないんだから、自分で判断して危なそうだったら帰ってくるだろう」

ギルド員として依頼を受けてここにいる以上、なにが起ころうとも自己責任だ。
自らが平気だと判断して単独行動に踏み切ったのだから、こちらまでそれに付き合う道理はない。

「……それよりも、あのガラスどうにかして壊せないかな?」

エメラルダの興味はすでに壁の向こうのゴーレムへと戻っていた。
269ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/23(日) 20:09:06.42 0
>「ならあたしあっち見たい、危ない音がしたら直ぐ言うから」

「おい、馬鹿ッ......ったく」

慌てたように手を伸ばしかけ、そして追跡を諦める。
独断専行に釣られて隊型を崩せば、そこから一気に崩壊することだってあるのだ。
極端に言えばメアリを最悪切り捨てる選択。しかし勝手な行動から生まれた状況な以上、諦めてもらうしかない。
幸いフロウが何かしらの対抗策を用意していたようだ。直ぐに事が起きることは無いだろう。

>「どうしますか?今すぐ追うか、それとも調査を進めるか。私は敢えて、残るべきだと言わせてもらいます」
>「......それよりも、あのガラスどうにかして壊せないかな?」

「だな。只でさえ危険な場所でついでに迷子を探せる余裕はない。
 ......だから此所の調査を続けるが、ガラス壊すのは止めとけよ!
 そもそも破壊活動は控えるようにって言われてるし、詳しい調査まで任された訳じゃないんだ。
 そんなに気になるなら後で頼んで調査隊に加えてもらえ」

興奮気味のエメラルダをたしなめ、そしてガラスに目をやった。
ゴーレム、すなわち人工物にしては驚くほど小動物に近い挙動。見れば見るほど不思議なものだ。
だがティアに解ることは何もない。些か手持ちぶさたなのを不満に思い、ティアは胸元の時計を見遣る。
午前10時30分。まだ日も登りきらぬうちから、危機は着実に彼らに忍び寄っている。
270GM ◆zlaomeJBGM :2014/11/23(日) 20:14:50.77 0
足を踏むたびに照明がメアリを照らす。隠れる隙間も無いほどに。
そしてたどり着いた居住区域は、ただただ伸びる廊下の壁面に扉がついただけのもの。
依然としてメアリを追随するかのように光る照明。メアリは物陰を求めてなお進む。

周囲に光が少なくなったとき、そこはある種の保管庫のような場所だった。
平静さを失ったメアリに、認識できるだろうか。そこに数体並んだ人型のゴーレムを。
薄暗い空間でゴーレムはただ、駆動音ひとつ鳴らさずメアリを見ていた。
271メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/23(日) 21:14:29.59 O
明るい、明るい…ずっと明るい。
どこまで歩いてもついてくる明るさは、メアリを更に苛立たせる。
…離れる前にフロウが何かした。それだけは気がついたけれど、解除の仕方なんて知らない。
とにかく今は暗い、静かな場所にいたかった。
誰と話しても、泣いて喚いてしまいそうな気分だ。
結果的に剣を振るう可能性だってある…自分が側にいた方が、危ない。
「あたしの…バカ…」
フロウやティアに泣きつけば良い、故郷が近くて辛いと、この場所も入り口までは知っていたと。
なのに、出来なかった。
夜に押し掛けたり、店に居座ったり、迷惑ばかりかけている。
今だって後の対処を考えて、迷惑をかけているだろう。
…これ以上、辛さを背負ってもらうには気が引けたのだ。
大人ならきっと、上手く乗り越えるような記憶。メアリはいつまでも悪夢で見てしまう。
何故、一緒に戦って死ねなかったのか、暗い思いだけが心へ降り積もる。
…そこへ、何かが動くのが見えた。
「……え?」
だが、今のメアリは、それが何なのか理解するのに時間がかかってしまい―――
272フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/24(月) 22:46:37.35 0
(メアリ……)
 投映される少女の様子をちらちらと確認しながらも、フロウはこの場の作業を進める。
ここの調査を終えれば嫌でも次に進まざるを得ない。言い換えれば取りたてて判断材料
に乏しい今、彼女を追うための言い訳の用意が整うのである。

 遺跡の周囲の土地は平地より低い位置にあったが、ここはその更に下にあったようで
天上は平屋一階建てよりも高い。二階建てよりもまだあるだろうか、しかしながら上へ
と続く階段は無いように見える。

「ああそうそう。エメラルダさん。これ、よろしければどうぞ」
 思い出してフロウは懐にしまっておいた調査隊募集の申し込み用紙を差し出す。以前
ペディエのところの受付に置いてあったものを帰り際に頂いたものだ。安全に配慮する
旨の記述は一つもなかったが、果たしてこれに応募するような人がいるのか。そもそも
この依頼の結果次第ではお流れになりそうだが。

「しかし壊そうと思って壊せるかは実際問題、気になるところですね。数千年の耐久性
を持つガラス……のようなものですが、閉じ込められる危険を考えると扉を潜ることも
後回しにしたくなります」

 フロウは罠への配慮をしながらも、自分自身でも無意識の内に進路を誘導するような
言い方をしていた。既に手元の地図はそれなりに厚くなっている。イメージした簡易
な上面図に実物のスケッチ、それに付随するメモ、金属壁横の文字には注釈で『居住区
画』と「何語だったっけ?」と書いて置く。こんな物でも資料にできる人間がいるから
世の中は広い。

「こちらはあらかた済みました。次に移れますよ」
 ティアへと報告を済ませる傍ら、引き続きメアリの状況を確認しようとして、フロウ
の眉が寄る。彼女の姿が見えないのだ。

「すいません。見失いました……!位置としては、この辺りですが……」
 メアリの出て行った通路から今いるはずの場所までを記したメモを取り出す。当然と
言えば当然だがピーピングは対象を光源にする効果はない。過剰に照らし出された廊下
まではすんなりと追えていたが、暗がりに入られては厳しいものがある。こんな事なら
お金を惜しまずに暗視の技能を習得しておけば良かった。ここに来てフロウの内心に、
後悔の念が噴出した。
(メアリ、どうか無事で……)
273エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/25(火) 20:36:53.90 0
ガラスの破壊は却下されてしまった。
確かに、現在の技術で修復できるか分からない以上、下手にガラスを壊してゴーレムまで壊れてしまっては元も子もない。ティアの言ももっともだ。

>「そんなに気になるなら後で頼んで調査隊に加えてもらえ」

「調査隊!その手があったか!」

今は先行調査が任務なので派手なことはできないが、あらかた探索した後であればある程度は自由が利くし、取捨選択もしやすいだろう。
だが問題は、一般応募があるのかは分からないということだ。
もしかしたら史学研究会のメンバーだけで構成される可能性も……とエメラルダが疑ったとき。

>「ああそうそう。エメラルダさん。これ、よろしければどうぞ」

そう言ってフロウが差し出したのは調査隊募集の申し込み用紙。
ナイスなタイミングで渡されたそれにエメラルダはすぐさま食いついた。

「!!さすがだねフロウ氏!ありがとう!」

ひったくるようにして受け取ったそれの内容を読み込み、特に問題のないことを確認する(安全など未知への探求の前では考慮されるわけがない)
調査隊に加われば道具も充実しているだろうし、心行くまで調べることが出来るだろう。
壁の向こうのゴーレムへの興味は尽きないが、焦っては仕損じる。今はじっくり様子をみるべき時ということだ。
帰ったらすぐに弟と自分の分を申し込んでおこうと心に決め、エメラルダは大人しく周囲の調査を再開した。

とはいっても、ここには壁の向こうのゴーレム以外目ぼしいものは見当たらない。
一部の壁に嵌め込み型の端末の様なものは発見したが、触れても反応がなく、つるりとした凹凸のない表面にはスイッチの様なものもなかった。
フロウの完了報告を聞きながら、自分も追従する。

「特に回収すべきものもなさそうだ。次はメアリの向かった通路の方にいってみるかい?」

特に優先して調査したい場所がある訳でもない。
ならば仲間の後を追っていくのが良いかと考えたのだが、やはりそれで正解らしい。
こちらが言う前からメアリの位置を確認し始めていたフロウを見てそう思う。
だが、その表情はすぐ曇った。

>「すいません。見失いました……!位置としては、この辺りですが……」

フロウの追跡魔法があるのでメアリの不在については楽観視していたが、どうやらそうもいかないようだ。
エメラルダもフロウの手元を覗き込む。

「ここの調査にそこまで時間を使った訳ではないから、そう遠くへは行っていないみたいだね。急いで追うなら私は置いてってくれて構わないよ。足は速い方じゃないんだ」

こちらとしても、調査の早い段階で人手を失う事態になるのは避けたい。
メアリを見失った地点までは危険もなさそうだし、一人でも問題ないだろう。
自分の体力のなさを自覚しているエメラルダは、そう提言した。
274ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/26(水) 00:43:03.47 0
>「すいません。見失いました……!位置としては、この辺りですが……」
>「ここの調査にそこまで時間を使った訳ではないから、そう遠くへは行っていないみたいだね。急いで追うなら私は置いてってくれて構わないよ。足は速い方じゃないんだ」
「何だって......?」

油断していた。フロウの対抗策を信じきっていたが故の隙だった。
エメラルダが言うように、メアリが行ってからそれほど時間が経過したわけではない。
それでも、いやそれだから。この一瞬で起きたことを警戒せざるを得ないのだ。

「...一人置いて分散した戦力を突かれるわけにはいかない。あくまで集団で行動しよう。
 特にメアリが一瞬で消える、それだけの脅威が潜んでるかも知れないからな。
 フロウ、メアリが進んでた道に見覚えがあったら教えてくれ。......行くぞ」

周囲を警戒しながらの行軍はエメラルダも体力を気にせず付いてゆけるだけのスピードにはなってしまう。
短めの廊下の扉の先には、三つに分かれた長い廊下が続いていた。
その壁面に扉があるだけの『居住区画』。あまりの無機質さに閉口しながら、フロウから告げられた道を行く。
ただひたすら真っ直ぐ。痛々しいまでに直情なメアリの軌跡を慎重にたどってゆく。

そして居住区画を抜け廊下の先、更なる扉を抜けたとき。
先ほどとは打って変わった暗がりの中に、メアリの姿を捉えた。
275GM ◆zlaomeJBGM :2014/11/26(水) 00:43:35.07 0
ティアたちがその区画の扉を開けた瞬間、それまで微動だにしなかったゴーレムが重い駆動音を上げる。
直立した人型で格納...もとい配置されていたゴーレムは、ティアたちの前を塞ぐように躍り出る。
更に二体のゴーレムがメアリを囲うようにゆっくりと動き出した。

しかしティアたちは二つ、不可思議なことに気付くだろう。

一つ目はゴーレムの武装。事前の情報だとこの時代のゴーレムは火器による武装が主流だったはずだ。
しかし目の前のゴーレムは人型であるにも関わらず、四つ足を付きその爪を唸らせていた。

二つ目はその挙動。まるでメアリが庇護対象であるかのようにゴーレムは振舞っていた。
後ろに控えた二体のゴーレムも囲う、というより寄り添っているようにも見える。
前線のゴーレムと同様、その四肢を地に付けて。
276メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/26(水) 08:40:25.97 O
「ひゃっ!?」
扉の音とゴーレムの駆動音、同時に聞こえた二種類の音に驚き、変な声を出してしまった。
その刹那の感情は一つ、怖い。
ゴーレムも、三人と話すのも。
追いかけてきたのか、調査の流れでここへ来たのかはわからない。
けれどメアリの状態はまだまだ不安定のまま、今は何をしてしまうかわからない。
そんなことを考えていた一瞬で、ゴーレムは既に始めの動きを終えていた。
だが、人の形をしていた筈なのに、四肢を使って動くゴーレムに面食らった。
何故?
このゴーレム達は、人がモデルではないのか?
こんな…特定の獣人に似た動きをするなんて…
回らない頭で必死に考えるが、答えなど出るはずがない。
しかも、ゴーレムの行動の意味すらわからない。
二体が四つ足でこちらに来て、襲ってくるかと身を固めたが、ただただ寄り添ってきただけだった。
ゴーレム相手に感情論が通じるかはわからないが、敵意らしきものは感じない。
後の二体は扉を開けた三人の方へ、丁度誰も入れないように陣取った。
…まるで、メアリを守ってくれているかのようだ。
「!誰も傷つけちゃダメ!」
言葉に意味があるかはわからないが、前方二体のゴーレムに呼び掛けてみる。
…誰にも傷ついてほしくないのは本当。
…近づいてほしくないのも本当。
どうすればいいのかわからなくなったメアリは、寄り添うゴーレムに抱きつくのであった。
277フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/26(水) 22:46:49.08 0
「こっちです。この先が、一番近い暗がり」
 メモを片手にメアリの足取りを追う一行。扉の先の分帰路から伸びる廊下の壁には、
扉、扉、扉、一つ一つが等間隔で並ぶ個室の群れ。まるで何かに蓋をするかのような
部屋には脇目も振らず、彼らは進んだ。

 やがて一つの扉の前へと至る。遺跡の入り口やこの居住区画などの区切りに使われて
いると思われる物だ。例に漏れず近づけば人を避けるように開く。中は今までとは違い、
フロウ達が来た通路から差し込む以外に明かりはなかった。

「メアリ!」
 フロウはいつもの柔和さを感じさせない声で、光に晒された獣の少女を呼び止める。
振り向いたその目には不安と怯えの色がありありと浮かんで見えた。

 そして、メアリが振り向くのと同時に数体のゴーレムが動き出す!

「な!?」
 
 人型のゴーレムが、四足の獣のようになり、メアリを取り囲む。ほぼ完全な二足歩行
かに見えたソレは、見る間に自らの形を変えてしまったのだ。

「これは、これはいったい……」

 完全に理解が追い付かず、フロウは呆然とする。なぜゴーレムがメアリに跪くのか、
そして、何故メアリもゴーレムに取りすがっているのか。彼女と自分達との違いは何
なのか。彼女は誰に何を言っているのか。いったい、どうすればいいのか。

「と、とにかく。メアリ、ゆっくりと、こっちに来てください……」
 言い聞かせるように、慎重に、フロウはメアリへと声をかけた。周りの鉄の獣の爪は
新品といって差し支えない、時の流れを感じさせないものだった。冷静に現状を見れば
正体不明のゴーレムにメアリは囲まれており、フロウ達もメアリ不在で数体のゴーレム
を前にしている構図である。

 頭の片隅で、今の自分達が到底体勢と呼べるような状態ではないことに、気が付いて
しまう。俄かに進退窮まった状況に、急速に緊張感が高まっていく。
「話は後にします。今は……戻りましょう……メアリ……!」
 そして、焦った様子を隠すこともできず、フロウはただ呼びかけるしかなかった。
278エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/27(木) 21:47:42.13 0
フロウの案内に従い辿り着いた先で、メアリの無事な姿に安堵する間も無く動き出したゴーレム。
だが、やはりというべきか、こちらに迫る無機質なそれにエメラルダは目を輝かせた。
直立の待機体勢から四足歩行への動作移行も滑らかで、数千年のブランクを全く感じさせない動きだ。
研究会で言っていた「システムが生きている」という言葉は誇張ではなかったということか。
問題は何が彼らの命令基準に抵触したか、ということだろう。

>「!誰も傷つけちゃダメ!」

メアリが叫ぶ。
その様をエメラルダは何も言わずじっくりと観察していた。
幸い、ゴーレムはこちらが動かなければ、今すぐ襲ってくる様子ではない。
何がきっかけで変わるかはわからないが、警戒態勢、というところだろうか。
メアリを保護するように動いてはいるが、メアリの命令に従うかはわからない。
だが……。

「……このゴーレムは研究会の把握している攻撃型ゴーレムとは違うようだね。ペディエ氏のスケッチにはなかったタイプだ」

四足歩行型の人型ゴーレム。研究会でみたものは全て何らかの銃火器の武装をしていたが、このタイプは特にそういった装備はみられない。
そこで、エメラルダは抑えきれない、というように声を漏らす。

「いい、いいねぇ!まったく未知のゴーレム!しかもメアリには何らかの条件が合致しているのかな?うまくすればこちらの良いように操作できるかもしれない。」

メアリを護るように位置する二体のゴーレム。
そして、メアリに向かって必死に呼びかけるフロウを見やる。

「まぁ、まずはメアリが落ち着いてこちらに合流してくれなければどうにもならないのだが……。念のための保険はあったほうがいいかな」

そういって、エメラルダは自身の持ち物からとある薬品を取り出した。

【錬金ロール 使用ステータス:(魔力+知識÷2)(70)】
279エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/11/27(木) 21:56:53.86 0
【錬金ロール成功】
取り出したのは足止めのための粘着薬だ。
空気にふれると固まるタイプのそれに、魔力を込め、慎重に投擲カプセルに移し変える。

「まぁ、メアリの説得が成功すれば不要の長物だが……」

無事成功したものを、注意深くいつでも投擲できるようにかまえた。

「ティア氏!フロウ氏!貴重な研究サンプルだ。攻撃は極力避けて、できれば無力化するようにしてくれ!たのむよ!」

語尾にハートマークでも付きそうなゴマすり具合でそうのたまうエメラルダ。
もちろん戦力的余裕などない。だが、研究会でも把握していなかったこのタイプのゴーレムが、これから先にみつかるかも不明なのだ。
できることなら完璧な状態で保持しておきたい。

「さて、どうなることやら」

思案気な言葉とは裏腹に、エメラルダの声は確かに笑みを含んでいた。
280ティア ◆zlaomeJBGM :2014/11/28(金) 21:52:33.16 0
>「ティア氏!フロウ氏!貴重な研究サンプルだ。攻撃は極力避けて、できれば無力化するようにしてくれ!たのむよ!」

「無茶苦茶だ...」

そう思えど依頼内容からしてそういった行動を求められているので彼女の言は至極もっともではある。
この場合、主に彼女自身の知的好奇心から出ている言葉のように聞こえるのではあるが。
とはいえ愚痴を零していても仕方が無い。使い慣れた黒のダガーを手にし、全身に張った力をふっと抜いてやる。


「やるしかない、か。......行くぜ」

そうして目を開けると同時にダガーを構える。
第一目的、対象の無力化。研究者どもには悪いが保存状態は二の次だ。
幸い後ろの二体には襲ってくる気配は無い。無機物相手に気配というのもおかしな話ではあるが。
立ちふさがるこの一体のみ、片付ければ後はどうとでもなるだろう。ひとまず『この場は』。
これ以上は此処で考えても無駄だ。その後に何が待っているかなんて、誰にも解らないのだから。
281GM ◆zlaomeJBGM :2014/11/28(金) 22:08:59.11 0
まさに一触即発。ゴーレムは今にも唸り声を上げそうな迫力で一行に立ちふさがる。
これ以上、少しでも彼らの領域を侵した瞬間にゴーレムは踊りかかってくることだろう。
その内にただ一人、獣人の少女を庇うようにして。鋼の獣が今、牙を剥いた。

【戦闘用データ】
モンスター:FD-305(試作型ゴーレム)
HP:450 防御力:10 魔法抵抗:35
攻撃力:20+X/3 行動成功率:70 素早さ:75
対象:3n…ティア 3n+1…フロウ 3n+2…エメラルダ
282メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/11/29(土) 14:44:33.94 O
「ダメ…ダメだよ!」
ゴーレムに制止の声をかけるが、止まってくれそうにない。
それどころか、寄り添っている二体が戦闘に巻き込まないようにでもしたいのか、よりメアリを守るような体制をとる。
「お願い…離れて!逃げて!」
これが自分が入ってしまったせいなら、逃げてもらいたい。
暗がりの中でゴーレムと戦おうとしている三人は、優勢と言い切れない。
どんな攻撃手段を隠しているのか、その真意はなにか、結局何もわからないのだから。
もしかしたら入り口から出れば追わないかもしれない、そんな淡い期待もしたが、三人が逃げるようすはない。
「あれじゃ怪我しちゃう…そんなの嫌…」
ゴーレムから押さえるようにとどめられ、合流が出来ない。
こんな、馬鹿な理由で単独行動をしたから。ツケが回ってきたのだろうか…
泣きながら、メアリを守ろうとしているのか阻もうとしているかわからぬ、ゴーレムの隙を探すことしか、出来ないのであった。
283フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/11/30(日) 22:45:52.71 0
 焦ったのがいけなかった。身を乗り出そうとしたせいで、かえってゴーレムの一体が
前へと進み出る。完全に戦闘態勢に移行していた。ティア、エメラルダの両名も既に
「切り替え」が済んでいる。

「やむをえないか……」
 差し出そうとした手を引いて、フロウもまた杖と盾とを構え直した。そして、高々と
杖を振り上げて呪文を唱える。

「光在れ!」
 視界の悪かった室内が魔力の明かりに照らし出されて、その全容を明らかにする。
そして、今にも泣きそうな子どもの顔までも。

「…………」
 フロウはメアリを見つめると、一呼吸の間を置いてから杖の石突きで床を打った。

「狼狽えるな!」
 それはメアリだけではない、自分にも向けた言葉だった。未だ緊張の汗は消えないが、
その表情からは怖れも苛立ちも拭い去られていた。張り上げた声により、二つの碧眼に
意思の力が灯る。

「メアリ、あなたはあとでちゃんと叱ってあげます。だから……」
 半歩進み、敢えてゴーレムの挑発するように動きながら、フロウは普段通りの声音で 
静かに言う。

「しっかりしなさい」
 半人前を叱咤すると、今度はゴーレムから目を離さないまま、ティアとエメラルダに
呼びかける。

「お待たせしてすいません。もう大丈夫です」
 側面を向いて盾を相手側に、杖を反対側に隠すように持って魔力の充填を始める。
今は、今をどうすべきかを考えなくてはならない。そして、今すべきことは眼前の猛獣
を無力化するということだ。

(さて、どう出てくるか……)
 一時的に作り出された光は音もなく、ただ彼らを見つめ続けるのだった。
284エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/01(月) 20:56:00.60 0
場に緊迫した空気が流れる。
ゴーレムたちがメアリの静止命令に従う様子はなく、戦闘は避けられないようだ。

(保護対象ではあっても命令権は所持していない、ということか?それとも優先順位の問題か……)

エメラルダはゴーレムの動きに警戒しながらも、そこに仕込まれている思考回路に思いをめぐらせる。
フロウが光源を確保してくれたため、暗闇の中戦うという状況は回避できたが、破壊ではなく捕獲を目的にしているだけこちらが不利ということに変わりはない。
しかも戦力として当てにしていたメンバーの一人は、なぜかあちら側にいってしまっている。
まぁ、だからといって最初から捕獲を諦めるという選択肢などないのだが。
それでも、捕獲は最善であって絶対ではないというのも理解しているつもりだ。
完全な状態で捕獲できるに越したことはないが、まずは1体目は最悪破壊してでもメアリという戦力をこちらに戻すべきだろう。
とりあえず、同型と思われる物はあと2体いるのだから。

「粘着剤はせいぜいあと二回分くらいか……」

フロウがメアリを叱りつけるのを横目に素早く在庫を確認する。
自分は戦闘向きではないし、持ってきた道具も無限にあるわけではないので、戦闘ではどうしても他のメンバーに頼らざるを得ない。
せめて足を引っ張らない程度に、自分の安全確保くらいはできるようにしたいのだが、この状況では隠れるどころか迂闊に動くこともできないだろう。
運動神経というものが死滅しているエメラルダには全く嬉しくない状況だ。

>「お待たせしてすいません。もう大丈夫です」

「ふふふ。では、ゴーレム拿捕&お姫様奪還作戦開始だね」

だが、それでもエメラルダのモチベーションはこれまでにないほど高まっている。

(はやく!じっくりくわしくあのゴーレムを調べつくしたい!…だが確実に確保するには、相手の出方を窺い、隙を狙う必要がある)

はやる気持ちを抑え、初撃を避けることに全神経を集中させながら、場が動くのを今か今かと待ちわびるのだった。
285GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/01(月) 23:42:04.25 0
【戦闘しましたロール開始】
【以降ロール順:メアリ(80)→ゴーレム(75)→ティア(71)→フロウ(40)→エメラルダ(30)】
286メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/01(月) 23:59:14.68 O
フロウの声が聞こえた。
叱りながらも、どこか優しい声が。
そうだ、メアリはとんでもない勘違いをしていた。
「守るのは…こうじゃない!」
叫びながら目の前のゴーレムを突き飛ばす。
「…心を助けれないなら、守れない!」
時に優しく、時に厳しく、メアリと接してきてくれたフロウ。
何度その言葉に救われたろうか、何故今までそれを忘れていたのだろうか…
もう怯えている場合ではない、助けるのだ。
破壊してしまおうが、みんな無事ならそれでいい。
…エメラルダは、まだなんとも言えないが…
とにかく合流し、驚異を打ち払わなくては。
守る、守ってくれた人を!
…その後のお叱りは、ちょっぴり怖いけれど。
287ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/03(水) 03:32:17.67 0
メアリを囲っていたゴーレムは彼女に否定され、しかし尚も彼女を呼び戻そうとする。
最も、その場から動くことも軋む金属音以外の音を出すこともしなかったが。
その異変に気づいた前衛のゴーレムは、後ろを振り向きメアリに戻れと言わんばかりに頭を振る。

「先手は貰う......!!」

その挙動をティアは隙とみなし、完全とゴーレムへ駆け出した。
ただ過剰な破壊行動はこの地点では時期尚早だ。弱点も見えなければ依頼の件もあるのだから。
よって順手に持ったダガーの柄を、ゴーレムの前足へ叩きつけるようにして振りかぶる。
死角を掻い潜った一撃は、その装甲を穿つだろうか。

【命中判定 使用ステータス:幸運(51)】
【補正『牽制攻撃』:威力と引き換えに確実性を向上。命中+20/威力-20】
【命中後の威力ロール 使用ステータス:腕力(37)】
【攻撃成功時に『威力-対象の防御力』点のダメージを与える】
288ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/03(水) 03:45:28.25 0
ティアの一撃は甲高い音と共に軽くあしらうように弾かれる。
ゴーレムが微動だにしていないと言うのにこれだ。様子見の一撃とはいえ相手の装甲もさるもので有るのだろう。

「こりゃあ手こずるかもな...」

一撃を見舞ったあとに素早く撤退し距離をおく。そうして改めてダガーを構え直した。
戦闘において陽動役を務めるのも斥候の仕事だ。なのでフロウとエメラルダのいる座標からは遠ざかっている。
口に出した弱音を飲み込むようにして、何時でも飛び出せる姿勢でゴーレムの次の出方を伺う。
明るみとなった倉庫内で、今闘争の火蓋が切って落とされたのだから。

【命中判定:成功。威力ロール=17】
【威力(17)-防御力(10)=7点のダメージ】
【敵HP:443/450】
289フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/04(木) 22:50:31.02 0
(なんだ、こいつらはゴーレムじゃないのか!?)
 奥のメアリが離脱を試みようとした際の機獣達の反応はひどく生物的で、しかも彼女
を心配するかのような素振りを見せている。

 その隙を突いてティアが攻撃するものの、予想通り結果は雀の涙程であった。まとも
な勝負にはなりそうもない。動きを止めて袋叩きにして、メアリと合流した後すぐさま
撤退する。フロウには、これが一見最善のように思えた。だが

(何かがおかしい。入口の動物型のゴーレムといい、これといい、とても侵入者を撃退
するような段取りを組んでいるようには見えない。おかしい!)

 『戦いの最中に余計なことを考えてはいけない』というのが一般論であるが、後衛と
は常に思考を途切れさせないことこそが仕事である。
 
(ゴーレムが獣の意思を持っているのか……それとも、獣の体がゴーレムなのか……?)

 そんなことが果たしてあり得るのか。何かの故障ではないのか。悠長ではあったが、
この状況を整理しなくてはいけない、落ち着きを取り戻したフロウはこの違和感を放置
するほうが危険だと判断した。

(落ち着け、これまでと、今の状況を思い起こしてみるんだ)

 一つ、メアリは一人でこの部屋に入ったはず。しかしゴーレムには襲われていない
 二つ、自分達がこの部屋に入った瞬間、ゴーレム達は動き始めた。
 三つ、ゴーレムは常にフロウ達を敵視しているが、近づくまで襲ってこなかった。
 四つ、彼らを突き放したメアリを未だに敵とみなしていない。

そしてフロウ達の目的は、メアリと合流し調査を続行すること。どうして合流しよう
としたのか、メアリと、ひいては自分達の安全を確保するためだ。つまり、この内容を
踏まえることさえできればいい。

(試してみるか……)

 フロウはその前にこちらへ来ようとするメアリへと声をかける。
「メアリ!ゴーレムはあなたの命令を聞かない!ですがあなたを守ろうとしている!
奥へ進むんです!もしかすると、この遺跡内ではそのほうが安全かも知れない!」
290フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/04(木) 22:51:05.71 0
 はっきりいってゴーレム数体はメアリを加えてもこちらよりも強い。こちらが撤退
して彼女の護衛に専念してくれるならそのほうが良い。そして、これで確かめられる事
が一つある。それはゴーレムが

『メアリを守るために自分達と戦っているのか』
『侵入者の排除よりも罠にかかった獲物を優先しているのか』

 ということである。現状で目の前の鉄騎を破壊すればいよいよ奥の物とも戦わないと
いけない。パーティの生存を考えれば、戦い続けるのは下策だ。後者の場合は最悪だが、
それでも見極めないといけない一線であった。

「私達は戦いながら距離を取りましょう。これで被害を抑えられるかも知れません」

 端的に言ってメアリを見捨てる行為だが、元より必要な場面も想定して来ているのだ。
ならばせめて目の届く範囲でそれを行い見届けなければならない。フロウは呪文を唱え
始めた。攻撃魔法は安全のために簡易登録を済ませていない。

「風よ、砕かれた月の欠片、影を持たぬ自在なる王者よ!我が命に応じて地の唸り、星
の息吹を轟かせ給え!」

 ティアが攻撃し、一度離れたのを見計らって杖をかざす。

「竜骨の白羽!」
 呪文の完成と同時に、敵の足元に突如として砂埃が巻き上がると、それは獲物を包み
込み、やがて回転を始め渦となった。中心にいる対象は四方八方から吹き付ける微細な
砂埃によって全身を削られていくだろう。

【判定:魔力:レスのコンマ以下40以上の場合抵抗されダメージは半分となる。
 この場合ダメージはフロウの魔力を基準とする】
291フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/04(木) 22:54:25.67 0
「正直厳しいですね」

【抵抗によりダメージ半減:20点のダメージ】
【敵HP:423/450】
292エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/05(金) 21:25:13.51 0
ティアとフロウの攻撃を軽々と弾いたゴーレムを見て、思わず感嘆まじりの溜息がもれる。

「想像以上だ」

ゴーレムの形状からして防御に特化したタイプではないと思う。むしろ見た目は素早さか攻撃に特化したタイプのそれである。それなのにあの防御性能。
フロウの魔法でもあまりダメージを受けた様子はないとすると、魔力抵抗もそれなりにあるのだろう。まさに驚異的だ。

獣型タイプは総じて身のこなしが素早い。
正直、攻撃してこられたら、避ける自信はエメラルダにはなかった。

「今の内、かな」

メアリの行動に気を取られ、攻撃してきたティアとフロウを警戒している今なら。
エメラルダは投擲カプセルを手に、腕を大きく振りかぶった。

【命中判定 使用ステータス:素早+幸運/4(47)】
【不意打ち補正:+5 ゴーレムは他のメンバーに気を取られ、こちらを意識していない】
293エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/05(金) 21:42:12.84 0
【命中判定 成功】

投げたカプセルは放物線を描いてゴーレムに直撃した。
ぶつかった衝撃でカプセルが割れ、入れ物の大きさの割には大量の薬剤がゴーレムの身体を伝う。
すぐにこちらに向き直ろうとしたゴーレムだが、そこで異変が起きた。

「!?」

空気にふれ、数秒たった薬剤がまるで石のように固まったのだ。
足元にまで垂れた薬剤は、ゴーレムの足を地面へと縫い付ることに成功した。

「今だ!足の関節部なら攻撃も通りやすいし、行動不能にできる!……と思うよ!」

エメラルダは、後はまかせたとばかりにそう叫んだ。
294メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/06(土) 07:45:23.13 O
>「メアリ!ゴーレムはあなたの命令を聞かない!ですがあなたを守ろうとしている!
>奥へ進むんです!もしかすると、この遺跡内ではそのほうが安全かも知れない!」

「え」
ぴたりと足が止まる、つまりは、自分が三人から離れて行けということ。
でも、ゴーレムは寂しさを埋めてはくれない。
どんなに獣に近い動きや、メアリを心配しているように行動していても、作り物。
それでも…それが一番フロウ達にとって安全な結果になるならば。守ることに繋がるなら。
「わかっ…た…」
駆け寄ろうとしていた足を反転、奥を目差し駆け出す。
でも、どうしても心が痛い。
また、戦わせてもらえない。里の時と同じ、メアリだけ一人安全な状態。
走り出したメアリに、二体のゴーレムがついてくる。
攻撃してくる様子はないので、やはり護衛のようなものなのだろう。
それが、さらに心の傷を抉る。
…自分のせいで皆を危険な目に遭わせているのに…
胸が苦しい、いきがつらい。
「またひとりでいきのびるのはいや…」
先のわからぬ奥地へ、1人走るメアリ。
とにかく真っ直ぐ、道なりに進む。ついてくるゴーレムを確認しながら、皆がいた場所から離れて行く。
これが正しかったかは、神のみぞ知る…
295ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/06(土) 22:00:16.33 0
メアリが奥地へと駆け出すと、追随して二体のゴーレムも退いてゆく。
一方、戦闘中のゴーレムが片側の前脚をエメラルダのカプセルにより縫い付けられていた。
もう片方の前足をそこへ打ち付けて拘束を解こうとしている、その時をティアは好機ととった。

>「今だ!足の関節部なら攻撃も通りやすいし、行動不能にできる!……と思うよ!」

「......行くぞッ!!」

忙しなく動く前足の関節部からは複数のパイプやコードが覗いていた。
装甲で覆われた部位よりも外部からの攻撃に耐性がないのは一目見て分かるだろう。
だが製作したものも心得ているのだろう。その隙間は相応に狭く、狙って当てるのも一苦労だろう。
しかしそれでも、この場で戦力を削れる可能性があるなら。分の悪い賭けでも無し、ティアは関節に狙いを定める。

後に二体、コイツだけでもあと三本。脚の一つくらいの損壊は依頼者にとってもどうってこと無いだろう。
そんな打算的で余計な思考も混じりながら、ゴーレムが手間取っているうちに素早く駆け寄る。
順手に持ったダガーによる突きは、標的へと届くだろうか――

【命中判定 使用ステータス:幸運(52)+素早さ(71)/2=判定値 61】
【特殊行動『部位破壊』:01〜10のとき自動的に破壊に成功】
296ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/06(土) 22:11:13.12 0
装甲に割り込まれて威力を殺されながら、刃はなんとか関節部には届いたようだ。
しかし狙いが逸れたか入りが甘かったか、機能不全にまで至らせることはできなかった様だ。
手早くダガーを引き抜きステップで後退し、ティアは再びダガーを構える。

「さあ、どう出る......?」

【命中判定:成功。威力ロール 37】
【威力(37)-防御(10)=27のダメージ】
【敵HP:396/450】
297GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/06(土) 22:29:54.63 0
隔壁はメアリの進路を妨げることなく次々に開く。
変わり映えのしない廊下を進んでいくと、再度薄暗い空間に辿り着くだろう。
否、そこには先ほどには無い光源があった。淡い緑に発光する液体で満たされたシリンダー。
内部まで機械とコードに覆われた筒の中で、眠る者達が居た。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

退いたメアリを見届けたゴーレムは、依然として威嚇を続けていた。
しかし、心なしかその荒々しさが少し鎮まったかのような印象を受けるだろう。
触れるだけで斬られそうな鋭利な雰囲気はなりを潜めた、ただ威圧するだけの動作。
まるでメアリの安全を確かめ手を緩めたかのように、そう映るだろう。
298フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/08(月) 23:02:37.46 0
(行ったか……)
 メアリが去りゴーレムたちもまた彼女を追っていった。これで戦闘に専念できると
フロウは内心で胸をなで下ろした。メアリは戦力にはなるが、なるべくなら戦わせない
ほうがいいというのが彼の見解である。

(力があることと戦えることは完全に別物だ)
 過剰な不安感を拭えず、集中を欠く。意識的に思考を停止させている節があるものの
それも頭の中から不安や恐怖を追い出すため、不都合なことを締め出すために考えない
ようにしているといったものだ。猫のようだが気ままとは程遠いのが、これまでの付き
合いから出たフロウの彼女の評であった。

(あの子に戦いは早すぎる)
 メアリの姿が通路の奥に消えたこと確認すると、改めて残った一体へと向き直る。
先程よりも気勢が落ちている。外的の排除を最優先に切り替えたのならば、この反応は
有り得ない。つまり、元よりゴーレムの中ではメアリの存在が一番上にあって、フロウ
たち侵入者の存在はかなり軽く低いところにあるらしい。

「あとはコレをどうにかするだけか」
 ティアの攻撃で更に傷を負ったゴーレムは腕力でもってエメラルダの接着剤を剥が
そうとしている。

「白の光よ、死の代行者、始まりの色よ!我が身に流れる赤を贄とし、彼の者の手足を
繋ぎ止めん!」

 フロウは呪文を唱えて杖をかざす!
「フリーズ!」

 固定されているのとは反対側の腕(前足)に対して氷結の魔法を唱えた。

【直前の味方と同じ部位を攻撃】 判定が魔力以下の場合 部位破壊

【フリーズの効果】 判定が魔力以上の場合一時的に部位が凍結、使用不能に

※凍結 バッドステータス 熱か物理的に強い衝撃を加えることで解除可能。
 解除していない間は命中部位使用不能
299フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/08(月) 23:06:48.33 0
「なんて頑丈な、けどこれで両足は使えなくなったはず……!」

 接着剤が封じているのとは逆側の足が氷の塊に閉じ込められてゴーレムの動きを
更に阻害する。

【抵抗によりダメージ半減:20点のダメージ】
【敵HP:376/450】
300エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/10(水) 19:57:38.79 0
前足を左右両方封じられたゴーレム。機動力は封じられた。
さらに、メアリを逃したことによってか、その警戒姿勢に当初の勢いがない。
だが、依然として敵対状態であることには変わりないのだから油断はできない状況だ。
エメラルダの粘着剤により封じたの方の足も固着部分に皹が入っていて、たぶん遠からず破られるだろう。
捕獲のチャンスは今しかない。
幸い、フロウの使った氷結魔法に便乗してある方法を思いついた。成功率は低いだろうがやる価値はある。

「攻撃はちょっと待ってくれないか。試したいことがあるんだ」

手早くポーチからいくつかの素材を取り出し、まとめて容器に入れて魔力を集中させる。

【錬金ロール 使用ステータス:(魔力+知識÷2)(70)】
【補正:-20 上級錬金。設備も整っていない屋外での錬金は難しいだろう】
【スキル発動:『錬金術の心得』錬金術に関する判定に+5の補正がつく】
301エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/10(水) 20:07:26.00 0
【錬金ロール失敗】

錬金光が収まった後、容器の中をのぞくと少しくすんだ青白い粉末ができあがっていた。
失敗だ。だが、ランクはさがっているものの使えなくはない。

「金属というものは低温になるともろくなる。ならば、連続して一箇所に負荷がかかったこの状態で急激に温度が下がれば……」

慎重に様子をうかがいながらゴーレムに近づいていく。
牙が届かないギリギリまでくると、エメラルダは持っていた容器から粉のようなものを威嚇するゴーレムに振りかけた。

【妖精の粉雪 効果:振りかけた対象の温度を奪う粉末。即効性】

【敵移動不能のため命中判定なし(自動成功)】
【成功判定 使用ステータス:幸運(70)】
【マイナス補正 敵防御力+魔法抵抗(-45)】
【失敗時:敵防御力-5・電気弱体化 成功時:敵防御無効・電気属性ダメージ倍加】
【コンマ5以下でクリティカル:左記に上乗せして部位破壊】
302メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/11(木) 09:08:44.62 O
三人から離れて、戦いから離れて、メアリの思考はどんどん黒くなっていった。
馬鹿な自分、邪魔な自分、弱い自分、危険な自分、守られるだけの自分…
一つ考えるごとに、走っていたスピードは落ちて行き、最後には歩くだけになっていた。
「…あたしは、なんの為に生きてるのかな…」
迷惑ばかりかけて、今も涙が溢れている。こんな自分に、価値が見いだせなくなってきた。
今までは生きるだけで精一杯だった。人に怯えながらも、頑張ろうとしていた。
…けれど、理由がわからなくなった。
ただただ必死で、考えずに来た。自分のこれからというもの。
ぼんやりと、扉を抜けて行くメアリ。
たが、その先の光景は彼女にとって最悪の物となる。

淡い緑に発光する液体で満たされたシリンダー。
内部まで機械とコードに覆われた筒の中で、眠る者達が居た。

見覚えのある、生き物が。
「いやぁっっーー!!」
どこまでも届きそうな悲鳴が、こだました。
…限界を越えてしまった、叫びを
303エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/11(木) 12:45:08.66 0
≫301から

【ファンブル!】

容器から粉を振りかけようと手を伸ばす。
その瞬間、ゴーレムが牙を剥き、頭を振りかぶった。

「な!?」

気を付けていても、心のどこかに油断があったのだろう。近づきすぎて攻撃圏内に入ってしまったらしい。
容器を持つ手に牙が掠った。

「痛っ!」

衝撃で手から容器が落ちて割れる。床に粉末が広がり、慌ててその場から離れた。
ゴーレムをみると、粉をかける前と変わらず立ってこちらをみていた。
どうやら足止め効果は継続中らしく、続けて攻撃を仕掛けてくる様子はない。

「……低温時どのような反応をするのか見ておきたかったのだが。もう一度つくるには素材が足りないな……残念だ」

攻撃された手をおさえながら、ややしょんぼりした様子でエメラルダが言う。

「まぁ、ほかにも試したいことは山ほどあるからいいか」

傷を負ったというのに、まったく懲りていなかった。

【レジストされたため弱体効果なし】
【敵の攻撃によりHP-10 エメラルダHP:100/110】
304GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/12(金) 21:13:11.54 0
両の前脚を拘束されたゴーレムは、観念したかのように一瞬動きを止める。
そして次の瞬間には奇妙な重低音がその脚から響くことだろう。
表面装甲をパージし内部で爆発を起こすことによる拡散攻撃。自らの腕を消し飛ばして放つ散弾。
同時に肩口から腕が消失することで拘束からの開放を試みたのだ。
薄く立ち込める煙の中、二足歩行のゴーレムが颯爽と奥へと消えていくのが視認できるだろう。
もう、三人に用はないと。そう言っているかのように。

【自爆攻撃:HP100を消費。残HP 276/450】
【爆破パージ:全体に『コンマ以下』点のダメージ】
305ティア ◆zlaomeJBGM :2014/12/12(金) 21:17:23.22 0
突如響いた低音に顔を顰める。と、次の瞬間には爆音と共に飛び交う金属片。
それを認識してから注意を仲間に促す余裕はティアには無かった。
気を抜かず構えていたために回避行動に移るまでの隙は潰せた。軌道を読み身を翻す。
金属片の凶刃は、容赦なく三人に襲い掛かっていた。

【回避判定 使用ステータス:素早さ(71)】
306ティア ◆zlaomeJBGM :2014/12/12(金) 21:41:19.22 0
【回避判定 成功】
危険度の高い巨大な金属片を見切り、素早い身のこなしで避けていく。
幸いにして脅威になる金属片の飛来も少なかったため、用意にかわしきることができた。
体勢を立て直して顔を上げると、奥地へと消えていくゴーレムを煙越しに見ることがかなった。
一歩足を踏み出しかけたが、ここで追い立てて刺激するべきではないだろう。服の汚れを払って周囲を見渡す。

「......さて、どうするかな...」

一転、荒れた倉庫の中で、声だけが空しく響いた。
307フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/14(日) 23:25:07.10 0
 両前脚を封じられたゴーレムが動きを止めた。人間と違って態度は分かりにくいが、
それでも抵抗をやめたというような『しおらしい』ものではないことはフロウにも分る。

 その証拠に異様な音が相手の内側から段々と大きくなり、しかも装甲が勝手に剥がれ
落ちてからは一層それがやかましくなっていく。拘束を解こうというのか、この鉄獣の
力と耐久性ならば、悲しいかな攻撃力に乏しい彼らに破壊される前に可能だろう。

 だが実際は違った。いや、違ってはいないが予想外だったのだ。何とゴーレムは自分
の腕のみという局所的な自爆でもって戒めを解き、しかも反撃までして来たのだ。

「まだ何か……何をするつもりっぐっ!」

 凍結を継続しようと再度フリーズを使おうとしたフロウにも、腕だった金破片が襲い
かかる。

「うああ!」

 【回避判定放棄:咄嗟に鉄の盾で防御】
 【鉄の盾の防護点:5 防御姿勢によりダメージを10点軽減】
308フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/14(日) 23:31:05.28 0
「ぐう、ふ、二人とも、ご無事ですか!」
 年季の入った防御により爆風と飛来物を防ぎきる。見ればティアは無事である
ことは確認できた、次にエメラルダのほうを確かめようとして

 彼の尖った耳に、メアリの悲鳴が届いた。

「!!」
 ゴーレムが人型になって走り去った方角、つまり、通路の奥を見る。そして未だ効果
の持続していたピーピングの映像を覗き込む。尋常ではない。怯えれば戦うはずの彼女
が、なすすべもなく、戦意さえない状態で竦んでいるのだ。

「メアリ!」
 フロウはその小さい身体よりも大きな装備と、たった今受けた衝撃をものともせず、弾かれたように駆けだした。どこからそれほどの力が出るのか全力で声のしたほうへと
ひた走る。

(何かがいた!この遺跡には明らかに彼女のトラウマを刺激する何かが!獣のゴーレム、
遺跡の場所、年代が合わないゾンビ!そのどれか、或いは、この上まだ新しい厄介事が
潜んでいるのか……!)

「クソッ!」

 走りながら小さく吐き捨てる。よりもよってこんな偶然があるのか、さっきから嫌な汗がひかない。ピンポイントでメアリを、正確には獣人だろうが、を狙い撃ちにした洋なこの状況にフロウは焦りと怒りを覚えずにはいられなかった。

(見つけ次第、無理にでも引き上げる!これ以上は無理だ!)

 内心でそう決めて、フロウは先を急いだ。どこまでも無機質で同じ構造の通路は、
人というものをないがしろにするためにあるかのようだった。

【フロウ:ガードに成功:HP減少無し:100/100】
309エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/15(月) 12:34:18.66 0
とりあえず、このゴーレムをどうやって捕獲しようか考えていたエメラルダは、ゴーレムから響く重低音に反応し、即座に思考を切り替えた。

(なんだ?一体何を……)

訝しみながらもゴーレムの挙動を観察してみると、拘束されている前足の装甲にひびが入り、とんでもない熱量が集まっていくのに気づく。

「っ!!」

そして、気付いた瞬間一目散に後ろを向いて駆け出した。
声を出す余裕はない。
薬を直接振り掛けようと至近距離まで近寄っていたため、エメラルダとゴーレムの距離はそれなりに近かった。
しかも、元々運動神経が死滅しているエメラルダだ。走る速さも遅い。

(ま、まずい!!あの装甲が自壊するほどのエネルギーが一か所に集まってるなんて、これはもう嫌な予感しかしない!)

なるべく距離を取ろうと、エメラルダは自分的最高速度で走るのだった。

【回避判定 使用ステータス:素早さ(30)】
310エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/15(月) 19:27:30.44 0
【回避判定 失敗】

エメラルダの足掻きをあざ笑うかのようにゴーレムの前足が爆発し、装甲の破片が周囲に散弾のように飛び散った。
そのうちの一つがエメラルダの左肩に直撃する。

「ぐっ!」

その衝撃に足をもつれさせ、エメラルダは地面に倒れこんだ。
視界の端でゴーレムが二足歩行に移行し立ち去るのが確認できたが、今はそれをどうこうする余裕はない。
幸い、地面に伏せた格好になったためそれ以上の被弾は避けられたが、刺さった破片は深く傷口にくい込んでいる。

>「ぐう、ふ、二人とも、ご無事ですか!」

「ざ、残念ながら無事とは言い難い…かな…」

爆風が収まるのを見計らい、ゆっくりと体を起こした。そのとき。

>「いやぁっっーー!!」

メアリの向かった通路の先から、魂を引きちぎられるかのような悲鳴が響いた。

>「メアリ!」

その声に反応したフロウが手元を確認し、すぐさま転がるように駆け出す。

「フロウ氏!」

エメラルダが静止の声をかけるも効果はなく、その背中はあっという間に見えなくなった。
追いかけようにも自分は怪我をしていてすぐには動けそうもないし、そんなことをするつもりもない。
仕方なく、自身の治療を優先することにして、ポーチの中から適当な布と下級ポーションを取り出し、破片を抜こうと肩に手を伸ばす。
……が、背中側の微妙なところにささっているため手が届かなかった。

「……ティア氏。悪いが治療を手伝ってくれないか?あと、この飛び散ったゴーレムの破片もいくつか回収しておこう。
二人のことは心配だが、依頼も遂行しておかなければね」

【爆破パージ:-54ダメージ 下級ポーション使用:+11回復 エメラルダHP:57/110】
311メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/15(月) 20:39:53.79 O
目をきつく閉じ、耳を手で潰れそうなほどに塞ぐ。
もう、見たくも聞きたくもなかった。
怖い、これ以上知ってしまうのが。
怖い、近くにいるゴーレムの意味が。
怖い、自身を否定するこの場所が。
それでも立ち上がれない、手を離すこともできない、泣きわめいてゴーレムを遠ざけることしかできていない…
見ぬまま這いずり、部屋のすみにうずくまって、おかしくなってきた呼吸をどうにか整えようとする。
ひゅうひゅう、と吸い込む息が苦しくてしかたがない。
「…フロ、ウ……ティ…ア……助け、て…」
そして、息の吐き方を忘れた。
最後にやっと助けを求めるだなんて、怒られてしまうだろうか。
どれだけ息を吸っても苦しい、そんなメアリをゴーレムは困ったように見るだけだった。
ゴーレムに、呼吸は必要ないのだから…
312ティア ◆zlaomeJBGM :2014/12/17(水) 01:01:45.36 0
>「ぐう、ふ、二人とも、ご無事ですか!」

「なんとかな! ...っておい、馬鹿ッ!」

フロウの言葉に返した後、メアリの悲鳴が響く。
それを聞いた瞬間弾かれるように走り出したフロウに、ティアは舌打ちした。
脅威が去った、直後だからこそ気を抜いていてはいけないというのに。
だがフロウには遠視の魔法がある。恐らく状況を鑑みての行動なのだろうと、ティアは思うことにした。

それに、彼の気持ちが分からないわけでは無い。
現にティアも悲鳴を聞いた瞬間、一歩を先に向けて踏み出しかけていた。
彼らなら大丈夫。そう自分に言い聞かせて負傷したエメラルダに向き直る。
肩口を深く刺した傷。それがこれ以上は危険だと物語っているかのように見えた。

>「……ティア氏。悪いが治療を手伝ってくれないか?あと、この飛び散ったゴーレムの破片もいくつか回収しておこう。
二人のことは心配だが、依頼も遂行しておかなければね」

「...分かった。ほら貸せ」

エメラルダの手から布切れをぶっきらぼうに受け取り、ダガーをローブの下の服に当てる。
そのまま肩から腕までの布を切り取り、刺さった破片を慎重に引き抜いた。
受け取った布をたたんで傷に当て、切り取った服で肩を縛る。少しすれば止血はできるはずだ。

「こんなもんだろう。回収は俺がやるからアンタはじっとしてな。
 それにアンタもこれ以上の無茶は無理だろう。二人が帰ってきたら退くぞ?」

そういってエメラルダに背を向け、飛び散った欠片の回収を始める。
軽度の先行調査としてなら許容範囲の仕事だろう。ここで帰っても文句は言わせない。
拾い上げた欠片を麻袋へと放りながら、ティアは二人の帰還を待つ。
313GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/17(水) 01:08:56.71 0
シリンダーの並ぶ空間、その隅で蹲ったメアリ。
そんな彼女を一体のゴーレムが背中から優しく抱いた。
そこにあったのは母性であり、慈愛だった。冷たい金属の体でも、そこには温もりがあった。

メアリを抱きかかえるようにして部屋の中央へ横たえる。
同時に地面に薄く光る陣が展開され、シリンダーとは異なる色で部屋を照らした。
もう大丈夫、とでもいうようにゴーレムはメアリの頭をなで、少し彼女から距離をとる。
徐々に光に満ちる部屋。フロウが見たのはそんな光景だった。
314フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/18(木) 22:47:39.05 0
「そこまでだ……!」
 室内の物が淡い光によって照らし出される室内にフロウの声が響く。息を切らせては
いるものの怯えや不安はどこにもない。今まさに駆け付けた彼は、室内の状況に不快感
を露わにした。

「ここがどういった場所で、お前達が彼女にとっての何者であるのか、見当はついた。
だけどそれを確かめる気はないし、今やろうとしていることを最後まで見届けるつもり
もない。メアリは帰してもらう」

 先程の態度を見れば、明らかに生物としての情緒を持っていることは明らかだ。それもメアリに仲間意識を持っていることを踏まえれば、どう転んでも良い答が待っている
とはフロウには思えなかった。

(まずはあの子をなんとかしなければ)

目の前には完全な状態のゴーレムと先ほど損傷せしめた計3体のゴーレム、まともに
戦っても勝ち目はない。

(この部屋の模様、最初の広間と同じものだ。今は何かの仕掛けが作動している……)

 警戒する3体を前にしてフロウはその奥に横たわる少女を一瞥した。気を失っている
ことは、呼吸をしている様子で確認することができた。それだけは不幸中の幸いだった

「羽ばたきの星々よ!力強き光よ!汝等の生み出せし風、今こそ神馬の蹄、天馬の翼と
化してかの者に与えん!飛べ!」

 杖を高々と振りかざす。フロウの周囲に突然大風が吹き荒れる。それは止むことなく、
やがて勢いを増してメアリを巻き込んでいく。

「バードの大海原!」

呪文を唱え追わると風が止み、メアリの体には魔力の翼が生えていた。小さな体躯が
空中へと浮かび上がる。徐々に高度を上げて、天井付近で制止した。

(ひとまずはこれでいい。あとは)
 彼は正面の”敵”を睨めつけて、再び身構えた。
315フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/18(木) 22:48:59.99 0
【バードの大海原】

【効果:対象を飛行状態にする。フロウの大きい杖にはこれの魔法がかかっている。
 箒のようにまたがって空を飛ぶことができる。本来は術をかけられる方の抵抗と勝負
になる。本人の思う通りに動けるので慣れないと全然上手く飛べない】
316エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/20(土) 02:31:42.52 0
ティアの申し出にありがたく従い、エメラルダは床に座って休んでいた。
右腕だけ動かして、倒れた衝撃でダメになった持ち物はないか確認する。

(うん、多少ぐしゃついてるけど、使えなくなったものとか割れてるものはないみたいだ。まぁ元々このポーチ、耐衝撃防水防塵防熱防寒の高級品だから、あの程度の衝撃でどうにかなったりはしないか。
それより、なにかこの部屋に他に目新しいものはないのかな?)

確認を終えて、エメラルダは辺りの様子を観察しだした。

【探索ロール 使用ステータス:幸運(70)】
【成功すれば持ち物に「繋留用の鎖」追加】
317エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/20(土) 02:36:19.41 0
【探索ロール 成功】

よくよく周りを観察してみると、床と壁にいくつかの鎖が垂れていることに気付いた。
座ったままにじり寄り、手にとって確認する。
しっかりとした作りの太い鎖は、もしかするとあのゴーレムたちを格納するための固定用
だろうか?
この部屋には、空け方のわからない貨物のような箱がいくつも詰まれ、同じような鎖をかけた状態で置かれていた。
つまり、この部屋はなんらかの保管庫なのだろう。それ用に用意してあったものならば、強度にも期待できる。
エメラルダはいそいそと、壁にまとめて掛けてあった予備のものらしき鎖を拝借する。

「せめてあの箱が開けられればなぁ。もうちょっと何かわかるかもしれないんだが」

正直、この遺跡に入ってわかったことはほとんどない。
エメラルダの知りたかった未知の錬金術のことはもちろん、この遺跡がいつ、何の為に、どうやって造られたのかも謎のままだ。
わかったことといえば、研究会の資料にあった以外にも獣人型のゴーレムがいることと、現在もなんらかの規律に従って機能しているということくらいだろうか。

(ああ、あと入り口であった不可解なゾンビの件もだな)

本当にわからないことだらけだ。
こんな怪我まで負って、手に入れたものがそれだけ。

……そんなことで満足できるわけがない。

せめて、なにか一つでも疑問の答えを得なければ到底引き下がれないに決まっているではないか。

「ん、血は止まったかな」

腕を動かして血の滲む感覚がしないことを確かめる。
怪我をどうにかする程度の時間と安全がほしかっただけで、最初からこれで終わりにするつもりはエメラルダにはなかった。
ただ、最初からそう言ったのでは反対されるかもしれないので、さも納得したかのように黙っていたのだ。

エメラルダは経験上わかっていた。無茶を通すにはタイミングと勢いが大事だ、と。

冷静に振舞っているが、本当はティアも二人の後を追いたいに違いない。
敵への警戒と、エメラルダという怪我をしたお荷物のせいで待機を選んだに過ぎないのだろう。
ならば、どちらか一方でも解決すれば天秤は揺れる。
エメラルダは、ティアがあらかた破片を回収し終わっているのを確認し立ち上がった。

「よし!ティア氏、私はもう動けるよ。さっそく二人の後を追おうじゃないか!
何、下級とはいえ私が作ったポーションの回復力はバツグンだからね。多少派手に動いたところで何の問題もないよ!
さすがに前にでることは危険だと学んだから、もうしないけど」

大丈夫アピールに両腕を振り回しながら、ティアに迫る。
その手からすばやく回収した破片入りの袋を奪い、先ほどの道具整理のときに取り出し展開しておいた浮遊籠に入れた。
この浮遊籠は自動で持ち主を追尾して、荷物がこぼれないように重力制御機能まで付いている優れものだ。
自身と籠の間隔も調整可能で、今は最短距離に設定してあるためエメラルダの後ろにピッタリとくっついている。
多少、消費魔力が多いのが難点だが、今から起動させっぱなしにしても半日程度は持つだろう。

「あのゴーr…二人が心配だし、ここで待機しているより迎えに行ったほうが絶対良い!
別のルートで出口があるかもしれないし、行き違いになったら大変だ!すぐいこう!今行こう!さぁ行こう!」

ティアがいなければ、直接戦闘能力のないエメラルダは先へ進めない。
まだまだ奥へいきたいエメラルダは駄々っ子のようにティアを促すのだった。
318メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/20(土) 09:41:39.28 O
ふわり、ふわりと浮かぶ体。
その感覚は揺りかごのようで、目覚めを妨げるかのようだった。
けれど、眠っているわけにはいかない。
全てに、己に終わりを告げなくてはいけないのだから。

過呼吸も収まり、意識の戻ったメアリはゆっくりと目を開いた。
もちろん、フロウが来てくれたことは声でわかっている。
だが…もう、いいのだ。
止めなくては、と足を踏み出そうとして…自分が浮いているのを思い出したーーー

【飛行ロール、運動神経として素早さ1/2で判定、40】
319メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/20(土) 10:09:19.55 O
【飛行ロール成功】

ふわり、とフロウとゴーレムの間へ降り立ち、彼を庇うように両手を広げる。
「…フロウ、逃げて」
さっきまでの怯えも、恐怖も感じない声。まるでいつものメアリのようだった。
しかし背を向けていてもそうではないとわかる。
体は震え、涙も流れているのだろう、水滴が確認できるのだ。
「…多分、あたしたち…人間が作った生き物だったんだよね?」
部屋にあった筒、それからゴーレムの動き方、その二つから考えられるのは…メアリには一つだった。
最近出来たゾンビ、それはもしかして最後までここにいることになった研究員なのではないか?
この施設のゴーレムが獣ばかりなのは、獣について調べる場所だったからではないのか?
そう考えたとき、メアリが出した結論は悲しい物だった。
「きっと里も、あたしたちも、作り物だったんだよ。だから皆外の世界へ出ないようになってて、観察されてた…のかな」
そう考えれば、里のものが一定の範囲から外へ行かない事の理由もわかる。
今の世の中に獣人そのものは沢山いる、それでもメアリ達のような性質を持った者は聞いたことがない。
「…あたしも、ゴーレム…ううん、皆ももう眠るべきなんだよ。だって、こんな怪力ある獣人危ないだけだもん、ねえ?」
顔だけで振り向くメアリは、泣きながら笑っていた。
どう見ても正気ではない、なのに語る言葉は真意のようで…
「…優しい人に会えて、よかったなぁ…」
死ぬ間際の言葉のようだった。
320ティア ◆zlaomeJBGM :2014/12/21(日) 18:34:03.98 0
腕をぶんぶんと振って迫るエメラルダの言葉に、ティアはすぐに頷いた。
エメラルダの読み通り、とどまった理由のひとつが怪我人を庇いながらの移動が危険だからだ。
いつまでも戦力を分断させるわけにはいかない。なにより二人のことは心配だった。

「ああ、さっさと合流してしまうぞ。
 ...ただ、無茶はするな。万全じゃあないんだからな?」


逸る気持ちを抑えつつ、エメラルダに釘を刺しておく。
只でさえこの状況、味方の行動で引っ掻き回されては対処に困るのだ。
エメラルダという人物の底の底を未だ測りかねている現状、声をかけずにはいられなかった。

「俺が先行する。付いてこい!」

そうしてメアリとフロウ、二人が消えていった通路の扉を。今潜った。
321GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/21(日) 18:45:49.64 0
メアリの独白。三体のゴーレムはそれを静かに聞いていた。
彼らは声を発することはない。出せるのは軋むような駆動音だけだ。
それでも発する雰囲気が悲しみ、憐憫に満ちていることは自然と伝わるだろう。

一体のゴーレムがメアリのもとへ寄り添い、再びそっと抱き締めた。
引き寄せる腕、頭を撫でる手のひら。鋼鉄の体で傷つけないよう、優しく彼女を包む。
ゴーレムはメアリの手にそっと触れ、彼女に小瓶を握らせた。
中にあったのは二つの種。メアリは見覚えがあるだろう、村に点在した木の実の種だ。

しばらくそうしていた後、ゴーレムは彼女をそっと解放した。
そしてフロウに向き直り、ゆっくりと頭を下げた。
その姿は、彼女をよろしく頼む、と。そういっているような気がした。
322フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/22(月) 23:18:12.13 0
ごく自然に降り立ったメアリは、何かに突き動かされるかのように語りだした。
それが同時にティア、エメラルダが合流する。フロウはそこまでと、そして
そこからの少しの間、メアリとゴーレムのやり取りを見ていた。そして小さく
息を吐いた。

彼はおもむろにメアリの腕を引っつかむと、その横面を全力で叩いた。
「悪い頭を無理に動かすからそういう馬鹿な答えに行き着くんです。
甘ったれるのもいい加減にしなさい!」

凛とした蒼い瞳が、弱りきった少女の瞳を捉える。険のある雰囲気だった。
「あなたが何処の誰で、どんな種族で、どうやって生きてきたかはこの際
どうでもいい。聞きなさいメアリ、命には貴賎も善悪もない。価値も意味も
自然も不自然も関係ない。一度生まれたら命は自分のモノなんだ。あなたが
あなたであることを、あなたの命を脅かす理由にしてはいけない」

抱くことも撫でることもしない。ただ真っ直ぐに言葉を重ねるだけ。
相手が頼る己の弱さを吹き払うかのように。

「あなたは何なのか。メアリ、あなたは銀の盃団の一員で、
 あなたが帰る場所はルミエリアの街だ。そしてあなたは」



「あなたは……私の友達だ」
323フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/22(月) 23:32:04.97 0
 そこまで言って、ゴーレムの一体が彼女を抱き寄せた。何かを渡したようだが
フロウからはそれはよく見えなかった。機械仕掛けの獣人は、彼らに頭を
下げた。フロウの顔つきは依然として険しいままだ。

「私はあなた方が嫌いです。嫌いですが、この子に免じて許します」

 もう一度静かに息を吐いて、フロウは仲間へと振り返った。ティアとエメラルダを
見て、今更ながらばつの悪さがこみ上げてくる。
「お騒がせしましたね、時と場所も弁えず、申し訳ない」

 それからメアリのほうを見る。始めてこの子に手を上げた。そのことに
後悔はない。嫌われようとも構わない。フロウは表情を伺うようなことは
しなかった。あとは本当にメアリ次第だと思ったからだ。

「……今日はもう帰りましょう。ここは長居をするような場所じゃない。
仮に出来たとしてもね」

 既に戦いは済んだことは、他でもないゴーレムのほうが示している。
久しぶりの心労に軽い目眩がする。彼は小さな声で少女を促した。
それはまるで、疲れた子供が家路をねだるかのような響きだった。
324エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/23(火) 22:26:11.47 0
メアリとフロウを追っていった先でみた光景に、さすがのエメラルダも息をのんだ。
等間隔に置かれたシリンダーの中で、機械とコードに覆われた人型の物体が眠るように安置されている。
あきらかに、禁忌とされる分野の実験、研究のための施設。
そんな場所の中心でゴーレムと向かい合うメアリたちを目にし、一瞬緊張が走るが、すぐに戦闘中という雰囲気ではないことに気付く。
とりあえず、大人しく成り行きを見守ることにして、メアリの独白、フロウの説教とゴーレムの行動を黙って聞いて(見て)いた。
エメラルダにしては空気を呼んでの行動だったといえるだろう……最後のフロウの台詞を聞くまでは。

>「……今日はもう帰りましょう。ここは長居をするような場所じゃない。
仮に出来たとしてもね」

「え、えええええ!?ここまで来てそれはない!それはないよフロウ氏!」

帰還を促す台詞に反応して文字通り飛び上がって驚き、断固として拒否をしめすエメラルダ。
そんなエメラルダにまわりのメンバーも白けた様な視線を送るが、それでめげるような可愛げなどエメラルダにはない。
心なしか、ゴーレムすらも呆れたような面持ちだ。

「もっとこの場所を調べればわかることが色々あるよ!禁忌についてなんて滅多に調べられることじゃ…、いや、ペディエ氏へ報告するためにはもうちょっと詳しく調べておかないと!」

興奮のあまり本音がペロリとでてしまったが、それを誤魔化すように続けられた言葉も本音である。
今回の任務は報告する内容によって報酬が増減する。
だからこそ、出来る限り細やかに情報を調べて相手方の印象を良くしておかなければならない。
このあと行われるであろう本命の調査隊での立場にもかかわってくる、重要な事柄なのだから!

「もうちょっと、ちょっとだけでいいから!……それが駄目なら、せめて入り口にあった動物型のゴーレム一体くらいは欲しいよー!」
325メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/23(火) 22:57:31.92 O
メアリは、フロウに初めて叩かれた。
びっくりしたままゴーレムに抱かれて、小瓶を渡されて、里を思い出して泣きそうになる。
が、ちょっとだけがまん。
叩かれたせいだなんて思われたくないから。
帰還を促すフロウに、言葉をかけようとして――

>「もうちょっと、ちょっとだけでいいから!……それが駄目なら、せめて入り口にあった動物型のゴーレム一体くらいは欲しいよー!」

まさかのエメラルダに妨害された。
自分の思いにまっすぐなだけなのだろう、メアリも似てる。
だからって、そんな誘拐みたいな…ああ、ゴーレムたち困りきっちゃったよ…?
あれ?でも…
「居住区…あるんだよ、ね?」
特に不安定でもない、本当にいつも通りの声。
震えすらしない自分にも驚くが、すぐにこんな事言ってしまうのが一番驚きだ。
明らかに三人は疲れきっているだろうに、撤退以外の単語が出てくるなんて。
「まだ住める…かな?」
怒られるの覚悟で言い切ってみた。
326メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/23(火) 23:10:32.31 O
…まあこの結論はさておき…
後ろを向いているフロウへ、突撃。からのバグ。
服に押し付けてしまえば顔も見られない、尻尾や耳が世話しなく動いてしまうが、これはもう仕方ない。
「あ、あのね?」
なんだかゴーレムたちに生暖かく見守られてる気もするが、がんばる。
「すごく、すっごく嬉しい。フロウの友達になれて、よかった!」
これを真正面から言うのは、辛い。
正確には気恥ずかしくて、ちゃんと言えなそうだ。もう、言いたいことは今言い切る。
「怒られたのも、何だかお母さんみたいで…とにかく、大好き!あと今度泊まらせて!」
よし、言いにくいことは全部言った。
けど…まだ抱き締めた状態から離れなれそうにない。
我慢しきれなくなった涙が、ぽろぽろ出てきてしまっている。
嬉しくっても、涙は出るんだ。誰かが昔言っていた、本当だね。
…自分の存在が禁忌でもなんでも、友達がいれば大丈夫。
怖い夢や辛い言葉で苦しむ日々は続くだろうけど、友達がいるなら楽しい事も沢山あるだろうから。
これからも、血塗れのアダ名と暫く付き合うだろうけど…友達の声なら、聞こえるはずだから。
327ティア ◆zlaomeJBGM :2014/12/24(水) 20:55:09.93 0
>「もうちょっと、ちょっとだけでいいから!......それが駄目なら、せめて入り口にあった動物型のゴーレム一体くらいは欲しいよー!」

「...んなもん後でいいだろ!どうせお前は調査隊にも加わるんだろう?今は帰れるうちに帰るぞ」

エメラルダの提案に応じたのはあくまで二人を助けるため。その驚異が去った今、ティアに留まる理由はない。
もとより究明は先遣隊の仕事ではない。彼女には悪いが、研究者としてではなく冒険者としての振る舞いが求められているのだ。
それになんとか平和的な解決に流れつつあるが、ゴーレムがいつ何をキーに敵対するか分かったものではない。
断片的とはいえ一定の調査結果を持ち帰ることができる、今が撤退の頃合いだろうか。

それでも、とティアは思う。視線を向けた先はエルフの小さな体躯に身を埋める獣人の子。
緑青色のシリンダーの光の中で花開いたであろう笑顔と涙を、ティアは眩しく感じた。
せめてメアリが満足するまでは、淡くも爛々とした光の中にいさせてやろうと。目を細めて二人を見つめた。
328フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/25(木) 23:17:25.19 0
帰ろうと言った矢先にエメラルダが悲鳴に近い声を上げた。ここまでの経緯に
何一つ動じていない。フロウはその図太さに苦笑する。なんであれこうして
揺るぎない精神の持ち主は頼もしい。提案はティアに即却下されたが。

「ダメ、今日は帰ります」
フロウもそれに倣う。今はもう、誰もがいつもの空気に戻っていた。そんなとき、二人を見ていた
彼の背中に衝撃が走る。わりかし強めの力だったのに倒れずにいられたのは幸運というより他ない。

「おっと、……メアリ?」
 振り返ると、自分の背中に顔を押し付けている少女の頭と耳が少しだけ見えた。
 小さな震えが、声が、命が、触れているところから、フロウに伝わってくる。
329フロウ ◆aGab3MEKhY :2014/12/25(木) 23:23:33.07 0
>「あ、あのね?」

「ええ」

>「すごく、すっごく嬉しい。フロウの友達になれて、よかった!」

「ええ、私も」

>「怒られたのも、何だかお母さんみたいで…とにかく、大好き!あと今度泊まらせて!」

「ええ、私も……ええ!?」
 最後の一言に度肝を抜かれて思わず狼狽えてしまう。しかし、いつまでも離れない
メアリにとうとう根負けしたのか、フロウは渋々ながら了承した。

「……ええ、分かりました。構いませんよ」
 そこでフロウは溜め息を一つつき、彼女が離れるまでの間、しばらくそのままでいた。
330ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/26(金) 18:50:34.21 0
そして四人は来た道を遡り、動物型のゴーレムに見送られながら遺跡を後にした。
大地を明るく照らしていたはずの太陽は既に地平線の裏へと隠れ、仄かに空を赤く染めていた。
用意したキャラバンが寂しくなるほどに、積むべき遺物の入手は少なかった。
しかしまずは全員の命というなにより思い積み荷を残さず入れられただけでも、とティアは嘆息するのであった。

「この分なら今出れば到着は夜中、か。どうする、ここでキャンプでも張るか?」

薪も野性動物もとれそうにはない土地だが、幸いにして広いキャラバンはそのまま風雨を凌ぐ居住空間にだってなる。
もっと長丁場になると思っていたティアは、味は微妙な保存食を用意もしていた。
今から荒野を行くくらいなら、とどまった方がいいのは至って普通の発想だろう。
拒否されることも無いだろうと踏んだティアは、手早く保存食の封を切ってラバーゴム味のグミのような味覚に顔をしかめて咀嚼した。
331エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2014/12/28(日) 15:58:01.55 0
帰りの荷馬車の中で、エメラルダはだらしなく寝ころがりながら不貞腐れていた。

「うう、私のゴーレムが、研究資料がぁ」

しくしくと泣き真似をしながら手に入れられなかった宝物への未練をたれる。
後日、調査隊に加わる予定ではあるのだが、また手に入れる機会が巡ってくるかは不確定なため、どうしても惜しくなってしまう。
そもそも、調査隊への参加応募が受け入れられるとは限らないし、またあの部屋まで行けるかどうかもわからない。
今回はメアリがいたからこそあそこまで行けたのかもしれないし、ゴーレムたちも最後は友好的だった今回がやはり好機だったと、考えるたびに思ってしまう。

>「この分なら今出れば到着は夜中、か。どうする、ここでキャンプでも張るか?」

「そうだねぇ。このまま夜通し走らせるほど急いでいるわけでもないし、いいんじゃないかなぁ」

答える声もどこか投げやりで、やる気というものを完全に消費してしまっている。
まさに燃え尽きた、といった風だ。
ティアの取り出した携帯食料のおこぼれに預かりながら、帰ってからのことを考える。

「あーあ、もう今頃はエアも帰ってるだろうしなぁ。怪我して帰ったら絶対うるさい。しばらく大人しくしてろっていうに決まってるんだ。
なんとしても奴に会う前に応募用紙を出してしまわなければ」

弟の反応を想像し更に憂鬱な気分になったエメラルダは、現実逃避にお茶でも入れることにした。
錬金と通じるものがあるため、お茶を入れることは比較的好きな作業なのだ。
馬車が揺れても良いように持っている簡易着火台を固定し、二重底の鍋をセットする。
下の鍋に水を入れて着火剤に火を付け、下の鍋で湯を沸かしながら、上の鍋では刻んだ茶葉(自家栽培した薬草)を煎った。
湯が沸いたら煎り終わった茶葉を入れ、かき混ぜながら一煮立ちさせて火を止める。最後に、蓋をして少し蒸らせば完成だ。
エメラルダはカップを四つ取り出し、できたものを漉し注ぐと、仲間たちに差し出した。
手渡す際、ふと思いつき、遺跡で気になった出来事を確認してみる。

「そういえばメアリ、あのときゴーレムから何か受け取ってなかったかい?」

近くで確認したわけではないが、確かに何かを渡されていたように思う。
なにか錬金素材だったら少し譲ってもらえないかな、と考えながらお茶をすすり、お世辞にも味が良いとはいえない携帯食料をかじった。
332メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2014/12/28(日) 17:27:36.21 O
「携帯食料って、不思議な味だねえ?」
実は初めて食べたその味、美味しいものではない。
「狩りもしてこようか?」
ナイフがあれば、事足りる狩り。今からでも鹿くらい探せるだろうと思ったが、反対されたので大人しく食料をかじる。
その途中、エメラルダにお茶をもらって、飲もうとしたが…熱すぎた。
つまり猫舌、なので仕方なく冷ましてると質問される。
小瓶のことだろう、と取り出して中の種も見えるように見せる。
これがどんな木かは勿論覚えていた。
「色々な色の花が咲いてね、その色に合った実がなる木の種なの。種は全部同じなんだけど、実は色によって何かの材料?とかにもするんだって」
上手く育つと良いなあ、と笑いながら話すメアリから、悲しみはない。
これから先のことを考えられるようになったから、悲しみだけに浸らずにすんだのだろう。
「でも育て方はよくわかんない…一粒、育ててみてくれない…かな?」
植物を扱うエメラルダなら、未知の木も上手く育てるかもしれない。
覚えているのは成長が早い、と言うことだけのメアリよりも最適だと思ったのだ。
きっと、これからエメラルダの店にもよく行くことになるだろう。
怖い人じゃないのは、わかったのだから。
「あー、でも今はお泊まり楽しみ♪」
悪夢からも逃れれそうな未来、彼女には楽しみが沢山増えている。
333 ◆aGab3MEKhY :2014/12/29(月) 23:47:35.83 0
フロウは口元を手で抑えながら仰向けに転がっていた。馬車の中で。
どうしてこの帰りのことを思い出せなかったのか。簡単だ。疲れていたのだ。

緊張から開放されて気が緩んでいたのだ。外の景色は暗くなっているせいで
眺めることもできない。脂汗を浮かべる彼の耳に、仲間の話し声が遠く響いた。

『お任せします』

フロウは指を一本立てると指先から魔力の光を放ち、小さな吹き出しを作って
そう答えた。馬車での行程を二つに分けるのもこのまま乗り続けるのも
彼にしてみれば苦しみの総量が変わらない以上自分から選ぶ理由がなかった。
ついでに余裕もなかった。

メアリの楽しげな声やエメラルダの話し声がごとごとと揺れる音とせめぎ合う。
順応の早い仲間たちは既に彼の心肺をしてはくれない。

「うーんうーん……」

フロウはしばらくの間、またそうやって一人むなしく呻くのであった。
334ティア/GM ◆zlaomeJBGM :2014/12/31(水) 00:06:56.07 0
顰めっ面で唸るフロウを横に、やれやれと首を振る。
思えば行きだってそうだったじゃないか。すっかり忘れていた自分に何故と問うても答えは出ない。
とは言え一度出発してしまったものは仕方がない。痩せ我慢にも見えるが彼も任せると言っている。
そう思い直したティアは今一度、ラバーゴムのグミのような保存食を噛みちぎった。

幾つかの謎を謎としたまま、遺跡は遠ざかっていく。
すっかり夜も更けた旅路を後に、またひとつ彼らの冒険は終わりを告げたのだ。
次は如何なる出会いが、彼らを待ち受けているのだろうか。
......余談だが、この二日後にエメラルダは元気に調査隊として再び旅だったという。
335メアリ/GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/02(金) 11:13:12.04 O
あの遺跡から帰ってきて、思っていた以上の報酬をもらってから二週間。
あれから頻繁にフロウの所へ泊まり込み、毎日楽しく過ごしていたメアリ。
今日も朝に呼ばれなかったし、どうしようかな…と思っていたら、偶然副団長を見かけた。
彼にしては珍しく、頭を抱えて悩んでいる。いったい何事か、と話を聞いてみようとすると…
「意味のわからない依頼があってな、どうしたものかと…いや、お前たちなら…」
ちゃんと聞く前に、依頼書を見せられることになった。
「もしかしたら上手くいくかもしれん、好きなメンバーで行ってくれ」
…困ったメアリは、いつも通り取水亭に行くのであった。
336フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/02(金) 23:49:09.26 0
部屋の掃除を済ませたフロウはいつもの場所こと貸本屋「取水亭」にいた。
このところメアリがよく泊まりに来るので部屋の間取りを大々的に変更したり
毛布を買い足したり抜け毛をコロコロと転がすタイプのテープで取ったりと
俄かに忙しくなってきた。

しかしただ休息をとるだけの日々だったかというとそうでもなく、
彼は彼でまた新しく魔法を習得することに精を出していた。
自分が使いたくても適正がない系統の魔法を覚える方法、
魔力の底上げの仕方、新しい魔法の理論等々。
これらを調べて貯金を切り崩しそのための準備を整える、そんな2週間であった。

そしてフロウはいつもの場所こと貸本屋「取水亭」にいた。今は最新式の魔道書を読み耽っている。
罰当たりな話だが学生がフリーマーケットに出しているのを買い取ったのだ。
ご丁寧に名前が書いてあったので学校を突き止めて、年寄りっぽく持ち主に小言のひとつも
言ってやろうと思ったら売り手と全然違う子が出てきてひと悶着あったりしたが
なんやかんやあって現行の教科書一式を入手できたのだった。

そんなときだ、人の行き来の乏しい取水亭のドアが開かれたのは。
フロウは読みかけの教科書を閉じると、そちらを見る。見慣れた青いツインテールが
揺れる。どうも手に持った紙きれに不可解といった表情を向けながら近づいてくる。

「おやメアリ。また何か依頼……依頼ですよね?」
 嫌でもなければ喜ぶでもない少女に、フロウも釣られて依頼書へと目を向けた
337ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/03(土) 15:20:40.91 0
「まあこれくらいの頻度で来なきゃ仕事って気にはならないしな。丁度いい頃合いじゃないか?」

傍らにらしくもなく占いの本を置き、机に札を並べたティアが並んだ棚の奥から顔を出す。
物置の整理の際に何の気なしに見つけたトランプ。何かに使ってやろうとここに足を運んでいたのだ。
だが手にした本の前置きを読んだ段階で気が変わってしまい、並べた札は遊戯のためのものになってしまっていた。

なにやら不思議な表情をしたメアリを見やり、視線を再び机に戻す。
円を描くように置かれた四枚十二組の山札。その中央には二枚のキングを表向きにした三枚の山。
手にした札はスペードの3。作業でもするかのように最右の山の下に潜らせる。

「...さて、今回はどんな事になるかな......?」

二人に聞かせるでもなく呟き、耳をそばだて二人の声を待つ。
新たに手にしたダイヤの8を、手持ちぶさたに揺らしていった。
338エメラルダ ◆Sg5djUdds2 :2015/01/04(日) 03:16:03.33 0
ふと、メアリたち三人のいる取水亭のドアをノックする音が響く。
室内の許可を得た後でゆっくりと扉が開き、一人の人物がおずおずと顔をのぞかせた。

「こんにちわ。お取り込み中失礼します」

現れたのは申し訳なさそうな顔をした十代後半から二十代前半くらいの青年だった。

「えーと、あなた方がメアリさんとフロウさんとティアさん、ですよね?自分はエメラルダの弟でエアハルトといいます。
前回の依頼では姉が大変ご迷惑をおかけしたようで……。あの、これ最近美味しいって評判のお店で買ったクッキーなんです。よかったらどうぞ」

エアハルトはそう言うと頭を下げて、その手に持った箱を差し出す。
少々過保護かもしれないが、あの姉が一人で依頼を受けて行動したならば、一緒にいた相手はなんらかの被害を被っているはず。
こういった場合のアフターケアは大切であると、エアハルトは今までの経験から学んでいた。

「本当なら二週間前にご挨拶に伺おうと思ってたんですが、その、すぐに次の依頼というか、姉に連れられて例の調査隊に参加させられまして。
……二日前に帰ってきたばっかりなんです」

そのときのことを思い出しているのか、遠い目をしながら話すエアハルト。
その表情には隠し切れない疲労が滲んでいた。なんとなく草臥れた雰囲気が哀れを誘う。

「それで、姉は……持ち帰ったものの検分に忙しくて、変わりに自分がご挨拶も兼ねて遺跡の調査結果をご報告に。
姉に前回の依頼での話を聞いて、みなさんも遺跡のこと気になっているんじゃないかと思いまして」

持ち帰った品物に夢中で研究室から出る気のないエメラルダを引っ張り出すことをあきらめて一人で来た、ということは濁して、エアハルトがここへきた理由を説明する。
339エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/04(日) 03:17:52.56 0
「結果から言いますと、姉の言う『前回の部屋』へはたどり着けませんでした。
自分は初めて探索したので違いを全て把握しているわけではないんですが、そもそも、入り口に入った瞬間から前回のところとは違う場所にたどり着いたらしくて」

そう切り出された調査隊での話を要約するとこうだ。

・入り口までは同じだったのに、いつの間にか前回とは違う場所にたどり着いた。
・そこには動物型のゴーレムとはまた違ったゴーレムが存在していた。
・攻撃してくるゴーレムを倒しながら様々な品物を手に入れた。
・全ての部屋を調べたわけではないが、やはりメアリたちと行ったときのような場所はなかった。
・試しに外で待機していた別のチームが入ってみると、さらに別の場所へとつながった。
・以上のことから、立ち入る人間や人数によってつながる場所が違うのではないかという結論に達した。

最後に、次回からはまたメンバーを変えながら調査を進めることになったので、自分たちはお役御免になったのだと締めくくられ、エアハルトの話は終わった。

「以上で、報告は終了です。いきなりやってきて長話しちゃってすいませんでした」

そう言うと、もう一度全員に軽く頭を下げてワタワタと立ち去るそぶりをみせる。
が、メアリの手元の紙に気付くと足を止めた。

「あ、それってもしかして依頼書ですか?でしたら、ついでみたいで申し訳ないんですが、団長か副団長みかけませんでした?
何か受けられる依頼があるか聞きに行こうと思ってるんですが」

調査隊に参加したことで報酬も手に入れてはいるが、あの姉は研究するとなると金に糸目をつけずに素材やら道具やらを使う。
そのため、あっという間に資金が底を尽きるなんてこともざらだ。
帰ってきて早々だが、一日休んである程度回復したし、家計を圧迫する前に稼げるだけ稼いでおきたい。
そう思い、エアハルトは依頼を振り分ける責任者の所在を知らないか、メアリたちに確認するのだった。
340メアリ/GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/04(日) 10:20:03.79 O
「依頼…なんだけど、あたしはそのカードとクッキーの方が気になる!」
好奇心旺盛なメアリは、依頼書を机に置くとティアの持つトランプを見る。
ルールなんてなにも知らないので、勝手に二枚取り、三角(△)の形に置けないか奮闘してみる。
ようはトランプタワーの基礎…ただ、勝手にカードをとってしまうほどには動揺中なので、三角に立ちやしない。
…どこかエメラルダに似ていて、更に血縁とは分かっていても人間に変わりなし。
以前よりは怯えを見せなくはなってきたが、まだまだ精進が必要なメアリだ。
「…えと、団長は外出で、副団長は仕事してくる…んだって」
だから背を向けたまま返事をしてしまったが、恐らく感情は耳と尻尾でバレバレだ。
341GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/04(日) 10:27:10.63 O
そんな状態で机に置かれた依頼書はこのような内容だった。

〜依頼書〜
・内容 牧場で起こっている、謎の増殖現象の調査
・場所 北地区にあるレイン牧場
・期間 一週間、場合により延長、泊まり込み可
・報酬 調査そのもので銀貨5枚、原因判明した場合金貨1枚追加
・特記 原因を知りたがってはいるが「わからなくても仕方ない」と言っていた

…意味が、わからない依頼書だ。
342フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/05(月) 22:54:10.17 0
 棚の向こう側から他人事のようなティアの呟きが聞こえる。カードを片手に占いの
本を借りて行ったので新しい副業でも始めるのかと思ったのだが、どうやらそうはなら
なかったようだ。
 フロウはとりあえず依頼書に目を通そうとした。するとそのとき、ドアがノックされ
見慣れない人物が室内へと入ってきた。彼には見覚えがあった。
 エメラルダの弟、確かエアハルトだったか。以前姉と共に現れて、姉の代わりに貸し
出しカードを作っていったほうだ。彼はご丁寧にも菓子折りを持参して挨拶をしに来たようだった。

「あらあなたは確か……あ、これはどうもご丁寧に」
 フロウは慎んでクッキーを受け取るとそれを皿に開けた。そしてエアハルトからこの
数日の経過と、前回の遺跡について一応の顛末を語ってくれた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ふしぎなダンジョンもあったものですねえ」
 懐から取り出したスキットル(小型の水筒)内の水を一口煽り、フロウは呟いた。仮に
全てのフロアを総当たりするとしたら、いったいどれほどの部屋があるのだろう。

(千回潜っても終わらなそうだなあ)
 クッキーを一つ口に運び、水筒にまた口を付ける。また何度か依頼がありそうな気が
して小さなため息が漏れた。

>>「あ、それってもしかして依頼書ですか?」

「ん?ああそういえばそうでした」
 話を聞いているうちにすっかり忘れていた。勤労意欲溢れる青年の問いに対し、メア
リは人馴れしてない猫のようにティアのほうへと逃げてしまったので、代わりにフロウ
が答える形になった。

「んん?なんでしょうこれは」
 依頼書の本文を読んで、フロウは訝しんだ。初めて書いたにしても色々と変だ。
「牧場で何かが増えている……何がなんでしょう」
 フロウはそれをエアハルトに開示すると、小首を傾げた。
343ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/06(火) 00:56:14.08 0
「あっ、何すんだ......!?」

目の前で引ったくられるようにカードの山を崩されたティアは一瞬声を荒げた。
...が、小難しそうな顔でカードを立てようとするメアリの耳が、彼女の感情をありありと映し出していた。
そう言うことか。やれやれといった風に溜め息を吐き、好きなようにさせてやることにした。

「エアハルト、って言ったか。まあ依頼はあるが大丈夫か?
 なんせ調査隊に居たんなら今から依頼じゃ休みなんて無いようなものだろう?」

椅子から立ちメアリの頭にぽんぽんと2回手を置いてから、ティアはエアハルトへと歩み寄る。
どこか異質で子供のような無邪気さを放つ姉とは違い、どうやら苦労人気質のようだ。
彼女の弟だ、いろいろと事情があるのだろう。彼の勤労意欲に特には追及せず、カウンターに手を付き依頼書を覗き込む。

「......だとさ。お前の姉貴くらいムチャクチャだ」

虫食いの文書のように要点を書いたテキストに、再びティアは溜め息を吐いた。
344エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/06(火) 15:16:25.26 0
>「…えと、団長は外出で、副団長は仕事してくる…んだって」

「あ、そうなんですか……」

こちらに背を向けたままのメアリだが、質問にはしっかりと答えてくれた。
だが少し伏せられた耳と小刻みに左右に揺れる尻尾は、猫科の動物が緊張や不安、恐怖を感じているときの仕草だ。
それを獣人に当てはめていいものなのかはわからないが、怖がらせてしまったかと、尋ねたことを少しだけ後悔する。

>「エアハルト、って言ったか。まあ依頼はあるが大丈夫か?
なんせ調査隊に居たんなら今から依頼じゃ休みなんて無いようなものだろう?」

「え、はい。でも昨日は一日休みましたから。体力には自信があるので大丈夫です。
……というか、自分もこの依頼受けさせてもらっていいんですか?」

ちらりとメアリの方に目を向けながら確認する。
しかし、フロウが依頼書を差し出してくれたので、悪いと思いながらも開示された内容をみることにした。

「すいません。よろしくお願いします」

団長たちに依頼をもらえそうもないし、どうしようか考えていたところだったので、正直とても助かる。

>「牧場で何かが増えている……何がなんでしょう」

「しかも『わからなくても仕方ない』って、それって依頼としてどうなんですかね?」

ティアの、姉のようにムチャクチャだという台詞に後ろめたい思いで苦笑いしながら、エアハルトもこの依頼書の謎に頭を悩ませた。
345メアリ/GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/06(火) 23:33:03.90 O
トランプを立てるのを諦め、そっとフロウの隣に移動する。
ちらちらとエアハルトの様子を伺って、耳をピコピコさせながら、今度はエアハルトを見ながら話しかけた。
「あたしメアリ、よ、よろしく?」
どもりながら言い、直ぐ様クッキーに手を出す。
食べていたら返事を求められない、ギルドで気付いた、怖いときの回避方。
さくさくさく…
「…美味しい」
甘くてさくさくで、変に喉も乾かない。上品なクッキーに、素直に感想が出た。
なんだか気恥ずかしくなり、うー…とうめいてから叫ぶ。
「とにかく行ってみようよ!」
そういう手は、もう一枚クッキーを取っていた。


話を聞くためにもレイン牧場へ行くことにした一行、見える風景はきっと予想ができている。
家畜小屋と柵、牧草地に放牧される牛や羊達…そんな風景を思い浮かべた者の視界に、異常な景色が写った。
牧草地まではおかしくない、だがそこにいる動物の数がおかしい。
ぎゅうぎゅうづめで、移動も大変そうな牛やらなんやかんや。
パット見ではいじめているかのようだ。
「わ!いっぱい!」
だがそんなことを気にしない猫娘、あろうことにその中へ飛び込んだ。
下手をしたら圧死しそうな隙間を猫らしくすり抜ける。
「牛さんでっかい!豚さん温かーい!鶏さん達もいる!羊さんふかふかー!」
それはもう、楽しそうだ。
ただ、近くの家から人が出てきてそうもいかなくなった。
「ギルドの方々…でしょうか?」
現れた男性は、どうやら依頼主のようだった。
346GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/06(火) 23:41:59.70 O
「ご覧の通り、動物達が増殖しているのです」
家の中へ通された四人は、お茶のようにミルクを差し出され、お茶菓子のようにチーズを差し出された。
「初めは勘違いかとも思いましたが、ふと振り返ると一匹増えているような状態でして…しかも、子供の姿を見たことがないんです」
雛を見ないまま鶏が増え、出産していないはずの牛から乳が絞れ、最早怪奇現象のようになっている。
「ある意味経営は困りませんが、不思議過ぎて…出来れば原因を知りたくて依頼しました」
先程見ただけでも、牧草地内には林があるくらいで、他におかしな点は見当たらなかった。
ただ、わかる者にはわかるだろう動物から、魔力の残り香があったことが…
動物達が随分似ていることが…
この家の外に、ミルク皿が置いてあったことが…
347フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/07(水) 22:38:47.70 0
>>「とにかく行ってみようよ!」

「……それしかないですね。あまりいい予感はしませんが」
 厄介事が持ち込まれている以上当然といえば当然である。フロウたちはそれぞれに
支度をすると、依頼主の元、つまりレイン牧場へと集まった。

フロウは途中で増殖するといった文章に思い当たる節があった。スライムとゴースト系の
アンデッドだ。前者は文字通り分裂して増えるし、後者はモノによっては次々と仲間を呼ぶ。

(増える害獣とか……それとも植物系の魔物だろうか……)
 しかしながらそんな考えは現実の前に粉々に打ち砕かれる。メアリがはしゃぎながら
駆けていく先に、動物の大群がいたのだ。

>>「ギルドの方々…でしょうか?」

「はい。依頼主の方ですね?」
 フロウは現れた男性に軽く一礼すると、そのまま中へと案内される。
出してもらったミルクとチーズは相手の目を盗んで水筒に入れ替えたりして懐に仕舞った。
貧乏臭い。
348フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/07(水) 22:46:08.03 0
>>「初めは勘違いかとも思いましたが、ふと振り返ると一匹増えているような状態でして…しかも、子供の姿を見たことがないんです」

「一匹も交尾せずに増える……いかにも如何わしい上に話しが上手すぎますね」
 フロウは小さく眉根を寄せる。何らかの呪いでもかけられたのだろうか。だとしても
意図がまるで分からない。そもそも何か魔法の痕跡のようなものがあっただろうか

【魔力の感知:判定は古典的魔術師込みで45】
349フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/07(水) 22:57:46.71 0
ある。気のせい程度にしか思わなかったが、牧場の動物達からは
他と比べて僅かに魔力を感じたのだ。一匹一匹は微量でも数が多すぎることと、
密集していることでその『気のせい』レベルを越していたということなのだろう。

「そういえば、気のせいかとも思ったのですが先程の牧場から僅かに魔力を感じました」
 そして気がついたことを周囲に教えた。とくにそれが何を意味する訳でもない、フロウは
言いながら、この場でもらったチーズをミルクで帰ったらシチューを作ろうなどと考えていた。
350ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/08(木) 22:22:31.96 0
牧場、と聞けば誰しも広大な草原に点在する動物たちといった光景を思い浮かべるだろう。
しかしティアの目の前にある光景は違った。白色6割に埋め尽くされた柵の中ですいすいとメアリが走っていく。
圧倒的な数の暴力に気圧されながらも、なんとか見失わないようにメアリを目で追っていると。
視界の端で一人の男が、建物から現れるのを捉えた。


「増殖、ねぇ...」

差し出された皿とマグカップを前に頬杖をついて思索にふける。
チーズを一切れ摘まんで口に放ると、自家製らしい素朴で豊かな風味が鼻腔を通り抜けていった。
その味に少しだけ目を見開き舌鼓を打つと、ティアは咀嚼しながら視線を宙に泳がせた。

「増殖スピードも尋常じゃない、子供の姿も見たことない。
 解らなくても困りはしないが、薄気味悪いから理由だけは知りたい、よなぁ...」

小さく溢した言葉。ティアだって自分の身に同じことが起こればそう思うだろう。
変に状況に自己投影したからか、同情気味なニュアンスをもって呟きは発せられた。
とにかく何もハッキリとは見ていない以上、今のティアに分かることは無かった。
他のものの行動を見るべく、さっと両脇に視線を向けた。
351エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/09(金) 21:29:02.65 0
レイン牧場にて、放牧されている動物たちの異常な数に驚いたのもつかの間。
すし詰め状態のその中に、ためらいもなく飛び込んでいったメアリにさらに驚かされた。

「え、ちょ、あぶな!?」

>「牛さんでっかい!豚さん温かーい!鶏さん達もいる!羊さんふかふかー!」

だが、迫ってくる牛たちもなんのその、押しつぶされることもなく楽しそうに笑っているメアリに、エアハルトは上げかけた手を下す。
動物の数が異常なことをのぞけば微笑ましいその光景に、自然と笑みが浮かんだ。
……が、その好奇心の赴くままに行動する姿が姉(エメラルダ)とかぶった、ということは言わないでおこうと思うエアハルトなのであった。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

依頼人の男性に案内され、室内にてくわしい話を聞く一行。
出されたミルクとチーズの想像以上の旨さに感激し、お土産に買って帰れないかなぁなどと考えながら、エアハルトも謎の現象についても考える。

(いつの間にか増える家畜、妊娠もしていないのに取れる乳、か。……確かに、自然の法則からは逸脱してるなぁ)

牧場にとっては悪いどころか良いことずくめであるがしかし、原因も原理も不明では気味が悪いというのも頷ける。
うまい話には裏があると言うし、後で後悔する羽目にならないとも限らない。
だが原因を探ろうにも、外でみた動物たちの中に様子がおかしい固体なども見つけられなかった。

>「そういえば、気のせいかとも思ったのですが先程の牧場から僅かに魔力を感じました」

「魔力、ですか?」

つまりは、なんらかの魔法が使われた形跡があるということだろうか?
自分は専門外な上に魔法に疎い方なので、具体的なことは見当も付かない。
が、俄然怪しい気配が漂ってきた気はする。
フロウの言葉に、エアハルトも何か気が付いたことや疑問に思ったことはなかったかと、よくよく思い返してみることにした。

【発見ロール 使用ステータス:幸運(10)】
352エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/09(金) 21:30:12.30 0
【発見ロール失敗】

よくよく考えてみても思い当たることはない。
自分の記憶にガッカリしながら、誤魔化す様にミルクを飲み干した。
353GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/10(土) 09:48:49.44 O
「魔力…ですか?そういうものには疎いもので…ですが、確かに考えてみたら魔法や呪いみたいですね」
苦笑する依頼主は、新たにミルクを注いだり、チーズの追加だけでなくハムも出したりと、おもてなしが楽しそうだ。
「泊まり込み調査でしたら二階を使って下さい、家の材料は好きに使っていただいて良いので、料理もどうぞ。小さいながら畑もありますので、ちゃんと野菜もありますよ。」
ニコニコと笑う男は、奇妙な現象を気にしつつも、賑やかな部屋を楽しんでいるようだ。
354メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/10(土) 09:58:32.57 O
「ミルク美味し〜」
最早調査の事はどうでもよさそうなメアリ、幸いなのは美味しいものを出してくれる依頼主の事を怖がらないですむことだろうか。
だが仕事は仕事、おかわりをもらいながらフロウの話や依頼主の話を聞く。
そして、恐らく自分にしかわからないであろうことがあったので、一応話しておく事にした。
「魔法、かもしれないけど…分裂の魔法ではないみたいだよ?皆違う匂いだったし」
一頭一匹たりとも同じ匂いはしなかった。
似たような匂いをしてはいるが、全て純粋な個体なのだろう。
「あとね!さっきも羊ちゃんが一匹増えてたみたい!林から歩いて来た子の匂いだけ新しい?感じだったの」
その場で言え、と言われそうな情報だとは、メアリは思いもしていない。
355フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/13(火) 23:11:27.16 0
 牧場主は人の良さそうな笑みを浮かべている。からかうようであり、浮ついているようでもある。
それは棚からぼた餅に喜んでいるようでもあり、己の杞憂を冷やかしているようでもあった。

「ふうむ、全部違う匂い、ということはあれ全部違う個体ってこと……?」
 フロウは眉根を寄せる。分裂というよりも召喚に近い。どちらにせよ気味が悪いことに
変わりはない。

「流石に、これでは日を改めて、とはいきませんね」
 今もこうしている間にも家畜は増え続けているのだ。まずどのように増えるのかを
もう一度確認しないといけないし、増えるペース、増えた際の分裂元の個体の調査、
餌から土地から諸々顧みないとならないのだ。

「どうしましょうか。何人かは泊まっておいたほうが良いかとも思いますが」
 全員とは言わず、しかし泊まったほうがいいことも告げておく。

「しっかし、どこから手をつけたものやら……」
 思いのほか打つ手がないことに、フロウは奇妙な不安を覚えていた。
356ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/14(水) 23:44:15.14 0
「魔力、ねぇ。こりゃ今回は足手まといか?」

フロウの言に悪態をつき、今度はハムを口に運ぶ。
何にせよ情報が少ない。あるのは動物が増えると言う現象、それに魔力の存在だけだった。
魔法に対する知識は浅いティアが迂闊に行動すると痕跡を消してしまいかねない。そう考えた。
よってメンバーが宿泊して原因究明にあたるなら、最悪経過報告を兼ねて戻ることになりそうか。

>「あとね!さっきも羊ちゃんが一匹増えてたみたい!林から歩いて来た子の臭いだけ新しい?感じだったの」

だが、思わぬところから手掛かりが見つかった。メアリの獣人としての五感を失念していたのだ。
今だ先の見えない現在、手をつけてみるのもいいだろう。確認も兼ねてメアリの言葉を反芻する。

「林の方から来る個体が、新しく増えた個体らしいと。
 魔力との関係性は知らんが、こっちの方もマークしといて損はないかも、な...」

探索行動ならティアの領分だ。貢献の可能性ができたことに少しだけ安堵を覚える。
どちらも無視できない要素。幸い拠点たる牧場からそう離れることは無いだろうから、人員を分割しても良いかもしれない。

「魔力の件と林の件、とりあえず今わかるのはこの辺りが怪しいって事くらいか。
 まあ急ぐことも無いわけだし、今後のプランはゆっくり練ろうぜ?」
357エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/15(木) 12:45:51.07 0
>>「魔力の件と林の件、とりあえず今わかるのはこの辺りが怪しいって事くらいか。まあ急ぐことも無いわけだし、今後のプランはゆっくり練ろうぜ?」

「はい。とりあえず、今日一日調べてみないと」

まがりなりにもエアハルトは狩人(ハンター)だ。
動物の知識もそれなりにあるし、痕跡を探して状態を推測したり追跡する、なんてこともできる。
なので、今回はどちらの調査に加わっても役に立てる……はずだ。

「一応、動物に関しては専門分野なんで任せてください!」

有用な情報を出せなかった分、これからの調査で挽回していこうと気合をいれる。

>>「何人かは泊まっておいたほうが良いかとも思いますが」

「あ、俺は今日から泊まりになっても大丈夫ですよ」

依頼書にもあったため、事前に泊まりの用意はしておいた。
牧場主の好意にあまえ、二回目のミルクのおかわりを注いでもらいながら、エアハルトはふと疑問に思ったことを尋ねる。

「そういえば、こちらの牧場には何人くらいの人が働いてらっしゃるんですか?あと、ご家族の方とかは……」

泊まりになった場合、無用な諍いをさけるために気を遣ったり、それぞれのプライベート空間には立ち入らないようにした方がいいだろう。
そう思ったエアハルトは確認の意味で牧場主の男性に問いかけた。
358GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/15(木) 14:34:44.51 O
「お恥ずかしいことに独り暮らしなんですよ、昔は両親と頑張っていましたが、魔物に…」
依頼主は寂しげな表情をするも、直ぐに明るい顔を見せる。
「動物たちと、何かがいてくれるようなので寂しくはありませんがね。二階にはベットが2つ、あと布団もありますので何人でも泊まれますよ」
そこには嘘はないようだが、泊まるべきかどうか。
何かを用意しに街中へ行くべきかはわからない。
359メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/15(木) 14:40:47.23 O
「お泊まりする!着替えちゃうね!」
誰の言葉をまともに聞いたやら、二階へ走って着替えてきたメアリは、モコモコのパジャマだった。
「これなら動物さんたちと仲良くなれるし!」
ご機嫌なメアリは、調査はあまり得意ではない。
だが動物と直接接している方がいい、と本能で感じた。
……余談だが、このパジャマを着ていると子供らしさが強調され、可愛らしさが増す。
その証拠に、依頼主は驚いた顔をしてメアリを見ていた。もっとも、驚いた理由は別かもしれないが。
「気を付けてた方がいいこと、何かな?」
匂いはいつでもわかるとして、それ以上に出来そうなこと…
…なんだろうか?
とりあえず林を気にかけつつも、増えた動物と仲良くなっておこうかな?と気楽に考えるメアリだった。
360フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/17(土) 23:44:54.80 ID:YG8x8gd50
「それは……失礼しました」
 牧場主の男性に小さく謝ると、フロウは少しばかり考えた。
エアハルトは泊まると考えていいだろう。狩人の彼から動物に関しての知識
を借りるには、彼になるべく動物を見せることが必要だからだ。

そして
>>「お泊まりする!着替えちゃうね!」

 メアリも泊まる。勢いよく二階に行くと早くも寝巻きに着替えて降りてきた。
既に部屋も決めたと思っていいだろう。

「メアリ……」
 軽く眉間を押さえて項垂れる。気に入っているのかこの前からよくこれを
着ている。しかし、なにもここまで主張しなくてもいいのにと、フロウは
少しだけ頭が痛くなった。

「そうですね、毎日、とはいきませんが、ひとまず今日のところは泊まって
おいたほうが良いでしょう」

 自分も泊まることを伝えて、フロウは周囲を見回した。

「仕事でお邪魔する以上、節度を守って、あまりご迷惑をおかけしないように
しましょうね」

 心配の種は一つだが名指しだとトゲがあるので、彼はあえて全体に向けて
言った。あまり腐すようなことは言いたくなかったが仕方がない。
そして、そんなこんなで奇妙な依頼が始まろうとしていた。
361ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/19(月) 04:15:11.91 0
......動物たちと、「何かがいてくれる」? 依頼主の奇妙な言葉遣いに目を鋭くし思案する。
人間関係は疑いから入るタイプのティアは、正直言ってあまりこの牧場主の言葉を素直に受け取ってはいなかった。
他に人間のいそうな所もないので、疑念の目を向ける対象が他にいないと言うのも理由のひとつではあったが。
言葉の端に浮かんだ「何か」の正体について、追求するか悩んでいたあたりで。

>「お泊まりする!着替えちゃうね!」

マイペースな発言により雰囲気を崩され、ティアは追求を止めておくことにした。
バーサーカーとしての彼女がなりを潜めているのは喜ばしいのだが、こうも両極端だと調子が狂う。
はしゃぐメアリに軽く溜め息をついてから、気を取りなおしてティアは宿泊しない旨を告げた。

「俺はいいや。人目が枯れてる夜だからこそ起こっていることがあるかもしれない。
 こう言うことは専門だしな。とりあえず夜間の監視は任せておけ。
 あ、入り用のものがあったら街で買ってこようか? どうせ今日は動かないんだろうし」

情報の少なさが謎を謎足らしめる理由だ。だったら分かることを増やしていけばいい。
起こった出来事、残った痕跡。パーティが一回休みの方向性の今だからこそ多くを調べておきたかった。
油の乗った、それでいてあっさりとした自家製のハムを口に放りながらそんなことを考え。

>「仕事でお邪魔する以上、節度を守って、あまりご迷惑をおかけしないようにしましょうね」

「だってよ。メアリ」

敢えて逸らしただろう矛先を当の対象に向けることで、メアリをからかってやった。
ティアにとっての今回の依頼は、仲間より少しだけ早くに幕をあげる。
362エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/21(水) 00:58:51.37 0
>>「お恥ずかしいことに独り暮らしなんですよ、昔は両親と頑張っていましたが、魔物に…」

そういって寂しげな表情を浮かべた男性に、無神経なことを聞いてしまったとエアハルトは顔をくもらせた。

「あ、すみません……」

突然家族を失う恐怖も悲しみも、薄れることはあっても忘れられることではない。
思い出させてしまったことに後悔しながら謝罪を口にする。

>>「動物たちと、何かがいてくれるようなので寂しくはありませんがね」

何か、とはなんだろうか?
再度質問しようかとも考えたが、先ほど問いかけて失敗してしまったため、ためらいが生まれた。
もしかしたら「ナニカ」という名前の犬、もしくは猫かもしれない。
牧場で犬か猫を飼っているのはよくあることだ。犬なら番犬や牧羊犬として、猫なら鼠取りや鳥追い役になる。
そうだ、そうに違いない。
かなり無理やり自分を納得させてエアハルトは口を噤んだ。
そんなことを考えている間にメアリが着替えから戻ってきて視線がそちらに集まる。
もこもこのパジャマ姿のメアリはいつにも増して可愛らしく、もともと子供好きのエアハルトは孫を見守る祖父のような気持ちになって眺めていた。

(……あれ?メアリさんって、いくつだっけ?)

獣人って外見年齢と精神年齢違うのかな〜などと考えつつ、口には出さない。
そのかわり、フロウとティアの行動方針を聞いて自分の方針を口にした。

「じゃあとりあえず俺は牧場内の動物の様子を観察してみます」

まだ時間的余裕は十分にある。
夜中まで張り付いていれば、なにか一つはわかることもあるだろう。
話し合いの結果、今日の泊まり組はメアリ、フロウ、エアハルト。夜警と町への買出しはティア、ということでよさそうだ。

>>「仕事でお邪魔する以上、節度を守って、あまりご迷惑をおかけしないようにしましょうね」

>>「だってよ。メアリ」

「ふっ…!」

不意打ちの連携プレーに思わず笑いがこぼれる。
フロウにとっては意図したものではないのかも知れないが、意外なところからの追撃にあった形だ。
あまりにも無邪気なメアリの様子に、心配になるのも仕方ないだろう。……ティアにとっては格好のいじりの種だっただけかもしれないが。
363GM/メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/21(水) 15:32:45.47 O
>「仕事でお邪魔する以上、節度を守って、あまりご迷惑をおかけしないようにしましょうね」

>「だってよ。メアリ」

「う、うん…とにかく動物さんたちと仲良くなってみるよ!」
どうにも武器を扱わない時は気合いの入り方が違う。

>「ふっ…!」

「あー!笑った!……もーぅ…」

「ふふふっ…では私は通常の世話をしていますので、何かありましたら小屋へ…よろしくお願いします」
依頼主はうやうやしく頭を下げ、まったく警戒のない様子で家畜小屋へ行った。


メアリはそわそわと右往左往、さっきのように飛び出すかと思いきや何か様子をうかがっている。
その対象はエアハルト、今までに比べればかなり友好的な接し方が出来ている…と思いはしても、話しかけるのは勇気がいる。
しかし、このままうろうろしても仕方ない。
「え、エアハルト?あの、ね?動物さんと仲良くなるから…観察は、よろしく、ね?」
どぎまぎしながら右手を差し出す。
今度は向かい合って、話せた。


放牧地、結局飛び込み動物と触れあう。
ただ、匂いだけは忘れないようにしながら…

【幸運判定、コンマが幸運を下回ると匂いの情報追加】
364メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/21(水) 15:37:36.80 O
【ロール失敗】
さっきの羊と戯れながら、新しいことがないか探すが、見つけられない。
何か見落としている気はするのだが…メアリにはわからない事なのかも知れない。
365フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/23(金) 23:09:43.21 0
さて、そんなこんなで時は夕方、そして夜へと移る。
メアリは着替えを持っていたもののフロウはそんなことはかったので、
一度ギルドに戻って改めて荷物を持ってきた。

野宿に慣れると「別に着替えなくてもいいか」という考えが染み付いてしまう。
そういう点でメアリに安堵し、自分にちょっと落ち込むフロウであった。
今いる場所は依頼主の家の二階、割り当てられた部屋の一つである。

「ひとまず今日のところは、調査のための準備を固めるってことですかね」
 夕飯もご馳走になることになったので、持ち帰るつもりだった食材はついでに
食べた。ちょっと恥ずかしかったが、自分から恥をかけるのは年の功といった所か。

「お言葉に甘えてお部屋をお借りします。動物の調査以外にもご入り用がありましたら、
遠慮なく仰ってください。これも立派に料金内の仕事ですから」

 依頼主に一礼してから部屋に引き上げる。家の中は質素ではあるがその分生活感があ
り、人の名残がそこかしこに感じられ部屋だった。室内のベッドに腰掛けてフロウは目
を閉じた。

(既に魔物に……か)

 依頼主はフロウよりは年下だろうが、それで決しても若いということにはならない。
この部屋の数々は、この牧場での暮らしの中に意図して維持されてきたのだろうか。今
でない時、今の自分達とは関係のないことだったが、それでも気が付けば気にしている
自分に、彼は溜め息を吐いた。

(よそう、今は依頼に集中だ)

 そう心に決めると、フロウは心の中で小さく祈りの言葉を唱えて、休息をとることに
したのだった。
366ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/24(土) 22:51:10.96 0
パーティの顔を見回したが、特に入用のものはないようだ。
一晩明かすくらいの用意はある。変に此処から動く理由もないな、とティアは思った。
もっとも、メアリとエアハルトが留まる以上、ここにいる理由というのもあまりない。
少し悩んで、やはり夕になるくらいまでは外を歩くことにした。


そして、夜がやってくる。
灯台も魔法も此処を照らしてはくれない、文字通りの暗闇。
よく晴れた空に丸く浮かんだ月だけが、虫と獣の声だけが響く農場を薄く照らしていた。
そんな中、一人。黒の服で暗夜に溶け込む影。

「...ま、大したものは出てこないだろうけどな」

何がなんだか分からない。それが今回の件に対する所感であった。
だが何が危害を受けているわけでもない。そんな不思議な事件。
今すぐ、急に危険が迫ることは無いだろうとは思いながら、仮眠開けの涙目をこする。

目をぎゅっと瞑り、まぶたで瞳を押さえつける。
夜目を慣らすのにこれが一番だ。ティアはぱっと目を開いて。
ビリビリと視界が揺れた後、暗闇の後に景色が見えるようになる。
揺れ動く毛皮の海に目を凝らし、注意深く辺りを窺っていた。

【監視ロール 使用ステータス:(精神力+幸運)/2】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10】
【判定値:(63+52)/2 +10 ≒67】
367エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/25(日) 13:25:32.94 0
>>「ふふふっ…では私は通常の世話をしていますので、何かありましたら小屋へ…よろしくお願いします」

「え、あ、はい!わかりました!」

依頼主の言葉に驚いて、一瞬反応が遅れる。
いくら依頼したギルトからの人員だとはいえ、いきなり自分のいない居住スペースに初対面の人間を放置するのは、いささか警戒心がなさすぎるのではないだろうか。
そんな心配をしながら男性が立ち去るのを見守っていると、なんだか挙動不審なメアリの様子が目に入った。
首をかしげてみれば、意を決したようにこちらに向き直り、エアハルトを見上げてくる。

>>「え、エアハルト?あの、ね?動物さんと仲良くなるから…観察は、よろしく、ね?」

そう言って差し出された右手。
予想外のことに目を丸くしながらも、エアハルトすぐにその手を笑顔で握り返した。

「任せてください。メアリさんも、ふれあい係はよろしく」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

とりあえず、牧場全体が見渡せる屋根に上り、辺りを見回す。
メアリやフロウ、ティアがそれぞれ牧場を調べている姿も確認できた。
今日はこの場所で夕方まで、怪しいとされる林を気にかけながら全体的におかしな所がないか見張る予定だ。
狩人として鍛え上げた目によって、この距離からでも十分動物たちの様子が観察できる。

「よし、やるぞ!」

些細な変化も見逃すまいと、エアハルトは意識を集中させた。

【観察ロール 使用ステータス:(知識+幸運)/2】
【スキル発動:『狩人の心得』(モンスター含む)動植物に関する事柄のみ、精神・知識に+10の補正がつく】
【判定値:(60+10)/2=35】
368エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/25(日) 13:42:13.91 0
【観察ロール失敗】

「あれ、フロウさん街に戻るのかな?……そういえば、一周見回ったら着替えを取りにギルドに戻るって言ってたっけ」

牧場から街の方角へ立ち去るフロウの姿を見かけ、思わずそちらに気を取られる。
その瞬間、足場にしていた屋根の一部が崩れた。

「うっわぁ!?」

何とか体勢を立て直したものの、崩れた場所には見事に穴が開いていた。
……このままでは雨漏り確実だろう。

「……牧場主さんに、板と工具借りなきゃ」

今日は屋根の修理で観察どころではなさそうだ。
エアハルトは肩を落としてうなだれた。
369GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/26(月) 07:32:38.73 O
わからない。
何が起こっているのか、何がいるのか、何故こうなったのか。
だが手がかりがないわけではない、四人は翌日も調査をする。

【この日、誰かが自動幸運ロールで成功した場合翌日情報追加】
370メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/26(月) 07:42:44.67 O
今のところ、美味しいものを食べたり動物とふれあったり、後屋根の修理を手伝ったりしかしていない。
今朝はせっかくなので、掃除や乳絞りの手伝いもさせてもらったが、おかしいと思う所はなかった。
しいていうならば…依頼主に恐怖感を感じないくらいだろう。
動物を扱う職種だからか、雰囲気が警戒を薄れさせる。
「でも何にもわかんないんだよね…今日は鶏さんが増えてたよ」
やはり雛は見られず、いつの間にか一羽増えていた。
また林から、だ。
依頼主は増えすぎたから丸焼きでも作ろうかなあ、などとのほほんとしていたが、何か見落としている気がしてならない。
そこで、今日は動物と一緒に林へ入ってみることにした。
大して木もないが、隠れられなくもない微妙な林。
魔力なんてわからないけれど、何かここにあるのだろうか?
「うー…フロウに来てもらおうかな…?」
そんな風に牛に乗るメアリを見るものは━━━
371フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/26(月) 23:21:04.93 0
「うーむ」
 フロウは牧場での雑務を手伝いながら、動物たちに簡易な目印を付けて回っていた。
背中であったり尻尾であったりと体の一部にペンキで着色することにより、既存の
動物と増えた動物とを区別する狙いであった。

「終わる気配がないがないとは思わなかったなあ……」
 汗を拭いながらぽつりと呟く。動物の見分けがつかないからと始めた当初はまずまず
妥当な案だと思ったのだが、ここまで多いこと、更に塗った端から増えていくことを
考慮に入れなかったせいで作業は難航した。全身をペンキ塗れにしている訳ではない。
一部にちょっと塗るだけなのに、ペンキが足りなくなってきていた。

「これは元を辿る以外に方法はないのかも知れない……」
 力技というか正面突破というか、依頼主が気にしていないのが不幸中の幸いか

【ここで幸運判定】
372フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/26(月) 23:22:08.93 0
【幸運失敗!】

とくに進展はなかった……
373ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/27(火) 01:40:45.57 0
暗闇が包んでいた空を、朝日が白に、橙に染め上げていく。
夜通し目を光らせていたティアは、何の成果もないままその様を見ていた。
牧場の朝は早いようで、依頼主が仕事に精を出す様が時折垣間見える。
少し離れた大樹の下でその様を流し見て、一つ白くため息をついた。

「気になる点は特になし、か。
 こりゃ意識か手法か両方か、変えてかないとな」

見逃すほどの些細な変化しか表出していない可能性。
想像と全く別のベクトルで異変が起こっている可能性。
一晩過ごして何も見つけられなかったティアの、せめてもの足掻きの思考だった。
長い夜に視線を向けて、なお何も得られない。
思ったより難航しそうか、などと思いながら。朝日を微睡みの向こうにやり過ごす。

そうして、次のティアの意識は。
時計の短針が一週回って12を指したときに覚醒したのだった。

【幸運ロール 使用ステータス:幸運(52)】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10】
374エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/28(水) 01:24:01.51 0
今日こそは何か手がかりを見つけようと意気込むエアハルトは、まだ朝靄が霞む時刻から起き出して調査を開始した。
結局昨日は屋根の修理で終わってしまったので、まだ何も調べられていない。

「そもそも、家畜以外の動物は増えてるのかな?」

牧場内には育てている家畜以外にも、その飼料を餌に鳥や鼠が住み着いていたりする。
増殖の対象に、その害獣の類いも含まれているかどうか。

「とりあえず、牧場内の倉庫とかも調べさせてもらうか」

そこから何かわかることがあるかもしれないと、エアハルトは行動を開始した。

【幸運判定 使用ステータス:幸運(10)】
375GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/28(水) 19:44:50.11 O
この日も大きな発見はない。
わかったことは家畜しか増えないこと、見分けようにも数が多すぎると言うことだ。

だが、ティアは眠ったときと起きたとき、目の前の草地に変化があったと気づいただろう。
それはとてもうっすらとしたものだが、何か見知らぬものが歩いたような形跡だった。
よくよく見れば林へ続く跡、一体何が通ったのだろうか?
しかも、気づかないような歩みで…
376メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/28(水) 19:53:03.39 O
「…よくわかんないなー」
動物の中で匂いを嗅ぎながら戯れ、増えれば直ぐに見つけれるようにはなった。
でもそれだけだ。
気になることはあるにはあるのだが、よくわからない…
「…ねーフロウ、匂いが似てる三頭、とかいるんだけど…なんでこんなに似るんだろう?」
三頭の牛、両端の牛の匂いを混ぜたような匂いが、真ん中の牛からする。
…何故?
「豚さんや羊さんにもいるし…よくわかんないよう」
鶏に至っては似たのばかり、分かりにくいにも程がある。
やっぱり、林へいくしかないのだろうか?
軽く見回ったときにはなにもなかった。でもメアリでは見落としていてもおかしくない。
一人でいくべきかどうか、考える。
377フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/01/30(金) 00:03:40.02 0
「ん?はーい!」
 呼ばれたことで作業を中断したフロウはメアリのところへ行った。動物達と戯れる姿は
本当に楽しそうだ。今そこにいるのは牛や羊等。大きい。改めてみると家畜とはいえその
大きさに少しばかり気圧されてしまう。

「それでどうしましたメアリ?」
>>「…ねーフロウ、匂いが似てる三頭、とかいるんだけど…なんでこんなに似るんだろう?」

「匂い、ですか」
 既にとてつもなく獣くさい牧場で牛三頭の匂いの違いと言われても……

>>「豚さんや羊さんにもいるし…よくわかんないよう」
 鶏もそうだそうで。フロウは腕を組んで唸った。匂いが似ている、ということは簡単に
考えると親子ということだろう。しかし親子ではなく増殖である。

 今のところ残された手がかりは『林』だけである。こうしていても埓があかない。

「そうですねぇ……よし。メアリ、私たちで一度、林を少しだけ見てきましょう」
 フロウはメアリにそう言うと林へ向かって歩き出す。

「おっといけない」
 途中でティア、エアハルト達に連絡をしておかなければならないことに気が付くと、彼
は牧場内の端材を拝借して作った、猫の顔のような大きな丸い看板を牧場から見えやすい
位置に立てると、残りのペンキ(赤色)で「森へ行ってきます。フロウ&メアリ」と書い
ておいた。

「これでいいでしょう。では気を取り直して、行きましょうメアリ!」
 ちょっとばかり逸る気持ちに押されながら、彼は林へと向かったのだった。
378ティア ◆zlaomeJBGM :2015/01/30(金) 03:26:59.22 0
ぼやけた意識が次第に鮮明になり、目蓋を押し上げていく。
昼時、仮眠から目覚めたティアは四肢を大きく伸ばし身体を慣らして。
寝入ったときとは異なる、草原に刻まれた僅かな際に目を凝らした。

一つは毒々しい赤で書かれたフロウとメアリからの掲示。
もう一つは家畜でも人間でもない、何かの足跡。

「このタイミングで足跡か...誰も本体を見なかったのか?」

決定的瞬間を見逃したことに対して愚痴を零しつつ周囲を見渡す。
続いていく先は、やはりといったところか。唯一不穏な空気を醸すあの林。
そこにはすでにメアリとフロウが向かっている。注意喚起を逃したのは痛いがきっと大丈夫だろう。

初日、牧場主が零した言葉にあった「なにか」。この足跡のことなのか?
そう勘ぐってみたが今すぐに結論が出るはずもなく。ティアは軽く今後の方針を練った。

まず、この足跡を詳しく調べる。
次に、残ったはずのエアハルトに足跡に関する出来事がなかったか問う。
最後、できれば二人が帰ってくる前に。牧場主に「なにか」について問う。

この地点で聞いてしまうのは少し危険な賭けかもしれない。
だが問題を放置してしまうより問うておいたほうがいいだろう。
思い立ったら即行動。ティアはその場にうずくまり足跡を見る。
それを済ませたあとにエアハルトを探し、何か居なかったかなどを訊いてみるつもりだ。

【鑑識判定 使用ステータス:知識(51)】
【スキル発動『孤立無援』:単独行動時の各種判定に+10】
379エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/01/30(金) 19:14:06.31 0
狙ったかのように落ちてくる鳥の落としものを避け、朝食用に懐に入れていた即席サンドウィッチを奪おうと跳びかかってくる鼠の群れを撃退しつつ、倉庫の調査を進めたエアハルト。
その結果、鼠や鳥の数は一般的な範囲内で、そう多くはなかった。

「うーん。やっぱり増えてるのは家畜だけかぁ」

まぁ、牧場主がまったく困っていなかった時点でなんとなく予想はできたのだが。
だがこれで確信できた。これは偶然が重なった自然現象などではない。

「動物全体が増えるんじゃなくて家畜だけ、なんて……」

あまりにもできすぎていて、作為的なものを感じる。むしろそれしか感じないといってもいいだろう。
ひとまず考えるのは後にして、エアハルトは他のメンバーと合流するために倉庫から外へと移動した。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「フロウさんとメアリさんは林にいったのかぁ」

猫の顔のような看板に書かれた伝言を読み二人の不在を知ったエアハルトは、この後の行動をどうしようか悩む。
ティアは昨日から帰っていないし、多分まだ林で調査しているのだろう。
これで自分まで林に行ったら牧場内には誰もいないことになってしまう。
牧場で何か起こらないとも限らないし、誰か一人はいた方がいいだろうと考えたエアハルトは、引き続きこちらで調査を続けることにした。
前日の失敗を踏まえ、足場が崩れないことを確認してから石塀の上に乗る。
何かあったらすぐに駆けつけられるように陣取り、食べ損ねていたサンドウィッチをほおばりながら林と牧場を観察することにした。

【観察ロール 使用ステータス:(知識+幸運)/2】
【スキル発動:『狩人の心得』(モンスター含む)動植物に関する事柄のみ、精神・知識に+10の補正がつく】
【判定値:(60+10)/2=35】
380GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/31(土) 19:49:35.97 O
二人は林へ、そこへは何かあるのか。
もしくは何もないのか?入っていった二人は調査をする。

ティアは足跡を調べたが、それは小さな小さな子供の足跡のようだった。
明らかにメアリよりも小さな足跡、何故林へ向かったのだろうか?

エアハルトは観察をしているうちに、動物たちの異常な行動に気づくだろう。
大人の動物が、親に甘えるように動いているのだ。
乳をねだるものすらいる、数が多すぎて今まで気づかなかった違和感。
これの意味することはなんであろうか?


依頼主はただただ仕事をしている。
381メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/01/31(土) 19:54:59.68 O
林のなかは光も入り、心地好い空間になっていた。
こんなところで昼寝をしたら気持ちがよいだろう。
しかし、今気にするべきはそこではない。目鼻耳に集中し、異変を探す。
だが…
「ひゃっ!?」
尻尾を何かに触られた。
慌てて振り返るが何もいない、フロウは隣だから触ろうとしたらすぐ分かる。
「な、何?」
知らない人に触られたのかのような不快感、それなのに何も見えない。
怪しんだメアリは五感を集中させる…

【幸運20で判定】
382フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/01(日) 23:07:42.05 0
「なんです?」
 まばらに立ち並ぶ木々の間を二人で歩いていると、不意にメアリが小さく悲鳴を
上げた。キョロキョロと辺りを見回すが特に何も見当たらない。

「……ふーん」
 何もいないならメアリは気のせいで尻尾を触られたように思ったということになる。
そんなことがあるだろうか?一見何もいないようなところで?

「念のため言っておきますが私じゃありません。では誰かというと」

 フロウはそこで言葉を切ると、天秤を模した杖の石突きで足元を突いた。
皿が揺れ、飾りの輪がしゃん、となる。静かに魔力を集中し、呪文を唱え出す。

「汝問われる者、我が呼び声に答えよ。汝問われる者、己が鳴き声にて答えよ。
汝海鳥にあるまじ、汝草木にあるまじ、汝禽獣にあるまじ、汝人間にあるまじ、
汝問われる者、是か非かを答えよ。我が前に姿を現して答えよ」

 杖を打ち鳴らしながら、フロウは懐に手を伸ばして今度は小さなハンドベルを取り出す。
フロウが予備にと持ち歩く魔法の触媒だ。杖の鉄輪と輪唱させるかのように鈴も
慣らしていく。

 やがて彼を中心に風が吹き始め、周囲の木々がざわめいていく。

「『光の波紋』よ!」

『光の波紋』 半径約10メートル内の生物を索敵する魔法。成功でどこに誰がいるか分かる。
       また対象を短時間発光させることができる。発動がうるさいので
       いまいち効果を活かしきれない。要改良。

【判定:魔力40+以前失敗により幸運+10 達成値50】
383フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/01(日) 23:09:24.41 0
【判定成功!】

「さあ、出てきなさい!」
 果たしてフロウとメアリの前に現れる者とは!?
384ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/03(火) 01:15:26.16 0
「薄すぎてよくは見えないが、付いた型はかなり小型、か。
 成長に異常を来していない限りは子供の足跡、なんだろうな...」

その場に踞り草地を手で撫でながら、そう独りごちた。
注意してもなお見分けづらい跡の薄さも、体格ゆえの重量分だと考えれば納得がいく。
林へと続く足跡。メアリとフロウがいるであろう続きを目で辿りながら、ふっと一息ついて。
ひとまずエアハルトと合流、ある情報を共有することにした。

...のだが。

「あぁもう、昨日より確実に増えてやがるな!?
 いいから退け、通行の邪魔だっつの!!」

雪崩れるような獣の群れに囚われてはや数分。
誰の不幸か、一向にエアハルトと合流できないでいた。
やっとのことで獣毛の波を掻き分けて、やれやれと振り返った先に。
石垣の上で食事を摂るエアハルトの姿を見つけ、また掻き分けるはめになりそうな獣の群れをみてげんなりする。

そしてティアが彼のもとにたどり着いたのは、それから更に5分後のことだった。

【ティア:エアハルトに足跡についての情報を提供。また関連する目撃情報の有無、その他の得た情報を問う】
385エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/03(火) 21:44:15.27 0
「あ、あはは。お疲れ様です」

獣の群れに揉まれ、心身ともに揉みくちゃになったティアの姿に引きつった笑みが浮かぶ。
エアハルトが観察している間にも増え続けていた家畜たち。
その中をかき分けてきたティアの疲労を考えると、自然と手を合わせたくなってくるというものだ。

「ティアさん、お腹空いてません?とりあえず食べながら話しませんか?」

エアハルトはサンドウィッチを広げ、水筒と共に差し出した。


お互いの手に入れた情報を共有しながら疑問点を洗う。

「子供の足跡、ですか。早朝は倉庫の方を探ってたので絶対とは言い切れませんが、この辺に子供がいるのなんて見たことないですね。
 林の方も注意してましたけど特になんの変化もなかったです……入っていく子供がいたら気付くはずなんですが」

牧場主は、家族はいないと言っていた。
ならば普通は近所の子供ということになるのだろう。
だが、この牧場に遊びに来る子供の姿など今まで見たことはない。

「俺の方でも、ちょっと妙なことに気付きまして。……あ、ほらあの牛とか!」

エアハルトの指差した先では、あきらかに体格の大きな成牛が隣の牝牛に乳をねだっていた。
ぎゅうぎゅうに動物たちがひしめき合っているせいでわかりにくいが、よく見れば牛に限らず他の動物でも同じような光景がチラホラ伺える。
俗に言う「子供返り」というものなのだろうか?
しかし家畜として飼われている動物が子供返りなど、エアハルトは聞いたことが無い。

「あと俺、ちょっと疑問なんですけど……。依頼主さん、本当に原因に心当たりがないんですかね?」

彼は今も牧場の業務をこなしている。
異常など、まるで気にならないというように。

「普段から動物に接してるあの人がこのことに気付いてないはずないのに、何も気にしてないっていうのが不思議で。
 子供返りは精神疾患です。一匹だけとかならわかりますけど、こんなに大量に発生したら獣医にみせるとか、なんらかの対策をしていなくちゃおかしい。
 でも、依頼の説明のときも今までもそんな話はしてなかった。」

家畜の増殖と、それに関係しているであろう林。
姿の見えない子供。
動物たちの子供返り。
不自然なほどに異常を気にしない依頼人。

「なにか、大丈夫というか、自分にとって害になるものじゃないっていう確信みたいなものがあるんじゃないでしょうか?」
386GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/04(水) 01:56:08.26 O
林にて起きた現象、そしてそこへ対応するフロウの魔法。
結果はすぐに現れた。
「きゃっ」
「やだっ何よ!」
「だからやめようって!」
光ながら姿を現したのは三人の小妖精、ピクシーと呼ばれる存在だった。
姿隠しの魔法で隠れていたのだろうが、こんなところにいるような種族でもない。
そして妖精達は羽で飛んでいる。
……ならばティアの見た足跡は何者の物なのか?

そんな事を知らない二人は、妖精をどうするのだろうか。
387メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/04(水) 02:05:11.61 O
「わあ…」
初めて見るピクシーに興味津々のメアリは、チョロチョロと動き回り観察している。
「可愛い!」
そしてピクシーの生態等知るはずもなく、ただ感想を述べた。
赤髪、青髪、緑髪のピクシー達は乙女と表現するにふさわしい容姿をしている。
背に生えた透明な羽も綺麗で、メアリにとって愛でる以外の選択肢が見つからない存在だった。
だが、そうもいかない。
「あれ?でも…それならこの事件?ってあなたたちのせいなの?」
わいわい騒いでいたピクシーは、その瞬間静かになった。
明らかに何かを知っています。とわざわざ言っているかのようだ。
しかし誰も話し出さない、メアリもピクシーを苛めたくない、何ともおかしな光景だ。
らちが明かないとはこのことだろう…
388フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/06(金) 00:18:28.79 0
 ピクシー。妖精族と聞かれれば大抵の人は「エルフ」か「ピクシー」を挙げるだろう。
そのピクシーが目の前にいた。さっきまでは光っていたが今は元の状態に戻っている。

「ピクシー、まさかあなた達と人間の棲家で会うとは……」
 フロウは髪を軽く後ろに流して自分の耳をよく見えるようにした。そして警戒を解く
と、簡単に自己紹介を済ます。

「私はエルフのフロウ。こっちは友人のメアリ」
 ピクシー達は口々に何かを話しており、こちらの言うことを聞いているのかいまいち
掴みかねた。はしゃぐメアリに狼狽え、仲違いしたり、逃げ出す算段を始めたりと見て
いて忙しい。

 ピクシー達は魔法、こと魔力に関しては抜きんでた力を持っているのだが、生来散漫
なところがあり気分屋で集中力が続かない、周りが見えないと難がある。しかも好奇心
も強いのでその生涯は非常に刹那的になりがちである。例外もあるが。

「あの牧場の方が仰っていたのは、あなたたちのことだったんですね」
>>「あれ?でも…それならこの事件?ってあなたたちのせいなの?」

 隣にいたメアリが疑問を口にした途端、ピクシー達の様子が大人しくなる。『ぎくり』
という音が聞こえそうなほど一斉に静まり返ったピクシー達は、皆一様に口を固く結ぶ。
途中、顔色も心なしか青くなっているように見える。

「別にあなた達をやっつけたりしませんよ。牧場のおじいさんから、どうして動物たち
が増えるのかを突きとめて欲しいと言われただけなんです。ほら、お菓子をあげます」

フロウはピクシー達を安心させようと正直に目的を話すと、彼はおもむろに魔法の鈴
を鳴らした。突然足元にピクニックシートが現れる。彼が新たに編み出した魔法だ。 
そして懐に手を入れ、飴やキャラメル、ヨーグルト味のタブやビスケットなどを取り出して目の前に広げていく。

「知っていることを話してくれたら、私達はすぐに帰ります」
 そう言って、フロウはピクシー達の出方を窺った。実の所この魔法が成功したことに
少し、いや実際はかなり感動しているのだが、それは彼だけの秘かな自慢であった。
389ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/06(金) 21:06:07.61 0
やっとのことで獣の波を掻き分けて、迎え入れたのはエアハルトの苦々しい笑みだった。
その視線にやれやれと肩を竦め、彼のいる石垣へと一跳びに駆け上がり。

>「ティアさん、お腹空いてません?とりあえず食べながら話しませんか?」
「ちょうどいい。保存食の味にもそろそろ嫌気が差してきてな」

すこし遅めの昼食会を、二人で開くことにした。


「気づかないはずがない精神疾患。危機感のない経営者。
 都合よく家畜だけ増える現象。確かによく考えれば穴だらけの方程式か...」

依頼者が特に気にした素振りを見せないのは、ただ単に都合がいい現象に目が眩んでいるものだと思っていた。
だからこそ危惧をもって依頼を出し、都合のいい憶測を確信にしたいのではないか、と。
しかし、少し調べがつき解ったことは、「あまりにも都合がよすぎる」と言うこと。
「動物」をターゲットにした現象なら、害獣が沸かない理由がつかない。現象は「家畜」にのみ起きている。
もちろん「動物」である人間のコピーが沸いたという話もない。明らかに小さな足跡はこの場の誰も持ち得ないものだ。

「でも、ある程度原因に見当がついてるなら話は別。不思議を謎と怖れることもない。
 そうだとすれば最初に言って欲しいし、なんでこんな依頼を出すのかも解らんが... そこは触れないでおこう」

エアハルトがいう通りなら、依頼主は明らかな違和感に目を瞑っていることになる。
本気で原因を知りたい、現象が恐ろしいと思うなら、隠し立てをする理由は無いのだ。
だが、あえて隠した。都合がいい「異常」を、「異常」だとは言わなかった。

「何にせよ、話を聞いてみるのが早いとは思うがな。
 子供の足跡、幼児退行について。それと...」

思い出したかのようにふと顔をあげ、エアハルトに視線を流して。

「お前も気になってたみたいだが、『何かがいてくれる』って言質もだな。
 あの直後なら気まずかったろうが、気になってたことが聞けるぜ?」

その光景を思い浮かべながら悪戯っぽく笑って、指折り質問事項を数えた。


【ティア:依頼主への尋問を提案。エアハルトに是非を問う】
390エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/08(日) 22:27:38.15 0
>>「お前も気になってたみたいだが、『何かがいてくれる』って言質もだな。
 あの直後なら気まずかったろうが、気になってたことが聞けるぜ?」

「あー・・・、やっぱりティアさんも気になりました?」

ティアのからかうような言葉。エアハルトは自分の逃避に気付かれていたことに若干の気恥ずかしさを感じながら、そのときのことを思い返す。
たしかにティアの言うとおりだ。
あのときは直前の失敗(不用意な言葉で依頼主に不快な思いにさせたこと)でしり込みしてしまい、かなり無理やり自分を納得させたが、この牧場で家畜以外に特別飼っている動物がいる形跡はなかった。
ならば、やはり「なにか」とは何なのか?問いただしてみたほうがいいだろう。

「たしか牧場主さんは、今日はあっちの小屋で作業してたはずです。いってみましょう!」

エアハルトは意識を切り替え、疑問の答えを得る為に牧場主の姿を探すことにした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

動物の群れをよけ、石垣に沿って移動しながら、エアハルトとティアは依頼主のいる家畜小屋へたどり着いた。

「すみません、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」

室内で作業する男性に呼びかける。

「今更かもしれませんが、初日におっしゃっていた、動物たちのほかにこの牧場にいる『なにか』について……教えていただけませんか?」

そこで一旦言葉を切り、依頼主の顔色を窺いながらもう一つの質問を重ねる。

「実は、ここの動物たちの行動に不可思議なものがありまして。牛や羊に鳥も、種に関係なく子供返りのような現象が起こってるみたいなんです。
 ……牧場主であるあなたなら、気付いていますよね?その『なにか』と関係があったりするんですか?」

エアハルトは、ささいな変化も見逃さないよう男性の瞳をしっかりと見つめながら、そう尋ねた。
391GM(林) ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/09(月) 22:13:52.54 O
「「「「お菓子!!」」」」
…一人多いが、ピクシーたちはお菓子に興味を持ったようだ。
メアリを含め、楽しそうにお菓子の品評会を始める。
これは甘い、だの、こっちは酸っぱすぎる、だの可愛い女子会状態だった。
ただ、少し落ち着いてくるとピクシーも話しだす。
彼女達ピクシーにとって、お菓子をもらうと言うことは、何か見返りを返さなくてはいけないからだ。
「…昔は私達も沢山いたの、ここの人はミルクを用意してくれるからお返ししながら」
「でも人と妖精の時間は違うから、飽きたピクシーはいなくなってった」
「三人だけになっちゃって、人にお返しする力が足りなくなっちゃったの」
そして三人は口を揃えて一つの答えを教える。
「「「だからここを通りすがかった、凄い力の双子に代わりをお願いしたの」」」
392GM(農地) ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/09(月) 22:23:59.77 O
「…やはり、聞かれてしまいますか…でも仕方ありませんね」
なにか、について聞いてきた二人を見、寂しそうに話し出す依頼主。
「昔から…ひいひいおじいさんくらいからかな?林には妖精さんが住んでいるから、家のそばにミルク皿を用意するんだ…そう教えられてきました」
懐かしそうな瞳に写るのは、今はいない人達なのだろうか。
何故、そんなにも儚げに話すのだろうか。
「妖精さんは一族に恩返しをしてくれる、その代わりに家族以外に話してはいけない…妖精は、騒がしい人々を嫌うから」
近くの牛を撫でる、その牛はまるで子牛のように力加減が出来ていない。
「でも、こんな出来事はなかった。ささやかな幸運くらいだったんです。……でもこれで終わるかもしれませんね」
話してしまったから、妖精はいなくなって、自分一人になるだろうから…
見えなくても、感じなくても、動物以外のなにか、その存在が彼には救いだったのかもしれない。
しかし、異常過ぎる事態を放っておけるほど、楽天家でもなかったのだろう。
393メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/09(月) 22:30:37.36 O
もぐもぐとお菓子を食べていたメアリも、話はきちんと聞いていた。
一番重要な部分はわかる、けれど真相に近付いているのかよくわからない。
「凄い双子…?ってどーゆーこと?」
メアリの呟きに、一人のピクシーが慌てて「本当は三人で一つなんだって!」とつけたしてきた。
だが、余計にわからない。
二人、三人、凄い、当てはまる事柄がなにもわからない。
ただ…何か、引っ掛かる部分がある。
三人…そう、このピクシーのように三人…
メアリは記憶の底から、知識を探してみる。

【知識ロール35】
394フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/11(水) 23:30:26.59 0
一名増えたものの概ね予想通りピクシーたちはお菓子に飛びついた。
世の中何が役に立つか分からないものだが、こういった全く気兼ねせずに済む
贈り物といはハズレがない。当たりも小さいが。

しかし今回は大成功といっていい。ピクシーたちはこの牧場周りの成り行きを
語ってくれた。なんともやるせなかった。

>「でも人と妖精の時間は違うから、飽きたピクシーはいなくなってった」
「まあ、そうですねよね」
無理もないことだ。どんな生き物だって往々にして移り住んでいくのだから、
例外的なことは何もない。ただし、次の言葉を除いて。
>「「「だからここを通りすがかった、凄い力の双子に代わりをお願いしたの」」」
>「本当は三人で一つなんだって!」

「三人で一つ?双子……うーん?」
 三つ子ということなんだろうか。本来は三つ子で今は双子?これではまるでなぞなぞだ
しかも通りすがりだ。

「とりあえず、その双子は今どこにいるんですか?」
 ともかく次の目的はその双子に会うことだ。フロウは相手の居所を尋ねた。

「犯人、と言っていいのかどうか、何にせよその人たちに依頼主と会ってもらえば
この依頼は完了、てことになると思います」
 フロウは隣で考え込んでいるメアリにそう話した。
395ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/13(金) 02:22:31.27 0
「......なるほどな」

少しだけ目を伏せて、ティアはさげていた腕を組む。
一応ナイフを抜刀できるように構えた姿勢は崩れ、ひとまずの警戒を解いたのだ。
彼が隠し立てをしたのは裏があるからではなく、単純に言い伝えを守るため。
その言い伝えが彼の孤独な生活に微細な彩りを添えていたため。

「なるほど、都合のいい幸運の理由付けはアンタの中ではできてたわけだ。
 だが今回ばかりは見過ごせなかった。これまでにない規模の幸運が唐突に降って沸いたらそうなるか...」

この話が今回の件と無関係とは思えない。どこかで『妖精さん』にターニングポイントがあったのだろう。
とかく妖精は自然の権化という固定観念のあったティアに、その理由までは推し量れない。
何代にもわたって続けられた農作業のなかに、急に環境を変えてしまう要素はどうにも見当たらなかったのだから。

「これはまた、難しいな」

肩を竦めてため息をつく。対人でこれ以上の情報は得られはしないだろう。
魔力の残り香、妖精の生態。いずれにしてもティアは門外漢だった。
さすれば自分にできることは、そのターニングポイントの痕跡を探し当てることくらいだった。

謝罪はしなかった。連綿と続いた関係の断裂も、覚悟の上の依頼だったろうから。
だとすれば、慰めは彼の決意を踏みにじるだけ。故にティアは澄ました表情で扉に手をかけた。

「アンタの気づかないところで、『何かが変わった』のか『何かが来た』のか。
 どっちにせよ状況の変化があっての結果だろう?
 話させた以上依頼は果たすさ。それまでは『ササヤカな』幸せを謳歌するといい」
396エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/14(土) 00:19:07.92 0
依頼人の話を聞き終え、エアハルトは一つ瞬きをすると、つめていた息を吐き出した。
男性に嘘をついている様子はないし、その必要もないだろう。
寂しげな表情を浮かべる依頼人に、なんと声をかけたらいいものか迷う。

家族を亡くし、たった一人になってしまった彼にとって、言い伝えられてきた妖精との交流は孤独を癒してくれる数少ない縁だったのだろう。
そんな関係を壊してしまうかもしれない決断を、彼はした。
手段は消極的であったかもしれないが、それでも、この牧場を守るためのその意志は、エアハルトには眩しく思える。
――ひとりが怖くて、たった一つの縁に縋っている、自分には。

エアハルトが言いあぐねている内に、ティアは話に納得し毅然とした態度で扉に向かう。

>>「アンタの気づかないところで、『何かが変わった』のか『何かが来た』のか。
 どっちにせよ状況の変化があっての結果だろう?
 話させた以上依頼は果たすさ。それまでは『ササヤカな』幸せを謳歌するといい」

突き放したような言い方だが、彼なりに依頼人の決意を尊重しての言葉なのだろう。
だが、この依頼が終われば、妖精との関係は本当に終わってしまうのだろうか?
そして彼はまた一人きり?

(・・・・・・そんなこと、まだわからないじゃないか)

エアハルトは伏せていた顔を勢いよく上げた。

「―っまた、約束すればいいんじゃないでしょうか!」

この依頼の原因を見つけて、解決して、全部終わったら。

「騒がしくなんてしないから、これからもよろしくって言えば、わかってくれるかもしれないし、それに、その、だから……」

よけいな言葉かもしれない。
せっかく固めた決意を無駄にして、期待だけさせて、駄目になるかもしれないけれど。

 「まだ、あきらめないでください」

そう、言うだけ言って一礼すると、エアハルトは依頼人の返事も聞かず扉の方へ駆け出した。
そしてティアに追いつくと、そのまま追い抜く勢いで歩き出す。

出来る保障もないのに馬鹿なことを言ったという自覚はある。
けれど、言ったことを後悔はしていない。

「こちらも情報がつかめましたし、フロウさんたちと合流しましょう!」

エアハルトは笑顔でそう言った。
397GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/14(土) 14:30:46.95 O
「簡単には会えないよ」
「見えないし、あちらから来なきゃ会えないの」
「そこに存在している瞬間でも、私たちにはわからない」
ピクシー達はお菓子のお礼を言うと、ふわふわ飛んでまた消えてしまった。

農地では依頼主が、微笑んでいた。
「彼らは優しいなあ…」
二人の気持ちはきちんと伝わっていたのだ、それでも諦めないで欲しいと言った一人を思うと、なんだか申し訳ない。
「この気持ちをお金でしか返せないなんて、ねえ…」
ギルドへの報酬よりも別の形で、四人には礼をしたいものだなあ。
そう笑っているのだ。


手がかりが途絶えた…のだろうか?
それともまだ何か見落としているのだろうか?
いずれにせよ、四人は一度集まるべきだろう。
398メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/14(土) 14:43:28.31 O
日は大分傾き、夜の時間に近づいている。
四人は、一度借りている部屋に集まって情報交換をすることになった。
「妖精さんはいたけど…原因が違うんじゃわかんないね…」
どうしても思い出せない。
三人でひとつ、それは何か頭のすみに引っ掛かっているような気がしてならない。
フロウの取水亭ならわかるだろうか?
「何かの本だったと思うんだけど…うー…」
調べものが得意ではないメアリには、随分難題だ。
なんだかとんでもない話だった気がするが、関係があるなら…
「…フロウ、明日本を読みたいな」
頑張るしかない。
399フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/16(月) 22:53:07.39 0
 フロウたちは林から戻ると、ティアたちと合流してこれまでの調査状況をまとめた。
時刻は既に黄昏時を過ぎつつある。

「そうですか、あの人にそんな秘密があったんですね」
 秘密といえば秘密だ。しかしながら、内容はあくまでも林に妖精が住んでいるという
ことを依頼主が知っていただけであり、この増殖事件に感知していないことの証だった。

「やはり鍵は例の″双子″ですね。しかし……」
 彼は林に住んでいたピクシー達から聞いた話を伝えた。これまでは元々林にいた者達
だけでお礼をしていたが、大半が引っ越していったことでそれもできなくなったこと、
そして今は事態は通りすがり、つまり外から来た双子とやらに頼んだ結果らしいという
こと。

「どうもこれも人間ではないようです。姿は見えず、向こうから接触してこなければ
いることさえ分からないそうで」
 他にも「元は三人で一つ」と言っていたことも教える。

 そしてもう一つ気になることがあった。メアリだ。先程からずっと考え込んでいる。
何かに気付いているのだが、その何かが思い出せないようだった。

>>「何かの本だったと思うんだけど…うー…」
>>「…フロウ、明日本を読みたいな」

 メアリの言葉を、フロウは心中で反芻して考えた。この場合の本、取水亭の本。彼女
にとっての本、それは――
「……そうですね。手がかりもあったことですし」

 絵本。お伽噺の本。妖精は人間の物語に対して最も親和性の高い存在だ。ポピュラー
であり、挿絵が一番豊富である。故に取水亭にもその手の本は少なくないし、メアリが
よく目にしている種類でもある。

「明日、一度戻って妖精関連の本を探してみましょうか」
 もしかすると、案外本当にもしかするかもしれない。
400ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/17(火) 04:43:53.05 0
「そっちは既に『妖精さん』と接触してたのか。
 こりゃ話させ損だったか?どうにもこっちは無駄足踏んだだけみたいだな」

苦笑を浮かべてティアはダガーを抜いた。黒々とした刀身を月の明かりに透かせるように。
別段気が逸っているという訳でもない。単に刃には定期的な手入れが必要と言うだけなのだ。
一通り刃を眺め納刀する。直後には真面目くさった思案顔に表情は変わっていた。

メアリとフロウがする事が決まったなら、特にこれといった口出しをするつもりは無い。
いや、むしろ方針は変えないでいて欲しかった。ティアにはまだこっちで調べたいことがあったから。
それが「足跡」。自らの目で認識した唯一の手掛かり。
二人が気にしていないこの物証を、何とか解明しておきたい。
複数個の懸案事項は思考を混乱させる。それぞれが各個で解決できるなら、それが一番いいのだろうから。

「...仮に」

誰にも聞こえない程度に声を潜めて。言葉に順序を出すことで思考をゆっくりと整えていく。
仮に、『双子』が足跡を残したとして。
足跡の主を誰も認識していない事は、一応の説明が付く。
『妖精さん』と関係を持つため、森に向かう足跡も不自然な結果では無いだろう。

「...だとすれば」

必要なのは、『認識』と『興味』。
自分の存在を知らしめ、姿を見せる気にさせなければ接触は叶わない。
『双子』が『妖精さん』に姿を表したように、彼らを惹き付ける何かがあれば。

...いや、むしろ『妖精さん』の方を刺激すれば、『双子』も釣られて出てくるだろうか?
少なくとも『双子』は『妖精さん』を認識し、興味の対象としているのだから。
心もとない手持ちの品で、出来ることはそう多くない。
メアリとフロウが取水亭に戻っている間、ティアが取る行動は。

「......森に、火でも放つかな」

少々過激な『実験』となるだろう。
401エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/17(火) 21:14:06.78 0
フロウとメアリが妖精に接触したことを聞き、エアハルトは新たな問題に頭を悩ませていた。

「妖精さんって、ピクシーだったんですか」

ティアの見つけた足跡から、てっきり地面を歩くタイプと妖精だと思い込んでいた。
が、妖精さんがピクシーのような飛行タイプだったのなら、ティアの見つけた足跡の主はその謎の双子ということになるのだろう。
あのとき牧場主に足跡のことも聞いておけばよかったと、エアハルトは自分の思い込みに後悔の念を覚えた。
だが、過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。
メアリとフロウが街に戻ることを聞いたエアハルトは、気持ちを切り替えて自分も明日の行動を告げる。

「明日は俺もギルドのほうに戻ります」

依頼を始めてから何日か経っているし、実はそろそろ姉が心配になってきた。
遠距離通信のできる魔道具で一度連絡をとってはいるのだが、魔力の少ない自分には消費魔力が大きくあまり多用はできないので、その後どうしているかは確認していない。
だが連絡したときの様子から、実験に夢中になりすぎて寝食を忘れて没頭している予感がするのだ。
このまま放置していれば、倒れるまで気付かずに研究している。絶対に。

「一旦帰って、姉にその双子について心当たりがないか聞いてきますね!」

広く浅く知識を集めている姉ならば、何かわかることもあるかもしれない。
そう自分に言い訳しながら、エアハルトは依頼のため二割、姉の心配八割のもっともらしい口実を口にした。

そして、ティアの行動方針を聞き……。

>>「......森に、火でも放つかな」

「え、えぇ!?」

不穏な発言にぎょっとして、音がなる勢いで視線を向ける。
慌てて止めようとすると、別に森を全焼させようとか、焼け野原にしようというのではないらしい。
よく考えなくてもそれはそうだと胸をなでおろすも、一抹の不安がよぎる。

(……怒った妖精が森から出て行っちゃったらどうしよう)

心配になったエアハルトは情けない表情を浮かべてティアの様子をうかがう。
しかし、すぐに考えを改めた。

(いや、ティアさんだし。そんな無茶なことはしないだろう)

ここ数日の付き合いだが、このメンバーの性格もある程度はつかめてきた。
冷静に物事を見極め、そのときそのときで必要なことを確実に実行する彼は、無茶や無謀などといった事柄とは無縁に思える。
そんなティアならば、きっとうまいこと波風たてずに実行するに違いない。
そうは思いつつも……。

「お手柔らかに、お願いします……」

やはり心配なものは心配なエアハルトは、最後にそう声をかけるのだった。
402GM ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/17(火) 21:46:59.64 O
翌日。
三人は街へ。
ティアは林で策を高じる事となった。

二人は本を探しへ取水亭へゆく。
エアハルトは姉の様子を見ながら、話を聞きに。
ティアに関しては、依頼主としては動物を怖がらせないように、との頼みだけだった。

さあ、答えは見つかるだろうか?
403メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/17(火) 21:52:38.34 O
「本ー…どれだったかな、本ー綺麗なのー」
ガサガサ、と本棚を漁るメアリ。
此所はフロウの店、取水亭。
ここならばメアリの探している本も見つかるかもしれない。
特に魔法に関わるような話だ、フロウが取り扱っていてもおかしくない。
手伝ってもらいながら探す。
表紙、きっと表紙で分かる━━━


【特例ロール、60で判定】
404メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/17(火) 21:59:22.64 O
━━あった『運命の女神ノルン』
「これ!でも文字が魔法の人たちので、ちょっとしか読めなかったの!」
三人の美しい女神が描かれた、絵本と解釈本の間のような物だ。
他の絵本等でも見かける、三人揃いの女神…何か分かるかもしれない。
とは言え、見つけたがメアリには読めない、フロウに頼むしかないのだろう。
「お願いフロウ!読んで!」
やっと見つけられてご機嫌なメアリは、フロウの表情が多少青くなっているのには気がつかないのであった。
405フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/18(水) 23:09:46.12 0
 メアリが喜々として持ってきた本を見て、フロウの顔から血の気が徐々に引いていく。
こういう場合、子供が自信満々に持ってきた物に間違いはない。基本的に。
 取水亭に戻ってきた際に案の定絵本のコーナーへ向かい、通り過ぎて更に
奥へ行ったので妙だとは思っていたのだが、疑念が解決するのと入れ替わりに
判明した現実に気が遠くなったのだ。

『運命の女神ノルン』 各神話において看板となる三人娘ならぬ三人女神の一つである。
高位の神官が実際に神々と邂逅を果たすことは珍しいことではない。それどころか
様々な宗教が存在しているのは、本当に人間が色々な神様と出会ったせいである。

一説にはやり口が似ているため同一神と見なした神官が不敬として「バチ」を当てられたというものがある。

「はは、なるほど……これはたしかに……」
 乾いた笑いがフロウの口から溢れた。元は三人で、今は双子、大勢の妖精の仕業を
たったそれだけの人数でこなせる力、辻褄は合う。元より事件の理由は神のみぞ知るというわけだ。
406フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/18(水) 23:22:37.97 0
さて、一応これでも取水亭はフロウの根城であり、取り扱う書物にも一通り目を通してある。
これにも辞書を片手にではあるが読んだことはある。が、内容はうろ覚え。
 まさかここで要求されるとは思っても見なかった。彼は棚から辞書を幾つか持ってくると
『運命の女神ノルン』と併せて調べていく。

「魔法文字の書物は一般向けじゃない分稀少でしてね、しかも学術書でもないということで
買い取らせて頂いたのですが……どれどれ」
 単語の辞書と文法の辞書に首っ引きとなる。

「エアハルトさんもお願いします。翻訳と校閲は両輪の輪ですから。ああ、でもなるべく
通しで読んではいけません、どこが呪文になっているかも分かりませんからね」

エアハルトに注意と助力を呼びかけながら、フロウは作業に取り掛かった。

【知識60+辞書+5=65で判定】
407フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/18(水) 23:23:53.93 0
「あれ?前こんな文章だったっけ?」
 読むのにはけっこう時間がかかりそうである。
408ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/21(土) 23:49:08.12 0
さて、今からティアが行おうとしていることははっきり言って分の悪い賭けだ。
しかし気になってしまった以上、頼りない保険程度に事をこなして行こうと決めて。
晩のうちに一通りの仕込を終えたティアは、樹に寄りかかって目を閉じていた。

とはいえ如何せん条件が悪い。
まず、ピクシーが上手くこちらに来てくれなければならない。
メアリとフロウは苦も無く遭遇したが、次もそう上手くいくとは限らない。
次に、ピクシーに悪戯に恐怖を植えつけてはならない。
ピクシーたちが出て行ってしまいかねないから。エアハルトの気遣いはここでティアの負荷となる。
最後に、手際よくやったとして目標が現れるかが判らない。
そもそもからして正体不明、考えなど見透かせるはずも無いのだ。

かといって今更退くわけには行かないのも事実で。
トラップを仕掛けてしまった以上は消化しなければならない。後続による事故を防ぐために。
夜通しの作業の疲労を一身に受けつつ、寝てしまわない程度に意識を薄れさせた。
409エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/22(日) 11:10:58.57 0
全員で報告し、話し合った翌日。
帰ると決めたら俄然姉が心配になってきたエアハルトは、メアリとフロウよりも一足早くギルドの自室に戻っていた。

「……やっぱり、一度も帰ってない」

予想はしていたが、自分が出て行った後、同室の姉が部屋に帰ってきた痕跡はない。
きっと今も研究室に缶詰なのだろう。食事もろくにとっていないに違いない。
毎度の事ながら、研究に対するその執念に心底呆れると同時に、もう一周回って感動すら覚える。
エアハルトは大きなため息を吐きつつ、市場で買ってきた食材を手に朝食の準備を始めるのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「元は三人で一つの双子?」

エアハルトの作った粥をモグモグと租借しながら、エメラルダは頭に疑問符を浮かべ首をかしげる。
エメラルダが研究室から離れるのを嫌がったため、今は研究室の一角でのお食事タイムだ。
話し合い(という名の兄弟喧嘩)の末、食事をとり、区切りが付きしだい睡眠を取るということで落ち着いた現在。
エアハルトは自身も同じ食事を取りながら、牧場でのあらましを簡単に説明した上で、問題にあがった双子についてエメラルダに心当たりがないか尋ねていた。

「ふぅむ。ミルクで働く妖精ならブラウニーとかが思い当たるが……。三つ子や双子というだけなら、それこそいくらでも逸話があるしなぁ。
妖精ならばアロエの三姉妹とか、小人であればルーベンスのイタズラ双子なんてのもあるな。
三つ子から双子になるというと、ガンブーダ神話のワリウスか?いや、あれはたしか最後にはみんないなくなるんだったか」

行儀悪く匙を口にくわえたまま、エメラルダが次々と自身の記憶にある知識を口にする。
それを聞きながらエアハルトはそのあまりの候補の多さに腕を組んで唸った。

「つまり、心当たりが多すぎて特定することは難しい、と」

「まぁ、ぶっちゃけて言えば無理だな」

特定は不可能という返答を受け、とうとう頭を抱えてしまったエアハルト。
そんな弟の姿に今度はエメラルダが呆れたようなため息をつく。

「そもそも、お前が妖精に遭遇したわけじゃないんだろ?そんな少ない手がかりで何かわかるはずもないじゃないか」

「うぅ。姉ちゃんなら何かわかるかと思ったのにぃ」

手がかりをつかむために戻るといった手前、収穫なしでは気まずいことこの上ない。
未練がましく、せめて膨大な候補をメモに書きとめようとするエアハルトに、エメラルダは変わりに何か役に立つものがあっただろうかと辺りを見回した。

【アイテム入手判定 使用ステータス:(エアハルトの幸運+エメラルダの知識/2)=(55)】
410エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/22(日) 11:27:03.37 0
【アイテム入手判定 失敗】

辺りを見回したエメラルダの目に映ったのは、今回の実験で使えそうな素材をほぼほぼ使い切った研究室の姿だった。

「……あきらめろ」

エメラルダはそう声をかけると、うんうん唸るエアハルトを尻目にのんびりと食事を再開した。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

結局、メモが二頁目に移った辺りからその無謀さに気付いたエアハルトはメモを取ることをあきらめ、仲間には手がかりをつかめなかったと潔く謝ることに決めた。
そんな情けない決意を固めつつ、メアリとフロウがいる取水亭へとやってきたエアハルトは、店の奥まった区画で二人の姿を発見した。
ちょうどメアリが目的の本を探し当てたところだったらしく、ニコニコとフロウに向かって本を掲げている。
二人と挨拶を交わし、エアハルトも本の絵柄を確認して――驚きに目を見開く。

「え、これって神話の?」

幼いころに読んだことのある御伽噺。
そこにでてきた三人の女神と同じような姿が描かれた表紙をみてエアハルトは固まった。
謎の正体が予想外に大物すぎて、そんなことがあるものなのかと、おもわず元聖職者であるフロウを窺う。
が、顔を青ざめさせながら乾いた笑いを溢すフロウの表情から、それがありえることであると知ったエアハルトは、自身も腰が引けた様子でその本を眺める。
魔法文字で書かれているらしいその本の内容はさっぱり分かる気がしない。
しかし、辞書を取り出して翻訳にとりかかるフロウからの要請に、そうも言っていられなくなった。

>>「エアハルトさんもお願いします。翻訳と校閲は両輪の輪ですから。ああ、でもなるべく
通しで読んではいけません、どこが呪文になっているかも分かりませんからね」

「は、はい。わかりました」

わからないとはいえ、理解する努力はするべきだろう。
どこかが呪文になっているかも知れないというフロウの言葉にびくびくしながら、エアハルトも辞書を片手に本と真剣に向き合った。

【解読ロール 知識(50)】
【慣れない文字と作業のため辞書を使いこなせず補正はなし】
411GM(林) ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/22(日) 22:53:50.32 O
「やめて!」
「嫌だよ、嫌だよ!」
「焼かないで!」
準備をすませたティアには、何もない場所から声が聞こえただろう。
それはまさに仕掛けを使う寸前、三人分の女の子の声だ。
「お願いだよ、牧場をダメにしないで」
「お願いだよ、動物をいじめないで」
「お願いだよ、ここから追い出さないで」
三人は心配している、誰でもそう感じただろう。
エアハルトの心配は、杞憂だったのかもしれない。
412GM(取水亭) ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/22(日) 23:11:33.18 O
運命の女神ノルン、複数形ではノルニルと呼ばれる彼女達は三人で一揃いである。
長女のウルドは過去を司り
次女のヴェルダンディは現在を司り
三女のスクルドは未来を司る
しかし、ノルンは善きノルンと悪いノルンがいる。
そう、彼女達は一人しかいない神ではなく、あまねく神々の血筋のなかにいる、何族とも限らない存在なのだ。
ただ、彼女たちにはムラがあるのは確かだ。極端によい人生、悪い人生を歩ませるのはノルンの気まぐれにも近い。
実際に出会うことなどそうはないだろう、だがもしも出会いたいならば世界樹にまつわるものを…トネリコを手に歩むとよい。
413メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/02/22(日) 23:33:59.22 O
「二人ともすごーい!」
未だに一人、事の重大さを理解していないメアリは二人がかりの解読に目を輝かせていた。
彼女にとっては人間以外は恐怖の対象になっていない、それは間違いだと気づくのはいつになるやら…
「でもなんで今は双子なんだろ?不思議だよねえ?」
三人で一つなはずなのに今は違う…そこは、実際に会わなければわからないのだろうか。
会うために必要なのは、トネリコ。
葉にしろ枝にしろ、魔術では有名な物らしいが、さて、売っているだろうか?
もしくは採集でもいいかもしれない、どんなものかわかれば探し出せる。
だんだんワクワクしてきたメアリは、そわそわと二人の行動を待つのであった。

【二人の判断についてゆく】
414フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/02/24(火) 23:29:37.63 0
「そうですねー、不思議ですねー」
 上の空で相槌を打つフロウ。一つ分かることはトネリコを手に入れて牧場に戻ることなのだが、
大丈夫だろうか。何がとはっきり形にできない漠然とした不安が思考を追い出す。

「ともかく、こほん、トネリコですか。この街でも探せば木の一つや二つ見つかるでしょう。
もしかしたら牧場の近くにもあるかも、トネリコを加工したものなら店で売っている
物があるでしょう」

 心当たりは主に魔法の杖だ。使う木材によって性質が微妙に異なるため、杖選びは
魔法使いにとって付いて回る問題だ。言い換えれば魔法使いの店やギルドの同業者を当たれば
見つかるはず。しかし……

「私は街の中を探して見ます。メアリ、あなたには牧場に戻って欲しいのですが」
 嘘ではない。彼に悪意や敵意がないとしてもバチを当てられてしまう可能性があるのだ。
もちろん本当に神様がいればの話だが、いたらいたときの危険を考えないといけない。

「エアハルトさんにはこれをトネリコの探索を手伝っていただきたい」
 そう提案してからもう一度、『運命の女神ノルン』 を見る

「他にあれば、今のうちに洗い出してしまいましょう」 
最後まで読んだほうがいい気がするがそんな時間はなさそうだった。
415ティア ◆zlaomeJBGM :2015/02/26(木) 02:47:09.74 0
ティアはピクシーの声を認め、ピタリと動きを止めて振り返る。
牧場を、動物を傷付けてくれるなと。ピクシーたちは確かにそう言った。

思えば仲間たちが次々に飽きていくなかで、力及ばずとも留まった三匹なのだ。
施しへの義務感や使命感だけではやっていけない。そこには愛着か、類する感情があったのだろう。
そう思い至ったティアは微笑を浮かべた。牧場の主と、エアハルトに向けて。
無用な心配だったな。『妖精さん』たちは居なくなったりはしなさそうだぜ?

「そう逸るな。何も牧場をどうしようって訳じゃあ無いんだ。
 お前たちが心配するようなことは何も無いんだから」

その微笑をそのまま、ティアはピクシーに向かい合う。
もちろん計画を取り止めたのではない。理由の一つは会話によってピクシーをこの場所に縛るため。
そして次にピクシーの心に隙を生み、精神的負荷を増大させるため。
一度目にした希望を、奪い去ってやることによって。

「そもそも俺にとってもな、あの牧場はお得意先だからな。
 無為に手を出す理由もない。ただ......」

浅く積まれた干し草。薄く振り掛けられたウィスキー。
そして手にした発火晶。後ろ手に隠し持ったそれを落とし、踵で後方へ蹴りとばす。
森にある木々は生きている。多少炙られたところで延焼などしない。
ただ見た目大きく燃え広がる、炎の壁を産み出すに過ぎないのだ。

持続は一瞬。その一瞬で与える精神的負荷で、事の成否は変わる。
もっとも『双子』の気まぐれの方が重要な要素ではあるだろうが。
逃れられぬと錯覚させた炎の壁の中、ターゲットは顕れてくれるだろうか。

「...ちょっとばかし、囚われて貰うだけだからさ。」

アルコールと枯れ葉が火炎を受けて、林の昼時を橙に染めた。
416エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/02/26(木) 23:58:32.15 0
なんとか翻訳に成功し、女神に関する情報を知り得たものの、まだ疑問が残る。

>>「でもなんで今は双子なんだろ?不思議だよねえ?」

そう、なぜ今は双子なのか?
ノルンとは三人で一揃いの女神のはずだ。本の内容にも、双子の場合があるなんてことは書かれていない。
この差によってなにが起こりえるのか。
エアハルトには考えも付かない。が、恐れていることはある。

「今回の件に関わっているのは、善きノルンと悪いノルン、どっちなんでしょうか?」

妖精達に協力したことから善きノルンの方なのだろうと思いたい。
牧場の一件は、三人揃っていなかったせいで本来の力が出せなくてあんなことになったのだと。
しかし、もし悪いノルンが親切のふりをしてイタズラ半分で混乱させたのだとしたら。

>>「私は街の中を探して見ます。メアリ、あなたには牧場に戻って欲しいのですが。ティアが危ないかもしれない」

フロウの言葉にエアハルトもうなずく。
一人牧場で実験をしているティアは今回の原因の正体をしらない。なるべく早く伝えたほうがいいだろう。
そしてエアハルトはフロウと共にトネリコを入手し後から追いかける。

「トネリコなら姉の使う素材を買いに行ったときに素材屋でみたことがあるので、そこを当たってみます!」

急いで出かけようと焦るエアハルトだったが、『運命の女神ノルン』を見るフロウの言葉にしばし考える。

>>「他にあれば、今のうちに洗い出してしまいましょう」

「なにか、女神に気に入られる方法とかアイテムって、ないですかね?」

【解読発見ロール 使用ステータス:(知識+幸運)/2】
【判定値:(50+10)/2=30】
417GM(林) ◆IC7RKFJkf6 :2015/03/01(日) 00:34:37.18 O
枯れ草に火がつき、アルコールで燃え上がるのは一瞬のはず、だった。
なのに上がった炎は固形のように固まり、風すら吹かない。
なんの声も聞こえぬ中、ティアは自分の罠が予定以上に危険を生んだと気づいただろう。
何もかも動かない世界が出来上がっていたのだから…
しかし、遠目には動く動物や流れる雲が見えた。
ここだけが、止まっている。
「「…生意気な人間、大嫌い」」
無限にも思える時の中、突如現れた人…いや、双子らしき少女は、冷淡な声で告げた。
「「…殺しちゃおうか」」
そして、一人が手を上げた…
…しかし、そこへ駆け付けた者がいたのだった。
418GM(街) ◆IC7RKFJkf6 :2015/03/01(日) 00:39:04.76 O
結局、本からわかったことは、今いる双子とやらが、現在と未来を司る者だろうということだった。
うまくトネリコを手に入れ、双子を無条件で呼び出した上で拘束…出来るのかは不明だが、何かしら屈させる事で止められるだろう。
もしくは枝の力で長女を見つけ出すことも、また解決になるだろう。
なんせ長女ウルドは過去を司る。彼女ならば双子の力に逆らい、止めることが出来るのだから。
…なんにせよ、トネリコが必要だ。
419メアリ ◆IC7RKFJkf6 :2015/03/01(日) 00:51:35.38 O
エアハルトから受け取った小さな袋を持ち、メアリは走っていた。
中身は魔力入りのラピスラズリと補強のクリスタル。なんでも怒りなどを払いのけ、危険を回避してくるらしい。
獣人の本気の走りは、牧場、ひいては林まであっというまに辿り着くレベルだった。
だが、肝心のティアが見つからない。近くにいた匂いだけ感じるのに、姿が見えない。
焦って予定していたはずの罠の近くへよるが、途中で異変に気がつく。
匂いが、つまりは風の流れがおかしい部分がある。
そこから全てが切り取られたかのように、何も感じられない。
「…ここ?なら!」
臆すことなくメアリはその空間へ飛び込む。それと同時に、袋の内側から目映い光がほとばしり…何かの砕ける音がした。
そして、光が落ち着いてから見えたのは、呆然としたティアと、燃え付きそうな火だけだった。
420フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/03/02(月) 22:04:06.53 0
メアリはエアハルトから僅かな宝石を受け取ると、取水亭を飛び出していった。
本を急いで流し読みして「喜ぶ」や「笑う」といった類の表現を探し、その前後の名詞
から割り出した物だ。初めてのことに対してどこまで効果があるか分からないのが世の
常とはいえ、今は信じるしかない。

「さあ、次は私達でトネリコを持っていきましょう!」
>>「トネリコなら姉の使う素材を買いに行ったときに素材屋でみたことがあるので、
そこを当たってみます!」
 空元気で己を奮い立たせるフロウに、エアハルトの頼もしい言葉がかけられる。

「私も他の団員に聞いたり、お店を当たってみますね」
 そう言うとまた牧場で落ち合おうと決めてから、二人は別れた。

(有れば有るにこしたことはないけど……)
 フロウはエアハルトの姉、エメラルダのことを思い出していた。彼女の性格を考えると、材料
は商いのために仕入れたものではないだろう。あるものは順番に全部使う人間のように思える。
つまり、楽観視はできないということである。

(しかし)
 そこまで考えて、フロウは自分の中に強い好奇心が湧いてくるのを感じた。神官を務めて数十
年、お世辞にも徳が高いとは言えない自分が、まがりなりにも神と会えるかもしれない。そう考
えると不謹慎であるとは分かりつつも、逸る気持ちを抑えられないでいた。

(……やぱり会ってみたい。本当に神様だというのなら)
 ギルドの中を、小さな人影が走った。

【ここで判定:容姿+いいひと:達成値95】

「すいません!ちょっといいですか!」
421フロウ ◆aGab3MEKhY :2015/03/02(月) 22:11:18.60 0
フロウはカウンターにいた副団長マックスに声をかけた。単刀直入に用件を伝え、
トネリコが使われたアイテムの貸してもらえないかを頼んだのだ。

マックスはカウンターの奥に引っ込むと、トネリコで作られた木靴を持ってきた。
「ありがとうございます!お借りします!」
ひったくる様に木靴を掴むと、フロウは牧場へと向かった。
422ティア ◆zlaomeJBGM :2015/03/03(火) 21:31:04.16 0
橙の光が四方から肌を照らす中、ただ自身の心音のみが聞こえる空間。
胸元の秒針さえも音を刻むことはなく、しかし固まった陽炎の向こうで靡く葉が覗く。
異質。即ちシナリオ通り。既知たる未知との遭遇に、ティアはダガーに手をかけて待った。

「逢いたかったぜ......『双子ちゃん』」

どうやら相当な情をピクシーに傾けているようだ。少し煽れば出向いてくれる。
だが、ここからがティアの計算ミスだった。彼女たちはあまりにピクシーに関心が強すぎた。
ティアの前には怒りをもって顕れ、一方的な態度を以て接触したのだ。
引きずり出しさえすれば対話に持ち込めると高を括っていたティアは、そのズレを認識するとダガーを抜いた。

それは、圧力だった。
敵対して初めて、ティアは彼女たちの雑じり気のない殺意に触れた。
止まった世界のなかで右頬を一筋の汗が伝って落ちて行く。
殺しちゃおうか。いっそ無邪気なその言の葉に緊張が張りつめたその瞬間。

世界がひび割れる、そんな光景を幻視した。
423ティア ◆zlaomeJBGM :2015/03/03(火) 21:45:20.67 0
砕け散った世界に残ったのは、ティア自身と燻る橙のみだった。
秒針の音も小鳥の囀りも甦るなか、先の光景には無い違和感を見つける。
見れば小さな麻袋をもったメアリがどこか夢心地な視線でこちらを見ている。
とにかく彼女の乱入のせいか否か、『双子ちゃん』をひとまず撃退したようだ。

「あー......」

行き場を失ったダガーナイフの切っ先をあてどもなく彷徨わせ、何事もなかったかのように鞘へと納める。
ばつの悪そうに頭を掻いて浮かんだ思考。それは時計がズレたのを直さなければ、などという栓ない事だった。

「逃がしたか」

違う。逃がされたにすぎない。とてもじゃないがあの二人を押し止めることは出来なかっただろう。
それほどまでの威圧だった。気づかぬうちに入っていた力がふと抜けていくのを感じた。
そのまま草地に腰を落とす。気もそぞろ、メアリも意識に入らずティアは次を思案する。
結果だけ見れば前向きと言えるが、要は彼は動転していたのだ。動き出した世界が鼓動を加速させたかのような錯覚を覚える。
誰に語るでもなく、ティアは表向き平然と、心の裏では呆然と。目を見開いてただ座り込んでいた。
424エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/03/04(水) 15:18:55.97 0
二人と別れた後、エアハルトは急いでなじみの素材屋へ向かった。
街中を走りぬけ裏通りにある一軒の店舗に駆け込む。
ドアに来客を告げる呼び鈴はなく、乾いた開閉音だけが店内に響く。
エアハルトは全力で走ったことで上がった息を落ち着かせながら、辺りを見回した。
店中至る所に張りめぐらされた紐には干した木の根や草花が吊るされ、棚には瓶詰めにされた魔物の爪や鱗、色とりどりの鉱石などが所狭しと並べられている。
魔術や錬金術に使う素材から用途のわからない珍品まで、各種雑多に取り扱っているこの店は姉(エメラルダ)のお気に入りだ。
カウンターに座って記帳していた女性が、エアハルトに気付いて声をかける。

「やぁエアハルト。今日はどうしたんだい?ずいぶん急いでいるようだが、また姉さんに無茶言われたのかな?」

「あはは、今日は姉の用事ではなく個人的に探し物がありまして。トネリコって今あります?切り出した枝でもなんでもいいんですけど」

【物品購入ロール 使用ステータス:幸運(10)】
【補正:+5 なじみの店。多少は融通を利かせてくれるだろう】
425エアハルト ◆Sg5djUdds2 :2015/03/04(水) 15:19:54.48 0
【物品購入ロール 失敗】

「トネリコかぁ、悪いけど今ちょうど切らしてるんだよ。あと三日くらいしたらそれ系の素材が入ってくる予定なんどけど……」

申し訳なさそうに言う女性。
エアハルトは当てが外れて残念に思うも、すぐに気を取り直し笑顔で返す。

「そうですかぁ、じゃあ結構です。また今度寄らせてもらいますね」

店員の見送りの言葉を背にその場を後にする。
ティアとメアリの身が心配なため、あまり時間をかけたくはないが、フロウが無事にトネリコを手に入れられているかはわからない。

「ギリギリまで手当たり次第に店を回るか……」

エアハルトは次の店へと駆け出した。

【スキル発動:『折れない心』1シナリオ中1回のみ、幸運判定をやり直すことができる】
【物品購入ロール 使用ステータス:幸運(10)】
【補正:+10 直前の連続購入失敗回数=1回】
426エアハルト ◆Sg5djUdds2
【物品購入ロール 失敗】

「ここも駄目、か……」

エアハルトは店から出るとがっくりと項垂れた。
あの後、トネリコを扱っていそうな店を数件回ったが、どこも品切れだったのだ。

「仕方ない。もう時間も経ったし、牧場に行かなくちゃ」

エアハルトは自分の運のなさを嘆きながらも牧場に向かって走り出した。